トランプの常識革命
トランプが「常識革命」に邁進しています。
このcommon sense revolutionという表現は、就任演説にあったものですが、なるほど言い得て妙です。
トランプは自分がしていることは、今まで米国を、いや全世界を覆っていたポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)という急進左派支配から自由を取り戻すのだ、という含意があります。
この常識革命は実に多岐に渡っていて、その大きなひとつが不法移民対策の飛躍的強化です。
これは昨日に触れた国境の警備強化、不法移民の送り返しなどがありますが、もうひとつ重要な柱が出生地主義の変更です。
実はこれが一番大変です。なぜなら合衆国憲法修正14条とぶつかるからです。
さっそく反トランプ同盟の旗振り役のCNNは違憲で差し止めと嬉しげに書いています。
「シアトル(CNN) トランプ米大統領が署名した、米国で生まれればほぼ無条件で米国籍を得られる「出生地主義」を廃止する大統領令について、ワシントン州シアトルの連邦地裁のジョン・クーゲナー判事は23日、「明らかに違憲」だとして一時的な差し止め命令を出した。
この大統領令については、同州を含め4州の司法長官らが連邦地裁に提訴していた。クーゲナー氏は大統領令の14日間の差し止めを命じた。(略)
提訴した州はいずれも民主党が強く、この大統領令は米国憲法修正14条に明らかに反していると主張している。修正14条は「米国で生まれ」、かつ「米国の管轄に服する」人については市民権があるとしている。
ワシントン州の司法当局者は、裁判所がこの提訴を審理する間、「出生は止められない」と指摘し、大統領令により市民権が与えられない子どもは「長期的に大きな悪影響を被る」と主張した」
(CNN1月24日)
トランプ氏の「出生地主義」廃止の大統領令は「違憲」 連邦地裁が差し止め - CNN.co.jp
提訴したのは民主党が支配している20州の司法長官たちですが、違憲だということはトランプは百も承知です。
実は憲法を手直しすくとなると相当にハードルが高く、憲法の修正は大統領が発議できません。
発議権を有するのはあくまでも連邦議会で、両院それぞれで3分の2の賛成が必要で、それを4分の3の州が批准せねばなりません。
今共和党が優勢だといってもそれは薄氷の関係で、到底4分の3には届きません。
やるとしたら、不法移民に限って例外とするというような運用面に手を加えるしかないでしょう。
さて、この出生地主義は日本人にはもっとも分かりにくいものです。
たとえば、たまたま日本に滞在していた外国人女性が産気づいて出産しても、日本人にはなれません。
あくまでもその人の国籍の人として扱われます。
それは日本が国籍は親から受け継ぐという血統主義をとっているからです。
なんだか古臭そうでアナクロと思わないでください。世界の圧倒的多数の国は、条件付きで出生地主義を認めることはあっても血統主義です。
むしろ例外が出生地主義のほうで、その子が生まれた国の国籍を取得できる方式の国は米国、カナダ、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ、エクアドルなどです。
共通項があるのに気がつきましたか。これらの国は南北米大陸の国々で、米国を筆頭にして外国から植民者がやってきて作った国家です。
これらの出生地主義をとる国々も、元の国では血統主義の国から来ています。
血統主義をとりたくても外国籍ばかりでは収拾がつきませんし、「国民」としてのアイデンティティが生まれません。
第一、課税したくても誰に課税したらいいのか線引きさえできないし、国は開拓のための人手が必要だったので、国籍付与のハードルをめちゃめちゃに緩めたのです。
これが開拓時代にできた米国憲法に出生地主義が盛り込まれた理由です。
米国では、この考えに沿って市民権の取得条件が定められました。
では、どうすれば米国市民権が取れるのでしょうか?
まずは永住権取得をせねばなりませんが、それには5種類あります。
アメリカに移住するために必要なグリーンカードとは? | グリーンカードジェーピー
①家族絡み、②雇用・投資絡み、③抽選、④亡命、⑤難民の5つです。
④、⑤は特殊ケースですから省略しますが、実際は②の雇ってもらった米国の雇用者に便宜を図ってもらうか、100万US$を支払って経済力を示すかしかありません。
後は③の抽選です。笑えますが、ほんとうに米国ではコンピューターで抽選しています。
いや、もうひとつ重大な抜け穴がありました、それが①の家族絡みです。
こんなややっこしいことをせずに、米国で出産された子供には無条件で憲法修正14条に基づいて「米国の管轄に入る」ことが可能です。
永住権取得も吹っ飛ばして一気に国籍がもらえます。
ついでにその母親も「米国人の母親」ということで国籍付与に預かれます。
父親はダメですが、永住権という難関を突破することを考えれば、なんというイージーなことよ。
だから、当然のこととして不法入国者はここを狙います。
特に中南米空の不法入国者は、ぜがひでも米国に潜り込みここで子供を作れば自動的に母親も含めてめでたく「米国民」の一丁上がりです。
ですから親が不法移民だとしても、いったん国境から入ってしまって米国で子供を生めば無条件でその子には米国籍が与えられます。
中国共産党の幹部連は揃って海外脱出を狙っていますが、子弟を米国留学させて②の雇用者がらみを狙うか、100万US$など安いもんとばかりに投資するか、妻が若い場合にはグアムで出産します。
そのための弁理士の会社が繁盛しているとか。
しかもそうやって入ったヒスパニック系の場合、人口増加率が圧倒的に多いのです。
「移民は米国生まれの住民よりも出生率が高く、全体の出生数を押し上げる要因になっている。2023年の合計特殊出生率は米国生まれが1.51に対して、移民は2.37、うちヒスパニックに限ると2.93と米国生まれの住民よりも2倍近く高い。また、アジア系で比べても移民と米国生まれの住民の間には出生率に明確な違いがある」
バイデン政権下で流入する730万人の不法移民 ~アメリカ人は移民に依然好意的だが、トランプ2.0で移民の大流出へと転じるリスク~ | 前田 和馬 | 第一生命経済研究所
南部国境は、バイデンが警備体制を削減しまくったためにがら空きで、フェンスがあるのはごく一部で大部分はただのボロイ柵という実態では、不法移民はいくらでも浸透してきていったん米国に入るや自然の摂理で子を成します。
するとここに新たな「米国民」が誕生し、その子と母親はもちろん、家族もろとも米国に堂々と住むことが可能です。
これはないでしょう、というのがトランプの意見です。
トランプはリベラルメディアが言うように奇矯なことを言っているのではありません。
大変に常識的なことを述べているだけです。
常識的なことを言うと、それが「革命」になってしまうのが今の米国だというだけのことです。
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観光ビザで入国する中国人団体による、米国内出産ツアーなんてのが問題になった事もありました。米国がこれを阻止をするのに、入国条件違反とか不法で高額であるという理由にしてましたね。
トランプの考えは「国家」とか、「国民」というものの「意味の定義」を正常化するものであって、至極まっとうです。
そもそもリベラルにとってのアメリカは「空疎に開かれた理想世界」なんだけど、そんなものは成立しません。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2025年1月25日 (土) 17時50分