EVというイリュージョン
ドイツ、自身が促進したはずの厳しすぎる排ガス規制の撤回を求め始めました。勝手なものです。
「[ブリュッセル 19日 ロイター] - ドイツ、イタリア、チェコは19日、2025年のCO2排出量目標を達成できなかった自動車メーカーに対して罰金を科す規則を撤回するよう欧州連合(EU)に求める考えを示した。
ショルツ独首相はEU首脳会議の後、「罰金を課さずに他の方法を検討するのが正しいと思う。簡単ではないが方法は見つかるだろう」と語った。業界をこれ以上苦しませることには意味がないとし、企業が電気自動車(EV)に投資する資源を罰金によって圧迫すべきではないとした。メーカーは新型EVを投入しているが、消費者に購入を強制することはできないとも述べた。
ショルツ氏はまた、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が自動車業界との「構造的対話」を開始するという計画を歓迎し、3月のEU首脳会議でその結果を協議することで一致したと明らかにした。
業界試算では、欧州メーカーは排出量目標未達で約150億ユーロ(156億2000万ドル)の罰金を科される可能性がある。メーカーは需要低迷、中国との競争、EV販売不振で苦戦しており、工場閉鎖や雇用削減に迫られている」
(ロイター12月20日)
独伊など、自動車業界への罰金撤回求める EU排出規制巡り | ロイター
ドイツは、「地球環境のためなら死ぬのは覚悟」という意識高い系政策を強引に進めた結果、エネルギーは常に不安定に陥り、電気代は高止まりし、EV推進によって国内の自動車産業は壊滅的なダメージを受けています。
遅まきながらやっと対処に動き始めたようです。
そもそも脱炭素をしたいのなら、世界一の環境破壊大国である中国やインドなど人口の多い新興国を巻き込まなければ意味がありません。
ところが中印はこういうこととなると急に「発展途上国」の範疇に入ってしまうから身勝手なものです。
ドイツの失敗はエネルギー政策の失敗に集約されます。
社民党のシュレーダーは強引に脱原発を実行し、それによるエネルギー不足をロシアからの安価な天然ガス輸入で補おうとしました。
シュレイダーは原発廃止で地球にやさしくとばかりにキレイゴトを言っていましたが、その裏でプーチンと癒着したパイプライン計画ノルドストリームの拡大を進めました。
退任の後には、ロシア国営エネルギー企業のガスプロムなどの役員を歴任するという売国ぶりです。これは汚職ではないのですかね。
そしてこの脱原発を完成させたのがメルケルでした。
彼女が推進した再生可能エネルギーは、太陽光や風力などの自然エネルギーを極限まで拡大し、不足時にはフランスから原子力発電由来の電力を買うという構造を作り出しました。
これでドイツの製造業は高いグリーン電力で競争力が失われる一方で、ロシアからの天然ガスで自家発電を回して凌ぐという矛盾したことをせねばならなくなりました。
この構造が壊れたことで、ドイツの産業界の国際競争力は危機的状況となりましたが、受難はまだ続きます。
この歪んだエネルギー構造は、ウクライナ戦争によるロシア制裁によりパイプラインが閉鎖、ドイツは必死になって新たな天然ガス供給国を探すはめとなります。
それだけにとどまらず、脱炭素エコノミーに乗ってドイツの自動車産業はEVへの全面的切り替えを行いました。
フォルクスワーゲンやアウディはEVに社運を賭けてしまったのです。
このEV熱病は世界的なものでした。
トヨタを唯一の例外として、ほぼすべての自動車企業がEVこそ次世代のものだと思ってしまったのですから深刻です。
EV老舗のテスラは、この自動車産業の複雑さに頭をぶつけ、いまでももがいています。
そりゃそうです。自動車購入は5年後前後に中古で売ることを前提にして考えられています。
オートローンも保険もそれが前提ですが、ではまっさらの未経験者が中古車市場という価格があってないようなマーケットをどう作ったらよいのでしょうか。
まずまちがいなく、テスラの5年落ちなど無価値です。
ましてや海のものとも山のものともわからないBYDのEVなど、中古車市場ではゴミ扱いされるはずです。
もっともBYDは、ゴミになってもかまわないくらいに思っていることでしょう。
BYDは政府の手厚い補助とEV誘導政策を受けて、わずか数年で世界有数の自動車企業に成長したような会社です。
