ネタニヤフ、復讐は終わりました
ハマスのガザの最高指導者で、10月7日のテロを企画し実行したヤヒヤ・シンワルがガザで発見され、殺害されました。
かつてイスラエルで収監されて、捕虜交換で出てきた経験があるために、イスラエルはシンワルのDNA情報を保有しており、本人のものと確認したようです。
【イスラエル軍によると、ガザ南部ラファで16日、ハマス幹部が使っているとみられる建物を同軍が襲撃し、戦闘員3人を殺害した。そのうちの1人がシンワル氏だったという。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「私たちは今日、約束した通りに借りを返した」、「これはガザにおける戦争の終わりではないが、終わりの始まりとなる」と述べた。
イスラエル軍はこれまで、シンワル氏が護身のためイスラエル人の人質を連れて移動しているとしていたが、建物に人質がいた痕跡はなかったという。
ハマスはシンワル氏の殺害についてまだコメントを出していない。後任についても不明。
ハマスをめぐっては、政治部門のトップだったイスマイル・ハニヤ氏が7月、イランの首都テヘランでイスラエル軍の空爆によって殺害された。それを受け、シンワル氏がハマス全体の最高指導者に指名され、ハニヤ氏の役割も引き継いでいた」
(BBC 10月18日)
ハマス最高指導者シンワル氏を殺害、イスラエルが発表 - BBCニュース
ヤヒヤ・シンワル
読売
シンワルは、ハニヤが殺されたあとの、政治局トップに選出されていました。
これでハマスは、最高指導者イスルイル、・ハニヤ、前線部隊であるカッサム旅団ナンバー1のムハンマド・ディフ、同ナンバー2のマルワン・イーサ、そして海外でのテロ指導者だったファタハ・シャリフに継いで、新たに指導者に据えたシンワルまで殺されたことになります。
日本人にはまねできないなんとも徹底した報復で、イスラエルはこういった暗殺はただの復讐ではなく抑止だと心得ています。
昨年10月のイスラエル民間人テロを首謀したハマスの重要幹部は、この1年で次々と命を落としたことになります。
今回のシンワルは、これらの中でも最も過激な一派で、一切の妥協を排して戦うことを宣言していました。
いまやレバノンにまで飛び火しているガザ戦争の発端を作ったのはこの男です。
この男が討ち取られたことで和平は近づくでしょうか。
残念ながら、ネタニヤフを辞めさせない限りそれは厳しいと思います。
日本には、イスラエルをヒトラードイツに例え、レバノン侵攻をズデーテン地方への進軍に例えている反ユダヤ主義者たちがいます。
彼らはイスラエルを「殺人嗜好国家」とまで言い、イスラエルは人殺しがしたくて戦争をしているヒトラーのような狂人なのだ、といいたいようです。
憎悪表現そのもので、こんなことを欧米で言ったら反ユダヤ主義と言われます。
冗談ではない。イスラエルはやりたくてこんな戦争をしているわけではありません。
あくまでもハマスやヒズボラが先にテロを仕掛けて、それに対しての反撃の形をとっています。
ネタニヤフは愚かな政治家ですが、ヒトラーのように世界征服なんぞみじんも考えていません。
そんなことをする意味もないし、米国に頼って兵器供与をしてもらっているようなイスラエルに可能なはずがありません。
たとえば、今、イスラエルがイラン決定的報復に踏み切れない理由はなんだと思われるでしょうか。
イスラエルにとって脅威度が最も高いのは、いうまでもなくイラン核施設です。
ぜったい核兵器を完成させない、これがイスラエルノ強い意志です。
チャチなロケット弾を飛ばすしかできないヒズボラと違って、本家のイランは着々と核武装を進めています。
しかし核濃縮施設などは、深さ80から100mにあります。
ナンタツ核濃縮施設
ARAB NEWS
「プラネットラボ社が4月に撮影し、AP通信が分析した衛星写真からは、イランがナタンツの南側フェンスのすぐ向こうにある「Kūh-e Kolang Gaz Lā」または「つるはしの山」と呼ばれる場所の地下を掘っていることが明らかになった。
ジェームズ・マーティン不拡散研究センターが分析した別の画像によると、山腹に4つの入り口があり、2つは東に、残り2つは西に掘られている。それぞれの入り口は幅6メートル、高さ8メートルである。
作業の規模は、西側に2つ、東側に1つある大きな土塁から測ることができる。
同センターの専門家はAP通信に対し、廃物の山の大きさと他の衛星データから、イランは80メートルから100メートルの深さに施設を建設している可能性が高いと述べた。AP通信のみが入手した同センターの分析は、衛星画像に基づいてトンネルシステムの深さを推定した最初のものである」
核合意復活の交渉は停滞、西側諸国に抗う地下深くのイラン核施設|ARAB NEWS
