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2024年11月

2024年11月30日 (土)

沖縄県の怪しき「駐米大使館」の末路

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とうとうまた出ましたか、沖縄県の怪しき「駐米大使館」問題。

「沖縄県議会の定例会が26日開会しました。
玉城知事に対して「野党・中立」の立場をとる3つの会派が県のワシントン事務所をめぐる手続きが不透明だとして提出した動議が可決され、県の監査委員による監査が行われることになったほか、県の昨年度の決算が本土復帰以降初めて不認定となりました。
26日開会した県議会の11月定例会で、玉城知事に対して「野党・中立」の立場をとる「沖縄自民党・無所属の会」、「公明党」、「維新の会」の3つの会派は、県がアメリカの首都ワシントンに設置している事務所について、設置や運営の手続きが不透明だとして、地方自治法に基づく監査を求める動議を提出しました」
(NHK11月26日)
沖縄県ワシントン事務所関連決算不認定 監査委員による監査へ|NHK 沖縄県のニュース

県の「ワシントン事務所」をめぐっては、先の県議会の9月定例会で、県が営業実態のない株式会社を設立して設置・運営にあたっていたことが明らかになりました。
県は初めは非営利の法人登記を目指していましたが、なにぶんやる「仕事」が反基地闘争のための情報収集と工作です。

いえ、言いがかりではありません。与党第1党の共産党がこう言っています。

「本会議での討論で、玉城知事を支持する県政与党の共産党の比嘉瑞己議員は「沖縄のアメリカ軍基地の実態などについて正確な情報を説明するなど精力的な活動を続けていて、引き続き大きな役割が期待されている」と述べ、反対しました」
(NHK前掲)

「正確な情報を説明するなど精力的な活動」とは、すなわち反米プロパガンダを宣伝することと、米軍基地撤去に向けた政治工作です。
初代「沖縄県駐米大使」には、在沖米国総領事館のスタッフだった平安山英雄(へんざ)氏を任命しています。
平安山氏は、沖縄の米国総領­事館の現地雇用スタッフで、在沖縄米国領事館の政治担当特別補佐官の肩書でオスプレイ配備の理解を求めて体験搭乗イベントなどを企画したことが知られていいます。

※米国領事館 japan2.usembassy.gov/naha/pdfs/Karahai_2012-1-issue.pdfリンク切れ

特別補佐官というとなかなかのように聞こえますが、なんのことはないアチラの都合で簡単に解雇できる契約職員にすぎませんから、この人物に「米国内の広い人脈」などを期待するほうが見当違いです。
たぶん、国務省のロビーをうろうろしていただけで終わったことでしょう。
知事ですら、訪米してもハワイ州知事や国務省の一番下っぱのスタッフと話をするのがやっとなのに、「駐米大使」など相手にもされなかったはずです。

フツーの県の在外事務所は、もっぱら県産品の輸出振興ていどのもので、こんな「県外交」をする所ではありません。 

Pickh20150402_a0002000100200003_l(写真 平安山氏に2年の駐在員辞令を出す翁長氏) 

この「駐米大使館」は、地元紙がお好きなはずの憲法に違反しています。憲法は9条だけじゃないんだよ、デニーさん。 
日本国憲法第73条「内閣の事務」は、2項に「外交関係を処理すること」と定めて、外交を国の専権事項に指定しています。
そもそもこの翁長氏の行為は、日本国憲法第73条「内閣の事務」のうち、「2 外交関係を処理すること」に反しています。
したがって、沖縄県という地方自治体には、国の日米同盟という条約に関して容喙する権限はありません。 
容喙とは口をはさむことです。

少し説明しましょう。 
この憲法第73条は、「内閣の仕事」を規定したものです。このうち2項は外交は内閣、つまり国の専権事項だということを謳っています。 
専権事項とは、「思いどおりにできる権限」のことです。
ただし、思いどおりにといっても、条約は法律に優位すると解釈されているほど強い効力を持っています。 
外交の場合、勝手に内閣が条約を結んでしまって、「はい、明日からこれでやるぞ」と言われちゃたまらないので、締結前に国会承認がいるとして3項に、「条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要」として歯止めをかけたのです。 

そして4項に「国家公務員の事務を掌握する」として、これは国家公務員法の法的根拠になっています。 


憲法第73条「内閣の事務」の整理
①外交は内閣の専権事項である
②条約は国会承認を必要とする
③内閣は国家公務員を指揮できる

はい、いかがでしょうか。この国の外交を規定した憲法73条に、地方自治体、あるいは自治体首長、その自治体職員がチラリとでも出てきましたか。 
よくオール沖縄の皆さんは、「民意に従え」と言いますが、その「民意」とは、日本国全体で見れば、憲法第66条3項、及び1項に沙汰められた、国会における多数決によって選ばれた国会議員が選んだ内閣総理大臣と内閣のことです。 
したがって、沖縄県という地方自治体に、外国との交渉を進める権限はありません。 

さて、県によると当初、非営利の事業者としての登録を目指していましたが、アメリカ政府から「事業内容が政治的だ」という指摘を受けたということです。
このため、県は、現地のコンサルティング会社や弁護士からの助言を受けて、県が100%出資する株式会社を設立したうえで駐在する職員がビザを取得していたということで、「検討の結果、株式会社が適当だった」としています。

地方自治法は、県が出資する法人について「経営状況を説明する書類を作成し、議会に提出しなければならない」と定めていますが、発覚するまで議会への報告はありませんでした。

県の説明です。

20241129-153429

OTV

「今年9月の県議会で事務所が株式会社として設立されていたことが明らかになり、営利組織を行政機関が抱えていることは問題だなどとと指摘されていました。
県は25日県議会に設立の経緯などを説明し「日本の株式会社に相当する法人を設立することを明確に決定した文書は残されていない」と手続きの不備を認めました。
また設立に伴って取得した株式が県の公有財産として管理されていなかったため「速やかに是正を図る」と謝罪しました。
溜政仁知事公室長「庁内の意思決定に係る文書等が確認できないこと。また公有財産としての管理が行き届いていない事について深くお詫び申し上げます」
(沖縄テレビ11月25日)
ワシントン事務所設立時の手続き不備求め県が謝罪(OKITIVE)|dメニューニュース(NTTドコモ)

この「ワシントン事務所5はかねてから経理が杜撰だという指摘を受けていました 


「在米沖縄事務所が事業丸投げ 事務所活動費の9割超がコンサルタント委託料 
米ワシントンにある「沖縄県ワシントン事務所」の平安山英雄所長が不適正な査証(ビザ)で活動を続けている問題で、事務所活動費のうち9割超を委託料としてコンサルタント会社1社に支払う契約を結んでいることが28日、情報公開制度で県が産経新聞社に開示した文書で分かった。
委託内容は米国の政策調査や情報収集などで、事務所が業務をコンサルタント会社に事実上「丸投げ」している実態が浮かび上がった」
(産経2016年7月29日)

ワシントンDCには、こんなロビイングのための会社や個人がゴロゴロしています。
彼らは政府との特別なコネクションを売り物にしてカモを狙っています。
平成28年度にこのコンサルタント会社に支払った額が、6千849万円です。
このようなロビイングに対してのコンサル料は、実態が不明のつかみ銭のようなものです。こんなものに公金を7千万円も注ぎ込んでよいのでしょうか。
そしてその成果は皆無でした。

「開示された平成28年度予算の内訳書によると、ワシントン事務所の活動費は全体で7369万円を計上し、このうち約93%に当たる6849万円が委託料だった。委託内容は(1)駐在員設置と活動支援で4549万円(2)米国政策調査で2300万円-となっている」
(産経前掲))

その上平安山氏は、ちゃっかりと県からも高給を食んでいました。
しかも外国勤務手当てと県の部長級給与の二重取りで、年収2千万円です。仕事はコンサルト会社に丸投げで、いいご身分です。

「米ワシントンにある「沖縄県ワシントン事務所」の平安山英雄所長が不適正な査証(ビザ)で米政府や議会にロビー活動を行っている問題で、県が平安山氏に外国勤務手当として月額約75万円を支給していることが20日、分かった。
1年間の外国勤務手当の支給額は約900万円に上る。
これとは別に部長級は給与として1千数十万円が支給されるため平安山氏の年収は約2千万円とみられる」
(産経前掲))

県がまともな監査をしたことがあったとは思えません。
ずさんな経理をいいことに、やりたい放題の愚者の園です。
こんな筋の悪いもんを引き受けさせられたデニー氏も気の毒ですが、もういいかげん清算する時です。
当時、人気絶頂のカリスマだった翁長氏が思いつきで立ち上げ、グズグズのままデニー氏が受け継いでいた「沖縄駐米大使館」の存続は危ういようです。

 

2024年11月29日 (金)

ロシア、北朝鮮に石油100万バレル超を提供

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ロシアがウクライナ派兵とバーターで供与している原油移送の実態がわかってきました。
民間の人工衛星の画像によれば、過去8カ月間に北朝鮮の石油タンカー10数隻が、ロシア極東の石油ターミナルに計43回到着していました。
その原油量はおおよそ100万バレルで、もちろん国連制裁違反です。

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BBC

「ロシアが今年3月以降、北朝鮮に石油を100万バレル以上供給しているとみられることが、イギリスに拠点を置く非営利研究団体「オープン・ソース・センター」の人工衛星画像の分析でわかった。
この石油について、主な専門家らとイギリスのデイヴィッド・ラミー外相は、北朝鮮がロシアに送った武器と部隊の対価だとBBCに話した。
こうした輸送は国連制裁に違反している。国連制裁は少量の場合を除き、北朝鮮に石油を売ることを禁止している。同国の経済を抑圧し、核兵器開発の進展を防ぐのが目的だ」
(BBC 2024年11月22日)
ロシア、北朝鮮に石油100万バレル超を提供 衛星画像の分析で判明 - BBCニュース


人工衛星の監視画像によれば、同一のタンカーが北朝鮮の南浦(なんぽ)とロシアのヴォストチヌイ港を結んでほぼ定期的に原油移送をしていました。
いままで北朝鮮は国連制裁逃れのために、密輸組織から手にいれざるをえないために、海上での受け渡し(瀬取り)を余儀なくされていました。
今回、ロシアがウクライナ派兵の見返りとし原油を公然と提供し始めて、初めて安定した原油の供給体制を得ることが可能となりました。
北朝鮮南浦からヴォストチヌイへ行く前後のタンカーの写真を較べてみると、帰り荷で喫水線が大きく沈んでいるのがわかります。

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BBC

なお、ロシアは今年3月に北朝鮮に国連の監視パネルを解散に追い込んでいます。

「国連の安全保障理事会は28日、対北朝鮮制裁を監視する専門家パネルの任期を延長する決議案を否決した。ロシアが拒否権を行使した。
この専門家パネルは先週、ロシアがウクライナで使用する弾道ミサイルなどの北朝鮮製兵器を購入し、規則に違反したとの報道があったことを受け、調査していた。
国連安保理は2006年以降、北朝鮮の核開発プログラムに対して数々の制裁を科している。
これらの制裁はなお続いているが、今回の否決により、制裁違反を監視するための専本化パネルが解散されることとなった」
(BBC2024年3月29ニチ)
ロシア、北朝鮮制裁監視パネルの任期延長に拒否権 国連安保理で - BBCニュース

「瀬取り」とは、港に寄港して荷を降ろすのではなく、洋上で船から船に受け渡しをすることです。 

「政府は14日北朝鮮籍タンカーが13日未明に東シナ海の公海上で中米ベリーズ籍タンカーに横付けしていたのを確認したと発表した。北朝鮮に対する国連安保理の制裁決議で禁止された「瀬取り」と呼ばれる洋上での密輸を行っていた疑いが強いとみている。既に国連に通報し、関係国とも情報を共有した。
 政府は先月、同じ北朝鮮籍タンカーがドミニカ籍タンカーに横付けしている現場を確認している。今回の横付けは海上自衛隊のP3C哨戒機が中国・上海の東約250キロ沖合で発見。北朝鮮が国際的な監視網をかいくぐって瀬取りを続けている疑いがあることが浮き彫りとなった」
(時事2月15日) 

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この国連の制裁強化によって、北朝鮮籍船舶は外国の港に寄港した後に北に戻ることが禁じられているために、このような抜け道を使っているわけです。 
同じような瀬取りは頻繁に行われているようで、米国の監視衛星もキャッチしています。 

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これで分かってきたことは、海自のP-3C がたいへんに広範な洋上監視を行っていることで、海自はなんと日本海から黄海洋上まで空から監視していました。  

前述したように、この監視を止めさせようとしたのが、ロシアでした。
今年3月に監視パネルを解散させたあたりから今年11月までの原油輸送の推定グラフです。

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BBC

米国と韓国は、すでに北朝鮮がロシアに砲弾とロケット弾のコンテナ1万6000個を移送済みだとみています。
またウクライナの戦場では北朝鮮製の弾道ミサイルの残骸も回収されています。
おそらく、この間の北朝鮮のICBMの発射成功には、ロシアのミサイル技術が転用されていると見てまちがいないはずです。

 

 

2024年11月28日 (木)

イスラエル、ヒズボラと停戦合意

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イスラエルがレバノンのヒズボラと停戦合意しました。
正確に言えばレバノン政府とですから、ヒズボラを抑えられねば無意味となります。

そのうえあくまで停戦協定であって、60日間の限定です。
それ以後についてはまだ決まっていませんが、トランプ新政権の時代となります。

「アメリカのジョー・バイデン大統領は26日、イスラエルと、レバノンのイスラム教シーア派ヒズボラとの13カ月にわたる戦闘を終結させる停戦が合意されたと発表した。合意は現地時間27日午前4時(日本時間27日午前11時)に発効した。
合意の履行を監視するアメリカとフランスは共同声明で、この合意によってレバノンでの戦闘が停止され、「イスラエルがヒズボラやその他のテロ組織の脅威から守られる」と述べた」
(BBC11月27日)
【解説】 イスラエルとヒズボラの停戦合意、いま分かっていること - BBCニュース


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BBC

先だっての日曜日にも大規模な攻防がベイルート南部で起きたようで、これ以上戦闘が長引けばレバノンのガザ化は止められなくなるでしょう。
ネタニヤフはテロ禍の根絶を期しており、ガザと西岸を支配下に置くまでは枕を高くして寝られないと考えていますし、レバノン南部にも緩衝地帯を設けるまでは戦いを止めないつもりだと思われていました。
中途半端なところで妥協すれば、必ずテロの温床となると確信しているからです。

しかしそろそろわかってもよさそうなものですが、ネタニヤフに代表されるこのような自民族のみの生存を最優先する考え方では、やがて誰もイスラエルを支持するものはいなくなります。
今のままでは当初は正当だったテロに対する防衛戦争から、グロテスクな国家エゴに変質したかに見えるからです。

一方、いまやスっとああヒズボラとイスラエルの停戦ね、と読んでしまいますが、おかしくはありませんか。
だってヒズボラは国会で議席をもっているとはいえ、要するにイスラエルを標的とするテロ団体です。
しかも資金も武器もイランから提供されているような外国のヒモ付き組織です。
こんな組織が、レバノンの頭越しに攻撃を仕掛けたり、逆にイスラエルから攻め込まれる口実を作っています。
こんなことを許すような国を国家と呼べるでしょうか。
なんせ天下の日産を潰した男が逃げ込める国なのです。

本来は、一義的にはレバノンこそがヒズボラの学校施設や民家からのロケット弾攻撃を止める責任があります。
警察では手に負えないでしょうから、国軍がヒズボラを抑止すべきなのです。
しかしまったくレバノン国軍は無力で、スラエル北部では市民の被害が絶えません。
ですから、レバノンという国家とは別次元で、ヒズボラがイスラエルを地中海に追い落すなどという馬鹿げた反ユダヤのイデオロギーを捨てないかぎり、いつまでも戦争は続くことでしょう。
つまり、イスラエルは自らの安心な国境環境が生まれない限り戦いを止めないでしょうし、攻め込まれた形になっているレバノンはヒズボラをコントロールできないか故に、戦争はいつまでも続きます。

今回の停戦は、イスラエルの立場に寛容なトランプが登場するまでのわずかな期間に決着を着けねばならないと焦燥したバイデンが最大限の圧力をかけたために実現しました。
G7でイスラエルを支持しつづけているのは米国のみで、国際的孤立を屁とも思わないトランプならいざ知らず、バイデンではこの立場はそう長くは持たないででしょう。
今回バイデンは、(元々仲が悪かったせいもありますが)ネタニヤフを怒鳴ったようで、いままでにない強力な圧力をかけたようです。
聞くところでは、ほとんど口論だったようです。

バイデンは恒久的和平を望んでいると言っていますが、そんなことが無理なのはじぶんでもよく分かっているはずです。
あくまでも暫定的な対処療法であって、必ずまた元の木阿弥となります。
なぜなら、ヒズボラに武器と資金を与えて育成してきたイランがある限り、間違いなくかつてのように現地の国連機関に浸透して合意を空洞化するのは目に見えているからです。

「停戦の条件として、ヒズボラは60日間にわたり、ブルーライン(国連が設定したレバノンとイスラエル、イスラエル占領下のゴラン高原を隔てる非公式な境界線)から北に約30キロのリタニ川までの地域から、戦闘員と武器を引き揚げる。
アメリカ政府高官は、ヒズボラの戦闘員はレバノン国軍の兵士に置き換えられ、同地域からはヒズボラ関連のインフラや武器が撤去され、再建できないようにすると説明した」
(BBC前掲)

なお停戦ラインの監視は、UNIFILではなくレバノン国軍に米仏が強力」するとのことですが、詳細はわかりません。

「ヒズボラとの停戦協定が、前の二の舞にならないと確信する理由として、ヒズボラがレバノン南部地域に入ってこないことの監視を、前のようにレバノン軍、UNIFIL(国連レバノン暫定軍)に任せるのではなく、レバノン軍に、アメリカとフランスが協力することを挙げた。
協力と言っても、米軍や仏軍が、この地域に入るわけではない。しかし、軍事技術、資金面も含めて、レバノン軍に寄り添う形で、ヒズボラの動きを監視するとのこと。これにより、南レバノンから避難している8万人、イスラエル北部から避難している6万人が家に帰れると言っている」
バイデン大統領が停戦成功に自信:ハマスも人質解放・停戦の時と 2024.11.27 – オリーブ山通信

うーん、たぶん厳しいだろうな・・・。

正直、よくイスラエルがこんな米国提案を飲んだものだと思いました。
これは17年前の第二次レバノン戦争の終結につながった国連安保理決議1701号の焼き直しです。
国連1901号決議は、イスラエルとレバノンに支援を求める、ブルーラインとリタニ川との間に、レバノン政府および第11項で認可されたUNIFILもの以外の武装要員、資産、武器が存在しない地域にこの地域に配備することを含むとし、双方の敵対行為の再開を防ぐための取り決めとしました。

同時に、国連は「レバノンのすべての武装集団の武装解除」を要求し、それによりレバノンにはレバノン国軍以外の武器や権限が存在しない、というタテマエになっていました。そしてそのためにUNIFIL(国連レバノン暫定軍)というPKFまで置いています。
しかしこれは絵に描いた餅でした。

UNIFILはまったく機能しておらず、ブルーラインとリタニ川を結ぶラインの内側では、あいもかわらずヒズボラなどのテロ集団が我が物顔ではびこっていたのです。

「実際には、決議は執行されず、ヒズボラはUNIFILの活動地域に数万発のロケット弾と数千人の軍事工作員を配備しており、イスラエルとの国境の安全、レバノン国家の安定、そしてUNIFIL兵士自身を脅かすような仕方でいる。(略)
国境沿いの「国境なき緑の党」の位置のように、UNIFILが単純に立ち入るのを避けている地域があることは明らかで、実際には、過去2年間に何十ものヒズボラの陣地が設置されている。

報告書の21ページは、ヒズボラの工作員が定期的にUNIFILを攻撃し、嫌がらせをし、国連決議を破るという国境の困難な現実の非常に動揺する絵を描いています。報告書は、イスラエル国防軍兵士と現地のヒズボラ工作員との間の緊張を描写しており、それは先の戦争の終結以来ピークに達している」
UNIFILは出て行くか削減するしかない- アルマ望遠鏡研究教育センター

UNIFILの兵士らは無関係な国から集められた烏合の衆にすぎず、ヒズボラなど(テロ組織は複数あります)に対してむしろ「友好的」に振る舞って摩擦を避けるようになっていました。

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UNIFILのレバノンでの任務の危険な無力さ |イスラエルのタイムズ

タイムス・オブ・イスラエルはこう書いています。

「UNIFILはずっとどこにいたのですか?悪を見ず、悪を語らず、悪を報告しないことが、UNIFILとLAFのモットーであるべきだ。
本当の問題は、21世紀におけるUNIFILの使命は何かということです。それは平和を維持するためですか、それともそれを強制するためですか?もし前者であれば、UNIFILの成功はせいぜい最小限で、イランの指示下にあるヒズボラの忍耐力によるもので、イスラエルを攻撃するためのミサイル兵器庫を開く好機を待っているからに過ぎない。しかし、もし後者で、南レバノンが「権限のない人員、武器、その他の資産から解放されなければならない」とすれば、UNIFILは重大な失敗だったことになる」
(タイムス・オブ・イスラエル2021年9月17日)

つまり、レバノンは既に国家としての統一性を喪失しており、事実上の失敗国家です。
そしてその国軍も宗派ごとに分裂し、南部の国軍はヒズボラに支配されています。
また、本来中立性を強く要求されるはずのUNIFILは、とうに機能を喪失しているお飾りにすぎません。
ですから、今回の和平も60日を過ぎれば直ちに曖昧になり、グズグズになって戦闘は再開されるはずです。

 

 

2024年11月27日 (水)

「香港47人」に重罪判決

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香港で逮捕されていた「香港47人」に重罪判決が下りました。

「香港の高等法院(高裁)は19日、民主化運動のリーダーらに、国家転覆共謀罪で禁錮4~10年の刑を言い渡した。リーダーらは、物議を醸してきた国家安全保障に関する裁判で、5月に有罪判決を受けていた
「香港47人」と呼ばれるグループの活動家や議員らは、2020年9月の立法会(議会)選挙に向けて非公式の「予備選」を実施したことが国家転覆の共謀に当たるとして、香港国家安全維持法(国安法)違反に問われ、有罪とされた。
この日の量刑言い渡しでは、元大学法学部教授で、予備選を発案したとされる戴耀廷(ベニー・タイ)氏が、最も重い禁錮10年とされた。裁判官からは「革命を提唱した」と断定された。
著名活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は、禁錮4年を超える刑が告げられた。有罪を認めたことで、量刑は3分の1に減らされた。ただし、他の何人かとは異なり、裁判官から「善良な人物とは認められなかった」ため、それ以上の減刑はなかった。
このほか、ジャーナリストから政治家に転じた何桂藍(グウィネス・ホー)氏や、元議員の毛孟靜(クローディア・モー)氏と梁国雄(レオン・クオックホン)氏らが、禁錮4~7年の刑を言い渡された」
(BBC2024年11月19日)
香港の民主化運動リーダーらに量刑言い渡し 禁錮4~10年 - BBCニュース

この「罪」に問われたのは3年前の予備選です。

「問題とされた非公式の予備選は、2019年の「反送中」デモの勢いをうけて同年の区議選で民主派が勝利したのち、2020年の立法院選挙勝利にむけたデモンストレーションとして、ベニー・タイらが企画。2020年7月に開かれ、50万人以上が投票しました。
主催者側は当時、香港の憲法ともいえる「香港基本法」の下で許されている行動だとし、無罪を主張していました。ですが、香港政府側は、これは政府の「転覆」を企てたとして、活動家らを逮捕しました」
(福島香織11月23日 中国趣聞№1090)

当時のBBCの報道はこう伝えています。

「香港警察は2月28日、1月に逮捕した民主派50人超のうち47人について、国家「転覆」を狙ったとして起訴した。昨年6月に施行された、香港での反政府的な動きを取り締まる中国の「香港国家安全維持法」(国安法)に基づく起訴としては最大規模。
1月の逮捕者の多くはその後保釈されていたが、47人は2月28日、3月1日の出廷に先立ち警察に出頭するよう求められた。
中国政府は「破壊的な」行為を犯罪行為とみなす国安法の施行について、香港に安定を取り戻すために必要だと主張している。イギリスのドミニク・ラーブ外相は2月28日、民主派の起訴は「政治的な反対意見を排除」するために国安法が使われている実態を示しているとツイートした。
「国安法は英中共同声明を侵害しており、このような方法での国安法の使用は、中国政府が約束した内容に矛盾している。このような敏感な問題について約束を守るという信頼をさらに損なうだけだ」」
(BBC2021年3月1日)
香港警察、民主派47人を「国家転覆罪」で起訴 国安法施行後で最大規模 - BBCニュース

この予備選挙は、9月の立法議会選挙を迎えて民主派候補の共倒れを防ぐ目的で、民主派が独自に開催したものです。
予備選挙に61万人 香港市民は諦めていない: 農と島のありんくりん

性格的には国際的によくやられているもので、米国の民主・共和両党の予備選が有名です。
この香港予備選に参加したのは実に約61万で、この数字は2019年に民主派がが圧勝した区議選の獲得票の約3分の1に相当し、立法会選の有権者全体の14%にあたります。
つまり、9月に立法会選挙が通常どおり行われれば、民主派の勝利は確実なことが予想されていました。
さまざまな不利益を省みず立ち上がった香港市民の姿に胸が熱くなります。

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AFP 香港民主派の予備選に投票するため並ぶ人々(2020年7月12日撮影)

これに恐怖したのが香港行政府と中国政府でした。
彼らは新型コロナウィルス(このように呼ぶことにいたします)を理由に9月の立法会選挙を中止してしまい、そして今回、予備選挙を理由に国家転覆罪を仕掛けてきたのです。

