戒厳令はもてあそんではならない
ああ、やっちまった、なんつうこった、これでユン大統領お終いです。
「共に民主党」は内乱罪適用まで言っていますが、単独での弾劾に必要な201議席を持っていません。
しかし、少数与党の「国民の力」の一部が弾劾に乗ったら、重罪適用はまちがいありません。
それは突然の戒厳令布告から始まりました。
「韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3日夜、国民に向けて緊急のテレビ演説を行い、「非常戒厳を宣布する」と発表した。「国政はまひ状態にある」として、北朝鮮の共産勢力の脅威から韓国を守り、自由な憲法秩序を守るためだと説明した。これに対して韓国国会は4日未明、非常厳戒の解除を求める決議案を可決。尹大統領は同日朝、解除すると発表した。
尹大統領は4日朝、「国会の非常戒厳解除の要求を受け、戒厳部隊は撤収した」、「私は国会の要求を受け入れ、閣議を通じて非常戒厳を解除する」と述べた」
(BBC12月4日)
韓国大統領「非常戒厳」を宣布、国政がまひ状態と 国会の要求受け解除を表明 - BBCニュース
信じがたいことには、ユン氏は自らの与党内にすら相談せずにこんな「ひとりクーデター」をしてしまったようで、議会は戒厳令を出席した与野党議員の満票で無効を宣告しました。
BBC
「4日午前1時すぎ、韓国国会(定数300)は戒厳令の解除を求める動議を可決した。聯合ニュースによると、出席した与野党の議員190人全員が賛成した。これを受けて、国会の禹元植(ウ・ウォンシク)議長が、「戒厳の宣布が無効になった」と表明した。
韓国憲法は、国会議員の過半数が賛成して要求した場合、政府は戒厳令を解除しなくてはならないと定めている。さらに、戒厳下でも国会議員の逮捕は認められていない」
(BBC前掲)
なにもかもダメダメな「ひとりクーデター」でした。
戒厳令という武器は、反政府側の武装蜂起と対になるようなきわめて危険なツールだからです。
なぜなら、それは合法であれ、非合法であれ本質は「暴力」の行使だからです。
すなわち、一時的民主主義の停止なのです。
フリードリヒ・エンゲルスという19世紀の民間軍事愛好家は、パリコミューンに対してこう言っています。
「蜂起をもてあそんではならない。蜂起はきわめて不定な量をもちいておこなう計算のようなものであって、その量の数値は日々に変動するかもしれない」
この箴言の「蜂起」の部分を「戒厳令」に読み替えて下さい。
ユン氏は「日々変動する数値」を読み違えたのです。
そもそも戒厳令はきわめて切迫した国内の治安の崩壊があって成立するものです。
たとえば北の武装侵入、あるいは国内の親北勢力による内乱などの条件があって、初めて戒厳令を布告することができます。
戒厳令が、民主主義の一時的凍結という民主主義国家の根本に関わることが故に、最後の最後に選択肢がすべてなくなった時に取り出す宝刀のようなものです。
今回は陸軍参謀総長名で出ていますから、彼とだけは事前に打ち合わせてあったようです。
戒厳令を発令すると
①議会を含む全ての政治活動禁止
②自由民主主義を否定する言論を禁止(SNSを含む)
③出版テレビメディアの検閲
④スト、集会等の禁止
⑤警察は逮捕状なしの違反者検挙。
そこまで切迫した状況だったとは到底思えません。
左派勢力の武装蜂起でもあったというのでしょうか、いいえありません。
今年4月の韓国総選挙(300議席)で与党「国民の力」が108議席に転落して大敗。
共に民主党が第一党が170議席となり、過半数をいいことに、いくつもの独自法案を提出し、22件に及ぶ閣僚等の弾劾決議案を提出しました。
議会を使ったサボタージュです。そのために政府は機能不全に陥っていました。
与党側は弾劾決議案をはねかえすので精一杯で予算すら通らない状態に陥っていました。
このため、ユン大統領は、戒厳令を発令し議会権限を凍結し、与党のみの意志で政治を動かそうとしたわけです。
しかし誰の目にもあまりに拙速、あまりに準備不足でした。
一方、北との関係は完全な冷戦に逆戻りしており、正恩は韓国を敵国として扱うと宣言していました。
しかしこれもかつてのようにゲリラでも送り込んできて青瓦台に迫ったわけではありません。
「尹氏は2022年の大統領選挙で保守強硬派の候補として勝利し、同年5月に大統領に就任した。だが、今年4月の総選挙で野党が圧勝。以来、レームダック(死に体)状態となっている。
政府として国会で法案を通すことができず、リベラルな野党が通過させた法案に拒否権を発動する程度のことしかできない状況だ。
加えて尹氏は今年、いくつかの汚職スキャンダルに見舞われてきた。妻をめぐっては、高級ブランドのディオールのバッグを受け取ったとされる疑惑や、株価操作に関わったとされる疑惑が浮上した。
このため支持率も低下し、17%前後という低水準で推移している。
尹氏は先月、テレビの全国放送で謝罪。ファーストレディー(大統領夫人)の職務を監督する事務所を設置すると述べた。だが、野党が求めていた本格的な捜査については拒否した。
そして今週、野党は政府予算案の大幅減額を提案した。大統領は予算案には拒否権を行使できない。