中国製EVの成長率は、2018年から2020年までの3年間は5%程度でしたが、2021年には16%、2022年には29%、2023年には38%と急速に拡大しました。
販売台数別でみると、2021年は325万台、2022年は590万台、2023年は810万台と脅威の伸び率をみせています。
「中国政府は新車販売における新エネルギー車(NEV)の割合を2027年までに45%に引きあげることを目標にしています。もともと2025年までに20%以上、2030年までに40%以上、2035年までに50%以上に引きあげることを目標に掲げていましたが、早々にこの目標を達成したため、2023年に目標値が引きあげられました。(略)
新エネルギー車(NEV)の購入税免除の政策は2014年に始まりました。新エネルギー車(NEV)購入者は、車を購入する際にかかる10%の税金が免除されます。
この政策は当初2023年末に終了予定でしたが、2025年末まで同様の免税が継続され、その後2027年末まで50%の減税措置が実施されることになりました」
【2024年版】中国の電気自動車(EV)普及率、普及拡大の取り組みとは |EV充電エネチェンジ
いまや世界のEV市場を独占しつつあるBYDは、ブラジルなどに生産拠点を拡げて非人道的な労働で工場を建設しています。
「中国の電気自動車(EV)最大手、比亜迪(BYD)がブラジル北東部バイア州に建設中の工場で、中国人作業員163人が「奴隷のような状態」で働かされていたとして、ブラジルの検察当局などが24日までに作業員を救出し、建設現場の一部を閉鎖した。
当局や地元メディアによると、作業員はBYDと契約する企業に派遣された。パスポートを取り上げられ、賃金の6割を保証金として取られ自由が制限されていた」
(ZAKZAK12月25日)
工場建設で「奴隷状態」に 中国EV最大手のBYD ブラジル当局が作業員救出、パスポート取り上げ賃金の6割が保証金に - zakzak:夕刊フジ公式サイト
EVは未完成な技術です。
EVは20万キロ~30万キロ走行すると駆動バッテリーがダメになり、交換費用だけで車が1台買えるような値段がします。
ガソリン車なら100万キロは走れるでしょう。
そのうえに寒冷気候に弱く、寒いとすぐにバッテリーが上がります。
寒いと充電量が半分程度で止まったり、充電時間がおそろしくかかります。
それを警戒して、ガソリンを使った自家用充電器を車に積んでいる人が増えています。
そりゃそうでしょう、零下の気温でEVに充電機がない田舎で止まられたら、下手すりゃ死にます。
ですからEVの新車を買っても長続きせずにガソリン車やハイブリッド車に戻ろうとして中古車屋に持ち込んでも、EVの査定は捨て値です。
そもそもその電気自体はどのようにして確保されているのでしょうか。
仮に中国のように全面的にEV化した場合、エネルギー源の確保はもとより、発電所、送電網、変電設備、発電に必要な燃料の増産など、総合的に強化していくしかありません。
エネルギー源は原油やLPGですから、常にエネルギーに飢えて世界をさまようことになります。
再生可能エネルギーを拡大するためには、日本では「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という名目で電気代に上乗せしています。
とんだ増税ですが、この賦課金によって各家庭の電気代は1割ほど高くなっています。
このように国民負担を増やして、国民生活を圧迫しながらEVを進めていたわけです。
さてドイツに話を戻します。
ドイツの国家的ビジネスモデルそのものが安価なロシア産天然ガスを使って、中国への雪崩的輸出をかけるというものでした。
ドイツ自動車産業は、中国市場のEV化に歩調を合わせて中国国内での自動車生産を拡大していきましたが、国家が後押しする中国EV自動車企業にかなうはずがありません。
これについては別に記事にしますが、EVは内燃機関という100年以上の歴史が詰まった技術と違って、しょせんプラモデルのようなものです。
EVは一種のゴーカートのようなもので、モーターを電池で動かし電子部品で制御するというチープな構造をしています。
したがって新規参入はカンタン、自動車産業が営々と積み上げてきた経験と技術は無用となり、フォルクスワーゲンだろうと中国製EVとまったく同列、しかも中国製のほうがはるかに安い、見た目は一緒、ということになりました。
なんせ潰れかかった不動産会社の中国恒大さえ、簡単に参入できるほど敷居は低いのですから話になりません。いまや中国市場には中国製EVがひしめいています。
