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2025年2月

2025年2月28日 (金)

なにが復興財源となるのだろうか

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手違いで、台湾関連の記事後半と今日の分の記事を削除してしまいました。へなへな~。
再現不可能。気を取り直します。

鉱物資源取引について米国とウクライナが合意しました。

「ウクライナがアメリカとの主要な鉱物取引の条件に合意したと、ウクライナ政府の高官が25日、BBCに語った。
「いくつかの良い修正を加えた上で合意に至り、これを前向きな結果と見なしている」と高官は述べたが、詳細は明らかにしなかった。
報道によると、アメリカは当初要求していた、天然資源の利用から得られるとされる5000億ドル(約74兆6600億円)の収益に対する権利を撤回したが、戦争で荒廃したウクライナに対する確固たる安全保障の保証は与えていないという。安全の保証は、ウクライナ側の重要な要求だった」
(BBC2025年2月26日)
ウクライナ当局者、アメリカとの鉱物取引合意を認める - BBCニュース

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ウクライナ ゼレンスキー大統領 28日に訪米 鉱物資源巡り合意へ|テレ東BIZ

ウクライナ和平の最大の難関は占領地をどうするかですが、この難しさの原因は、ウクライナの戦争疲れです。
ロシアももちろん疲弊していますが、国力の差が出ています。
端的に言って、占領地域を単独で奪還できる可能性は薄く、それを支援するヨーロッパ諸国も直接の介入ができないということです。
かといってロシアも領土宣言している南部2州、東部2州、そして逆に攻め込まれているクルスク州の実効支配が完了したわけではありません。
つまり双方ともに手詰まりなのです。

では、ここで武器を置くといえば簡単ですが、問題は残っています。
どこを停戦ラインにするかと言う点もありますが、それ以上にウクライナからすれば今後に再度攻め込まれない保証がないと怖くて和平を享受できません。
復興に取りかかった、かつてのドネツクのように親ロシア武装集団の浸透工作を受けてゲリラ戦になってしまったでは仕方がないからです。

そもそも復興は、単純な建設よりも費用がはるかにかさみます。
瓦礫を片づけてからやっと破壊された橋や道路、エネルギー施設、学校、病院、住宅などを復旧させるのですから二重の重荷です。
瓦礫の撤去だけでも130億ドルもかかるのです。
世界銀行が試算を出していますが、5240億ドル(約78兆円)かかると見込まれています。

「 世界銀行、国連、欧州委員会、ウクライナ政府は、ロシアの侵攻を受けたウクライナの経済再建費用が5240億ドルに達するとの試算をまとめた。1年前の推定値である4860億ドルから7%以上増加した。昨年の国内総生産(GDP)の3倍近くに相当する見通し。
3年前のロシアの侵攻から昨年12月末までの状況をまとめた。発電・送配電網などエネルギー施設の被害額が1年前の推計値から70%増加した。
特に住宅、輸送、エネルギー、商業、教育部門への被害が大きかったという」
(ロイター2025年2月25日)
ウクライナ経済再建費用、推定5240億ドル 世銀など試算 | ロイター

ウクライナ政府は、国外からの支援などを受けて、優先順位をつけてとりあえず73億7000万ドルの予算を組みましたが、今年だけで100億ドル近い資金が不足しています。
ではこの費用をどこからひねり出すかです。
今後荒廃した国土をどう復興させるかは、軍事的安全保障と復興を分けて考えねばなりません。
ロシアに二度と侵略させないためには、かつての紳士協定に毛が生えたようなミンスク議定書のようなものでは不十分で、緩衝地帯とそれを守る平和維持部隊が必要です。
ミンスク議定書 - Wikipedia
今のヨーロッパ諸国には、英仏を中心に平和維持部隊を出す用意はあります。

「米国のトランプ大統領は24日、ホワイトハウスでフランスのマクロン大統領と会談し、ロシアによるウクライナ侵略の停戦後に欧州主導でウクライナに平和維持部隊を派遣する方針で一致した。マクロン氏が会談でフランスや英国が部隊を主導する構想を説明したのに対し、トランプ氏は支援に前向きな姿勢を示した。
ウクライナは停戦後、ロシアの再侵略を抑止する「安全の保証」を求めている。米国が協力的な姿勢を見せたことで、欧州有志国による平和維持部隊の構想は実現に向け前進した。
トランプ氏は会談の冒頭で、記者団から欧州の部隊派遣を支援するか問われたのに対し、「問題になるとは思わない。何らかの支援を行うだろう」と述べた。マクロン氏は会談後の共同記者会見で「同盟国として結束する用意があるという米国の明確なメッセージ」に謝意を示した」
(読売2月25日)
米仏首脳、ウクライナ停戦後の「安全の保証」巡り欧州主導での平和維持部隊派遣で一致 : 読売新聞 

ここでおそらくトランプが言っていることは、現在のロシア支配地域の主権はウクライナが潜在主権として保持したまま、実際にはここを一種の中立地帯と考えてロシアとのバッファーゾーン(緩衝地帯)とするということではないでしょうか。
それを保証するものとして国際平和維持部隊が常駐し、それに米軍が加わることもないわけではないとします。

