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2024年11月21日 (木)

トランプのウクライナ和平案とは

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トランプのウクライナ和平案は既に固まったものがあるわけではなく、また選挙戦特有の誇張に彩られているもの多いので、このような夾雑物を排して見ていかなければなりません。
トランプとつきあうとこれがメンドーです。
あのオッサンににとって、演説自体がディール(駆け引き)ですから、ひとつ言えば済むことを十も二十も言い募り、しかも敵に対する罵倒やマウンティングに満ちています。

一方、トランプはバイデンに対する非難のほうは、たっぷり言っています。

「この戦争を止めたい。無駄に命を落としている人を救いたい。何百万人もの人々が殺され、われわれは2500億ドル以上を負担した」「事態は悪化するばかりで、放置すれば、第三次世界大戦に発展する可能性もある。そうした中で、われわれの大統領がどこにいるのかさえ分からない」
(名越健郎2024年11月14日)
ウクライナ停戦を望むのは誰か:トランプ式「ショック療法」がゼレンスキー、プーチンに与える影響:名越健郎 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト

このバイデン批判はなまじ当たっているだけに困ります。
米国のウクライナ方針は、「勝つようにはしたくないが、かといって負けては困る」という実に腰が定まらないものでした。
だから退任2カ月前になって慌てて長距離兵器の制限解除を言い出したりする醜態ぶりです。
ハナからロシア領内の策源地を攻撃して、ウクライナが有利に交渉ができるような条件をつくれるようにしておけばよかったのです。
それを4州も奪われて、北朝鮮軍まで投入されるという段になってから、慌ててATACMS(エイタクムス)の使用制限解除をしても遅いのです。
かねてから に、ロシア領内の弾薬庫、弾道ミサイル基地、航空基地、予備兵力駐屯地などを叩いて体力を削いでいけば、これほど泥沼化せずに、どこかもっと早い時期に和平交渉を持つことが可能でした。

ところでトランピアン議員のウクライナ政策の最大公約数の認識はこのようなものです。

①ウクライナ支援はNATOが中心になってやるべきで、米国の支援の比重を削減するべきだ。
②ウクライナの国境防衛より、自国の国境防衛に予算をつかうべきだ。
③泥沼化して再現のなくなっているウクライナ支援の影響で、主敵である中国と対峙している台湾への支援がおろそかになっている。
④ゼレンスキー政権は腐敗の温床であり、自浄能力に欠けている。
⑤ロシアを懐柔して、中国・露・イラン・北朝鮮のならず者枢軸から引き離し、分断すべきである。

このような認識はありながらも、現実の和平調停を作るとなると複雑な方程式を解くようなものですから、トランプが理路整然とウクライナ和平案を述べたことはありません。
電話会談したシュルツ独首相は案外真面目に詳細を検討しているようだ、といっています。

ただし、彼のスタンドプレーが大好きな資質がこの和平調停には充分にあります。

9月の共和党大統領選の候補者討論会でこう言っています。

「この戦争を終わらせたい。私はゼレンスキー大統領とプーチン大統領をよく知っており、彼らと良好な関係にある。彼らはバイデン大統領を尊敬していないが、私を尊敬している。この戦争は解決すべきだが、バイデン政権は何もしていない。私が大統領になったら、双方と交渉する。バイデンはこの2年間、プーチンに電話もしていない」

トランプがプーチンポン友であろうとなかろうと、この和平には無関係です。
外交交渉には人的な要素も大きく影響するのは今のゲル氏を見ればわかりますが、過度にそれに寄りかかると地獄を見ることになります。

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トランプ氏はウクライナの味方、会談で支援約束=ゼレンスキー氏 | ロイター

ことウクライナに関しては、トランプの悪いところが全開で、「オレになったら24時間で解決だ」というふざけた言い方までしていますが、こういう言い方が誤解を招き、いっそう状況を悪くします。
かつてこの自己過信で臨んだ北朝鮮との会談でも、非常に危うい決着になりかかったのをボルトンに制止されたことを忘れたようです。