地下80~100mという深い場所の施設を破壊するにはMOP爆弾GBU-57という大型地中貫通爆弾を使用せねばなりません。
重量は実に約2tで、イスラエルが保有する戦闘機ではこれを運搬する能力はありません。
唯一西側でそれが可能なのは、グアムにいる米軍のB1ないしはB2だけです。
映画『トップガン』でF/A18がやっていましたが、あくまでもあれは映画ですからね。
大型貫通爆弾 - Wikipedia
このようにイスラエルの軍事能力は限定的であり、最大の脅威であるイランの核すら取り除けないのです。
それをナチスドイツに例えるなど失笑します。
では、なぜこのような周辺地域、国家と戦争になるのでしょうか。
ガザにしかり、ヨルダン河西岸にしかり、レバノン南部にしかり、イスラエル軍が撤収したとたん、テロリストは目覚めてまた再び攻撃を仕掛けて来るのが通例だからです。
では、永久に軍を駐留させておくのかということになります。
事実、それに近い考え方をするのがネタニヤフとユダヤ教右派です。
彼らは大イスラエル主義、ないしはネオシオニズムの思想を持っています。
これはこのようなイデオロギーです。
「アラブ人のイスラエルに対する悪感情が反ユダヤ主義に起因している以上、彼らと平和裏に共存しうると考えるのは幻想に過ぎないと批判している。また、イスラエル国内のアラブ人は第五列にあると考え、平和を実現する唯一の方法は「抑止と報復」にあるとしている」
ネオ・シオニズム - Wikipedia
正直言ってげんなりします。ユダヤ教の内部に眠っている選民思想を具現化したものです。
彼らが考える、このガザ戦争の解決は、ガザと西岸の完全支配、これらの地域からのイスラム教徒の完全排除です
そして自治政府を完全に拒否し、イスラエルの準州とすることです。
これで解決するとほんとうにネタニヤフらが思っているなら、狂気です。
対話のできない相手はいます。平和の意味すら共有できない人たちも存在します。
ハマスやヒズボラ、その黒幕のイランとイスラエルは永遠に対話が不可能でしょう。
それは一面事実ですが、彼らはもまたイデオロギーである以上、地上から消滅することはないのです。
だからどこかで折り合いを付けねばなりません。
ネタニヤフ、今、あなたは「復讐は終わった」と語りました。ならば直ちに停戦に応じなさい。
もう10月7日の復讐は終わったのです。
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それにしてもSNSでシオニストは世界中の土地を征服しようとしている~とか宣う輩を見ると真にげんなりしてしまいます。彼等はシオニズムの意味をGoogle検索することすらできないのでしょうか?
その他SNSにはイスラエルが戦線を拡大しているのは「大イスラエル主義」を実現しようとしているからだ~とか吹聴する人もいますが、イスラエルがシリアやイラクを攻撃しているのはイスラエル最大の敵対国であるイランの拠点がシリアやイラクにあるからに過ぎません。そもそも「大イスラエル主義」なんて余程の極右(それこそネタニヤフがかすんで見えるくらいの)以外信じていないでしょうに。最後にイスラエルとパレスチナはもはや和平不可能だと思いますが、イスラエルとイランなら和平の余地はまだあると私は考えています。(そもそもイランにはイスラエルを敵視する理由はないはずですし)
投稿: 中島みゆき | 2024年10月19日 (土) 16時59分
エルドアンは「100人の人質を返したら、ガザへの攻撃は終了する」としています。テロリスト相手に外交は機能しないので、目的の人質の返還がない限り停戦はないでしょう。
また、首謀者シンワルをも失ったハマスはトルコに逃げ込んでいる元最高指導者メシャールが声明を出しています。「ハマスは不死鳥。よみがえっても戦う」とか。これからイスラエルは最もめんどうな地下壕の探索が本格的に始まるので、今もそこにいるハマス残党に向けたメッセージと見られています。
ネタニヤフやリクードの支持率は徐々に上昇し続けていて、ガンツの中道党よりもかなり上回っています。今回の件で、さらに上昇基調は続くのでしょう。その原因はレバノンでのヒズボラトップや幹部の爆殺に成功した事や、その鳩首会議で立てられた作戦の実行を未然に防げたことが大きいと思われます。
それにしてもシンワルの最後のビデオ。
何とも言えない様子でした。見た感じ、すでに右腕は失われていたようです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年10月19日 (土) 22時38分