さらにロシアが飲み込み易くするためにいくつかの飴を用意します。
ひとつはウクライナ侵略によって課せられた国際的制裁を段階的に解除していきます。
たとえば資金凍結されているロシアの外貨準備については、一気に全部解除するのではなく、ロシアの妥協を引き出しながらひとつひとつ解除していくことになるでしょう。
特にロシアが持つ外貨で大きなシェアを占めるドルはFRBが押さえているために、この交渉力は強いはずです。

さてここでなにが復興の原資となるかですが、これが鉱物資源です。
それについては次回に。

 

 

2025年2月27日 (木)

今日のウクライナは明日の台湾だ

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ゼレンスキーはトランプに屈して鉱山権のために訪米するようです。
プーチンは米国との共同開発をすると言っています。

「トランプ米大統領は25日、対ウクライナ支援の対価として同国に求めている鉱物資源権益などの協定案を巡り、同国のゼレンスキー大統領が28日にも訪米すると明らかにした。ホワイトハウスで記者団に語った。「ゼレンスキー氏が合意に署名したいなら私はそれで構わない」とし、最終合意に強い期待を示した。
鉱物資源の協定案を巡っては同日、トランプ氏の発言に先立ち、両国が基本合意に達したと報じられた」
(産経2月26日)
ゼレンスキー氏、28日に訪米か トランプ氏は鉱物資源巡る最終合意に期待 - 産経ニュース

さて、トランプのウクライナ和平交渉の方法は、後々まで響きます。
たぶん彼は中国が台湾侵攻した場合、今回と似たやり方をとる可能性が高いからです。

福島香織氏はこう書いています。

「バイデン政権は過去に何度も、台湾が攻撃された場合、米国はその防衛に当たると公言してきました。ですが、トランプは、そういう言質を取らせないようにしています。メディアが、台湾が攻撃された場合、米国は軍隊を防衛のために派遣するか?という質問をしたとき、トランプはかたくなに、それは言わない、言ったらディールにならないじゃないか、と言っています。
投資家であり、「US Taiwan Observatory」代表でもあるChieh-Ting Yehは、ウクライナに関してトランプとプーチンがどのような合意に達しても、トランプがまず第一に自己の立場を強調することになる、と述べました。
つまり、ディーラー、交渉人の立場です。「もっか、台湾はトランプがギフトパックに何を詰め込むつもりなのか、心配になって焦っている。トランプにすれば、台湾を中国とのディールのテーブルに置くことが常に可能なオプションとなる。頼清徳総統は実際、トランプにどのように対応するべきか考える必要にせまられている」と指摘しています」
(福島香織中国趣聞No1128 2月23日)

つまり、自由主義陣営としての共通の価値観を持つ台湾だから防衛するのではなく、米国にとって実利があれば支援してやらぬではないというディールに変じています。
有体にいえば、台湾に対してなにを取引条件に出すのかで考えてやってもいい、という姿勢です。
台湾の場合、トランプは台湾の対米貿易黒字が過去最高であることに常々不満を抱き、台湾が米国の半導体産業を「盗んだ」と言いがかりをつけてきました。

そして台湾製半導体製品に高関税を課し、生産拠点は米国に置くべきだと主張してきています。

これに対して頼清徳は必至に対応しようとしています。
しかし内政では国民党が議会多数派であるために国防費増額をGDP比3%以上という案は難航しています。

また、台湾は対米投資を拡大し、アメリカ製品をより多く購入するとしていますが、米国製戦闘機や迎撃システムなどを売ってくれればよいのですが、そこになるといきなり中国を刺激しすぎると、いままでは米側から拒否されてきたいきさつがあります。

このままウクライナ型トランプ外交が進むなら、台湾は貿易黒字の多くを稼ぎ出している半導体産業を奪われ、しかも防衛についてはいままでどおりにあいまいなままという最悪なことになりかねません。
なにせトランプはこう言い放っているのです。

「バイデン政権は過去に何度も、台湾が攻撃された場合、米国はその防衛に当たると公言してきました。ですが、トランプは、そういう言質を取らせないようにしています。メディアが、台湾が攻撃された場合、米国は軍隊を防衛のために派遣するか?という質問をしたとき、トランプはかたくなに、それは言わない、言ったらディールにならないじゃないか、と言っています」
(福島前掲)

やれやれ、台湾の恐怖はまだ始まったばかりのようです。

2025年2月25日 (火)

白昼の追剥と化したトランプ

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ウクライナ戦争が3年目を迎え、軍事占領下の国土は奪い返さず、戦線は膠着しジリジリとウクライナ軍は後退しています。
しかも時の氏神ヅラをして仲介に入ったトランプは、プーチンナラティブと化して、寸分違わない台詞でウクライナを攻撃する有り様です。

トランプがウクライナに出している条件が次第に分かってきました。

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トランプ大統領 鉱物資源協定「ウクライナと合意近い」(2025年2月23日掲載)|日テレNEWS NNN