その起訴理由を検事はこう言っています。

「立法会選挙で過半数を握り、あらゆる予算案に反対して行政長官を辞任に追い込む計画を企てていた。
これは政権転覆行為である」

驚くべき理由です。
一瞬なにをこいつは言っているのか、ポカンとしませんでしたか。
それが正常です。民主主義があたりまえだと思っている国民には理解不能です。
選挙とはそもそもそういうものだからです。
選挙の結果過半数を握れば、行政府の出したあらゆる予算を検証し、議論し否決することが可能です。
それはこの検事のいうように「すべて」かもしれないし是々非々かもしれませんが、いずれにせよ議会の否決権は民主主義制度のイロハのイです。
それを議会で多数派をめざすこと自体が国家転覆罪に相当するというなら、もはや選挙という概念自体が成立しません。
今回、もっとも重罪を言い渡されたベニー・タイ氏はこの予備選を「革命だ」と断じられました。
中国という国においては民主主義の権利を行使することは、すなわち「革命」なのです。

国民は選挙という方法でしか自らの意志を政治に反映できない以上、選挙を理由とした弾圧は民主主義そのものの完全否定です。
ならば香港行政府よ、いやその背後にいる中国政府よ、いっそ選挙自体を廃止して、共産党が指名する者だけに丸をつける共産党式でやったらどうなんでしょうか。

「米国、オーストラリアなどの政府は、この判決に強い異議と深い懸念を表明。一方、中国と香港政府は、国安法は社会の安定を保つに不可欠だと開き直り、香港の自治を損なってはいないという立場です。今回の判決は、中国の国家安全保障を弱体化しようと外国と結託する勢力に対する警告にもなった、という立場です」
(福島前掲)

自由主義陣営は民主主義を共通の価値観としている以上、「香港47人」を支援する道義的義務があります。
習近平にもっとも直近で会っている自由主義陣営の首相がいました。
ゲル首相です。彼はひとことの抗議はおろか、香港の「ホ」の字も口にせず、両手で習の手を握りしめて「友好」を誓いました。
いま、習近平は、トランプの再登場を前に慌てて西側諸国との関係改善を急いでいます。

「習近平はトランプ政権復活の前に、英国、欧州との関係改善に動いており、リオのG20では英国、オーストラリア、メキシコ、ドイツ、フランス、ボリビア、アルゼンチンの首脳と会談。G20では、バイデンはまもなく退任、プーチン欠席という中で、けっこうやりたい放題やっていたようです。G20では習近平は、一帯一路を通じた支援も含め7800人民元の融資、アフリカへの3600人民元の資金援助を発表。また中国と国交のある途上国に対する100%ゼロ関税待遇を宣言。2030年までにそうしたゼロ関税国家から8兆元分の製品を輸入するとしています」
トランプ政権の米国にデカップリングされることを前提に、米国外の経済圏構築を急いでいるようです」
(福島前掲)

日本に対してはビザなし渡航の解禁です。

「中国外務省は22日の記者会見で日本を含む9か国に対して短期滞在のビザを免除する措置を今月30日から実施すると発表しました。
ビザの免除は出張や旅行などで中国を訪れる多くの日本人が利用していましたが、中国政府は、2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて停止しました。
今回の措置では、人々の往来の利便性を高めるためだとして、これまで15日としていたビザなしの滞在期間を30日に延長し、実施期間は2025年末までとしています」
(NHK11月22日)
中国 日本人の短期滞在ビザ免除措置を30日から実施と発表 滞在期間30日に延長 2025年末まで | NHK | 中国

ゲル氏は、習との会談ができたことで、「戦略的互恵関係」が修復できたとして外交的手柄と考えているようです。
ゲル氏と岩屋外相は習の訪日と外相訪中を狙っているそうですが、トランプの目指す方向とはまさに真逆。
まるであてつけにすら見えます。
それでいてトランプと面談したいだなんて、なんなんでしょうかね、あの人たち。

 

 

2024年11月26日 (火)

「安倍氏の遺産」を食いつぶすゲル首相

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書いている対象がジメついた男だとこちらもジメついてくるのか、やはりゲル氏の初外遊について書いておくことにします。
それは惨憺たるものでした。
だから言ったろうというもんです。あの人のポジションはほの暗い片隅でオタクしていることで、表立った国際会議なんてものは一番似合わないのです。
それをナニをトチ狂ったのか、ASEAN首脳会談に次いで、APECとG20に出すなんてムチャもいいところです。

そして親のしつけがなっていないまま老人になってしまったゲル氏は、行く先々で盛大にやらかしました。
APECでは、フジモリ大統領の墓参で集合写真に遅れるという大ポカをやりました。

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APEC集合写真に石破首相の姿なし 渋滞に巻き込まれ「不可抗力」:朝日新聞デジタル

なんでも故フジモリ氏の墓参しての帰り道に事故渋滞にあったのだとか。
おかげで、習近平がセンターに位置し、日本がいないという図柄を世界にさらしてしまう結果となりました。
まぁ、今の日本の希薄な存在感そのものではありますが。

習近平といえば、これがまた会えたのですな。
主要国とはまともな会談ができず、トランプからも振られたゲル氏としてはまことに慶祝ですが、そこでもやらかしました。
当然右手を差し出した学習に対して、なにを考えたのかゲル氏は両手で握り返してしまったのです。

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「中国にけんか売る必要ない」石破外交 米国をにらみ、歩み寄る習氏:朝日新聞デジタル

これはたいへんにまずい。
たぶんゲル氏は「あなたにお会いできて感動しております」というボディランゲージをしたかったのか、選挙中の支持者との握手の癖がぬけなかっただけなのかもしれませんが、絶対にダメです。
だってこの両手で相手の片手を包み込む形の握手は、従属国が宗主国に拝謁する仕草そのものだからです。
このような上下関係にことのほかうるさいのは中韓ですから。

日本社会では社会人同士はめったに握手などしませんね。日本文化にシェークハンドなんてなかったからです。
だからこそ外国人と握手する時は、右手だけですること、頭は下げてはいけない、相手の目を見ろ、男は女性に握手を求めてはいけない、なんてことを社会常識として覚えておくべきことです。
だから小澤一郎は、2009年の訪中の時に、200人近い民主党議員が揃いも揃って両手握手するのを「あえて」止めさせなかったのです。
そう思って調べてみると、やっぱり小澤当人も率先して胡錦濤と両手握手しております。

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≪胡錦涛とツーショット撮影だけの小沢訪中団≫ - タックの庭仕事 -黄昏人生残日録-

自民党の領袖らはさすが両手握手をするような者はいなかったのですが、とうとうやらかす奴が出てしまったわけです。
ちなみこれが正しい習近平との握手の仕方です。

ニコリともせずにもちろん片手でいやいやながら握手。

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【写真】【元首相】安倍晋三さん (80/113) | 時事通信ニュース

たぶんゲルは首相在任中のエポックで習近平の国賓訪日を狙っているのでしょう。
尖閣が緊張する中でこれをやったら、米国はどう思うでしょうかね。

まぁ、トランプは金輪際面会してくれないでしょうがね。

一方、友好国とは座ったまま握手というダブスタですから困ったクンです。
開催国ペルーのディナ・ボルアルテ大統領やマレーシアのアンワル・イブラヒム首相、カナダのジャスティン・トルドー首相が石破首相に挨拶に訪れた際、いすに腰掛けたまま握手を交わしました。

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安全運転に努めた石破外交、着席したまま握手など「不慣れ」も露呈…南米訪問から帰国の途に:写真 : 読売新聞

なんというゴーマンな奴とおもったか、常識知らずめと思ったかわかりませんが、これは随行した官僚たちの失態で、彼のせいではありません。
例の認証式腹だし事件もそうですが、これは本人の教養と官邸スタッフが機能していないから起きたことです。
派閥に属さず、党内野党を続けたことで、普通の議員なら派閥で学ぶことを誰も指導する人がいなかったようです。
また、官邸に送られてくる官僚も優秀な奴は手控えて、いわば「おもり係」が送られていたようです。
彼らが外交プロトコルを熟知していたようにはとうてい見えません。

ゲル氏側の秘書も親分がヒッキーなので外交経験皆無ですから、当然ナニも知らない。
普通は派閥の秘書同士の横のつながりで、こういう大きな外遊イベントなどの際は、応援が得られるのですが、これもなかったようです。
つまり外交などやったことはおろか考えたこともないゲル氏と、機能不全の官邸スタッフという寒々とした体制で臨んで、このザマです。

ゲル氏はなぜかトランプに会うことを熱望していますが、実はトランプの密使とでも言うべき人物は、既に来ていたようです。
須田慎一郎氏は、政権移行チームのひとりの発言を、このように述べています。
なんでもトランプの政権移行チームは4000人にも登る大所帯で、各国各方面に別れて事前接触をしてきているそうです。
しかし情けないことには、日本はその事前接触のリストには入っていないそうです。

「私が政権移行チームに入っていることすら知らないのか、日本の官邸スタッフはまだ誰も私に接触してこないね(笑)。コリア(韓国)の連中は大統領選の最中からしきりと接触してきたのと比べるとレベルが違う」
8須田慎一郎ZAKZAK11月12日)
【須田慎一郎・金融コンフィデンシャル】「極秘来日」していた米要人、安倍元首相側近と面会情報 トランプシフトにパイプ持たない石破政権、活かせるか〝遺産〟のアドバンテージ(1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

日本は、世界中の国や組織が事前接触に血ナマコになる中、まったくの蚊帳の外というわけで、さすがは大人、微動だにしません。
NATOは事務総長のルッテ氏が,フロリダマーララーゴに飛んで面談に成功しています。
その気ならできるのです。


それをすわりこんだまま動かない理由は、前述の官邸の機能不全があるのですが、もうひとつは「安倍氏の遺産」にアグラをかいているからです。
しかしいまそれを猛烈な勢いで食いつぶしていると、須田氏は指摘します。

「とはいえ日本が、大きなアドバンテージを持っていることは間違いない。そのアドバンテージとは、一言で言ってしまえば、『安倍氏の遺産』ということに他ならない。今年4月に、トランプ氏の側近中の側近とも言える、マイク・ポンペオ氏が極秘裏に訪日しているが、その際に安倍晋三元首相の側近だった何人かの政府・与党の要人とミーティングを持っている。そのミーティングの中身については明らかにすることはできないが、そのコネクションをフルに使えば何の問題もないだろう 」
(須田前掲)

ではそのコネクションは何かといえば、

「そのポンペオ氏と会談を持った要人は、高市早苗前経済安保相、萩生田光一元自民党政調会長らだ。いずれ劣らぬ、故安倍晋三元首相の側近中の側近として知られた人物に他ならない」
(須田前掲)

ゲル氏がすこしでも危機感があるなら、高市氏や荻生田氏に平身低頭して動いてくれるように頼むところでしょうが、岸田氏に怒られるでしょうからたぶん手も足もでないでしょう。
かくていつまで首相でいられるかわかりませんが、「安倍氏の遺産」は削られていく一方となるわけです。

それにしてもお願い、もう少しその陰気臭い顔だけでもどうかしてくれませんか。
司馬さんも『尻啖え孫一』の中もに書いていますが、「古来、陰気臭い軍が勝てたためしはない」のですから。

 

2024年11月25日 (月)

わが首相、あさっての方角に奮闘中

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ウクライナテーマが続いて重かったので、今日は「軽く」。
え~、わがゲル首相でございます。もう帰る前からダメダメコールのお出迎えで、これ以上つけ加えることがないほどです。

ま、外交ウンヌン以前の問題として、石破氏の政権運営があさってに向いていることが問題なのです。
岸田応援団だった読売でさえ、こんな苦言を呈する始末です。

「日本周辺の安全保障環境は極度に悪化している。防衛力の強化やその財源を確保することは急務だ。人口減少に歯止めがかからない。経済をどう再生し、成長させていくのかも難題だ。
内外の課題が山積しているにもかかわらず、首相が先月1日の就任以降、最もこだわりを見せているのが、派閥の政治資金規正法違反事件への対応だ」
(読売社説11月15日)
社説:特別国会閉幕 政策論争を置き去りにするな : 読売新聞

なるほどなるほど
では、ゲル氏はなににうつつを抜かしておられるのでしょうか。
帰国するや、いきなり駆けつけたのが「政治改革本部」です。

「首相は、政策活動費の廃止に意欲を示している。政治資金収支報告書に不記載があった旧安倍派などの議員のうち、政治倫理審査会で弁明していない議員に対しては、改めて出席を促すという」
(読売前掲)

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NHK

まだやってんでっか「裏金」議員狩り、と笑ってしまいました。
ゲル氏はいまだ「政治改革こそが直ちに着手すべき政権の最大テーマだ」と認識しているようです。
政治改革って言っても、かつての小選挙区制への改変のような大改造ではなく、なんのこたぁない例の「裏金問題」です。
ゲル首相は南米から帰るやいなや、「政治改革本部」(すごいネーミング)で直ちに大号令を発して言うことには。

「自民党の「政治改革本部」の会合が開かれ、石破総理大臣は、党の政治改革案がまとまれば各党と協議を始め、年内に政治資金規正法の再改正を目指す考えを改めて示しました。
自民党は「政治改革本部」の会合を開き、南米への訪問から21日午前に帰国した石破総理大臣も出席しました。
冒頭、石破総理大臣は、政治の信頼回復に向けた取り組みについて「わが党が議論をリードすることが肝要で責任政党としての役割を果たしたい。きょうの議論で政治改革案をとりまとめることができれば、それを早急に各党に示し、政党間の協議を行っていくことになる。年内の政治資金規正法の再改正などの実現に向けてご議論をたまわりたい」と述べました」
(NHK11月21日)

石破首相“年内に政治資金規正法を再改正” 自民 政治改革本部 | NHK | 政治資金

で、結局、具体的にナンなのかといえばこんなセコイ話です。

▽党から議員に支給される「政策活動費」の廃止や
▽政治資金をチェックする第三者機関は国会に置くことを基本とすること
それに
▽外国人によるパーティー券の購入は、政治献金の規制と同様に禁止することなどを盛り込んだ、党の政治改革案について、議論が行われています」
(NHK前掲) 

わ、はは、なんだ政策活動費を排ししたりパー券を外国人に買わせないようにするってことくらいが「政治改革本部」まで作って大騒ぎしてやることらしいようです。
ほんとうに器の小さな人。

もう何度書いてきて言っても虚しい気分ですが、「裏金問題」は共産党が火を着けて、左派メディアがそれに便乗して焚きつけて大火事にしたようなことにすぎません。
収支報告書不記載でしかない形式事案であるにもかかわらず、まるでどこぞから賄賂をもらったかのような疑獄事件にまで肥大化させました。
それを本来なら、自党の議員を守るべき総裁の岸田氏が率先して騒ぎ立てたのですからタチが悪い。
彼は、自分が推すゲル氏に有利に総裁選が展開するようにと、高市氏に多くの推薦人を出していた安倍派狩りに利用しました。
結局、岸田氏の思惑どおり安倍派はほぼ国会から一掃され、選挙後には高市氏の支持層は激減しました。

もちろん刑事事件としては既に決着済みで、東京地検特捜は全国から100人の検事を駆り集めて有罪になる証拠を鵜の目鷹の目で探したが不発。
すると今度は「裏金」ぎいんには公認を出さないとして事実上の党からの除名処分にし、それでも飽き足らず独力で衆院選院選で勝ち上がった者にまで、もう一回なんらかの処分を加えたいというのが、この「政治改革」です。
といっても、ちゃっかりクビにしたはずの「裏金議員」には数が足りないので復党を願っているんですがね。
つまり、「裏金」問題は、いつまでたっても終わらないネバーエンディングストーリーと化してしまいました。

朝日すらこんな論説を乗せたほどです。

「不記載を公金横領や贈収賄の類と誤解しているとおぼしき怒れる有権者が見られたのはひとえに「裏金」という語の独り歩きの産物であろう。野党議員の不記載には「裏金」という情動的ラベルを貼らず、与党議員のみを「裏金議員」と呼ぶようなやり方は、事実認識に基づかない評価をもたらそうとするものであり、民主政にとって有害ですらある」
(朝日11月14日)
解散権の制約は必要か 有権者の判断支える「健全な報道」が解決策 - 衆議院議員総選挙(衆院選):朝日新聞デジタル

読売と朝日に挟み打ちされたらセンないだろうな、石破さん。
本当に国民が関心を持っているのは、とっくに「裏金」なんぞじゃなくて、「所得の壁」の引き上げや、インフレ対策なんですがね。
このゲル氏という人、悪くいう人ばかりですが、そうではない気がしますね。
ただのオタクなんです。

広く社会を知ろうと努めて吸収していくタイプではなく、じぶんのお気に入りのニッチに棲んでニマニマするような人です。
そのニッチも掘り下げて行けば金脈に行き着いたというのではなく、自分勝手のリクツをつけて人様を見下して悦にいるレベルです。

彼が小泉さんの下で防衛庁長官をしたとき、現場はものすごくやりにくかったそうですよ。
ハンパな「専門知識」を鼻にかけて官僚の言うことは聞かない大臣ほどやりにくいものはありませんからね。
護衛艦「あたご」と釣り舟との衝突でも真相究明がなされないうちから頭を下げてしまう、自衛隊を守ろうという意識が欠落しているなんて批判にさらされたわけです。

だから泡沫派閥さえつくれなくて、だいぶ長い間ボッチで、やっと作った水月会も極小派閥。
その自民党の端っこから、時の首相にじめついた批判をするのが趣味でした。
そんなことをねちねちと十数年やっていたら、リベラルメディアに「首相にしたい政治家ナンバーワン」になっちゃったのが悲劇のはじまりです。
フツーでしたらこんな極小派閥からは首相になれませんが、岸田氏が自民党をぶっ壊すとばかりに派閥解体を掲げたためになんと首相に。

こういう人だから責めないで下さい。
認証式で腹出していようと、他国の元首と挨拶するときに座ったままだろうと、首脳たちが会話しているときにひとりポツンとスマホをポチポチしていようと、習近平の両手をしっかりと握ってしまってへりくだろうと、居眠りをしようと喰い方が汚かろうと(まだあるのか、長いなぁ)、そんなことがなんだと言うのですか。
それこそが年老いたまま成長しなかったオタクの正しい姿なのです。
すべて、彼がそういう人間、つまり首相になんぞしてはいけない人物だと初めからわかっていて総理にした自民党の責任です。

 

 

 

 

2024年11月24日 (日)

日曜写真館 あしたより霧雨さむくくらく降る

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けさはほばしらが見えないほどに隣りの屋根から霧がふかい 橋本夢道

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とどまりて霧の匂ひの濃きところ 行方克巳

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だんだんと霧の虜になつてゐし 渡辺登美子

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さやうならさやうなら霧に隔てられ 野村泊月

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すさぶ霧天に白銀の日を駐む 相馬遷子

 

 

2024年11月23日 (土)

ロシア、ICBMを発射か

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ロシアがとうとう大陸間弾道ミサイル(ICBM)をウクライナに発射しました。
この一報を目にした時、とうとう核戦争を始めたのかと背筋が冷たくなりましたが、核は搭載していなかったようです。

「ウクライナ空軍によると、ロシアの大陸間弾道ミサイル1発が他のミサイル8発とともにウクライナ中東部の都市ドニプロDnipro(ドニエプル)の企業と重要インフラを標的にし、ウクライナ軍がそのうち6発を撃墜したと発表した。
地元の州知事は、産業施設や住宅が被害を受け、火災が発生するなどして、2人がけがをしたとSNSで明らかにした。ウクライナ軍は今週、米国製と英国製の長距離ミサイルでロシア領内を攻撃していた。ウクライナ軍はロシアが発射した巡航ミサイル「Kh-101」6発を撃墜したことも明らかにした」
(AP 2024年11月21日)
プーチン大統領、ロシアがウクライナへの攻撃で新型中距離ミサイルの実験を行ったと発表 |WRBLの

なお、このウクライナ空軍の発表に対して米国の当局者は疑問を呈して「中距離弾道ミサイル」のようだと考えているようです。

「アメリカの複数のメディアは欧米の政府当局者の話として、「発射されたのは弾道ミサイルだが、ICBMではなかった」と報じました。ロイター通信はアメリカ政府当局者の話として「ICBMではなく、中距離弾道ミサイルだ」と伝えていて、情報が錯そうしています」
(NHK11月2日)
ウクライナ軍「ロシアがICBM発射」ロシアのプーチン大統領 「中距離弾道ミサイル」と発表 | NHK | ウクライナ情勢

なお、プーチンも「新型の中距離ミサイル」という表現をしています。

「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は木曜日、モスクワがウクライナへの攻撃で新しい中距離ミサイルをテストしたと発表し、キエフがミサイルを使用してロシアを攻撃することを許可した国に対して兵器を使用する可能性があると警告した。
木曜日のウクライナ中部都市ドニプロに対するロシアの攻撃は、今週のロシア本土に対するウクライナの攻撃が、アメリカとイギリスの長距離ミサイルを使用したことに対する反応だったと、プーチン大統領は全国放送のテレビ演説で述べた。
プーチン大統領は、ロシアがウクライナに対してこのようなミサイルでさらに攻撃を行い、民間人が安全に避難できるようにする場合、事前警告を発すると宣言した。そして彼は、アメリカの防空システムはロシアのミサイルを迎撃することはできないだろうと警告した」
(AP前掲)

ICBMならば、複数核弾頭を搭載可能な「ヤルス」か、極超音速弾頭搭載可能な新型のICBM、「サルマト」のいずれかです。

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今年5月、モスクワでの軍事パレードで披露された大陸間弾道ミサイル「ヤルス」 - CNN.co.jp

中距離弾道ミサイルならば、この間テストしていたRS-26ルベーシュだろうと推測できます。

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XユーザーのDEFENSE EXPRESS RS-26ルベーシュ
ただし、現時点では残骸の検証が済んでいないのでなんともいえませんが、プーチン自身が中距離弾道ミサイルと言っているので、おそらくそちらでしょう。
鶴岡路人氏は「IRBM(中距離弾道ミサイル)とICBM(大陸間弾道ミサイル)の境界線は不明確だ」として、 こう述べています。

「ICBMか否か論争。ミサイル自体に関しては、INF条約で射程500-5500キロが禁止されていたため、公式発表でそれよりちょっと短いか長いものが種々登場。しかしミサイルの射程(能力)を正確に測定することは困難。また、軌道などにより飛距離は可変。IRBMとICBMの境界線は不明確。
そのうえで、今回ロシアが撃ったものをICBMと呼ぶか否かには、技術的評価とともに、政治・外交的思惑が存在。ウはICBMだと強調して、新たな脅威を発信したい。米は、米供与兵器の露領使用許可がもたらしたエスカレーションとの批判を避けたいので、「これまでと変わらない」と強調したくても不思議ではない」

XユーザーのMichito Tsuruoka / 鶴岡路人さん

いずれにせよ、9月段階からプーチンは、米欧が供与している長射程兵器によるロシア領内攻撃があれば、「北大西洋条約機構(NATO)とロシアが戦うことを意味し、紛争の本質が変わる」と強調した。露領への攻撃に使用することの容認は「レッドライン(越えてはならない一線)」と警告していていましたが、とうとう実際にエスカレーションの階梯を上ったようです。

米国が長射程のATACM弾道ミサイルの制限を解除し、英国もストームシャドウ巡航ミサイルの使用制限を解除し、実際にウクライナ軍がロシア領内への攻撃を仕掛け始めました。
プーチンはメンツを潰された形になって逆上したのかもしれませんが、今回の弾道ミサイル攻撃の脅迫の対象が欧米であることから、きわめて危険な賭けです。

いうまでもなく、プーチンがレッドラインだと息巻いても、ウクライナがロシア領内の策源地を攻撃することは、国際法上なんの問題もありません。
自分は存分に侵略しておいて、やりかえされると切れただけのことです。

国際法上は、わが国でひと頃議論されて認められている、いわゆる「反撃能力」に相当します。

「攻撃力を持つことは侵略的意図を有することとは等価ではない。相手が自国を攻撃するのを防ぐために、自ら敵地を攻撃して敵の軍事力を撃破することは、「攻勢防御」あるいは「積極防御」と呼ばれる防御的な軍事戦略の1つである」。(略)
専守防衛下の敵地攻撃能力をめぐってしているだけでは、ある程度の打撃を侵攻側に与えたとしても、侵攻側はまた自らの策源地において戦力を回復し、再攻撃を行うことができるわけだから、純軍事的な観点から言えば、自国防衛の観点からも、何らかの形で攻撃力が必要となる局面を想定することもできる。であるからこそ、多くの国が、侵略的意図を必ずしも伴うことなく、攻撃的軍事力を保持しているのである」
(高橋杉雄『専守防衛下の敵地攻撃能力をめぐって―弾道ミサイル脅威への1つの対応―』
防衛研究所紀要 第8巻 第1号/高橋杉雄

ウクライナがここまで悲惨な攻撃にさらされているのは、ロシア領内からの弾道ミサイルやドローンなどの攻撃である以上、これから国民を守るためにはロシア領内であるとなしにかかわらず、これを破壊するしか方法はありません。

またATACMやストームシャドゥを使用したとしても、既にロシアは膨大な量の弾道ミサイルをウクライナに撃ち込んでいて、どのツラ下げて言うのかの世界です。
ウクライナの長射程武器使用は、国際法上の「武器対等の原則」からみてもまったく合法です。

それを勝手にレッドラインだなんだと線引きをして、勝手にエスカレーションの階段を上げたのですからどうにかしています。
今後、さらにこのエスカレーションの階梯を登る気ならば、無人地帯への核攻撃デモンストレーションやロシア自国内での核実験などが想定されます。

 

 