野党は同時に、複数の閣僚と、政府監査機関のトップを含む検察幹部らについて、大統領夫人に対する捜査を怠ったとして弾劾に動いた」
(BBC12月4日)
【解説】 なぜ尹大統領はいきなり非常戒厳を宣布したのか……翌朝には解除 - BBCニュース
自分の思う法案が通らない、不本意な予算案が通ってしまった、夫人のスキャンダルで尻に火が着いた、こんなていどのことなら、わが国も含めて日常茶飯事です。
レームダックになるたびに、憲法を停止し、民主主義を凍結し、軍隊で支配していたらバカですか、と言われるでしょう。
かつての軍事政権時代ならいざ知らず、今の韓国には戒厳令などできる時代ではありません。
そもそも、自分の与党くらい固めておきなさい。
与党内部にも反大統領派が存在しますから、彼らを納得させておかねば議会で無効とされるのは目に見えていたのです。
「(戒厳令無効の)採決に先立ち、大統領の発表を受けて、与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が「大統領の非常戒厳の措置は間違っている。国民とともに阻止する」と述べていた。
さらに、議会で過半数を持つ最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、戒厳令は違憲だと反発。同党の議員全員に、国会に集まるよう呼びかけていた」
(BBC前掲)
ユン氏は議会に軍隊を入れています。こんなものを今どき見るとは思いませんでした。
出動した部隊は韓国陸軍特殊作戦司令部と首都防衛司令部所属の精鋭部隊だそうです。
「大統領として、血を吐く思いで訴える。北朝鮮の共産勢力の脅威から大韓民国を守る」。尹氏が生中継で談話を発表し、非常戒厳を宣言したのは3日午後10時半ごろ。約20分後には警察が国会出入口を閉鎖し、議員の立ち入りを阻んだ。
さらに、武装した230人以上の戒厳軍が、ヘリコプターで国会敷地内に進入。職員らの抵抗に遭った軍人らは窓ガラスを割って建物内に入り、戒厳令解除の議決を進める本会議場を目指した。
最大野党「共に民主党」は、戒厳軍が議決阻止に向け、戒厳宣布を「違法」と非難した与野党代表や国会議長を拘束しようとしたことが、監視カメラの映像で確認されたとしている。
4日午前1時ごろ、戒厳解除を求める決議が出席議員の全会一致で可決されると、戒厳軍はすぐに撤収を開始。午前4時半に尹氏が戒厳解除を発表し、「緊迫の一夜」は幕を閉じた」
(産経12月4日)
韓国非常戒厳、尹大統領の真意読めず「155分のミステリー」に 軍の国会進入に市民衝撃 - 産経ニュース
議会に軍隊を入れるならば、どうして議会を解散しないのでしょうか。
そして「共に民主党」と民総連を中心にする親北勢力に対して、警察を使って全員逮捕しないのか。
そのために外出禁止だけではなく、逮捕リストを作成し、警察にも手を打っておかねばならなかったのです。
たぶん元検事総長だったユン氏には、そこまでの割り切りが出来なかったようです。
その甘さが国会で与野党全員の決議で解除されるということを招きました。
やるならやる、やる以上徹底的にやる、それしかユン氏には残されていなかったのに、です。
やれやれ、これで短い保守政権は終わり、次はイ・ジェミョンというムン・ジェインが可愛く見えるようなウルトラ反日男が大統領になることにほぼ決定しました。
米韓同盟を止めたがっているトランプや南を敵国とした正恩に対して、親北反米のイ・ジェミョンがどのように対するのか見物です。
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自己クーデターを
・やらなかった場合
ーメリット
ーデメリット
・やったけど失敗した場合
ーメリット
ーデメリット
・やって成功した場合
ーメリット
ーデメリット
冷静に考えられる第三者ときちんと整理すれば、「クーデターを起こす」選択肢は絶対に取れないと思いますよね。石破以上に相談相手いなかったんか、この人。
投稿: ねこねこ | 2024年12月 5日 (木) 08時06分
トランプでさえやらなかった非常戒厳の発令。ユン政権では日韓関係の正常化が進み、平穏だったのに。
投稿: 中華三振 | 2024年12月 5日 (木) 08時27分
まさに1人クーデターを大統領がやらかしたわけで、国会に突入した部隊すら暴徒鎮圧用の盾すら持ってない対テロ特殊部隊。
まあ、あの国は「国際協調」なんて微塵も考えていなくて「日帝支配が憎いだけの国家てこくみん」
投稿: 山形 | 2024年12月 5日 (木) 11時33分
マジすんません。
今朝の書き込みは途中送信。
その後かなり多角的に見た長文作成したんだけど、寝不足続きでまさかの寝落ちしました。
投稿: 山形 | 2024年12月 5日 (木) 22時27分
「どうせ最後には反日になるんだから」とこの眉唾を生暖かく見てましたが、こうダイナミックに反日化に取り掛かるとはさすがに思わなかったですね。
次に現れるだろう政権は石破政権と親和性がありそうなので、中国>韓国>日本という朝貢外交に元戻り。
投稿: 守口 | 2024年12月 6日 (金) 07時27分