「ウクライナは米政府が軍事支援の見返りに鉱物資源収入の分配を求めるディール(取引)の一環として提示した5000億ドル(約75兆円)の基金設立要求に反発している。協議について知るウクライナ当局者が明らかにした。
基金はロシアの侵攻開始以来、戦争で疲弊するウクライナに提供された米国の支援に対する補償となる。ウクライナは実際の額は5分の1程度の900億ドル強だと主張している。交渉は部外秘だとして当局者は匿名を条件に明らかにした。
別の関係者によれば、米国が提示した現行の合意案には疑問の余地のある要素が含まれており、ウクライナのゼレンスキー大統領は承認する用意がないため、交渉をまとめるにはさらに時間が必要だという。
トランプ米大統領は同案を受け入れるようゼレンスキー大統領に圧力をかけているが、両首脳間の緊張は高まっており、ウクライナが最終的な和平交渉から締め出されるとの懸念も強まっている。
ベッセント米財務長官は22日に英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)への寄稿文で、合意案ではウクライナ政府が天然資源やインフラなどの資産から得る収入を、同国の長期的な復興と発展のための基金に配分することを提案しており、同基金は米国が経済的および統治上の権利を持つと説明。民間投資を誘致するために必要な透明性と説明責任、企業統治が確保されるとした。
(ブルームバーク2025年2月23日)
ウクライナ、鉱物基金の規模に反発-米国の軍事支援の見返り - Bloomberg

トランプは鉱物資源に関する経済協定へのゼレンスキーの署名拒否を受けてを激しく「選挙で選ばれていないコメディアン出身の独裁者が戦争を始めた」と罵りました。
一方で条件緩和をうたった新たな経済協定をウクライナ側に提示しました。
これについてNYタイムスは、20日「実質的に前回バージョンと変わっていない」「幾つかの条件は前回よりも厳しくなっている」「ウクライナは鉱物資源、石油、天然ガス、港湾、インフラからの収益のうち50%を放棄し、この収益は5000億ドルに達するまで米国が100%出資する基金に振り向けられる」「このバージョンでも米国はウクライナに安全保障の提供を一切行わない」と報じています。

そもそもトランプが恩きせがましく5000億ドル(約75兆円)と言っている支援額が正しいのかです。
ドイツのキール世界経済研究所は、各国が表明した軍事支援や人道支援などを含む支援額について、2022年1月から2023年1月15日までの総額をまとめ、今月21日に公表しています。

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ウクライナへの支援額 1位はアメリカ GDP比の上位はバルト3国 | NHK | ウクライナ情勢

確かに最大の支援国ですが、23年まででおおよそ10兆円程度です。
それから増えてはいるはずですが、一気に75兆になるはずがありません。

ウクライナ自身は、実際の額は米国の主張する額の5分の1程度の900億ドル強だと主張しています。
いずれにしても75兆円相当の鉱物資源を寄こせというのはぼったくりも甚だしいのはたしかなようです。

ゼレンスキーはこれでは1ドル借りたところ2ドル返せといわれているようなものだと述べています。
まさにヨーロッパで言われているようにトランプは「白昼の追剥」です。

「ゼレンスキー大統領は23日「トランプ政権が要求する5,000億ドルはバイデン政権下で提供された支援額=約1,000億ドルを大幅に上回る上、これは無償支援(2024年に可決した支援の一部のみ共和党の意向でローンになった)だったためウクライナの債務としてカウントできない。しかも協定にはウクライナが要求している安全保障の合意が含まれていない。私は今後10世代に渡って支払うことになるようなものに署名しない」と述べ、米国が提案してきた将来の支援についても「1ドルの支援につき2ドルで返済しなければならない内容だ」と指摘し、現在の内容で合意しないことを強く訴えた格好だ」
ゼレンスキーは「10世代のウクライナ人が支払う」天然資源契約に署名しない

ただし、米国の名誉のために注釈をつければ、これはベッセント財務長官によれば、「米国が経済的な権利を持つが、ウクライナの長期的復興のために使う」のだそうです。

「ベッセント米財務長官は22日に英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)への寄稿文で、合意案ではウクライナ政府が天然資源やインフラなどの資産から得る収入を、同国の長期的な復興と発展のための基金に配分することを提案しており、同基金は米国が経済的および統治上の権利を持つと説明。民間投資を誘致するために必要な透明性と説明責任、企業統治が確保されるとした。
長官はさらに、米国がウクライナの実物資産の所有権を取得するわけではなく、ウクライナにさらなる債務を負わせることもない点ははっきりさせておきたいと付け加えた」
(ブルームバーク前掲)

このベンセンント財務長官の発言にしかり、また、閣僚でもマルコ・ルビオ国務長官やヘグセス国防長官はウクライナに同情的といわれており、そうそう簡単にトランプの意のままにはならないようです。

 

2025年2月24日 (月)

米国には、なんと120歳~159歳が約1229万人もいるそうです

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イーロン・マスクのDOGE(政府効率化省)は、猛烈な勢いで政府支出の見直しをしています。
そのなかには的外れも多々ありますが、こういうもんも掘り出してくるので目が放せません。
マスクがXに投稿したデータによれば、以下のありえない超高齢者が社会保障の対象となっていたようです。
わ、はは、もう笑うっきゃないね。

・100歳~119歳が約849万人
・120歳~159歳が約1229万人
・160歳~229歳が約1万3000人
・360~369歳が1名

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XユーザーのElon Muskさん: 「According to the Social Security database, these are the numbers of people in each age bucket with the death field set to FALSE! Maybe Twilight is real and there are a lot of vampires collecting Social Security 

いやー、米国がこんなご長寿国とは知らなんだ。
130歳から139歳までなんと130万人も存在していることになり、200歳以上が2786人もいることになっており、彼らに社会保障が支払われていたのです。
トランプは「史上最大の詐欺かもしれない」と言っています。

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【英語字幕/ 日本語訳付き】新事実発覚!社会保障制度のあり得ない実態

