ウクライナを3回もだます気か
ロシアがICBMを使用しました。
核は搭載していなかったようですが、明らかな核による恫喝で、とんでもない暴挙です。
「ウクライナ空軍は21日、東部ドニエプロペトロフスク州の州都ドニプロの企業や重要インフラを標的として、ロシア軍が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む複数のミサイルによる攻撃を実施したと発表した。2022年2月のウクライナ侵略の開始後、露軍によるICBMの使用が確認されたのは初とみられる。ウクライナ空軍は犠牲者や重大な被害に関する情報は入っていないとしている」
(産経2024年11月21日)
ロシアが初のICBM攻撃 ウクライナ発表、国内攻撃に核反撃を警告か - 産経ニュース
詳細はまだわかっていないので、明日にでも。
さて、トランプが考えている和平案は、要するに現状固定です。
ベンスは、ウクライナに「国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する」と言っていますが、これが曲者です。
ほー、どうやって「保証」するんでしょうか。
ウクライナはNATOに入れないんでしたよね、では、米国が安全保障条約を個別に結ぶなら可能ですが、その気なんかないでしょう。
昔、きみの国の安全は僕ら西側も守るからね、と言って核を放棄させ、ブタペスト覚書を結ばせて、結局裏切ったのはどこの誰なんですか。
ウクライナフォー ラムは、今月改めて特集を組んではこう述べています。
やや長いですが、今のトランプ和平前に一度ちゃんと読んでいただきたい文書です。
ウクライナフォーラム
「ブダペスト覚書は、ウクライナ国内法「1968年7月1日付核兵器不拡散条約へのウクライナの加盟」が採択されたことに関連して、署名されたものである。この法律には、「本法律は、核兵器保有国からウクライナに対し、関連の国際法的文書への署名を通じて形成される、安全の保証が与えられた後に発効する」と書かれている。
・このようにして、ブダペスト覚書署名国は、「ウクライナの独立、主権、現存国境を尊重する」こと、「ウクライナに対して、今後一切の武器を使用しない」こと、「ウクライナの政策に影響を及ぼすことを目的とした経済的圧力を控える」ことが義務づけられたのである。
・同覚書にのっとり、当時世界第3の核兵器保有国であったウクライナは、自発的に核兵器能力を放棄し、非核国家となった。ソ連邦崩壊時、ウクライナ領内には、大陸間弾道ミサイル、戦術核兵器、核兵器を搭載可能な戦略爆撃機、戦略核兵器があった。ウクライナが独立した直後から、アメリカとロシアは、当時のウクライナ政権幹部に対し、できるだけ早く核兵器を放棄するよう説得し始めていた。(略)
・これを利用したのがロシアである。2014年3月1日、プーチン大統領は、ウクライナ領におけるロシア軍の使用許可を同国連邦院から受け取ることになる。以降、クリミア占領、ドンバス戦争があり、ウクライナは、ブダペスト覚書はその署名国であるロシアにより違反されたとみなしている。さらに、ウクライナでは、同覚書のその他の署名国も自らの義務を守らなかったとして批判する者が少なくない」
(ウクライナフォーラム2024年11月21日)
「存在しなかった安全」ブダペスト覚書署名から24年
被団協がノーベル平和賞を受賞したとき、ゼレンスキーは非核は理想であって現実的ではないというコメントを出しました。
「ゼレンスキー氏の当初の発言には前段があった。ウクライナが核兵器を放棄した1994年のブダペスト合意(覚書)に触れ、「核大国のどこが攻撃されたか。核兵器を放棄したウクライナだけだ」と述べていた。
91年のソ連崩壊で独立した際、ウクライナは米国とロシアに次ぐ世界3位の核大国だった。ブダペスト合意とは、ウクライナが核兵器を放棄してロシアに移管する代わりに、米英露の3カ国がウクライナの「安全を保証する」とした覚書である」
(産経2024年10月29日)
ゼレンスキー氏が「核保有」に言及 ブタペスト合意で核を放棄したウクライナの怒り 一筆多論 - 産経ニュース
現実に非核をしたのはウクライナだけだ、その結果どうなったのか、そうゼレンスキーは問い返しています。
非核は人類共通の理想ではない、これは強国に支配され続けたウクライナだからこそ言えることです。
ウクライナほど小国の悲哀を舐めた国はありません。
長年に渡ってロシアの支配を受け、ソ連時代には一共和国にまでなっており、ソ連崩壊後やっと取り戻した独立も、親露派が先遣を握っていました。
