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2024年12月

2024年12月28日 (土)

今年もありがとうございました。

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今年も今日の更新でお終いとなります。
皆様のご支援に感謝いたします。心から感謝いたします。

さて、私事で恐縮ですが、去年から今年にかけて世の中に邪な人間がいることを改めて確認した1年でした。
この一件で、丸々1年半忙殺されました。
常に重苦しく、胸の上に大きな石を乗せて生きているような感覚とでも言ったらよいのでしょうか。
それもさまざまな人の手助けでなんとか解決しました。
昨日の歳のどん詰まりで終了しましたが、最低最悪の1年半でした。
結局、半分負けたのですが、いいとしましょう。

来年こそ新たな気持ちで再出発、といいたいところですが、気力がまだいまいち充填しません。
困ったもんです。
歳だな、とつくづく思います。かつてのようにひとつテーマに密着して1週間ぶち抜きなんてことは、今の私には到底無理。

まぁ1週間ほど正月休みを頂戴して、私の中のバッテリーに急速充電してまいります。

改めまして、皆様、良いお歳をお迎えください
更新開始は1月5日の日曜写真館からです。

                                                                           ブログ主

2024年12月27日 (金)

中国が残した「指紋」を隠蔽したWHO

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トランプがWHOを再脱退するようです。
けっこうなことです、WHOほど世界になくてよいものはありません。
「国連機関」という衣をまとって、存在するだけでナニか意味があるように見えるだけ有害です。
「トランプ氏の政権移行チームは、1月20日の就任式で、WHO脱退を発表する計画を専門家に伝えた。トランプ氏は、1期目にも脱退する方針を示していました。
当時は、新型コロナ感染拡大の真っ只中。対処するWHOが「中国寄りだ」というのが脱退の理由でした。実際にWHOに通告までしましたが、最短でも1年と言われる手続きの間に政権を引き継いだバイデン氏が即座に撤回しています」
(テレ朝12月26日)
トランプ氏「WHOから脱退」か “就任当日に”大統領令300以上(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
トランプのこの判断は当然すぎるほど当然な判断で、WHOはもはや偽装した中国の下請けにすぎません。
新型コロナの防疫に失敗したのは、武漢が発生源であるということを認めなかったからです。
そして原因究明は、中国におもねるあまりズサン、かつ作為的に歪められていました。
新型コロナは、2019年末に武漢で発生していました。
これがコロナの世界的パンデミックの始まりですが、この新型コロナと遺伝子情報が96%以上も合致するRaTG13ウィルスを作っていたのが、発生現場のすぐそばにある武漢ウィルスラボ(WHCDC)でした。

武漢ウィルスラボでは、自然界にいるコウモリの糞から採集されたウィルスを持ち帰って培養し、「手なずけ」(機能獲得実験)してRaTG13ウィルスを作っていました。
このチームリーダーが、武漢ウィルスラボの石正麗主任研究員です。目下行方不明です。

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武漢ウィルスラボ WSJ

いまでこそ、米国メディアはコロナウイルスの起源が、かぎりなく武漢ウィルスラボだということを報じていますが、この説が登場した当時、それを公表したのがトランプ政権だったことから、トランプ憎しに燃える米国リベラルメディアは陰謀論として葬ってしまいました。
本来は科学的知見で判断すべきことが、政治的ポリコレと化していたわけで、反知性主義は一体どっちなんだい、と言いたくもなります。
当時の雰囲気は、武漢ラボ説を唱えただけで、極右陰謀論者とレッテルを張られるような空気が充満していました。

ところが、トランプがいなくなってタブーの重しがなくなると、新型コロナウイルスが武漢市街でコウモリから人に感染したという従来の動物原性感染説の科学的論拠がないことがわかりました。
いくら探しても、武漢の市街地でコウモリからヒトへ感染が移った証拠がまったく出てこないのですから仕方がありません。
今や米国大手メディアのほぼすべてが何らかの形でこの起源説に同意しており、あいもかわらず「報道しない自由」のぬるま湯で昼寝しているのは、わが国のメディアくらいなものです。

そこで中国が苦し紛れに言い出したのが、コロナウィルス米軍持ち込み説です。
この新型ウィルスがそろそろ武漢でうごめきだす、2019年10月18日にあった第7回軍人オリンピックがあった、オレたちは米軍のウィルス攻撃にさらされた被害者なんだぁ、ということのようです。図々しいにもほどがあります。

「中国外務省の趙立堅報道官は12日夜、ツイッターで感染が拡大している新型コロナウイルスについて「アメリカで初めての感染はいつ発生し、何人が感染したのだろうか?この感染症は、アメリカ軍が武漢に持ち込んだものかもしれない。アメリカは透明性をもって、データを公開しなければならない。説明が不足している」などと書き込みました」
(NHK2020年3月13日)

「感染症は米軍が武漢に持ち込んだかも」中国報道官が投稿 | NHKニュース

中国側がいかにも因果関係があるかのように言っている、軍人オリンピックも、そこで9000回ものドーピング検査がされたといいながら、ここでもサンプルひとつ残っていません。
仮に軍人オリンピックが関係しているとしても、それは米国からコロナウィルスを「持ち込まれた」のではなく、米国などに「持ち込んだ」原因となったことによります。
つまり「入った」のではなく、「出た」のでしょう。

実際にこの大会参加者の中には、かなりの数のインフルエンザのような症状の患者が発生しています。
参加したカナダの選手は「街はロックダウン状態だった。私は到着後、12日間、熱と悪寒、吐き気、不眠に襲われ、帰国する機内では、60人のカナダ選手が機内後方に隔離された。私たちは咳や下痢などの症状が出ていた」とカナダ紙に証言しています。
マッコーネル報告書は、この軍人オリンピック大会の競技会場も、6つの病院も、さらには大会参加後に体調不良を訴えた選手がいた場所も、すべて武漢ラボの周辺に位置していたことを指摘しています。

この2019年9月の軍人オリンピックにより、新型ウィルスは世界的に拡散し、パンデミックを引き起こしたとマコーネルは報告書で結論づけています。
たしかに米国はCDCの指揮で、真っ先に武漢から米国人を専用機で引き上げさせていますから、あるいはそれ以前の軍人オリンピックで持ち込まれたのかもしれません。

次に、新型ウィルスが流出した可能性としては3ツ上げられます。
①実験動物の流出、②実験動物に噛まれたヒトから③生物兵器説などです。
華南理工大学・生物科学与工程学院教授・肖波濤教授 は②の実験動物に噛まれたという説を唱えています。

「WHCDCは研究の目的で所内に数々の動物を飼育していたが、そのうちの1つは病原体の収集と識別に特化したものであった。ある研究では、湖北省で中型コウモリを含む155匹のコウモリが捕獲され、また他の450匹のコウモリは浙江省で捕獲されていたこともわかった。ある収集の専門家が、論文の貢献度表記の中でそう記している。
さらにこの専門家が収集していたのがウイルスであったことが、2017年と2019年に全国的な新聞やウェブサイトで報じられている。そのなかでこの専門家は、かつてコウモリに襲われ、コウモリの血が皮膚についたと述べていた。感染の危険性が著しく高いことを知っていた専門家は、自ら14日間の隔離措置を取った。コウモリの尿を被った別の事故の際にも同じように隔離措置を講じたという。ダニが寄生しているコウモリの捕獲で脅威にさらされたことがかつてあった、とも述べていた。
(こうして)捕獲された動物には手術が施され、組織サンプルがDNAおよびRNAの抽出とシーケンシング(塩基配列の解明)のために採取されたという。組織サンプルと汚染された廃棄物が病原体の供給源だった。これらは、海鮮市場からわずか280メートルほどのところに存在したのである」
(華南理工大学・生物科学与工程学院教授・肖波濤教授 2020年2月6日、研究者向けサイト「リサーチゲート」 )

武漢ラボはフランスが作った最新のP4施設ですが、大きな落とし穴がありました。
ちなみにフランスは軍用レーダーなど多くのハイテク技術を中国に売っています。
きのう見たドイツといいフランスといい、じぶんの国から離れていることをいいことにせっせとこの異形の大国に高度の技術移転をして、育て上げることをしてきました。

そしていまや手がつけられなくなってから大慌てしている、まったく愚かとしかいいようがありません。
まぁそれを言うなら、トランプ就任直前にあえて中国に言ってゴマをすりまくる岩屋外相など、なんと評したらいいんでしょうね。

それはさておき、いかにも中国らしいのですが、施設はピカピカでも、実験動物の管理や実験後の汚物処理が前近代的なまま温存されていたのです。
管理は下請けの労働者に任され、杜撰で不潔でした。
農業大学では、実験動物を逃したことが明るみになっています。

武漢ラボでも多数の実験用コウモリが、ケージの外に逃げ出して、ヒトを噛んでいる映像すら残っています。
この動画には、武漢研究所内でケージに入った大量のコウモリが映っており、素手でコウモリに餌をやるシーンや、防護服グループがコウモリを追いかけたり、見学者たちの帽子に止まったり、時には噛みつく様子まで撮影されています。
また別の実験用コウモリを素手で扱い、噛まれて手が腫れ上がる映像も出ています。

「米紙ニューヨーク・ポストは28日(現地時間)、WIVの研究者が手袋やマスクなどの保護具を着用せずにコウモリとその排せつ物を扱う様子が映る中国中央テレビの映像を公開した。
2017年12月29日に中国で放映されたこの映像で、半袖・半ズボン姿の研究者たちは、手袋以外は保護具を着用しないまま、感染性が高いコウモリの排せつ物を採取した。

同研究室で一部の研究者は手袋を着用しないままコウモリの研究サンプルを受け渡しした。研究室の中で一般的な衣類を着て、頭に保護具をつけていない姿も映像にある。
この映像で、ある科学者は「コウモリが手袋をかみ切って私をかんだ」「針でジャブ(jab)をもらった気分だ」と言っている。この映像にはコウモリにかまれた部分がひどく腫れている写真も登場する。
映像で、研究者たちが素手でコウモリを扱う姿が出ると、番組司会者は「負傷の危険性は依然として存在している」「研究者たちは現場調査前、狂犬病の予防注射を受けた」と説明した」
(ニューズウィーク2021年6月16日)

そして武漢ラボ研究関係者から、2019年に既にCOVID-19の患者が2名出て、受診していることがわかっています。
原因はわかりませんが、考えられるのは実験動物との不用意な接触です。

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武漢研究所からのウイルス流出疑惑、中国紙「WHOの調査メンバーは

③の生物兵器説については決定的なことはいえません。
現時点では、その可能性も捨てきらないという段階です。
ただし、中国軍は超限戦(ハイブリッド戦争)という戦略思想を持っている国で、あらゆるものを兵器化することで知られています。

「言うまでもなく、人為的に作った地震、津波、災害をもたらす気候、あるいは亜音波、新生物・化学兵器などは新概念の兵器で、通常言うところの兵器と大きな違いがある。しかし、これらの兵器もやはり軍事、軍人、武器商人とかかわる、直接的な殺傷を目的とする兵器だ。こうした意味から言うと、これらの兵器は、兵器のメカニズムを変え、殺傷力や破壊力を何倍にも拡大した、非伝統的な兵器にすぎない」
(喬良人民解放軍国防大学教授・空軍少将『超限戦』)

ここで書かれた「新生物」というのが、新たに人工的に作り出されたウィルスのことなのはいうまでもありません。
現実に、中国国防大学は、人民解放軍が発行している「軍事戦略の科学」2017年版の中で、「特定の遺伝子を使用した攻撃」という新たな種類の生物戦争に言及しています。

「国際評価戦略センター(バージニア州)のリチャード・フィッシャーは本誌に対して、「未来の戦争においては、中国が(標的を絞って手を加えた)コロナウイルスやその他の病原体を使って、特定の民族グループ、年齢グループや国を攻撃することも予想される」と述べた。
フィッシャーは、2020年に世界の多くの地域がパンデミックで大きな打撃を受けたことは、生物兵器が効果的な兵器だという考え方を裏づけていると指摘する。「超限戦(際限なき戦争)」を信条に掲げる中国軍は、国家を、さらには文明さえをも殺しかねない生物兵器を使用することに、良心の呵責を覚えることはないだろう。次のパンデミックが起きた時、生き残るのは中国だけかもしれない」
(2021年6月1日 ニューズウィーク )

このような生物兵器すら使用する、しかも平時においても解禁するという発想は、全体主義国家でなければ到底不可能なことです。
民主主義国家において、そのよう条約やぶりは必ず発覚しますし、議会やメディアの攻撃に曝され、政権が吹き飛びます。
情報が極限まで国家によって統制可能な全体主義国家でなければ、できないことなのです。

英紙デイリー・メールは9日、「米国務省が対外秘としている報告書のなかには「武漢ウイルス研究所の研究員を含む中国の科学者は、2015年からコロナウイルスの軍事的可能性に関する研究を開始した」と記載されている」と報じました。
Sスパイクを操作し、人間のACE2受容体と結合できるようにして実験した事は既に2015年に『Naturre』誌で大論争になっていたのです。

新型コロナのパンデミックが始まって、まっさきに武漢にきたのが人民解放軍の生物戦担当官の陳薇少将でした。
陳少将が生物兵器であるとまで考えているのかどうかはわかりません。
陳は生物兵器をブロックする側であって、製造する側ではないからです。
しかし間違いなく、この武漢パンデミンクが自然発生したものではなく、人為的拡散されたと考えたことでしょう。
なぜなら、このような低毒性でありながら感染力が強い新しいタイプの生物兵器こそ、他ならぬ武漢ラボで研究していた超限戦用生物兵器だからです。

「たとえば同研究所は、1500株以上のコロナウイルスを保管しており、危険な機能獲得実験(特定の病原体の致死性もしくは感染力を高める実験)を行っていた。安全対策には不備があったし、新型コロナの最初の感染例が報告された場所のすぐ近くにある。ちなみに最初の感染例は、武漢の生鮮市場とは何のつながりもない。同感染症の「動物由来説」を信じる人々が、生鮮市場が感染源だと指摘しがちなだけだ」
(NW前掲)

 この武漢ラボも人民解放軍の指揮下にあり、意図的に使用したか否かは別にして、COVID-19が生物兵器、ないしはそれに対抗するウィルスの防御ために作られたことまではかなり確かであろうと言えます。
このように整理できるでしょう。

①中国は自ら「第1次世界大戦は化学戦争、第2次世界大戦は核戦争なら、第3次世界大戦は明らかにバイオ戦争となる」(『超限戦』)という戦争観と戦略思想を持っていた。
②「超限戦」という戦略下で、生物兵器を作る計画がを持ち、武漢ラボでコウモリウィルスから新型ウィルスを作出する機能性獲得実験を着々と積み上げていた。
③その結果、COVID-19に遺伝子配列が酷似したウィルスが出来上がったが、何らかの理由でそれが流出した。
④武漢でのパンデミックに恐怖した国家機関は、この証拠の隠蔽を命じた。

果たしてこれが偶然でしょうか?
つまり実際に「やった」という「自白」だけが欠落しているにすぎません。
ウィルスが漏洩したり、意図的に生物兵器として使用した証拠は見つかっていません。
仮にそれが見つかれば、中国は世界に対して天文学的賠償を支払わねばならず、国際的地位は地に落ちることでしょう。

ただし仮に生物兵器として作っていても、それを意図的に使用したかまでは今の時点ではなんともいえません。
米国やロシアにおいても化学兵器やウィルス兵器は研究されていますが、それは攻撃を仕掛けられた場合の防御のためだとされています。

中国が意図的に新型コロナウィルスを作った科学的証拠は9割9分積み上がっており、後は石正麗などの実際に武漢ラボでこのコロナウィルス実験に関わった科学者の証言と、パンデミックの後にそれの隠蔽を命じた国家機関の証言だけが揃わないだけです。

最後に、中国政府ご推奨の発生源がこれです。
中国は軍人オリンピックだと初めに言っていましたが、かんじんな血液サンプルが消失して証拠なし。
次に海鮮市場発生説にすがりましたが、WHOの調査団からも否定されてしまい、ヤケのヤンパチ最後に言い出したのが外国からの冷凍海産物が原因だったという爆笑ものの説でした。

あの中国にベタ甘だったWHO調査団は、冷凍倉庫まで視察させられ、報告書にその説も記載していますが、本気にはしてないと思いますよ。

「北京 11日 ロイター] - 中国山東省の煙台市当局によると、遼寧省大連市の大連港に荷揚げされた輸入の冷凍魚介類から新型コロナウイルスが検出された。冷凍魚介類は煙台市にある3社の事業者が海外から輸入したもので、ウイルスは包装の外側に付着していた。
どこから輸入されたものかは明らかにしていない」
(2020年8月11日)

中国で輸入冷凍食品から新型コロナウイルス、一部が輸出用に加工 | Reuters

どこから輸入したかわからないですってさ。それがハッキリすれば、発生国は決まりではありませんか。
とまれ中国はこれだけ大規模な「超限戦」に手を染めてしまったために(疑いですが)、うかつにも「指紋」をそこら中に着けまくってしまいました。
そしてWHOはその隠蔽を助けたのです。

※年末年始の更新について
明日28日で今年の更新を終了し、1週間の正月休みを頂戴いたします。
再開は1月5日の日曜写真館からとなります。

 

 

 

2024年12月26日 (木)

EVというイリュージョン

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ドイツ、自身が促進したはずの厳しすぎる排ガス規制の撤回を求め始めました。勝手なものです。

「[ブリュッセル 19日 ロイター] - ドイツ、イタリア、チェコは19日、2025年のCO2排出量目標を達成できなかった自動車メーカーに対して罰金を科す規則を撤回するよう欧州連合(EU)に求める考えを示した。
ショルツ独首相はEU首脳会議の後、「罰金を課さずに他の方法を検討するのが正しいと思う。簡単ではないが方法は見つかるだろう」と語った。業界をこれ以上苦しませることには意味がないとし、企業が電気自動車(EV)に投資する資源を罰金によって圧迫すべきではないとした。メーカーは新型EVを投入しているが、消費者に購入を強制することはできないとも述べた。
ショルツ氏はまた、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が自動車業界との「構造的対話」を開始するという計画を歓迎し、3月のEU首脳会議でその結果を協議することで一致したと明らかにした。
業界試算では、欧州メーカーは排出量目標未達で約150億ユーロ(156億2000万ドル)の罰金を科される可能性がある。メーカーは需要低迷、中国との競争、EV販売不振で苦戦しており、工場閉鎖や雇用削減に迫られている」
(ロイター12月20日)
独伊など、自動車業界への罰金撤回求める EU排出規制巡り | ロイター

ドイツは、「地球環境のためなら死ぬのは覚悟」という意識高い系政策を強引に進めた結果、エネルギーは常に不安定に陥り、電気代は高止まりし、EV推進によって国内の自動車産業は壊滅的なダメージを受けています。
遅まきながらやっと対処に動き始めたようです。

そもそも脱炭素をしたいのなら、世界一の環境破壊大国である中国やインドなど人口の多い新興国を巻き込まなければ意味がありません。
ところが中印はこういうこととなると急に「発展途上国」の範疇に入ってしまうから身勝手なものです。

ドイツの失敗はエネルギー政策の失敗に集約されます。
社民党のシュレーダーは強引に脱原発を実行し、それによるエネルギー不足をロシアからの安価な天然ガス輸入で補おうとしました。
シュレイダーは原発廃止で地球にやさしくとばかりにキレイゴトを言っていましたが、その裏でプーチンと癒着したパイプライン計画ノルドストリームの拡大を進めました。
退任の後には、ロシア国営エネルギー企業のガスプロムなどの役員を歴任するという売国ぶりです。これは汚職ではないのですかね。

そしてこの脱原発を完成させたのがメルケルでした。
彼女が推進した再生可能エネルギーは、太陽光や風力などの自然エネルギーを極限まで拡大し、不足時にはフランスから原子力発電由来の電力を買うという構造を作り出しました。

これでドイツの製造業は高いグリーン電力で競争力が失われる一方で、ロシアからの天然ガスで自家発電を回して凌ぐという矛盾したことをせねばならなくなりました。

この構造が壊れたことで、ドイツの産業界の国際競争力は危機的状況となりましたが、受難はまだ続きます。
この歪んだエネルギー構造は、ウクライナ戦争によるロシア制裁によりパイプラインが閉鎖、ドイツは必死になって新たな天然ガス供給国を探すはめとなります。
それだけにとどまらず、脱炭素エコノミーに乗ってドイツの自動車産業はEVへの全面的切り替えを行いました。
フォルクスワーゲンやアウディはEVに社運を賭けてしまったのです。

このEV熱病は世界的なものでした。
トヨタを唯一の例外として、ほぼすべての自動車企業がEVこそ次世代のものだと思ってしまったのですから深刻です。
EV老舗のテスラは、この自動車産業の複雑さに頭をぶつけ、いまでももがいています。

そりゃそうです。自動車購入は5年後前後に中古で売ることを前提にして考えられています。
オートローンも保険もそれが前提ですが、ではまっさらの未経験者が中古車市場という価格があってないようなマーケットをどう作ったらよいのでしょうか。
まずまちがいなく、テスラの5年落ちなど無価値です。
ましてや海のものとも山のものともわからないBYDのEVなど、中古車市場ではゴミ扱いされるはずです。
もっともBYDは、ゴミになってもかまわないくらいに思っていることでしょう。
BYDは政府の手厚い補助とEV誘導政策を受けて、わずか数年で世界有数の自動車企業に成長したような会社です。
中国製EVの成長率は、2018年から2020年までの3年間は5%程度でしたが、2021年には16%、2022年には29%、2023年には38%と急速に拡大しました。

販売台数別でみると、2021年は325万台、2022年は590万台、2023年は810万台と脅威の伸び率をみせています。

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EV充電エネチェンジ 

「中国政府は新車販売における新エネルギー車(NEV)の割合を2027年までに45%に引きあげることを目標にしています。もともと2025年までに20%以上、2030年までに40%以上、2035年までに50%以上に引きあげることを目標に掲げていましたが、早々にこの目標を達成したため、2023年に目標値が引きあげられました。(略)
新エネルギー車(NEV)の購入税免除の政策は2014年に始まりました。新エネルギー車(NEV)購入者は、車を購入する際にかかる10%の税金が免除されます。

この政策は当初2023年末に終了予定でしたが、2025年末まで同様の免税が継続され、その後2027年末まで50%の減税措置が実施されることになりました」
【2024年版】中国の電気自動車(EV)普及率、普及拡大の取り組みとは |EV充電エネチェンジ 

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いまや世界のEV市場を独占しつつあるBYDは、ブラジルなどに生産拠点を拡げて非人道的な労働で工場を建設しています。

「中国の電気自動車(EV)最大手、比亜迪(BYD)がブラジル北東部バイア州に建設中の工場で、中国人作業員163人が「奴隷のような状態」で働かされていたとして、ブラジルの検察当局などが24日までに作業員を救出し、建設現場の一部を閉鎖した。
当局や地元メディアによると、作業員はBYDと契約する企業に派遣された。パスポートを取り上げられ、賃金の6割を保証金として取られ自由が制限されていた」
(ZAKZAK12月25日)
工場建設で「奴隷状態」に 中国EV最大手のBYD ブラジル当局が作業員救出、パスポート取り上げ賃金の6割が保証金に - zakzak:夕刊フジ公式サイト 