仮に「トランプ休戦」があるとすれば、ウクライナ和平会談を設定して、ゼレンスキーを武器支援をしないぞと恫喝し、プーチンにはもっと長射程の武器を渡すぞと引きずり出し、共に銃を置かせる気なんだ、くらいしかわかりません。
結局その根拠は、「オレはゼレンスキーからもプーチンからもリスペクトされている」という子供のようなナルシズムだけです。

現状でわかるのは、「今の状況で武器を置く」ということから、現在の前線のラインで戦争を停止するというだけです。
下の地図は、2024年11月のウクライナ戦争の現況です。
赤い部分が今回の侵攻以前のからの実効支配地域、オレンンジ色が新たな占領地域です。
クルスクにわずかにウクライナの突出部分が見えます。
ひとことでいえば、膠着状態です。

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「勝利計画」の重要ポイント、クルスク越境攻撃は戦線膠着:岩田清文 | [随時更新]戦略視点で捉えるウクライナ最新戦況マップ | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト

残念ですが、ウクライナは勇敢に戦っていますが、現状の膠着状況を破ることは相当に困難でしょう。
あえていえば大量の長射程兵器で、ロシア国内を攻撃することですが、米国が許すとは思えません。

方やロシアも、2024年11月時点で、BBCによれば戦死者だけで7万8千人に達し、北朝鮮の軍事支援を仰ぐ状況にまで追い込まれています。
アフガン侵攻によるソ連の戦死者が1万5000人、負傷者が5万人あまり、戦地で病気を罹患した者が42万人でていますから、おそらくウクライナ戦争では24万人ちかくの負傷者を出していると想像できます。
いうまでもなく、第2次大戦以降で最大の損害です。

気をつけていただきたいのは、「トランプ和平」とは恒久的な解決ではなく、たんなる「停戦」にすぎないということです。
この人の外交方針には恒久的という概念がなく、いつもその場しのぎな傾向がありますが、今回もそうです。
ウクライナは被占領地に対して主権はもちますが、実効支配を回復できません。
言い換えれば、被占領地4州のウクライナ国民はロシアの支配下にそのまま残すということです。

一方ロシアは占領は継続できても、合邦は否定されます。
そしてたぶん国連のPKOが停戦監視に入るのでしょう。

いわゆる朝鮮戦争型休戦です。
東部のドネツク、ルガンスク、南部のヘルソン、ザポリージャの計4州については、プーチンはロシア領として合邦宣言を出しているので、事実上のウクライナ領分割案です。
もちろん2014年に併合したクリミアは、ロシア領のままで固定化です。
唯一の救いは4州とクリミアに対しての主権は、あくまでもウクライナにあると国際的に認知することくらいです。

もしトランプ休戦がこのようなものなら、まったく新味はありませんし、ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記はこのような朝鮮戦争休戦型がはロシアが考えていると語ったことがあります。

副大統領候補のバンスはもっと突っ込んだことを言っています。

「ウクライナの反転攻勢は破局に終わる、と思っていた。「いい国」と「悪い国」に分ける道徳主義に動機づけられ、戦略的思考が十分でなかったからだ。ロシアは十分に準備していた。米軍指導者と非公開の場で話せば、すぐ分かるが、彼らは「ウクライナが戦略的に打開できる」などとは思っていない。
ウクライナは戦闘を凍結すべきだ。そして、国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する。この3つは達成可能だ」
(ニューヨークタイムス6月13日)

ベンスはいやな言い方をします。味方にはしたくないタイプの人物です。
「いい国と悪い国分ける道徳主義」ってナンなんです。
それこそ民主主義の価値観でしょう。
ここを譲ったら「西側」と総称される民主主義同盟は無意味なものになります。
そのうえに立って「戦略」があるわけで、ここを「道徳主義」で一蹴してしまえばなにが残るのでしょうか。
ベンスは「戦略」などとカッコつけて言っていますが、なんのことはないそれは現状固定のプラグマチズムにすぎません。

