ウクライナに投じられた北朝鮮兵士の悲哀
私は北朝鮮軍の兵士に同情することはいままでまったくなかったのですか、今回に限って気の毒ではあるなぁと思います。
ウクライナに派兵されている北朝鮮兵士の実情がだんだん漏れ伝わってきました。
とうとう生き証人とでも言うべき捕虜が捕まり、画像が公開されています。
いままでその推定される損害に較べて確保される捕虜が少ないのが疑問でしたが、どうやら捕まるなら自殺しろと命じられていたようです。
「韓国の情報機関・国家情報院(国情院)は13日、ウクライナ軍との戦闘で戦死した北朝鮮兵士の所持品に、捕虜にならず自爆や自決をするよう北朝鮮当局が命じる内容が見つかったと説明した。国会の委員会に出席した議員が記者団に明らかにした。
北朝鮮の兵士は、ウクライナが越境攻撃をするロシア西部に派兵されている。国情院は最近の事例として、ウクライナ軍に捕らえられた北朝鮮兵が「(朝鮮労働党総書記の)金正恩将軍!」と叫んで手投げ弾を爆発させようとしたと説明した。この北朝鮮兵はその場でウクライナ兵に射殺されたという」
(毎日1月13日)
「金正恩将軍!」と叫び自爆図る ロシア派遣の北朝鮮兵 韓国説明(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
「恐怖に震え自信喪失」ロシア派兵部隊の動揺に北朝鮮当局も困惑(高英起) - エキスパート - Yahoo!ニュース
北朝鮮が昨年秋に、1万2000人規模の兵力をロシアに送り、彼らはクルスク州などでウクライナ軍との戦闘に加わったことは分かっていました。
断片的には彼らがすでに多くの犠牲を出していることは、ゼレンスキーの4日の演説で死傷者は派遣兵力の3分の1に及ぶという演説で知られていました。
「ウクライナ政府は、これまでに1万~1万2000人の北朝鮮兵がロシアに派遣されたとみている。国情院は、これまでに北朝鮮兵300人あまりが死亡し、約2700人が負傷したとの推計を説明した。
ウクライナのゼレンスキー大統領も10日に、北朝鮮の兵士の死傷者が4000人に上ったとの見方を示している」
(毎日前掲)
軍事常識では、確認できるだけで3割の兵士が死傷した場合、組織的戦闘の継続ができないとして「全滅」と判定されます。
このような部隊はできるだけ速やかに後方に撤退させて、損害を補充する必要がありますが、たぶんロシア軍はそのような措置をとらないでしょう。
ロシア軍はクルスク全域を奪還するために、「挽き肉作戦」と呼ばれる非人道的攻撃を繰り返しています。
これはろくな戦車などの支援なしに、損害を省みずにしゃにむに敵陣地の前に生身の体を投げ出す人海戦術ですが、わずかな数キロの土地と交換にして数万規模の損害を出しています。
こんな戦法をとるロシア軍にとって、北朝鮮部隊がすり潰されるのは計算済みのことにすぎません。
バフムト戦線で、ロシア軍がとった戦法が「ゾンビーアタック」です。
そのロシア軍は正規兵ではなくワグネルが担っていました。
ワグネルはプーチン直属の傭兵集団でしたが、アフリカやシリアの汚い戦争に投入され、残忍な爪痕を残してきました。
このウクライナ戦争にも投入され、ここでワグネルが命じられた戦術が、ゾンビーアタック、すなわち人海戦術です。
今どきこんな戦法をとるのは、世界ひろしといえどロシアくらいなもの。
本家の中国ですら一人っ子政策で青年層が薄くなっているのでもうできません。
映画『スターリングラード』をご覧になった方は、主人公がスターリングラードにいきなり連れてこられて体験するので覚えておられるかもしれません。
主人公らは、銃を渡されずに突撃させられ、前の兵士が死ぬとその銃を拾って戦えと命じられます。
機関銃で撃ちまくるドイツ軍になにも持たずに突撃しろというのですから、当然全滅になりますが、それでかまわないのです。
その分しか銃は用意されていないし、兵隊の生命など無価値だと考えているから、銃のような貴重な物資は二人に一丁で充分だと考えていたのです。
バフムトで大損害を被ったワグネルも同様だったようで、ブリゴジンは装備もなしに突撃させるのかと怒り狂い、とうとうキレて叛旗を翻しました。
ですから全滅するのは想定内、弾代わり人間を使うのです。
当然突撃部隊はほぼ全員が死にますが、わずかに生き残った者は命からがら自軍の前線に戻ろうとします。
しかしそこに待っているのは、味方の督戦隊の機関銃です。
戻ろうとした兵士は全員が「逃亡兵」として射殺されることになります。
これは今のロシア軍のなかにも残っています。
このような作戦に投入された北朝鮮兵士こそいい面の皮です。
彼らは21世紀の兵士ではなく、1950年代の朝鮮戦争から一歩も進化していない古生物のような兵隊たちなのです。
彼らに鉄砲一丁持たせて、短期の訓練だけでいきなりクルスクという激戦地に投入するのですからめちゃくちゃです。
北朝鮮指導部にまともな判断力があればこんな劣悪な条件は呑むべきではありませんでしたが、正恩がミサイル技術の餌に釣られて一番乗り気だったのですから絶望的です。
ウクライナの軍事専門家であるミハイロ・サムスはこのように述べています。
