世界の半分の米軍展開を支える日本列島
トランプと交渉していると、つい「受益と負担」という側面ばかりに話が行ってしまいがちです。
米国が「オレらがお前らを守ってやっている」と権高に言ってくれば、なんとなくそうかなと思ってしまう心理的素地が日本にはあるようです。
ですからトランプが再登場するとなると、あらかじめ予防線を張ってしまい、「今訪米すると難しい宿題もらっちゃうから」と情けないことを官房長官が言う始末です。
もう試合前に負けモードですから、これでほんとうにトランプがガナったらどうする気なんでしょうかね。
ちょっと頭を冷やして考えてみて下さい。
日米安保は「米国が日本を守る」条約ではありません。
そもそも国際関係の中での「同盟」(alliance )とは互いに利用し利用される関係のことです。
どちらか一方が得をする事などありえない代わりに、同盟の利害が消滅すれば速やかに解消されます。そこに情緒や左右の理念が入り込む隙間はありません。
ですから、欧米では外交・安全保障政策は、いかに政権が替わろうと変化しません。
ところでわが国の場合、いままで大きな「同盟」をふたつ結んでいます。
ひとつは1902年の日英同盟で、もうひとつはいうまでもなく1960年の日米同盟です。
ロシアの南下政策を目前に控えたわが国にとっては願ってもないことでした。スーパーパワー英国の後ろ楯なくして日露戦争の勝利はおぼつかなかったでしょう。
一方英国にとっても、「七つの海の覇者」だった英国海軍は、ドイツ、フランス、ロシアの海軍増強の追い上げにあって絶対的優位性を失いつつありました。
そこで英国は、同じロシアを仮想敵としていた日本に、有体に言えば「極東の番犬」になることを望んだことで締結されました。
では、英国は日本に守ってもらうことを望んだのでしょうか。
もちろんそんな気はいささかもなく、英国はロシアの南下を極東で食い止めたかったのです。
このように同盟とは、外交路線の利害が冷厳に一致した時のみ結ばれるのです。
同じように米国も「守ってもらおう」などとはまったく考えてはいません。
トランプが言っているのはシンプルで、「米国ばかり頼るんじゃねぇ、てめーら自前で国守れよな」ということです。
まことに正論で、ドイツなどは耳が痛いことでしょう。
日本も米国という強大な後ろ楯を背景にして、憲法も改正せずに軽武装でのほほんとしていた部分があるので、そう言われるとギクっとするのです。
日本には「点」である日本列島の基地を米国に提供する代償として、いちおう「米軍に守ってもらっていることにしようね」という暗黙の了解がありました。
福島瑞穂さんがよく「在日米軍は日本を守るためにいるわけじゃない」なんていかにも秘密の暴露のように言っていますが、そんなことはわかりきった話。なにを今さら。
福島オバさん(もう、おばぁさんかな)の言うとおり、横須賀を「母港」とする第7艦隊は日本防衛のためにいるわけではないし、三沢は朝鮮半島や沿海州有事のための空軍基地です。
普天間やシュワブは、台湾と朝鮮半島有事に備えた出張所です。
沖縄が出張所(硬い表現で「前方展開基地」と呼びますが)ならば、本店は神奈川県の横須賀にあります。
横須賀については、実家が近くにあったこともあって、何本か記事にしています。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-a93c.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-9963.html
http://sumi76.exblog.jp/21027782/
写真で入港して修理をしているのが、CVN-73ジョージ・ワシントンです。CVは空母のことで、Nはニュークリア(原子力)を現しています。
これを入渠させて整備できる海軍基地は、米本土にノーフォークとニューポートの2カ所と、海外ではここ横須賀と佐世保にしかありません。
こんな大きなドックは、日本にしかないからです。これには巨大な工廠が付属していますが、働いているのはほぼ全員が日本人技術者です。米軍は原子炉だけのメンテです。
ちなみにメンテの腕は日本のほうがいいそうで、米国の他の艦隊の船は、整備時期になるとわざわざ第7艦隊に配置換えするという話もあるそうです。
それはさておき、米国はこの横須賀本店がある日本の基地を戦力投射根拠地(パワー・プロジェクション・プラットフォーム)として、インド洋、南シナ海、東アジア全域というアジア全域と太平洋の半分を守備範囲としています。
これは米海軍最大の範囲で、地球のほぼ半分をカバーしていることになります。
「日米同盟の「受益と負担」の関係は金銭だけでは測れない。ドナルド・トランプ氏に欠けているのは、日米同盟によって、米国自身が死活的な国益を確保しているという視点だ。
「米国の世界の貿易額のうち、約6割がアジア太平洋諸国であり、その国益を維持するのが在日米軍などのプレゼンス(存在)だ。引けば損するのは米国だ」
元防衛相の森本敏拓殖大総長はそう指摘する」
(産経2016/5/25 )
【日米同盟が消える日(下)】「安保ただ乗り論」は本当? 駐留費負担、実は世界でも突出…米軍人を日本の傭兵にする気なのか(2/3ページ) - 産経ニュース
この主力が米海軍第7艦隊です。下図で7F(フリート・艦隊)と書かれたのがそれです。
Wikipedia
この図に、いわゆる「不安定の弧」(arc of opportunity)がスッポリ入っているのがわかりますか。
この「不安定の弧」を概念規定しておきましょう。
「アメリカ国防総省が2001年に発表した四年ごとの国防計画見直し(QDR2001) では、不安定の弧について次のような見解が示された。
①大規模な軍事衝突が起こりやすい
②力を伸ばす大国と衰退する大国が混在する
③豊富な資源をもつ軍事的な競争相手が出現する可能性がある
④アメリカの基地や中継施設の密度が他の地域とくらべ低い地帯
上図に世界の紛争図を乗せたものが、下図です。
2007年 小学館 SAPIO(サピオ)より引用 クリックすると大きくなります。今見ると9年前はのどかだった。
まさに紛争地オンパレードで、米国が横須賀から撤収すればこの地域全体の安全保障の基盤が破壊されてしまいます。
しかし実はこの図ができた2007年は、まだ平和なものでした。
この後オバマの「世界の警官卒業宣言」で、一気にウクライナ、南シナ海、シリア、ISテロが火を吹いて、いまや世界は修羅の巷になってしまったのはご承知の通りです。
この米国が提供している安全保障基盤のことを、別の言い方で「安全保障インフラ」という場合があります。
そう、日米安保は、道路や通信、港湾なんかと一緒の一種のインフラストラクチャー、「下支えする構造」なのです。
ですから日米安保とは、国際的広がりを持つ安全保障の「公共財」なのです。
« 次の駐日米国大使が決まる | トップページ | なぜシリア軍はたった8日で消滅したのか? »



コメント