では、実際はどうなのでしょうか。
国連の世界人口推計2024年版(中位推計)のデータをもとにした、2024年最新の米国人口ピラミッド、年齢(5歳階級)別の男女別人口および年齢3区分(15歳未満、15~64歳、65歳以上)別人口は、このようになっています。

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アメリカの人口ピラミッド(国連)|セカイハブ

マスクは、「トワイライト(吸血鬼映画)は本当で、社会保障を集めている吸血鬼(不老不死の怪物)がたくさんいるのかもしれない」とジョークを飛ばし、「アメリカには国民の数よりもはるかに多くの 「資格のある 」社会保障番号がある」と付け加えました。

米国の場合、考えられるのは、死亡した人を削除し忘れたミス、あるいは死んだ人の社会保障番号をなにかしらの方法で買ってなりすまし、年金を貰い続けていたのでしょう。
たぶん後者のほうが多いはずです。

そもそも米国には社会保障や選挙の基礎となる戸籍制度が存在しません。
日本のように出生から死亡まで、さらには係累まで含めた家族関係を記録した文書があたりまえのようにある国は世界ひろしといえどわが国だけです。

仮に戸籍制度がなかった場合、もうなにがなにやらで相続人の権利を守ることは大変に難しくなるでしょう。
米国の場合はこうです。

「アメリカには戸籍が無いので、相続手続きの際は、死亡証明書(Death Certificate)、出生証明書(Birth Certificate)、婚姻証明書(Marriage Certificate)などをつなげて身分関係を証明します」
司法書士国際法務.com 

この証明書は州が発行しますが、出生証明書すら出さない者は死亡証明書なんて出すはずもなく、「いない人間」となってしまいます。
そしてその多くが不法移民です。

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バイデン政権下で流入する730万人の不法移民 ~アメリカ人は移民に依然好意的だが、トランプ2.0で移民の大流出へと転じるリスク~ | 前田 和馬 | 第一生命経済研究所

「メキシコと接する米国南部の国境において不法入国者が急増している。国境警備隊が遭遇した不法入国者数は2023年度(2022年10月~23年9月)で205万人(22年度:221万人)と、2年連続で200万人を超えるなど歴史的な高水準にある。こうした移民の大半は亡命希望者(注1)とみられており、亡命の申請基準を満たしていない場合は国外追放になる一方、それ以外の多くは米国内に釈放され、移民裁判所による亡命審理の開始を待つかたちとなる(所謂「キャッチ・アンド・リリース」)。
この結果、有効な滞在許可を有しない移民(拘束されなかった不法入国者、不法入国による拘束後に米国内で釈放された者、或いは合法的に入国し滞在許可が失効している者)が足下で増加しており、米議会予算局はこうした不法移民の純流入が2023年で240万人、バイデン政権下の4年間(2021~24年)では合計730万人(2017~20年[トランプ政権]:-3万人)に達すると試算している」
バイデン政権下で流入する730万人の不法移民 ~アメリカ人は移民に依然好意的だが、トランプ2.0で移民の大流出へと転じるリスク~ | 前田 和馬 | 第一生命経済研究所

このような不法移民は当然のことながら一切の届け出をしないために(登録にしに行けば捕まりますから)統計数字上は「いない人」扱いになり、その数がバンデン政権下の4年間だけで730万人にも及びます。
米国土安全保障省の推計によると、不法移民の数は2022年時点で約1100万人に達するだろうと見られていますが、実態はそれ以上でしょう。
不法移民の多くは、南部の河川沿いの低湿地に住んでいますから、大型ハリケーンが襲うごとに数百人規模の身元不明者となっていきす。
また彼らを対象とした出生証明書や死亡証明書の売買をするマフィアも跋扈しています。
今回のDOGEの衝撃的な調査はこのような背景があるとみられます。

日本の堅牢な戸籍制度、移民制度に感謝すべきではないでしょうか。
夫婦別姓にゲル氏はこだわっているようですが、別姓を名乗りたければどうぞの世界で、現実には通称として旧姓使用は認められています。
わざわざ世界一堅牢な日本の戸籍制度をいじる必要はありません。

 

 

2025年2月23日 (日)

日曜写真館 今日といふ日が動き出す朝ぐもり

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ふるさとの朝曇にぞ起きにける 窓秋

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きのふ來てけふ來てあすや雁いくつ 正岡子規 

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フルートの調べやさしき朝曇 高橋 君枝

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わが泣けば鴉が喘ふ朝ぐもり 鈴木真砂女

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朝曇港日あたるひとところ 中村汀女

2025年2月22日 (土)

とうとう核管理機関まで縮小の対象に

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金持ちはえてしてケチなもんで、ドンキホーテで値切るようなことをします。
ドナルド・トランプとイーロン・マスクという米国二大富豪が作ったトランプ政権は、この米国吝嗇道を誠実に極めようとしておられます。

この二人組はコストカッターとして政府効率化局(DOGE・ドッジ)という専門機関まで創設して、「聖域なき緊縮」(どこかで聞いたな、この言い方)をしようとしています。

「DOGEは、スタッフの採用条件に、「高い知能指数(IQ)を持ち、週80時間働き、小さな政府を目指す革命家」を挙げている
DOGEでは、19歳から24歳までの若手エンジニアが効率化を担っており、政府の機密情報にもアクセスできることから行政司法の経験の不足が懸念されている
政府効率化省 - Wikipedia

