なぜチェジュ航空機は大事故になったのか?
改めまして明けましておめでとうございます。今年も更新を始めましょう。
さて、ご承知のように、韓国では立て続けにふたつの事件が起きています。
ひとつはユン大統領が青瓦台に立て籠もってしまいましたが、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が官邸敷地内に身柄拘束のために入ったところ警護処の要員ら約200人がスクラムを組んで阻止したそうです。
そして敷地外にはユン氏の支持者が分厚い人間の楯を作ってしまい、執行不可能となったようです。
どうも日本人の感性ではわからないのですが、執行を阻止し続ければ野党のイジェミンの有罪判決が先に出る、出ればアッチも大統領になれないのだからドローだということのようです。
いまひとつはいうまでもなくチェジュ航空の痛ましい大惨事です。
これは2024年12月29日、韓国南西部・務安(ムアン)空港で、韓国LCC大手のチェジュ航空が着陸に失敗し、乗員乗客181人のうち179人が死亡した事件です。
まずは亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。
チェジュ航空機は車輪を出さないまま猛スピードで滑走路を走り、操縦不能のままその先にあったローカライザというコンクリート製の施設にまともに激突し爆発炎上しました。
下写真がその連続写真です。
ロイター
事故当日、務安空港は無風快晴。
チェジュ航空2216便は出発地のバンコクを離陸後、務安空港周辺まで正常に飛行していました。パイロットは空軍出身の飛行時間6823時間の ベテランでした。
ただし、タイのバンコック空港を離陸したのが午前2時11分(現地時間)、ムアン空港に到着したのが9時7分ごろ(同)ですから7時間の夜間飛行したために疲労していたことはありえます。
2216便は務安空港の南側から最初の着陸進入を開始していましたが。最終進入の途中でゴーアラウンド(着陸復行)を宣言し、再び上昇しながら空港上空を通過して空港北側に向かい、さらに空港北側で方向転換して南に向けて着陸しました。
そして非常事態を宣言発出た6分後に同じ滑走路を南方向に着陸し胴体着陸して爆発炎上しました。
TBS
1度目の着陸では車輪は出ていますが、着陸復行(ゴーアラウンド)をし、いったん出た車輪を引っ込めて滑走路を周回する2週目に入ったところで午前8時57分から59分の間に鳥の群と衝突したようです。
結果的に1度目でそのまま着陸したほうがよかったことになります。
「務安空港近くの海辺で釣りをしていたチョンさん(50)は、聯合ニュースとのインタビューで、「旅客機が下降する途中、反対側から飛んできた鳥の群れと正面衝突した」とし、「(その後)ごう音とともに右側のエンジンから炎が見えた」と話した。国土交通部はこの日のブリーフィングで「鳥類衝突以降、着陸復行する過程で事故が発生したとみられる」と明らかにした。着陸復行とは、着陸しようとした航空機が正常着陸が不可能だと判断し、離陸することを意味する。 務安国際空港は西海岸の渡り鳥渡来地と隣接している。務安国際空港の付近には113.34平方キロメートルの大規模な務安干潟湿地保護区域が位置している。この干潟には渡り鳥の餌が多く、休息するところも多く、長距離を移動する渡り鳥の中間寄着地の役割を果たす」
(中央日報2024年12月30日)
「鳥の群れとぶつかってからごう音、エンジンから炎が見えた」…チェジュ航空旅客機、機体欠陥の可能性も=韓国 | Joongang Ilbo | 中央日報
鳥も一羽に2羽ではなくV字型で飛ぶ(おそらく雁クラスの大型鳥類)の群と真正面から衝突したようで、吸い込んだ数も相当数になったようです。
グーグルアースで見ると空港の脇には大きな干潟があり、そこは渡り鳥の中継地でした。
空港が定期的に空砲を撃ち、駆逐用煙火、ディストレスコール・スピーカー(鳥が天敵に捕まった時に発する悲鳴)等の機器を組み合わせたバードパトロールをするしかありません。
航空機への鳥衝突(バードストライク)防止に向けた取組 - 内閣府
Google Earth
当初は右エンジンが停止しましたが、時間をおいて左エンジンも停止してしまったようです。
鳥をエンジンタービンが吸い込んだために3系統ある油圧系統がダウンしたようです。
ボーイング737-800の油圧は3系統で、左エンジン(第1エンジン)を駆動させるためのAシステム、右エンジン(第2エンジン)のためのBシステム、そして予備のためのスタンバイシステムが存在します。
今回動作していなかった車輪、フラップ、スポイラーはAシステムに繋がっていますが、電動ポンプで代行可能ですし、さらに独立したBシステムには油圧で肩代わりできる仕組みがあります。
エンジンが停止した場合、推力を失うだけではなく、エンジンから得られる動力を装置系統類が伝え、車輪や翼の操作ができなくなります。
日本の航空機産業復活の糸口を考える 『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第227回 | ニュース屋台村