2024年11月22日 (金)

ウクライナを3回もだます気か

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ロシアがICBMを使用しました。
核は搭載していなかったようですが、明らかな核による恫喝で、とんでもない暴挙です。

「ウクライナ空軍は21日、東部ドニエプロペトロフスク州の州都ドニプロの企業や重要インフラを標的として、ロシア軍が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む複数のミサイルによる攻撃を実施したと発表した。2022年2月のウクライナ侵略の開始後、露軍によるICBMの使用が確認されたのは初とみられる。ウクライナ空軍は犠牲者や重大な被害に関する情報は入っていないとしている」
(産経2024年11月21日)
ロシアが初のICBM攻撃 ウクライナ発表、国内攻撃に核反撃を警告か - 産経ニュース

詳細はまだわかっていないので、明日にでも。

さて、トランプが考えている和平案は、要するに現状固定です。
ベンスは、ウクライナに「国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する」と言っていますが、これが曲者です。
ほー、どうやって「保証」するんでしょうか。
ウクライナはNATOに入れないんでしたよね、では、米国が安全保障条約を個別に結ぶなら可能ですが、その気なんかないでしょう。

昔、きみの国の安全は僕ら西側も守るからね、と言って核を放棄させ、ブタペスト覚書を結ばせて、結局裏切ったのはどこの誰なんですか。
ウクライナフォー ラムは、今月改めて特集を組んではこう述べています。
やや長いですが、今のトランプ和平前に一度ちゃんと読んでいただきたい文書です。

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ウクライナフォーラム

「ブダペスト覚書は、ウクライナ国内法「1968年7月1日付核兵器不拡散条約へのウクライナの加盟」が採択されたことに関連して、署名されたものである。この法律には、「本法律は、核兵器保有国からウクライナに対し、関連の国際法的文書への署名を通じて形成される、安全の保証が与えられた後に発効する」と書かれている。

・このようにして、ブダペスト覚書署名国は、「ウクライナの独立、主権、現存国境を尊重する」こと、「ウクライナに対して、今後一切の武器を使用しない」こと、「ウクライナの政策に影響を及ぼすことを目的とした経済的圧力を控える」ことが義務づけられたのである。

・同覚書にのっとり、当時世界第3の核兵器保有国であったウクライナは、自発的に核兵器能力を放棄し、非核国家となった。ソ連邦崩壊時、ウクライナ領内には、大陸間弾道ミサイル、戦術核兵器、核兵器を搭載可能な戦略爆撃機、戦略核兵器があった。ウクライナが独立した直後から、アメリカとロシアは、当時のウクライナ政権幹部に対し、できるだけ早く核兵器を放棄するよう説得し始めていた。(略)

・これを利用したのがロシアである。2014年3月1日、プーチン大統領は、ウクライナ領におけるロシア軍の使用許可を同国連邦院から受け取ることになる。以降、クリミア占領、ドンバス戦争があり、ウクライナは、ブダペスト覚書はその署名国であるロシアにより違反されたとみなしている。さらに、ウクライナでは、同覚書のその他の署名国も自らの義務を守らなかったとして批判する者が少なくない」
(ウクライナフォーラム
2024年11月21日)
「存在しなかった安全」ブダペスト覚書署名から24年

被団協がノーベル平和賞を受賞したとき、ゼレンスキーは非核は理想であって現実的ではないというコメントを出しました。

「ゼレンスキー氏の当初の発言には前段があった。ウクライナが核兵器を放棄した1994年のブダペスト合意(覚書)に触れ、「核大国のどこが攻撃されたか。核兵器を放棄したウクライナだけだ」と述べていた。
91年のソ連崩壊で独立した際、ウクライナは米国とロシアに次ぐ世界3位の核大国だった。ブダペスト合意とは、ウクライナが核兵器を放棄してロシアに移管する代わりに、米英露の3カ国がウクライナの「安全を保証する」とした覚書である」
(産経2024年10月29日)
ゼレンスキー氏が「核保有」に言及 ブタペスト合意で核を放棄したウクライナの怒り 一筆多論 - 産経ニュース  

現実に非核をしたのはウクライナだけだ、その結果どうなったのか、そうゼレンスキーは問い返しています。
非核は人類共通の理想ではない、これは強国に支配され続けたウクライナだからこそ言えることです。

ウクライナほど小国の悲哀を舐めた国はありません。
長年に渡ってロシアの支配を受け、ソ連時代には一共和国にまでなっており、ソ連崩壊後やっと取り戻した独立も、親露派が先遣を握っていました。
ソ連崩壊時、唯一ウクライナに残されたものが膨大な核兵器とその発射基地でした。
これを核拡散と見て、主要国は揃ってとりあげようとしたのです。
それがブタペスト覚書です。

ウクライナは核を手放さざるを得なかったことをいまだ悔いています。
それは核の脅迫をしてくる相手が嘘つきで名高いロシアだということもありますが、いまひとつはかつて核保有量第3位だったウクライナが、それを手放すに当たって結ばれた1994年のプタペスト合意を反故にされた苦い経験があるからです。
ブタペスト合意は西側とロシアが作ってウクライナに因果を含ませて飲まして結ばせたものですが、そこで約束されていた独立と主権の保護は以後まったく省みられることなく、ゴミ箱に入れられてしまいました。

親露政権を倒した直後の不安定期に、クリミア侵攻が起こり、さらにほぼ同時に東部2州での独立分離紛争が勃発しました。
露骨な侵略です、しかもミンスク合意の明白な違反ですが、軍隊で占領してしまえばこちらのものというロシア流儀が勝って、結ばされたのがミンスク合意でした。
これには西側陣営も関わったにもかかわらず、事実上ウクライナ領の分割を容認してしまう不平等なものでした。
ドネツク、ルガンスクというロシアの息がかかった東部2州に「特別な地位」を恒久法で保証しろだなんて、ウクライナ分割そのものです。
西側諸国は、よく恥ずかしげもなく、こんなものをウクライナに呑ましたものです。
口にはしませんが、ウクライナの西側諸国への不信感は根強いはずです。

そしてクリミアを侵略された後に西側が仲介策として言い出したのが、2014年のミンスク議定書です。
ここでも「ウクライナの中立化」を求めるプーチンの要求で、それを尊重して結ばれたのです。

ドネツクの戦闘激化を鎮めるために作られ、ロシアとウクライナ、そして西側諸国(欧州安全保障協力機構・OSCE)の三者で成立したものでした。
内容は、2015年1月までの停戦とウクライナ東部とロシアに緩衝地帯を作ることが骨子でした。

ところが、このミンスク合意は直ちに失敗し、親露勢力はドネツクで戦闘を再開しています。
ですから、この「ウクライナの中立化」とは、親露勢力に占拠されていた東ウクライナ2州を事実上分離独立させることで、ロシアの思い通りにすることになったのです。

いったい何番煎じですか。プタペスト合意、ミンスク議定書、そして今回はトランプ合意とでも名付けるんでしょうかね。
いつもいつもよくもそう同じ手でウクライナをだましてきたもんです。

おそらくこのままではトランプはミンスク議定書に近い和平案が出してくるはずです。
唯一異なるのは南部2州に占領地が加わって4州となったこと、そしてこれら4州はすでにロシアの「領土」に編入されていることです。
なんだ悪くなる一方じゃないですか。

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ロシアのウクライナ侵攻直後に和平交渉 争点だったのは? 文書入手 [朝デジで読むNYタイムズ]:朝日新聞デジタル

しかし、いまそんな繰り言をいっても始まりません。
おそらくトランプ政権が考えているのはこのような「朝鮮戦争休戦型」のはずです。

①現時点で戦闘を中止し、この線を休戦ラインとする。
②現在のロシア軍占領地帯の主権はあくまでもウクライナにあるとする。
③ウクライナはNATO加盟の要求はしない。

ロシアの独立系情報アカウント「インサイダーT」はトランプ政権の和平案についてさらに詳細に述べているそうです。

①1200キロの前線に非武装地帯を設置し、英国や欧州連合(EU)の部隊が停戦監視に当たる。
②ウクライナは20年間NATOに加盟しない。
③米国はウクライナへの武器援助を続ける。

特に新味はありません。
忘れかかっていますが、2022年2月から4月までの数週間に渡ってウクライナとロシアとの間で和平交渉がなされています。
この時にロシアとウクライナの要求が出ていますから参考になるかもしれません。

その後に今年6月14日に、プーチンが言っていることをつけ加えれば、ロシアの要求はこのようなものです。

●ロシアの要求
①ロシアが一方的に併合宣言した4州の放棄。
②NATOへの加盟意欲の放棄。
③以上が受け入れられない限り停戦には合意しない。
(朝日2024年8月21日)
ロシアのウクライナ侵攻直後に和平交渉 争点だったのは? 文書入手 [朝デジで読むNYタイムズ]:朝日新聞デジタル

ウクライナが直ちに拒否したように、これは降伏要求ですから話になりません。
こういう態度を続ける限り、和平交渉は始めることすら難しいでしょう。

逆にウクライナの要求は2022年の和平交渉から変化していないとすればこうです。

●ウクライナの要求
①放射線と原子力の安全

②食糧安全保障
③エネルギー安全保障
④全ての捕虜と追放者の釈放
⑤国連憲章の履行とウクライナの領土保全と世界秩序の回復
⑥ロシア軍の撤退と交戦の停止
⑦正義
⑧環境の即時保護
⑨エスカレーションの防止
⑩終戦の確認

このウクライナ案が可能かと言えば、そうとうに困難であるのは確かです。
①は、戦争初期からロシアに軍事支配されているザポリージャ原発を念頭に置いています。
ロシアがこのサポリージャ原発から手を引かせるには、等価の恐怖をロシアに与えるしかないでしょう。
つまりクルスク原発をATACMSで攻撃することです。
もちろん原子炉建屋を破壊してしまったら交渉になりませんから、敷地内に着弾するような威嚇だけで充分です。

②は、戦争による農地の荒廃からの回復と、なんといっても国会の輸出ルートをロシアが封鎖したためにウクライナは苦境におちいりました。
今は執拗な黒海艦隊への攻撃で半ば壊滅状態になるために、輸出ルートは回復しつつあります。

③はエネルギーインフラへの攻撃の即時停止を意味しています。
④捕虜や市民が多くロシア領内に連行されているので、これを釈放しろということです。

以下の⑦から⑩までは、それを実現するための取り決めです。
特に中心的な要求である⑥「ロシア軍の撤退と交戦の停止」が実現可能かどうかですが、心を鬼して言えば限りなく不可能です。
戦線はロシア有利で膠着したままで、被占領4州の奪還はたいへんに困難です。
強いて言えば、クルスクとの交換で、被占領地域の返還を求めるくらいしか思いつきません。

このように詳細が見えないトランプ和平ですが、いずれにしても和平会談でのより有利な地位を求めてとうぶんは戦闘が激化するはずです。

 

2024年11月21日 (木)

トランプのウクライナ和平案とは

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トランプのウクライナ和平案は既に固まったものがあるわけではなく、また選挙戦特有の誇張に彩られているもの多いので、このような夾雑物を排して見ていかなければなりません。
トランプとつきあうとこれがメンドーです。
あのオッサンににとって、演説自体がディール(駆け引き)ですから、ひとつ言えば済むことを十も二十も言い募り、しかも敵に対する罵倒やマウンティングに満ちています。

一方、トランプはバイデンに対する非難のほうは、たっぷり言っています。

「この戦争を止めたい。無駄に命を落としている人を救いたい。何百万人もの人々が殺され、われわれは2500億ドル以上を負担した」「事態は悪化するばかりで、放置すれば、第三次世界大戦に発展する可能性もある。そうした中で、われわれの大統領がどこにいるのかさえ分からない」
(名越健郎2024年11月14日)
ウクライナ停戦を望むのは誰か:トランプ式「ショック療法」がゼレンスキー、プーチンに与える影響:名越健郎 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト

このバイデン批判はなまじ当たっているだけに困ります。
米国のウクライナ方針は、「勝つようにはしたくないが、かといって負けては困る」という実に腰が定まらないものでした。
だから退任2カ月前になって慌てて長距離兵器の制限解除を言い出したりする醜態ぶりです。
ハナからロシア領内の策源地を攻撃して、ウクライナが有利に交渉ができるような条件をつくれるようにしておけばよかったのです。
それを4州も奪われて、北朝鮮軍まで投入されるという段になってから、慌ててATACMS(エイタクムス)の使用制限解除をしても遅いのです。
かねてから に、ロシア領内の弾薬庫、弾道ミサイル基地、航空基地、予備兵力駐屯地などを叩いて体力を削いでいけば、これほど泥沼化せずに、どこかもっと早い時期に和平交渉を持つことが可能でした。

ところでトランピアン議員のウクライナ政策の最大公約数の認識はこのようなものです。

①ウクライナ支援はNATOが中心になってやるべきで、米国の支援の比重を削減するべきだ。
②ウクライナの国境防衛より、自国の国境防衛に予算をつかうべきだ。
③泥沼化して再現のなくなっているウクライナ支援の影響で、主敵である中国と対峙している台湾への支援がおろそかになっている。
④ゼレンスキー政権は腐敗の温床であり、自浄能力に欠けている。
⑤ロシアを懐柔して、中国・露・イラン・北朝鮮のならず者枢軸から引き離し、分断すべきである。

このような認識はありながらも、現実の和平調停を作るとなると複雑な方程式を解くようなものですから、トランプが理路整然とウクライナ和平案を述べたことはありません。
電話会談したシュルツ独首相は案外真面目に詳細を検討しているようだ、といっています。

ただし、彼のスタンドプレーが大好きな資質がこの和平調停には充分にあります。

9月の共和党大統領選の候補者討論会でこう言っています。

「この戦争を終わらせたい。私はゼレンスキー大統領とプーチン大統領をよく知っており、彼らと良好な関係にある。彼らはバイデン大統領を尊敬していないが、私を尊敬している。この戦争は解決すべきだが、バイデン政権は何もしていない。私が大統領になったら、双方と交渉する。バイデンはこの2年間、プーチンに電話もしていない」

トランプがプーチンポン友であろうとなかろうと、この和平には無関係です。
外交交渉には人的な要素も大きく影響するのは今のゲル氏を見ればわかりますが、過度にそれに寄りかかると地獄を見ることになります。

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トランプ氏はウクライナの味方、会談で支援約束=ゼレンスキー氏 | ロイター

ことウクライナに関しては、トランプの悪いところが全開で、「オレになったら24時間で解決だ」というふざけた言い方までしていますが、こういう言い方が誤解を招き、いっそう状況を悪くします。
かつてこの自己過信で臨んだ北朝鮮との会談でも、非常に危うい決着になりかかったのをボルトンに制止されたことを忘れたようです。

仮に「トランプ休戦」があるとすれば、ウクライナ和平会談を設定して、ゼレンスキーを武器支援をしないぞと恫喝し、プーチンにはもっと長射程の武器を渡すぞと引きずり出し、共に銃を置かせる気なんだ、くらいしかわかりません。
結局その根拠は、「オレはゼレンスキーからもプーチンからもリスペクトされている」という子供のようなナルシズムだけです。

現状でわかるのは、「今の状況で武器を置く」ということから、現在の前線のラインで戦争を停止するというだけです。
下の地図は、2024年11月のウクライナ戦争の現況です。
赤い部分が今回の侵攻以前のからの実効支配地域、オレンンジ色が新たな占領地域です。
クルスクにわずかにウクライナの突出部分が見えます。
ひとことでいえば、膠着状態です。

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「勝利計画」の重要ポイント、クルスク越境攻撃は戦線膠着:岩田清文 | [随時更新]戦略視点で捉えるウクライナ最新戦況マップ | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト

残念ですが、ウクライナは勇敢に戦っていますが、現状の膠着状況を破ることは相当に困難でしょう。
あえていえば大量の長射程兵器で、ロシア国内を攻撃することですが、米国が許すとは思えません。

方やロシアも、2024年11月時点で、BBCによれば戦死者だけで7万8千人に達し、北朝鮮の軍事支援を仰ぐ状況にまで追い込まれています。
アフガン侵攻によるソ連の戦死者が1万5000人、負傷者が5万人あまり、戦地で病気を罹患した者が42万人でていますから、おそらくウクライナ戦争では24万人ちかくの負傷者を出していると想像できます。
いうまでもなく、第2次大戦以降で最大の損害です。

気をつけていただきたいのは、「トランプ和平」とは恒久的な解決ではなく、たんなる「停戦」にすぎないということです。
この人の外交方針には恒久的という概念がなく、いつもその場しのぎな傾向がありますが、今回もそうです。
ウクライナは被占領地に対して主権はもちますが、実効支配を回復できません。
言い換えれば、被占領地4州のウクライナ国民はロシアの支配下にそのまま残すということです。

一方ロシアは占領は継続できても、合邦は否定されます。
そしてたぶん国連のPKOが停戦監視に入るのでしょう。

いわゆる朝鮮戦争型休戦です。
東部のドネツク、ルガンスク、南部のヘルソン、ザポリージャの計4州については、プーチンはロシア領として合邦宣言を出しているので、事実上のウクライナ領分割案です。
もちろん2014年に併合したクリミアは、ロシア領のままで固定化です。
唯一の救いは4州とクリミアに対しての主権は、あくまでもウクライナにあると国際的に認知することくらいです。

もしトランプ休戦がこのようなものなら、まったく新味はありませんし、ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記はこのような朝鮮戦争休戦型がはロシアが考えていると語ったことがあります。

副大統領候補のバンスはもっと突っ込んだことを言っています。

「ウクライナの反転攻勢は破局に終わる、と思っていた。「いい国」と「悪い国」に分ける道徳主義に動機づけられ、戦略的思考が十分でなかったからだ。ロシアは十分に準備していた。米軍指導者と非公開の場で話せば、すぐ分かるが、彼らは「ウクライナが戦略的に打開できる」などとは思っていない。
ウクライナは戦闘を凍結すべきだ。そして、国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する。この3つは達成可能だ」
(ニューヨークタイムス6月13日)

ベンスはいやな言い方をします。味方にはしたくないタイプの人物です。
「いい国と悪い国分ける道徳主義」ってナンなんです。
それこそ民主主義の価値観でしょう。
ここを譲ったら「西側」と総称される民主主義同盟は無意味なものになります。
そのうえに立って「戦略」があるわけで、ここを「道徳主義」で一蹴してしまえばなにが残るのでしょうか。
ベンスは「戦略」などとカッコつけて言っていますが、なんのことはないそれは現状固定のプラグマチズムにすぎません。

そしていまロシアに勝たせたら、ヨーロッパのみならず全世界のパワーバランスが根底から揺らぎます。
ヨーロッパ諸国や日本は今の数倍以上の国防費をかけて、ロシアとその同盟国の圧力に抗さねばならなくなます。
それはすでにヨーロッパで国防費の増大として現象しています。

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NATO軍事費 欧州合計でGDP比2%達成見通し 18カ国、国防相会合で防衛強化議論へ - 産経ニュース

「(NATO事務総長の)ストルテンベルグ氏はまた、2024年に31加盟国のうち18カ国が軍事費を国内総生産(GDP)比で最低2%に引き上げる目標を達成する見通しだと明らかにした。欧州の加盟国全体でも2%に達し、合計軍事費は約3800億ドル(約57兆円)に上るとした。ドイツメディアによると、ドイツも1992年以来約30年ぶりに2%を超えるという。2023年7月時点で達成国は11カ国だった」
(産経2024年2月15日)
NATO軍事費 欧州合計でGDP比2%達成見通し 18カ国、国防相会合で防衛強化議論へ - 産経ニュース

ベンスさんに勘違いしてほしくないのは、それはトランプがわいのわいの言ったからではありません。
ウクライナが対岸の火事ではなくなったからです。
だからじぶんの国の武器庫をからっぽにし、備蓄していた砲弾をほとんど全部ウクライナに送ったのです。
ウクライナの抗露戦争は、ただの「道徳主義」の戦いではないのです。

長くなりそうなので、ここで分割しました。

※初回アップしたものを半分に切り、さらに大幅に加筆しました。いつもすいません。

 

 

2024年11月20日 (水)

ウクライナ支援派が排除された新トランプ政権

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たぶん次の春には、ウクライナは「平和」を取り戻すでしょう。
ただし、それは「平和」と呼んでいいものかすら迷うほど苦いものです。

トランプがどのようなウクライナ和平を考えているのかは、マイク・ポンペオとニッキー・ヘイリーが、次の政権から排除されたことでわかりました。
このことでトランプが「ウクライナ処分」をどのらうに考えているのか明瞭になりました。
ポンペオはウクライナがロシアの侵略をはね除けて勝利し、独立を回復することこそが、真の平和への道だと考えています。
彼はキーウを訪れて、ゼレンスキーに支援の継続を約束しています。

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ゼレンスキー氏、ウクライナ訪問のポンペオ氏らと会談 - CNN.co.jp

「ポンペオ氏は昨年3月にキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談を果たした。トランプ氏の相次ぐ親露的な発言の中で、ゼレンスキー氏はその右腕だったポンペオ氏のキーウ訪問を歓迎し、「自由と民主主義のために」戦っているウクライナ人への強力な支援のシグナルになると評価した。
ポンペオ氏は段階的にしか最新鋭兵器を供与しないバイデン政権の姿勢を批判。「私たちが全てを終わらせるだけの支援を提供できるにもかかわらず、それを行っていないことは悲劇だ」と述べた。
ポンペオ氏は今年10月にも、ロシア領内の軍事基地への攻撃を容易にするためゼレンスキー氏が求める長射程兵器についても、この要求になかなか応じないことは「軍事的に愚かであり、戦略的にバカげたことであるように思える」とバイデン政権を非難してみせた」
(佐々木正明2024年11月7日)
【トランプ勝利】どうなる?ロシアのウクライナ侵略、「戦争を止める」発言にプーチン政権はどう反応したか(Wedge(ウェッジ)) - Yahoo!ニュース

ポンペオの政治的には微妙で、かならずしもトランプ親分に忠誠を誓うタイプではありませんでした。
意識的にトランプと一定の距離を開けることで、トランプの思い込みを修正しつつ現実の国際政治と整合させるという難しいことをしてきました。
アブラハム合意などは彼なくしてはできなかったことですが、トランプを崇める「陰の政府」などといっているトランピアンからは評判が悪く、「裏切り者」とすら呼ばれたことがあります。
ちなみに、大統領選の初期には立候補しており、トランプ批判もしていたようです。

ニッキーヘイリーも似た立ち位置で、彼女は最後まで大統領選で食い下がりました。
トランプに対しての批判は、ポンペオ以上に激烈です。

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CNN

「ウクライナでの戦争をめぐっては、トランプ氏やデサンティス氏とははっきりとした違いを示した。トランプ氏やデサンティス氏はロシアによるウクライナ侵攻に対する立ち位置がぐらついたことで話題になったが、ヘイリー氏は、ロシアが勝利すれば、さらに致命的な危機が世界にもたらされるとし、米国による関与の継続を明確に訴えた」
(CNN2023年6月5日)
共和党ヘイリー氏、ウクライナ情勢めぐりトランプ氏との違い示す 24年米大統領選 - CNN.co.jp

もうひとり、ウクライナ支援の拡大を主張していたロバート・オブライエン元大統領補佐官も排除されました。
この三人に共通していたのは、ウクライナ支援の継続です。

政権内ではなく、議会指導者でウクライナ支援にまわりそうな人物は、ロジャー・ウィッカー議員くらいなものでしょうか。
ウィッカーは上院軍事委員会次期委員長になるといわれています。
ウクライナから手を引く傾向がはっきりした中で、彼がどれだけ頑張れるかです。

「ウクライナの強力な支持者であり、軍事費増額の推進者である米ミシシッピ州共和党のロジャー・ウィッカー氏(73)が、米上院軍事委員会の次期委員長に就任する予定だ。アメリカ軍準機関紙の星条旗新聞が11月6日、報じた。
次期大統領に選ばれたトランプ氏は「米国第一」を掲げ、ウクライナ支援に否定的だ。しかし、米国は議会が強力な国だ。今後、トランプ氏とウィッカー氏が率いる上院軍事委員会との政治的な綱引きが起こりそうだ」
ウクライナ強力支持者の米共和党議員が上院軍事委員会の次期委員長に就任へ トランプ次期大統領と綱引きか(高橋浩祐) - エキスパート - Yahoo!ニュース

一方、今回トランプが第二次トランプ政権の次期国務長官候補に指名したマルコ・ルビオは、対中政策では厳しい態度をとりながらも、ことウクライナのこととなるとロシアとの妥協を図ろうとしています。
ルビオは、今春、ウクライナ支援反対の最右翼で、610億ドルの軍事援助に反対票を投じた上院共和党議員15人のうちの一人です。

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トランプ次期政権の閣僚選任進む 国務長官にルビオ氏と米報道 環境保護局長官にはゼルディン氏起用


「翌6日に米上院は、ウクライナへの支援を含む大型支出法案を否決した
1060億ドル(約15兆6000億円)の支出案のうち610億ドルはウクライナ支援に振り向けられる予定だった。このほか、イスラエルと台湾への軍事支援と、アメリカの南部国境の強化が含まれていた。
しかし、ゼレンスキー氏がビデオ会議で登場する予定だった会議は、国境措置をめぐって口論に発展。数十人の共和党議員が退席した。6日の採決では、共和党議員全員が反対票を投じた」
(BBC2023年12月7日 )
ウクライナへの欧米の支援にかげり ゼレンスキー氏、「ロシアの望むこと」と警鐘 - BBCニュース