そしていまロシアに勝たせたら、ヨーロッパのみならず全世界のパワーバランスが根底から揺らぎます。
ヨーロッパ諸国や日本は今の数倍以上の国防費をかけて、ロシアとその同盟国の圧力に抗さねばならなくなます。
それはすでにヨーロッパで国防費の増大として現象しています。

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NATO軍事費 欧州合計でGDP比2%達成見通し 18カ国、国防相会合で防衛強化議論へ - 産経ニュース

「(NATO事務総長の)ストルテンベルグ氏はまた、2024年に31加盟国のうち18カ国が軍事費を国内総生産(GDP)比で最低2%に引き上げる目標を達成する見通しだと明らかにした。欧州の加盟国全体でも2%に達し、合計軍事費は約3800億ドル(約57兆円)に上るとした。ドイツメディアによると、ドイツも1992年以来約30年ぶりに2%を超えるという。2023年7月時点で達成国は11カ国だった」
(産経2024年2月15日)
NATO軍事費 欧州合計でGDP比2%達成見通し 18カ国、国防相会合で防衛強化議論へ - 産経ニュース

ベンスさんに勘違いしてほしくないのは、それはトランプがわいのわいの言ったからではありません。
ウクライナが対岸の火事ではなくなったからです。
だからじぶんの国の武器庫をからっぽにし、備蓄していた砲弾をほとんど全部ウクライナに送ったのです。
ウクライナの抗露戦争は、ただの「道徳主義」の戦いではないのです。

長くなりそうなので、ここで分割しました。

※初回アップしたものを半分に切り、さらに大幅に加筆しました。いつもすいません。

 

 

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コメント

 ブログ主様のヴァンス評は非常に納得が行きます。
彼は口だけは達者に廻りますが、活字にして起こすと「定義」を曖昧にしたり、言葉の意味が正確でなかったりする事が多いのです。マイク・ペンス元副大統領と対極的なタイプです。

トランプは「戦争を終わらせる」と言いました。その事を私は「終戦」を意味すると考えた。なので私は、プーチンは絶対に同意するはずがあるまいと思いました。本日のブログ内容では「終戦」ではなく、「停戦」もしくは「休戦」であって、改めて様々なトランプ発言から翻って、その方がなるほど客観的で妥当な見方なのだろうと思い至りました。そうすると、今「休戦」もしくは「停戦」をのぞむのは圧倒的にプーチン・ロシアの側です。
長大な停戦ラインをどう管理するか? そもそも国際約束などかえりみない無法国家プーチン・ロシアが何故にトランプとの約束だけ守ると言えるのか? 甚だ根拠薄弱です。

この件についてトランプ御大は政権に就くまでに様々な工作をすると思いますが、すっきりと実を結ぶとは思えない。それは即ち、ウクライナの犠牲の上に成り立ちうる現実としか考え得ない。
そうであれば、中華の脅威に曝される日本国の先島に住む私としては、まさに「米国は死んだ」としか考えようがありません。先島が切り捨てられる前に日本は厳重に武装し、「核兵器を持つ事をすべき」とする結論に至る他はない! 
トランプにとって同盟など何の価値もなく、その場その場の言い繕いに過ぎないのが真実であろうと心配せざるを得ません。

しかし、それもまた早計で、いまだトランプが何を言ったワケでもない。
ただし、北朝鮮にたやすく騙されかけたトランプが、プーチンに騙されないと考えるほど私たちは愚かではないと言えるのみです。

沖縄には中国、北海道にはロシア。ウクライナの運命の延長線上にありますね。
財務省の言いなりになっている政治とマスコミ。とにかく経済が最優先の今の日本。東京中心(ある意味全て)の視点では日本の両端は、いざとなったら切り捨てられる運命ですね。

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