要するにAIを駆使して「小さな政府」に改造しようということのようです。
マスクはリバタリアン(自由原理主義者)のようなので、彼好みの政府にしたいようです。
ただしここはあんたの企業じゃなくて、公共機関なんですがね。一定のゆとりというか、冗長性が必要なんですが。
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DOGEが急いで進めるコストカットと、その先にあるもの | WIRED.jp

まずリベラルのソフトパワーの源泉だった米国際開発庁(USAID)を軍神の血祭りに上げ消滅に追い込み、金融消費者保護局(CFPB)は凍結、国立衛生研究所(NIH)の助成金の提供も停止しています。
これらの機関は再起不能だといわれています。
そしていままで伏魔殿であったペンタゴンにまでコストカッターの手は伸びようとしています。

「もうイーロンマスクの下で熱心なコストカッターのドナルド・トランプ大統領のチームは、まもなく米国最大の裁量予算に照準を合わせます。
年間予算が8500億ドルのペンタゴンは、防衛計画の無駄と非効率性に対する非難に長い間悩まされ、最近では7回連続で監査に失敗した。
ドナルド・トランプ大統領とテスラのCEOで億万長者のイーロン・マスク氏が率いる政府効率化局(DOGE)は、深刻な無駄と非効率を理由に、国防総省の年間8500億ドルの巨額予算の削減にまもなく着手するとフォックスニュースが報じた。米国は世界最大の防衛予算を毎年計上しているが、国防総省は最近、7回連続で監査に不合格となっており、その無駄と非効率性について長年非難されていた」
(FOX2025年2月11日)
1,300ドルのコーヒーカップ、石鹸ディスペンサーの8,000%の過払いは、DOGEがペンタゴンにロックインする無駄を示しています|フォックスニュース

下の決してうまいとはいえないマンガは、マスクがAIに作らせた図柄です。
しかしこりゃ柴犬じゃないのか。ちなみにDOGEは犬のスラングです。

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Ramaswamy DOGE - 政府効率化省 - Wikipedia

ペンタゴンはすでにDOGEから予算削減のメスが入る事を想定して軍の​​さまざまな部門が、長らく中止を検討していた兵器計画のリストを作成し始めているようです。
いままでどうやってもモノにならないような計画や兵器がゴロゴロあったのです。
陸軍はこのDOGEへの生贄にいくつかの地上車両を捧げ、海軍は失敗作の沿岸戦闘艦(LCS)計画の実行可能性を中止を検討し、空軍はICBMのセンチネル計画を廃止することで年間37億ドルを節約できるとされています。

ただし、こんなもんでは済まないでしょう。
マスクが狙っている本命は、なんと空自や世界各国空軍が争って導入しているF-35のようです。

「マスク氏が目を向けるのが第5世代ステルス戦闘機F-35の開発だ。マスク氏は2020年頃から「米国のF-35戦闘機は自律型無人戦闘機に勝ち目はない」と訴えており、DOGEのトップに任命されてからもF-35について「高価で複雑な、何でもできるが何一つ専門的にできない機体。いずれにせよ、ドローンの時代には有人戦闘機は時代遅れだ」と述べている。
F-35は既に1000機以上が生産され、現在最も成功している第5世代ステルス戦闘機になるが、開発の遅延、不具合が起き、現在も新しいソフトウェアの開発に難儀し、コストが増えている。配備後も高度なステルス性能とアビオニクスによるメンテナンスコストは高い」
F-35,ICBM,コーヒーカップ、マスク氏による米軍の予算削減│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア

たぶんマスクには、有人戦闘機なんぞ時代後れ、全部ドローンにしてしまえばよいなんていう、いかにもAI好みの彼らしい構想があるのではないかと思います。
F-35を廃止すれば、すでに空軍、海軍、海兵隊の戦闘機として主力戦闘機の位置を占め、今後ヘンタゴンが2470機の購入をチャラにできます。
パイロットもいらないからバッサリ人員削減、精密な整備もいらないから整備員もリストラ、なんて考えているのでしょうか。

実はF-35は、何度も失敗作の烙印を押されかけながら進化した歴史があります。
その都度新たな生産ブロックでは不都合を解決して、いまだに新たな性能を獲得して進化し続けています。
ソフトなど毎年のように更新され、そのつど新しい段階に進んでるために旧型とは別機体だとさえいわれています。

そもそも、米国以外にも20以上の国が採用しているのですから、勝手にマスクの思惑で廃止されれば冗談ではないという反発の声が世界中からあがるでしょうし、このような安全保障に直結する案件はトランプやマスクの一存では動かず、議会承認が必要です。
米国の基幹産業である航空機産業は、それでなくてもボーイングが経営不振で苦しんでいるのに、トップ企業のロッキード・マーチンまでおかしくなったら目も当てられません。

空軍が航空機で使うマグが1個1280ドルで納品されていたなんていうのも見つかったそうです。
このような純粋な冗費はいくらでも見つかるでしょう。
ただしこれはどうでしょうか。
DOGEはとうとう核管理機関を削減すると言い出しました。