ご承知のように、ウクライナ支援は米国が突出しています。

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BBC

「ウクライナに対する軍事支援の規模では米国が突出している。バイデン米大統領は21日、ウクライナに対する18億5000万ドル(約2440億円)の追加軍事支援を発表し、2月のロシアによるウクライナ侵攻からの軍事支援総額は約213億ドル(約2兆8000億円)となった。戦況に応じた支援を迅速に繰り出すことで、米国は日欧など同盟諸国の取り組みを牽引(けんいん)したい考えだ」
(産経2022年12月22日)
米が突出のウクライナ軍事支援 戦況に応じて効果 - 産経ニュース  

ルビオは上院の審議で、「ウクライナ人の戦いは勇敢で強靭だ」と称えながら、その一方で「膠着状態の戦争にいつまでも資金援助できない。決着を付けるべきだ」と述べていました。
また、大統領補佐官(国家安全保障担当)にになったマイク・ウォルツ下院議員も、ウクライナ支援の見直しを訴えています。

どのポジションになるかわかりませんが、トランプが「私の使者」とまで呼んでいる元駐日大使のビル・ハガティも、ウクライナ支援継続反対の立場で、ことしはじめには支援を増額する法案に反対票を投じています。 

「1期目のトランプ政権のもとで、駐日大使を務めたハガティ上院議員は10日、アメリカのCBSテレビのインタビューに応じました。
この中でロシアからの軍事侵攻を受けるウクライナへの軍事支援について「相当な金額が使われている。アメリカ国民は国境が崩壊していることなど国内の問題に焦点をあてることを求めている」と述べ、支援の継続に否定的な立場を示しました。
その上で、ハガティ氏はウクライナで多くの犠牲者が出ていることに触れ、トランプ氏が今後、停戦に向けた働きかけを行うという見通しを示しました」
(NHK11月11日)
トランプ次期政権 ハガティ氏「国内問題を優先」ウクライナ支援継続に否定的 | NHK | アメリカ 

そしてウクライナ支援継続反対の急先鋒は副大統領候補となったJ・D・バンス次期副大統領です。

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産経

「米大統領選の共和党の副大統領候補バンス上院議員が14日までに、トランプ前大統領が選挙で返り咲いた場合、ロシアのウクライナ侵攻を交渉で終結させると主張し、和平案を示した。ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に加盟せず、中立国とするほか、現在の前線を非武装地帯として、ウクライナ側は再びロシアの侵略を受けないよう防備を固めるとした。(略)
ウクライナはNATO早期加盟、領土奪還を掲げており、バンス氏の案は受け入れ難い内容。米紙ニューヨーク・タイムズは「ロシアのプーチン大統領の和平案のようだ」と批判的に伝えた。

バンス氏は「ロシア、ウクライナ、欧州は戦争を終わらせたいと考えている」と主張。バイデン政権は「(戦争に)資金を投じて、ウクライナの軍事的な勝利を願っている。ウクライナでさえ、勝利は得られないと言っているのに」と述べ」
(産経2024年9月14日)
ウクライナはNATO加盟せず中立国に 米共和党副大統領候補のバンス氏が和平案示す - 産経ニュース

張り倒してやりたいような言辞ですが、このトランピアンの「和平案」については次回に。

 

2024年11月19日 (火)

米、ウクライナへの長距離兵器制限を解除

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バイデンがウクライナに長距離兵器の使用を認めたようです。
遅い、退任までもう2カ月を切っているのになにをしていたのでしょうか。

「ワシントン 17日 ロイター] - バイデン米政権は、ウクライナが米国製兵器を使用してロシア領内を攻撃することを許可した。米政府当局者や関係者が17日に明らかにした。ウクライナの対ロシア攻撃を巡る大きな方針転換となる。
ウクライナは今後数日中に長距離兵器を使用した攻撃を実施する計画という。
長距離兵器のロシア領内への使用を巡ってはウクライナのゼレンスキー大統領が許可を求めてきたが、米国は認めていなかった。
方針転換は主に北朝鮮によるロシアのウクライナ戦線への派兵を受けた対応という」
(ロイター11月18日)
 米、ウクライナに長距離兵器の使用許可 ロシア領内攻撃で(ロイター) - Yahoo!ニュース

ウクライナは直ちに長距離へ息でロシア本土を攻撃するでしょう。
具体的には、「陸軍戦術ミサイルシステム」(ATACMS・エイタクムス)の使用制限を解除します。

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MGM-140 ATACMS - Wikipedia


「アメリカのATACMS使用許可は、8月にウクライナが奇襲進攻を行ったロシア西部クルスク州での、ウクライナ軍の防衛に限定されている。これにより、バイデン政権はウクライナに対して事実上、現在占領しているロシア領の一部の維持を支援したことになる。この占領地は、将来的な交渉のための強力な交渉材料になる」
(BBC11月18日)
バイデン氏、米製長距離ミサイルを使ったロシア領内攻撃をウクライナに許可 米報道 - BBCニュース

当初提供されたのは、ATACMSは射程165kmのブロックⅠであると推定されており、供与数はわずか20発でした。
今回供与されたのはブロックⅡAで、射程は300㎞あります。
こちらの長射程のものは供与されていないと推測されていましたが、どうもそうではないようです。

「ニューヨーク・タイムズ紙によると、米高官はウクライナが射程300キロの地対地ミサイル「ATACMS」でロシア軍や北朝鮮兵を狙う可能性があると説明した。ゼレンスキー氏は声明で「攻撃は言葉ではしない。発表もない。ミサイル自体が雄弁に語るだろう」と強調した」
(ZAKZAK11月18日)

米がウクライナに「長距離兵器使用」容認、ロシア領攻撃で 北朝鮮兵の参戦で危機感、政策を大きく転換 - zakzak:夕刊フジ公式サイト

しかしいずれにせよ、残念ですが、このていどの射程と供与数ではゲームチェンジャーとはなりえません。
たとえば、ウクライナがこれを用いて攻撃するのは、ウクライナが逆侵攻しているクルスクの兵站線か、クリミア大橋とそれに連なるアゾフ海沿いの兵站拠点、陸橋だと考えられています。
ですから、ロシア軍の兵站線を断ち切る所までには至らず、政治的意味あいのほうが強いでしょう。
ウクライナ側もそれを理解していてこう言っています。


「ウクライナ安全保障協力センターのセルヒイ・クザン会長はBBCに対し、バイデン大統領の決断はウクライナにとって「非常に重要」だと語った。
「戦争の行方を変えるようなものではないが、これまでよりもウクライナ軍の戦力がロシア軍の戦力に均衡するようになるだろう」
(BBC前掲)


たぶんATACMSの最初の攻撃目標は、北朝鮮の本格的攻撃参加前に、このクルスクの攻撃拠点と兵站基地を叩き潰すことです。

「米紙ニューヨーク・タイムズと同ワシントン・ポストはともに、匿名のアメリカ政府高官の話として、バイデン氏がウクライナによるATACMSの使用を承認したのは、ロシアが北朝鮮の兵士をウクライナで戦わせることを認めたことへの対応だと伝えた。
クザン氏は、今回の決定が、ロシア軍と北朝鮮軍による大規模な攻撃の開始前に間に合ったことを指摘。両軍は、ウクライナ軍をロシアのクルスク州から追い出そうとしており、数日内に開始される見通しだという」
(BBC前掲)

 一方プーチンは長距離ミサイルを使用することは「レッドラインを越えることで、NATOが直接参加したこととみなす」と前から警告していました。

「ウラジーミル・プーチンはレッドラインを引いている」
「それは紛争の本質、性質を大きく変えるだろう」とクレムリンの指導者は続けた。
"これは、NATO諸国、アメリカとヨーロッパ諸国が、ロシアと戦っていることを意味する。
彼は、ロシアへのミサイル発射のために、ウクライナは西側の衛星からのデータを必要とし、NATO加盟国の軍人だけが「これらのミサイルシステムに飛行任務を入力」できると主張した。
西洋はそれを越えるのでしょうか?そして、もしそうなった場合、ロシアはどう対応するのだろうか?
サンクトペテルブルクでの演説で、プーチン大統領は西側諸国に対して、ウクライナがロシア領土を攻撃するために長距離ミサイルを使用することを許さないように、明確な警告を発した。
モスクワは、それをウクライナでの戦争へのNATO諸国の「直接参加」と見なすだろうと彼は述べた」
(BBC2024年9月13日)
ウラジーミル・プーチン大統領、長距離ミサイルに新たなレッドラインを引く

いつもながら勝手なことをほざいています。バーロー。
そもそもあんたが平和な国に戦争をしかけたんだろうが、これはレッドもレッド、一発レッドだよ。
その後も民間人を虐殺し、住宅地、エネルギー施設などを無差別爆撃して甚大な被害を与えたのはいったい誰だ。あんたらロシアだろうが。
それを自分の国がドローンで攻撃された、長距離ミサイルを使われそうだからといって、レッドラインを超えたらウンメンカンヌン、勝手なことをさらすんじゃないよ、まったく。

戦争拡大かロシアと米国の直接対決になることを恐れているバイデンは、このATACMSの供与そのものにも渋い態度をしていました。
今回もたぶんホワイトハウス内部で葛藤があったはずです。
しかしこの腰の引けた対応が戦争を引き起したのです。
ウクライナ侵攻を聞いたバイデンは、直ちにこれに介入することを拒み「米国に戦争をさせたいのか」と叫びました。余計なひとこととはこのことです。
せめて「わが国はすべての方法を選択する用意がある」くらい言っておけば、その「含み」がロシアのエスカレーションの抑止となったものを。
そして本格的侵略が開始されれば、大規模支援しつつ、ウクライナの反撃を領土内に限定してしまいました。
その結果、ロシアは策源地をロシア領内に置くことで、軍事物資、兵員の兵站線をぬくぬくと温存できたのでした。

今回のATACMSの制限解除はこの意味で大きな意味を持ちます。
可能性としてはプーチンはNATO諸国まで含む西側陣営に攻撃をしかけるかもしれません。
いまでも、ラトビアやポーランドで不審なテロ攻撃が続いており、それをいっそう拡大することが考えられます。 

バイデンがこの時期に制限解除に走ったのは、トランプが登場する前に支援できるものを出しきってしまいたいという政治的理由です。
その停戦案については次回に。

 

 

2024年11月18日 (月)

ゲル氏、トランプに会ってもらえず

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ウクライナについて書かねばと思いつつ、重いんだなぁ。もうちょっと待って。
先にこちらの「軽い」ニュースから。

まぁダメだとは思っていましたが、やっぱりね。
ゲル氏がトランプ次期大統領との面会を断られたそうです。
これをほくそ笑んで、いきなり首脳会談をやってくれたのが習というのも分かりやすい構図です。

「【リマ時事】石破茂首相とトランプ次期米大統領の早期会談が見送られる方向になった。複数の日本政府関係者が16日、明らかにした。首相は南米からの帰途に米国での会談を模索していた。しかし、トランプ氏側は来年1月の就任式まで外国首脳に会わない方針で、日本政府にもこうした意向が伝えられた」
時事11月17日)
首相、トランプ氏との会談見送り 南米帰途は断念:時事ドットコム

いちおう言い方としては、「来年1月の就任式まで外国首脳に会わない方針」と言ってくれてはいますが、ウソに決まっています。
だって、アルゼンチンのハレイ大統領とは、フロリダの私邸で会っていますから。

「アメリカのトランプ次期大統領がアルゼンチンのミレイ大統領と会談しました。大統領選挙で勝利した後、外国の首脳との会談は初めてとなります。
トランプ氏は15日、フロリダ州にある私邸、「マー・ア・ラゴ」で開かれた保守系シンクタンク主催の祝賀イベントに出席し、ミレイ大統領も駆け付けました。
ミレイ氏はトランプ氏を崇拝し、過激な言動から「アルゼンチンのトランプ」とも呼ばれています」
(時事11月15日)
米トランプ次期大統領と「アルゼンチンのトランプ」ミレイ大統領が会談

前回の「電話会談」だって、たった5分。通訳で言って返ってハローハワユー、でおしまい。
子供の遣いにもならへん。

いちおう「政府関係者」はアレは祝勝会の最中であったからこちらが気をつかったんだ、なんて言っていますが、バカですか。
そもそもなんで祝勝会の真っ最中に電話すんのよ。
そういう相手のスケジュールを押さえて、初の電話会談を設定するのが、「政府関係者」の仕事でしょうが。
なんだったらフロリダまで乗り込んで祝勝会に出ればよかったのです。

ただしお一人様では無理ですから、トランプ氏がシンゾーの盟友と思っていた麻生さんに連れていってもらうのですね。

うがった見方をすれば、祝勝会の最中ならすぐに終わって、ボロがでないで済むとでも思ったんじゃないでしょうか。
なまじじっくり話したら初手からケンカになりかねませんからね。

ゲル氏には外交経験がまるでありません。
単に総裁候補9人で唯一英語がまるでダメというだけでなく(他の候補者は全員英語で政策議論が可能なレベルですが)、実際の外交現場に出ることないヒッキーでした。
オタクが美少女フィギュアを作るように、プラモデルを作ったり脳内で「アジア版NATO」などという珍説を構築してしまう人なのです。
まるっきりアジアや米国首脳と会ってもいないうちから、「アジア版NATO」も「米国との双務関係」もないもんだとフツーは思うのですが、この人は評論家の高見にいらっしゃる方ですからいいんでしょう。
現実に鍛えられていないのです。

それに気の毒にも、トランプは明瞭にゲル氏を嫌っています。
トランプはリベラルメディアと大バトルをして再選を果たした人物です。
だからトランプは深甚とした孤独に耐えて戦ってきたわけです。
第1期に選挙前には、会いに来る外国要人としてなく、トランプハウスで寒々とした日を送っていたのです。
そこに太平洋を渡って会いに来たのがシンゾーでした。
トランプは安倍氏を、抱き抱えんばかりにして出迎え、以後この二人は文字どおりの盟友として、安倍氏が非業の最後を遂げる日まで支え合う関係になりました。

下の写真は、訪日したトランプと共にゴルフをしている時の安倍氏の自撮りですが、こんなにくったくない顔をできる数少ない友人が安倍氏だったのです。

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トランプ米大統領と安倍首相、仲良く自撮り 首相官邸が写真公開 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

初めてのトランプ氏との会談の席上で安倍氏が「あなたはニューヨーク・タイムズにたたかれた。私も朝日新聞に徹底的にたたかれたが、私は勝った」と語ったエピソードは有名ですが、それと真逆に左派メディアの代弁者としてじめついた批判をしていた男が、他ならぬゲル氏でした。

今回の閣僚人事でも、ゴルフ仲間が選ばれています。
たとえば中東特使に内定したスティーブン・ウィトコフは、ゴルフをしている時に暗殺されそうになった仲です。

トランプ次期米大統領は12日、中東問題担当の大統領特使として、不動産会社を経営するユダヤ系の富豪スティーブン・ウィトコフ氏を起用すると発表した。
トランプ氏は「平和のために不断に声を上げ、われわれを誇らしくさせてくれるだろう」と強調した。
ウィトコフ氏は、トランプ氏が9月に南部フロリダ州のゴルフ場で暗殺未遂に遭った際、一緒にプレーしていた「ゴルフ仲間」。トランプ氏が1期目で取り組んだイスラエルとアラブ諸国との正常化などに向けて取り組むとみられる。
彼はユダヤ人の不動産王でトランプ氏の長年の友人でありゴルフ仲間でもあります。外交経験はないが、イスラエルに対する揺るぎない支持、妥協しない対応は絶対的なものがある」
(時11月13日)
トランプ氏、中東特使にゴルフ仲間起用 ユダヤ系富豪のウィトコフ氏:時事ドットコム 

たぶんこのふたりでプレーしていた時に、かなり突っ込んだ意見交換をしていたのでしょう。
大物政治家にとって「ゴルフ」とはスポーツ以上何かなのです。

かつてゲル氏は首脳外交についてこんなことを言っています。

「18年9月の自民党総裁選に出馬表明した記者会見。首相は、安倍氏のようにトランプ氏とゴルフしたいかを尋ねられると、明言を避けた上で「お世辞やおべんちゃらをいうのではなく、国益をもって不退転の決意で臨んでいると相手に思ってもらうことが大切だ」と〝心構え〟を説いた。
20年9月の総裁選に挑戦した際も、同じような質問を受けたが、「限られた時間で、いかに国益(に関する主張)を全身全霊でぶつけないと(トランプ氏から)信頼を得られない」と繰り返した」
(産経11月7日)
石破茂首相はトランプ氏と「ゴルフ外交」できるのか 高校時代ゴルフ部の腕前も最近は距離(産経新聞) - Yahoo!ニュース

このゲル氏の意見を聞いて、この人首脳外交を根本的に勘違いしているな、と思いました。
なんでもゲル氏は、慶応のゴルフ部だったそうで、うまいんだとか。
シングルで回れるそうですが、私だったら「全身全霊で国益を」なんて目をつり上げている奴とゴルフするのはイヤだな。
なまじ「競技としてゴルフ」をしていただけあって、この人は首脳ゴルフを勝つか負けるか、あるいは政治的にベネフィットがあるかないか、といった実益で捉えているような気がします。

違うんですよ、ゲルさん、首脳間ゴルフで大事なのは、コースを回っているときに通訳なし(ここ大事)で1対1でしゃべることの機微、あるいは、一汗かいた後での、クラブハウスの風呂でのざっかけない会話の感触だったりするのですよ。
首脳外交は正式の協議の場ではなく、休憩時間のロビーで決まると言われます。
正式な政府間交渉は、随行の役人がやればよい。
それは既に数カ月前から細部まで煮詰まっていき、共同声明の隅々まで決定しています。
ある意味で、首相の出番はないのです。

ですから、首相ができるのは、いわゆるアンダーザテーブルでの微妙なやりとりです。
そこに「国益を全霊で」なんてまなじり決してやられたら、口もほぐれませんがな。
まだしも岸田氏は「立ち話」が得意でした。

ゲル氏の座右の銘は「鷙鳥不群(しちょうふぐん)」だそうです。
鷙とは猛禽類のワシのことですからなかなかのナルシストでいらっしゃいますが、自分をワシに例えて群れないことを信条としてきました。
だから党内ですら友人はゼロ、派閥の仲間とさえ飯すら食わないのですから、人望など望むべくもありませんから、世界に対する人脈がありません。
したがって、これほど外交に、というより政治そのものに向かない人はいないでしょう。

 

 

 

 

2024年11月17日 (日)

日曜写真館 灰色の世界を仄と虹照らし

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虹吹てぬけたか涼し龍の牙 桃隣

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稲妻に座を渡してや消る虹 正秀

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濃く低き虹を冠りぬ幾工場 石田波郷

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わが運を信ぜんとする虹に立ち 相馬遷子

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朝焼に染まる間あらず水泡消ゆ 橋閒石

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どろりと朝焼 地球儀から噴水 三橋鷹女

※タイトルの「仄と」(そくと)とはわずかにの意味です。

2024年11月16日 (土)

グリーンニューディールの終了

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トランプのあらたな政権スタッフについて、日本の識者の皆さんはスキャンダルを追うことに夢中です。
胸に入れ墨があるとかないとか、ロシアと親密だから、アサドと会ったそうだからどーたらこーたら、反ワクチンの奴がいるとか、もうかまびすしいこと。作法悪い。
お友達内閣だからすぐに潰れるだろうとか、よけいなお世話つうの。
議会が承認されねば就任できないのですから、極端な人事はできませんし、トランプは閣僚入れ換えが趣味のような人なんだから、もう少し落ち着いたらどうです。
そんなことより、今の時期はトランプの政策を見極めることが大事じゃないですかね。

さてトランプに替わって一番風当たりを真正面から受けるのは、炭酸ガス削減に関わる民主党の政策でしょう。
いまからはっきりしているのは、トランプとなれば、パリ協定を再脱退することは100%確実です。
したがってまず、パリ協定の下での次期削減目標(NDC)も同時に消滅します。
現行の削減目標はこのようなものです。

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温室効果ガスの削減目標、46%に引き上げ。次期エネルギー基本計画の検討の方向性は? | SMART CITY NEWS(スマートシティニュース)

この削減目標は非常に意欲的、というか非現実的な設定目標で、米国は2005年比で26~28%から50~52%、カナダは2005年比で30%から40~45%とするなど目標の引き上げが行っています。
EUは2020年12月に1990年比で40%から55%以上に引き上げました。
わが国は菅さんが張り切りすぎて、2030年まで26%としていたものを、バイデンに追随したのか、50%削減までハードルを上げてしまいました。

そもそもトランプは地球温暖説自体に懐疑的であることを、第1次政権時から口にしていました。
リベラルメディアのBBCはやや軽蔑をにじませながら、こう書いています。


「トランプ政権は、化石燃料重視の政策を追求し、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」離脱を表明した。今年春には、米航空宇宙局(NASA)の地球温暖化ガス調査活動予算を削減した。
トランプ氏は今年10月、気候変動の危険性を警告する科学者たちには「政治的意図」があると批判。米フォックス・ニュースに、地球の気温上昇は人間活動が原因だという説を自分は受け入れていないと述べた。また2016年の大統領選中には気候変動は「でっち上げ」だと発言したものの、最近のインタビューでは「でっちあげだとは思わない。たぶん変化はあると思う」と発言を修正している」
(BBC2018年11月27日)
トランプ米大統領、米政府の気候変動報告「信じない」 - BBCニュース

今回、パワーアップしたトランプは、バイデン時代に加速した炭素削減政策をひとひとつ潰していくでしょう。
手続き的に最初はパリ条約からの再脱退と削減目標の白紙化から始まります。
次いで具体的に、CO2削減支援補助金を軒並み切り飛ばしていくはずです。

最初に槍玉に上がるのは、電気自動車(EV)に対しての過剰な減税措置です。
たとえば、バイデン政権はインフレ抑制法(IRA)に基づきEV購入時に最大7500ドル(約110万円)が税額控除されます。

2022年にバイデン政権が成立させた脱炭素投資を減税で支援するインフレ抑制法(IRA)は廃止されます。
IRAは法律であるので、その廃案も法律化する必要がありますが、上下両院を握った以上、直ちに実施されることでしょう。

EVへの過剰な補助金は、もはやEVは税金で走っていると揶揄されるほどです。

「電気自動車(EV)には陰に陽に様々な補助金が付けられている。それを合計すると幾らになるか。米国で試算が公表されたので紹介しよう。2021年に販売されたEVを10年使うと、その間に支給される実質的な補助金は約50000ドル(図中の48698ドル)に上る。為替レートを1ドル150円とすると、約750万円だ。


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EV補助金は1台750万円にも上るとの米国試算 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)

  • 政府や州による補助金や税控除など、納税者への負担によるものが8984ドル+(1318ドルの内数)、図中の黒色
  • 追加の発電設備や送配電設備など、電気利用者への負担によるものが10515ドル+(1318ドルの内数)、図中青色
  • 政府や州の燃費規制に基づいたクロス補助金など、ガソリン自動車利用者への負担によるものが4881+3322+19678= 27881ドル、図中水色
    直接の補助金である8984ドル以上に、電気利用者への負担や、ガソリン自動車利用者への負担に基づくクロス補助金の方がはるかに莫大に上っていることが分かる」
    EV補助金は1台750万円にも上るとの米国試算 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)

このようなグリーンニューディール政策のツケは、エネルギーコストの上昇による経済への打撃、生活費の負担の増加、そしてそれを救済するための各種失業手当などの増大につながりました。
当然のこととして、国民生活は苦しくなり、政府は財政危機となります。

米国民には民主党支持者か共和党支持者かを問わず、共通した「ウンザリ感」が背景にあります。
トランプの環境問題に強い影響を持つAFPI(アメリカ第一政策研究所)でエネルギー・環境分野を担当するカーラ・サンズはこう述べています。

「アメリカ国民はバイデン政権から『EVに乗らなければならない』とか『あのガスコンロや洗濯機は購入できない』などと言われることに本当にうんざりしています。
バイデン政権が行ったLNGの輸出凍結措置は、精製施設やメキシコ湾沿いのテキサス州やルイジアナ州から搬出するための拠点の建設をストップさせました。私たちは雇用を求め、もっと多くのエネルギーの採掘を求めています。
例えば私の出身地であるペンシルベニア州はLNGの生産でテキサス州に次ぐ第2位の能力がありながら、それに見合うだけの生産をしていません。
生産量の増加のペースが非常に遅いのは、民主党とバイデン政権がエネルギーの採掘能力の増強を規制しているからです」
(NHK2024年6月20日)
アメリカ大統領選挙 トランプ氏のエネルギー政策は?LNG 石油回帰?EVは?「パリ協定」はどうなる? | NHK | WEB特集 | アメリカ大統領選

この「ウンザリ感」は、社会に蔓延するポリコレ、キャンセルカルチャーでいっそう増幅されました。
ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ=ポリコレ)という正義の名のもとに、新たな支配システムが出来上がりました。
BLM、LGBTQといった運動は、ただの運動である枠を越えて、「人種差別やジェンダーによる差別をなくせ」という正義を振りかざして、その「正義」の基準に沿わない者は、リベラルメディア総出で集団リンチにかけ、社会的に抹殺しました。
これによる言論統制は社会の閉塞感を生み出し、それを打破する者としてトランプを待ち望むようになっていきました。
共和党支持者では熱烈に、そして従来の民主党支持者層においては密かに。
選挙前のメディアの世論調査では大接戦と報じられましたが、これは「隠れトランプ」が膨大にいたことを現しています。

話を戻します。
従来は原油高騰時の安全装置が米国のシェールガスでした。
天然ガスの多くは地下にある砂岩に貯留していますが、シェールガスは地下数百から数千メートルの頁岩(けつがん)層に含まれています。
主成分はメタンで、液化天然ガス(LNG)と変わらないのですが、従来の天然ガスとは異なる場所に貯留しているので、「非在来型天然ガス」と呼ばれています。
これが膨大な量北米大陸に見つかったためにシェールガス革命とまでよばれました。