EVは未完成な技術です。
EVは20万キロ~30万キロ走行すると駆動バッテリーがダメになり、交換費用だけで車が1台買えるような値段がします。
ガソリン車なら100万キロは走れるでしょう。
そのうえに寒冷気候に弱く、寒いとすぐにバッテリーが上がります。
寒いと充電量が半分程度で止まったり、充電時間がおそろしくかかります。
それを警戒して、ガソリンを使った自家用充電器を車に積んでいる人が増えています。
そりゃそうでしょう、零下の気温でEVに充電機がない田舎で止まられたら、下手すりゃ死にます。
ですからEVの新車を買っても長続きせずにガソリン車やハイブリッド車に戻ろうとして中古車屋に持ち込んでも、EVの査定は捨て値です。

そもそもその電気自体はどのようにして確保されているのでしょうか。
仮に中国のように全面的にEV化した場合、エネルギー源の確保はもとより、発電所、送電網、変電設備、発電に必要な燃料の増産など、総合的に強化していくしかありません。
エネルギー源は原油やLPGですから、常にエネルギーに飢えて世界をさまようことになります。
再生可能エネルギーを拡大するためには、日本では「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という名目で電気代に上乗せしています。
とんだ増税ですが、この賦課金によって各家庭の電気代は1割ほど高くなっています。
このように国民負担を増やして、国民生活を圧迫しながらEVを進めていたわけです。

さてドイツに話を戻します。
ドイツの国家的ビジネスモデルそのものが安価なロシア産天然ガスを使って、中国への雪崩的輸出をかけるというものでした。

ドイツ自動車産業は、中国市場のEV化に歩調を合わせて中国国内での自動車生産を拡大していきましたが、国家が後押しする中国EV自動車企業にかなうはずがありません。
これについては別に記事にしますが、EVは内燃機関という100年以上の歴史が詰まった技術と違って、しょせんプラモデルのようなものです。
EVは一種のゴーカートのようなもので、モーターを電池で動かし電子部品で制御するというチープな構造をしています。
したがって新規参入はカンタン、自動車産業が営々と積み上げてきた経験と技術は無用となり、フォルクスワーゲンだろうと中国製EVとまったく同列、しかも中国製のほうがはるかに安い、見た目は一緒、ということになりました。
なんせ潰れかかった不動産会社の中国恒大さえ、簡単に参入できるほど敷居は低いのですから話になりません。いまや中国市場には中国製EVがひしめいています。

中国のEV市場(2023年1月〜10月)における販売台数EVトップ10は以下になります。
BYDが10位内に6種も入っています。

  1. BYD「Song」
  2. BYD「Qin Plus」
  3. Tesla「Model Y」
  4. BYD「Yuan Plus」
  5. BYD「Dolphin」
  6. GAC「Aion S」
  7. GAC「Aion Y」
  8. SGMW「HongGuang Mini EV」
  9. BYD「Han」
  10. BYD「Seagull」
    【2024年版】中国の電気自動車(EV)普及率、普及拡大の取り組みとは |EV充電エネチェンジ

ドイツ車など影も形もありません。ドイツ車は差別化ができず、さらに中国政府の補助金などにより、中国国内での販売が低迷しました。
北米でもEV販売で差をつけられています。
このままEV熱病が続くと、世界の自動車産業は中国製EVで市販されることでしょう。
まぁ、トランプが強烈なパンチを食わせるでしょうが。
民主党政権が続いていたら、世界の自動車産業はBYDに完全支配されていたはずです。ぞっとします。

かくして、EVと中国市場に全振りしてしまったドイツ自動車産業は驚天動地の危機に陥ったのでした。
今思えば、ドイツは中国の罠にかかったのですね。
14億市場というオイシイ餌に引っかかって中国に引っ張り込まれ、EVに全てを賭けてしまうまでのぼせ上がり、ぬきさしならないところまで来てから中国では売れない、と来ているのですからむごい。
せめてリスク分散して、ガソリン車やハイブリッドもラインに入れておけばここまで悲惨なことにはならなかったものを。

とまれ、これがフォルクスワーゲンのリストラの背景です。

「ドイツ国内で少なくとも3つの工場を閉鎖し、数万人の従業員を削減する――。欧州最大、世界2位の自動車メーカーであるドイツのフォルクスワーゲン(VW)が10月28日、なりふり構わぬリストラ計画を労働組合に突き付けた。
VWグループは、VWの他、アウディやポルシェ、ランボルギーニ、ベントレーなど数々のブランドを傘下に持つ。お膝元のドイツで工場を閉鎖すれば、1937年の創業以来初の事態となる」
(日経ビジネス2024年11月5日)
フォルクスワーゲン、閉鎖工場は「少なくとも3つ」 リストラの舞台は:日経ビジネス電子版

このようにドイツ経済の打撃は、ひとつふたつのものではなく、いままでの政権がやってきた膿が一時に吹き出したものですから、これを建て直すとなれば、歴代政権のやってきた政策の徹底的見直しをせねばなりませんが、それがでるきとはおもえません。
この深刻なドイツの失敗から較べると、原子力を基幹とするエネルギー源をもち、EVに傾斜しない自動車産業を持つフランスはまだ傷が浅いというべきでしょうか。
つくづくドイツに学ぶな、と思います。

 

2024年12月25日 (水)

独仏、同時政権崩壊危機

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世界同時政権瓦解が起きています。
G7だけでも、米独仏加で政権が交代し、日本もご承知のような少数与党の状況です。
韓国はG7ではないものの、政権崩壊しました。
これだけ一斉に世界の政治が揺れ動いたことはなかったと言われています。

まずはフランス。政治的混迷が止まず、年内の予算成立に不安が出て、経済にまで悪影響がでてきます。

「フランスの政局が混迷。2025年度予算が緊縮的な内容であったことから審議が難航し、12月上旬には内閣不信任案が可決。9月に発足したばかりのバルニエ内閣は早くも総辞職に追い込まれる事態に。これを受け、12月13日にマクロン大統領が中道派のフランソワ・バイル氏を首相に任命。もっとも、議席の過半数を占める政党が不在である議会構成は変わらないうえに、フランスの政治制度では、前回選挙から1年経過するまで総選挙を実施できないことから、当面は議会が膠着状態に陥る公算大」
(日本総研2024年12月16日)
高まるフランスの政情不安 ― マインド悪化や金利急騰が景気下押しも ―|日本総研

マクロンは息も絶え絶えながら大統領制が故に易々とは退陣せずに、しぶとく新首相を任命しました。
大統領は議会の融和を図るため、中道右派の共和党、中道左派の社会党などの穏健派を集めて意見交換を行ったものの合意形成に失敗しました。

この大統領のひ弱さの原因は、マクロンが少数与党だからです。どこかの国でも聞いた構図ですね。
政権党は第1党でなければまともな政権運営はできません。
政策を出すごとに、野党との合意形勢をせねばならないからです。
今、ゲル氏が脂汗を流しているのは自公で過半数を押さえられていないからです。

マクロンの今年7月の国民議会選挙では3党に甘んじている始末です。
とにもかくにもマリー・ルペン率いる国民連合を第1党にしないために、中道と左派で連合を組んでいちおうなんとか凌いだものの、主要3党はどれも単独過半数を獲得できず、深刻な混乱となりました。

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フランス議会下院選挙で左派連合「新人民戦線」が最大勢力 議会の多数派形成は難航も | NHK | フランス

「フランス国民議会(下院、定数577)の選挙は、7月7日に決選投票が行われた。6月30日の第1回投票(2024年7月2日記事参照)でトップに立った極右「国民連合(RN)」は単独過半数獲得による政権交代を目指したが、エマニュエル・マクロン大統領を支持する中道の与党連合と左派連合「新民衆戦線(NFP)」が反RNで共闘し、RNは改選前の議席数を大幅に増やしたものの、第3勢力にとどまった。投票率は66.63%と、前回2022年の投票率を20ポイント以上も上回った」
(ジェトロ ビジネス短信2024年7月9日)
フランス下院選、左派連合が最大勢力に、極右は失速(フランス) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

そもそも与党連合は政策的にはアッチとコッチ。
第1党となった新人民戦線(NFP)自体が、急進左派から共産党、中道左派まで幅広い勢力が参加している闇鍋ですから、まとまった政策が出る道理がありません。
マクロンがやたらスポーツ選手の激励に走るのは、たぶん急速に失われている求心力を得たいのでしょう。

しかし、この政権の先行きは真っ暗です。

ところでドイツはもっと深刻です。シュルツ社民党が率いる連立政権が瓦解しました。
原因は、社民党が連立を組む自由民主党(FDP)から出ているリントナー財務相(党首)を解任したことで、これで過半数割れをして一気に政権が崩壊し、なんと20年ぶりの総選挙だそうです。
来年2月に総選挙ですが、ここでイーロン・マスクご推奨の「ドイツの選択」(AfD)などに政権を明け渡すととんでもないことになるでしょう。

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トランプ再選で「ドイツ経済悪化」3つのリスク 1期目より2期目のほうがリスクが大きい理由 | トランプがくる! | 東洋経済オンライン

「ドイツ連邦議会で12月16日、オラフ・ショルツ首相の信任投票が実施され、反対多数で否決された。この結果を受けて、ショルツ首相はフランク=バルター・シュタインマイヤー大統領に議会の解散を提案した。2025年2月23日に20年ぶりとなる議会解散に伴う総選挙が実施される見通しとなった。
信任投票では、反対が394票で過半数に達した。反対票を投じたのは、最大野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)をはじめ、連立パートナーだった自由民主党(FDP)など、ほぼ全ての野党勢力だった。ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)は賛成、ともに連立政権を担っている緑の党は棄権した」
(ジェトロビジネス短い信号2024年12月19日)
ショルツ首相の信任投票が議会で否決、20年ぶりの解散・総選挙へ(ドイツ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

ドイツは気候変動対策の最優等生国としてCOP29を主導せねばならない立場でしたが、痛恨の欠席となりました。
メルケルからシュルツまで脱炭素の旗振りをしてきたドイツのCOP29欠席は、まさに今の世界にとって象徴的な出来事です。
この原因はひとえにドイツ経済の破局的状況によります。

よく日本の人口の半分のドイツがGDPで日本を抜いたぞ、ドイツすごいぞ、日本落ち目という者がいますが、それは為替レートが作り出したイリュージョンにすぎません。
ドイツの主力産業である自動車産業は壊滅的打撃を受けており、この動揺に移民問題などが被った形になりました。

ドイツだけで長くなったので切り離しました。

2024年12月24日 (火)

イランが大規模停電と通貨暴落で大揺れ

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イランが揺れています。
国内で深刻な電力不足が起きていると、アルジャジーラが伝えています。

歴史的な地域的緊張の中でエネルギー危機と通貨危機が深刻化する中、当局がサービスを停止したため、イラン全土で数千万人が大きな混乱に直面しています。
今週、主要州と首都テヘランの政府機関、学校、銀行、企業は、気温が氷点下に下がったことによる燃料不足と電力不足の悪化により、大部分が閉鎖されました。
エネルギー大臣のアッバス・アリアバディは水曜日に、燃料不足のために13の発電所が稼働していないと述べました。
燃料が供給されれば、発電所は必要な修理を受け、冬の準備ができているので、電力供給に問題はありません。石油省は燃料供給をフォローアップしている、と彼は閣議後に記者団に語った。
全国の家庭で再び停電が発生していますが、そのほとんどが予告なしに何時間も続いています。
また、大規模な産業停電が発生し、大規模なエネルギー集約型産業だけでなく、全国の多くの中小企業にも影響を及ぼしています」
(アルジャジーラ2024年12月18日 )
イランの主要サービスが閉鎖され、リアルが急落し、エネルギー危機、地域の緊張 |ビジネス・エコノミーニュース |アルジャジーラ

イランは、世界第2位の天然ガス保有国ですが、核兵器開発のために国際制裁を食っています。
2018年にトランプが史上最強の制裁をかけて、さらに2次せいさいまでかけています。
2次制裁を受けると、制裁破りに加担した企業まで罰せられます。
バイデンに代わってからも、イスラエルに対するミサイルやドローンによる攻撃に対する制裁を受けています。

「2024年10月11日、米財務省外国資産管理室(OFAC)は、イランによるイスラエル攻撃(10月1日)の報復措置として、イランの石油部門に対する新たな制裁を発表した。今次制裁は、2018年8月にトランプ前政権が発表した大統領令13846や、今年4月に緊急追加歳出法の一部として制定されたイラン石油密輸防止措置(SHIP法)に基づくものである。
今次制裁の目的は、イランの軍事費や、イランが中東全域で「抵抗の枢軸」勢力に資金提供するための財源となる、イランのエネルギー収入を制限することである。制裁の対象は、イラン国営石油会社(NIOC)や香港拠点の衆祥石化(Triliance Petrochemical)によるイラン産原油の輸出に関係する、10企業と17隻の船舶である。これらの企業はUAEや中国、マレーシア、マーシャル諸島などに拠点を置き、主にイラン産原油を中国の製油所に輸送している」
(中東調査会2024年10月18日)
イラン:米国によるイラン石油部門への追加制裁 | 公益財団法人 中東調査会 

ちなみに大口の制裁破り国は中国で、マレーシアを迂回したり、沖合で積み替えたりする瀬取りをしていることが発覚しています。

「中国が海上で船から船に積み荷を移し替える「瀬取り」や第三国を経由した迂回輸入でイラン産原油を確保している疑いが浮上している。トランプ米政権が5月にイラン産原油の全面禁輸を発動して以降、中国の輸入は公式統計上は激減したが、非公式ルートで一部取引が続いている可能性がある。米制裁に反対する中国がイランを側面支援しているとの見方もある」
(日経2019年7月3日)
イラン原油輸入、中国が「迂回」か 「瀬取り」や第三国経由 - 日本経済新聞

このような経済制裁に対処するために、イランは海外への密輸を重視しました。
なんと産油国でありながら、国内への供給を削減してしまったのです。
燃料不足のために13の発電所が稼働を停止しました。
そのうえに、電力インフラが経済の悪化に伴ってボロボロで、まともに消費者に届かないようです。

かくて起きたのが予告なしの大規模停電です。

「今年8月に就任したペゼシュキアン大統領は、大気汚染を防ぐために、安い燃料を燃やすことは避けると発表し、その直後から国内での長時間の停電が始まった。
その後、10月、11月と寒さが忍び寄る季節になっても、昼間に長時間停電になっている。
12月18日、イランでは氷点下に陥る中、燃料不足で発電所13カ所が稼働を停止した。このため、政府は、学校や大学、銀行、官公庁を閉鎖し、社会が麻痺する事態に陥った。
今後、企業や経済活動に大きな影響が出てくると懸念されている」
Iran key services shut as rial plunges amid energy crisis, regional tension | Business and Economy News | Al Jazeera

冬季に大気汚染防止のために電力停止というのはご愛嬌で、イラン経済がいかに行き詰まっているのかの現れと見られています。
こうした中、イラン通貨のリアルが暴落しました。

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タイムスオブイスラエル

「テヘラン、イラン(AP)—水曜日のイランリアルは、ドナルド・トランプが11月の米国大統領選挙で勝利して以来、価値の10%以上を失い、中東で猛威を振るう戦争に閉じ込められたままのテヘランにとって新たな課題を示唆し、歴史上最低の水準に下落した。
テヘランのトレーダーによると、リアルは対ドルで777,000リアルで取引され、トランプが勝利した日の 703,000リアルから減少した。
イランの中央銀行は、過去に、金利を改善するために、より多くのハードカレンシーを市場に流し込んできた。
火曜日の夜、国営テレビとのインタビューで、中央銀行総裁のモハンマド・レザ・ファルジンは、外貨の供給が増加し、為替レートが安定すると述べた。彼は、2億2000万ドルが通貨市場に注入されたと述べた。
イランが水曜日に学校、大学、政府機関の閉鎖を命じたため、厳しい冬の状況によって悪化したエネルギー危機の悪化により、通貨は急落しました。この危機は、停電の夏に続くもので、今では厳しい寒さ、雪、大気汚染によってさらに悪化している」
(AP2024年12月19日)
イラン・リアルが過去最低値を更新、地域の緊張とエネルギー危機に打撃を受ける |AP通信

こうした苦境の原因は、イランのイスラム革命防衛隊(コッズ部隊)にあります。
革命防衛隊は政府の統制下になく、ハメイニ師だけに仕えるテロ組織です。
このような「私兵」が、自らの代理人である中東のテロ組織に供給する資金調達のために石油産業に対する支配を強化しました。
いまや原油輸出の半分を管理していると報じられています。

「イランの革命防衛隊は、イランの石油産業に対する支配を強化し、テヘランの歳入の大部分を生み出し、中東全域の代理人に資金を供給する輸出の最大半分を管理していると、西側当局者、治安筋、イランのインサイダーは言う。
ロイターのインタビューに応じた12人以上の人々によると、制裁対象原油を秘密裏に輸送する影のタンカー船団から、物流や石油を主に中国に販売するフロント企業まで、石油ビジネスのあらゆる側面が警備隊の影響下に置かれている」
(タイムズ・オブ・イスラエル2024年12月18日 )
レポート:革命防衛隊はイランの石油輸出の最大50%を支配し、収入を委任状に充てる |イスラエルのタイムズ

この間、イランはハマスを失い、ヒズボラを無くし、とうとうアサドのシリアまで陥落しました。
いかに革命防衛隊が、国を傾けてまでやってきた「抵抗の枢軸」づくりが無意味だったのかまだわからないのでしょうか。

 

2024年12月23日 (月)

飯山さん、そりゃ間違っているよ

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飯山陽氏という論者はイスラムや中東では聞くべきものを持った人ですが(ただしイスラエル贔屓にバイアスしすぎ)、こと安全保障となるとまるでトンチンカンのようです。
飯山氏は読売の社説を批判しながらこう述べています。

「アメリカからすれば、日本というのは同盟国のひとつにすぎない。
日本の「保守」的な論者は、「アメリカにとって日本は極めて重要な同盟国なんだ!」と主張しがちですが、客観的に見ればとてもそうとは言い難い。それが証拠に、トランプは日本からの米軍撤退を仄めかしたことがあるし、大統領選挙中から今にいたるまで、外交について語る際に日本について言及することはほとんどない。
日本人は認めたくないかもしれませんが、日本はアメリカにとってもはや、とるにたりない存在になりつつある。少なくとも私はそう見ています。そしてそれはアメリカにとってだけではなく、世界中の多くの国にとっても同様です。
かつて急速に発展を遂げたアジアの雄として途上国の憧れの的であった日本は、もういない。
アメリカにとっても、冷戦の際、ロシアの東側の抑えとして重要な意味をもっていたその日本も、冷戦終結後にはその重要性を失った。
確かに今のアメリカにとって、中国は脅威でありライバルです。しかし中国はアメリカ本国からはるかに遠い。
日本が中国に近いからといって、アメリカが多大な戦略的資源を投入してまで日本を死守しなければならない必要不可欠性は、はっきりいってほとんどない。特にアメリカ第一を掲げるトランプ政権にとってはそうです」
(飯山陽note12月20日)

ウヘぇ~と言うほど全部間違っています。「中国は米国からはるかに遠い」って、あなたねぇ。
経済、軍事のみならずいかに中国が米国内のありとあらゆるところに手をのばしているのか、それを糾弾してきたのが他ならぬトランプでしょうに。

飯島氏は初歩的な地政学を学んでいないようで、一昔前のジャパン・パッシング論を蒸し返しています。
トランプが「日本撤退をほのめかした」と言っていますが、本当に在日米軍を撤退させると言い出したら、米軍は力づくでもそれを阻止しようとするでしょう。

日本の、というより日本列島の地政学的位置を確認しておきましょう。
地図を見れば一目瞭然です。 

Photo_3

 まぁよく見慣れた普通の地図ですが、これをヨイショとひっくり返すとこうなります。

Photo_2http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1510/kj00000275.htmlより転載)

 俗に「逆さ地図」と呼ばれていますが、正式には「環日本海・東アジア諸国図」といって、れっきとした国土地理院が作っているもので、ちゃんと市販しています。
一般の地図だと、なんとなく日本側からだけ見てしまいますが、中国から見ると日本列島はこう見えるというのを知るにはうってつけの一枚です。 
画面中央やや右の、朝鮮半島と山東半島に囲まれた大きな内海が渤海です。 
ここにはなにがあるでしょうか。
はい、日露戦争で有名な旅順港です。ここは有数の良港なので、ロシアが軍港を作り、日露戦争の激戦地になったので地名くらい聞いたことがおありでしょう。 

当然のこととして中国海軍は、ここに中国北海艦隊の軍港を置きました。司令部は海を隔てた青島です。
おそらくこの海域が中国にとって最も重要な軍事ゾーンです。

Photo_4
旅順軍港は遼寧省にありますが、これもどこか聞いたなという方は鋭い。中国の初の空母の「遼寧」の名はここから取られているのです。
なぜ、最初の空母に遼寧とつけたかは説明しなくてもわかりますね。 

ロシアが不凍港を求めて19世紀の南下政策をとって世界をグレートゲームに巻き込んだのと同様に、中国にすれば奥まった場所にある深い港、が垂涎でした。
というのは、大陸に面した海は大陸棚に囲まれていて浅い港ばかりだからです。
中国は南部がズっと海に面しているだろうって。 
残念。この沿岸部は、一部を除き浅い大陸棚が続いているために軍港に適していないのです。 
しかも地形的になにも遮るものがなく、むき出しで東シナ海に面している守りにくい港はばかりです。

次に、この旅順港すら目の前にわが日本列島が封をしているように立ちふさがっているのが分かりますか。 
日本列島は、まるでそのためにあつらえたかのように、ロシアの太平洋の出口を塞ぎ、本州全体で沿海州に面した日本海を内海化してしまい、さらに南に下れば、九州から奄美諸島、沖縄、八重山と南西諸島が連なって、中国の前にのびのびと連なっています。
さぞかし目障りなこととお察しします。
そして、沖縄から先はさらに台湾につながり、台湾からはバシー海峡を挟んでフィリピンへと続き、その端はベトナムに連結しています。 
こうして見ると、中国にとって自由に動ける海はごく限られているのが分かります。 

となると中国からすれば、広い海へ出て行こうとしても、先に挙げた日本列島の島々の間を縫って行かざるをえなくなります。 
実際に、こんな感じです。 

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上図は近年の中国海軍の動向を見たものです。 
西に東に四方八方に、中国海軍が近隣諸国を脅迫し威嚇を加えながら、ヤクザよろしく膨張している様子がお分かりになるだろうと思います。 
しかし、太平洋方向に出ようとすると、どうしても沖縄諸島の間を縫って通過していかねばなりません。 

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ch_d-act_a_2023.pdf

こういう狭い地点のことをチョークポイントと呼びます。チョークとはプロレスの反則技でもありますが、締めつけて窒息させることもできる急所のことです。 

世界的には、海上交通の多い狭隘な海峡のような場所のことで、有名な地点としては、マラッカ海峡、ホルムズ海峡、スエズ運河、パナマ運河、マゼラン海峡、ジブラルタル海峡、ダーダネルス海峡などがあります。
わが国は、幸か不幸か、地理上たくさんのチョークポイントを持っている国です。
しかも相手国が、中露二ヶ国ときています。
トルコやギリシャは黒海の入り口を塞いでいてロシアにとって障壁となるために、NATO諸国で重要な位置を与えられていました。

同じような働きをアジア地域でしていたのが、わが日本です。 

 

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日本のチョークポイントは北から宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡があり、これらの3地点だけで、太平洋に出たいロシア艦隊にとって、ヒジョーにイヤな急所になります。 
さらに大隅海峡、宮古海峡というチョークポイントは、中国艦隊にとって、不愉快極まりない地点になっています。 

中国からすれば、そもそもそこにあるだけで目障りな上に、日本は経済的にも巨大で、最先端のハイテク兵器を国産して、兵員数や武器の数は少ないながらも高度な訓練が行き届いた自衛隊が存在します。 
何がなんでも海洋膨張したい中国にとって、日本ほどうっとおしく邪魔な存在はないでしょう。 

長くなりそうなのでここで止めますが、こんな日本列島を米国が「取るに足らない存在だ」と認識するはずがありません。

 

2024年12月22日 (日)

日曜写真館 夕風や水青鷺の脛をうつ

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青鷺の人をあなどる野分かな 卓池

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湖冷えて白鷺おのが身を映す 鷲谷七菜子

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青鷺や沼さんらんと日を沈む 角川源義

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青鷺のなくや立去る雨宿り 桜井梅室

 

 

2024年12月21日 (土)

なぜシリア軍はたった8日で消滅したのか?