「[ワシントン 16日 ロイター] - 米エネルギー省は16日、同省傘下で核施設や核物質を管理する国家核安全保障局(NNSA)の50人弱の職員の解雇を発表した。トランプ大統領と「政府効率化省(DOGE)」を率いる実業家のイーロン・マスク氏による大規模な連邦職員の人員削減の一環で、これまでも内務省やエネルギー省、退役軍人省、農務省、保健福祉省の計数千人の職員の解雇を決めていた。
情報筋によると、14日には全体で約2000人いる職員のうち325人が解雇通告を受けたものの、同じ日に一部が取り消された。首都ワシントンの事務所や国内の他の拠点では、多くの職員が自分の処遇が分からず大混乱を引き起こした。
NNSAの報道担当者は16日になり、解雇されたのは50人未満だとして、対象は「主に事務や管理的な役割を担った試用期間中の職員だ」と説明した。
NNSAの職員は、侵攻したロシアとの戦闘が続くウクライナを含めて、危険な核物質を確保するために世界中で働いている」
(ロイター2025年2月17日)
トランプ米政権、国家核安全保障局の職員50人弱を解雇 | ロイター

NNSAのような特殊専門知識が必要な機関でばっさりやったら組織は名のみのものになります。
核監視のような機関までリストラするとは、正気とは思えません。

このようにトランプ-マスク二人組のやることは、どうにも素人じみています。
こういう時はかつての国防長官だったジェームス・マティスのような硬骨漢がいて、殿それはまちがっておられますよと諫めるものですが、なんせFOXのキャスターだったヘグセスみたいな太鼓持ちが国防長官なんですから、どうしようもありません。
行く所まで行くのかもしれません。たまらんなぁ。

 

2025年2月21日 (金)

ゼレンスキーが戦争を始めただって?

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退院開けで、まだ頭に霧が掛かっていますが再開しましょう。
病院のテレビでトランプの吹っ飛んだ発言を聞いてげんなりました。この男は頭がおかしくなったのではないか、今回のトランプのウクライナを巡るイカレた発言を見てそう思いました。

彼はこう言っています。

「今回の言葉の応酬は、トランプ氏が18日、フロリダ州の私邸マール・ア・ラーゴで記者団に対し、戦争が始まった責任がウクライナ側にあるかのような発言をしたことが発端だった。
トランプ氏は、裏切られたと感じているかもしれないウクライナの人々へメッセージはあるかと、BBCの記者から尋ねられると、ウクライナは交渉の場に自分たちの席がないことに「気分を害している」ようだが、「この3年間、そしてそれよりもずっと前から席はあった。(戦争は)かなり簡単に解決できていたはずだ」と答えた。
さらに、「そもそも(戦争を)始めるべきではなかった。取引できたはずだ」と述べた。
2022年2月に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻の開始を決めたことには言及しなかった」
(BBC2月20日)
トランプ氏、ゼレンスキー氏を「独裁者」と 「偽の情報空間に生きている」との批判に反発 - BBCニュース

このトランプ発言の背景を説明しないとフェアではないでしょう。
米国がサウジでロシアと頭越し和平交渉をしたことに対して「ウクライナが裏切られたと思わないか」という質問に答えた中でトランプは「ウクライナが戦争を始めるべきではなかった」と言い放ったわけです。
ウクライナが始めたですって?この人大丈夫か。
2014年2月20日に国境を越えて侵攻したのはどこのどいつなんでしたっけね。
あ、そうそう日米戦争は、米軍が横須賀をスネークアタックして始まったんでした。
加害者と被害者の区別すらつかないやつが仲介なんてできるはずがありません。

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トランプ氏、ゼレンスキー氏を「独裁者」と 「偽の情報空間に生きている」との批判に反発 - BBCニュース

さてトランプがいま進めているウクライナ和平交渉で、はじき出されているふたつのものがあります。
当事国のウクライナと、今まで支援を続けてきた一衣帯水のヨーロッパ諸国です。
つまりトランプはプーチンとだけ交渉してウクライナ和平交渉を進めようとしているわけです。

「アメリカのキース・ケロッグ・ウクライナ特使は、17日にサウジアラビアで行われる会談にウクライナが参加すると述べていたが、情報筋によると、ウクライナの代表団は出席しないという。
欧州首脳も協議に招かれていない。17日にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が急きょ招集したパリでの欧州首脳会議に、各国首脳が集まる予定。そのため、ウクライナに関する和平交渉から欧州締め出されることへの懸念が高まっている」
(BBC2月17日)
米ロ会談にウクライナ「呼ばれていない」 ウクライナ高官がBBCに明かす - BBCニュース

当事国が参加しない和平会談などありえるのでしょう。
仮にあったとしても、ウクライナが参加を許されないような会談で、どんなことをプーチンとだけ談合して決めようと無効です。
トランプはその理由を、ゼレンスキーは「選挙で選ばれていない独裁者」だからだと言っています。

「トランプ氏は投稿で、ロシアの侵略を受けて延期されているウクライナ大統領選の実施を、ゼレンスキー氏が「拒否している」と主張。同氏の国内での支持率は「とても低い」と決めつけ、「(同氏が)優れているのはバイデン(前米大統領)を上手に操ることだけ」だと述べた。
その上でトランプ氏は「選挙をしない独裁者のゼレンスキー氏が早く行動しなければ、国を失うことになるだろう」と恫喝(どうかつ)。18日にサウジアラビアで開催された米露外相級協議を念頭に「戦争終結に向けたロシアとの交渉はとてもうまくいっている」とし、ウクライナや欧州抜きでの協議に自信をみせた。
2月12日にロシアのプーチン大統領(以下、プーチン)と電話会談をしたあと、米露双方とも具体的な内容は明かさなかったものの、この電話会談を高く評価した。しかし、その方向性がどのようなものであったかは、2日後のトランプの発言によって推測される」
(産経2月20日)
「選挙をしない独裁者」トランプ氏がゼレンスキー氏を非難 米露協議への不満に意趣返し - 産経ニュース