しかしシェールガスは石炭や石油よりもCO2排出量が少ないにもかかわらず、温室効果の高いメタンが多いために、バイデンが政権をとる直後から下り坂を転げ落ちるように激減しています。
トランプ第1次政権は、パリ協定から離脱し、炭鉱を保護してきましたが、バイデン政権になって一転して、化石燃料生産に対して制限を加える動きに出ました。
そのために一斉に原油やシェールガス掘削業者らは化石燃料の先行きは暗いという見通しを立てて、設備投資を控えるようになりました。

「(米国のシェールガス)掘削済井戸数は、リグ(掘削機)を使って掘られた井戸の数、仕上げ済井戸数は、掘られた井戸に対して水と砂と少量の化学物質を高圧で注入したり、坑井の末端を破砕したりする、原油生産を開始するために必要な最終的な作業(仕上げ)が施された井戸の数、です。 これらの井戸の数が増えていないことは、この地区で新規開発が低迷していることを意味します。この点が米シェール全体の原油生産量が減少している、主な要因とみられます」
(吉田哲2021年12月21日)
2021年原油相場の5大予測 “脱炭素”に過剰反応してはならない | トウシル 楽天証券の投資情報メディア

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米シェール最主要地区(パーミアン)の掘削済・仕上げ済井戸数と原油価格
米シェールの最主要地区、パーミアン地区で起きていること - みんかぶ(先物)

このように今、世界で起きているのは、過激なCO2削減要求による人工的な原油不足なのです。
一方、唯一ロシアだけはこの原油高の状況を大いに楽しんでいます。
彼らからすれば、唯一の輸出品である天然ガスの高騰ほど嬉しい状況はありません。

炭鉱はおろか、テキサスの油田、そして米国が世界に誇ったはずのシェールガスまでもが投資が止まり、今や世界有数の産油国でありながら米国はガソリン高に苦しむはめになっています。

このガソリン高が、コロナ後の人手不足による労働力市場の高騰と相まって、米国経済に思わぬ打撃を与えています。
特に物流を握る運輸関連の被害は深刻で、ニュージャージー州では、伝統的に民主党支持層だったトラックドライバーたちが民主党の州上院議長を追い詰める騒ぎに発展するなどの騒動にまで発展しています。
このガソリン高は自動車産業をも窮地にたたせており、自動車産業関連の労働者の動きにも連鎖していく可能性があります。

バイデンもこのグリーンニューディールを止めればいいことはよくわかっているはずですが、それをしようとすると与党民主党左派が激怒します。
トランプが政権を奪還したら、まずやるのはグリーンニューディールの完全停止であることはまちがいありません。

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アメリカ大統領選挙 トランプ氏のエネルギー政策は?LNG 石油回帰?EVは?「パリ協定」はどうなる? | NHK | WEB特集 | アメリカ大統領選

ガソリン高は世界的な過少投資によるものですが、米国はなにせ自分の足元を掘れば石油が湧いてくる土地なのですから、解決は簡単です。
グリーンニューディール政策を放棄し、炭鉱や石油産業、あるいはシェールガスに集中的投資を呼び込む政策に転じるでしょう。
前述したようにEVなどという色物に対する補助金は打ち切られます。
各種補助金の竹馬に乗ることでやっと一人前の顔が出来たEVの息の根が止められることは必至です。
中国が世界の自動車産業の覇者となるべく国家で推進したEVは、対中関税の一律60%と相まって、壊滅的打撃を受けるでしょう。

中国はEVのみに特化した自動車市場を作ってきました。

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【中国の電気自動車】普及率はどれくらい?世界最大のEV市場の最新動向 - EV DAYS | 東京電力エナジーパートナー

特にBYD(比亜迪汽車は、世界市場でテスラを追い抜く勢いです。
ちなみにイーロン・マスクがトランプ政権でコストカッターで入閣したのは、保守で共鳴しただけではなく、EVに対する過剰な補助を止めさせるという意図もあったような気がします。

それはさておき、BYDは、2022年4月以降はエンジン車の生産を終了し、EVとPHEVのみを生産・販売するブランドとなりました。2023年のグローバルでのEV販売台数は約160万台と大幅に増え、約180万台でトップのテスラに迫りました。
そして世界市場では自動車輸出台数でドイツを抜き、日本に迫っています。

「中国EVメーカーからは今年、世界中に商品の波が押し寄せました。
中国は9月に昨年同月の倍となる5万台のNEVを輸出し、通年ではNEVの輸出台数が38万9,000台に達して昨年比で3ケタ台の成長率を見せました。中国税関総局の最新データによると、中国は8月に11万2,000台のNEVを輸出し、8月までで輸出量の多かった国トップ3はベルギー、英国、タイでした。今のペースで行くと、中国は2022年に50万台以上のNEVを輸出することになります。また中国は9月までに昨年同期比で55.5%増の合計212万台の自動車を輸出しており、世界2位の自動車輸出量を誇るドイツを抜いて日本の下に着きました」
【中国の電気自動車】普及率はどれくらい?世界最大のEV市場の最新動向 - EV DAYS | 東京電力エナジーパートナー

 このように中国とEUの自動車市場は中国製EVによって支配され、米国市場をも脅かしています。
とまれ、グリーンニューディールは来年に息の根を止められます。

 

 

2024年11月15日 (金)

活断層を再稼働禁止の理由にするな

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敦賀原発2号機が再稼働を禁止処分を受け、政府もそれを容認しました。
この電力不足の時代に、よくこんなことが出来たものです。

「福井県の敦賀原発2号機の再稼働を巡り、原子力規制委員会が不許可を決定したことについて、林官房長官は「科学的・専門的判断は尊重すべき」と述べました。林官房長官
原子力発電所の運転は安全性の確保が大前提であり、独立性の高い原子力規制委員会による科学的専門的な判断は、その結果のいかんによらず尊重すべきと考えております」
 日本原子力発電が再稼働を申請していた敦賀原発2号機について、原子炉の真下に活断層がある可能性が否定できないとして13日、原子力規制委員会は「不許可」とする処分を決定しました。
 処分を受けて日本原子力発電側は再申請を行う姿勢を示していて、林長官は今回の指摘を踏まえて「適切に対応していただきたい」と述べました」
(TBS11月13日)
敦賀原発2号機の再稼働“不許可”に林官房長官「判断は尊重すべき」(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース

政府も、林官房長官がそうですか、と簡単に容認していますが、いいんでしょうかね。
というのは、岸田政権時からグリーン・トランスフォーメーション(グリーン化への転換計画・GX)という表現で原発の位置づけをCO2削減のためにという言い方で、再稼働に舵を切っているからです。

もちろんお約束の再エネ推進を大前提にして、一昔前ならありえなかった原子力の位置づけ変更がGX会議でさりげなく差し込まれています。
たとえばこんなふうにです。

「3) 原子力の活用
原子力は、出力が安定的であり自律性が高いという特徴を有しており、安定供給とカーボンニュートラル実現の両立に向け、脱炭素のベースロード電源としての重要な役割を担う。このため、2030 年度電源構成に占める原子力比率 20~22%の確実な達成に向けて、安全最優先で再稼働を進める」
siryou1.pdf (cas.go.jp) 

GX会議の基本方針では、ウクライナ戦争移行の状況を踏まえて、エネルギー対策に非現実的ではいられないという危機感から、2030年頃までに再び原子力をベース電源の2割にまで引き上げようとしています。
反原発派メディアが見たら目を剥くことでしょう。
なぜなら、これは福島事故前の水準に原子力を戻そうという意味ですから。

総合エネルギー統計これによると、2010年における原子力の発電量は2882億kWhでしたが、11年に前年比約3分の1の1018億kWhに激減し、12年には159億kWhと、前年比でさらに6分の1に激減しました。13年は93億kWhで、14年にはついに統計上ゼロとなってしまいました。
それに連れて化石燃料依存度は急上昇しています。

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1.1.2 東京電力福島第一原子力発電所事故及びその前後から顕在化してきた課題 │ 「平成25年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2014)HTML版 │ 資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

原発停止による燃料調達コスト上昇は3.6兆円にも達しました。
カン政権の思いつき的原子力停止は、東日本大震災からの立ち直りに打撃を与えたのみならず、今に至るも日本のエネルギー供給に計り知れない損害を与えたのです。

その後、電力会社の安全対策工事の完成に伴って、徐々に原発の再稼働が進みましたが、2021年にようやく708億kWhにいまで回復しても、それでも福島事故以前の2010年と比べて発電量は4分の1の水準にとどまっています。

世の中的には、太陽光だの、風力、地熱、バイオマスだのといった再エネの発電量がさぞかし急増しているに違いない、といったことを考える方は多いはずですが、現実には化石燃料への依存度が、原発操業停止以降、逆に非常に高まっている現象を引き起こしました。
日本が環境団体から化石賞をとるとメディアは大喜びで報じていますが、再エネを増やせば、そのバックアップ電源で自動的に化石燃料による発電も増えるのです。

こういう流れの中に立ちはだかっているのが原子力規制委員会です。
規制委員会はとてつもない時間をかけて再稼働の承認を与えないでいます。

「世の中の方は「再稼動の検査をしている」としていますが、それはほぼ終わっているんです。再稼動審査というのは、法律上義務づけられた点検の審査です。今ほとんど終わっています。
今、原子力規制委員会がやっているのは、2012年6月の原子力規制委員会設置法にともない、「原子炉設置変更許可」「工事計画認可」「保安規定変更認可」の3点セットと呼ばれるものの審査です。
単なる定期検査の完了確認ではなく、新しく出来た規制基準への適合性を審査しているのです。つまり原子炉を設置するための、認可を最初からやり直しているわけです。これには大変な時間と手間がかかります」

(諸葛宗男(もろくず・むねお)元東京大学公共政策大学院特任教授)

そして規制委員会が重視するは活断層です。
今回の敦賀原発の場合、敷地内に活断層があることが問題視されました。
しかしそもそも、日本は活断層だらけの土地です。

三つのプレートが集まって、その上に浮いているわが列島に活断層なんぞフツーにそこにあるものなのです。
ハッキリ言ってしまいましょう。地震と原発 は関係ありません。

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日本全国の活断層マップ (imart.co.jp)

日本にはこれだけ活断層があります。
かといって、活断層があるから国民を立入禁止にするわけにはいかず、その上で普通に暮らして、生産を営んでいます。
問題は活断層があるかないかではなく、あるとしてもそれに万全の備えが出来ているかどうかなのです。

原発施設の地震の揺れの基準値は、個々の原発によって異なっています。

え、全国一律ではないのかって。はい、違います。
原発施設が立っている場所の地層は、場所により異なっていますからね。  
地層が軟弱な場所では、地震の揺れは大きいでしょうし、岩盤の上に立てられれば地震には強いわけです。
したがって、個別の原発によって想定される最大震度は違っています。  

原発建屋を設計する場合、基準値に数倍をかけた値を基にして安全基準を定めます。
いわば崖の10メートル先が基準値だとすれば、そこから4、5倍先の4、500メートル先にテープを張っておくのです。
耐震設計の専門家の入倉孝次郎氏はこう述べています。


「仮に基準地震動を策定しても、それを上回る強さの限界的地震動が来る可能性は否定できない。だから、そのような『残余のリスク』を想定して耐震設計している」 
原子力発電所の耐震設計のための基準地震動 - 入倉孝次郎研究所

つまり、基準値地震動=耐震限界値ではなく、実際の原発施設は必ず倍数の安全率をかけて耐震設計されているわけです。
これを知らない裁判官や訴訟団は、「基準地震動にあってはならない地震が来たらどうするんだ。だから、新安全基準は緩すぎる」と言うのですが、ソンナことはただの素人考えにすぎません。
入倉氏は、いかにもその道のプロらしく淡々とこう答えています。


「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」
「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」
(福井新聞2015年4月15日)

そのとおりで、予想された以上の震度が原子力施設を襲ったことは何度かあります。
たとえば、東日本大震災時の福島第1原発においても、基準地震動を越える揺れが襲っていたことをご存じでしょうか。 

 

001

宮野廣法政大学教授による 単位ガル クリックすると大きくなりますhttp://www.gepr.org/ja/contents/20140630-02/

上図は、宮野廣法政大学教授『福島原発は地震で壊れたのか』から引用したものですが、最大の加速度は、いずれも基準値地震動の平均460ガルを超えています。 
最大に超えたものは、2号機で南西方向に550ガル、3号機で507ガル、5号機で548ガルです。
さらにもっとも震源域に近かった女川では基準値580に対して636ガルで、ここも実測値が基準地震動を上回っています。

東日本大震災以上の大きな振動が発電所を襲ったケースに、2007年の中越沖地震動があります。
東電は地層の褶曲構造によって、施設内に大きな影響が出たと説明しています。

Photo_2 地質調査と基準地震動|柏崎刈羽原子力発電所|東京電力

実際に柏崎刈羽原発を襲った実測震度です。カッコ内が基準地震動です。比較してみてください。

002_3宮野教授による 前掲

いずれの原子炉も基準地震動に対して約50%、最大の2号炉では273ガルの基準値に対して、実に3倍の680ガルが襲っています。
この激震に対して、各原子炉は正常にスクラム(緊急運転停止)しています。後の配管の調査でも破断は認められていません。
つまり原子力施設は、基準値を大きく上回る振動に耐えていたのです。

しかし後に起きる東日本大震災をみれば、東電はこの柏崎刈羽の教訓にもっと学ぶべきでした。
柏崎刈羽では、2700カ所以上の機器類の破損があり、3号機の起動変圧器は炎上し、外部電源も一時的に失われています。
ただし、非常用ディーゼル発電機が正常に起動したために、事なきを得ています。 
しかし起動後も電力不足状態が続き、タービン駆動給水ポンプを動かすために補助ボイラーが起動しましたが、1から5号機と6,7号機でそれぞれ一台しか使用できないようなシビアな状況でした。
そのため4号機の冷温停止には、丸2日かかっています。

東電はこの柏崎刈羽で経験した地震による全交流電源の停止(ステーション・ブラックアウト) という事態を、もっとシビアに総括して、今後に生かすべきでした。
そうしていれば、福島第1で簡単に水没する場所に予備電源エンジンを置くなどという大失態をせずに済み、福島事故そのものが起きなかったことでしょう。

福島第1では大事故になったものの、その隣の女川では高台に施設があったために事なきを得て、津波にあった被災者を施設内に避難させています。
双方共に外部電源を喪失しましたが、福島第1は予備電源水没によって事故に至り、女川は無事でした。
そしていま女川は再稼働を始めました。

この福島第1と女川との違いを強調しすぎてしすぎることはありません。東日本大震災クラスの地震でも、原発は壊れておらず、破壊されたのはその後の津波による非常用電源の水没による冷却機能の喪失です。

よく地震で原子力施設が壊れた、地震大国日本に原発を稼働させてはならない、などと言うガサツなことを言う人がいます。
おおむね社民党系や共産党系などの脱原発団体ですが、これは福島第1の事故原因が地震によるものだという意図的誤認識によっています。

20241114-150349_20241115022601

社民党

地震による施設損壊が原因ではないと、規制委員会は正式に否定しています。
あらためて福島第1原発の事故調査報告を読むと、こう記しています。


① 政府事故調報告書では、原子炉圧力容器、格納容器、非常用復水器(IC)、原子炉隔離時冷却系、高圧注入系等の主要設備被害状況を検討している。津波到達前には停止機能は動作し、主要設備の閉じ込め機能、冷却機能を損なうような損傷はなかったとしている。

② 民間事故調報告書では、津波来襲前に関して、地震により自動停止し未臨界を維持したこと、外部電源を喪失したが非常用ディーゼル発電機(EDG)により電源は回復したこと、その間にフェールセーフ(安全装置)が働きMSIV(非常用炉心冷却装置)が閉止したこと等、正常であったことが述べられている。

③東電最終報告書では、1号機~3号機について地震による自動停止と、自動停止から津波来襲までの動きに分けて評価している。前者は各プラントとも地震により正常にスクラムしたこと、外部電源喪失したがEDGにより電圧を回復したこと、EDG起動までの間に原子炉保護系電源喪失しMSIVが自動閉したこと等の結論を得ている。
(宮野論文前掲)

福島第1の事故原因は、ひとえに屋上に予備電源を設置していなかったから起きたのです。
このことを忘れて、揺れるからアブナイ、津波が来たらアブナイ、という脱原発派の認識は誤っているばかりか、現実にはなんの解決にもなりません。
だからこそその「残余のリスク」をいかにして減らしていくか、「想定外」が来た場合それをどのようにして極小化できるのか、というリスク管理的視点を完全に欠落させているからです。

これが工学系の考える、万が一事故が起きてもさまざまな方法でシビアアクシデントにならないようにブロックする深層防御の考え方です。
だから営々と福島事故以来、各電力会社はほとんど採算を度外視して、高い防波堤を作り、施設を強靱化し、予備電気を津波が到達しない高台に移設してきました。
それがどうみても法律のプロであっても、原子力工学や耐震設計のプロではない裁判官の鶴の一声で打ち消されてしまうからイヤになります。
この国の再稼働の権限者は、いつから地裁になかったのですか。
このような判決によっては、日本の原発の安全性は一歩も進化しないどころか、後退してしまいました。
なぜなら、それはかつてあった「原発は絶対に事故を起さない」という原発安全神話の、単純な裏返しとしての「原発絶対危険神話」でしかないからです。

原子力規制委員会は真正面から原子力施設の安全性と、それが果たさねばならない社会的役割を認識して答申するべきです。

 

2024年11月14日 (木)

次々に決まる新政権人事

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続々と新トランプ政権の閣僚が発表されています。
ただし間違った情報も含まれているようで、ご注意を。

まずは最重要ポストの国務長官ですが、マルコ・ルビオが起用されました。

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ロイター

[ウェストパームビーチ(米フロリダ州) 11日 ロイター] - トランプ次期米大統領が共和党のマルコ・ルビオ上院議員(53)を国務長官に起用する見通しであることが、関係筋の話で11日明らかになった。最終候補の中から最も強硬派を選んだ格好となった。就任すれば初の中南米系の国務長官となる。
ルビオ氏はかねてから米国と地政学的に敵対関係にある中国やイラン、キューバなどに対し強硬な外交論を唱えてきた。
ウクライナ情勢に関しては最近のインタビューで、ロシアに占領されている全ての領土を奪い返すことに注力するよりも、交渉による解決を目指すべきだと指摘。
4月に議会が可決したウクライナ、イスラエル、その他の米国のパートナーに対する950億ドルの軍事支援(訂正)の法案に反対票を投じた共和党議員15人の一人でもあった。
トランプ支持派の一部は、同氏の外交姿勢と矛盾する立場を最近まで取ってきたルビオ氏の起用を疑問視する可能性がある。ルビオ氏が1期目のトランプ政権時に、北大西洋条約機構(NATO)脱退に上院の3分の2の賛成という要件を設け、ハードルを高くする法案の共同提案者になった経緯がある」
(ロイター11月13日)
訂正(11日付配信記事) トランプ氏、国務長官にルビオ上院議員を起用へ=関係筋 | ロイター
このルビオが国務長官にという情報も、だれそれが反対したという噂も出て二転三転していますから、また覆る可能性があります。
あくまでも正式発表ではないということに留意下さい。
また大統領補佐官(国家安全保障担当)には、マイケル・ウォルツ下院議員を打診したようです。
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NHK

ウォルツはこのような経歴です。

「ウォルツ氏は陸軍特殊部隊「グリーンベレー」出身で、アフガニスタンや中東、アフリカで従軍した経験がある。18年に初当選し、中国の少数民族ウイグル族への人権侵害を理由に北京五輪のボイコットを主張した」
(朝日11月12日)
外交は対中強硬 米国務長官にルビオ氏か 補佐官はウォルツ氏 報道 [アメリカ大統領選挙2024]:朝日新聞デジタル

ウォルツについては追加情報を待っています。

国防長官にはピート・ヘグセス氏が起用されるようです。

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ピート・ヘグセス氏  ロイター

[ワシントン 12日 ロイター] - トランプ次期米大統領は12日、国防長官にFOXニュース・チャンネルの司会者ピート・ヘグセス氏(44)を指名すると表明した。ヘグセス氏は元陸軍州兵で、個人ウェブサイトによると、アフガニスタンやイラク、キューバのグアンタナモ米海軍基地で任務経験がある。
これまでに示した政策上の立場は限られているが、北大西洋条約機構(NATO)に懐疑的な見方を示している。また、国防総省幹部による政策を「(社会正義に目覚めた)ウォーク」として批判してきた。
トランプ氏は選挙戦で、軍の多様性に関する進歩的な政策を推進しているとする高官らの解任を掲げており、ヘグセス氏が議会上院で承認されれば、こうした公約を実行する可能性がある。
ヘグセス氏は米軍制服組トップのブラウン統合参謀本部議長についても「左派政治家の過激な立場を推し進めている」などと非難しており、両氏が対立する可能性もある」
(ロイター11月13日)
トランプ氏、国防長官にTV司会者ヘグセス氏指名へ NATOに懐疑的 | ロイター

いずれも対中強硬派の最右翼です。
それが意味するところは、価値観の転換です。

岸田外交のように中国やイランとも「友好関係」を持ち、「戦略的互恵関係」でなれ合っていく、これが至善だと考える指向とは正反対だということです。
これらの「強硬派」で占められるトランプ新政権は、中国やイランに対してギリギリまで圧力をかけ続けることでしょうが、わが国がそれに追随できないときは「失望」の対象となるはずです。

かつてのオバマ時代の駐日大使キャサリン・ケネディは安倍氏が靖国参拝したとき「失望した」とコメントしましたが、この1月に来る共和党大使はなにも言わないでしょう。
それどころか、トランプやルビオなどは日本の首相に共に参拝しようと言いかねません。
ゲル氏はイヤ、オレは絶対に行かないぞ、と抵抗するので、米国大統領が靖国参拝し、日本国首相が参拝拒否という面白いことになるのかもしれません。

とまれ駐日大使のエマニュエルがLGBTQ推進に政治的圧力をかけた時、それに追随した岸田氏や稲田氏などのお調子者が出ましたが、そのような人たちにとってアゲンストの風が吹く4年間となることでしょう。

また米国の官僚も、日本とは違って固定的なものではなく、誰がその官庁のトップに来るのかでまったく別物になります。
新しい長官は、自分の新たなスタッフを自分の系列のシンクタンクなどから選抜して送りこみ、旧政権の者は8割が追い出されます。
したがって、来る1月の就任式以降は、ワシントンDC は看板は一緒でも中身がまるで違ったものに変貌します。

なおこの指名は共和党の政策綱領で示された「速やかに達成する20の約束」と照応していますので、ご覧下さい。

  1. 国境を封鎖し、移民の侵入を阻止する。
  2. 米国史上最大の強制送還作戦を実行する。
  3. インフレを終わらせ、米国に再び手頃な価格をもたらす。
  4. 米国を世界有数のエネルギー生産国にする。
  5. アウトソーシングをやめ、米国を製造大国にする。
  6. 労働者に大幅な減税を実施し、チップには課税しない。
  7. 憲法、権利章典、そして言論の自由、信教の自由、武器を所持する権利を含む基本的自由を守る。
  8. 第三次世界大戦を阻止し、欧州と中東の平和を回復し、わが国全土を覆う巨大な米国製アイアンドーム・ミサイル防衛シールドを構築する。
  9. 米国民に対する政府の兵器化を終わらせる。
  10. 移民犯罪の蔓延(まんえん)を阻止し、外国の麻薬カルテルを解体し、ギャングの暴力を止め、凶悪犯罪者を監禁する。
  11. 首都ワシントンを含む都市を再建し、安全で清潔な美しい都市を取り戻す。
  12. 軍隊を強化・現代化し、疑問の余地なく世界最強の軍隊にする。
  13. 米ドルを世界の基軸通貨として維持する。
  14. 定年年齢の変更を含め、社会保障とメディケア(高齢者・障がい者向け公的医療保険)を削減することなく守り抜く。
  15. 電気自動車(EV)の義務化を中止し、高コストで負担の大きい規制を削減する。
  16. 批判的人種論、急進的ジェンダー・イデオロギー、そのほか不適切な人種的、性的、政治的内容を子供たちに押し付ける学校への連邦政府からの資金援助を打ち切る。
  17. 女性スポーツから男性を締め出す。
  18. ハマス過激派を国外追放し、大学キャンパスを再び安全で愛国的なものにする。
  19. 同日投票、有権者の身分証明、紙の投票用紙、市民権の証明など、選挙の安全を確保する。
  20. 新しく、過去最高レベルの成功をもたらし、国を1つにする
    2024年共和党政策綱領、トランプ政策の実現可能性は(米国) | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ

日本のメディアはすぐに「日本に対する影響は」とか「関税が上がって」、果ては「石破首相はトランプとうまくいくだろうか」と言っていますか、どーでもよいそんなこと。
ダメに決まっているでしょうが、そんなもん。ゲル氏について既にどんな男かよーくご存じですって。
そして共に中国と戦うことができる同志かどうか、とっくに見極めていますって。

新政権がどのような考えを持って米国を改造しようとしているのかの全体像を知って、その各論として対日政策があることを理解すべきです。

ちなはに共和党が下院も過半数を押さえ、トリプルレッドが完成しました。

 

2024年11月13日 (水)

トランプ第六天魔王が来る前に

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目に見えておとなしくなりました。
いえなに、世界の過激派の連中が、です。

まずはガザ戦争ですが、ハマスとアッバスがこんなことを言い始めました。

「米大統領選で共和党のトランプ前大統領の当選が確実になったことを受け、イスラム組織ハマスとパレスチナ自治政府は、トランプ氏に対し和平を実現するよう呼びかけた」
(ロイター11月6日)
パレスチナ指導者、トランプ氏に和平呼びかけ ガザでは不安の声 | ロイター