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14年間続いたシリア内戦は、アサド政府軍のたった8日間の消滅で終了しました。
たった8日で地上からなくなってしまう「軍隊」って、いったいなんなのでしょうか。
今日はその理由を考えてみます。

8日間で敗れたというと、よほど装備が劣悪で数も少なかったのか、とおもいますが、そんなことはありません。
兵員数は陸軍だけで公称21.5万(予備役50万)となかなかの規模をもっていました。
装備もロシアやイランからの支援で充分に近代的軍隊のカッコウはつけていました。

ただこれはあくまでも見た目だけであって、実態はというと半数以下の10万~13万といったところまで減っていました。
予備役に至っては、どこにいるのそんな奴らの世界だったようです。

アサド軍がこの世から消えた大規模攻勢が始まった翌日の11月28日、陸軍総司令部は全軍に完全な戦闘態勢をとるよう命令する電報を発しています。
しかし、多くの兵はこの命令に無視し、将校は真っ先に逃げ出し、兵士らも軍服を脱いで市民に混ざって逃亡する者が絶たなくなります。
慌てた政府は、12月5日水曜に政府は兵士の給与を50%引き揚げるとマヌケな発表します。
しかしもう兵士の相当部分が逃げ出しており、給与アップしてもたかだか80ドルていどで、第一ほんとうに支給されるかどうかわからないのですから歯止めになるわけがありません。
そもそも軍が崩壊しそうだからといってあわてて給料を配る、というのもなかなかのもんです。(笑)
当然、兵隊の士気はゼロ。

運悪く徴兵されてしまったある兵士はこんなことを言っています。

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タイムズオブイスラエル

「23歳のシリア軍徴集兵ファルハン・アル・ホウリは、高給取りで、意気消沈していた。反政府勢力が支配する都市イドリブ近くの低木地帯にある彼の軍の前哨基地には、9人の兵士がいるはずだったが、何人かが指揮官に賄賂を贈って兵役から逃れた後、3人になっただけだと彼は言った。(略)
11月27日水曜日、反乱軍の車列が彼の方に向かっていることを告げた。
(将兵は)私服に着替え、ライフルを捨てて逃走した。彼が南に戻る道を歩いていると、他の兵士たちも持ち場を放棄していた。
「振り返ると、みんなが私の後ろを歩いているのが見えました。一人が逃げるのを見ると、全員が武器を投げ捨てて逃げ始めた」と彼は今週、馬小屋で仕事を見つけたダマスカスでロイターに語った。

2週間足らずで、反乱軍は首都ダマスカスに侵攻し、バッシャール・アル・アサド元大統領を打倒した。この敗走は、何十万人もの人々を殺した13年間の紛争を突然終わらせた」
(タイムズ・オブ・イスラエル2024年12月12日)
士気をくじかれ、同盟国に見捨てられた:シリア軍がアサドのために戦わなかった理由 |イスラエルのタイムズ

元来、シリア軍は正規軍と民兵、ビズボラ、ハマスなとの兵から成るグチャグチャな存在で、むしろ「武装勢力」と言ったほうが妥当な軍隊だったようです。

「内戦による荒廃によって兵の応召は機能不全に陥っており、正規軍の兵力不足を補うために予備役部隊が創設され、他にもバアス党の民兵組織やシーア派民兵組織のヒズボラアル=アッバス旅団AAHカターイブ・ヒズボラ等に加え、シリア社会民族党民兵組織、ドゥルーズ派民兵組織、アラウィー派民兵組織ならびにパレスチナ人の民兵組織など、シリア人のみならずレバノン人やイラク人、パレスチナ人などによって構成される数多くの親政府武装組織が活動している」
シリア軍 - Wikipedia

指揮系統も混雑していて、軍の上にイランのコッズ部隊指揮官がいるような二重構造で、各国から来ている民兵は独立していててんでんばらばらという闇鍋状態だったようです。
このうち正規軍と警察は人口の1割しかいないシーア派の一派であるアラウィー派が支配していました。
彼らはアサドの威光を借りてやりたい放題で、軍と警察のを私物化した上に、さらに自分の自由になる私兵を乱立させました。
そしてなにをやっていたのかといえば、お定まりの麻薬の密輸や人身売買でした。
そして将軍どもが、この犯罪利権を巡ってバトルを繰り広げていたのですから、こんなものを軍隊と呼ぶのがおこがましいようなシロモノです。

政府軍が逃げたあとには、多くの麻薬工場が発見されています。

「シリア内戦で崩壊したアサド政権が、国家ぐるみで麻薬など違法薬物の製造や密輸に関与していたことが明らかになりつつある。旧反体制派を主導する「シリア解放機構」(HTS)が制圧した首都ダマスカス郊外の「秘密工場」には大量の痕跡が残されていた。(略)
キャプタゴンは近年、中東諸国で乱用が深刻化している合成麻薬。ロイター通信によると、世界の年間取引額は推定100億ドル(約1兆5500億円)で、シリア指導部の利益は約24億ドルに上っていた。バイデン米政権は、アサド政権中枢に近いビジネスマンや、同政権と同盟関係にあった隣国レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラが密輸に関与しているとして制裁を科していた」
(産経12月15日)
シリア首都郊外に「秘密工場」 アサド政権の麻薬ビジネス明るみに - 産経ニュース 

シリアで作られた麻薬は、オレンジの箱などに入れられて偽装して陸路でレバノンに運ばれ、湾岸諸国へ空輸されたりしたとみられています。
たぶんこの麻薬のレバノンルートは、ヒズボラが仕切っていたはずです。
シリアは石油がでないので数少ない輸出品だったようです。

「米国の推計では少なくとも数十億ドル規模の密輸が行われ、武器購入などに充てられていた可能性が高い。バーシルさんは「政府や軍が関与していなくては大規模な密輸など不可能だ」とし、「アサド政権は国家ぐるみで麻薬を売りさばいていた。やつらは犯罪者だ」と吐き捨てた」
(産経前掲)

国家ぐるみで麻薬を密輸していたカネは、将軍や政府幹部の懐に納まり富が独占される一方、軍内部は腐敗が横行しました。
上層部は利権で血眼、将校には満足な給料も支払われず怒りを募らせ、兵士たちの食料や給料は将軍どもが中抜きし、食料すら事欠く有り様だったようです。
兵役逃れが常態化し、わいろが横行という悪循環でした。

将軍どもの本業は麻薬密輸、兵隊は逃げ出すというどうしようもないシリア軍がなんとかここまでもったのは、ひとえに外国の武装勢力が代わって戦っていたからです。
実際に戦闘をしていたのは、イランのコッズ部隊とヒズボラ、そしてパレスチナの過激派、その他、イランが支援するイラクの民兵組織、アフガニスタンのシーア派戦闘員、そしてなによりロシア空軍がいたからにすぎなかったようです。

とうぜんのことながら、イランとロシアの力が弱まった瞬間、シリア軍は蒸発してしまったわけです。
軍隊はその国を現すといいますが、まことにシリアとはそのとおりの国だったようです。

 

2024年12月20日 (金)

世界の半分の米軍展開を支える日本列島

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トランプと交渉していると、つい「受益と負担」という側面ばかりに話が行ってしまいがちです。
米国が「オレらがお前らを守ってやっている」と権高に言ってくれば、なんとなくそうかなと思ってしまう心理的素地が日本にはあるようです。
ですからトランプが再登場するとなると、あらかじめ予防線を張ってしまい、「今訪米すると難しい宿題もらっちゃうから」と情けないことを官房長官が言う始末です。
もう試合前に負けモードですから、これでほんとうにトランプがガナったらどうする気なんでしょうかね。

ちょっと頭を冷やして考えてみて下さい。
日米安保は「米国が日本を守る」条約ではありません。
そもそも国際関係の中での「同盟」(alliance )とは互いに利用し利用される関係のことです。

どちらか一方が得をする事などありえない代わりに、同盟の利害が消滅すれば速やかに解消されます。そこに情緒や左右の理念が入り込む隙間はありません。
ですから、欧米では外交・安全保障政策は、いかに政権が替わろうと変化しません。

ところでわが国の場合、いままで大きな「同盟」をふたつ結んでいます。
ひとつは1902年の日英同盟で、もうひとつはいうまでもなく1960年の日米同盟です。
ロシアの南下政策を目前に控えたわが国にとっては願ってもないことでした。スーパーパワー英国の後ろ楯なくして日露戦争の勝利はおぼつかなかったでしょう。 
一方英国にとっても、「七つの海の覇者」だった英国海軍は、ドイツ、フランス、ロシアの海軍増強の追い上げにあって絶対的優位性を失いつつありました。 
そこで英国は、同じロシアを仮想敵としていた日本に、有体に言えば「極東の番犬」になることを望んだことで締結されました。

では、英国は日本に守ってもらうことを望んだのでしょうか。
もちろんそんな気はいささかもなく、英国はロシアの南下を極東で食い止めたかったのです。
このように同盟とは、外交路線の利害が冷厳に一致した時のみ結ばれるのです。

同じように米国も「守ってもらおう」などとはまったく考えてはいません。
トランプが言っているのはシンプルで、「米国ばかり頼るんじゃねぇ、てめーら自前で国守れよな」ということです。
まことに正論で、ドイツなどは耳が痛いことでしょう。
日本も米国という強大な後ろ楯を背景にして、憲法も改正せずに軽武装でのほほんとしていた部分があるので、そう言われるとギクっとするのです。

日本には「点」である日本列島の基地を米国に提供する代償として、いちおう「米軍に守ってもらっていることにしようね」という暗黙の了解がありました。
福島瑞穂さんがよく「在日米軍は日本を守るためにいるわけじゃない」なんていかにも秘密の暴露のように言っていますが、そんなことはわかりきった話。なにを今さら。
福島オバさん(もう、おばぁさんかな)の言うとおり、横須賀を「母港」とする第7艦隊は日本防衛のためにいるわけではないし、三沢は朝鮮半島や沿海州有事のための空軍基地です。

普天間やシュワブは、台湾と朝鮮半島有事に備えた出張所です。 
沖縄が出張所(硬い表現で「前方展開基地」と呼びますが)ならば、本店は神奈川県の横須賀にあります。
横須賀については、実家が近くにあったこともあって、何本か記事にしています。

※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-a93c.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-9963.html

 

Photo_5http://sumi76.exblog.jp/21027782/

写真で入港して修理をしているのが、CVN-73ジョージ・ワシントンです。CVは空母のことで、Nはニュークリア(原子力)を現しています。
これを入渠させて整備できる海軍基地は、米本土にノーフォークとニューポートの2カ所と、海外ではここ横須賀と佐世保にしかありません。
こんな大きなドックは、日本にしかないからです。これには巨大な工廠が付属していますが、働いているのはほぼ全員が日本人技術者です。米軍は原子炉だけのメンテです。
ちなみにメンテの腕は日本のほうがいいそうで、米国の他の艦隊の船は、整備時期になるとわざわざ第7艦隊に配置換えするという話もあるそうです。

それはさておき、米国はこの横須賀本店がある日本の基地を戦力投射根拠地(パワー・プロジェクション・プラットフォーム)として、インド洋、南シナ海、東アジア全域というアジア全域と太平洋の半分を守備範囲としています。 
これは米海軍最大の範囲で、地球のほぼ半分をカバーしていることになります。

「日米同盟の「受益と負担」の関係は金銭だけでは測れない。ドナルド・トランプ氏に欠けているのは、日米同盟によって、米国自身が死活的な国益を確保しているという視点だ。
「米国の世界の貿易額のうち、約6割がアジア太平洋諸国であり、その国益を維持するのが在日米軍などのプレゼンス(存在)だ。引けば損するのは米国だ」
元防衛相の森本敏拓殖大総長はそう指摘する」
(産経2016/5/25 )
【日米同盟が消える日(下)】「安保ただ乗り論」は本当? 駐留費負担、実は世界でも突出…米軍人を日本の傭兵にする気なのか(2/3ページ) - 産経ニュース

この主力が米海軍第7艦隊です。下図で7F(フリート・艦隊)と書かれたのがそれです。 

 

PhotoWikipedia

この図に、いわゆる「不安定の弧」(arc of opportunity)がスッポリ入っているのがわかりますか。 

Photo_2

 

この「不安定の弧」を概念規定しておきましょう。


アメリカ国防総省2001年に発表した四年ごとの国防計画見直し(QDR2001) では、不安定の弧について次のような見解が示された。
①大規模な軍事衝突が起こりやすい 
②力を伸ばす大国と衰退する大国が混在する 
③豊富な資源をもつ軍事的な競争相手が出現する可能性がある 
④アメリカの基地や中継施設の密度が他の地域とくらべ低い地帯

 上図に世界の紛争図を乗せたものが、下図です。

Photo_42007年 小学館 SAPIO(サピオ)より引用 クリックすると大きくなります。今見ると9年前はのどかだった。

まさに紛争地オンパレードで、米国が横須賀から撤収すればこの地域全体の安全保障の基盤が破壊されてしまいます。
しかし実はこの図ができた2007年は、まだ平和なものでした。
この後オバマの「世界の警官卒業宣言」で、一気にウクライナ、南シナ海、シリア、ISテロが火を吹いて、いまや世界は修羅の巷になってしまったのはご承知の通りです。

この米国が提供している安全保障基盤のことを、別の言い方で「安全保障インフラ」という場合があります。 
そう、日米安保は、道路や通信、港湾なんかと一緒の一種のインフラストラクチャー、「下支えする構造」なのです。
ですから日米安保とは、国際的広がりを持つ安全保障の「公共財」なのです。

 

 

2024年12月19日 (木)

次の駐日米国大使が決まる

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次の駐日米国大使が決まりました。
駐ポルトガル大使の経験もあるジョージ・グラス氏です。
もちろん大口献金者であるので、論功行賞であるのはあたりまえです。
そんなことは歴代民主党もいつもやってきたことであって、駐英大使や駐日大使などの大きな大使ポストはそのためにあるというのは常識です。
問題は、今度の大使がどのような姿勢なのかということです。

「16日の記者会見では、1期目のトランプ政権で駐ポルトガル大使を務めたグラス氏について、「非常に尊敬されている人物だ」と称賛した。「彼は以前にも大使を務め、素晴らしい仕事をした。われわれは日本を重視している」とも述べた。 
トランプ氏は主要国の大使を次々と決定。今月初めには駐中国大使に元上院議員のデービッド・パーデュー氏を指名すると発表した。主要ポストの幾つかに対中強硬派を起用する一方、日本などの友好国にも影響を及ぼし得る追加関税の実施を打ち出して関係の再構築を目指している。   グラス氏はポルトガル大使在職中、中国による対ポルトガル投資を批判していた。駐日大使への起用は、日本製鉄によるUSスチール買収計画の先行きが不透明な中で発表された。同案件は政治問題化しており、日米関係に重くのしかかっている。バイデン米大統領は同買収計画に反対の意向を示し、阻止する計画だと伝えられている。トランプ氏は大統領就任後に買収を完全に阻止する方針を表明している」
(ブルームバーク12月17日)
トランプ氏、次期駐日大使にジョージ・エドワード・グラス氏を指名 - Bloomberg

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Bloomberg

上の写真を見ると、うわー、頑固そう。手ごわいネゴシエーターのようです。
日本のメディアは、日本とのつながりがどうしたとか、グラスの子供が日本にいたからどうのとか書いていますが、関係ありません。
駐日大使が日本という米国最大の海外戦略拠点に駐在する意味はひとつです。
すなわち、駐日米国大使の仕事は安全保障を堅牢にすることであって、米国で流行のLGBTの宣教をすることではありません。

バイデンが送り込んだ現大使のエマニュエル氏は、とことんそこをはき違えた人でした。
エマニュエル氏はオバマの首席補佐官でもあった人でしたが、 シカゴ市長時代からLGBT運動のアクテビストで、デモでレインボーフラッグを振っていたような人です。
任地にきてもこの調子。

「米国のラーム・エマニュエル駐日大使が、LGBTQなど性的少数者の人権保障をテーマに、本紙の単独取材に応じた。先進7カ国(G7)で唯一、差別禁止を定めた法律がなく、同性婚を認めていない日本に対して「早期に法律を制定すべきだ」と強調。法整備に向けた一歩として、与野党が国会提出を目指している理解増進法案の成立に期待感を示した」
( 東京5月1日)
エマニュエル駐日米大使 同性婚「早期に法制化を」本紙に強調「排除する社会は未来を築けない」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

あのー、これリッパな内政干渉なんですけど。
おたくの国がどうであろうと日本は日本。安全保障や貿易問題など相互の利害が共通の場合は、どうぞクチバシを突っ込んで下さい。
ですから日米外交案件で発言するのはありえても、赴任国の国内法の制定についてとやかく言うのは越権もいいところです。
価値観の押し売りですが、これをそのままコピーして法制化した首相もいるのですから情けない。

それはさておき、トランプ第2期政権が、対中包囲網強化と日本の安全保障レベルの嵩上げを要求してくるのは当然の流れです。

「駐日大使の役割は主に日米同盟を支えることであり、中国や北朝鮮が軍事力を増強する中で日本に安心感を与えることだ。米軍は日本に最大の海外常設軍事基地を配置し、全国の基地に約5万5000人の軍人が駐留している。
日米両国は在日米軍駐留費を日本がいくら負担するかを協議することになっている。この問題は、トランプ政権1期目の発足当初に負担の増額を要求するきっかけとなった。いわゆる「ホストネーションサポート(在日米軍駐留経費負担)」に関する新たな5年間の取り決めは2026年までに合意される予定」
(ブルームバーク前掲)

グラス新大使の任期中にある最大の日米懸案は、ホストネーションサポート(接受国による支援)です。
俗にいういわゆる「おもいやり予算」です。
前回の2015年の交渉では

[東京 12日 ロイター] - 在日米軍駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」の改定をめぐる日米交渉は、前週に開いた3回目の協議でも溝が埋まらなかった。不均衡とされてきた日米同盟間の軍事負担が、安全保障法制の成立で是正されるとの立場を取る日本は減額を求めているが、「リバランス(再均衡)」でアジアへの戦力集中を目指している米国との見解に距離があり、調整は難航している。   
5年に1度見直しが行われる同予算は、根拠となる特別協定が来年3月に改定期限を迎える。日米は今夏から見直し交渉を開始し、10月5日の週までに3回の協議を開いた。日本が来年度予算案を編成する12月末までに合意する必要があるが、日本の政府関係者は「全く折り合っていない」と話す。
日本が減額を求め、米国が反対する構図は5年前と同じだが、今回は今年4月の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定で自衛隊の役割が拡大。9月の安全保障法制成立でその実効性が担保された点が異なる。日本の領域外で米軍が攻撃を受けた場合も自衛隊が防護や反撃ができるようになるほか、米軍に対する自衛隊の後方支援が地理的範囲、内容ともに広がる」
(ロイター2015年10月15日)
「思いやり予算」の改定交渉、3回目も日米の溝埋まらず | ロイター

3回協議しても妥結しなかったそうですが、結局、例によって日本が泣いて終わったようです。


「日米両政府は16日、在日米軍駐留経費(思いやり予算)の今後5年間の水準を現行水準に比べ実質増とすることで合意した。2016~20年度の総額は9465億円。15年度までの5年間を133億円上回る」
(朝日2015年12月17日)

先進国一のビンボーで有名なわが防衛省としては、「新安保法制で自衛隊の役割を強化する努力をしているんだから、ちっとは減額してくれてもいいじゃないの」と言えば、米国から「ホンならお前ら、オレたちにアジアにリバランスしてほしくねぇのかよ」とすごまれるという構図です。

トランプの持論は第1期から一貫してこの調子です。
はっきり言って幼稚そのもので、民主党系大統領以下です。


「トランプ氏は同じ演説で同盟国の日本が自国防衛をアメリカに頼る一方、経済面でアメリカに挑み、勝ちを制しているのは不公正だと強調した。1980年代の日本に対する「防衛ただ乗り」批判に似た粗雑な糾弾のようでもあった」
(週刊文春2015年9月3日)

要は、「日本は米国が守ってやってんじゃねぇか。それで浮いた金で米国を輸出で攻めていやがる。ファックだぜぇ!」というわけで、こういう論法を「片務論」と呼びます。
きっとさらにカッカっしてくると、これに韓国に対して露骨に言っているような「ただ乗り論」まで加わってくるでしょう。
さすが日本が地球の半分の地域への戦力投射の策源地だくらいは分かっているので、そこまではいいません。
トランプの認識はある意味で米国人の平均値で、だから一般受けるのだという話もありますので、実際こんなものかもしれません。

実態は、防衛省の在日米軍駐留経費負担の資料にあります。

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防衛省・自衛隊:同盟強靱化予算(在日米軍駐留経費負担)

・在日米軍駐留に関する費用・・・4311億円
・SACO関係費用      ・・・116億
・米軍再編関係費用    ・・・2130億
小計           ・・・6557億

日本の防衛費は7兆9496億円ですからバカにならない額です。
これは米国の同盟国の中でも突出して大きなものです。

「日本は在日米軍の駐留経費として、別枠計上の米軍再編関連予算などを除き、平成28年度予算で約5818億円を計上し、地代や周辺対策費、基地で働く人の人件費などに充てている。
そのうち、しばしば取り上げられるのが「思いやり予算」と称される接受国支援(ホスト・ネーション・サポート)だ。日米地位協定上は支払い義務のない負担で、昭和53年度から計上され、平成11年度に2756億円とピークを迎えた後は漸減。28年度は1920億円となっている。
そうした日本の負担が、米軍が駐留する国の中で突出して高いことは、米国防総省が2004年に公表した報告書が示している。報告書によると、02年に日本が駐留米軍1人当たりに支出した金額は約10万6000ドル(約1155万円)。日本側の負担割合は74.5%でサウジアラビア(64.8%)や韓国(40%)、ドイツ(32.6%)などを大きく上回っていた」
(産経2016年5月25日)
【日米同盟が消える日(下)】「安保ただ乗り論」は本当? 駐留費負担、実は世界でも突出…米軍人を日本の傭兵にする気なのか- 産経

