イスラエル、ヒズボラと停戦合意
イスラエルがレバノンのヒズボラと停戦合意しました。
正確に言えばレバノン政府とですから、ヒズボラを抑えられねば無意味となります。
そのうえあくまで停戦協定であって、60日間の限定です。
それ以後についてはまだ決まっていませんが、トランプ新政権の時代となります。
「アメリカのジョー・バイデン大統領は26日、イスラエルと、レバノンのイスラム教シーア派ヒズボラとの13カ月にわたる戦闘を終結させる停戦が合意されたと発表した。合意は現地時間27日午前4時(日本時間27日午前11時)に発効した。
合意の履行を監視するアメリカとフランスは共同声明で、この合意によってレバノンでの戦闘が停止され、「イスラエルがヒズボラやその他のテロ組織の脅威から守られる」と述べた」
(BBC11月27日)
【解説】 イスラエルとヒズボラの停戦合意、いま分かっていること - BBCニュース
BBC
先だっての日曜日にも大規模な攻防がベイルート南部で起きたようで、これ以上戦闘が長引けばレバノンのガザ化は止められなくなるでしょう。
ネタニヤフはテロ禍の根絶を期しており、ガザと西岸を支配下に置くまでは枕を高くして寝られないと考えていますし、レバノン南部にも緩衝地帯を設けるまでは戦いを止めないつもりだと思われていました。
中途半端なところで妥協すれば、必ずテロの温床となると確信しているからです。
しかしそろそろわかってもよさそうなものですが、ネタニヤフに代表されるこのような自民族のみの生存を最優先する考え方では、やがて誰もイスラエルを支持するものはいなくなります。
今のままでは当初は正当だったテロに対する防衛戦争から、グロテスクな国家エゴに変質したかに見えるからです。
一方、いまやスっとああヒズボラとイスラエルの停戦ね、と読んでしまいますが、おかしくはありませんか。
だってヒズボラは国会で議席をもっているとはいえ、要するにイスラエルを標的とするテロ団体です。
しかも資金も武器もイランから提供されているような外国のヒモ付き組織です。
こんな組織が、レバノンの頭越しに攻撃を仕掛けたり、逆にイスラエルから攻め込まれる口実を作っています。
こんなことを許すような国を国家と呼べるでしょうか。
なんせ天下の日産を潰した男が逃げ込める国なのです。
本来は、一義的にはレバノンこそがヒズボラの学校施設や民家からのロケット弾攻撃を止める責任があります。
警察では手に負えないでしょうから、国軍がヒズボラを抑止すべきなのです。
しかしまったくレバノン国軍は無力で、スラエル北部では市民の被害が絶えません。
ですから、レバノンという国家とは別次元で、ヒズボラがイスラエルを地中海に追い落すなどという馬鹿げた反ユダヤのイデオロギーを捨てないかぎり、いつまでも戦争は続くことでしょう。
つまり、イスラエルは自らの安心な国境環境が生まれない限り戦いを止めないでしょうし、攻め込まれた形になっているレバノンはヒズボラをコントロールできないか故に、戦争はいつまでも続きます。
今回の停戦は、イスラエルの立場に寛容なトランプが登場するまでのわずかな期間に決着を着けねばならないと焦燥したバイデンが最大限の圧力をかけたために実現しました。
G7でイスラエルを支持しつづけているのは米国のみで、国際的孤立を屁とも思わないトランプならいざ知らず、バイデンではこの立場はそう長くは持たないででしょう。
今回バイデンは、(元々仲が悪かったせいもありますが)ネタニヤフを怒鳴ったようで、いままでにない強力な圧力をかけたようです。
聞くところでは、ほとんど口論だったようです。
バイデンは恒久的和平を望んでいると言っていますが、そんなことが無理なのはじぶんでもよく分かっているはずです。
あくまでも暫定的な対処療法であって、必ずまた元の木阿弥となります。
なぜなら、ヒズボラに武器と資金を与えて育成してきたイランがある限り、間違いなくかつてのように現地の国連機関に浸透して合意を空洞化するのは目に見えているからです。
「停戦の条件として、ヒズボラは60日間にわたり、ブルーライン(国連が設定したレバノンとイスラエル、イスラエル占領下のゴラン高原を隔てる非公式な境界線)から北に約30キロのリタニ川までの地域から、戦闘員と武器を引き揚げる。
アメリカ政府高官は、ヒズボラの戦闘員はレバノン国軍の兵士に置き換えられ、同地域からはヒズボラ関連のインフラや武器が撤去され、再建できないようにすると説明した」
(BBC前掲)
なお停戦ラインの監視は、UNIFILではなくレバノン国軍に米仏が強力」するとのことですが、詳細はわかりません。
「ヒズボラとの停戦協定が、前の二の舞にならないと確信する理由として、ヒズボラがレバノン南部地域に入ってこないことの監視を、前のようにレバノン軍、UNIFIL(国連レバノン暫定軍)に任せるのではなく、レバノン軍に、アメリカとフランスが協力することを挙げた。
協力と言っても、米軍や仏軍が、この地域に入るわけではない。しかし、軍事技術、資金面も含めて、レバノン軍に寄り添う形で、ヒズボラの動きを監視するとのこと。これにより、南レバノンから避難している8万人、イスラエル北部から避難している6万人が家に帰れると言っている」
バイデン大統領が停戦成功に自信:ハマスも人質解放・停戦の時と 2024.11.27 – オリーブ山通信
うーん、たぶん厳しいだろうな・・・。
正直、よくイスラエルがこんな米国提案を飲んだものだと思いました。
これは17年前の第二次レバノン戦争の終結につながった国連安保理決議1701号の焼き直しです。