同時にいままでハマス指導部を高級ホテルと豪邸に匿っていたカタールが、とうとうハマスを追放しました。

「パレスチナ自治区ガザを巡る停戦協議が停滞する中、バイデン米政権がカタール政府に対し、同国にあるイスラム原理主義組織ハマスの在外指導部を追放するよう求め、カタール政府がそれを了承したことが8日分かった。ロイター通信などが米政府高官の話として報じた。(略)
ハマスは2012年、シリア内戦の影響で同国首都ダマスカスにあった在外指導部をカタールの首都ドーハに移した。カタールはハマスに資金を提供する一方でその活動に影響力を行使してきた」
(産経11月9日)
カタールがハマス指導部を追放か 米政権、人質解放拒否を受け要求 - 産経ニュース

カタールというのは実にしゃもない国で、いちおう米国の「同盟国」となっていますが、面従腹背の極みのような国です。
米軍基地を駐留させ、米国製兵器を供与されているにもかかわらず、中東の札付きテロリストの拠点だったのです。
いちおうは米国の承認という形はとっているものの、ハマスに拠点を与え、資金まで提供していました。
それもカタールが彼らとの「パイプ役」を期待されてのことですが、ハマスに妥協を要求するどころか、やる気ナッシングの姿勢に終始しました。
せめて人質をすこしでも返させる努力くらいはやったらよさそうなものなのに、いまだ101人が人質のままです。
人質を返せば、イスラエルは攻撃の手を休めるといっているのにです。

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トランプ氏、当選後初会見 「米国第一主義」全開 | 社会 | カナロコ by 神奈川新聞

カタールとハマスはバイデンをなめきっていました。
だからこの8月下旬には停戦拒否し、あてつけのように米国人の人質を処刑するようなまねをしてみせたのです。

「米当局者がタイムズ・オブ・イスラエルに語ったところによると、ハマスが8月下旬にアメリカ人とイスラエル人の人質ハーシュ・ゴールドバーグ・ポリンを他の5人の捕虜とともに処刑し、その後のさらなる停戦提案を拒否したことが、政権がテロ集団のドーハでの継続的なプレゼンスに関するアプローチを変更し、「もはや実行可能でも容認できない」と見なすきっかけとなったという」
(タイムスオブイスラエル11月9日)
米国の要請で、カタールはハマスにドーハからの撤退を命じた - バイデン当局者 |lタイムスオブイスラエル

バイデンは残りわずかの期間で停戦を双方に認めさせ、人質を奪還せねばなりません
普通に考えれば、彼がレームダックだというのは、世界の誰もが知っていることなので、素直に聞くはずがありません。
しかし今回だけは効きました。
なぜでしょうか。もう2カ月先にはトランプという第六天魔王が腕をさすってお待ちだからです。

ハマスやヒズボラ、フーシ派、そしてその元締めのイランさえもが、今の紳士のバイデン翁がいる内が花、いまのうちに少しでもいい条件を作って置かねばならない、そう思うようになってきています。
トランプになれば、カタールに対しては容赦なくこう言うかもしれません。
「お前はテロリスト側についた。同盟国失格だ」。そして同時に米軍を撤収させて、武器供与も停止するかもしれません。
そうなればカタールは素裸となってしまいます。

ハマスはもう逃げる場所がありません。
カタールにいれば、イスラエルも米国との関係から手控えたでしょうが、それを失えば、逃げ場はレバノンくらいなもので、彼らの幹部は四六時中イスラエルの復讐に怯えて一生を送らねばなりません。
そのレバノンもイスラエルとの国境付近に緩衝地帯を作られてしまいました。
そしてフーシー派はトランプが当選するやいなや、船舶攻撃を停止すると表明しました。

ここまで外堀を埋められると中東のテロリスト司令部であるイランも心穏やかではないはずです。
トランプはかつて、イスラエルはイランの核関連施設を攻撃すべきだとまで言っていた人物です。
トランプが就任すれば、バイデンが渋っていた大型地中貫通爆弾を使用するかもしれません。

よくトランプがイラン核合意を破ったので中東が不安定になっている、というようなことを言う人がいますが真逆です。
イランは秘密裏に核濃縮を続けており、それに対してトランプ政権は核合意を廃棄し、原油輸出をメーンとする強力な経済制裁を課しました。
しかしバイデンは、核合意に復帰してしまい、制裁を履行しなかったために、イランは大量の原油を中国などに輸出して潤いました。
バイデン政権の制裁不履行によって、イランに流れ込んだオイルマネーは400億ドル以上と言われています。

トランプが復帰すれば、逆に振り子が振れます。
核合意から離脱し、制裁が復活し、再びイランは外貨収入のメーンの原油輸出の道を閉ざされます。
このトランプ復活とイスラエルとの軍事緊張のために、イラン通貨リアルは暴落しています。

「イランの通貨リアルは、同国とイスラエルの間の軍事的対立が激化するとの懸念から、非公式市場で過去最安値を更新した。
テヘランを拠点とするトレーダーが通信アプリ「テレグラム」とウェブサイト「ボンバスト」で提示した為替レートと価格の平均によると、1ドル=70万リアルに近い水準で3日以降取引されている」
(ブルームバーク11月5日)
イラン通貨リアルが下げ加速、過去最安値を更新-年初来で27%下落 - Bloomberg

窮したイランはトランプ暗殺を企てたそうです。

「米司法省は8日、イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」が今年9月、工作員にトランプ次期大統領の動静監視や暗殺を指示していたと発表した。暗殺は実行されなかったが、メリック・ガーランド司法長官は「米国の安全保障を危険にさらそうとするイランの試みを容認しない」と表明した」
(読売11月10日)
イラン トランプ氏暗殺指示か 革命防衛隊 米訴追の工作員供述 : 読売新聞 

一方イスラエルは、喜び半分、不安半分のようです。
トランプは、第1期の時は、ネタニヤフ首相との関係は非常に親しく、イスラエルの強力な理解者でした。

そしてイスラエルが望んでいたように、イラン核合意から離脱して、経済制裁を課すことで、イランが核軍備を進めることを困難にしました。
さらに恒久的平和の枠組みとして、アブラハム合意を作ることに成功しました。
この合意は、イスラエルと湾岸アラブ諸国の橋渡しを実現し、サウジアラビアとの国交を実現することで、イランを外交的孤立に追い込むものでした。
それを恐れたハマスは、アブラハム合意の破壊のために10・7テロを仕掛けたのです。
その思惑どおり、その後に始まるガザ戦争によって、このアブラハム合意の枠組みは完全に破壊されます。

トランプは当選祝いの電話会談でネタニヤフともっとも長い時間話したそうですが、たぶんこう言われたはずです。
オレが就任するまでの2カ月間に戦争をお終いにしろ。
JPPI(Jewish People’s Policy Institute)のシュムエル・ロズナーはこう言っています。

「トランプ氏は、その場その場で動くので、まったく予想がつかない人物である。トランプ氏は、戦闘を止めると宣言しているが、果たして、それをどう実行するのか、予想もつかない。
そのため、ハマス、ヒズボラ、またイスラエルにとっても、来年1月20日までまだ、少しはその手のうちが見えるバイデン政権の2か月半ほどの間に、戦争を終わらせる方向で、戦闘と、交渉で人質を解放させる動きが、加速する可能性があるとロズナー氏は指摘する」
トランプ氏次期大統領決定:就任までの隙間時間に戦争終結の可能性も?2024.11.7 – オリーブ山通信

ネタニヤフは、姑息にもトランプの当選が決定する直前になって、政敵ガラント防衛相を解任し、カッツ外相に交代させる方針を明らかにしました。
ガラントは、ガザ戦争の継続に反対し続けており、米国の信頼も厚く唯一のパイプ役といわれた人物です。
これを今のうちに解任してしまうというのが、いかにもネタニヤフです。
おそらくこの2カ月間でできるだけダーティなことをして「平和」的状態を作り出すつもりでしょう。
ただし、それもトランプの承認なくしてはできないはずで、どうなりますことやら。

くりかえしますが、これはまだトランプがまったく外交をする前のことです。
彼は今は閣僚人事に奔走しており、ネタニヤフとも20分話しただけにすぎませんが、すでにトランプに備えて中東は大きく動き始めているのです。

 

2024年11月12日 (火)

ゲル氏が首相にしがみつかなければ

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ゲル氏が首相に指名されたそうです。
おめでとうと言ってやるべきでしょうが、言いたくはありません。自分の目先しか見えないご仁です。
政治を、彼の小さな権力欲の道連れにしたというかんじ。

そりゃゲル氏になるだろうさ、野党が連合できていませんからね。
野田氏が怒っているようですが、自党の政策を修正しないで、一方的に国民民主に妥協を迫っているのですからふられてあたりまえです。

言い換えれば、自民党が2009年のような政権交代の憂き目に合わないのは、野党側が一枚岩ではなかったからです。
だから、玉木氏を伏し拝むようにせにゃならんのです。

前回衆院選はそれほどひどい負け方でした。

「10月27日投開票の衆院選で、各政党の比例代表の得票率を政権交代が起きた平成21(2009)年の衆院選と比べたところ、自民党の得票率はいずれも26・73%で全く同じだった。自民と公明党を合わせた与党と、民主党系など野党の割合もほぼ同じで、投票率が異なりながら15年前と酷似した状況が浮かんだ」
(産経11月2日)
 産経ニュース 

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自民得票率、15年前の政権交代時と全く同じ「26・73%」衆院比例、民主系もほぼ同じ - 産経ニュース

上図を見ていただくとわかるように、2009年の政権交代選挙と、今回2024年の自民比例得票率は奇しくも26.73%で、しかも自公を合わせた連立政権のも09年の計38・18%と今回24年の計37・66%でほぼ同じでした。
そして、野党側も09年の民主党の得票率は42・41%、今回衆院選の立憲+国民民主+維新3党の合計は41・88%でほぼ同じでした。

つまり、比例得票率で見る限り、今回民主党が分裂して国民民主が生まれていなければ、そして維新が全国政党に成長していなければ、2009年のインデペンデンスデイの続編が起きていたかもしれないのです。
ああそれなのにそれなのに、ゲルさん、首班に指名されて胸なでおろしている場合ではありません。

だって予算委員長を初めとして、国会の重要ポストをことごとく立憲に持っていかれたからです。

「衆議院で与党が過半数を割り込む中、自民党と立憲民主党の国会対策委員長が会談し、自民党は17ある常任委員長のうち、政府の予算案を審議する重要ポストである予算委員長を含め、野党側に8つを配分することを提案し、合意しました。予算委員長は、立憲民主党に割りふられることになりました」
(NHK11月7日)
衆院 17の常任委員長 野党側に8つ配分 予算委員長は立民に | NHK | 国会

 国会の委員長ポストは議席配分に応じますから、17の委員長ポストの内、予算委員会などの8つのポストが割り振られました。
特にダメージが大きいのは予算委員会委員長ポストで、これで政府予算案は簡単に通らなくなります。

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読売新聞

「議事進行など委員長の権限は大きい。特に立民が委員長ポストを獲得した予算委員会は、政府予算案を含む国政全般を審議する与野党攻防の主戦場で、注目度も高い。「裏金議員の招致を予算委でやればいい」。野党議員は早速こうささやく。自民幹部も「リスクしかない。どこまで妥協すればいいのか」と政権運営の今後に強い懸念を示す」
(時事11月8日)
自民、「虎の子」ポスト放出 難路の国会運営へ:時事ドットコム

この影響は甚大です。予算委員長という要職を取られた上に法務委員会と憲法審査会まで押さえられました。
これで一気に夫婦別姓が進むかもしれませんし、憲法議論はあの護憲のゴリゴリの枝野氏ですから推して知るべし。

「数あるポストのうち、立民は法務委員長も強く要求した。選択的夫婦別姓の導入を主張する立民は、別の委員長ポストを自民に返上してまでこだわったほどだ。公明党も導入に賛成の立場で、年明けの通常国会では議論が進展する可能性もある。
死守 立民は政治改革特別委員長も担うことが決まり、自民派閥の「政治とカネ」の問題で攻勢を強める構えだ。(略)
衆院憲法審査会長は立憲民主党に割り当てられ、枝野幸男元代表が就任することが固まった。憲法審査会長ポストを野党が務めるのは初めて」
(読売11月9日)
委員長ポストは野党結束し主導、自民が大幅譲歩強いられる…立民・野田代表「国会の風景変わる」  : 読売新聞

では、なぜこんなことになったのでしょうか。
もちろん修辞疑問です。決まっています。「東のゲル、西のカマラ」と呼ばれるくらいに大負けしたからですが、仮に負けてもやりようはあったのです。
連立政権を直ちに作ればこんなことにはなりませんでした。

ちなみに大連立だなんて無責任なことを言う評論家がいますが、100%ありえません。
そんなものをつくったら、来年の参院選で与党から二人でてしまうことになるからです。

したがって唯一の救われる道は、ゲル氏が見苦しく首相の座にしがみつかず首を差し出すことでした。
そして自分に替わって、誰か連立を組める者に総裁を交代し、国民民主と政権協議を開始すればこんなことにはなりませんでした。
しかし国民からいまや毛虫のように見られているゲル氏が居すわっている限り、連立は組めません。
ゲル内閣にホイホイと入閣なんぞすれば、ほら見たことか玉木は権力欲の男なんだと言われるに決まっています。
誰か若い娘とけしからんことをしても政治家としては致命傷にはなりませんが、こんな泥船に乗って自民を助けたらお終いです。

では、自民党はだれがふさわしかったかって、決まっているじゃありませんか、高市、茂木、小林のいずれかです。
高市氏はこんなところでゲル助けてどうする、自分には次があると思うでしょうから辞退するでしょうから、小林氏か茂木氏です。
いままで国民民主の後ろ楯である連合は麻生、茂木氏とは政策協議してきた歴史があるし、幹事長だった茂木氏がいいのでは。
総理になれない総裁は厳しい立場ですが、ぜひ茂木氏にお願いしたかった。

いずにしても、いったん立憲が「103万円の壁」や「トリガー条項」の政策協議で、いままでのような不誠実な対応をしたら最後、衆院選直前の不信任動議の時のように賛成に回られて本当に下野することになります。

「与野党の合意が実現しなかった前例もある。日本維新の会は岸田文雄政権当時の今年5月、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の見直しについて自民と合意文書を交わしたが、ほごにされた。馬場伸幸代表は10月31日放送のMBSの番組で「自民党さんは狡猾ですから、そんなに簡単に野党側の声を聞く政党ではない。聞いてる振りはするが」と話した。
国民民主党も、ガソリン税を軽減する「トリガー条項」の凍結解除について岸田政権下で3党協議し、予算案にも賛成したが、議論は頓挫した」
(ZAKZAK11月1日)
国民民主と政策協議も…自民に〝裏切り〟の過去 維新と文通費見直し合意も反故、馬場代表「自民は狡猾、聞いてる振りはする」(夕刊フジ) - Yahoo!ニュース

というわけで、ゲル内閣はカチカチ山状態なのですが、お分かりか。
予算案はケツが切られています。一般会計予算の政府予算案が仕上げる期限が12月25日までですから、それまでに「103万円の壁」「トリガー条項」などを来年の予算に反映させるなら、直ちにいまから予算の総組み換えが必要です。

「103万円の壁」「トリガー条項」とひとことで言っても、この壁を取り払えば、地方税と地方への交付金が減少しますから、これを別名目で補填しないと、地方自治体の運営に大きな問題が出ます。
また同時に各種法令や省令などの見直しも必要で、法改正を含む作業負担は非常に大きいのです。
元財務官僚だった玉木氏はわかっていて言っているのでしょうが、壁の撤廃を求めるならば、国民民主は本来政府に入って内部でこの仕事にかかわるのが筋なのです。

だから、ゲル氏がしがみつかなければ、なんとかなったのです。
それを卑小な権力欲と見栄でオジャンにしてしまいました。

 

2024年11月11日 (月)

トリプルレッド完成、さてなにをするトランプ

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まずは、恒例の米大統領選の最終状況からいきます。
やれ今週一敗かかる「歴史的大接戦だ」などと言っていましたが、瞬殺の勢いで勝利が確定してしまい、これではてぐすね引いて暴れようとしていた両陣営のモッブたちも気抜けしたことでしょう。
今のところ、私が懸念したシビルウォーになる気配もなく、米国は平穏なようでなによりです。

最後まで残っていたネバダがレッドになり、続いて最後まで決まらなかったアリゾナもレッドステートの仲間入りをしました。
これでいわゆるスイングステートはすべてトランプが征したことになります。

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開票速報 アメリカ大統領選挙2024 激戦州ペンシルベニア ウィスコンシン ミシガンの行方は? 議会上下両院は?|NHK

上院はすでに共和党が征していましたが、下院もわずかあと6議席で過半数を征するところまで迫っています。
よほどの番狂わせがない限り、上下両院共にレッドとなり、民主党からみればあってはならない大統領・上院・下両院のトリプルレッド、おまけに保守6人、リベラル3人という司法保守化も完成してしまいました。
つまり行政府・立法府・司法府の三権を共和党が押さえたことになります。
願わくば、この力を悪しきことに使わないでいただきたいものです。

ここまで負けたカマラは修道院に逃げ込むしかないですね。悪い性格も少しはよくなるとよいのですが。

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NHK

トランプはすでにこの4年間で党内の9割を固めきっており、旧共和党主流派の頭目チェイニー親子はカマラに投票を呼びかけていました。
彼らは第1次政権時に、トランプの手足を縛るための人事を強要し、そのためにトランプが自由に外交・内政に取り組めたのは後半からでした。
今の共和党は、冷戦期のレーガン時代のそれに近くになっており、トランプは政治の師匠と仰ぐレーガンを目指す基盤はできています。
唯一異なるのは、2大政党のカウンターパートの民主党が壊れてしまっていることで、そうそう簡単にこの大敗北から立ち直ることはできないでしょう。

さて、トランプの二度目の外交政策はどうなるでしょうか。
いろいろ報じられてきていますが、トランプはファシストだぁ、ヒトラーがやっているとガナって大ハズシした連中の言うことは、とりあえず無視しましょう。元都知事だったMさん、経済評論家のJさん、とうぶんこの問題ではお静かに。
テレ朝のトランプ特集はタイトルからして「トランプ氏圧勝に上院奪還】分断と憎悪が激化“米国至上で警戒感”政権の不確実性は」ですもんね。峯村さんも出ているようですが、なんつうタイトルの着け方だ。もう煽るのはいいかげんにしてほしいもんです。うんざりです。

病的反トランプで日刊ゲンダイ化していた大部分の日米メディアの皆さんも、トランプ2.0に真摯に向き合うのですね。

トランプはあのとおり支持者集会ではサービス精神でいろいろ言いますから、その片言隻句を切り取ればどうにでも取れます。
ですからトランプがなにを目指すかは、彼が作ったシンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」が代弁してくれています。

AFPIのフレッド・フライツ氏とスティーブ・イェーツ氏は来日して講演しています。
日本戦略研究フォーラム(JFSS)

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フレッド・フライツ米国第一政策研究所(AFPI)副所長(左)とスティーブ・イェーツAFPI上級研究員
<インタビュー>「トランプ氏、ホワイトハウスに復帰すれば金正恩-プーチン切り離すはず」(2) | Joongang Ilbo | 中央日報

もっとも同盟諸国が神経質になっているトランプの「アメリカ・ファースト」路線(America First approach)ですが、これについて両氏は明瞭に勘違いを修正しています。

「「アメリカ第一のアプローチ」(America First approach)について
トランプ氏が現役時代からよく口にしている「アメリカ第一のアプローチ」(America First approach)は、専門家と称する人達がよく言う「アメリカ孤立主義」ではなく、海外への派兵や外国との条約交渉といった対外的な場面で常にアメリカ国民の利益を第一に考えるということであり、当然同盟国との関係は重視される。
ただし、同盟関係を維持するためには同盟国が「公正な負担」に応じるかが重要であるとし、特に北大西洋条約機構(NATO)との関係性を重視していることから、ドイツとフランスに対する懸念を示している」
日本戦略研究フォーラム(JFSS)
これでわかるのは、トランプは俗にいわれるようにモンロー主義に回帰する気はないということです。
モンロー主義は1840年代に植民が西海岸に達したことから生まれた外交方針で、今のように米国が世界のヘゲモニック・ステート(覇権国)となった現在とは置かれた立場がまったく違っています。
モンロー主義は当時まだ列強に伍せなかい国力しか持てなかったために、ヨーロッパには干渉しないが、同時に米大陸全域に対するヨーロッパ諸国の干渉にも反対する、というものですが、いまは相互に緊密な経済外交関係によって結ばれているために、もう一回繰りかえしたくても繰り返せません。
トランプが言うことは、米国は偉大であるのでこの世界に対する責任は果たす用意がある、しかし自らの国を守る気がない国は知らんよ、勝手にさらせ、というものです。
これは両氏によれば、特に独仏に対して向けられているもののようです。
もちろん、日本が中国へ肩入れするような裏切りを働けば別ですが、「アメリカ・ファースト」は主にフランスの手前勝手なゴーリズム(ドゴール主義)、ドイツのロシアへの融和主義による軍縮などに非難の矛先が向いています。

エドワード・ルトワックはこのように述べていました。

「この数十年間、専門家と称する人たちや、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で講演するような経済人や政治家は、世界で「力の拡散」が進んでいると唱えてきた。日米欧などの主要国で構成されるG7が弱体化し、代わりに中国やロシア、トルコなどの新興国を含む20カ国・地域によるG20の時代が到来している、という主張だ。
G7の一員である米英独などを主体とする北大西洋条約機構(NATO)も、ドイツなどが国防への投資を怠ってきたことから弱体化が指摘されてきた。ロシアは、そうした現状を見越して侵攻に踏み切ったわけだが、その瞬間からNATOは逆に極めて強力な組織に変貌を遂げた。
ショルツ独首相は国防費を国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げると表明したほか、加盟国のポーランドやデンマークなどが今月に入って国防費の大幅増額を決めた。NATOは目を覚ましたのだ」
(ルトワック『ウクライナが呼んだNATOの覚醒』2022年3月18日)
【世界を解く-E・ルトワック】ウクライナが呼んだG7の「覚醒」 - 産経ニュース (sankei.com)

この怠慢が、プーチンのウクライナ侵攻を招いたのです。
両氏は、はっきりと敵は中国だと名指ししています。
「「バイデン政権は外交の優先順位を間違って設定した。米国の主要国家の安保の脅威は『気候変動』ではない。『中国』にある。中国に気候特使を送るのではなく南シナ海や核問題関連の議論をしなければいけない。トランプ氏が帰ってくればつまらない(frivolous)イシューに力を注がないはずだ。
また、日韓両国との同盟関係を軽視するのではないかとの報道があるが、それは現実的でない。
ディール・メーカー(交渉人)としてのトランプ氏の発言には誤解されやすい側面もあるが、反トランプ派による偏向報道、偽情報に惑わされず、日米同盟強化を重視しているトランプ氏の本心をしっかり見極める必要があると言う」
(中央日報7月9日)
<インタビュー>「トランプ氏、ホワイトハウスに復帰すれば金正恩-プーチン切り離すはず」(2) | Joongang Ilbo | 中央日報

国防長官にポンペオが有力候補となったという情報がありましたが(トランプは否定しています)、誰がなるにせよ対中政策は新たな段階を迎えることでしょう。
トランプの帰還は、中国にとっては間違いなく悪夢であることだけは確かです。

個別の各論については次回に回します。

 

 

 

2024年11月10日 (日)

日曜写真館 コスモスの花はあれども冬の空

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コスモスに大空の青さ暮れ初む 尾崎放哉 

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コスモスに風ある日かな咲き殖ゆる 杉田久女

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コスモスの君と言はれし人思ふ 山口青邨

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コスモスの夕やさしくものがたり 松本たかし

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コスモスの花が頭の中いつぱい 右城暮石

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コスモスの葉のやさしさに気付きをり 後藤比奈夫

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コスモスの花ゆれて来て唇に 星野立子

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コスモスの天にのぼらん如く揉む 山口青邨

 

2024年11月 9日 (土)

なぜかくもハリスは惨敗したのか

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11月8日 15時21分現在、 開票が遅れていたネバダがレッドステートになりました。
この州は2回続けて民主党の牙城でしたので、民主党のショックは大きいはずです。
ミシガンもトランプで決まり、あとの注目はアリゾナですが、トランプが優勢です。
おそらくスイングステートは、全部トランプが征することになりそうです。
11月9日午前2時時点で、トランプ301、ハリス226となりました。
総得票数も、9日正午現在、トランプが約7414万票、ハリス氏が約7023万票で、トランプは約391万票の差を付けています。
総得票数で共和党が勝利するのは20年ぶりだとか。

また議会選挙はすでに上院を52議席と過半数を握り、下院も210議席で過半数まであと8議席に迫っています。
これで大統領・上院・下院のトリプルレッドにが完成するすることがほぼ確実な情勢です。
共和党の歴史的大勝利、民主党の歴史的大敗北となりました。

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ハリス副大統領が敗北宣言 米大統領選から一夜明け - YouTube

さて、惨敗した民主党では、お定まりの敗戦責任が噴出し始めています。
特に民主党左派の怒りは大きいようで、左派の重鎮バーニー・サンダースはこう言っています。


「ハリスのオフィスは、副大統領になって以来、91.5%という驚異的な離職率を記録していることが、政府の監視組織であるオープン・ザ・ブックス(OTB)の調査で月曜日に明らかになりました。ハリス氏が2021年に就任した際に採用された47人のスタッフのうち、2024年3月時点で彼女の雇用に残っているのは4人だけだったと報じられています」
(フェデラリスト2024年7月23日)
カマラのスタッフの92%は、副大統領としての最初の3年間で退職しました

