
トランプはウクライナ戦争を終わりにする気でいます。
それも100日間という短期に和平にまで持っていこうとしています。
ただし半年という言い方もしていますので、就任してみないと決定的なことは見えません。
「米国のトランプ次期政権でウクライナ・ロシア問題の特別代表に指名されているキース・ケロッグ氏は、ロシア・ウクライナ戦争の終結に関する合意はトランプ政権発足後100日以内に達成する可能性を示した。
また同氏は、「私は、人々が理解すべきことは、彼はプーチンないしロシア人に何かを与えようとしているわけではないということだ。彼は本当にウクライナを救い、同国の主権を維持しようとしているし、それが公正だと確信しようとしている」と発言した。
同時に同氏は、トランプ氏の代わりに話すようなことはしたくないとし、「なぜなら、彼は自分のことは自分で話すからだ」と述べた。
また同氏は、バイデン米大統領の最大の過ちは、全面戦争の間一度もプーチン氏との協議を行わなかったことだと指摘した。同氏はその際、「(トランプ次期)大統領は本当に対立者とも同盟者とも話すし、それが容易でないことを知っている」と述べた。そして、同氏は、それは「最終的な結果を達成する上で」不可欠であり、それは「彼(トランプ氏)が行おうとしていることだ」とも発言した」
(ウクライナフォーラム2025年1月9日)
トランプ米次期政権ウクライナ・ロシア担当、露宇戦争の和平合意が100日以内に達成されることを期待
このケロッグの言い方を見ると、トランプはロシアとディールする気満々です。
というか、トランプはすでに目ぼしいことについてゼレンスキーとの詰めは終わっているようで、ある意味プーチンの出方次第のようです。
長引く戦争に、侵略国のロシア、被侵略国のウウクライナ、双方ともに軍事的には限界に近づいています。
ウクライナは脱走兵がとまらずに、軍の要請で脱走に関する法を強化しました。
「【1月26日 AFP】ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は25日、兵士の命令拒否や脱走の罰則を強化する法案に署名した。
ウクライナ議会のウェブサイトに公開された改正法によると、司令官に対する脅し、戦場からの逃亡、飲酒なども対象とされている。有罪とされた場合、裁判所が減刑したり、執行猶予を与えたりするのも禁止される。
脱走した場合には12年以下、命令拒否や戦闘拒否の場合は10年以下、上官に対する脅迫は7年以下の禁錮刑がそれぞれ科される可能性がある」
(AFP2023年1月26日)
ウクライナ、兵士の命令拒否や脱走の罰則強化 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News
たとえばウクライナ軍第155機械化旅団は、西側の支援を受けている精鋭部隊だったはずですが、訓練先のフランスに2000人派遣されたうち50名が脱走してしまいました。
この部隊は5800人規模でしたが、去年3月から11月までの間で1700人が脱走したということです。
軍全体では10万人規模の脱走が起きていると見られています。
JBpress (ジェイビープレス)
「ロシアによるウクライナ侵略で、欧米メディアが最近、ウクライナ軍で兵士の脱走問題が深刻化し、戦局の悪化を加速させていると相次いで報じた。ウクライナ軍では30万~35万人が戦闘任務に就いていると推計されてきたが、少なくとも数万人規模の脱走が起きているという。同国のゼレンスキー大統領は11月末、脱走兵の帰還を促す法律に署名したが、効果がどの程度出るかは不透明だ」
(産経2024年12月3日)
ウクライナ軍、脱走兵が深刻化 数万~20万人試算も 戦局悪化など要因、苦戦を加速 - 産経ニュース
なんともいえない気分になりますが、これほどまでに戦争が長引くとこれまでただの市民であった兵士たちに厭戦気分が拡がるのはやむを得ないのかもしれません。
これは今のウクライナの置かれた状況をよく物語っています。
国家としてのウクライナ経済は西側支援でやっと保たれている状況です。
JBpress (ジェイビープレス)
対外債務は戦争の22年ですでに52.4%と激増しています。
「財政赤字の急増を受けて、2022年のウクライナ政府の債務残高は4兆728億フリヴニャ(約14兆7000億円)と前年から52.4%増加した。とりわけ目立つのが、対外債務の急増だ。
国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)といった国際金融機関による金融支援や米国と欧州連合(EU)による支援が、こうした対外債務の急増につながった」
戦時下で急増する財政赤字、ウクライナの戦時財政はどこまで持続可能か 疲弊したウクライナに債務の返済は非現実的、債務再編に応じる覚悟はあるか(1/5) | JBpress (ジェイビープレス)
注意せねばならないのは、これらの外国からの支援はすべて返済を前提とすることです。
今のウクライナの軍事支出は国債に頼っていますが、国債はわが国とは違い外国人が引き受けています。
仮に戦争が終わっても、国中の破壊された道路や橋、発電所やダムなどのエネルギーインフラを復興させねばなりませんから、また外国からの巨額の借り入れが生じます。
JBpress (ジェイビープレス)
今のウクライナ経済は典型的な戦時経済と化しており、高いインフレが国民を苦しめています。
「すでにウクライナでは、戦争の長期化に伴って供給力の低下を主因とするインフレが蔓延しているが、中銀の財政ファイナンスはそれを貨幣面から促していると考えられる。
通貨の暴落も懸念されるところで、中銀は2022年7月に為替レートを1米ドル36.5686フリヴニャに切り下げたが、いつまで維持できるか分からない」
(JBプレス前掲)
