グリーンニューディールの終了
トランプのあらたな政権スタッフについて、日本の識者の皆さんはスキャンダルを追うことに夢中です。
胸に入れ墨があるとかないとか、ロシアと親密だから、アサドと会ったそうだからどーたらこーたら、反ワクチンの奴がいるとか、もうかまびすしいこと。作法悪い。
お友達内閣だからすぐに潰れるだろうとか、よけいなお世話つうの。
議会が承認されねば就任できないのですから、極端な人事はできませんし、トランプは閣僚入れ換えが趣味のような人なんだから、もう少し落ち着いたらどうです。
そんなことより、今の時期はトランプの政策を見極めることが大事じゃないですかね。
さてトランプに替わって一番風当たりを真正面から受けるのは、炭酸ガス削減に関わる民主党の政策でしょう。
いまからはっきりしているのは、トランプとなれば、パリ協定を再脱退することは100%確実です。
したがってまず、パリ協定の下での次期削減目標(NDC)も同時に消滅します。
現行の削減目標はこのようなものです。
温室効果ガスの削減目標、46%に引き上げ。次期エネルギー基本計画の検討の方向性は? | SMART CITY NEWS(スマートシティニュース)
この削減目標は非常に意欲的、というか非現実的な設定目標で、米国は2005年比で26~28%から50~52%、カナダは2005年比で30%から40~45%とするなど目標の引き上げが行っています。
EUは2020年12月に1990年比で40%から55%以上に引き上げました。
わが国は菅さんが張り切りすぎて、2030年まで26%としていたものを、バイデンに追随したのか、50%削減までハードルを上げてしまいました。
そもそもトランプは地球温暖説自体に懐疑的であることを、第1次政権時から口にしていました。
リベラルメディアのBBCはやや軽蔑をにじませながら、こう書いています。
「トランプ政権は、化石燃料重視の政策を追求し、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」離脱を表明した。今年春には、米航空宇宙局(NASA)の地球温暖化ガス調査活動予算を削減した。
トランプ氏は今年10月、気候変動の危険性を警告する科学者たちには「政治的意図」があると批判。米フォックス・ニュースに、地球の気温上昇は人間活動が原因だという説を自分は受け入れていないと述べた。また2016年の大統領選中には気候変動は「でっち上げ」だと発言したものの、最近のインタビューでは「でっちあげだとは思わない。たぶん変化はあると思う」と発言を修正している」
(BBC2018年11月27日)
トランプ米大統領、米政府の気候変動報告「信じない」 - BBCニュース
今回、パワーアップしたトランプは、バイデン時代に加速した炭素削減政策をひとひとつ潰していくでしょう。
手続き的に最初はパリ条約からの再脱退と削減目標の白紙化から始まります。
次いで具体的に、CO2削減支援補助金を軒並み切り飛ばしていくはずです。
最初に槍玉に上がるのは、電気自動車(EV)に対しての過剰な減税措置です。
たとえば、バイデン政権はインフレ抑制法(IRA)に基づきEV購入時に最大7500ドル(約110万円)が税額控除されます。
2022年にバイデン政権が成立させた脱炭素投資を減税で支援するインフレ抑制法(IRA)は廃止されます。
IRAは法律であるので、その廃案も法律化する必要がありますが、上下両院を握った以上、直ちに実施されることでしょう。
EVへの過剰な補助金は、もはやEVは税金で走っていると揶揄されるほどです。
「電気自動車(EV)には陰に陽に様々な補助金が付けられている。それを合計すると幾らになるか。米国で試算が公表されたので紹介しよう。2021年に販売されたEVを10年使うと、その間に支給される実質的な補助金は約50000ドル(図中の48698ドル)に上る。為替レートを1ドル150円とすると、約750万円だ。
- 政府や州による補助金や税控除など、納税者への負担によるものが8984ドル+(1318ドルの内数)、図中の黒色
- 追加の発電設備や送配電設備など、電気利用者への負担によるものが10515ドル+(1318ドルの内数)、図中青色
- 政府や州の燃費規制に基づいたクロス補助金など、ガソリン自動車利用者への負担によるものが4881+3322+19678= 27881ドル、図中水色
直接の補助金である8984ドル以上に、電気利用者への負担や、ガソリン自動車利用者への負担に基づくクロス補助金の方がはるかに莫大に上っていることが分かる」
EV補助金は1台750万円にも上るとの米国試算 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)
このようなグリーンニューディール政策のツケは、エネルギーコストの上昇による経済への打撃、生活費の負担の増加、そしてそれを救済するための各種失業手当などの増大につながりました。
