アサド政権完全崩壊
アサド政権が完全に崩壊しました。
アサドはプライベートジェットで国外逃亡し、ダマスカスは制圧されたようです。
「シリアの反政府勢力は8日朝、首都ダマスカスに入ったと表明した。ロイター通信は政府高官2人の話として、バッシャール・アル・アサド大統領がダマスカスを脱出したと伝えた。シリアの首相は、シリア国民が選んだ指導陣なら協力すると表明した。
ロンドン拠点のNGO「シリア人権監視団(SOHR)」によると、ダマスカスの空港から出発したプライベートジェットにアサド大統領が乗っていた様子。この飛行機が離陸した後、空港にいた政府軍は撤収したという。
反政府勢力はこの後、国営テレビとダマスカス・ラジオを通じてメッセージを放送し、アサド大統領の支配を終わらせ、政治犯を解放したと宣言。
さらに、「ムジャヒディン(イスラム戦士)と市民は、自由国家シリアの資産を守るよう」呼びかけ、「自由で誇り高いシリアよ、永遠に。所属する分派を問わず、すべてのシリア人に」と強調した」
(BBC2024年12月8日 )
シリア反政府勢力、大統領が逃亡し国は「自由になった」と主張 首都ダマスカス掌握と - BBCニュース
シリアのアサド政権崩壊 アサド氏は空路首都離れる 父の代から50年以上の強権体制に幕 - 産経ニュース
中東専門家はそう簡単にアサド政権は倒れないだろうと予想していました。
アレッポを落しても、アサド政府軍は装備も優れており、さらにロシアが空爆をするだろうと見ていたようです。
そしてHTS(シャーム解放機構)を主力とした反政府軍とアサド政府軍は膠着状態に入るのではないか、と見ていたのです。
しかし現実には反政府軍は13年以上も続く長いシリア内戦を、わずか約10日間の攻勢で一気に決着をつけてみせました。
反政府軍がアレッポを制圧したのが12月3日、そこで一時的に体制を整えることもなく、そのまま中部の要衝ホマスに進軍し、たちまち制圧しました。驚くべき進撃速度です。
政府軍は、1975年の南ベトナム政府軍さながらの大崩壊を演じ、武器や戦車、戦闘車両を捨てて退散しました。
この間の短い戦いでアサド政府軍が放棄したのは、145両の戦車、96両の装甲・歩兵戦闘車、87門の砲兵システム、18基の防空システム、35機の航空機で、それらはほぼ無傷で反政府軍の手に渡りました。
シリア反政府勢力、大統領が逃亡し国は「自由になった」と主張 首都ダマスカス掌握と - BBCニュース
唯一、アサドを助けることが可能だと見られていたロシア軍は、12月の初めの時点で撤退を決定したようです。
地中海に展開する要衝だったタルトゥース基地を放棄したことは、アサドにとって大きなショックだったはずです。
「ロシアはシリアのタルトゥース基地から海軍資産を撤退させており、これはロシアが近い将来、シリアのバッシャール・アル・アサド大統領の政権を支援するために大規模な増援を送るつもりがないことを示唆している可能性がある。
OSINTのアナリスト、MT Andersonは12月2日、11月30日と12月1日の衛星画像によると、(略)12月3日の衛星画像が、ロシアが3隻のフリゲート艦、潜水艦、そして2隻の無名の補助艦艇(おそらくイェルニャとヴャジマ)を基地から撤去したことを示していたと報じた」
ロシアの攻勢キャンペーン評価、2024年12月3日 |戦争研究所
さらにロシア空軍の拠点であり、ここを出撃拠点として空爆を続けてきたフメイミム空軍基地からも、防空システムを搬出するのが確認されています。
「シリア北西部のロシア空軍の拠点であるフメイミム空軍基地から撤退しているとされるS-300/400防空ミサイルシステム。ロシア海軍基地があるタルトゥース港へ向かっているとされる。フメイミム空軍基地には常時30機のロシア空軍機機が駐留していたが、ここも放棄か」
Xユーザーのミリレポさん
ロシアがアレッポを落された時点でアサドを捨てたことはハッキリしたわけですが、露軍が提供してきた膨大な数の露製戦車や防空システムが反アサド軍の手に渡ったわけですが、これを使いこなせるでしょうか。