露軍は疲弊しつつもウクライナ軍の数倍規模の砲撃を続けており、この火力の格差がウクライナ兵士の勝利への希望を打ち砕いています。
部隊の士気は衰え、勝手に前線の持ち場を離れたり、海外派遣や治療休暇の取得後そのまま脱走してしまう者が数万単位ででています。
また、このような脱走兵が急増したために正常な部隊ローテーションがなされず、数年に渡って戦場に縛りつけられている兵士がが珍しくなくなっています。
このような悪循環がウクライナの継戦能力を奪っています。
一方、ロシア軍はもまた悲惨で、2024年だけで43万人が戦死傷し、3000両の戦車を失ったようです。
ウクライナ国防省は2022年2月の開戦から2024年12月31日時点までのロシア軍の人的損失を79万人と報告しています。
わが国の自衛隊が22万7千人ですから、自衛隊全体の3倍以上の戦死傷者を出したということになります。
ロシアの人口はわが国と大きな違いはなく1億4千万人ですから、推して知るべしです。

ロシアの戦死者が7万人超す、約2割は義勇兵 BBCなどの調査で明らかに - BBCニュース
「ロシア軍は2024年、侵略を続けるウクライナで新たに国土の0.69%に当たる面積を奪い取ることに成功した。しかし、その代償として約43万人の兵士と3000両の戦車、9000両の歩兵戦闘車を失ったと報告されている。
ワシントンに拠点を置くシンクタンク「戦争研究研究所(ISW)」が衛星画像と位置情報付きビデオ映像に基づいて行った評価によれば、ロシア軍は2024年、ウクライナ東部ドネツク州で徐々に、そして、着実に進軍を続け、4,168平方キロメートルの畑と廃村を新たにウクライナから奪い取ることに成功した。これはウクライナ国土の0.69%に相当、日本でいうと石川県や徳島県の面積に匹敵する」
(ミリレポ2025年1月6日)
ロシア軍は2024年に43万人の兵士と3000両以上の戦車を失った│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア
一県ていどの面積を奪うために費やした生贄が43万、開戦から79万とは、唖然とする愚かさです。
人的損害が急増しているのは、プーチンが戦勝を急いで裸突撃に等しいような無謀な攻撃を強いているからです。
「ロシア軍は2024年9月から10月にかけて、ウクライナ領及び、ウクライナが制圧したロシア領クルスクの領土約1500平方キロメートルの制圧に成功。2か月間における制圧面積としては過去最大となったが、犠牲を顧みない攻撃で死傷者が急増。死傷者は1日平均1000人を超え、11月には平均が1500人を超えた。11月28日は2030人、12月19日は2200人と過去最高を記録。11月と12月の死傷者はそれぞれ、4万5720人と4万8670人だった」
(ミリレポ前掲)
この死傷者数はすでに1万4453人が死亡し、5万7537人が負傷したアフガン戦争を上回っています。
兵器の損失も驚くほど膨大で、ウクライナ軍参謀本部の報告によると、2024年1月1日から2025年1月1日の間に、ロシア軍は戦車3689両、歩兵戦闘車8956両、砲システム13050門、防空システム407基を失ったとしています。
また、ロシア海軍は艦船5隻と小型船舶458隻を破壊され、フィンランドとノルウェイのNATO加盟によってバルト海が事実上塞がれ、黒海艦隊は黒海の支配権を失い、シリアのアサド政権の崩壊によって地中海とアフリカへの海の出口を喪失しました。
残るは日本に面した太平洋ルートしかありません。
ロシアの残された艦隊である太平洋艦隊は、中国と連動して日本付近でうるさく活動することでしょう。
ロシアは戦時経済をとって、国の人的物的リソースを全部軍事につぎ込んでいます。
軍事物資の生産を急ピッチで進めていますが、戦車の損害が3千両とあまりに大きいために、年間の最大300両ていどの生産数ではまったく焼け石に水です。
ロシア人が「戦場の女神」と崇拝する大砲の弾も不足しており、北朝鮮から支援を受ける有り様です。
ただし、かつては世界第2位を謳った軍事力の背景にあった軍事関連の物資は、旧式であることを問わねばまだ健在です。
新型はほとんど戦線に出されており、それでも昨年12月時点で戦車が約47%、歩兵戦闘車が52%、装甲兵員輸送車が45%残っていると言われています。
ただしこれも状態や年式は不明で、おそらくひどい状態でしょう。
プーチンはクルスクを奪い返す作戦に全軍事的リソースを注いでいます。
それはまさに常軌を逸した攻撃で、たしかに一定の地域を奪い返したものの、わずか一カ月で3万5千から5万という甚大な損失を招いています。
その理由は、堅固に構築されたウクライナ軍陣地に、「肉挽き作戦」と呼ばれるような人海作戦をくりかえしているからです。
北朝鮮からの部隊はこれでその大半を失っています。
ウクライナ戦争は戦争末期へ、ロシア軍の肉弾戦がいよいよ限界に 当初の最小損失・最大戦果が、今や最大損失・最小戦果へと激変(1/7) | JBpress (ジェイビープレス)
このままこのような戦い方を実施していくと、さすがの全体主義国家ですらたえられない損害が積み上がっていくでしょう。
しかしロシアはまだ継戦能力が残っていると考えていますから、クルスクからウクライナ軍を駆逐しない限り、和平交渉に応じることはないはずです。
ウクライナは国力を出し切りつつつつあり、西側の支援と最後の根性で持ちこたえている状況です。
冷厳に言って、ウクライナは国力が枯渇しきらないうちに交渉に持ち込むのが得策でしょう。
問題は奪われた4州ですが、主権がウクライナに属することが明確になれば応じようがあります。
いずれにしてもウクライナ戦争は終盤に差しかかっています。
トランプが時の氏神となれるかどうか、ここ数カ月が焦点です。
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