ソ連崩壊時、唯一ウクライナに残されたものが膨大な核兵器とその発射基地でした。
これを核拡散と見て、主要国は揃ってとりあげようとしたのです。
それがブタペスト覚書です。
ウクライナは核を手放さざるを得なかったことをいまだ悔いています。
それは核の脅迫をしてくる相手が嘘つきで名高いロシアだということもありますが、いまひとつはかつて核保有量第3位だったウクライナが、それを手放すに当たって結ばれた1994年のプタペスト合意を反故にされた苦い経験があるからです。
ブタペスト合意は西側とロシアが作ってウクライナに因果を含ませて飲まして結ばせたものですが、そこで約束されていた独立と主権の保護は以後まったく省みられることなく、ゴミ箱に入れられてしまいました。
親露政権を倒した直後の不安定期に、クリミア侵攻が起こり、さらにほぼ同時に東部2州での独立分離紛争が勃発しました。
露骨な侵略です、しかもミンスク合意の明白な違反ですが、軍隊で占領してしまえばこちらのものというロシア流儀が勝って、結ばされたのがミンスク合意でした。
これには西側陣営も関わったにもかかわらず、事実上ウクライナ領の分割を容認してしまう不平等なものでした。
ドネツク、ルガンスクというロシアの息がかかった東部2州に「特別な地位」を恒久法で保証しろだなんて、ウクライナ分割そのものです。
西側諸国は、よく恥ずかしげもなく、こんなものをウクライナに呑ましたものです。
口にはしませんが、ウクライナの西側諸国への不信感は根強いはずです。
そしてクリミアを侵略された後に西側が仲介策として言い出したのが、2014年のミンスク議定書です。
ここでも「ウクライナの中立化」を求めるプーチンの要求で、それを尊重して結ばれたのです。
ドネツクの戦闘激化を鎮めるために作られ、ロシアとウクライナ、そして西側諸国(欧州安全保障協力機構・OSCE)の三者で成立したものでした。
内容は、2015年1月までの停戦とウクライナ東部とロシアに緩衝地帯を作ることが骨子でした。
ところが、このミンスク合意は直ちに失敗し、親露勢力はドネツクで戦闘を再開しています。
ですから、この「ウクライナの中立化」とは、親露勢力に占拠されていた東ウクライナ2州を事実上分離独立させることで、ロシアの思い通りにすることになったのです。
いったい何番煎じですか。プタペスト合意、ミンスク議定書、そして今回はトランプ合意とでも名付けるんでしょうかね。
いつもいつもよくもそう同じ手でウクライナをだましてきたもんです。
おそらくこのままではトランプはミンスク議定書に近い和平案が出してくるはずです。
唯一異なるのは南部2州に占領地が加わって4州となったこと、そしてこれら4州はすでにロシアの「領土」に編入されていることです。
なんだ悪くなる一方じゃないですか。
ロシアのウクライナ侵攻直後に和平交渉 争点だったのは? 文書入手 [朝デジで読むNYタイムズ]:朝日新聞デジタル
しかし、いまそんな繰り言をいっても始まりません。
おそらくトランプ政権が考えているのはこのような「朝鮮戦争休戦型」のはずです。
①現時点で戦闘を中止し、この線を休戦ラインとする。
②現在のロシア軍占領地帯の主権はあくまでもウクライナにあるとする。
③ウクライナはNATO加盟の要求はしない。
ロシアの独立系情報アカウント「インサイダーT」はトランプ政権の和平案についてさらに詳細に述べているそうです。
①1200キロの前線に非武装地帯を設置し、英国や欧州連合(EU)の部隊が停戦監視に当たる。
②ウクライナは20年間NATOに加盟しない。
③米国はウクライナへの武器援助を続ける。
特に新味はありません。
忘れかかっていますが、2022年2月から4月までの数週間に渡ってウクライナとロシアとの間で和平交渉がなされています。
この時にロシアとウクライナの要求が出ていますから参考になるかもしれません。
その後に今年6月14日に、プーチンが言っていることをつけ加えれば、ロシアの要求はこのようなものです。
●ロシアの要求
①ロシアが一方的に併合宣言した4州の放棄。
②NATOへの加盟意欲の放棄。
③以上が受け入れられない限り停戦には合意しない。
(朝日2024年8月21日)
ロシアのウクライナ侵攻直後に和平交渉 争点だったのは? 文書入手 [朝デジで読むNYタイムズ]:朝日新聞デジタル
ウクライナが直ちに拒否したように、これは降伏要求ですから話になりません。
こういう態度を続ける限り、和平交渉は始めることすら難しいでしょう。
逆にウクライナの要求は2022年の和平交渉から変化していないとすればこうです。
●ウクライナの要求
①放射線と原子力の安全