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産経ニュース

トランプの安保ただ乗り論はただの謬論にすぎません。
トランプはかつて7割では少ない100%にしろとバカなことを言っていましたが、それは米軍将兵の人件費や作戦費まで日本が負担することを意味します。
分かって言っているのかな、これは在日米軍将兵が日本政府のカネで生活する「傭兵」となるということですよ。
日本が支払える負担金は既に上限に達しています。きちんと反論して、いくらグラス新大使が強面であろうとノーと言わねばなりません。
たぶん新大使も高めの球を投げ込んでくるはずなので、心しましょう。

明日に続けます。

 

 

2024年12月18日 (水)

トランプの意地悪なオファー

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さぁ、どうしますかね、石破首相。
トランプは訪米してトランプと面談した孫正義氏にこう言ったそうです。

「トランプ次期米大統領は16日、フロリダ州に所有する会員制高級リゾート「マールアラーゴ」で行った記者会見で、石破茂首相との会談に前向きな姿勢を示した。
トランプ氏はソフトバンクグループの孫正義会長兼社長との会談後の会見で石破首相との会談の可能性について聞かれると「ぜひ会いたい。会うだろう」と発言。来年1月20日の大統領就任式の前に行われる可能性については「彼らがそれを望むなら、私はそうするだろう」と語った。
トランプ氏は、先にメラニア夫人と共に面会した故安倍晋三元首相の妻昭恵さんを通じ、石破氏に書籍を贈ったことも明らかにした」
(ブルームバーク2024年12月17日 )
トランプ氏、石破首相との会談に前向き-就任式前の可能性も否定せず - Bloomberg

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時事

孫氏は15兆円を投資するそうです。ソフトバンクはweworkなどで多額の損失をしているのに大丈夫なんでしょうか。(知ったこっちゃありませんが)

「フォーブスは、孫が2016年に公約した500億ドルの投資がほぼ実行されたことをその3年後に確認したが、雇用の創出効果ついては追跡が難しく、特にソフトバンクが出資したWeWorkの事実上の崩壊後のその効果には疑問が残った。(略)
ソフトバンクの巨額投資の具体的な詳細は明らかになっていない。AI分野における主要プレーヤーである同社は、ビジョン・ファンドを通じて英半導体大手アーム・ホールディングスの過半数株式を保有し、ChatGPTの開発元のOpenAIにも15億ドル(約2300億円)を投資している。
ただし、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ソフトバンクの手元の現金は約300億ドル(約4兆6000億円)で、残りの資金をどのように調達するのかはまだ不明だという」
(フォーブス12月17日)
ソフトバンク、米国への15.4兆円投資とAI関連で10万人の雇用創出を約束 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

孫氏はAI企業の買収をする気でしょうが、重厚長大の製造業と違って雇用効果はありませんが、いいのかな。

トランプがどんな本をゲル氏に贈ったたのか知りたいもんですが、とまれ、会う気はあると、しかしそれはニッチな条件付きです。
大統領就任式の前だということは、今、国会の真っ最中で、27日までありそう。
となると、就任式まで24日間しかありません。
国会抜けてといっても予算審議というもっとも重要な審議中なので、その主役の首相が抜けたらシャレになりません。(あたりまえだ)。
いくらなんでも、就任式前の年の瀬、正月に訪問したら、お前なんなの、味噌汁で顔を洗ってこいの世界。

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いや、そもそも昭恵さんが招待されて家族並のお出迎えを受けた後に、巨額投資をすると約束した孫氏が続いたら、3番目にハイハイやっとお呼びがかかったようで、と出かけますかね。
私が首相なら意地でも行かない。みっともないから。日本国首相をなめるなよとタンカのひとつも吐きたくなります。

そういう気概があれば、拍手するんですが、たぶんゲル氏のじめついた性格ではムリというもんでしょう。
安全地帯にぬくぬくといて背中から政敵を撃つのがいままでの作法でしたから、真正面からイエスノーを言えません。
安倍氏とそうとうに険悪になった時すら、ラジオで「首相をお支えしていきます」なんて気色悪い猫なで声でしゃべっていたご仁です。
安倍氏にさえこうですから、いまや世界がその動向を注目しているトランプに対して「ふざけんなよ、オレは未亡人とビジネスマンより後か」と言えるはずがありません。
そんなもんがありゃ、ゲル氏の人生は別なものになっていましたがね。

昭恵氏がトランプに面談したことでこんなことを言う手合いもいるようです。
かつての森友がらみでアキエと聞いただけで、パブロフの犬になっちゃうんでしょうね。

「これに長谷川は「え?」と反応し、「肩書を見たら民間人かもしれませんけど、国葬までした方の奥さまっていうことで、民間人のくくりで、『外務省に言うわけないよね』っていうのは…。一言言って行けばいいのに」と主張。さらに「そんなにも貴重な話が出るのであれば、なおさらもう少しだけ日本のこと考えてもらって、『行ってきますよ』って一言言ってくれれば良かったのにと思うんですけど、それをプライベートと言われると『う~ん?』と思う。石破さんは会ってないんですよ?」と、昭恵夫人の行動に苦言を呈した」
人気モデル トランプ氏と食事会の安倍昭恵さんに苦言「もう少し日本のこと考えて」 矛盾指摘され大慌て「ちょっと待って!」(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース

なに言ってんだか。昭恵氏は夫が殺された後も、夫の遺志を継いでインドのモディさんやトランプさんと交流を続けてきました。
もちろん自腹です。
今回も偶然だったわけではなく、昭恵氏がトランプの再選に祝賀を伝えたことに対する答礼です。
この長谷川ミラとかいうモデルはしたり顔で、「外務省にいうわけないよね」なんて言っていますが、昭恵氏は親しい政治家などを介して外務省への連絡をとっていますが、ご存じなかった。

何度も書いていますが、外務省はしょせんお役人集団です。
だから、正式に大統領になった後ならなんとかルートを見つけてスケジュール化するでしょうが、民間人であるうちはできません。
ゲル氏はこういうときにヒッキーではなく、雌伏の時代にもう少し外交ルートを構築する努力をしておけばこんなことにはならなかったはずです。

結局、外務省はお手上げで、首相の側近で数少ない共和党とのパイプがあるといわれる長島昭久補佐官を訪米させたのでしょうが、彼もトランプのパイプがなくダメ。
今になって長島氏はこんなことを言っていますが、酸っぱい葡萄のキツネになっちゃいますよ。

「米ワシントンを11月に訪問した長島昭久首相補佐官が13日、時事通信のインタビューに応じた。石破茂首相と来年1月に就任するトランプ次期大統領との初会談について、「2月から5月のしかるべきタイミングを見いだしたい」と語った。首脳会談では、安全保障分野などで政策パッケージを提示する必要があると強調した」
(時事12月14日)
首相訪米、早ければ2月 安保で政策パッケージ提示―長島補佐官:時事ドットコム

長島さんは日韓議連会長ですから、来年はトランプだけではなく、超々反日のクレージー大統領とつきあわねばならないようで、たいへんなこってす。

韓国保守の総崩れというわけで、国会が終わる12月27日から来年の就任式の1月20日、しかもトランプが一番多忙な就任直前という針の穴のようスケジュールしかゲル氏には残されていないことになります。
いくらなんでも就任式典には呼ばれるでしょうから、ご安心を。(呼ばれないかも)
いずれにせよ、これでトランプの対日重要度順位がわかりました。

 

 

2024年12月17日 (火)

アサドの逃げっぷり

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独裁者アサドの亡命直前の有り様が伝わってきました。
やはり政府内部にも知らせずに、会議ではロシアが支援してくれると伝えましたが、自分はさっさと逃げる準備をしていたようです。
さすがだね。
独裁者はひとり独裁。だれも信じない。家族すら信じない。したがって逃げる時もオノレだけで逃げる。なぜなら、自分は権力であり、国家そのものだからだ、ということのようです。やれやれ。

「先週の土曜日、モスクワに向けて出発するわずか数時間前に、アサドは国防省で約30人の軍と治安部隊の責任者と会議を開き、ロシアの軍事支援がシリアに向かっていると伝えられ、地上部隊に忍耐強くなるよう促したと、会議に出席していた司令官が確認した。
会談後、アサドは大統領府のマネージャーに帰宅すると伝えたが、そうではなく、彼は空港に向かった。詳細は、彼の側近のアドバイザーによって明らかにされました。彼はまた、コミュニケーション・アドバイザーに電話して、彼のためにスピーチを書くために彼の家に来るように頼んだ。しかし、彼がそこに着いたとき、そこには誰もいませんでした」
アサドの最後の数時間/彼はどうやってみんなを裏切って逃げたか、彼は兄にさえ言わなかった

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バッシャール・アル・アサドと彼の妻
SHKRUAR NGA REDAKSIA VOX

寝耳に水の反政府軍の進撃に驚愕したアサドは、初めはUAEに受け入れを求めましたが拒否され、結局ロシアから身の安全を保証され、フメイミンロシア空軍基地からモスクワへ亡命したようです。
もちろんアサドがロシアの支援が来るといったのはその場しのぎのデタラメで、既にロシアは支援はできないと伝えてあったようです。

アサドは軍の緊急招集すらせずに、彼の膨大な数の取り巻きたちを置き去りにしました。

「アサドは抵抗さえしなかった、最後の時でさえ。彼は軍隊を召集さえしなかった」と、地域シンクタンク、アラブ改革イニシアチブのナディーム・コーリー事務局長は語った。「彼は支持者たちを彼らの運命に直面させるように任せた」と彼は付け加えた。ロイターは、政治亡命が認められているモスクワにいるアサド大統領と連絡を取り、彼に対する疑惑を確認するか否定するかすることができなかった。
彼の動きを知る人々が、彼の支配の最後の数日と数時間について明らかにしたことは、彼の仲間たち(彼の側近から地域の外交官やイラン高官まで)の秘密と欺瞞を解き明かす前に、彼の24年間の支配を延長するために外部の助けを求めている指導者の姿を描いている」
(SHKRUAR NGA REDAKSIA VOX前掲)

アサドは兄弟すら見捨てました。
共和国防衛隊の指揮官だった弟マーヘル・アサドは2018年の内戦に際して化学兵器を用いた虐殺を指導した張本人ですが、彼も逃げ損ないましたが、なんとかヘリでイラクに逃れて今はロシアにいるようです。
 母方のいとこ2人の運命は悲惨で、陸路レバノンへ脱出を試みたものの、反政府軍の検問に引っ掛かり殺傷したようです。

ロシアがアサドの亡命を「人道的理由」で受け入れたのは、混沌としたシリア情勢がまた内乱にでも発展すれば、アサドを亡命政府として使えるカードとなるからです。

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ロシアは、フメイミム空軍基地に大型輸送機2機を派遣して、盛んに物資や人員の撤去を進めていましたが、基地自体を放棄するつもりはないようです。
中東での唯一の同盟であるシリアを支えるべく、ロシアは10年間にわたり、約6〜7千人を派遣し、そのコストだけで10兆円にのぼるとさえ言われています。

これら軍事資源の投資が無駄になります。

それでなくても、旧ソ連圏の親露国アルメニアを見捨て、中東ではシリアまでも見捨てたため、今後ロシアと同盟を組もうという国は激減することでしょう。
いざという時は、守ってくれないような国と同盟をむすんでも、西側から敵視されるだけですからね。
いまや世界を見渡しても、ロシアの友好国は腹になにを隠しているのかわからない中国と、ミサイルと核技術が目当ての北朝鮮だけです。

おっと、もうひとつイランがありましたが、いまやその手先のヒズボラは崩壊寸前です。
アサド政権が崩壊した理由のひとつは、シリア内戦の主力であったヒズボラが自分の尻に火がついて手を引いたことにあります。
ヒズボラはガザ戦争にハマス支援で介入したことが裏目に出て、イスラエル軍の猛爆で指導者はことごとく死亡しました。
とてもではないが、シリアに戦闘員を出せる余裕はなくなりました。
アサドはロシアとイランに助けられて政権を維持していたので、この2本のつっかえ棒がなくなると同時に崩壊したのです。

今後、イランはイラク、シリア、レバノンという地中海までのいわゆる「シーア派ベルト」、別名「抵抗の枢軸」を死守しようとするでしょう。

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しかしアサドのシリアは既になく、レバノンのヒズボラは武器の補給路を断たれたために再生は厳しいといわれています。
イランがコッズ部隊を使って半世紀近く営々と浸透を図ってきた「抵抗の枢軸」は、イラクを除いて見るも無惨に砕け散ってしまったのです。

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ロイター

上写真のロシア輸送機特別便で逃げた人員はロイターによれば、ロシア大使館職員の一部とベラルーシ、北朝鮮の外交官だったそうです。

ところでこのフメイミム空軍基地は、中東全域のみならずアフリカへの中継の要衝として機能してきました。
ロシアのビジネスモデルは、このフメイミム空軍基地を拠点としています。
ロシア型ビジネスモデルとは、アフリカの独裁政権に大量の武器を売りつける代わりに、その国の鉱山利権を得るというモデルです。
これをやっていたのが、ブリゴジンが率いた民間軍事会社ワグネルでした。
彼らはこのダーティビジネスを政府にかわって代行してきました。
ワグネルの派兵先は、リビア、ニジェール、マリ、中央アフリカなどにおよび、同地域から欧米の影響力を排除し、資源利権を確立しました。
このワグネルの傭兵ビジネスのロシアとの中継基地がこのフメイミム基地だったのです。

一方地中海沿岸のタルトゥース海軍基地は、地中海全域をにらむ海軍の修理・補給拠点でした。

「2017年1月18日、ロシアとシリアは、ロシアがタルトゥースの海軍施設を49年間無料で拡張および使用し、基地の主権管轄権を享受することに合意した。条約はロシアがタルトゥースに核搭載船を含む11の艦艇を維持することを許可している。また、施設のロシアの人員と物資に対するシリアの管轄からの特権と完全な免責を規定している」
タルトゥース海軍補給処 - Wikipedia

ここには黒海艦隊の分遣隊が派遣されていましたが、現在は衛星画像によれば基地を出発し、一部は沖合に停泊していることが確認されています。
彼らはタルトゥース基地には戻れず、かといって元来の母港であるセバァストポリ港は度重なるウクライナ軍の攻撃で使用できず、いまやさまよえるロシアン・フリートとなっています。
今後新政府とどのような協定が結ばれるかわかりませんが、元のままということはありえないはずです。

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ロイター

両基地ともロシア国旗を掲げたロシア軍が難く守りを固めているのが観測されていますが、このていどの守備隊ではたちまち制圧されることでしょう。

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ロイター

一方、このふたつの基地に関して、新政府は方針が定まっていないようで、いきなり旧反政府軍を使って奪取する気はなく、基地近辺に配置されているだけのようです。

「ロシア側と接触しているシリアの軍・治安当局筋によると、ロシアは前線から軍を引き揚げ、一部の重装備やシリア軍幹部を撤退させている。ただ、2つの基地からの撤収はしておらず、現時点で撤収するつもりはないという。
あるシリア軍幹部は一部の装備やアサド政権軍の上級幹部がモスクワに送られているが、現時点の目標は現地の状況に応じて再編成し、再配置することだと述べた。
新暫定政権に近い反体制派幹部は、シリアにおけるロシア軍のプレゼンスや、アサド政権とロシアの過去の合意に関する問題は議論されていないと指摘。「それは今後話し合う問題で、シリア国民が最終的な判断を下すことになる」とし、ロシアが対話ルートを設けたと明かした。「われわれの部隊は現在、ラタキアのロシア軍基地の近くにいる」とも述べたが、詳細には踏み込まなかった。
ロシア関係筋はシリア新指導者らとの話し合いが行われているとし、駐留基地から撤退はしていないと述べた」
(SHKRUAR NGA REDAKSIA VOX前掲) 

今回、プーチンは悪夢を見る思いでシリア情勢を眺めていたことでしょう。
反政府軍は攻勢開始後、瞬く間に首都・ダマスカスに迫り、政府軍の防衛線は戦わずして崩壊。
アサドは命からがらロシアに逃亡しました。
この開戦劈頭の奇襲で敵の心臓部を突くという戦術は、実はプーチンがウクライナ戦争におけるキーウ進撃でとった方法でした。
虎の子の空挺部隊とスペツナズを投入し、電撃的な勢いで首都を押さえればウクライナ軍は崩壊し、政府も降伏シ、ゼレンスキーは亡命するだろうという筋書きです。
しかしウクライナは耐えてしまい、皮肉にも自分が支援してきたシリアでは見事に実現したわけです。
このように、このシリアの政変で最大の打撃を食ったのは、ロシアとイランだったわけです。

いずれにせよ独裁政権の崩壊というのは、古今東西を問わず見苦しく悲惨なようです。

 

2024年12月16日 (月)

ユン大統領の弾劾が成立

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ユン大統領の弾劾が成立しました。
与党はユン氏がなんらかの辞意を表明することで、名誉ある撤退を策していたようですが、大統領の前回の演説で吹き飛びました。

「韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案の2回目の採決が14日夕、国会であり、在籍議員300人の3分の2以上の賛成で可決された。尹大統領は職務停止となり、韓悳洙(ハン・ドクス)首相が大統領の職務を代行する。
ただし、これで尹氏が大統領府から完全に姿を消すわけではない。今後、憲法裁判所が最長180日かけて弾劾の妥当性を審理し、裁判官9人のうち6人以上が弾劾を支持した場合に限って、大統領は罷免となる。弾劾の支持が6人未満の場合、尹氏は大統領の職務に復帰する」
(BBC12月14日)
尹大統領の弾劾案を可決、韓国国会 職務停止で首相が代行 - BBCニュース

ユン氏は、「私は決して諦めない。私への叱責と激励と声援を抱きとめ、この国のために最後まで最善を尽くす」と言っていますが、これで決まりです。
以後このような流れになります。

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BBC


これで憲法裁判所でも天地がひっくり返らない限りユン氏は職務停止に追い込まれて、罷免されるでしょう。
そして次に来るのは、今検察が進めている内乱罪適用です。

改めて憲法第77条を見てみましょう。

韓国憲法
第77条 ①大統領は戦時·事変又はこれに準ずる国家非常事態において兵力により軍事上の必要に応じ,又は公共の安寧秩序を維持する必要があるときには法律の定めるところにより戒厳を宣布することができる.
②戒厳は非常戒厳と警備戒厳とする.
③非常戒厳が宣布されたときには法律の定めるところにより令状制度,言論·出版·集会·結社の自由,政府や裁判所の権限に関し特別な措置をすることができる.
④戒厳を宣布したときには大統領は遅滞なく国会に通告しなければならない.
⑤国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を要求したときには大統領はこれを解除しなければならない.

今回、ユン氏が出したのは「非常戒厳」と「警備戒厳」の2種類のうち前者の非常戒厳です。
たしかにユン氏が釈明したように大統領は、第1項どおり憲法で戒厳を宣布する権限はあります。
その限りでは合憲ですが、第4項の国会ヘの速やかな通告を怠り、戒厳軍を国会に入れて制圧しようとしたことは明らかな憲法違反です。
この第4項は、事前になにかしらの形で国会と協議して戒厳令を発令しろという意味です。
したがって、国会を閉鎖したのですからダメに決まっています。

実態は、ごく一部の軍と警察の幹部に諮っただけで、内閣にさえ形式的に通告しただけだったようで、与党もまったく蚊帳の外でした。
これで戒厳令をやろうというのがいい度胸です。
議員を抑えるなら抑えるで、拘束すればいいものを(もちろん違法ですが)、それをしないものだから柵を乗り越えて国会に入った野党議員たちが多数決で第5項を根拠に無効を宣言してしまいました。

これでは憲法裁判所は、これらの違憲行為を理由に罷免するでしょう。

まぁユン氏から見れば、第1項で大統領に戒厳令の権限を与えて起きながら、第5項で国会の過半数で無効とする権限を与えるのは矛盾しているではないかというのも分からないではありません。
今回のように大統領と国会が真正面から対立した場合、第1項は死文化するからです。
たぶんひとつの憲法条文に相互に矛盾することが書いてあるのは、憶測ですが、元来あったのは第3項まで第4と第5項は文民政権になってからつけ加えられたのではないかという気がします。

ただし、このような言い訳が効くのは、あくまでも第1項が「戦時·事変又はこれに準ずる国家非常事態において兵力により軍事上の必要に応じ,又は公共の安寧秩序を維持する必要があるとき」と条件づけているような場合のみです。
戒厳令布告したことによって、今、韓国社会は煮えくり返っていますが、それは布告してしまったからであって、結果であって原因ではありません。
ユン氏は「国家非常事態」を国会運営の停滞にまで拡大解釈してしまいました。
この国で保守が政権をとったのですから、従北派のいかなる抵抗があってもおかしくはありません。
そんなことすら覚悟しないで大統領になったのですか、この人は。

司馬遼太郎は『酔って候』という山内容堂を描いた短編のなかでこう書いています。

「しかし革命は、白昼堂々の正論では成就しない。多少の非論理、飛躍、陰謀、虚喝の有毒成分を必要とする」

ユン氏は権力の側から戒厳令という名の「革命」をしようとして失敗しました。
革命は非論理の飛躍そのものですから、その失敗は死と決まっています。

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与党退席に「何のため議員を」 野党絶叫、国会前に市民15万人(共同通信) - goo ニュース

 ブリンケンがこんな能天気なことを言っています。

「アメリカのブリンケン国務長官は、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾(だんがい)訴追案が可決されたことについて「韓国は民主主義の強靭性を示した」と評価しました。
アメリカ ブリンケン国務長官 「最も重要なことは、韓国が民主主義の強靭性を示したことだ。憲法に定められたプロセスを平和的に進めている」
ブリンケン国務長官は14日、訪問先のヨルダンでこう述べたうえで「私たちは韓国国民を強く支持している」と強調しました。
ブリンケン長官はまた、アメリカと韓国の同盟関係によって「ここ数年で多くのことを成し遂げてきた」とも評価し、尹大統領の職務停止に伴って、大統領権限の代行を務める韓悳洙(ハン・ドクス)首相と「喜んで協力する用意がある」としています」
(アベマニュース12月14日)
米国務長官が韓国大統領の弾劾訴追案可決を評価「韓国は民主主義の強靭性示した」 | khb東日本放送

なにが「韓国の民主主義の強靱性」ですか。だから民主党系国務長官はイヤダ。
たぶんブリンケンは、トランプの議事堂占拠事件と重ねてイメージしているのでしょうが、まったく別物です。
韓国の自称民主主義はいかに未成熟なのか、法治ではなく人治主義の国なのかが改めて暴露されました。
なにかあるたびに保守は戒厳令を使い、左翼はろうそくデモをかける国のどこが民主主義なのです。