エンジンが停止し油圧が効かないと機首と主翼下の3ツの車輪が降りません。
車輪が降りねば制動をかけることが不可能になります。
これが時速250キロもの猛スピードで滑走路を胴体着陸した最大の原因です。
飛行機はどうやって止まる?~減速に不可欠な部品「カスケード」の秘密~
制動をかけるのは車輪だけではありません。
空気抵抗を増すことで止める翼の装置もついています。それが主翼の上面に展開するスポイラーと下面にあるフラップですが、これも油圧系統のダウンで共に開かなくなりました。
下の着陸時の主翼の写真をご覧下さい、正常に着陸した機体では、スポイラーとフラップが同時に展開しています。
上に開くのがスポイラーで、下向きに開くのがフラップです。
飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ - 航空機の技術とメカニズムの裏側(11) | TECH+(テックプラス)
スポイラーもフラップも、250キロという強い空気の流れの中に衝立を立てて抵抗力を発生させて速度をおとしています。
今回のチェジュ航空機機は、このどちらも展張しないのが動画で確認できます。
すると残る制動方法はスラストリバース(逆噴射)です。
これはエンジンの中程からジェット噴流を前向きに逆噴射させて制動をかける装置ですが、これも作動しなくなりました。
この3種類の制動装置のいずれもが、このチェジュ航空機では作動していませんでした。
しかしまだ方法は残されています。油圧システム全体が完全に故障して油圧を失ってしまっても、フリー・フォール(自由落下)機構と言って車輪の自重で油圧なしで車輪を降ろす装置がついています。
さらに航空機のエンジンが静止してしまった場合、補助的な動力としてエンジンの再起動のための緊急時の代替動力としてAPU (補助動力装置)も装備されています。
2ツのエンジンが鳥を吸い込んで同時に油圧系統が破壊され、理由はわかりませんが予備のスタンバイシステムとフリーフォールシステム、APUがすべて作動せず、パイロットが電動ポンプを使わなかった理由も不明です。
また爆発炎上を防ぐためにターンアラウンドの際に燃料を緊急投棄するべきでしたが、今回の事故が起きたボーイング737-800は短距離旅客機(リージョナルジェット)のためにそもそも燃料投棄システムがついていませんでした。
いずれにしても、すべての制動をかける手段を失って、チェジュ航空機は250キロというすさまじい速度で、死のコンクリートの壁に向けて突進したわけです。
長くなりそうなので、次回に続けます。
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政治の方も日本では考えられない状態ですが、
まあチェジュ航空機事故の話ですね。
あちらのメディアでは「ILSアンテナ周りのフェンスがコンクリ構造物は国内では普通だ」とか「んなわけあるか!」と報道が出たり、「機長が激突直前までパネル操作していた」と美談に仕立てたり、特に朝鮮日報なんかは記者がシロウト過ぎて酷い記事。しかも論点もバラバラ。チェジュ航空は低コストでなるべく飛行機を回すために機体の離着陸回数が多いなんてのは世界中のLCCと同じ。大韓航空に比べて整備士が三分の二だとかも「外注」の割合すら分からんのに下手なことで騒ぐな!と。
既にバードストライク警報が出ていたとのことですが、何故1回目のゴーアラウンドが発生したのかが1番のポイントですね。
あと、今回の事故に直接は関係無い感想ですけど、もう近距離小型ジェットだったクラシック737の発展改良は限界越えてますね。
どんどん長く重くなって多人数を長距離路線で飛ばしてます。本来は昔の727や発展改良型で767と同時開発された同じボディの757(トランプジェットがあれです)ですらとっくに生産終了してますからね。
最新のアビオニクスを移植したMAXシリーズも事故連続しましたから。。
投稿: 山形 | 2025年1月 6日 (月) 07時55分
韓国運輸当局によると、最初の着陸を断念したのは鳥の影響を懸念した機長の判断だった由です。この時は車輪も出て、したがって当然に少なくも一発はエンジンは大丈夫だったんですよね。
ところが二回目は胴体着陸せねばならない事態に。
仕上げは、あってはならないコンクリート壁に激突したせいで多数の人命が失われた結果となった。
小事が大事に至り、あらゆる事のすべてが不幸な結末にみちびかれていくイメージが韓国にはどうしても付きまといます。
もともと韓国航空業界の安全性は国際的に高く評価されていて、パイロットの技量も十分だったのだと言います。
本来、これほどの事態に陥る必要もなかった事故であるように思え、お亡くなりになった方々やご遺族の無念が思いやられます。
ご冥福をお祈りします。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2025年1月 6日 (月) 20時27分