国連1901号決議は、イスラエルとレバノンに支援を求める、ブルーラインとリタニ川との間に、レバノン政府および第11項で認可されたUNIFILもの以外の武装要員、資産、武器が存在しない地域にこの地域に配備することを含むとし、双方の敵対行為の再開を防ぐための取り決めとしました。
同時に、国連は「レバノンのすべての武装集団の武装解除」を要求し、それによりレバノンにはレバノン国軍以外の武器や権限が存在しない、というタテマエになっていました。そしてそのためにUNIFIL(国連レバノン暫定軍)というPKFまで置いています。
しかしこれは絵に描いた餅でした。
UNIFILはまったく機能しておらず、ブルーラインとリタニ川を結ぶラインの内側では、あいもかわらずヒズボラなどのテロ集団が我が物顔ではびこっていたのです。
「実際には、決議は執行されず、ヒズボラはUNIFILの活動地域に数万発のロケット弾と数千人の軍事工作員を配備しており、イスラエルとの国境の安全、レバノン国家の安定、そしてUNIFIL兵士自身を脅かすような仕方でいる。(略)
国境沿いの「国境なき緑の党」の位置のように、UNIFILが単純に立ち入るのを避けている地域があることは明らかで、実際には、過去2年間に何十ものヒズボラの陣地が設置されている。
報告書の21ページは、ヒズボラの工作員が定期的にUNIFILを攻撃し、嫌がらせをし、国連決議を破るという国境の困難な現実の非常に動揺する絵を描いています。報告書は、イスラエル国防軍兵士と現地のヒズボラ工作員との間の緊張を描写しており、それは先の戦争の終結以来ピークに達している」
UNIFILは出て行くか削減するしかない- アルマ望遠鏡研究教育センター
UNIFILの兵士らは無関係な国から集められた烏合の衆にすぎず、ヒズボラなど(テロ組織は複数あります)に対してむしろ「友好的」に振る舞って摩擦を避けるようになっていました。
UNIFILのレバノンでの任務の危険な無力さ |イスラエルのタイムズ
タイムス・オブ・イスラエルはこう書いています。
「UNIFILはずっとどこにいたのですか?悪を見ず、悪を語らず、悪を報告しないことが、UNIFILとLAFのモットーであるべきだ。
本当の問題は、21世紀におけるUNIFILの使命は何かということです。それは平和を維持するためですか、それともそれを強制するためですか?もし前者であれば、UNIFILの成功はせいぜい最小限で、イランの指示下にあるヒズボラの忍耐力によるもので、イスラエルを攻撃するためのミサイル兵器庫を開く好機を待っているからに過ぎない。しかし、もし後者で、南レバノンが「権限のない人員、武器、その他の資産から解放されなければならない」とすれば、UNIFILは重大な失敗だったことになる」
(タイムス・オブ・イスラエル2021年9月17日)
つまり、レバノンは既に国家としての統一性を喪失しており、事実上の失敗国家です。
そしてその国軍も宗派ごとに分裂し、南部の国軍はヒズボラに支配されています。
また、本来中立性を強く要求されるはずのUNIFILは、とうに機能を喪失しているお飾りにすぎません。
ですから、今回の和平も60日を過ぎれば直ちに曖昧になり、グズグズになって戦闘は再開されるはずです。
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「アルマ望遠鏡研究教育センター」とは何ぞや?と、該当ページに飛んで日本語翻訳設定したら本当にそう表示されたという。
チリの山頂にある巨大電波望遠鏡とは全く関係がありません。
さて、UNIFILは全く機能していません。この「停戦合意」だけでは2006年と同じ時点に戻るだけですね。こういうトコを日本の大手マスコミは説明しないし。UNRUWAの扱いと同じで杜撰にも程があります。
昨夜のBS深層NEWSだったか、小谷さん情報だとしてこの停戦はバイデン最後の功績として花を持たせられるけど、実はネタニヤフは超親イスラエルのトランプに「これ合意しちゃっていいの?」とお伺い立ててたとか。。
前回の停戦合意との違いは米軍がレバノン正規軍に戦闘教育と監視をするとこかな。
あと、前回はヒズボラとの停戦合意後まもなくハマスとも停戦したけど、今回は両面作戦を強いられているネタニヤフとしてはリソースをガザに回せる利点があるという話。ハマスやフーシ派みたいな同様にイランの息がかかった連中がどう出るかですね。
イランとしても米国の舵取りは気になるだろうし、ウクライナ侵略中のロシアとの関係にも関わります。これはトランプとプーチンの付き合い次第でどう転ぶやらです。結局は大国の指導者の個人的関係に振り回されるという話ですね。
一般市民の命なんて随分と軽いものなんだと改めて思い知らされます。
我が国はよりによって石破政権で混乱の中で国会開幕という体たらく。トランプと語り合えるような人がいない。いても急安倍派か麻生派だから石破には冷遇されてるし、それこそ岸田が後で睨んでますね。あー、やだやだ。。
投稿: 山形 | 2024年11月28日 (木) 05時38分
ブルーライン(撤退線)を守るのは、5000名ほどのレバノン軍だと報道されてますね。それじゃ、明らかにこれまでの繰り返しになるだけ。
仏はレバノンのケツ持ちが不徹底で、それがゆえにヒズボラの台頭を許した責任があります。
それでも、バイデンはかりそめの停戦を実現した実績がつき、ヒズボラはウソでも「勝利!」と言える。けれど、最大の勝者はイスラエルでしょう。今後は小さな違反を見つけ次第、「合意違反」を理由に再戦闘に踏み切れる新しい大義名分を手に入れる事になりました。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年11月29日 (金) 15時21分