練達のコリアウォッチャーの鈴置高史氏はこのように述べています。

「鈴置北朝鮮や中国と比べれば民主主義国家と言えるでしょうが、少なくとも日本や欧米のような民主主義国家ではありません。これらの国では「法治」の基盤の上に「言論の自由」や「公正な選挙」という民主主義の仕組みが働いている。
韓国は基盤が固まっていない。そこで何かあると、例えば左右対立が激化すると、民主主義の仕組みが簡単に揺らぐ。韓国人は「日本の民主主義の水準を超えた」と誇りますが、先進国の政治システムを上辺だけ真似したに過ぎません」
戒厳令が宣布されても「韓国すごい」「米国人や日本人より民度が高い」と誇る韓国人(3ページ目) | デイリー新潮 

ちなみに、韓国では過去にも複数の大統領が弾劾されています。

「2016年には、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する弾劾訴追案が可決された。収賄、国家権力乱用、国家機密漏洩に関わったとされた。のちに憲法裁判所によって罷免された
2004年にも、当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が弾劾され、2カ月間、職務停止となった。しかしその後、憲法裁判所の判断で大統領に復帰した」
(BBC前掲)

ノムヒョンは助かりましたが、パククネは憲法裁判所でも罷免されました。
どうもやたら罷免されるのは保守系大統領が多いようですが、まぁそういう国なのです。
これで100%、来年から共に民主党のイ·ジェミョンという超々極左が大統領となり、超々反日政権が誕生するはずです。
岸田さん、こういうカントリーリスクがある国なのですから、ユン氏に代わったからといっても韓国と間合いを詰めすぎましたね。
一朝で親日風の国から転じて超反日国家に変貌するのがこの国なのです。
それも正常な方法ではなく、方や戒厳令を、方や大規模デモの怒号で国が変わってしまうのです。
心しましょう、韓国とはこういう国なのです。

さぁ、今から覚悟しておきましょう。
大河のまひろの最後の台詞ではありませんが、確実に「嵐が来ます」。

 

 

2024年12月15日 (日)

日曜写真館 オリオンのかたむき消えぬ冬の朝

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大声をひとこゑ発す冬暁 小池文子

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寒暁の明るさわが眼病むごとく 山崎為人

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寒暁といふ刻過ぎて海青し 谷野予志

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鳥ばかり静かにならぬ冬の朝 曽 良

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寒暁や生きてゐし声身を出づる 桂信子

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深みどり汲めば色なし冬の朝 朝木奏鳳

 

 

2024年12月14日 (土)

安倍昭恵さん、トランプ邸招待へ

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毎日よーもこう嫌なニュースばかり続くんだと暗澹たる気分ですが、すこしだけいいニュース。
首脳外交はこうやるんだ、という見本を安倍昭恵さんが見せてくれました。

「安倍晋三・元首相の昭恵夫人が訪米し、今週末にもトランプ次期大統領のメラニア夫人と面会する方向で調整していることがわかった。トランプ氏と面会する可能性もある。
関係者によると、昭恵氏はフロリダ州にあるトランプ氏の邸宅「マール・ア・ラーゴ」に招かれている。安倍氏はトランプ氏が第1次政権在任中に蜜月関係を構築し、昭恵氏も両首脳の夕食会に何度も同席し、トランプ氏とも面識がある」
(読売12月12日)
安倍昭恵氏、今週末にもメラニア夫人と面会へ…トランプ次期大統領とも会う可能性 : 読売新聞

メラニアさんってスーパーモデルみたいな容姿がかえって仇になってなにも考えていなさそうなかんじがして損をしていますが(失礼)、なかなかの外交達者な方です。
日本にトランプが来た時は、昭恵さんとふたりで夫人外交を楽しんでいかれました。
2018年には、トランプは安倍夫妻をフロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」に招待し、会談や夕食会を開き、安倍氏が22年に暗殺された時も、SNSで心情あふれるコメントを残しています。

NHKで番記者をしていた岩田明子氏はこう述べています。

「岩田明子さん:トランプさんから、安倍さんが退陣した後も手紙がしょっちゅう来ていた。 例えばゴルフのマスターズで松山英樹さんが優勝した時に、優勝の新聞記事に『おめでとう』ということを書いて、サインをしたものを安倍さんのところに送ってきて、『これ松山さんに渡してください』っと言うんです。
 直接渡せばいいじゃないかと言うのですけれど、『いやシンゾーから渡してくれ』ということで、いろいろな手紙が来る関係でした」
(FNN12月13日)
トランプ氏が安倍昭恵さんに「就任前に会いたい」気持ちか 「シンゾー…」送られ続けた手紙 安倍元首相を20年以上追った番記者・岩田氏が明かす秘話(FNNプライムオンライン) - Yahoo!ニュース

こういう関係のどこまでが私的で、どこからが公的なものなのでしょうか。
ここからはオフィシャル、ここからはプライベートと分けられません。それはなだらかにつながっているのです。

昭恵さんは英語が達者なので、通訳なしでしゃべれますから、今回もメラニアさんから電話が来て招待を受けたのだとか。
昭恵さんがモリカケでいじめ抜かれていた時には、メラニアさんは海の向こうで自分の境涯とかさねあわせて胸を痛めていたと聞きます。

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安倍晋三首相の昭恵夫…:ファーストレディー メラニア・トランプさん 写真特集:時事ドットコム

外交というのは抽象的なものではありません。あんがい泥臭いのです。
たとえばG7の会議ではこんなこともままあるようです。
トランプはいつも渦中の人でした。
下写真の時は、トランプの高関税に対する報復関税をG7のヨーロッパ諸国からもとめられましたが、安倍氏はぬらりくらりとすり抜けています。
というか、トランプと良好な関係を持つ首脳は安倍氏しかいないので日本を追い詰められなかったのです。

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G7首脳会談の1枚  この写真には誰と誰が - BBCニュース

ちなみに番号が突いている人たちは、①ドナルド・トランプ米大統領、②ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、③山崎和之外務審議官、④安倍晋三首相、⑤西村康稔内閣官房副長官、⑥アンゲラ・メルケル独首相、⑦エマニュエル・マクロン仏大統領、⑧テリーザ・メイ英首相、⑨ラリー・クドロー米国家経済会議(NEC)委員長、です。

この写真はメルケルが出して来たもので、怒る女教師と不良少年といった図柄ですが、トランプ自身は「あの写真はわれわれが文書を待っているところだ。実際には、われわれはあまり関係ない事柄について、グループ全体で話をしていただけだ。非常に友好的だった」と言っています。
こういう写真を出してきたというのは、メルケルの国内向けでもあるのです。

首脳外交は、こういう厳しいやりとりもすれば、人と人との「つながりと友情」のパイプで構築もされています。
外務省は官僚であって、会談で語ることに口ばしを入れることはできません。
主導権はあくまでも政治家であって、人物があって、人と人がどの資格で、誰になにをしゃべったのかが大事なのです。
といっても軽い神輿の首相ではお役人のいうがままですが。

今回ならば(来月末には「現」に変わりますが)、次期大統領夫人であるメラニア夫人が、夫の親友だった故安倍首相夫人である安倍昭恵氏を招待した、という形式をとりました。
お互いに今の立場なら私人として対等な関係であり、友人を私邸に招いたという形式をとったのです。
来月からはこうはいきませんが、今トランプの就任前というのが決定的に重要です。

ここからなにがわかるでしょうか。
ひとつには、トランプとメラニア夫人は、安倍氏の自宅に直接電話をしてくるようなフランクな関係だということです。
かつてのトランプは、一日数回の電話をしてきたこともあったとか。

これは多くの世界の首脳に取って垂涎の仲でしょう。
他の国の首脳はそもそも会えませんし、ノートルダム寺院の再建式典は僥倖ということになります。
マクロンの得意そうな顔がかわゆい。

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CNN

「(CNN) 米国のトランプ次期大統領は7日、仏パリでノートルダム大聖堂の再開を記念する式典に出席し、マクロン仏大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領との3者会談などで国際舞台への復帰を果たした。
3者会談はマクロン氏が提案し、非公開で30分あまり続いた。
トランプ氏はウクライナでの戦争をただちに終結させると公約しているが、ウクライナ支援国の間では同氏がロシア寄りの停戦や和平を迫るのではないかとの懸念が指摘されている。
ゼレンスキー氏は終了後、SNSに「有益で実りある」会談だったと投稿。「我々はみんな、この戦争ができるだけ早く公正な形で終結することを望んでいる」「いつもながらトランプ大統領の決意は固い」と述べた。
マクロン氏は式典に先立ち、大統領官邸でトランプ氏を出迎え、固い握手を交わした。トランプ氏が自身の1期目政権での緊密な関係を振り返ると、マクロン氏はトランプ氏の訪問を「国民の大きな栄誉」と歓迎し、「お帰りなさい」と声を掛けた」
(CNN12月6日)
トランプ氏、ノートルダム大聖堂再開式で国際舞台に復帰 仏大統領らと会談 - CNN.co.jp

こういう機会を逃さず、ゼレンスキーまで駆けつけて、みっちり和平問題の協議をしたようです。

そしてわかることのふたつめ。
哀しいことに、ゲル首相はテッテイ的に外交オンチだということです。
このノートルダムの式典に、私もクリスチャンでんがなと言ってなぜ行かない。
国会があった?弾丸訪仏するのですね。

なぜこうも石破氏はポイントははずしまくるのでしょうか。
外交の仕切りを丸ごとあの無能な外務省に丸投げしているためにこのていたらくです。

外務省の持つ外交ルートは、カウンターパートの国務省にアクセスするのが精一杯です。
しかし、今、ワンシントンDCは上へ下へ大騒ぎです。

今の民主党系職員は全部お払い箱で、続々と共和党系シンクタンクから乗り込んで来る新スタッフと引き継ぎの真っ最中です。
会いたければ、直接になんらかのトランプの私的チャンネルにコンタクトするしかなかったのですが、今の官邸にトランプはおろか共和党系のパイプがありません。
唯一トランプと懇意なのは、激しく石破氏を嫌悪している麻生さんくらいなものです。

トランプは石破氏が、安倍氏の仇敵だったとよく知っていますから、ゲル氏に対して一片の思いやりもない。
しかも短期政権に終わることなどとっくにご存じです。

仮に会ってもすぐ辞める奴と約束しても無意味ですもんね。
トランプからすれば、さっさともっとマシなのを連れて来いと、日米交渉はそれからだ、というところでしょう。
そして残念ながら、ゲル氏にはこの昭恵さんがトランプ邸訪問してもことづてすらできないのですからダルマさんです。

 

 

2024年12月13日 (金)

韓国、やっぱりケイオス

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 ユン大統領が30分間演説したそうです。

「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は12日、「国を救おうとする非常措置を、国を滅ぼそうとする内乱行為と見なすことは、韓国の憲法と法体系を深刻な危険に陥れることだ」と述べた。
これは、尹大統領が同日の国民向け談話で、「国政マヒの亡国的非常事態において国を守るため、国政を正常化するために大統領の法的権限により行使した非常戒厳措置は、大統領の高度な政治的判断であり、国会の解除要求のみにより規制できる」として、述べたものだ。
そして、「これは司法府の判例と憲法学界の多数意見であることを多くの方々が知っている」「私は国会の解除要求を直ちに受け入れた」と言った。
さらに、「毎日のように数の力で立法暴挙を繰り返し、ひたすら防弾にばかり血眼になっている巨大野党の議会独裁に対抗し、大韓民国の自由民主主義と憲政秩序を守ろうとした」と主張した。
その上で、「その道しかないと判断して下した大統領の憲法的決断であると同時に統治行為が、なぜ内乱になるというか」と問い返した。
尹大統領は「大統領の非常戒厳宣布権行使は赦免権行使や外交権行使のように司法審査の対象にならない統治行為だ」と述べた」
(中央12月12日)
尹大統領「非常戒厳宣布は統治行為…なぜ内乱になるのか」-Chosun online 朝鮮日報

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フォーブス

う~ん、気の毒ですが、いまさらなにを言っているのでしょうか。
「高度の政治的判断」を言う人がこんな幼稚な戒厳令もどきをするでしょうか。
「毎日のように数の力で立法暴挙を繰り返し」というのは、どの国でも少数与党が陥る普遍的な状況であって、だから戒厳令をという飛躍が誰にも分かりません。
「巨大野党の議会独裁に対抗し、大韓民国の自由民主主義と憲政秩序を守ろうとした」と言われても、戒厳令自体が自由と民主主義の凍結なのですから、毒を制するために猛毒を呑めと言っているようなものです。

彼の頭の中では正論を言っているのでしょうが、これでは与党ですらついてきません。
その証拠に「国民の力」は直ちに弾劾に賛成に転じたようです。

「国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)委員長は12日、「次回の(弾劾)投票では、わが党の議員は本会議に出席し、自分の信念と良心に従って投票に参加すべきだ」と述べた。
同日の国会での記者会見で、代表者は「大統領が早期に退任する意思がないことが確認されたため、直ちに停職処分にする必要がある」と述べた。
ある議員は、「弾劾よりも早く党を離党する方が弾劾よりも予測可能で迅速だと思ったが、そのような計画は、大統領が全責任を党に任せ、国民の判断に従うことを前提としていた。そうではないことが確認されています」
(朝鮮日報12月2日)
ハン・ドンフン:「弾劾が唯一の方法だ...議員は自分の信念に従って投票すべきだ」と述べた。

ユン氏は政治家に向いていないのです。
元々なりたくて大統領になったわけではありません。
「ただの検事」だった人が、反ムン・ジェインのシンボルに担ぎ上げられてあれよあれよと言う間に大統領になってしまった人です。
だから与党をキッチリ自分の力でまとめた経験がないわけです。
元々、保守の人ではないので国家観があやふやだから、すぐに戒厳令などというダンビラを抜いてしまう。

ユン氏は権力の座に登るや、青瓦台の主が陥る「聞きたいモノしか聞かない」病に罹患したようです。よくいうエコーチェンバーですね。

「尹氏は激しい政争に疲れていたようだ。進歩(革新)系最大野党「共に民主党」は閣僚や政府高官の弾劾を連発。政府提案の法律もことごとく阻止しようと動いた。進歩系メディアも、こうした野党の動きを比較的好意的に伝えた。尹氏はいつしか、自分に好意的なメディアしか目を通さなくなった。メディアだけではなく、極右系ユーチューブも好んで視聴していたという」
(牧野愛博12月10日)
自爆した尹錫悦大統領 ハイブリッド戦争、他国の重要な教材に | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

ユン氏が戒厳軍部隊を真っ先に入れたのが中央選管だったのも、ファーライトのユーチューバーのよく言っていた「不正選挙」説を鵜吞みにしたのだとか。
ユン氏は元検事総長だったのですから、証拠に基づいて考えるべきでした。
不正選挙が仮にあったとしても、そんなことを立証するのは膨大な時間がかかります。
それはトランプが言っていた「不正選挙」の証拠が結局なにも見つからなかったのと一緒で、投票用紙を全部確認しなければならないことです。
そんなことを戒厳令発動直後にやっていてどうしますか。

今、大統領としてやるべきことは、ガタついた韓国経済の建て直しで、そのことが国会で通らないというなら国民に呼びかけたらよろしい。
ところが自分の仕出かした戒厳令騒ぎで経済力強化法案はどこかに吹き飛んでしまいました。

「戒厳令の発令や弾劾事態により、経済活力を高めることを目的とした法案の処理や政策決定が次々と中断されています。与野党が対応合意した半導体・人工知能(AI)業界支援法案は、先延ばしにされたり、「中途半端」に可決されたりしています。大統領府の機能が事実上麻痺する中、消費促進策など、省庁間の協議が必要な政府の政策は事実上停止しています。政治の不確実性により、経済回復の黄金期を逃す可能性があるという大きな懸念があります」
(聯合12月10日)
トランプ氏の2期目も手ごわい...「韓国の半導体黄金時代を逃す」

あーあ、これでは来年早々にやって来るだろうトランプ関税に勝てる道理がありません。

 

 

2024年12月12日 (木)

かくしてイスラエルは中東最強国家となった

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イスラエル空軍は第一波で、シリア各地に点在する化学兵器関連施設を爆撃しました。
さらにアル・スワヤダ、ハルハラーといった空軍基地を爆撃し、旧シリア空軍が保有していたMig-29戦闘機が全滅しました。
アルバイダとラタキアの港には旧アサド海軍が15隻停泊していましたが、これもミサイル攻撃を受けて全滅しています。
これでほぼシリアの空海軍は全滅したことになります。
また内陸にまで陸上戦力が侵攻し、ダマスカスに接近しているという報道もありますが、こちらは未確認です。
イスラエル軍はこの報道を虚偽であり、緩衝地帯内にいるとコメントしています。
シリアの軍事目標250カ所以上を攻撃...「50年ぶり」に緩衝地帯に入り、一線を越えたイスラエル軍の言い分|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

「SOHR(NGO「シリア人権監視団 )によると、過去2日間でイスラエルによる空爆が数百回あった。これには、ダマスカスでイランの科学者がロケット開発を進めていたとされる施設も含まれている。
イスラエルの攻撃は、国連の化学兵器監視機関がシリア当局に対し、疑わしい化学兵器の備蓄が安全であることを確認するよう警告している中で行われている」
(BBC12月10日)
イスラエルがシリア各地で空爆との報道、化学兵器の研究施設も対象か - BBCニュース

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 BBCニュース

このような攻撃は、昨日今日の偵察でどうにかなるものではなく、長年の仇敵だったシリアの化学兵器貯蔵所とその製造施設、空軍基地、レバノンとの検問所などにまで攻撃の手を伸ばしています。
このうち化学兵器関連施設について、アサド政権は現代において実際に化学兵器を自国民に使ったことが明らかになっている唯一の国です。

「シリアは2013年にOPCW(化学兵器禁止機関の化学兵器禁止条約(CWC)に署名した。これは、ダマスカスの郊外で神経ガス「サリン」を使用した化学兵器攻撃が行われ、1400人以上が死亡した1カ月後だった。
犠牲者が苦しみながら痙攣(けいれん)する恐ろしい様子は、世界を震撼させた。西側諸国は、化学兵器攻撃を実施したのは政府のみだった可能性があると述べたが、アサド氏は反対派を非難した。
OPCWと国連は、シリア政府が申告した1300トンの化学物質をすべて破壊したが、国内での化学兵器攻撃は続いた。
BBCの分析によると、2014年から2018年の間に、シリア内戦で少なくとも106回の化学兵器が使用されたことが確認されている」
(BBC前掲)

一方、シリアとの緩衝地帯に駐留しているUNDOF(国連兵力引き離し隊)となんらかの事前の協議をしたようで、摩擦を起こさずに脇をすり抜けるようにしてイスラエルイスラエル軍が侵攻したようです。

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BBC

シリア緩衝地帯は、上図の点線で囲まれた灰色の地帯です。
この緩衝地帯は、1973年の第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争)後、1974年に締結された合意により,ゴラン高原のイスラエルとシリアの国境を挟む形で制定された地域です。
なお、ここには自衛隊もUNDOFに1996年から最大3人派遣していましたが、現地の治安悪化が著しいと判断して2013年にには撤退させています。
こういう危険な場所にはもっとも遅く兵を出し、退くときは一番というのが、わが国のPKOです。

それはさておき、このゴラン高原はイスラエルの北に位置し、シリアとの国境地帯ですが、イスラエル領とダマスカスを一望できる戦略的要衝です。
中東戦争では、シリアはここに大砲をすえてイスラエルを砲撃し続けていたように、ここをシリアに奪われるとイスラエル北部はがら空きになってしまいました。
またゴラン高原はイスラエルの水源地帯でもあり、シリアとの戦略上非常に重要な地域であります。不毛地帯とされていましたが、一部にイスラエルの開拓者が入植してワイナリーなどを作っているようです。

この石ころだらけのゴラン高原に立ってネタニヤフはこう述べています。
ほぼ全文を引用しておきます。
めったに日本のメディアではイスラエルの立場や考え方は紹介されないので、ひたすら悪玉扱いなのでいい機会です。

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「これは、イスラエルが、アサド政権の主な支持基盤であったヒズボラとイランに打撃を与えた結果であり、先制的な独裁政治に不満を持つ人々の連鎖反応の突破口になった。
しかし、これは同時に、私たちは、起こりうる全てに事に対応しなければならないということでもある。その一つは、1974年に成立し、50年続いてきた、イスラエルとシリアの合意が、昨夜、崩壊したという点である。
シリア軍は、駐屯地から離脱した。そのため、その場所に入って、過激な組織が入ってこないようにするよう指示した。イスラエルの国境線のすぐ外側だからである。これは、よい代替策が出てくるまでの一時的な方策である。私たちは国境の向こうにいる、すべてのシリアの人々、ドルーズ人、クルド人、クリスチャン、そして、平和に生きたいと願うイスラム教徒にも、手を差し伸べるつもりだ。
今状況を見ている。隣人として、平和な関係が築けるような政権が、シリアに出てくることを願っている。しかし、そうならないなら、イスラエルの国とその国境を守るためには、あらゆる事をしていくことになる」
イスラエル軍と米軍がシリア各地の危険地点を空爆:IDFゴラン高原シリアとの緩衝地帯制圧 2024.12.9 – オリーブ山通信

[要約]
①アサド政権が崩壊したのは、イスラエルがイランとヒズボラに打撃を与えたからである。
②シリア政府が崩壊したために、イスラエルとシリアとの間の合意は崩壊した。
③現在シリア軍基地は空白であり、その場所に過激な組織が入ってこられないように予防的な攻撃をしている。
④新たにできる新政府と友好的に共存したいが、不可能な場合には国境を守る。

なんというか、かんというかまぁ勝手な言い分ですね。
化学兵器関連施設を爆撃したまでは許容できますが、空海軍基地を全滅するまで叩き、さらにゴラン高原まで占拠したとなるといくらなんでもやりすぎです。
シリアとは無条約状態になったとネタニヤフは言いますが、シリア新政府ができるまで待って、新たな条約を結びなおすのが筋です。
そんなわずかな期間すら待てないで係争地にセメンだのですか。常識を疑う。

イスラエルがシリアと戦争関係にあったならまだしも、シリアとはなんの交戦もなかったのですから「侵略」と非難されても致し方ありません。
こんな混乱に乗じて火事場泥棒よろしく既成事実を作るようなやり方では、いっそう国際社会はイスラエルを異質な国として認識するでしょう。
ネタニヤフは「緩衝地帯におけるIDFの存在は適切な取り決めが見つかるまでの一時的な防衛的措置」であると述べていますが、シリア新政権がイスラム原理主義的色彩が強かった場合、ゴラン高原を占領し続け、さらに空爆を続行するはずです。

かくして、イスラエルは10月7日から始まったガザ戦争でガザ地区をほぼ全域を占領し、ハマスを壊滅に追い込み、返す刀でハマスに共闘するヒズボラをレバノンに侵攻して壊滅状態に追い込み、イランの勢力を駆逐しました。
そして今回はシリアとの緩衝地帯を占領しました。
これでイスラエルの戦闘の前線は4正面となり、中東で最も恐怖をもって呼ばれる勢力となりました。

なお、当然のことながら周辺国はこれを非難しています。

「シリア国内の混乱に乗じたゴラン高原の制圧、軍事拠点の空爆にトルコ、エジプト、サウジアラビアといった周辺国は非難の声をあげており、ゴラン高原の制圧は停戦協定違反と国連も避難している」
(ミリレポ12月11日)
イスラエルは抵抗できないシリアの海軍と空軍を一方的に攻撃、無力化する│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア

トルコはこう言っています。

「トルコは、イスラエルが緩衝地帯に入ったことを非難している。トルコ外務省は、「シリア国民が何年も望んできた平和と安定が実現するかもしれないという大事な時期」に、イスラエルが「占領気質」を見せつけていると批判した」
(BBC前掲)

シリア領内のクルド勢力を一掃したいエルドアンとしては、内心ほくそ笑んでいることでしょう。
なお権力移譲中のシリア政府はなんの反応も見せていません。
丸裸にされたのですから、言いようがないのかもしれませんが。

 

2024年12月11日 (水)

アサド政権陥落、トルコとイスラエル

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アサド政権が崩壊したことは、巨大なショックウェーブとして関係国に衝撃を与えました。
プーチンは平静を繕っていますが、2015年9月以来、営々と積み重ねてきた中東戦略はこれでほぼ破綻したことになります。
アサドの国と同じで、ひとりに権力が集中する独裁国家の脆さを目の当たりにしてプーチンは冷や汗を流したかもしれません。
プーチンがバッシャール・アサドをどんな顔で迎えたのか見物です。

「ロシア国営タス通信は同日夜、ロシア大統領府筋の話として、シリア大統領を辞任したアサド氏がモスクワに到着し、亡命を認められたと伝えました」
(朝日12月8日)
【速報中】ロシア報道官、アサド氏亡命認める 「プーチン氏決めた」:朝日新聞デジタル

2015年にアサド政権は崩壊の危機に瀕していたのを救ったのがロシアの空爆と、イランが送り込んだ革命防衛隊(コッズ部隊)でした。
この空と地上部隊の連携作戦は、反政府側の都市を焼き尽くし、シリア北部におけるトルコと正面からぶつかる構図を作り出しました。
イランと昵懇の仲になったのはこのシリア内戦介入からで、そのよしみはいまもウクライナ戦争支援に現れています。

この軍事介入でロシアはシリア領内にタルトゥース海軍基地とフメイミム空軍基地を得ました。
現在に至るも、航空機や艦艇は脱出したものの、保安要員のロシア兵は残存しており、反政府軍もあえて占領はしていないようです。

「今後、シリアにあるロシア軍基地の扱いが焦点の一つとなりますが、ペスコフ氏は「非常に重要な問題だ。基地の安全確保のため、あらゆる措置を取っており、軍も警戒態勢を保っている」としています。
ロシア外務省は「反体制派のすべてのグループと連絡をとっている」と強調。国営タス通信は反体制派側から基地や大使館の安全の保障を得たと伝えたものの、先行きは不透明です」
(TBS12月9日)
シリア・アサド政権崩壊でロシアの影響力低下必至 「主導権失った」ロシアメディアも報道(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

まだ新政府が作られていないので、それからの交渉となるでしょうが、アフガンのように巨大なバグラム空軍基地も捨てて逃げたのと違ってしぶといことです。
前政権が基地を何十年かで貸すと、HTSのゴーラーニーが作るであろう後継政権もそれを引き継がねばなりません。
ロシアとしてはいつでも還ってこれるのだぞ、という権益のシンボルとしてしがみつかねばなりません。
ただし、今のロシアに還ってくるような力は皆無ですが。

アサドを支えていた最大勢力はイランです。
イランは制裁下の経済的な苦境の中で、膨大な武器支援をし、アサドの戦闘員はイランの第1の舎弟であるレバノンシーア派組織ヒズボラでした。
しかし、ハマスの起こしたガザ戦争に乗じて共闘したために、ヒズボラはイスラエル軍の猛爆でほとんどの指導者が殺害され、戦闘員も壊滅しました。
とてもではないが、イスラエルとの戦局に無関係なシリアに戦闘員を回せる余裕はなく、アサドは2本の柱を同時に失って倒れたのです。
イランにとってハマス、ヒズボラに次いでシリアを喪失したことは深い痛手でした。 

それはさておき、周辺国は一斉にどよめきました。
大きく動いたのが、トルコとイスラエルです。
トルコは北部の国境地帯から自分の息のかかったSNA(シリア国民軍)を南下させています。

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XユーザーのDiliman Abdulkader

反政府勢力は一枚岩ではありません。
シリア内戦によって、反政府勢力は全国に分散して拠点を構える形になっていてそれぞれ性格が異なっています。
下図をご覧ください。
大きく分けて、今回の主力となった赤色のHTS(ハヤト・タハリール・シャム)、トルコ国境の黄色のSNA(シリア国民軍)、そして紫のクルド勢力(シリア民主軍)です。

「反政府勢力の最後の砦は、トルコと国境を接するアレッポ県とイドリブ県だ。この地域には政府側の支配地域から避難してきた400万人以上が暮らしていた。
この飛び地はHTSの支配下にあった。HTSは2016年に正式に関係を断つまで、シリア国内のアルカイダ系組織だったため、国連やアメリカ、トルコなどからテロ組織に指定されている。
トルコが支援するシリア国民軍(SNA)系勢力やトルコ軍とともに、多くの反体制諸派や聖戦主義グループも、この地域を拠点としていた」
(BBC12月6日)
シリア反政府勢力、中部の主要都市ハマを掌握 政府軍の撤退後 - BBCニュース

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 BBCニュース

トルコはシリア国境地帯のクルド人を攻撃してきました。
2018年には、トルコ国境で活動していたクルド人民兵組織「人民防衛部隊」(YPG)を越境攻撃しています。
今回もおそらくアサド政権の崩壊の混乱につけ込んでクルド勢力を攻撃するはずです。

また自分が支援するSNAには、ダマスカスに入城して、次期政権の一角に座れと命じるはずです。

一方、イスラエルもこの混乱に乗じようとする国のひとつです。
ネタニヤフは素早く反応しました。
めざしたのは、イスラエルとシリアの間に横たわっているゴラン高原です。

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ゴラン高原国際平和協力業務(1996(平成8)年~2013(平成25)年) : 内閣府国際平和協力本部事務局(PKO) - 内閣府

12月8日、ネタニヤフは国防軍がゴラン高原の非武装緩衝地帯を一時的に掌握したと発表しました。


「イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は8日、シリアとの間にある占領地ゴラン高原の非武装緩衝地帯を、イスラエル軍が一時的に管理下に置いたと発表した。シリアで反政府勢力が実権を握ったことで、同国と1974年に合意した兵力引き離し協定は「崩壊」したと述べた。
ネタニヤフ氏は、イスラエル国防軍(IDF)に対し、ゴラン高原の占領地域から、緩衝地帯と「その近くの指揮所」に進入するよう命じたと述べた。
イギリスを拠点とする戦争監視組織によると、シリア軍は7日、緩衝地帯の内側にあるクネイトラ県の陣地を離れたという。
ゴラン高原は、シリアの首都ダマスカスの南西約約60キロメートルに位置する岩だらけの高原。イスラエルは1967年の6日間戦争の終盤にシリアから奪い、1981年に一方的に併合した。国際的には承認されていないが、2019年にトランプ米政権が単独で認めた。」
(BBC12月9日)
イスラエル、ゴラン高原の緩衝地帯を管理下に シリア軍が陣地離脱で - BBCニュース

ゴラン高原はシリア、イスラエル、ヨルダンの国境が接する岩だらけの台地で、ダマスカスの南約60キロに位置しています。
シリアとイスラエルはこのゴラン高原の領有権を巡って長年係争しており、国際的にはシリア領とみなされています。
ただしトランプはこれを否定してイスラエル領土だと言っています。
このゴラン高原を巡っては、第三次中東戦争でイスラエルが7割を実効支配、1981年に一方的に併合を宣言、すでに入植を始めています。

イスラエル空軍は、反政府勢力の手に渡るのを防ぐため、ダマスカス近郊の化学兵器貯蔵庫、防空ミサイル基地、ミサイル工場に対して夜通し空爆を開始しました。

「イスラエルは、シリアのアサド政権崩壊を受け、同国の化学兵器およびミサイル貯蔵施設を攻撃したことを明らかにした。市民の安全確保に向けた予防措置だという。
武装組織「シリア解放機構(HTS)」が主導するシリアの反体制派は週末に首都ダマスカスを制圧。イスラエルのサール外相は9日の会見で、反体制派は「極端なイデオロギーを持つイスラム過激派だ」と述べ、イスラエル国防軍が化学兵器を含む兵器システムを狙ったことから、これらが「過激派の手に渡ることはない」と説明した」
(ブルームバーク12月9日)
イスラエル、シリアの化学兵器庫を攻撃-市民の安全確保と主張 - Bloomberg

さらに緩衝地帯を越えてダマスカス近郊まで攻め込んでいるという情報もあります。

「エルサレム=船越翔、ワシントン=淵上隆悠】イスラエル紙タイムズ・オブ・イスラエルは10日、複数の関係者の話として、イスラエル軍がシリアとの国境にあるゴラン高原の緩衝地帯を越え、首都ダマスカスの南西約25キロ・メートルの都市カタナまで進軍したと報じた。イスラエル軍は否定しているものの、シリアのアサド政権崩壊による混乱に乗じてシリア国内への侵攻を強めている可能性がある」
(読売12月10日)
シリアでアサド政権崩壊、イスラエル軍が首都近郊まで進軍との報道…混乱に乗じて侵攻の可能性 : 読売新聞

また、米中央軍も、この混乱に乗じてISが勢力を拡大する事を懸念して、シリア国内のISの拠点に空爆を行っています。
いずれにせよ、当分の間、混乱が拡大することでしょう。

 

 

2024年12月10日 (火)

さぁ、韓国のケイオスが始まった

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一回、こちらをアップしたのですが、ダマスカス陥落・アサド亡命の重要性から昨日の記事を優先しました。

さて、ご承知のように弾劾案は与党の議場退場で廃案となりました。やれやれ。何度も同じことを書いていますが、今の韓国では、大統領が戒厳令を発動しても国会が過半数の決議で無効にできるのです。

ですから大統領は「親北朝鮮のスパイ」を拘束するためには直ちに国会を解散して、野党議員を逮捕しないとダメです。
あるいは国会そのものを開けなくするしかありません。
そのために戒厳軍を国会に入れる蛮勇があるなら、そのままなんといわれようと軍が占拠し続けねば戒厳令が完遂しないのです。
同時に一切のメディアを強力な統制下に置かねばなりません。
勿論、デモなどは完全禁止、外出禁止は当然です。

これだけやらねば戒厳令なんぞできるものではありません。
だから私は近代民主主義国家では不可能だと思っています。

民主主義に反しているって、そのとおり、戒厳令は民主主義の一時的凍結だからです。
だから憲法に規定があっても事実上できないし、やるなら失敗したら民主主義の敵として縛り首になる覚悟でするしかないのです。

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聯合

「(ソウル=聯合ニュース)イ・ユミ記者=尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に対する弾劾訴追は、定足数不足のため7日の国会本会議で採決されなかった。今日の午後、本会議に提出された尹大統領の弾劾については、300人の議員のうち195人しか投票に参加しませんでした。
ただし、定足数がないため、投票はカウントされませんでした。その結果、弾劾動議は自動的に破棄されました。弾劾決議は、下院議員300人の3分の2、つまり200人の賛成で承認されなければならない。
また、投票には民主党を含む汎野党の議員192人、国民の力の党員、アン・チョルス、キム・サンウク、キム・イェジの議員195人しか投票に出席しなかった。
全体会議に先立ち、国民の力は、尹大統領の弾劾と金堅熙(キム・ゴンヒ)大統領夫人の特別訴追について「提案の拒否」を確認した。
弾劾法案は採決前から否決されることが確実視され、国民の力(PPP)は「金堅熙(キム・ゴンヒ)特別検察法」の再投票に参加し、尹大統領に対する弾劾法案の採決前に退席した」
(聯合12月7日)
【第2報】「崔大統領弾劾」の採決は否決...與 不登校に対する「反対票」

与党の苦肉の策です。
与党も野党に転落して、野党にいびり倒されたくはないし、そんなことになればユン氏と一蓮托生となって自分らも落選の憂き目にあってしまいます。
自分らは死なないように、ユンさんは座敷牢に入れてしまうからご勘弁を、というのが「国民の力」のプランです。

「【ソウル=時吉達也】韓国の韓悳洙(ハン・ドクス)首相と与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が8日午前、合同で国民向けの談話を発表した。韓代表は尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権について「秩序ある早期退陣で国民の混乱を最小化する」との方針を示した上で、尹大統領が今後、「外交を含め国政には関与しない」と強調した。
韓首相は、不安定な国際情勢の下で「韓米同盟を堅固に維持し、韓米日の安全保障協力を力強く進めることが重要な課題」だと指摘。「外国のあらゆる経済関係者が韓国を見つめている」として、野党側に予算案の通過を含む国政運営への協力を求めた」
(産経12月8日)
韓国大統領、外交や国政に関与せず 首相と与党代表が合同談話 - 産経ニュース

ユン氏には外交も内政も触らせない、しかし辞めさせないというわけで、すごいね、まさに座敷牢。
ほんとうはここまで大統領から権限を奪ってしまうと職務委譲の手続きとかなんかがいるのでしょうが、そんなことは後から考えようというケンチャナヨ精神です。
なんとも虫がいい案ですが、ハン首相がいうように「世界の経済関係者が見つめている」ような権力の空白が続いて、デモ天国になればウォンは投げ売られ、株も暴落するでしょうからね。
だからここで、野党にも信頼されているような首相が介入して一気にとりまとめようというのですが、うまくいかないでしょう。
野党はユン氏の首を取り、内乱罪で法廷に引きずり出すまで手をゆるめないでしょうかね。
検察が捜査しているそうで、ユン氏は出国禁止。

え、韓国に首相なんかいるのかと思った方も多いでしょうが、いるんですよこれが。

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聯合   ハン・ドクス首相

ハン・ドクス首相は、平時は昼行灯の人でしたが、政治歴は長い。
左派政権のノムヒョン時代には首相を経験し、その後も米韓FTAを結んだり、駐米大使になったりと政界の重鎮ではありました。
いわゆる大統領タイプではないために、政治的色気に乏しく、しかしいまのような「新たな内戦」(by野党)という時期にはうってつけとみられたのでしょう。
韓悳洙 - Wikipedia

「(ソウル=聯合ニュース)ホン・グッギ記者=首相府は、8日午後に韓徳洙(ハン・ドクス)首相が議長を務める予定だった臨時閣僚会議が非公開の「国務院会議」に変更になったと発表した。
首相官邸は、「議題についての審議・決定ではなく、現状をどう改善するかについて国務院議員間で議論するという点でスケジュールを変更した」と説明した。
政界の一部は、国務院の会議への形式変更を、内閣が会議に対する野党の批判を意識していたことを示していると解釈している。
これに先立ち、国民の力のハン・ドンフン委員長と韓首相は同日、公演を通じて国民政府に空白がなくなると発表し、これに対し、民主党は「第2の内戦」と呼び、祖国革新党は「第2のクーデター」と呼び、憲法上の権限のない違憲ルールと批判した」
(聯合12月7日)

もちろん時間稼ぎの彌縫策でしかありませんし、野党は4分の1の数で臨時国会を30日間招集できますから、どこまでも弾劾決議を出し続けることでしょう。
いや、ほんとうに日替わり定食よろしく毎週出すみたいですよ。(笑)
この国には「一事不再審」の原則が存在しないので、新たな証拠がなくてもなんどでも起訴できるのです。
日本では一回不起訴、ないしは無罪と決定したら、新しい証拠が見つからない限り再審はありません。
日本では「既判力」という法概念があります。

「既判力とは、判決が確定した場合において、その後同一の事件が裁判で問題になったとしても、前の裁判で確定した判断と矛盾する主張をすることができず、裁判所も前の裁判の判決と矛盾する判決をすることが禁止される制度的な拘束力のことをいいます。
このような既判力によって、民事裁判においても、原則、同一の当事者に対する、同一事項についての再度の争いが禁止されているのです」
(ベーリーベスト法律事務所)
一事不再理とは何か。再審との違いなどを解説

一回弾劾法を廃案にしたので、ユン氏の弾劾を成立させるに足る新たな証拠がみつからない限り、今回の国会での判断と矛盾した主張をすることができません。
ですから、日本では何度も同じ案件を蒸し返して弾劾することは不可能です。
しかし、できちゃうんだな、この国は。
近代法の概念が欠落していますから。

たとえば近代国家では、その案件が発生した時点で法にないものは罰せませんが、韓国はいくらでも遡及して今の法律で過去を裁くことが可能なのです。
典型的なケースは、自称「徴用工」での韓国最高裁判決です。
これには国民感情で裁くという隠し味も加わって、「日帝」時代を糾弾して賠償金を支払えという判決を出しました。
よく韓国のことを未熟な民主主義国家だといいますが、それはこういうことなのです。

今回の大統領糾弾案件でも、なんどでも臨時国会で毎日つるし上げては弾劾決議案をぶつけ、30日間という会期一杯ぶつけては否決されまたぶつけ、表では民労総と共に民主党といった従北派が大規模デモを仕掛けることでしょう。
師走だろうが年を越そうが、三が日でもデモをするんでしょう。

このデモが自然発生的に生まれたなんて思わないで下さいね。
大規模デモは組織的に動員体制を取らないとできないものなのです。
それをうちの国のメディアときたらこうです。

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韓国・尹大統領の弾劾めぐり国会前で抗議集会 国民の怒りは最高潮に(日テレNEWS NNN)|dメニューニュース(NTTドコモ)

「午後9時半頃、正門前に設置された大型モニターで不成立が伝えられると、悲鳴が上がった。抗議活動はその後も続き、韓国中部の テジョン市から駆けつけた会社員イ・ミソンさん(46)は「弾劾されるべきだ」と憤った」
(読売12月
ソウルの国会前で抗議の市民は弾劾不成立に悲鳴…野党猛反発、混乱収束の兆し見えず : 読売新聞

なにが悲鳴だ、喜びすぎて悲鳴がでたんでしょう。ウルトラ敵失ですからね。
30日間の臨時国会の間、毎日やるんですな。さすがは「東アジアのラテン」(実は東アジアの病人ですが)といわれた韓国の伝統芸だけあります。

というわけで、どこで落していいのかわからないケイオスが始まりました。
まぁ正直、いつまでもやっていなさい、という気分ですがね。

 

 

2024年12月 9日 (月)

アサド政権完全崩壊

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アサド政権が完全に崩壊しました。
アサドはプライベートジェットで国外逃亡し、ダマスカスは制圧されたようです。

「シリアの反政府勢力は8日朝、首都ダマスカスに入ったと表明した。ロイター通信は政府高官2人の話として、バッシャール・アル・アサド大統領がダマスカスを脱出したと伝えた。シリアの首相は、シリア国民が選んだ指導陣なら協力すると表明した。
ロンドン拠点のNGO「シリア人権監視団(SOHR)」によると、ダマスカスの空港から出発したプライベートジェットにアサド大統領が乗っていた様子。この飛行機が離陸した後、空港にいた政府軍は撤収したという。
反政府勢力はこの後、国営テレビとダマスカス・ラジオを通じてメッセージを放送し、アサド大統領の支配を終わらせ、政治犯を解放したと宣言。
さらに、「ムジャヒディン(イスラム戦士)と市民は、自由国家シリアの資産を守るよう」呼びかけ、「自由で誇り高いシリアよ、永遠に。所属する分派を問わず、すべてのシリア人に」と強調した」
(BBC2024年12月8日 )
シリア反政府勢力、大統領が逃亡し国は「自由になった」と主張 首都ダマスカス掌握と - BBCニュース


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シリアのアサド政権崩壊 アサド氏は空路首都離れる 父の代から50年以上の強権体制に幕 - 産経ニュース

中東専門家はそう簡単にアサド政権は倒れないだろうと予想していました。
アレッポを落しても、アサド政府軍は装備も優れており、さらにロシアが空爆をするだろうと見ていたようです。
そしてHTS(シャーム解放機構)を主力とした反政府軍とアサド政府軍は膠着状態に入るのではないか、と見ていたのです。

しかし現実には反政府軍は13年以上も続く長いシリア内戦を、わずか約10日間の攻勢で一気に決着をつけてみせました。
反政府軍がアレッポを制圧したのが12月3日、そこで一時的に体制を整えることもなく、そのまま中部の要衝ホマスに進軍し、たちまち制圧しました。驚くべき進撃速度です。

政府軍は、1975年の南ベトナム政府軍さながらの大崩壊を演じ、武器や戦車、戦闘車両を捨てて退散しました。
この間の短い戦いでアサド政府軍が放棄したのは、145両の戦車、96両の装甲・歩兵戦闘車、87門の砲兵システム、18基の防空システム、35機の航空機で、それらはほぼ無傷で反政府軍の手に渡りました。

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シリア反政府勢力、大統領が逃亡し国は「自由になった」と主張 首都ダマスカス掌握と - BBCニュース

唯一、アサドを助けることが可能だと見られていたロシア軍は、12月の初めの時点で撤退を決定したようです。
地中海に展開する要衝だったタルトゥース基地を放棄したことは、アサドにとって大きなショックだったはずです。

「ロシアはシリアのタルトゥース基地から海軍資産を撤退させており、これはロシアが近い将来、シリアのバッシャール・アル・アサド大統領の政権を支援するために大規模な増援を送るつもりがないことを示唆している可能性がある。
OSINTのアナリスト、MT Andersonは12月2日、11月30日と12月1日の衛星画像によると、(略)12月3日の衛星画像が、ロシアが3隻のフリゲート艦、潜水艦、そして2隻の無名の補助艦艇(おそらくイェルニャヴャジマ)を基地から撤去したことを示していたと報じた」
ロシアの攻勢キャンペーン評価、2024年12月3日 |戦争研究所

さらにロシア空軍の拠点であり、ここを出撃拠点として空爆を続けてきたフメイミム空軍基地からも、防空システムを搬出するのが確認されています。

「シリア北西部のロシア空軍の拠点であるフメイミム空軍基地から撤退しているとされるS-300/400防空ミサイルシステム。ロシア海軍基地があるタルトゥース港へ向かっているとされる。フメイミム空軍基地には常時30機のロシア空軍機機が駐留していたが、ここも放棄か」
Xユーザーのミリレポさん

ロシアがアレッポを落された時点でアサドを捨てたことはハッキリしたわけですが、露軍が提供してきた膨大な数の露製戦車や防空システムが反アサド軍の手に渡ったわけですが、これを使いこなせるでしょうか。
たぶん可能なはずです。

「Financial Timesはダマスカス解放の3日前「如何にして反政府組織がドローンとミサイルの供給者になったか」という記事を公開しており、どうやらHTSは2020年の停戦案受け入れ後、ただの民兵の集まりから屈強で効果的な軍事組織に変化を遂げていたらしい。
“米国はイランが支援するアサド政権に対抗するためトルコやアラブ諸国を通じて反政府組織に武器を供給したため、2011年以降のシリア国内には武器が豊富に存在し、HTSにとって武器の調達は難しくなかったものの軍事組織としては非常に未熟で、根拠地としていたイブリド統治も残忍な手法を採用していたが、2016年にアルカイダとの関係を断ち切ると方針を転換して宗教的少数派にも寛容さを示すようになり、2020年3月にロシアとトルコが仲介する停戦案を受け入れた後に大きな変革が始まった”」
シリア反政府組織がアサド政権に勝利した要因、効果的な軍事組織への変貌