当然のこととして、国民生活は苦しくなり、政府は財政危機となります。
米国民には民主党支持者か共和党支持者かを問わず、共通した「ウンザリ感」が背景にあります。
トランプの環境問題に強い影響を持つAFPI(アメリカ第一政策研究所)でエネルギー・環境分野を担当するカーラ・サンズはこう述べています。
「アメリカ国民はバイデン政権から『EVに乗らなければならない』とか『あのガスコンロや洗濯機は購入できない』などと言われることに本当にうんざりしています。
バイデン政権が行ったLNGの輸出凍結措置は、精製施設やメキシコ湾沿いのテキサス州やルイジアナ州から搬出するための拠点の建設をストップさせました。私たちは雇用を求め、もっと多くのエネルギーの採掘を求めています。
例えば私の出身地であるペンシルベニア州はLNGの生産でテキサス州に次ぐ第2位の能力がありながら、それに見合うだけの生産をしていません。
生産量の増加のペースが非常に遅いのは、民主党とバイデン政権がエネルギーの採掘能力の増強を規制しているからです」
(NHK2024年6月20日)
アメリカ大統領選挙 トランプ氏のエネルギー政策は?LNG 石油回帰?EVは?「パリ協定」はどうなる? | NHK | WEB特集 | アメリカ大統領選
この「ウンザリ感」は、社会に蔓延するポリコレ、キャンセルカルチャーでいっそう増幅されました。
ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ=ポリコレ)という正義の名のもとに、新たな支配システムが出来上がりました。
BLM、LGBTQといった運動は、ただの運動である枠を越えて、「人種差別やジェンダーによる差別をなくせ」という正義を振りかざして、その「正義」の基準に沿わない者は、リベラルメディア総出で集団リンチにかけ、社会的に抹殺しました。
これによる言論統制は社会の閉塞感を生み出し、それを打破する者としてトランプを待ち望むようになっていきました。
共和党支持者では熱烈に、そして従来の民主党支持者層においては密かに。
選挙前のメディアの世論調査では大接戦と報じられましたが、これは「隠れトランプ」が膨大にいたことを現しています。
話を戻します。
従来は原油高騰時の安全装置が米国のシェールガスでした。
天然ガスの多くは地下にある砂岩に貯留していますが、シェールガスは地下数百から数千メートルの頁岩(けつがん)層に含まれています。
主成分はメタンで、液化天然ガス(LNG)と変わらないのですが、従来の天然ガスとは異なる場所に貯留しているので、「非在来型天然ガス」と呼ばれています。
これが膨大な量北米大陸に見つかったためにシェールガス革命とまでよばれました。
しかしシェールガスは石炭や石油よりもCO2排出量が少ないにもかかわらず、温室効果の高いメタンが多いために、バイデンが政権をとる直後から下り坂を転げ落ちるように激減しています。
トランプ第1次政権は、パリ協定から離脱し、炭鉱を保護してきましたが、バイデン政権になって一転して、化石燃料生産に対して制限を加える動きに出ました。
そのために一斉に原油やシェールガス掘削業者らは化石燃料の先行きは暗いという見通しを立てて、設備投資を控えるようになりました。
「(米国のシェールガス)掘削済井戸数は、リグ(掘削機)を使って掘られた井戸の数、仕上げ済井戸数は、掘られた井戸に対して水と砂と少量の化学物質を高圧で注入したり、坑井の末端を破砕したりする、原油生産を開始するために必要な最終的な作業(仕上げ)が施された井戸の数、です。 これらの井戸の数が増えていないことは、この地区で新規開発が低迷していることを意味します。この点が米シェール全体の原油生産量が減少している、主な要因とみられます」
(吉田哲2021年12月21日)
2021年原油相場の5大予測 “脱炭素”に過剰反応してはならない | トウシル 楽天証券の投資情報メディア
米シェール最主要地区(パーミアン)の掘削済・仕上げ済井戸数と原油価格
米シェールの最主要地区、パーミアン地区で起きていること - みんかぶ(先物)
このように今、世界で起きているのは、過激なCO2削減要求による人工的な原油不足なのです。
一方、唯一ロシアだけはこの原油高の状況を大いに楽しんでいます。
彼らからすれば、唯一の輸出品である天然ガスの高騰ほど嬉しい状況はありません。
炭鉱はおろか、テキサスの油田、そして米国が世界に誇ったはずのシェールガスまでもが投資が止まり、今や世界有数の産油国でありながら米国はガソリン高に苦しむはめになっています。
このガソリン高が、コロナ後の人手不足による労働力市場の高騰と相まって、米国経済に思わぬ打撃を与えています。
特に物流を握る運輸関連の被害は深刻で、ニュージャージー州では、伝統的に民主党支持層だったトラックドライバーたちが民主党の州上院議長を追い詰める騒ぎに発展するなどの騒動にまで発展しています。
このガソリン高は自動車産業をも窮地にたたせており、自動車産業関連の労働者の動きにも連鎖していく可能性があります。