旧大日本帝国が、原爆を立て続けに落とされ、不可侵を約束していて米国との和平交渉の仲立ちを期待していたソ連がイキナリ満州に侵攻してきてと、もう見るも無残なボロ負けを喫してやっと無条件降伏を受け入れることになったのは、旧日本軍大本営が優柔不断のクソだったのが原因なのは明白なんですが、負ければ負けるほど犠牲者が多くなり「ここまできて降伏だと?ほんなら戦死したオレの息子は犬死ということか!ナメとんのか」という国民感情の増大に逆らえなくなってズルズルという理由もあるそうですわ。
ここまできて、ネタニヤフ首相が「復讐完了です」と言って停戦を持ちかけたとしても、イランはともかく、ハマスやヒズボラなどの連中は「ここまできて停戦だと?ほんなら戦死したオレの息子は犬死ということか!ナメとんのか」ですわ。まさか、これから核兵器を立て続けに落として、米軍がイキナリ残党掃討作戦に参加するなど有り得ないので、憎しみの連鎖反応で報復に次ぐ報復が続いていくしか考えられないんですが・・ いつだったかネタニヤフ首相が核兵器に言及した時に「日本の例」を出していましたが、あのネタニヤフこそはマジ筋金入りのリアリストですわ。
ーだからどこかで折り合いを付けねばなりませんーのは確かなんですが、現実的にはイスラエルがパレスチナ全体に進駐してキビシイ管理下において統治するしか、大規模な殺し合いを止める方法は無いんじゃないかと思えます。
後先考えずに、勢いだけ(?)で圧倒的な戦力のイスラエルへの攻撃を命令した愚か者の指導者ヤヒヤ・シンワルのせいで、パレスチナ人はエライ目に合わされることになってしまいました。彼が殺されても、まだまだパレスチナ人の受難は続きますわ。私は以前に、新しいマトモなパレスチナ自治政権が生まれれば、イスラエルと実のある合理的な交渉が出来ると思っていましたが、もう全然ダメでしたわ。そんなのが出来るくらいなら、もうとっくの昔にパレスチナ統一国家が誕生してますわ。
国家というものは、そこの国民の程度以上には決してなれないんですわ、酷な言い方ですが。まあ、私も他の国の人達にケチをつけるような、そんな将来有望な立派な国に住んでるワケじゃないんで。
投稿: アホンダラ1号 | 2024年10月19日 (土) 23時41分
.>>、現実的にはイスラエルがパレスチナ全体に進駐してキビシイ管理下において統治するしか、大規模な殺し合いを止める方法は無いんじゃないかと思えます。
それはもう失敗したやり方なのでうまくいくとは思えません。結局イスラエルは2005年にガザから撤退を余儀なくされましたし。ヨルダン川西岸地区でもイスラエルに対する抵抗はやんでいません。もしイスラエルがパレスチナ問題を「解決」したいならもはやジェノサイド的方法しか残されていないでしょう。
>>後先考えずに、勢いだけ(?)で圧倒的な戦力のイスラエルへの攻撃を命令した愚か者の指導者ヤヒヤ・シンワルのせいで、パレスチナ人はエライ目に合わされることになってしまいました。
ハマスからすれば市民がいくら死のうがパレスチナ問題の重大性を再確認させ国際社会の対イスラエル感情を大幅に悪化させただけでも「勝ち」なのですよ。これでもうさすがのアメリカもイスラエルを全面擁護すとことは厳しくなってきましたしね。
投稿: 中島みゆき | 2024年10月20日 (日) 18時09分
アラブ人の本音は、建前とはかなり違うと思います。イスラム原理主義を掲げるテロ組織が攻撃する相手は、非イスラム教徒とは限りません。アラブ世界では日常的にテロが起きていて、一般市民が犠牲になっています。
ガザ地区では、ハマスは自分達に逆らう市民を捕まえて拷問していましたが、それでも一般市民によるハマス抗議デモが起きるほどでした。アラブの民衆の多くは 「もうイスラム原理主義組織は懲り懲り」 というのが本音じゃないですか?
国レベルでも、そうですね。以前ほど豊かじゃなくなってきたサウジアラビアでは、為政者である皇太子が、国を宗教国家から世俗的な近代国家に変えようとしています。他のアラブ諸国も同様です。そのような国の為政者にとって、イスラム原理主義者というのは 「正面切って批判はできないけど、本当は厄介な存在」 でしかないでしょう。
そもそも、これだけイスラエルが暴れているのに、アラブ諸国の反応が、以前に比べたら、ずっとおとなしいんですよね。今のところ、ペルシャ人の国であるイラン以外に、イスラエルと国家対国家の戦争になりそうな国はありません。
民衆レベルの抗議運動も、かつてほど激しくはありません。メディアは 「世界中で反イスラエルデモが起きている」 と報じているけど、よく見ると、欧米など中東以外のデモばかり。当事者である中東のアラブ人は、本音ではイスラエルがテロ組織を掃討してくれているのを歓迎しているんじゃないか?とすら思います。
投稿: 坂東 太郎 | 2024年10月21日 (月) 19時03分