 つまり、HTSは米国の支援を受けていないにもかかわらず、組織的な軍事行動と統制が取れた動きを見せており、かつての「IS系過激派」というイメージを払拭しているともいわれています。
また、現時点ではとお断りしておきますが、占領地においてイスラム原理主義の押し付けもしていないようです。これについては慎重に見極めねばならないでしょう。
なお米国は、この見解を修正していません。

現在、ダマスカスはHTS以外には、南部の複数勢力が合同して作った「南部作戦室」と、東から米国の支援を受けた「SFA」(シリア自由軍)が混在して制圧している状況のようです。
今後、これらの武装勢力が連合して臨時政府を樹立するのかはここ数日で明らかになることでしょう。
とまれ、シリアは長きに渡ったアサド家の独裁が終わり、新しい歴史が始まったわけです。

 

2024年12月 8日 (日)

日曜写真館 夕焼けてみんな詩人になりたがる 

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冬夕焼くちびる乾くまで見つむ 鎌倉佐弓 

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冬夕焼さらに淡くて水にあり 林翔 和紙

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むらさきの冬夕焼を掌にすくふ 古舘曹人

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子どもばかり飛びおりる空寒夕焼 仙田洋子

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冬夕焼永遠とは永き束の間や 赤岡淑江

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冬夕焼しづかに汐のいろ変へぬ 今井杏太郎

 

速報 弾劾決議案廃案

【ソウル=桜井紀雄】韓国国会(定数300)は7日夕、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が3日夜に「非常戒厳」を宣布したことは違憲だとして、野党側が提出した弾劾訴追案を採決する本会議を開いた。保守系与党「国民の力」の議員のほぼ全員が退席したため投票者数が規定の200人に達せず、投票不成立で廃案となった。(略)
弾劾案は在籍議員の3分の2以上が賛成すれば可決される。野党側は192議席で、与党から8人以上の造反者が出るか注目されたが、議場に残った与党議員は当初1人だけ。禹元植(ウ・ウォンシク)議長は、与党議員に議場に戻るよう呼びかけたものの、戻ったのは数人にとどまった」
(産経2024年12月7日 22:52)
韓国国会、大統領弾劾訴追案は廃案に 尹氏は戒厳宣布を謝罪、「任期を与党に一任」と表明 - 産経ニュース

詳細は月曜日にいたします。

2024年12月 7日 (土)

不思議の国の不思議な戒厳令騒ぎ

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ユンさんの「ひとりクーデター」については、考えるだにユーウツ。
どうも与党の「国民の力」も訴追には微妙な態度のようです。
ヘンですね、たしか与党は党議として弾劾訴追には一致団結して反対していたと思ったのですが。なにがなにやら、あの国のことは。

「【ソウル=時吉達也】韓国与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は6日、「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の速やかな職務執行停止が必要だ」と述べ、弾劾訴追案に賛成する意向を示した。在籍国会議員の3分の2に当たる200人以上が賛成に回る要件を満たし、弾劾訴追案が可決する可能性が高まった」
(産経12月8日)
韓国与党代表が大統領の弾劾訴追案に賛成、可決の可能性高まる 「速やかな職務停止必要」 - 産経ニュース

これでは、自分の党の大統領の首を差し出しているようなもので、ならば初めから訴追賛成と言ってりゃいいのになにをジグザグしているのでしょうか。
たぶん弾劾が成立し、大統領の不逮捕特権が喪失して、そのまま内乱罪で逮捕、死刑判決(ただし執行はされず)という段取りとなるでしょう。戒厳令は権力の武装蜂起のようなものですから、失敗すれば死刑になるのはやむを得ません。

「警察庁の禹鍾壽(ウ・ジョンス)国家捜査本部長は、野党の告発を受けて尹氏に対する捜査に着手したと述べた。内乱罪の最高刑は死刑で、大統領の免責特権が及ばない」
(BBC12月6日)
尹大統領、「内乱」容疑で韓国警察が捜査着手 辞任求めるデモ続く | Start Magazine

この国の法制度のベースを作ったのは統治時代のウチの国です。
だから民法、刑事訴訟法などは日本のそれを下敷きにしています。
しかし日本の法体系と大きく異なるのは、統治制度が大統領制と議院内閣制の併用というキテレツなものなことです。
ヘンに思いませんか。
だって、議院内閣制ならウチの国のように、スッキリ最大の得票を得た党の党首が首班に任命されます。

しかし大統領選挙は別枠でしてそこから大統領という最高権力者を選ぶというのですから、おいおいドッチが上位権限を持つのかわからなくなる、と思いませんか。
日本や英国ならば「国民の力」代表のハン・ドンフンが自動的に首班指名されるのに、別枠で大統領選で選ばれて「国民の力」の支持を受けたユン・ソンニョルが大統領として強い権限を持つのですから、竹と木を繋ぐようなもの。
権限を巡ってとうぜんバッティングします。
日本ならば、ゲル首相とサナエ大統領が併存しているようなものです。

今回の戒厳令騒ぎでは、大統領とその与党が股裂き状態になってしまっています。
これが韓国の統治構造が、まったく体質の違うふたつのシステムを繋いだ二重権力を作ってしまったからです。
こんなキメラを作れば、大災害などの非常事態や有事、あるいは戒厳令を出す出さないという極限状態では混乱が起きないはずがありません。

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【独自】「全体的に弾劾を防ぐべきだという雰囲気」韓国与党「国民の力」議員総会 参加者が明かす 尹大統領の弾劾訴追案への対応協議(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

せめて韓国に日本の内閣法制局のような法案が憲法や既存の法体系と矛盾していないかを判断する機関が、行政の介入を排する位置にいてくれたらまだましだったのでしょう。
しかし韓国はそんなシャレたもんがありません。

ないので、どうなったのかといえば、その時の政権が自分に都合のいい法律を作ってそのまま交付して行政化するもんですから、矛盾する既定が生じてしまいます。
では、これを憲法や法律に従って判断する司法が機能しているかといえば、これが自称「徴用工」事件で明らかになったように、そのときの裁判官と時の政府の好き放題できる人治主義と、国民感情が支配する情治主義の権化ときていますから処置なしです。
こういうグダグダなケイオスを、韓国では「民主主義」と称しているようです。

今回ならば戒厳令を布告する権限を与えられた大統領が発令しながら、議会の(しかも戒厳令下で出席した議員の)過半数の反対で無効になってしまっています。
「戒厳」とは、いわゆる非常事態宣言のことです。ちなみにわが国にはありません。
そういえば今回の一件で、立憲の女性議員がに日本に軍隊がなくてよかった、非常事態など憲法に入れさせないと鼻の穴を膨らませてきましたっけね。

こういうお約束はさておき、戦争や大規模災害時などの有事に憲法や法律の効力を一部停止して、行政と司法が軍隊に統制下に入る状態のことです。
「戒厳令」はそのための命令で、目的は非常事態をできる限り早く終わらせて、平時の状態に復旧することにあります。
韓国では憲法77条で戒厳を規定し、細部を戒厳法と戒厳施行令で定めています。

議会は憲法の既定を盾に取り、大統領は戒厳令法を楯にとるという具合です。
これでは戒厳令が戒厳令足り得ません。戒厳令はあくまでも民主主義の非常事態における一時的凍結だからで、数時間後に集まった議員多数決で無効になるくらいなら、初めから非常大権など大統領に与えなければよかったのです。

今回の戒厳令騒ぎはおかしなことがいくつもあります。
戒厳令で出動した軍が最初に行ったのが中央選管で、携帯を没収したそうです。
これはなんでも不正選挙の摘発だと朝鮮日報が伝えています。

「戒厳軍が最初に到着したのはソウル・汝矣島の国会ではなく、果川にある中央選挙管理委員会でした。選管の職員たちの携帯電話を押収し、選挙関連の資料を入手していたことが分かりました。金竜顕(キム・ヨンヒョン)前国防部(省に相当)長官は、不正選挙疑惑を捜査するためだと述べたそうです」
(朝鮮日報12月5日)
「不正選挙疑惑を捜査」 戒厳軍は韓国国会より先に中央選管に到着、職員たちの携帯電話を押収していた(朝鮮日報日本語版) - Yahoo!ニュース

なんでも、これにより共に民主党の幹部を逮捕し、国会を正常化させようとしていたというのですが、それ以前に出席した議員の多数決で無効とされないように議員を拘束し、国会を完全に物理的に封鎖すべきでしたが、それをしないからこうなるのです。
だからユンさん、中途半端に戒厳令もてあそんじゃダメりんだよ。

ところでたちどころに深夜なのに4万とも言われる反対派の大群か湧いて出たのもなんだかなぁ、です。

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韓国野党「戒厳令は違憲」 尹錫悦氏の弾劾案が国会で報告、6日にも採決へ - 産経ニュース

手に手にプラカードを持ち、集会場には巨大な横断幕まで現れて、戒厳令が出てたった数時間だというのにずいぶんと出来すぎた話です。
この大デモ隊のことを韓国の民主主義死せずみたいに日本のメディアは書いていますが、おいおい手回しが良すぎでしょうが。
まるで戒厳令がでることをあらかじめ知っていて準備していたみたいです。

こういうように今回の戒厳令騒ぎは腑に落ちないことばかりです。

 

2024年12月 6日 (金)

ロシア戦争経済の幻

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今のロシアはウクライナ戦争に全振りした戦争経済にシフトしています。
やや意外感がありますが、ロシア経済は「好調」です。
24年の経済成長率はなんと3.2%もあるのです。

「世界銀行は10月17日に発表した欧州・中央アジア経済見通しで、2024年のロシアの実質GDP成長率を3.2%、2025年は1.6%、2026年は1.1%と予測した。
2024年6月に同行が発表した世界経済見通しと比較して、2024年は0.3ポイント、2025年は0.2ポイントそれぞれ上方修正し、2026年は据え置いた。その理由として、消費者心理が好調なことや、実質所得の増加や防衛、インフラを含む政府支出の大幅な増加により、成長率が潜在成長率を大きく上回っていることを挙げた」
(ジェトロビジネス短信 2024年10月25日)
IMF、ロシアの2024年経済見通しを上方修正(ロシア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

これをもってしてロシアラバーの人たちは「西側の経済制裁は効いていない」、「モスクワやサンクトペテルブルクなとでは消費活動が活発で平時と変わらない」などという話をよくします。
プーチンの強気はこういう好調な経済に支えられているのだ、ロシアはまだまだどこまでも戦えるぞ、一方ウクライナを見ろ、もうタオルを投げてもらいたがっているじゃないか、トランプ和平を欲しているのはゼレンスキーのほうだというわけです。

ホントでしょうか。
「景気がいい」というのをGDPの成長率だけでみれば、それは事実です。
だって戦争経済やっているんですから、あたりまえじゃないですか。

戦争前の平時には、軍事費がGDPに占める割合は3.5%程度、中国では2.1%、日本やドイツでは1.0%程度といった数字です。
ロシアはウクライナ戦争前までは2.6%くらいでした。

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制裁下のロシア経済、なぜ「危機」を回避?GDP堅調だがリスクも [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル

しかし戦争が始まるや、戦費は莫大なものになります。
日本がおこなった過去の戦争の場合では、1894年に起こった日清戦争では、当時のGDPに対して17%、1904年に始まった日露戦争ではGDPの実に60%もの費用がかかっています。
また1941年から始まる大戦では、なんと880%(!)という仰天する数字となります、つまりGDPの8.8倍です。
そしてロシアの場合、6.1%に膨れ上がりました。
砲弾を作っても、鉄砲の弾を作ってもGDPとしてカウントされるんですから、そりゃGDPは激増しますね。

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「アメリカのCNNテレビは11日、NATO=北大西洋条約機構の分析として、ロシアの砲弾生産能力が、欧米の3倍近い年間およそ300万発に達している可能性があると報じました。欧米がウクライナ向けに生産する砲弾は年間120万発で、NATOの高官は、「われわれは生産戦争に直面している。ロシアの生産面での優位性が、戦場での優位性をもたらしている」と危機感を語りました」
ロシアの砲弾生産能力 欧米の3倍か 年間およそ300万発 NATO危機感(2024年3月12日)

今ロシアは全力で武器を生産していますが、一発の砲弾の材料を作るためには火薬を作る工場が要り、大砲や砲金を作る会社などが必要で、そこに支払いが生じます。
同時に、工員には労賃が支払われますから、国が全力で砲弾や戦車を作り始めたら巨額の公共投資が発生します。
戦争前の不景気はどこへやら、表面的には消費活動も旺盛になり「景気がよくなる」ようにみえるのです。

極端にいえば、戦死者の墓穴を掘ってもGDPは増えます。
今、ロシアは徴兵された者に手当てを支払い、戦死者に弔慰金を支払っています。
これは地方の貧困層にとって一種のばらまきとなって、地方経済を「活性化」させています。

なんで私が「景気がよくなる」とか「経済の活性化」にカッコをつけてきるのかおわかりでしょうか。
それは幻想、あるいは短期的な麻薬だからです。
なぜなら、戦争経済で出来たものは戦場で速やかに消費されるために国民生活に残らないからです。
また民製品を制限して軍需品に振り向けるわけですから、民製品が品不足になります。

そして戦時体制下においては、戦争を遂行することが最優先の目標ですから、煎じ統制経済が始まります。
作るものを国が決定し、価格も統制します。
これは既にロシアで始まっています。

では、ここで一見都市部での経済が活発に見えるのはなぜなのか考えてみましょう。
それは制裁に大きな穴があるためです。
それは中国とインドが制裁に参加していないからです。
両国はロシアから大量に原油や天然ガスを買い込み、民製品を輸出しています。
つまり、ロシアはじぶんの国の産業は武器生産に全振りして、民製品は中国から買って埋め合わせているのです。
まぁ元々たいした民製品を作れなかった国ですから、目立たないだけです。
中国など、トランプから制裁をかけられた場合、ロシアのような制裁逃れをするべく研究に勤しんでいるようです。

「中国政府はウクライナ戦争開始以降、ロシアから石油を購入し、電子部品から洗濯機まであらゆるものを供給することでロシア経済を支援してきた。その一方で、欧米による制裁を回避する実例をロシアから学ぶなど、中国としても独自の戦略的利益も得ている。
事情に詳しい関係者らによれば、中国はロシアによる全面侵攻後の数カ月間に複数の省庁を横断する組織を設置。欧米による制裁の影響を研究し、指導部に報告書を定期的に提出している。
これは特に台湾を巡る紛争で米国とその同盟国が中国に同様の制裁を科した場合に備え、その影響を緩和する方法を学ぶことが目的だという。またこの取り組みの一環として、中国政府当局者らは定期的にモスクワを訪れ、ロシア中央銀行や財務省、また制裁対策に関わるその他の機関と会合を持っていると関係者らは述べた」
(ウォールストリートジャーナル2024年12月2日)

中国、ロシアに制裁回避を学ぶ 台湾有事に備え | The Wall Street Journal

戦争経済はまさに麻薬です。
これに国家経済を全力で投入すれば、いったんは景気が浮揚しますが、戦争が終わった瞬間地獄が始まります。
そりゃそうでしょう。戦争経済というのは国家の全リソースを軍需産業だけに投じる極端に歪な経済なのですから。
だから戦争というエンジンが止まってしまったらどうしますか。
経済全体がなにを作ったらいいのか分からずにボーゼンとしてしまうのです。

一方、今、徴兵を強化できるギリギリまで増加させ、北朝鮮の傭兵まで投入していた兵隊たちが、戦争が終われば当然国に還ってきます。
しかしもう仕事がないですよ。工場は武器生産をもう出来ないし、民製品には簡単に転業できません。
ちょうど先の大戦直後の日本のように、戦闘機を作っていた会社が鍋ヤカンを作ることになってしまうのです。
ロシアの場合、安価な中国製がすでに民生品市場を押さえてしまっていますから、いまさらロシア製なんか売れやしません。
かくして到来するのは大失業時代です。

ここでしまったと思うでしょうが、その時はもう遅いのです。
戦争経済という麻薬を吸ってしまった中毒症状がここで現れます。
これが戦後のウルトラ大不況の到来です。
これがわかっているから西側は武器生産に全振りしないのです。
しかし元々原油くらいしか売るものがないというモノポリーな上に、独裁国家ですから歯止めが掛からないで、崖に向けて突進するのです。

このように考えてくると、ロシアは戦争を止めないかもしれません。

 

2024年12月 5日 (木)

戒厳令はもてあそんではならない

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ああ、やっちまった、なんつうこった、これでユン大統領お終いです。
「共に民主党」は内乱罪適用まで言っていますが、単独での弾劾に必要な201議席を持っていません。
しかし、少数与党の「国民の力」の一部が弾劾に乗ったら、重罪適用はまちがいありません。


それは突然の戒厳令布告から始まりました。

「韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3日夜、国民に向けて緊急のテレビ演説を行い、「非常戒厳を宣布する」と発表した。「国政はまひ状態にある」として、北朝鮮の共産勢力の脅威から韓国を守り、自由な憲法秩序を守るためだと説明した。これに対して韓国国会は4日未明、非常厳戒の解除を求める決議案を可決。尹大統領は同日朝、解除すると発表した。
尹大統領は4日朝、「国会の非常戒厳解除の要求を受け、戒厳部隊は撤収した」、「私は国会の要求を受け入れ、閣議を通じて非常戒厳を解除する」と述べた」
(BBC12月4日)
韓国大統領「非常戒厳」を宣布、国政がまひ状態と 国会の要求受け解除を表明 - BBCニュース 

信じがたいことには、ユン氏は自らの与党内にすら相談せずにこんな「ひとりクーデター」をしてしまったようで、議会は戒厳令を出席した与野党議員の満票で無効を宣告しました。

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BBC

「4日午前1時すぎ、韓国国会(定数300)は戒厳令の解除を求める動議を可決した。聯合ニュースによると、出席した与野党の議員190人全員が賛成した。これを受けて、国会の禹元植(ウ・ウォンシク)議長が、「戒厳の宣布が無効になった」と表明した。
韓国憲法は、国会議員の過半数が賛成して要求した場合、政府は戒厳令を解除しなくてはならないと定めている。さらに、戒厳下でも国会議員の逮捕は認められていない」
(BBC前掲)

なにもかもダメダメな「ひとりクーデター」でした。
戒厳令という武器は、反政府側の武装蜂起と対になるようなきわめて危険なツールだからです。
なぜなら、それは合法であれ、非合法であれ本質は「暴力」の行使だからです。
すなわち、一時的民主主義の停止なのです。

フリードリヒ・エンゲルスという19世紀の民間軍事愛好家は、パリコミューンに対してこう言っています。

「蜂起をもてあそんではならない。蜂起はきわめて不定な量をもちいておこなう計算のようなものであって、その量の数値は日々に変動するかもしれない」

この箴言の「蜂起」の部分を「戒厳令」に読み替えて下さい。
ユン氏は「日々変動する数値」を読み違えたのです。
そもそも戒厳令はきわめて切迫した国内の治安の崩壊があって成立するものです。
たとえば北の武装侵入、あるいは国内の親北勢力による内乱などの条件があって、初めて戒厳令を布告することができます。
戒厳令が、民主主義の一時的凍結という民主主義国家の根本に関わることが故に、最後の最後に選択肢がすべてなくなった時に取り出す宝刀のようなものです。
今回は陸軍参謀総長名で出ていますから、彼とだけは事前に打ち合わせてあったようです。

戒厳令を発令すると
①議会を含む全ての政治活動禁止
②自由民主主義を否定する言論を禁止(SNSを含む)
③出版テレビメディアの検閲
④スト、集会等の禁止
⑤警察は逮捕状なしの違反者検挙。 

そこまで切迫した状況だったとは到底思えません。
左派勢力の武装蜂起でもあったというのでしょうか、いいえありません。

今年4月の韓国総選挙(300議席)で与党「国民の力」が108議席に転落して大敗。
共に民主党が第一党が170議席となり、過半数をいいことに、いくつもの独自法案を提出し、22件に及ぶ閣僚等の弾劾決議案を提出しました。
議会を使ったサボタージュです。そのために政府は機能不全に陥っていました。
与党側は弾劾決議案をはねかえすので精一杯で予算すら通らない状態に陥っていました。
このため、ユン大統領は、戒厳令を発令し議会権限を凍結し、与党のみの意志で政治を動かそうとしたわけです。
しかし誰の目にもあまりに拙速、あまりに準備不足でした。

一方、北との関係は完全な冷戦に逆戻りしており、正恩は韓国を敵国として扱うと宣言していました。
しかしこれもかつてのようにゲリラでも送り込んできて青瓦台に迫ったわけではありません。

「尹氏は2022年の大統領選挙で保守強硬派の候補として勝利し、同年5月に大統領に就任した。だが、今年4月の総選挙で野党が圧勝。以来、レームダック(死に体)状態となっている。
政府として国会で法案を通すことができず、リベラルな野党が通過させた法案に拒否権を発動する程度のことしかできない状況だ。
加えて尹氏は今年、いくつかの汚職スキャンダルに見舞われてきた。妻をめぐっては、高級ブランドのディオールのバッグを受け取ったとされる疑惑や、株価操作に関わったとされる疑惑が浮上した。
このため支持率も低下し、17%前後という低水準で推移している。
尹氏は先月、テレビの全国放送で謝罪。ファーストレディー(大統領夫人)の職務を監督する事務所を設置すると述べた。だが、野党が求めていた本格的な捜査については拒否した。
そして今週、野党は政府予算案の大幅減額を提案した。大統領は予算案には拒否権を行使できない。
野党は同時に、複数の閣僚と、政府監査機関のトップを含む検察幹部らについて、大統領夫人に対する捜査を怠ったとして弾劾に動いた」
(BBC12月4日)
【解説】 なぜ尹大統領はいきなり非常戒厳を宣布したのか……翌朝には解除 - BBCニュース

自分の思う法案が通らない、不本意な予算案が通ってしまった、夫人のスキャンダルで尻に火が着いた、こんなていどのことなら、わが国も含めて日常茶飯事です。
レームダックになるたびに、憲法を停止し、民主主義を凍結し、軍隊で支配していたらバカですか、と言われるでしょう。
かつての軍事政権時代ならいざ知らず、今の韓国には戒厳令などできる時代ではありません。

そもそも、自分の与党くらい固めておきなさい。
与党内部にも反大統領派が存在しますから、彼らを納得させておかねば議会で無効とされるのは目に見えていたのです。

「(戒厳令無効の)採決に先立ち、大統領の発表を受けて、与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が「大統領の非常戒厳の措置は間違っている。国民とともに阻止する」と述べていた。
さらに、議会で過半数を持つ最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、戒厳令は違憲だと反発。同党の議員全員に、国会に集まるよう呼びかけていた」
(BBC前掲)