バイデンもこのグリーンニューディールを止めればいいことはよくわかっているはずですが、それをしようとすると与党民主党左派が激怒します。
トランプが政権を奪還したら、まずやるのはグリーンニューディールの完全停止であることはまちがいありません。
アメリカ大統領選挙 トランプ氏のエネルギー政策は?LNG 石油回帰?EVは?「パリ協定」はどうなる? | NHK | WEB特集 | アメリカ大統領選
ガソリン高は世界的な過少投資によるものですが、米国はなにせ自分の足元を掘れば石油が湧いてくる土地なのですから、解決は簡単です。
グリーンニューディール政策を放棄し、炭鉱や石油産業、あるいはシェールガスに集中的投資を呼び込む政策に転じるでしょう。
前述したようにEVなどという色物に対する補助金は打ち切られます。
各種補助金の竹馬に乗ることでやっと一人前の顔が出来たEVの息の根が止められることは必至です。
中国が世界の自動車産業の覇者となるべく国家で推進したEVは、対中関税の一律60%と相まって、壊滅的打撃を受けるでしょう。
中国はEVのみに特化した自動車市場を作ってきました。
【中国の電気自動車】普及率はどれくらい?世界最大のEV市場の最新動向 - EV DAYS | 東京電力エナジーパートナー
特にBYD(比亜迪汽車は、世界市場でテスラを追い抜く勢いです。
ちなみにイーロン・マスクがトランプ政権でコストカッターで入閣したのは、保守で共鳴しただけではなく、EVに対する過剰な補助を止めさせるという意図もあったような気がします。
それはさておき、BYDは、2022年4月以降はエンジン車の生産を終了し、EVとPHEVのみを生産・販売するブランドとなりました。2023年のグローバルでのEV販売台数は約160万台と大幅に増え、約180万台でトップのテスラに迫りました。
そして世界市場では自動車輸出台数でドイツを抜き、日本に迫っています。
「中国EVメーカーからは今年、世界中に商品の波が押し寄せました。
中国は9月に昨年同月の倍となる5万台のNEVを輸出し、通年ではNEVの輸出台数が38万9,000台に達して昨年比で3ケタ台の成長率を見せました。中国税関総局の最新データによると、中国は8月に11万2,000台のNEVを輸出し、8月までで輸出量の多かった国トップ3はベルギー、英国、タイでした。今のペースで行くと、中国は2022年に50万台以上のNEVを輸出することになります。また中国は9月までに昨年同期比で55.5%増の合計212万台の自動車を輸出しており、世界2位の自動車輸出量を誇るドイツを抜いて日本の下に着きました」
【中国の電気自動車】普及率はどれくらい?世界最大のEV市場の最新動向 - EV DAYS | 東京電力エナジーパートナー
このように中国とEUの自動車市場は中国製EVによって支配され、米国市場をも脅かしています。
とまれ、グリーンニューディールは来年に息の根を止められます。
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中共は、石炭をガンガン燃やして作った電気を使って国産ブランドEVを走らせているんで、ちっとも環境に良くないですわ。多額の補助金をつぎ込んでまでしてEVの国産ブランドを育てたのは、ガソリン車やHV車ではとうてい欧米や日本のメーカーに技術的に敵わないので、まだ技術的に完成されていないEVに賭けただけで、決して地球環境の為にEVを推してるわけじゃない。自国内の酷い公害を見ても、それは歴然としてる。
そして都合の良いことに、先進諸国ではポリコレで脅して政権取った似非リベラルが「CO2で温暖化してタイヘンだー、化石燃料は使うな!」「EVは地球に優しいんだから、これからのクルマはすべてEV化だぜ」「そんだもんで、EVにはガッポリ補助金をつけてやるよ、元は税金だけどな」とかなりトチ狂っていたんで、中共としては渡りに船だったと思いますわ。
今回、左に寄り過ぎてアップアップしてるドイツなど欧州に続いて、米国では不動産屋(似非リベラルが最も嫌いそうな職業)のオヤジが政権取ったんで、中共の企みは頓挫して、そのEV市場を新興国やアフリカ諸国に求めることになります。しかし、そこではまだまだ中産階級が育ってないんで、低価格のEVしか大量に売れなくて、莫大な補助金出して育てた中華メーカーがその投資を回収できるほどの利益を上げられるのか?見ものですわ。
中国上海にもギガファクトリーを持つテスラのイーロンマスクさん、彼はいわゆる"テクノリバタリアン"の発達障害の天才で、私のような凡夫の想像の遥かナナメ上を行くんで、トランプ親ビン側についた理由は皆目見当もつきませんわ。ただ、その本拠地だったカルフォルニア州では官僚主義や高い税金にイヤ気がさして、ついにテキサス州にテスラ本社を移転するなどしており、本気で行政機構にケンカ売るつもりなのかも知れません。こっちも見ものですわ。
投稿: アホンダラ1号 | 2024年11月17日 (日) 00時16分