たぶん可能なはずです。
「Financial Timesはダマスカス解放の3日前「如何にして反政府組織がドローンとミサイルの供給者になったか」という記事を公開しており、どうやらHTSは2020年の停戦案受け入れ後、ただの民兵の集まりから屈強で効果的な軍事組織に変化を遂げていたらしい。
“米国はイランが支援するアサド政権に対抗するためトルコやアラブ諸国を通じて反政府組織に武器を供給したため、2011年以降のシリア国内には武器が豊富に存在し、HTSにとって武器の調達は難しくなかったものの軍事組織としては非常に未熟で、根拠地としていたイブリド統治も残忍な手法を採用していたが、2016年にアルカイダとの関係を断ち切ると方針を転換して宗教的少数派にも寛容さを示すようになり、2020年3月にロシアとトルコが仲介する停戦案を受け入れた後に大きな変革が始まった”」
シリア反政府組織がアサド政権に勝利した要因、効果的な軍事組織への変貌
つまり、HTSは米国の支援を受けていないにもかかわらず、組織的な軍事行動と統制が取れた動きを見せており、かつての「IS系過激派」というイメージを払拭しているともいわれています。
また、現時点ではとお断りしておきますが、占領地においてイスラム原理主義の押し付けもしていないようです。これについては慎重に見極めねばならないでしょう。
なお米国は、この見解を修正していません。
現在、ダマスカスはHTS以外には、南部の複数勢力が合同して作った「南部作戦室」と、東から米国の支援を受けた「SFA」(シリア自由軍)が混在して制圧している状況のようです。
今後、これらの武装勢力が連合して臨時政府を樹立するのかはここ数日で明らかになることでしょう。
とまれ、シリアは長きに渡ったアサド家の独裁が終わり、新しい歴史が始まったわけです。
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今後が心配ですね。
カダフィを殺した後のリビアのようにならなければいいですけど。
元の反政府軍とアルカイダ系から離脱した今回の主力にクルド人武装勢力に元IS戦闘員も紛れ込んでるでしょうから、それぞれ仲のわるそうなこと!
トルコは国境をガッチリ守るでしょう(むしろクルド勢力を越境攻撃しかねない)けど、イラクやヨルダンといった隣国にまで影響が出かねません。
と、早速イスラエルがシリア軍の兵器がテロリストの手に渡るのを防ぐためだと空爆してるし!
中東で事があるたびに思いますが、あれだけ複雑な周辺に囲まれているのに「王政」の形を維持していて治安もそう悪くない海無し国ヨルダンって凄いと思います。常にギリギリの舵取りが必要だろうに。。
投稿: 山形 | 2024年12月 9日 (月) 06時27分
書き忘れた。
純粋に軍事情報発信者として、ミリレポさんならほぼ間違いなく信用出来る情報ですね。
ユーチューブで時々見てます。
投稿: 山形 | 2024年12月 9日 (月) 06時31分
ロシア軍はあきれるほど逃げ足が速かったですね。
あと、表立ってはトルコの存在感が増すように思いますが、ダマスカスでの電光石火ぶりはイスラエルの関与が濃厚だと思います。
トルコはシリアの今後について、「異なる価値観が平和的に共存するシリアを見てみたい」とか、すっとぼけた綺麗ごとを言ってますが、これで一つ独裁国家が消滅した事は僥倖です。
「反独裁」を貫いた政権の誕生を望みたいところです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年12月 9日 (月) 10時11分
それにしてもかつては「イスラム国」の猛攻を跳ね除け国土の多くを奪還したシリア政府軍がわずか10年ほどでここまで弱体化していたとは…何があったんでしょうねぇ。もうアサド政権崩壊はありえないと思っていました。
投稿: 中島みゆき | 2024年12月10日 (火) 02時27分