ユン氏は議会に軍隊を入れています。こんなものを今どき見るとは思いませんでした。
出動した部隊は韓国陸軍特殊作戦司令部と首都防衛司令部所属の精鋭部隊だそうです。

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「大統領として、血を吐く思いで訴える。北朝鮮の共産勢力の脅威から大韓民国を守る」。尹氏が生中継で談話を発表し、非常戒厳を宣言したのは3日午後10時半ごろ。約20分後には警察が国会出入口を閉鎖し、議員の立ち入りを阻んだ。
さらに、武装した230人以上の戒厳軍が、ヘリコプターで国会敷地内に進入。職員らの抵抗に遭った軍人らは窓ガラスを割って建物内に入り、戒厳令解除の議決を進める本会議場を目指した。
最大野党「共に民主党」は、戒厳軍が議決阻止に向け、戒厳宣布を「違法」と非難した与野党代表や国会議長を拘束しようとしたことが、監視カメラの映像で確認されたとしている。
4日午前1時ごろ、戒厳解除を求める決議が出席議員の全会一致で可決されると、戒厳軍はすぐに撤収を開始。午前4時半に尹氏が戒厳解除を発表し、「緊迫の一夜」は幕を閉じた」
(産経12月4日)

韓国非常戒厳、尹大統領の真意読めず「155分のミステリー」に 軍の国会進入に市民衝撃 - 産経ニュース

議会に軍隊を入れるならば、どうして議会を解散しないのでしょうか。
そして「共に民主党」と民総連を中心にする親北勢力に対して、警察を使って全員逮捕しないのか。
そのために外出禁止だけではなく、逮捕リストを作成し、警察にも手を打っておかねばならなかったのです。

たぶん元検事総長だったユン氏には、そこまでの割り切りが出来なかったようです。
その甘さが国会で与野党全員の決議で解除されるということを招きました。
やるならやる、やる以上徹底的にやる、それしかユン氏には残されていなかったのに、です。

やれやれ、これで短い保守政権は終わり、次はイ・ジェミョンというムン・ジェインが可愛く見えるようなウルトラ反日男が大統領になることにほぼ決定しました。
米韓同盟を止めたがっているトランプや南を敵国とした正恩に対して、親北反米のイ・ジェミョンがどのように対するのか見物です。

2024年12月 4日 (水)

バイデンのドラ息子、やっぱり恩赦

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どこのウチにもバカ息子はいるもんでございます。
ただそのていどがヒドイかどうかだけのこと、といえばそれっきりです。
ハンター・バイデン氏は隠れることなきバカ息子です。
しかも毛並みのいいバカですから始末におえない。
ヤク中で、カネにだらしなく税金も収めない、下半身の管理もズサンで境界を越えてアチラに行ってしまうこともしばしばあった人のようです。

ハンターの父親が、民主党の大物だったことがよかったのか、悪かったのか。
この人の人生は初めから血族がらみです。
父親の願いを一心に受けた兄貴のボーが、母親の運転する自動車事故で死亡。
父の長男に託した思いは全部この次男に降りかかってきます。
まことに迷惑でしょうが、米国の名門にはよくある話で、JFKも兄の死で似たような苦悩を味わっています。

ただケネディ家と違うのは、親父がメロメロの大甘だったというところです。
パパ・バイデンが息子がエールを卒業した後に押し込んだのが、親父の政治キャンペーンへの主要献金者のひとつでした。
たちまち伜は副社長に昇進
その後は親父のコネで米国商務省に勤務したり、ワンシトンでロビイストをしています。

そのあたりからパパ・バンデンの外交人脈の一部と化していきます。
ウクライナの親露政権当時はウクライナの石油会社の役員となり、中国でも同様のバイデン人脈の一部で動いています。
たぶん、次期政権が暴くかもしれませんが、この間の怪しさは相当なもんです。

今回のパパによる息子の赦免は、バイデン政権の最後を飾るにふさわしい負のモニュメントになるでしょう。
なんせ大統領の息子なら、当然ギルティになることでも特赦されるのですから。

バイデンはこう述べています。

今日、私は息子ハンターの恩赦に署名しました。就任以来、司法省の決定に干渉しないと約束してきましたが、息子が選択的かつ不公平に起訴されるのを見てきました。ハンターは他の人々と異なる扱いを受けました。彼のケースは、私の政治的対立者が攻撃のために引き起こしたものであり、司法省との合意が法廷で崩れました。ハンターが私の息子であるために特別に扱われたことは明らかです。私はこの決定を下すにあたり、正義が政治によって歪められたと感じました。アメリカ国民がこの決定を理解してくれることを願っています」

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バイデン米大統領、次男ハンター氏に恩赦 「国民が理解してくれると願う」 - BBCニュース

BBCは、その罪状についてこう書いています。


「アメリカのジョー・バイデン大統領の次男、ハンター・バイデン氏(54)が銃の購入や所持をめぐり3件の連邦法違反の罪に問われた裁判で、東部デラウェア州連邦裁判所の陪審団は11日、すべての罪で有罪とする評決を出した。現職の米大統領の子どもが刑事裁判で有罪とされたのは初めて。
ハンター氏は、2018年10月に拳銃「コルト・コブラ・スペシャル・リボルバー」を購入した際、「違法薬物の違法使用者や常習者」ではないと虚偽申告したとされる。
連邦政府の身元調査で薬物使用についてうそをついたとして2件の罪に、薬物中毒の状態あるいは薬物を使用した状態で銃を所持したとして1件の罪に問われた。
ハンター氏は2021年に出した自著で、若いころ、クラック・コカインのヘビーユーザーだったと認めている」
(BBC2024年6月12日)
バイデン氏の次男ハンター氏に有罪評決、現職大統領の子どもで初 銃所持などめぐり - BBCニュース

下写真が、そのときの法廷に入るハンターの姿です。
お袋に手を引かれ、女房に手を繋がれ・・・、まぁ悪いとは言いませんがカッコワル。
お前の裁判だろ、母親と女房連れて入廷するんじゃねぇよ、と思いません。

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BBC

そして母親と妻の願いも虚しく全部有罪。
今回特赦にあずかったのはこの部分です。
しかしまだこのドラ息子には犯罪のすそ野があるようです。
特に重くみられているのが巨額の脱税です。
訴状によると、ハンター被告は2016から2019年に、少なくとも140万ドル(約2億円)の連邦税を逃れようと画策したとされています。


「検察当局は、ハンター被告が「麻薬、コールガールやガールフレンドたち、高級ホテルや賃貸物件、外車、衣服、その他の個人的なもの、要するに税金以外のすべて」には金を使ったが、適切な納税には使わなかったと主張している。
(BBC 2024年6月12日)
バイデン氏の次男ハンター氏に有罪評決、現職大統領の子どもで初 銃所持などめぐり - BBCニュース

本来はむしろこれが本丸ですが、伜が父親のコネを使ってウクライナと中国の取引で巨額の利益を得たとするものです。
その一部は父親の選挙資金に流れたはずですが、ことは国際関係も絡むのでトランプ政権がこれを引きずり出すかどうかわかりません。
今回の恩赦は民主党議員やリベラルメディアにすら評判がよくありません。(当然ですが)
そりゃそうでしょう、こんな親馬鹿を許したら、トランプ訴追はいったいなんだったのかということになりますからね。

とまれ、これで終わったわけではありません。余罪があまりに多いからです。
自身をつつきまわされたトランプは、就任したらすぐにこの余罪をあぶり出して起訴するように命じることでしょう。

 

2024年12月 3日 (火)

シリア内戦続報

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シリア内戦の続報です。
ロシアは支援を行うと言っていましたが、さっそく空爆がなされたようだとBBCが伝えています。

「シリアの反政府勢力が同国第2の都市アレッポの一部を掌握し、前進する中、シリア政権側を支援するロシアは1日、アレッポなどに「一連の空爆」を実施した。シリア国内に情報源のネットワークをもつシリア人権監視団(SOHR)が発表した。
SOHRによると、北部アレッポでは病院が空爆を受けて12人が死亡した。北西部の都市イドリブでは8人が死亡し、50人以上が負傷したという。
ロシアの戦闘機はイドリブと中部ハマの農村部も攻撃した。これらは反政府勢力の攻撃を主導するグループが「最近、掌握した」場所だと、SOHRは付け加えた。
シリア政府は2011年に内戦が勃発して以降で初めて、アレッポの支配権を失ったと、SOHRはAFP通信に語った」
(BBC12月2日) 
ロシアがアレッポなど空爆、シリア反政府勢力の前進続く中 - BBCニュース


ウクライナでは、対空ミサイル網によってほとんど飛ぶ機会すらなかったロシア空軍がひさびさに空爆をしています。
さぞかし気持ちがいいでしょうが、今度はかつてのようにはいかないはずです。

ゴーラーニー率いるHTSが、どの国から武器支援をもらっているのかわかりませんが、仮に多少でも個人携行の対空ミサイルを保有していれば、かつてのように勝手気ままにシリア国民の頭上に爆弾を降らせるような空爆は不可能となります。
また反政府軍が、ロシア製パンツァーリ対空ミサイルを鹵獲したという画像が上がっているので、これを使えるならば、ロシア空軍にとってきわめて脅威となりえます。

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石川雅一のYOUTUBEシュタインバッハ大学

ところで石川雅一氏の『シュタインバッハ大学』様が、HTSのアレッポの占拠時の模様をアップしているので、参考にさせていただきます。
アレッポにある大統領宮殿を占領して、内部を見聞しているHTSの戦闘員です。
アサドは独裁者好みのゴージャスな宮殿をお持ちのようです。

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続報! シリアの政府軍拠点アレッポが陥落で公開されたアサド宮殿の豪華な内部【石川雅一のYOUTUBEシュタインバッハ大学】

アレッポ軍用空港とクアイリス空軍基地も占領されたようです。
掩体壕に入ったチェコ製のアエロ L-39 アルバトロスが写っています。

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石川雅一のYOUTUBEシュタインバッハ大学】

22カ所の政府軍拠点が制圧されたと伝えられています。

さて今後、どのような展開になるのかわかりません。
アサドがロシアに家族と一緒に逃げたという情報は裏がとれないのですが、仮にそれが真実ならば独裁国家としては終わっています。
では今、反撃宣言を出しているアサドは何者だということになりますが、独裁者がよく使う影武者か、さもなくばプーチンからこちらに飛び火させる気かさっさと戻れと叱られて戻ってきたアサドかのいずれかになります。(たぶん後者でしょうが)

いずれにせよ独裁国家は独裁者の権威がいささかも傷ついてはなりません。
独裁者がアレッポを落されたと知った瞬間尻に帆を賭けて逃亡などしたら最後たちまち、軍全体が激しく動揺し、一気に崩壊します。
たとえばアフガンは、米軍が「夜逃げのように」逃げ出したと知れ渡った瞬間、タリバンは停戦協定を廃棄して首都カブールに進撃しました。
いままで近代的装備を供与されていたアフガン軍は、我先にと武器を捨てて、市民に紛れ込もうとしました。
カイライ軍の崩壊は瞬時です。かつての南ベトナムしかり、アフガンしかり。

ところでHTSはかつてはアルカイダに組み込まれていましたが、飯山陽氏によれば、今は外国でテロを働くタイプから独立した経済圏を持つ「国家内イスラム国家」を目指しているようです。

「シリア内戦の小康状態化以降、この5年、ゴーラーニーはイドリブを中心に、イスラム国家建設に取り組んできました。
ゴーラーニーはイドリブのほか、ハマーやジスルッシュグールなどの有力者と対話を重ね、地域を活性化するためのプロジェクトなども行ってきました。
彼は2022年にサール・アッルージュ地域に水を供給する施設の開所式で、地域の有力者を前に次のように演説しています。
「私たちは自力で生き、自衛できる社会を築こうとしている」
「援助だけに頼ったり、現地の人々に援助を強要したり、解放された地域に救急用カゴや牛乳パックを届けるために国際交渉を行ったりするのは、率直に言ってシリア国民に対する一種の屈辱だ」ゴーラーニーは、より高いレベルでの自給自足体制を構築する必要があると主張し、そのために、農業、産業、公共サービスに重点を置いた3本柱の開発計画について演説しています」
(note2024年11月30日 )

このようにイスラム過激派としては珍しく「経済がわかる」のがHTSのようで、彼らがアレッポを真っ先に落したのは拠点としていたイドリブに近いということと、アレッポはシリア最大の商都だからです。
彼らが今後、アレッポを拠点に据えて「自給圏」を持つイスラム国家を建設するのか、完全にアサド政権を打倒するまで突き進むのかは、現時点ではなんとも言えません。

しかしかつて大量の精鋭部隊を送って来たヒズボラは半ば壊滅状態であり、イランはそのヒズボラを支える力を喪失し、ロシアさえもがウクライナ戦争を戦うので精一杯です。
特に、ウクライナで手一杯のロシアにとって、計り知れない打撃となりました。

北朝鮮から軍事支援を受けねばならないほど軍事ソースがやせ細ってしまったロシアに、かつてのようなシリアを支援する能力はどこにもありません。
プーチンは在シリア軍セルゲイ・キセル司令官を交代させ、アレクサンダー・チャイコ大将を任じましたが、底を尽きつつある軍事物資をシリアにまわせるとは思えません。

キセル中将はウクライナ侵攻の冒頭に、第1親衛戦車軍の司令官として首都キーウの制圧を命じられました。
ちなみに、「親衛」という部隊名があるのはソ連時代からの精鋭部隊に与えられた名誉称号です。
しかしウクライナ軍の反撃にあって多大な損害を被って失敗し、ロシアの戦争プランを土台から壊してしまいました。
さぞかしプーチンの怒りを買ったことでしょう。

そして名誉挽回で与えられたウクライナ第二の都市であるハリキウ攻略にも失敗。
補給路を遮断され、精鋭といわれた第1戦車軍は最初の19日間の戦闘で戦車131両と兵力409名を失い事実上壊滅しました。
半分となった残存部隊を再度侵攻させるもこれにも失敗。
もはや負け癖がついています。
かつての親衛戦車部隊を任された時の輝きはどこかに吹き飛んでしまい、22年5月にはキセルはこれらの失敗の責任を問われて、第1親衛戦車軍の司令官を解任されました。
そして左遷されて流された先が比較的安定していると言われていたシリアでした。
しかしこれも今回のていたらくですから、もはや予備役送りではないでしょうか。

一方ウクライナ軍はシリアに第2戦線を拓きたいと考えているらしく、少数ですが特殊部隊を密かに派遣し、反政府軍と共にロシア軍とアサド政府軍を攻撃していることが確認されています。
目的はいうまでもなく、シリアのロシア軍に軍事ソースを使わせてウクライナ戦線に対する圧力を減らすことです。
今ここでアサド政府軍が崩壊危機になれば、メンツにかけてプーチンはアサドを支援せねばならないからです。
トランプが就任すれば、彼はバイデンの長距離兵器使用制限を捨てて、ロシア国内への攻撃を容認するでしょう。
だから、プーチンにとってウクライナを徹底的に叩くならこの2カ月間しか残されていないのですが、この時期にシリアに戦力を割かねばならないことになるとはプーチンは予想だにしなかったはずです。
プーチンは地団駄踏んでいるはずですが、米国がどのように出るのかまだ動きはありません。

 

 

2024年12月 2日 (月)

シリアアサド政権崩壊危機

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シリアでアサド政権に対して反撃が開始されました。
どうやらアレッポでは反政府側が支配し、アサド政権軍が逃亡したとの映像が出ています。
なお、アサドも家族と共にロシアに逃亡したという未確認情報があります。

情報はこれを書いている午前2時時点では錯綜していますが、アサドは帰国したもののクーデターに遭遇したという情報も入っています。
クーデターの帰趨はわかりませんが、ダマスカスでも戦闘が起きているようです。

「アサド政権の総合安全保障局長、ハッサム・ロウカ准将は、現在、アサドに対するクーデターを指揮している。#Damascus、首都#Syria.彼はのグループを率いています#Syrianアサド一家を捕らえようとしている陸軍兵士たち」
XユーザーのBabak Taghvaee - The Crisis Watchさん

シリアは重要な地中海に面した軍事拠点でしたが、ロシア軍はアレッポ、ハマ、デリゾールなどの基地を閉鎖して、唯一地中海沿岸のフメイミム空軍基地に立て籠もっているようです。
シリアが失陥すると中東のみならず、地中海に進出していた拠点のすべてを失います。

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Syria insurgents enter Aleppo in a surprive offensive against Bashar Assad's forces | DW News

「シリアの反政府勢力ハヤト・タハリール・アル・シャーム・グループとその同盟者たちは、バッシャール・アル・アサド大統領が支配するアレッポに対して大規模な攻撃を開始した。反政府勢力は、シリア軍の複数の地域、武器庫、装甲車両を占領した。
数十人のシリア軍兵士、ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS)グループとその同盟者が衝突で殺害された。シリア人権監視団は、最近の衝突で約100人の死傷者を報告した。死傷者には、HTS戦闘員44人、同盟グループから16人、シリア軍から37人が含まれている。
ハイエト・タハリール・アル・シャームの指導者アブ・ハッサン・アル・マアラも、シリア軍によって殺害された人々の一人だ。反乱軍グループは、アレッポ郊外から10km前進し、ヒズボラが支配する2つの町の近くで報告しています。HTS武装集団は、バッシャール・アル・アサドが支配する10の地域を占領した。HTSはアルカイダの分派であり、シリアの地元の目標に対して穏健であると自らを描いていますが、米国はこのグループをテロ組織リストに載せていました」
DW News 

ただし、この反政府側もイスラム過激派テロ組織であるHTS(ハヤト・タハリール・アル=シャーム機構 )ですので、念のため。
かつてはアルカイーダの一派だとみられていましたが、今は分離し、戦車やドローンを有した組織に変貌しています。

シリアは典型的な独裁国家です。
完全にアサド家によって国家が支配されていましたが、2011年の「アラブの春」で民主化を求める内戦が発生しました。
当初は武力紛争ではなく民主化を求めるデモ運動に過ぎませんでしたが、これをアサドが武力弾圧し、かえって全国に火の粉を拡大しました。
この過程で近隣国から様々な支援を受けて自由シリア軍が結成されました。

一時期、アサドは危うく国外逃亡一歩手前まで追い詰められました。
これを支えたのがロシアとイランのコンビです。
2015年、シリアのアサド政権は、反政府派によって劣勢に立たされると、2015年にロシアに軍事支援を要求しました。

「元々、中東・アフリカにはロシアの幾つかの民間軍事会社が進出していたが、ワグネルとしては15年、ロシアがシリアのアサド政権を救うため軍事介入してから本格化した。プーチン氏との親密な関係をテコにワグネルをロシア軍の別動隊として拡大させていったのが今回の反乱の首謀者であるプリゴジン氏だ。内戦や紛争につけ入って独裁者らの警備を担当し、時には反政府勢力の掃討作戦に参加し、数百人規模の虐殺にも加担したと非難されてきた」
(佐々木伸  7月4日)
ワグネル反乱で影響必至の中東・アフリカ情勢(Wedge(ウェッジ)) - Yahoo!ニュース

ロシア政府は空軍を派遣し、反政府派都市の無差別爆撃を行います。
この指揮をとったのが、「アルマゲドン将軍」ことプリゴジンの盟友であるスロビキン将軍です。
スロビキンは、ウクライナ戦争におけるマウリポリを焦土とした戦闘でも再び登場します。
ロシアは空軍を派遣し、反政府地域を無差別爆撃して回りました。
また、禁止されている化学兵器などの使用も確認されています。

「これまでにシリアに派遣されたロシア兵は6万3000人に上り、ピーク時には1日100回以上の攻撃を行っていた。民間軍事会社の人員が多数、前線で親政府派勢力と共に戦っていたとも言われている。シリア内戦は、ロシア軍にとって重要な実地訓練の場となり、ミサイルや爆撃機Tu22Mなど武器の試験を行うこともできた」
(AFP2019年10月4日)
シリアに腰を据えるロシア、中東での影響力拡大の足掛かりに 写真26枚 国際ニュース:AFPBB News

このような過剰なシリアに対する介入の目的は、ソ連時代の中東から地中海における軍事的プレゼンスの復活にありました。

「ほぼ明らかなことは、アサド政権を軍事的に打倒することは不可能になったということと、ロシアが今後ともシリアへの軍事プレゼンスを維持するということである。
すでにロシアはフメイミム基地の長期租借協定を結び、基地の大拡張を完了しているほか、今後は地中海のタルトゥース港に設置された小規模な補給・整備施設を本格的な海軍基地へと拡張することも決定している。ロシアはエジプトとの間でも飛行場の使用に関する協議を行っており、かつてのソ連が地中海から中東に掛けて有していた程度の軍事プレゼンスを復活させようとしているように見える」
(小泉悠々2018年1月4日))
在シリア・ロシア軍基地に過去最大規模の攻撃か (小泉悠) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ロシアは2016年にはタルトゥスに恒久的海軍基地の建設を開始しました。

「(CNN) ロシアのパンコフ副国防相は10日、シリア西部のタルトゥスにある補給基地を拡張し、恒久的な海軍基地とする計画を明らかにした。ロシア国営タス通信が伝えた。(略)
タルトゥスはシリアの地中海沿岸部にある港湾都市で、南にレバノン、北にトルコを望む。ロシアの海軍施設はソ連時代から存在していた。

この基地には埠頭(ふとう)が1つあるだけで、地中海での任務に派遣されるロシア軍艦船のための修理所や補給拠点として主に使われてきた」
(CNN2016年10月11日)
ロシア、シリア海軍基地の恒久化を計画 - CNN.co.jp

また、反政府軍支配地域への空爆には北西部ラタキア付近にあるフメイミム空軍基地を使用しており、ここも恒久的基地です。
現在これらの基地ち3000人の兵員が駐留していると言われています。

今回、ロシアがシリアに軍事力を投入できないと見た反政府軍は、突如HTSがアレッポ進軍を開始し、不意をつかれたアサド政権軍はなすすべもなくアレッポを無血開城させてしまったようです。
またイランも、革命防衛隊の指導層がことごとく討ち取られてしまっている上に、第1の舎弟であるヒズボラは壊滅寸前に停戦のゴングで救われている状況であり、第2の舎弟のハマスも余所を助けるどころか助けて欲しいくらいな状況でタオル一歩手前といったていたらくです。
共にこの2組織共に、指導層はことごとく空爆で死んでいます。
これでアサドなんぞにかまっていられるはずがありません。

かくして「力の真空」とでもいうべき状況が一時的に中東に発生し、アサドの尻に火が点いたというわけです。
今後の行方についてはまだ不透明ですが、ロシアにとっていかにウクライナ侵略が割に合わなかったかよくわかります。
今、かつて世界第二位と呼ばれたロシア海軍は出口を失いつつあります。
フィンランドとスウエーデンがNATOに加盟してしまうことでバルト海方面は閉ざされ、黒海艦隊はクリミアを失いつつある中で、数少ない出口は地中海方面と太平洋方面のみでした。
シリア失陥でこのひとつを失うとすれば、ウクライナ4州の強奪は高いものにつきました。

 

 

2024年12月 1日 (日)

日曜写真館 紅葉且つ散る轟音のごとく散る

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すさまじや紅葉を染る露の音 鈴木道彦

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いま写します紅葉が散ります 種田山頭火

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ちりかゝるむしろ屏風のもみち哉 正岡子規

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冬紅葉全く散るを肯ぜず 阿波野青畝

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今は散るのみの紅葉に来り会ふ 細見綾子

 

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