中国のEV市場(2023年1月〜10月)における販売台数EVトップ10は以下になります。
BYDが10位内に6種も入っています。
- BYD「Song」
- BYD「Qin Plus」
- Tesla「Model Y」
- BYD「Yuan Plus」
- BYD「Dolphin」
- GAC「Aion S」
- GAC「Aion Y」
- SGMW「HongGuang Mini EV」
- BYD「Han」
- BYD「Seagull」
【2024年版】中国の電気自動車(EV)普及率、普及拡大の取り組みとは |EV充電エネチェンジ
ドイツ車など影も形もありません。ドイツ車は差別化ができず、さらに中国政府の補助金などにより、中国国内での販売が低迷しました。
北米でもEV販売で差をつけられています。
このままEV熱病が続くと、世界の自動車産業は中国製EVで市販されることでしょう。
まぁ、トランプが強烈なパンチを食わせるでしょうが。
民主党政権が続いていたら、世界の自動車産業はBYDに完全支配されていたはずです。ぞっとします。
かくして、EVと中国市場に全振りしてしまったドイツ自動車産業は驚天動地の危機に陥ったのでした。
今思えば、ドイツは中国の罠にかかったのですね。
14億市場というオイシイ餌に引っかかって中国に引っ張り込まれ、EVに全てを賭けてしまうまでのぼせ上がり、ぬきさしならないところまで来てから中国では売れない、と来ているのですからむごい。
せめてリスク分散して、ガソリン車やハイブリッドもラインに入れておけばここまで悲惨なことにはならなかったものを。
とまれ、これがフォルクスワーゲンのリストラの背景です。
「ドイツ国内で少なくとも3つの工場を閉鎖し、数万人の従業員を削減する――。欧州最大、世界2位の自動車メーカーであるドイツのフォルクスワーゲン(VW)が10月28日、なりふり構わぬリストラ計画を労働組合に突き付けた。
VWグループは、VWの他、アウディやポルシェ、ランボルギーニ、ベントレーなど数々のブランドを傘下に持つ。お膝元のドイツで工場を閉鎖すれば、1937年の創業以来初の事態となる」
(日経ビジネス2024年11月5日)
フォルクスワーゲン、閉鎖工場は「少なくとも3つ」 リストラの舞台は:日経ビジネス電子版
このようにドイツ経済の打撃は、ひとつふたつのものではなく、いままでの政権がやってきた膿が一時に吹き出したものですから、これを建て直すとなれば、歴代政権のやってきた政策の徹底的見直しをせねばなりませんが、それがでるきとはおもえません。
この深刻なドイツの失敗から較べると、原子力を基幹とするエネルギー源をもち、EVに傾斜しない自動車産業を持つフランスはまだ傷が浅いというべきでしょうか。
つくづくドイツに学ぶな、と思います。
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日産は世界で真っ先に量産電気自動車を販売して(国内だけなら軽の三菱iが先)先頭を走ってたはずが、まあシュリンクするのが分かってる国内市場を見捨てたようなラインナップばかりで。実際にシリーズハイブリッドとか試乗してみると確かにモノはよく出来てるんだけど、今や「日産ファンでも欲しいクルマ売ってない」状態に。そこに中国市場惨敗してアメリカ市場でも在庫の山となって業績急降下で···ホンダによる実質救済合併なんてことになってるわけで。
逃亡中のゴーンさんは「補完できるシナジー効果は無い」なんてリモートで言ってるけど「元々あんたが敷いた道でしょうに!」と。
ホンダも国内は軽とFITという利幅の少ない車種ばかりな訳で苦戦。中国市場はメタメタで日産同様に撤収準備。
トヨタが新たに上海に電気自動車工場を建設するそうですが、規模も含めてどうなるやら。
で、その世界を席巻しつつあるBYDですが今熱いのが東南アジアですね。ブラジルではあっという間に「中国式海外進出」の酷さが摘発されたけど。
フォルクスワーゲンは本当に自業自得です。
日本メーカーが邪魔だからとドイツメーカーはこぞって先を行ってたCO2排出がガソリンより少ないとコモンレール式ディーゼルに走ったところでいわゆる「ディーゼルゲート発覚」したら、今度は電気自動車に全振りして自爆ですよ。
しかもVWアウディグループは筆頭株主が州政府ですから、経営陣も当然その影響下でしか動けません。
投稿: 山形 | 2024年12月26日 (木) 06時24分