「この情報筋によると、オバマ氏はハリス氏と定期的にやり取りしており、20年来の知り合いであるハリス氏の相談役を務めているという。
バイデン大統領が21日に再選不出馬を発表した後、オバマ氏はすぐにはハリス氏への支持を表明しなかった。オバマ氏は代議員が大統領候補者を選ぶという正当なプロセスを踏むことが民主党にとって重要との考えで、ハリス氏が印象的な滑り出しを見せたとの認識を示しているという」
(CNN2024年7月26日)
オバマ元米大統領、近くハリス氏支持を表明へ 情報筋 - CNN.co.jp

「そして24年大統領選挙では、伝統的には民主党を支持していたものの、民主党によって声を汲み上げてもらえなくなったマイノリティの人たちの声を吸い上げたことが、トランプに勝利をもたらしたのではないだろうか。トランプが意識的にそのような行動をとっていたのかはわからない。
だが、トランプがそのような層にウイングを広げることが可能になった背景には、彼らの民主党に対する不満があるのは間違いないだろう。 伝統的には民主党が労働者の政党で共和党が資産家の政党というイメージがあったが、トランプ以降は、民主党が金持ちの政党で共和党が労働者の政党というイメージが生れつつある」
(渡辺前掲)

2024年11月 8日 (金)

王の帰還

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きのうの日米メディアの大統領選特番はしーんとして声なくお通夜状態だったそうで、ハリスが勝利したら割るはずだったくす玉も倉庫行き、ハリスの一代記もお蔵入り、ハリスの等身大パネルもごみ箱行き。
まぁ、ほんとうにメディアの予想ってこんなもんだ、というのがお分かりになられたでしょうか。
ほぼすべてのメディアがハリス推しなあまり、トランプを悪魔化したあげく、バイアスが強すぎて見事にハズしました。

大学のセンセ方もこの調子です。
11月3日、つまり投票2日前にこんなことを言っています。

(明治大学・海野素央教授)
「ただ、この平均値を取った世論調査には、『トラファルガー』『ラスムセン』『インサイダーアドバンテージ』といったトランプさんの応援団の世論調査機関が入っていますから、常にトランプさんに有利な数字を出してきます。また、その3つの世論調査機関に加えて、『アトラス・インテル』という世論調査機関会社も、トランプさんに有利な数字を出してくるので、若干差し引いて見ることも大切だと思います」
【独自解説】「間接的な買収でみっともない」トランプ氏支持者の“お金バラマキ作戦”に批判殺到!大接戦のアメリカ大統領選、支持率の“からくり”とハリス氏に立ちはだかる壁(2024年11月3日掲載)|YTV NEWS NNN

この海野センセ、世論調査会社はみんなトランプ贔屓だからダメだと切り捨てています。
リアルポリティクスなんかが優勢と出しているのも無視なようです。
どうやら「ハリスになって欲しい」という主観が、いつのまにか「ハリスがトランプを打ち砕くであろう」に変わっちゃったんですが、それに気がつかないのです。

ハリスは候補者となるや第一声で「自分は検事だった。トランプのような(悪人を)よく知っている」というように、裁判沙汰をトランプ追及の一手とすると宣言しました。
しかし議会襲撃事件、機密文書持ち出し問題など、どれも無理筋の訴訟であり、議会襲撃事件に関してはトランプが直接指示した証拠はありません。
また、機密文書問題を訴追してみれば、それはオバマもバイデンも同じことをしていたことがバレました。
それは自宅に帰ってまで仕事をしていただけのことであり、まさに重箱の隅をほじくるような訴訟方法でした。

民主党は、裁判所、FBIまで使ってトランプを潰そうとしたわけです。

しかし結局、これらの訴訟に関しては、米国連邦最高裁は各州最高裁の判決を却下し、「大統領の免責」として却下していました。
ところが、スミス特別検察官は、一時不再理を無視して再告訴し、CNNなど民主党寄りのメディアはこれを疑惑は消えない、トランプは犯罪者だ、報じてきたわけです。
こういった米国のリベラルメディアだけを情報源とするわが国のメディアもベッタリこれに追随し、お声がかかる識者も民主党寄りばかりといった風景がこの4年間だったわけです。 

なぜ、ハリスにこんなに身贔屓となるのでしょうか。
いうまでもないことですが、それは彼らメディアとハリスの「意識高い系」的価値観がまったく一緒だからです。
つまり、ハリスが言っていることは、メディアがいつも説教を垂れていることとまったく同じ。
だから自分らの言っていることの全否定になりかねないトランプが大嫌いなのです。
したがって、今回のトランプの勝利は、あなた方リベラルの敗北なのです。

トランプの再登場は、宮家邦彦氏が少し前に言っていたように「徐々に理想主義に向かってきた米国政治への反発から生まれた暗黒面の登場」ではありません。
すごいね、これではまるでトランプはダスベーダーですが、「理想主義」ってひょっとしてBLMやLGBTQのことですか、宮家先生。
すいませんが、アレは社会病理的現象のひとつであって「理想」ではありません。

一方、「暗黒面」の実体とはなんなのでしょうか?
トランプが米国を分断したと、年がら年中言われて耳にタコが出来そうです。
とうとう米国では『シビルウォー』なんて映画までできて(映画自体は秀作ですが)、トランプに模した独裁者が最後撃ち殺されてしまいました。

トランプは「暗黒面」から出現した「独裁者」だというのが、リベラル筋の見方です。
私から見ればそれは逆です。
「暗黒面」とは、トランプがよからぬ企みをもって分断しようとしていることではなく、むしろ米国が分厚い中間層によって支えられてきた社会から、貧富の差の激しい社会へと変貌しつつあることにトランプが力を入れて是正したから、エスタブリッシュメントからは余計なことをしやがって、と見えるだけのことです。
トランプが米国を分断したのではなく、逆にすでに充分に深まっていた分断をトランプが転落する階層の側に立って戦ったからこのように批判されたのです。

では今回のハリスの敗因はなんでしょうか。もちろんメディアが言うように選挙運動期間が短かったからでも、マスクがカネをバラまいたからでもありません。
もっと本質的なことは、「民主党政治」あるいは「民主党的なるもの」に失望し、その延長を国民が望まなかったからです。
さもなくば、ここまでのトランプの雪崩のような圧勝はなかったでしょう。
あとは下院の議席数待ちですが、ここでも勝利すれば、国民はトランプにトリプルレッドの期待を寄せたことになります。
これを正当に評価しないで、グズグズと能書きを垂れているのは見苦しい。

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AP

たとえば常に激戦区のミシガン州はラストベルト(錆びた地帯)と言われたほど長い凋落が続いて、製造業の空洞化による賃金低下、雇用率の減少などに悩まされてきました。
結果、そこで働く労働者は中間階級から転落していきましたが、民主党系の全米自動車労組に代表されるような民主党系労組は、労働分配率にのみこだわるだけで、安易にレイオフを受け入れていってしまい、有効な救済策を持ちませんでした。
今回、この大労組は組合員の突き上げに合って、次々にハリス支持を取り下げたことがトランプの勝因に繋がっています

ひるがえって、民主党がこの4年間なにをしてきたでしょうか。
トランプの遺産を完全否定し、BLMやLGBTQといったキャンセルカルチャーに入れ揚げ、ポリコレで国民の言論を統制し、経済的には成長を否定するSDGsや化石燃料を推進した結果が、今です。
バイデンによって論功行賞で任命されたエマニュエル駐日大使など、LGBTQ法案を通すことに公然と圧力をかけましたが、常識ではありえない革命の輸出です。もうすぐクビですから、さよーならー。

トランプがさんざん非難され、連邦最高裁にまで行った、あの前回選挙後の議会襲撃事件において、どのような人たちが駆けつけたのか調査資料があります。
この支持者集会に集まった者たちの内訳は、シカゴ大学のロバート・ペイプ教授のグループが調査していますが、Qシャノンのような純正カルト や赤いサングラスをかけたミリシアは極少数で、大部分はフツーの市民でした。
奇しくもトランプ支持層のサンプル調査となっていますので、紹介しておきます。

●1月6日の議事堂乱入者たちの構成
● 職業  ・・・40%が中産階級。事業主、ホワイトカラー、医師、弁護士なども含む。無職は9%。
●平均年齢・・・40代、68%が35歳以上。
●地域  ・・・バイデン氏が勝った郡が過半数。トランプが票の60%以上を得た郡の住民は26%。
●過激派 ・・・白人至上主義団体に属するか支持する者は20名に止まる。

メディアはトランプの集会は白人至上主義者の集まりで、ハリス支持層はインテリ揃いだみたいな報じ方をしていますが、実態は4割が中産階級で、年齢は40代を中央値にした壮年層です。
そしてバイデンが勝ったブルースステートの人たちが過半数、という以外な数字も出てきています。
つまり、トランプ支持者はいわゆる「極右」でもなければ人種差別主義者でもない、ということです。
民主-共和の別なく、その上に君臨する民衆的パワー、泥臭くも踏まれても簡単にはくたばらない勢力、これがトランプが作り出したかった構図です。
不法移民が増えた結果、犯罪が増加し、治安が悪化する、街は混乱し、BLMは南軍の将軍像を破壊し、コロンブスも餌食となり、さらにはワシントンまで踏みにじり、いまや米国ではメリークリスマスとも言えない国になりつつあります。
ポリコレ、キャンセルカルチャー、LGBT、気候変動原理主義、不法移民野放し、こういったバイデンの失政への恐れこそが多くの米国人を「極右」トランプへと動かしたのです。

もはや戦いの軸は、「民主党対共和党」という従来の枠組みの外になってしまっています。
米国を再び偉大な国へという声は、自分たちの国を自分たちの手に取り戻したいという本源的感情と同義語なのです。
国民の基幹を成す中間階級の深刻な民主党リベラルへの鬱屈した怒りです。

彼らはその救済をトランプに求めたのです。
これに恐怖した民主党とリベラル司法は、弾劾訴追を繰り返しましたが、皮肉にも訴追すればするほど、リベラルメディアが叩けば叩くほど彼らのシンボルと化した「われらがトランプ」は元気になっていきました。

結局のところ気がついてみれば、スポットライトを浴び続けたのはトランプばかりと相なったのです。

その結果、共和党支持者の間ではいっそうカリスマ性が強くなり、「受難の王」の帰還を求める声はいっそう強くなってきています。
まことにトランプというキャラクターは、誰かも言っていましたが、一種のロックンローラーなのです。
下半身スキャンダルが出れば出たで、これが民主党候補なら生命取りでしょうが、ドナルド、よーやるじゃん、さすがだねというわけです。

共和党内にも反トランプ派はうじゃうじゃいます。
小さな政府を目指すティパーティ派ら共和党本流は、政府を財政規律で締め上げて、財政支出は最低限に、金融緩和は引き締めてという緊縮路線を目指していました。
トランプは、それと真逆な大型財政支出・大規模金融緩和といういわゆるリフレ政策を実行し、米国経済に空前の繁栄をもたらしました。
これは本来、共和党本流が嫌ったリベラル経済路線そのものです。
この辺が、リベラル派の経済政策を換骨奪胎した安倍氏にそっくりです。

また繁栄に取り残された中間層以下をケアする減税政策もまた、本来は民主党がせねばならないものだったはずでした。
トランプが民主党と一線を画するのは、それを税金の再分配で行うのではなく、むしろ減税によって経済全体を豊かにし企業を国内に呼び戻して働く場所を増やす、ということを通じて行ったことです。
そしてトランプのほうがエスニックに対するケアが厚かったので、いまやかつては民主党の票田だったエスニック層はトランプ支持に回っています。
結果、失業率はFRBが驚嘆するほど低下しました。
一方、民主党リベラルは、この低所得層へのケアを、失業手当のバラ撒きという再分配政策でしようとして、徒に財政赤字を積み増ししていきます。
経済全体を豊かにしないで再分配だけに頼ろうとすれば、国民はやがて自ら働かずに糧を得ることを当たり前に思い、根っこから腐ってきます。今の米国が陥っている強インフレもそうで、この原因はコロナ対策として過度にバラ撒かれた支援金が原因でした。

ことほど左様に、トランプは「受難の王の帰還」であり、民主党、共和党の枠を超えたうねりだったのです。
だから、私はくっきりと南部と北部が別れたかつての南北戦争のようなモデルは起きない思います。

 

 

2024年11月 7日 (木)

トランプ圧勝・ハリス惨敗、トリプルレッド成立か

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NHKニュース 速報・最新情報

さらに3時段階では292です。

20241107-030806

NHKニュース 速報

トランプの地滑り的圧勝です。
スイングステートの開票は全部終わっていませんが、これを書いている11月7日午前0時の時点では、ほぼすべてを押さえました。

20241107-001036

開票速報 アメリカ大統領選挙2024 激戦州ペンシルベニア ウィスコンシン ミシガンの行方は? 議会上下両院は?|NHK

決まっていないネバダ(選挙人6人)は過去2回は民主党でしたが、今回トランプが勝ちそうな気配です。

20241107-001639

NHKニュース 速報

アリゾナ(選挙人11人)は前回は民主党でした。

20241107-001840

NHKニュース 速報

大票田で(選挙人15人)のミシガンは前回は民主党でした。現時点では接戦ですが、ややトランプが押しています。
※5時半現在、トランプで確定しました。

20241107-002057

NHKニュース 速報

同時に行われた上下院選挙では上院は共和党が過半数を押さえ、下院も優勢です。

20241107-002628

開票速報 アメリカ大統領選挙2024 激戦州ペンシルベニア ウィスコンシン ミシガンの行方は? 議会上下両院は?|NHK

そして5時半現在の下院の議席数は200に達しました。ただし過半数に達するかは微妙です。

20241107-053057

開票速報 アメリカ大統領選挙2024 激戦州ペンシルベニア ウィスコンシン ミシガンの行方は? 議会上下両院は?|NHK

「共和は全議席が改選となる下院(定数435)でも開票序盤で民主から複数の議席を奪取。既に多数派の勢力を拡大する可能性がある。これまでは220対212で多数派を占めてきた。
共和党が勝利すれば政策の決定権を握り、トランプ氏の減税と移民制限の公約実現を後押しすることになる。
最終結果の判明は数日後になるとみられるが、上院の共和党はトランプ氏による保守派判事やその他の政府職員の任命の支援が可能となる。
共和党はミシガン州、モンタナ州、ペンシルベニア州、ネバダ州、ウィスコンシン州で民主党現職候補をリードしているため、上院での多数派をさらに拡大するチャンスがある。
ただ、大半の法案を可決するのに必要な60議席を確保する可能性は低いとみられる」
(ロイター11月6日)
米議会選、共和党が上院の過半数奪還 下院でも伸長 | Start Magazine

かくて長きに渡ってハリス優勢を伝えてきた、政敵のCNNまで「歴史的再選」と報じています。
さぞかし昨晩は不条理だぁと夜空に叫んだでありましょう。
オールドメディアは打ち揃って「大接戦」と報じるというミスリードしていました。
トランプ憎しが故に盲いたのです。
それとトランプの強靱極まる生命力を過小評価していました。

なお、トランプ批判と中絶問題だけでなんとかなると思っていたようなハリスは、会見を拒否して寝てしまいました。
なんの実績も政策もなく、「女性最初の大統領」一本でトランプという怪物に勝とうというのがムリなのです。

あえてそのCNNから。

20241107-002841

米大統領選 トランプ氏が勝利、ハリス氏を破り歴史的な再選 CNN予測 - CNN.co.jp

「(CNN) CNNの予測では、5日投開票の米大統領選は、共和党候補のトランプ前大統領が民主党候補のハリス副大統領を破り再選を決めた。トランプ氏は前回2020年の大統領選での敗北の後、再びホワイトハウスに返り咲いた。
トランプ氏は、連邦議会襲撃事件の4年後に再びホワイトハウスに戻ることになる。トランプ氏は当時、バイデン大統領に敗北した結果を受け入れず、権力を保持しようとした。
78歳のトランプ氏は再選を目指した選挙で敗北してから再び大統領選に勝利した米史上2番目の大統領経験者となる。連続でない2期を務めた最初の大統領はグロバー・クリーブランドだった」
(CNN11月6日)

とりあえず速報のみとします。

 

2024年11月 6日 (水)

米国よ、どうか「シビルウォー」にならんで下さい

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うちの国ならその日の内体制が判明しますが、なんと事物博大なお国のことよ。まだ決まりません。
どちらが勝っても不思議ではない情勢のようです。
完全に決まるのが来週11日頃でしょうか。
ロイターによれば、激戦州の開票方法についてはこのようになっているようです。

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アメリカ大統領選挙 命運握る激戦州 | 月刊JA

◎アリゾナ州
アリゾナ州では郵便投票が非常に盛んで、2020年の前回大統領選では有権者の90%近くが期日前に投票し、その大部分が郵便投票だった。アリゾナ州の選挙当局は郵便投票を受け取った時点で処理と集計を始めることができるが、結果は投票終了の1時間後まで公表できない。
選挙当日に投函された郵便投票は、投票所が閉まるまで処理できない。22年の選挙では、州最大のマリコパ郡の全投票数の5分の1が「遅い期日前投票」投票だった。
◎ジョージア州
ジョージア州では早期の期日前投票が盛んで、投票の65―70%が期日前投票所で実施されると当局は見込んでいる。投票のうち5%程度になる可能性がある不在者投票や郵便投票は、選挙当日の2週間前から署名の確認などの手続きをできるものの、それらの集計は投票日まで待たなければならない。
◎ミシガン州
ミシガン州では前回大統領選の後、投票所での期日前投票が導入され、人口が5000人を超える管轄区域では選挙8日前から郵便投票の処理と集計を開始することが認められるようになった。小規模な管轄区域では11月4日から可能となる。
当局はこれらの変更により、郵便投票を事前に処理できなかった前回大統領選よりも迅速に結果を報告できるようになることを期待している。(略)
それでも、ネバダ州の結果はすぐに出ないかもしれない。同州では郵便投票の人気が高まっており、遅く到着した郵便投票用紙を受け付ける唯一の激戦州となっている。
11月5日までの消印がある郵便投票でも、4日以内に到着すれば集計される。このように遅く届く郵便投票は民主党にとって有利な票なのが通例で、選挙日の後の集計でハリス氏の票が上積みされる可能性がある。
◎ノースカロライナ州
選挙当局は、選挙日に先立って郵便投票の処理とスキャンを始める。投票終了後、最初に報告される結果は郵便投票と期日前投票が中心となる可能性が高い。選挙当日の投票は夜通しで集計、報告され、深夜までに全体の結果が出る見込みだ。世論調査の結果が示唆するように選挙が接戦になれば、ノースカロライナ州の結果は1週間以上にわたって明確にならないかもしれない。11月5日に到着する不在者投票や、外国と軍の有権者からの投票用紙は、選挙後10日間の開票期間中に集計される。前回大統領選で各メディアが同州でのトランプ氏勝利を報じたのは、選挙の10日後の11月13日だった。
◎ペンシルベニア州
おそらく最も重要な激戦州のペンシルベニア州は、前回大統領選で選挙日の4日後になるまで勝者がはっきりしなかった。当局が郵便投票用紙の膨大な残りを精査したためだ。同州は、選挙当日の米東部時間午前7時まで作業員が郵便投票用紙を処理したり、集計したりすることを許していない数少ない州の1つだ。
民主党支持者の方が共和党支持者よりも郵便投票をしているため、選挙当日の直接投票に基づく初期の結果はおそらくトランプ氏が優勢となるだろう。だが郵便投票が集計されるのに伴い、トランプ氏のリードは縮まる可能性が高い。
前回大統領選でこのパターンが見られ、トランプ氏は不正を主張した。陰謀説が浮上するのを阻止するために今年は、大部分の郡が選挙日の夜中に集計が終わっていない郵便投票の総数を発表することを義務づけた新法が施行された。
◎ウィスコンシン州
ペンシルベニア州と同様、ウィスコンシン州も郵便投票の処理や集計を選挙日の朝まで認めていない数少ない州の1つだ。このため、郵便投票の結果の報告が遅れる可能性がある。
さらに州内の主要都市の多くは、郵便投票用紙を集中管理した場所へ運んで処理、集計をしているので、投票終了後の早朝に大量の票が一斉に報告されることになる。
前回大統領選では州最大の都市ミルウォーキーで米中西部時間午前3時半(0830GMT)ごろに17万票近い不在者投票の結果を報告後、バイデン氏の票数が急増してトランプ氏を逆転した。
情報BOX:米大統領選、当日に勝者判明しない可能性も 激戦州の独自ルールで | ロイター

偶然にも同じ日に、うちの国は首班指名です。
ゲル氏にとってはハリスなら福、トランプなら凶なことは間違いありません。
トランプにあのネト~という調子でしゃべったら、すぐに席を立たれそう。
見たい気もしますが、どちらが当選するかはまったくわかりません。

とまれシビルウォーにならねばよいのですが。
私、観ちゃいました、映画のほうの『シビルウォー』。
ジビルウォーって内戦のことです。定冠詞がつけば南北戦争のことです。
いやぁ、すごく面白かった。B級かと思ったら大間違い、よくぞこの時期に作ったという映画です。

最後、どう観てもトランプという大統領が撃ち殺されちゃうんですが、いいのかな、これ。
赤いサングラスの男はリアルに恐怖でした。久しぶりにあんな気持ち悪い男を見た。
この赤サン男の怖さは、正規軍ではなく、かといって州兵もない、「武装したならず者」だからです。
正規に武装した者以外が自動小銃を持ち、一般人を殺戮することができ、死体の山を築ける。
それが価値観とは別に、米国のリアルな一面なのです。

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トラウマ級の恐怖をもたらす“赤サングラス男”のシーンはどのように生まれた?『シビル・ウォー アメリカ最後の日』舞台裏に迫るメイキング映像

この映画で命乞いをするジャーナリストが助命嘆願で、「私たちもアメリカンだ」と言うことに答えて赤サン男が言ったことは
「ほー、どのアメリカンだ、南米か中米か」
この台詞だけで、この赤いサングラスの男がどちらの側かわかります。

この赤サンは「民兵」(ミリシア)です。
日本にはこういう武装組織がないので、押さえておきます。
もちろん正規軍ではなく、予備役ですらなく民間人が武装した組織です。

「本来的には、平時においてその他の職業についている民間人が、緊急的な軍事要員として短期的な軍事訓練を受けた上で戦時において召集されたもので、正規の戦力である陸海空の軍隊とは区別されて考えられる。組織形態は多彩で、正規軍の一部であったり、戦争が勃発してから緊急的に編成されるものであったりと一概には言えない。ただし傾向としては、訓練期間は比較的短期間で、投入される費用も限定的であることなどがあげられる」
民兵 - Wikipedia

トランプが復活したら、BLMやアンティファの過激派が黙っていないでしょう。
今回もハリス陣営は最終局面で遠慮会釈なく、トランプをファシストと断じていました。
それにしても芸能人を沢山だして投票を呼びかけるなんて情けない。
現職副大統領なのですから、実績を語りなさい。(といってもなにもありませんけど)

一方トランプは、ハリスをファーレフト(極左)と呼びすてて憚りません。
ファシストと極左、レッテル貼りといえばそれまでですが、こういう非妥協的な決めつけはたいへんに危険です。

それは双方の陣営が共に武装集団を持っているからです。
わが国ではせいぜい口の言い合いですが、かの国では銃弾が飛び交います。
いずれにしても前回のような負けたからといって、狂騒するのは止めて下さい。
今回はただの議事堂占拠ていどでは終わらず、本当のシビルウォー、すなわち第2次南北戦争にまで発展しかねませんからね。
米国という国はつくづく相いれない勢力のきわどい均衡でなりたっている国なようです。

ま、不吉なことを考えないで、すんなり決まることを祈ります。

 

 

2024年11月 5日 (火)

昭和古老の聞き語り

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今日は大統領選挙当日ですが、結果はたぶん4、5日後です。

さて、きのうの続きを少し。
昔々、今のお若い人は知らないかもしれませんが、かつて大政党だった野党に社会党という政党があったと思って下さい。
「昔陸軍、今総評」と言われた労組連合を後ろ楯にして大いばりのやりたい放題。
社会党はなんと139議席もとっていたのです。今の立憲くらいのサイズの野党第1党です。

そして1993年のこと、時の選挙で宮沢内閣が大敗し、自民党で幹事長までやった小澤という妖怪が党を寝返って新党をつくります。
というか、竹下派から追い出されたんですがね。
この時、若きゲル氏も一緒に自民に後ろ足で砂をかけておん出ています。

そしてここに、反自民政権の初号機が出来上がります。
これが共産党以外の8党派(!)による細川内閣で、自民は始めて野党に転がり落ちることになるのです。
中曽根康弘氏はこう言っています。

「そして小沢君は、ある程度の数が離脱すれば自民党より大きくなると算段して、一つの賭けに出たんですね。もう一つ、かれには金丸側近として力を持っていた時の過去を拭わないといけないという至上命令もありました。そこで、局面を転換して、金丸君の側近としての被告席から政界浄化の原告席に回ろうとしたわけで、それは一応、成功した。守旧派と革新・改革派の対決といった言葉の戦術をうまく弄んで成功した。そういう二つの要素があったと思います」
(中曽根康弘『天地友情 五十年の戦後政治を語る』)

細川政権は船頭多くして船山に登るという諺を絵で描いたようなガラクタでした。なにせ決まらない。
、小澤の持論であった2大政党制を目指した小選挙区制度はこの時に決まります。
ちなみに玉木氏は、当時財務省に入省して、米国留学に行くころでしたから、横目でこの騒動を見ていたはずです。
玉木雄一郎 - Wikipedia