これは元英国首相のジョンソンは、自国が攻撃を受けている戦争中に選挙ができないのは英国も一緒でそれで「独裁者呼ばわりするのはおかしい」と言っていますが、そのとおりです。
米国も大戦中にルーズベルトが死去しましたが、副大統領がそのまま昇格しているだけのことです。
そもそもウクライナは東部、南部の4州とクリミアはロシアの軍事占領下にあるので、まともな選挙ができるはずもありませんし、どうやって気投票用紙を配れとでも言うのでしょうか。
よもやロシアがウクライナ大統領選挙に介入しない紳士だとでも。
ロシアが自国に編入したと宣言している地域に、ウクライナ大統領選挙の投票用紙を配ってくれるとでも。

現実に実行不可能なことを理由にして、「選挙で選ばれていない独裁者」はないもいです。

トランプはゼレンスキーを露骨に替えたがっています。
それはゼレンスキーが、思惑どおりに動いてくれない頑固者だと考えているからでしょう。
そして支援の対価としてレアアース権益の米国への譲渡を要求して、ゼレンスキーに拒否されました。

「ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、ウクライナ戦争の早期終結を訴えるトランプ米大統領について「ロシアの偽情報に取り込まれている」などと批判した。トランプ氏がウクライナ支援の対価として5千億ドル(約76兆円)相当のレアアース(希土類)権益の譲渡を求めていることに関しても「国を売ることはできない」とし、容認できないとの立場を示した」
(産経2月20日)
「選挙をしない独裁者」トランプ氏がゼレンスキー氏を非難 米露協議への不満に意趣返し - 産経ニュース

よくも吹っ掛けたもんです。トランプ、あんたは火事場泥棒ですか。
和平してやるからオメーの国のレアメタルの権益寄こせですか、絶句します。
張り倒してやりたい。

要はトランプはバイデン政権をくさしたいだけです。
トランプはバンデンがウクライナをNATO加盟させてやるといったから戦争が起きたのだ、と言っています。

「ドナルド・トランプ米大統領は、ジョー・バイデン前大統領と、ウクライナがNATOに加盟する姿勢を、ロシアのウクライナ戦争のせいにしている。トランプは、バイデンがウクライナのNATOへの野望を支持したことで、ロシアが紛争を開始するように仕向けたと強調した。
トランプは、「プーチン大統領のずっと前から、ロシアは、それが戦争が始まった理由だと私が信じているという事実に対して非常に強かった。なぜなら、バイデンが出て行って、NATOに加盟できると言ったからだ。彼はそんなことを言うべきではなかった。彼がそう言った瞬間、私は思った、あなたは何を知っていますか?これから戦争が始まります。そして、それは正しかったです。これは、私が大統領だったら決して起こらなかった戦争です」
トランプはロシアのウクライナ侵攻についてバイデンを非難し、NATO加盟をめぐって戦争が始まったと述べる - Firstpost 

なるほど、そこですか、結局バイデンがウクライナをNATOに参加させてもいいなどと言うから戦争が起きたのだと言いたいようです。
プーチンが戦争を始めたのは、プーチンがウクライナに対して、なんと言って侵略を仕掛けたんでしょうか、思い出してみましょう。
ウクライナは国じゃねぇ、あいつらはネオナチ国家で、ロシア系国民を虐待し、さらにはNATOとつるんでロシアに攻撃をしかけているんだぁぁ、でしたっけね。
ロシア軍がウクライナの産院を爆撃したのも、あそこがネオナチのアジトだったからだぁ、なんて言ってませんでした。
ネオナチ相手なら、病院を患者もろとも爆撃しても許されるようです。

よくロシアフレンドはアゾフ大隊を引き合いに出して、見よこれがウクライナがネオナチの証拠であるぞよ、と麗々しく写真つきで登場させますが、そんなにネオナチって国家を乗っ取るほどすごかったんですね。(わけねぇだろ)
秘密外交文書を読んだことが自慢の佐藤某など、なにかといえばウクライナはネオナチ国家だと言い続けていましたっけね。
あるいは、例のミンスク合意をウクライナが破ったからだとも言っています。

叛乱を起こしてプーチンに殺されたブリゴジンは、こんなことを暴露しています。

「テレグラムに投稿した動画で、ロシアがウクライナ侵攻を始めた「2月24日に起きたことは日常茶飯事にすぎない。国防省は国民と大統領を欺こうとし、ウクライナからとんでもない侵攻があり、北大西洋条約機構(NATO)全体でロシアを攻撃することを計画していると説明していた」と述べた。
さらに「戦争はショイグ国防相が元帥に昇格するために必要だった。ウクライナを非武装化し、非ナチ化するためには必要ではなかった」と強調。エリート層の利益のためにも戦争は必要だったという見方も示した。
また、ロシアは侵攻に踏み切る前にウクライナのゼレンスキー大統領と協定を締結できたはずだったほか、戦争ではロシアで最も有能とされる部隊を含む何万人もの若い命が不必要に犠牲になった」
(ロイター2023年6月24日)
ウクライナ戦争、軍上層部の「うそ」が根拠に ワグネル創設者が非難 | Reuters 