②食糧安全保障
③エネルギー安全保障
④全ての捕虜と追放者の釈放
⑤国連憲章の履行とウクライナの領土保全と世界秩序の回復
⑥ロシア軍の撤退と交戦の停止
⑦正義
⑧環境の即時保護
⑨エスカレーションの防止
⑩終戦の確認
このウクライナ案が可能かと言えば、そうとうに困難であるのは確かです。
①は、戦争初期からロシアに軍事支配されているザポリージャ原発を念頭に置いています。
ロシアがこのサポリージャ原発から手を引かせるには、等価の恐怖をロシアに与えるしかないでしょう。
つまりクルスク原発をATACMSで攻撃することです。
もちろん原子炉建屋を破壊してしまったら交渉になりませんから、敷地内に着弾するような威嚇だけで充分です。
②は、戦争による農地の荒廃からの回復と、なんといっても国会の輸出ルートをロシアが封鎖したためにウクライナは苦境におちいりました。
今は執拗な黒海艦隊への攻撃で半ば壊滅状態になるために、輸出ルートは回復しつつあります。
③はエネルギーインフラへの攻撃の即時停止を意味しています。
④捕虜や市民が多くロシア領内に連行されているので、これを釈放しろということです。
以下の⑦から⑩までは、それを実現するための取り決めです。
特に中心的な要求である⑥「ロシア軍の撤退と交戦の停止」が実現可能かどうかですが、心を鬼して言えば限りなく不可能です。
戦線はロシア有利で膠着したままで、被占領4州の奪還はたいへんに困難です。
強いて言えば、クルスクとの交換で、被占領地域の返還を求めるくらいしか思いつきません。
このように詳細が見えないトランプ和平ですが、いずれにしても和平会談でのより有利な地位を求めてとうぶんは戦闘が激化するはずです。
« トランプのウクライナ和平案とは | トップページ | ロシア、ICBMを発射か »
プーチンが言うには「新型中距離極超音速ミサイル」で迎撃不能。ATACMS長距離型やストームシャドウへの「報復」なんだとか。
これもどこまで本当なのか分かりませんね。
アメリカはおそらく軌道や速度を捉えているかと思いますが。
「報復」ですか。プッ!
テメェで無用な戦争仕掛けておいて、何を言ってやがるんだが。エスカレートさせたいのはプーチンの方です。
あと、ペスコフ報道官の言うことは全く信頼が置けません。
長引くほどウクライナは厳しくなります。
トランプがどう振る舞うのかに注目ですね。
投稿: 山形 | 2024年11月22日 (金) 11時06分
いつもありがとうございます。
どのように和平が成立するのか、私も強く危惧しています。
トランプ氏が何の切り札もなく和平させるとは思いたくないです。
思いつくのは、クリミア大橋の破壊、前線部隊の寝返り、モスクワでの反乱、プーチン暗殺、原油増産・価格低下によるロシアへの経済的打撃、といったところです。
何かやって欲しいです。
投稿: プー | 2024年11月22日 (金) 12時31分
ロシア経済は崩壊寸前で、もはや立て直し不能なスパイラルに陥っています。頼みの油価も、トランプ政権とサウジの量産方針でロシア経済・軍事的復活の糸口すら見出す事ができません。また、スェーデンやフィンランドのNATO加盟だけじゃなく、連邦内の小国の離反傾向が日に日に明らかになりつつあります。
そうしてみると、欧州の所期の目的は達成出来つつありますが、それはウクライナ国民の血の犠牲で達成したもの。
いまだ詳らかに分からないものの、トランプがウクライナに通牒的に事実上の領土割譲を言うとしたら、おこがましさを通り越した狂ったディール。MAGAなんぞ独りよがりのクソです。
米国はじめ西側はその歴史的責任をちゃんと最後まで背負うべきであって、そのためには1991年当時の状態にもどす事が基本中の基本。
トランプ政権と言えどもウクライナと共にある姿勢が肝心かなめの大事であり、その上でウクライナの意思の下に事を成す以外に方法はありません。選挙中のトランプの馬鹿げた公約を押し通すべきではなく、我々日本や、韓国など同盟国の安心できる解決を望みます。
ですが私も上のプーさんと同じく、トランプ政権に一縷の望みは持っています。依然、方法はいくつもあります。対外的に発信したものと実際が違うのはトランプの場合、期待値を下げるためによく使う手法です。
ルビオがウクライナへトランプ流そのままの対応をするとも思えない。
しかしながら、トランプの馬鹿な発信のおかげで、むしろこのところの戦闘が激化しているのが現状です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年11月22日 (金) 15時09分