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NHK

連立与党内の路線対立は収まらず、「もう少し踏ん張れば自民党は崩壊していたのに」という声もありながら、現実には政権運営は完全に行き詰っていました。
政治改革でひと山超えた後は、連立政権はもはや統一政権を維持できる求心力はなく、8党派が各党の生き残りと将来の政界再編をにらんだ主導権争いに狂奔するようになります。

「細川内閣成立後、連立を構成する政党の意見をどのように調整し決定するかが政治機構上の重要な問題となった。細川政権下で「与党代表者会議」が設けられ、与党5党代表幹事-書記長クラスで構成した。政治改革法案の内容の調整や増減税の方針を始め、重要な政策決定、さらに、予算編成の時期など重要な政治日程を協議決定し、閣議の上から政治全体を抑えているようにみえ、与党内の不満や分裂を招いた。
与党内では、選挙制度改革や消費税問題などで社会党と小沢が対立を深め、細川が無断で「国民福祉税」の導入を発表するなど混迷を極めた。1994年(平成6年)4月に細川内閣は総辞職に追い込まれる」
非自民・非共産連立政権 - Wikipedia

もはや方針で対立するより前に、お前のツラつき目つきが気に食わないという空気であったようです。
小澤は社会党が未熟で政権運営なんかできなかったからだと言い、村山は小澤が独裁制を敷いたからだと言うのですから、まぁまぁ、お平らにお平らに。

小沢一郎週刊エコノミストのインタビューで細川政権が短命に終わった理由を質問された際「素人が政権を取ったのだからしょうがない。イギリス議会制民主主義だって定着するまで時間がかかっている」と答えている
社会党委員長だった村山富市は、小沢との対立が、細川内閣が短命に終わった一因だと証言していた。村山富市によると、小沢は何か問題が起きると「社会党が足を引っ張った」と批判することが多かった。「七党一会派が政権を構成しているのだから政権運営にはかなり神経を使わなければならないのに、それがうまくできなかったことが大きい。だから細川さんは早く辞めざるを得なかったんだ」
細川内閣 - Wikipedia

ね、わかりましたか、政策も方針も政治手法も違う者同士の「反自民連立」なんぞ、たちまち内部対立が激化して自滅するのです。
この話にはまだ続きがあります。この連立政権の内ゲバにつけ込んで政権奪還を図ろうとしたのが、自民党の腹黒親父たちでした。

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小沢一郎氏が明かす「禁断の自社連立」「村山内閣」舞台裏|NEWSポストセブン

彼ら腹黒タヌキたちは、村山社会党委員長に取り入って、あんたを首相にしてやるから野党連立抜けて、オレらと大連立するべぇと誘ったのです。

「亀井静香は「自社さ政権は、最大野党だった自民党が、連立を離脱した社会党と組むウルトラCを考えた結果だった。自民党が政権復帰するために使える手をなんでも使うという執念から生まれたのだ。だからこの政権は、村山首相以外では誕生し得なかった」としている」
自社さ連立政権 - Wikipedia

かつての仇敵だった(といっても、いわゆる「55年体制」で裏では馴れあっていたのですが)社会党と自民党をくっつけようというのですから、天才的腹黒さです。
で、どうなったかといえば想像どおり、就任直後起きた阪神淡路大震災で、救援を待つ市民に違憲の自衛隊出動はさせんとズルズル決断を引き延ばして被害を大きくしてしまったり、後にそれを批判されると、「わしゃこんなこと始めてだったんじゃぁ」とペショペショ泣くは、G7に出せば腹を壊して役に立たないのですから、どうしようもありません。

結局、社会党は護憲反安保を捨てたのかと支持者に見放されて、バチが当たったのか解体。
かつて大政党を誇った社会党の末裔は、いまや首の皮一枚で政党要件を保てたと欣喜雀躍するような個人商店となってしまいました。
というように、仮に首相をちらつかされても無原則な連立なんかしてはいけません、という古の故事でした。
拳拳服膺(けんけんふくよう)するように。

 

 

2024年11月 4日 (月)

国民民主よ、「狡猾」であれ

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国民民主に対して風当たりが強いようです。
曰く「裏切られた」「自民党に味方するのか」ウンヌンカンカン、まぁいつものヤツです。
たとえば尾中香尚里氏という毎日新聞出身のジャーナリストは、こう書いています。

この尾中という人は、国会の首相指名で国民民主がどちらにも入れず自党の党首に投票するというのに「呆れた」と言ってこう書いています。

「あきれてものも言えない。10月29日公開の記事(「石破首相」を選んでも地獄、「野田首相」を選んでも地獄…国民民主・玉木代表がこれからたどる"いばらの道")の中でも指摘したが、決選投票の候補者は、あくまで最初の投票で誰も過半数に達しなかった場合の、上位2人だけだ。「石破vs野田」の構図になった場合、「玉木」と書いた票は全て無効票になる」
「手取りを増やすために石破首相を支持する」と言えばいいのに…石破政権にこっそり手を貸す国民民主の狡猾さ(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース

このひとはそうとうに国民民主が嫌いと見えてこうも書いています。

「28日のTBS番組で玉木氏が「決選投票でも玉木」と発言した時は、テレビ出演で舞い上がって思わず軽口を叩いてしまったのかもしれないと考え「発言を撤回したほうがいい」と指摘したのだが、まさか本当に党の方針にするとは思わなかった。
玉木氏の言動の軽さは今に始まったことではないが、まさかここまでとは 」
プレジデントオンライン

ほーそうですか、自党に投票するのが「そんなに言動が軽い」ことだったとはしらなんだ。
自分の党の党首に入れることについては、榛葉(しんば)幹事長がこう冷静に答えています。

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【LIVE配信】国民民主党・榛葉幹事長会見 2024年11月1日(金)13時30分(予定)

出席していた産経記者による要約。旧毎日の尾中氏のような絡む奴が出たようです。

「このフリーの記者は、榛葉氏に対し、決選投票で玉木氏に投票することは、野田氏の得票が伸びず、結果として石破茂首相の続投を許すとして、「石破政権を延命させることに等しい。『野田(佳彦)』と書いて政権交代を果たさないのか。国民はだまされた」などと持論を展開。
これに対し、榛葉氏は参院側は与党が過半数を占めていることを挙げ、「だましていない。ずるがしこい与党なら野田氏に首相をやらせて、法案を1本も通さない。やっぱり野田政権ダメじゃないか、また自民党にかえって安定政権だ」などと語った」
(産経11月1日)
国民・榛葉氏会見が荒れる 持論唱え続けるフリーにベテラン記者が苦言、会見で言い合いに - 産経ニュース

この発言に対して榛葉氏はリアルにこのように返しています。

「もしも衆院が野田氏を首班に指名し、野田政権が誕生したとしても、参議院側では(現在の)与党が過半数を持っている」としたうえで、「野田さんに総理やらせて(法案は)1本も通んないよ」 
(榛葉幹事長記者会見)

わ、はは、そりゃそうだ、一本の法案も通らない内閣に投票する者はいませんがな。
中学生の公民で習いませんでしたか、国会は法案を作る立法府で、政府の法案を否決できるんですよ。
おや、知っていた、失礼。
では、野田氏が首班指名受けて野党連合政権をつくったらどうなります。

まず、野党連合政権ができるかどうかですが、そもそも財政・金融政策で180度違う国民民主が入閣したいわけがないので、拒否されているのが今の状況です。
入閣に色気がないという政党は世の中にあるもんか、閣僚ポストをちらつかせればゼッタイに落ちる、とかつて首相をしたことがあるだけに野田さんは確信していたはずです。
玉木さんに経産相くらいはオファーされたかもね

ところがあっさりと玉木さんから「ポストより政策」と一蹴されてしまったというお粗末。
そもそも財政・金融政策で180度違う国民民主が入閣したいわけがないのです。
というわけで、いままでの政界の常識ではありえない「筋を通す野党」というものが誕生したのです。

この30年前のスッタモンダの連立劇を見てもわかるように、ミラクルが起きてこの国民民主と維新の2党が入閣したとしても、野田内閣はなにも決められない内閣になるのは目に見えています。
だって仮に首相が持論の増税法案を出したとしたら、国民民主と維新が反対して閣内不一致。
そこを強権で提出できたとしても(閣内不一致だとむりですが)、国会の中で大きな勢力を占める自民公明が反対し、そこに2党が造反すれば否決です。
思えば、細川連立政権が潰れたきっかけは、国民福祉税という増税を勝手にひとりで決めたことが原因でした。

そこをなんとか野田氏が強権で押し通したとしても、今度は自公が過半数を押さえる参院で否決ですから、榛葉さんがいうように「法案は一本も通らない」のです。

さて、ここで出てくる「ミラクル」とはなんでしょうか。
これこそが「反自民」です。もはやわが国では、教条の域にまで成長してしまったイデオロギーですね。
「反自民」は特効薬、万能接着剤、どんなに政党間で政策が違おうと、互いに水と油で憎み合っていようと大丈夫。
だって「反自民」で「政権交代」なんだもん、というわけのようです。
そんなことばかり追及しているものだから政策研究がおろそかになって、自分が政権をとって本当に実現したい政策がなくなってしまいました。年中、モリカケサクラ裏ガネと週刊誌ネタだけが頼りなんですから、バカになるはずです。

それでいて「政権交代」ですから、国民をバカにしているんですね。

もうそうとうに国民から見透かされていますから、立憲は比例でも小選挙区でも得票数を伸ばせませんでした。
立憲は+0.64ですから微増にすぎません。
石破自民が-6.77という大コケを演じたので議席が水ぶくれしただけです。

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自公とも最少、立憲は横ばい 衆院選比例票:朝日新聞デジタル

今回で改めてハッキリしたように、立憲は自民の敵失だけでしか伸びられない「反自民」だけのカラッポの政党なのです。
こういう「反自民」ドグマから自由になった「政策を持った野党」、これこそ私がかねてから期待していたものです。
玉木さん、大いに「狡猾」にやって下さい。

                  ~~~~~

いよいよ明日に迫った大統領選ですが、データーだけアップしておきます。
もっとも中立的な米世論調査会社 Real Clear Politics (RCP)の全国平均のデータからみていきます。
RealClearPolitics ポッドキャスト ポッドキャスト シリーズ - Apple Podcast

全国の支持率推移です。全国支持率は一種の固定票ですので、勝敗に影響ないとはいえ、いままでハリスが全国支持率では優勢でした。
しかしこの10月に入ってからは、トランプが僅差ですが逆転したようです。

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最終回 クライマックスを迎え最終決戦へ!|SBI証券 投資情報メディア

続いて、激戦区(スイングステート)の支持率推移です。
激戦州は、ウィスコンシン州・ジョージア州・アリゾナ州・ネバダ州・ミシガン州・ペンシルベニア州・ノースカロライナ州の7つの州です。
10月19日以降からトランプが優勢に転じ、10月28日時点でもトランプ氏が7州とも優勢となっています。

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激戦州のウィスコンシン州の支持率推移です。トランプがわずかに優勢です。

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Real Clear Politics

続いて同じくペンシルベニア州ですが、ここもトランプが優勢です。

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Real Clear Politics

いわゆるラストベルトと呼ばれるミシガン州です。

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Real Clear Politics

参考までに賭け率の推移です。これは圧倒的です。

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Real Clear Politics

 

2024年11月 3日 (日)

日曜写真館 立ち枯れてこの世の曙光抱きしめぬ 

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世中に落そゝくれた熟柿かな 梢風尼

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別るゝや柿喰ひながら坂の上 惟然

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柿の木にもみぢせよとや村雀 魯九

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天然をたもつばかりぞ柿のへた 寥松

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柿むくに心の長いをとこかな 寥松

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日は過る梢の柿と見あひつゝ 夏目成美 

※タイトルの句は勝谷誠彦氏のものです。

 

 

 

2024年11月 2日 (土)

とうとう北朝鮮、ICBMを完成

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やれやれ西側が手をこまねいているうちに、とうとう北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させてしまいました。
北が乾坤一擲とばかりに打ち上げました。

「北朝鮮の国営メディアは31日キム総書記は「核戦力を強化する路線を決して変えることはない」と主張し、核・ミサイル開発を推し進めていく姿勢を強調しました。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は31日正午すぎ、「キム・ジョンウン総書記の立ち会いのもと、きょう午前、ICBM=大陸間弾道ミサイルを発射した」と伝えました。この中で「今回の発射実験は、戦略ミサイル能力の記録を更新し、世界最強の威力を持つわが国の戦略的抑止力の現代性と信頼性を誇示した」としています。
キム総書記は「この発射は、最近になって意図的にわが国の安全を脅かす敵たちに、われわれの意志を知らせる適切な軍事活動だ」と主張しました。その上で「わが国の戦略攻撃力を絶えず高度化していく過程で必要不可欠な工程だ。核戦力を強化する路線を決して変えることはない」として、核・ミサイル開発を推し進めていく姿勢を強調しました」
(NHK10月31日)
【詳細】北朝鮮がミサイル発射 朝鮮中央通信「金正恩総書記立ち会い ICBMを発射」と伝える | NHK | 北朝鮮 ミサイル 

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NHK

防衛省によれば、10月31日午前7時11分ごろ、北朝鮮の首都・ピョンヤン近郊から1発のICBM級のミサイルが北東の方向にロフテッド軌道で発射され、午前8時37分ごろ、北海道の奥尻島の西およそ200キロの日本のEEZ=排他的経済水域の外側の日本海に落下しました。
ロフテッド軌道とは、通常より高い角度で高高度に打ち上げ、飛距離を押さえる方式ですから、おそらく通常軌道で発射すれば優に北米を狙える能力をもったということです。

今回の弾頭ミサイルについて伊藤元海将はこう見立てています。

「海上自衛隊の元海将で金沢工業大学虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授は、今回のミサイルの最高高度がこれまでで最も高く、飛行時間も最も長くなったことについて「ミサイルの1段目の推進力はある意味確立されているので変わっていないと思うが、大気圏を脱出し宇宙空間に入ったあとに推進力を加える2段目、3段目に新しい技術が加えられた可能性がある。関係を深めているロシアからの技術が入ってきている可能性があり、今回の発射はそれを試すねらいもあったと考えられる」と指摘しています」
(NHK前掲)

ふー、やはりロシアの技術が入っていますか。
この間、北はロシアベッタリで大量の砲弾、弾道ミサイル、戦闘車両を送り、そしてとうとう生身の兵隊まで1万数千人供与していますから、見返りはなにかと思ってはいたのです。
やはり核がらみでしたか。

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金正恩総書記がボストーチヌイ宇宙発射場でプーチン大統領と対面 | 朝鮮新報

ところで2023年9月、正恩は訪露先の会談場にあえてウラジオストークではなく、そこから約1000㎞離れたアムール州ボストチヌイ宇宙基地で首脳会談を行いました。
この随行団には、閣僚級の経済関係、軍事関係だけではなく、趙春龍(チョ・チュンヨン)党軍需工業部部長、朴泰成(パク・テソン )党軍需工業部部長が含まれていました。
チョは軍需工業部を担当する政治局候補委員で、国防委員。
おそらく戦略巡航ミサイル、無人攻撃機、弾道ミサイルの責任者ではないかと目されています。

パクはこの随行団でもっとも厳しい状況に置かれている人物で、7人しかいない党書記で国家宇宙開発局の担当にして弾道ミサイルと衛星の責任者です。
よく言えば花形ポジション、はっきり言えば剣の上の綱渡り。

しかし、この男は兵器開発5年計画の最重要目標であるはずの軍事偵察衛星の発射に数回失敗して、正恩直々に「責任者らは無責任である」と辛辣に批判されました。
この5月には4回目の軍事偵察衛星の打ち上げに失敗しています。

これ以上失敗すると失脚の憂き目に合うはずで、なにがなんでもロシアから宇宙技術を引き出さねば、炭坑送りとなり家族揃ってモッコを担がねばならない立場でした。
このボストチヌイ宇宙基地会談で正恩がプーチンに砲弾などと引き換えにねだったのは、スホーイの新型戦闘機よりも、失敗を続けていた弾道ミサイル技術の完成についてだったはずです。

今回、北が見せた弾道ミサイル「火星19号」の特徴は、著しい大型化です。
アップされた朝鮮中央通信の「火星19号」(火星砲19)の画像を見るとぞっとするほど大きいのがわかります。
移動式発射台(TEL)はなんと11軸(12軸?)です。

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北朝鮮最終完結版の大陸間弾道ミサイル「火星19」(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

大きすぎますから、今の北は弾頭の小型化に成功していないことがわかります。
米露中は、すでに弾頭を小型化し多弾頭化(MIRV・複数個別誘導再突入体)を完成させていますが、出来ていないためにこれほど発射体が巨大になったようにも見えます。
多弾頭とは、核弾頭が単体ではなく5つに分かれてそれぞれ別の目標を攻撃するというもので、一発で5発分の威力があります。

推定重量は 55トン〜60トン. 長さ. 30.1mです。
火星-19 - ナムウィキ

また発射方式は従来の「火星14」、「火星15」の液体燃料方式ではなく、コンポジット系の固体燃料推進剤を採用しているようです。
これによって、いちいち液体燃料を注入せずに随時発射可能となりました。
これは実戦化がより近づいたということを意味します。

ちなみにNHKは、この時期発射したのは米大統領選目当てだと報じていますが、11月に大統領選があるのは前々からわかりきっていたことです。
とうに北はそのようなことを見越して数年前からスケジュール化しており、いまさら当たり前のことを言わんで下さい。
トランプになれば徹底的に絞られるのは目に見えていますし、ハリスならいまのままの生ぬるい対応でしょう。
それにしてもバイデンよ、いったいこの4年間、なにをしていたんだ。
とうとう北は核を完成させたじゃないか。イランだって目前だ。
ことこの北の核開発についてはトランプならここまで増長させなかったはずです。

とまれ、1月に新たな大統領が就任するまでの間に、懸案だった核実験をするかしないかが注目です。
核実験をすればこれでチェックメイトで、もはや北を攻撃することは不可能となります。

ゲルさん、「辞任すると政治空白ができる」なんて言っていますが、逆。
あなたがいることで政治的不安定が生じていることをお忘れなく。

 

2024年11月 1日 (金)

石破政局の末路

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いろいろの人が言っていますし、私如きが書いても二番煎じ三番煎じなのですが、私も淡々と。
政局は苦手なんですよ、水物ですし、しかも生臭いから嫌い。
とも言っておれないので、今回の石破政局について見届けていきます。

まず今後ですが、石破内閣はとりあえず続くでしょう。
玉木さんも、選挙前の不信任案には同意していますから入閣なんてゲル氏がいる限りできませんが、かといっていまさら野田氏と組むならかつて袂を分かちませんでしたしね。

ここでこのような形で政権を潰すことは、石破氏の数少ない友人たちのみならず、反石破派にとっても、そしてもっとも数が多い日和見の皆さんにとっても都合が悪いことだからです。

だってそりゃそうでしょう、自民党は前にも書きましたが、「自民党」という蜂の巣に入った連合党で、この巣を潰してしまうことは誰も喜ばないからからです。
この「巣」はなかなかよくできていましてね、巣のなかに「派閥」という細胞があって、そこで各々「総裁候補」という女王蜂を育ててきたのです。
その他に勉強会をして、政策提言する部会もあります。

そして巣全体の女王蜂を決めるのが総裁選ですが、おおむねどの派閥とどの派閥が組むかでだいたい結論は見えていました。

それも「自民党」という器があってのこと、というのが大前提です。
ここから出て行って分蜂することを新党と呼び、いままで新生党などが分蜂して出て行き、一時は政権をとったものの結局雲散霧消し、脱走した議員たちはゲル氏のように何食わぬ顔で復党しました。
なぜでしょうか。
それは自民党にはしっかりとした地方組織があり、各地には支部があり後援会があります。
それが看板・算盤・地盤をがっちり握っていますから、この意志に反したことはできません。
選挙区の住民がなにかを陳情する場合、この地元組織を通します。
つまり議員活動の裏方全部を仕切っているといってよいのがこの地元組織です。

ですから議員がキレた、自民党を出るといっても自分の支部や後援会が許すとは限らないのです。

たしかに、この「自民党」という蜂の巣全体は非常にもろくなっています。
もろくしたのは前総裁の岸田氏です。
選挙前に岸田氏がどのような思惑か知りませんが、この蜂の巣の「派閥」という細胞を破壊してしまいました。
岸田氏にいわせると、こんな派閥があるから「裏金」づくりができるんだ、腐敗の温床だというタテマエのようです。

実はかつて民主党政権時の実権を完全掌握していた小澤一郎氏がやったことは、派閥と部会の解散、そして陳情は自分の書記長室だけが窓口という中央集権党に変えてしまいました。
結果、どうなったかといえば、それでなくても未熟な議員が多い民主党議員は、議論を戦わせる場もなく、政策を研鑽することもできず、ただ命じられるままに賛成票を投じるだけの要員に成り下がったのです。
今回の「岸田改革」も似た指向をもっています。

さて今回メディアと野党は悪のりしてダビデの星(ユダヤ民族のことです)よろしくペタペタと議員の顔の上に「裏金」と貼っていましたし、野党はこれを「金権腐敗」と呼んでいます。
本当にそうでしょうか。
裏金の意味をウィキに当たってみると、こういう意味です。

裏金(うらがね)とは、
賄賂(わいろ)などによって動いている金銭。取引を有利にするために表に出さずにやりとりする金銭
経理(けいり)上、正式な出入金記録に記載せずに蓄財された金銭。記載すべきであるにもかかわらず記載されていないお金。“綺麗”に受け取ったお金であっても、報告書に記載しなければ裏金である。
裏金 - Wikipedia

今回のケースは、後者の「記載すべきであるにもかかわらず記載されていないお金」に該当します。
これを前者、つまり「賄賂によって動いている金銭」という意味とあえて混同させて拡散させています。
したがって、収支報告書不記載は純粋に形式事案であり、金銭の流れという賄賂性のある違法行為ではありませんでした。

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社民党ポスター - 社民党 SDP Japan

金権腐敗という批判を野党はしていましたが、政治資金パーティはまったく合法もいいところで、野党も堂々ととやっています。
だから、違法性の臭いがするのはただ一点、政治資金報告書に「不記載」だったことだけです。

党執行部は、この不記載をもって「裏金」と呼び、これに連座した旧安倍派議員を処分をしました。
しかも役職停止という一次処分の後に、非公認処分、果ては重複立候補は認めない、と二度三度と重複処分をする執拗さです。
しかも自分には甘いのですから笑えます。
石破氏など、「ルールを守る」という間の抜けたコピーを選挙公約の冒頭に掲げておきながら、自身の派閥から出た不記載事案は「事務手続きのミス」でスルーしてしまいました。

そして自ら金権一掃を公約としたゲル氏に対して、選挙戦の終盤に共産党が見計らって落した「2000万円支部支給」事案が投下されました。
これで自民党候補は「向かい風が突風になった」とキリキリ舞いし、競合区で次々に落選していきます。
この「2000万円」とは、自民党公認候補に支給される公認費500万円と活動費1500万円を合算したもので、非公認となった候補者が代表を務める政党支部に活動費として振り込まれたものでした。
この支給された2000万円が政党助成金からでていたことから、共産党は「自民党は税金を使って裏金議員に活動資金を渡した」というえぐい攻撃をしました。

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税金つかって活動資金2000万円 えっ?裏金議員を「裏公認」?!│ビラ・チラシ│ダウンロード│日本共産党中央委員会

メディアも共産党の言うとおりに倣って自民党攻撃に加わったのですが、政党助成金を選挙で配ることのどこがいけないのでしょうか。
2000万円支給されてもなにに使うかは支部の自由であって、選挙運動をするも自由です。
それを犯罪、金権腐敗の象徴のように報じるのですから、負けて当然です。

このように見てくると、こんなメディアと野党の攻撃を招いた責任の半分以上は岸田氏と石派氏にあります。
つまり負けるべくして負けたのです。まさに野村監督の箴言、「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」そのものです。
そして今になって、議席数が足りず、叩き出したはずの「裏金議員」を追加公認しています。醜態の極みです。

一方、自民党の首根っこを押さえた国民民主はどうでしょうか。
実に賢明です。首班指名で第一回第二回ともに石破、野田には入れないとしました。
つまり連立という黄金の檻に入れられて、口封じをされませんよ、ということです。

同時に、今の自民の議席数では首班指名まではなんとか行っても、50人の賛同により内閣不信任が出されれば、国民民主を含む野党の連携だけでも不信任は通ってしまいます。
そうなれば10日以内に、内閣総辞職又は解散を選択せざるをえなくなるわけです。
こうなったら、どこをどうしても石破氏を立てて選挙戦をもう一回したい議員などひとりもいないでしょう。
まさに生殺与奪の剣を国民民主は握ってしまっているわけです。

と、刃を首筋に当てながら、玉木氏は一方では自民との政策協議はやぶさかではないとしています。
実際、すでに政策実務者間で始まっているようです。
そして衣の下からちらりと玉木氏は「経済政策は高市氏に近い」と牽制球を投げることも忘れません。
これは裏返せば、石破政権の経済政策に高市氏の方針を持ってこいという要求です。
なんなら高市氏本人のほうが政策すり合わせが早いと思っているのでしょう。

とはいえ、直近の首班指名には波風はたたないはずです。
国民民主も維新も自民とはつかない代わりに、立憲とくっつくことは100%ありえません。
つまり石破内閣は安泰です。

したがってそれまでの時点で反石破が出て行くことはないはずです。

石破氏が行き詰まるのはもう少し先、予算案づくりをめぐってのことになります。
財務省の息がかかっている石破内閣が、国民民主の要求を呑めなくなる時がくるかもしれません。
その時、国民民主を不信任に追い込まず、選挙をしない唯一の道は、「もっとも国民民主と経済政策が近い人」、つまり高市氏を総理総裁にもってくるしかないのですが、血の巡りが悪い上に往生際の悪いゲル氏にそれが理解できるでしょうか。

 

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