「また、ウクライナ軍との戦闘を続ける北朝鮮軍の兵士について、大量の無人機が投入され、電子戦の技術なども求められる現代の戦争には「慣れていない」としつつも「ロシアが戦い方を教え、彼らも訓練をしている。北朝鮮にとっては韓国との戦争に備える上で現代の戦場から教訓を得る機会となっている」と述べ北朝鮮は、今後も多くの兵士を派遣する可能性があると指摘しました」
(NHK1月4日)
北朝鮮兵 ロシア軍装備着用か ウクライナ情勢複雑化 ことしは | NHK | ウクライナ情勢
たぶん北朝鮮の兵士は、無人機が徘徊し、ドローンが戦場を監視し、適時に攻撃を仕掛けてくるような戦場は考えてもいなかったはずです。
そもそも彼ら北の兵士は石油不足のために、戦車や歩兵戦闘車との共同作戦をした訓練をしてきませんでした。
ですから、ロシアとしては人海戦術ですり潰すしか使い道がないと思ったのでしょう。
かつて、この人身御供にはブリゴージンのワグネル傭兵部隊が使われていましたが、彼らなき後、その代用に北兵士を使っているのです。
そんな前線で戦う兵士の士気は崩壊状態のようです。
下の写真はウクライナ軍ドローンが撮影した、ドローンに追い回されて恐怖に怯える北朝鮮兵士です。
デイリーNKは、兵士たちの現状をこのように伝えています。
過去1週間で #北朝鮮兵 1000人死傷 米高官「 #人海戦術 」と批判 #ロシア #ウクライナ #毎日新聞 #tiktokでニュース | 北朝鮮 スマホ | TikTok
「ロシアに派遣した兵士たちが死への恐怖でひどく萎縮しており、文化など様々な面でも適応できず、思想的にも変化する兆候があるという文書が先月下旬から伝えられており、(北朝鮮当局の)悩みの種になっている」
この文書によると、思想に問題なく、肉体も鍛え上げられた兵士たちだが、実戦の中で精神的に激しく動揺しているという。
北朝鮮当局は、ロシアに派遣された軍事部門イルクン(幹部)からの報告で、兵士たちが未来への確信を持てず、死に対する恐怖とショックに陥っている状況であることを認識しているとのことだ。
兵士たちはまた、外の世界を一度も経験したことがなく、ロシア軍と共同作戦を行う過程で過度に萎縮してしまっているようだ。初めて接するロシア人など外国人を不思議がったり、過大評価したりしている。
海外からの情報流入を過度に統制してきた体制の在り方が、弱点として作用しているということだ」
(高英起) - エキスパート - Yahoo!ニュース
そもそも北の兵士ほど真空状態で育成された軍人は世界に存在しません。
北朝鮮国内でも、兵舎は市民生活から切り離され、もちろんSNSなど影も形もなく、あるのは貧弱な食事と過酷な訓練だけ。
人的物的リソースは全部弾道ミサイルと核開発に注いでいますから、兵隊は数だけ揃えていれば満足しているという愚かな姿です。
こんな軍隊に名前だけは「暴風軍団」と空威張りな名前を与えて、ロシアに供与したのですから、結果は初めから見えていました。
これは一種の飢餓輸出で、彼らを送った見返りで、ロシアからミサイルや核兵器技術を譲渡される約束をしたからです。
さらに北の兵士たちを待っていたのは、ロシア軍の差別だったようです。
「現地からの報告によると、北朝鮮の兵士に会ったロシア軍兵士の中には『根本的に人として扱う価値がない』と言い放つものすらいたという」(情報筋)
その原因として挙げられたのが言葉と文化の壁だ。ロシア軍内部でも、北朝鮮の兵士に対する不満が高まっており、ロシアとの軍事協力に悪影響を及ぼしかねないとの内容も、報告書に含まれているとのことだ。
「戦死者、負傷者が増えるにつれ、兵士たちがさらに恐怖に震え、精神的に苦しんでいる。(言葉、文化への)適応問題が壁となり落胆しており、いつでも党と国家を裏切り、事をしでかすかもわからないという懸念が取り沙汰されている」(情報筋)」
(高英起) - エキスパート - Yahoo!ニュース
ここまで追い詰めると、これらの北兵士には後は暴発か、脱北しか残されていません。
« LAの大火災とリベラル政治が残したもの | トップページ | ユン大統領、出頭に応じる »
武器渡されず万歳突撃やら生きて虜囚の辱めを受けずとか君たちの嫌いな日帝以下じゃあないか。
もう二度と大日本帝国馬鹿にできないねぇ
投稿: 中華三振 | 2025年1月15日 (水) 08時58分
「生きて虜囚の辱を受けず」という言葉を思い出しました。
亡くなって三十年近くなる父からよく聞かされた言葉ですが、二十一世紀に及んでもまだこのような過酷な状況が存在するのかと驚くばかりです。
ドローンに追い回される北朝鮮兵の写真を拝見しました。絶対あり得ないことでしょうが、もしご家族がこの姿を目の当たりにしたらどのような心境になるだろうかと想像しただけでやり場のない憤りがこみ上げます。もはや人種や国籍の違いは関係ありません。
投稿: 右翼も左翼も大嫌い | 2025年1月15日 (水) 09時20分
北朝鮮兵は捕虜にしても意味ないのが悲しいですね。
ロシア兵の代わりにウクライナ兵と捕虜交換に応じるか?と問われれば、「北朝鮮兵はそもそも参戦してないし、そいつが北朝鮮兵かも分からない。ウクライナのでっち上げ」と言われる気がします。「ロシア人と北朝鮮人の命が一対一で釣り合う訳ないだろ」とか。
万が一捕虜交換できたとして、彼の家族は処刑されてるでしょうし。救いがない。
そうすると、頑張って捉える動機も減りますね。でも殺すのもコストかかるし。
投稿: ねこねこ | 2025年1月16日 (木) 08時32分