トランプは信じがたいことに、プーチンの「NATOが攻撃してくる。ウクライナのネオナチを一掃し、非武装化せねばならない」という嘘を丸呑みしているのです。
ブリゴジンは事前にウクライナとロシアがNATO非加盟の約束を取り交わせれば侵攻せずに済んだという言い方をしていますか、それはないでしょう。
似たことをトランプは「オレなら侵攻させなかった」と言っていますが、そんなことはありえません。

プーチンは2022年9月30日の4州併合集会演説でこんなことを言っています。
西側は、ロシアを「攻撃、弱体化、分割」しようとしており、その背景にある動機は「新植民地主義システム」を維持し、そこから得られる利益を獲得し続けることだ」とするように、強い被害者意識とそれからくる反西欧主義である。
西側が世界に寄生し、世界から略奪し、人類から年貢を集め、繁栄の主たる源を絞り取ることを可能にする新植民地主義だ。
彼らはわれわれが自由になることを望まず、植民地にしたいのだ。

対等な協力を築きたいのではなく、略奪したいのだ。われわれをロシア人を魂のない奴隷の集合体にしようとしている、と考えています。
したがってウクライナ戦争とは、「偉大なロシア」を西側に抹殺されないための防衛戦争であって、「ロシアの言語や文化を守る戦い」なのだと位置づけます。
根深いロシア人の西欧コンプレックスと被害者意識丸出しです。

そして演説には登場しませんが、アレクサンドル・ドゥーギンの影響を強く受けています。
プーチンの外交政策には、「ロシアが支配するユーラシアの成立」 を唱えるドウーギンの影響が濃厚にあります。
ですから、プーチンは脳内妄想が募って侵略行為に及んだのです。

これは現実の外交とは無関係ですから、あの時点で侵攻しなくても別の機会にかならずしたはずです。
NATOうんぬんは上ッ面の説明でしかありません。
こんなことはトランプはキライでしょうが国務省かCIAに尋ねればすぐに教えてくれることです。

このプーチンの西側への呪詛は、西側社会にも存在する反グローバリズム思想と好一対ですから、トランプとこのあたりで共鳴しているのでしょう。
そのせいか日頃、「影の政府」とか反グローバリズムといっている人たちは揃ってロシアンフレンドとなってしまいました。
おそらくトランプは思想的には保守自由主義よりこちらの方に親近感があるはずです。

憎きバイデンの外交政策と絡み合わせて、ゼレンスキーを侮辱しています。
どうしようもない小物感。絶望的視野の狭さ。どぎついまでの自国利益の主張。そして汚らしい口調。
おいルビオ、少しはあんたらの親方をまともにしてくれよ。
いまや自由世界の恥です、あいつは。

 

2025年2月19日 (水)

今日は休載です

本日と明日は更新がありません。あさって21日金曜日から再開いたします。
よろしくどうぞ。

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2025年2月18日 (火)

トランプ、ヨーロッパに喧嘩を売る

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トランプがヨーロッパに喧嘩を売っています。
かつてバイデンが当選したときには「米国は戻って来た」といいましたが、今回は「米国は喧嘩を売りに戻って来た」という塩梅です。
気取って言えば、戦後秩序への異議申し立てといったところですか、なんせ面と向かってEUを批判しちゃうんですから。
これを盟主たる米国が言ったというのがミソです。
それにしてもこういうマジなことも言うわけですから、「アメリカ湾」なんてつまんないことを言うなと思います。

場所はミュンヘン安全保障会議。
居並ぶEUの閣僚を前に、副大統領のバンスはこう言い放ちました。
顔を見ると怒りの表情凄まじく、といったところ。

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産経ニュース

初めはこの開催地のミュンヘンを美しい街ともちあげたかと思うと、一転いきなり本題に入ります。

「もちろん、この会議は安全保障を議論するために集まったものだ。安全保障というと通常、外部の脅威を意味するだろう。本日、とても多くの偉大な軍の指導者が集まっている。だが、トランプ政権は欧州の安全保障を非常に懸念している。
ロシアとウクライナは合理的な解決に達することができるだろうし、今後数年間で欧州が自国の防衛力を強化することも重要だ。だが、私が欧州に対して最も懸念する脅威とは、ロシアではない。中国でもなく、他の外部の面々でもない。
懸念するのは、内なる脅威だ。欧州が、米国と共有すべき最も基本的な価値観から後退していることだ」
(産経2月15日)
「群衆に車突っ込み地域を粉々に」「制御不能な移民に終止符を」バンス氏演説移民問題全文 - 産経ニュース

バンスはこの演説の1日前に起きたアフガン難民によるテロを背景にしてしゃべっています。

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読売新聞

「【ミュンヘン=淵上隆悠】ドイツ南部のミュンヘンで13日、群衆に車が突っ込み、地元警察によると少なくとも28人が重軽傷を負った。警察は運転手のアフガニスタン国籍の男(24)の身柄を拘束し、テロの可能性も視野に捜査している。
公共放送ARDなどによると、群衆は労働組合のデモで、男は難民申請者だという」
(読売2月14日)
厳重警備のドイツ・ミュンヘンで群衆に車が突っ込む、28人重軽傷…難民申請者の男を拘束 : 読売新聞

実は去年12月20日にも、ドイツ東部マグデブルクでクリスマスマーケットに車が突っ込み、死者5人、負傷者は200人以上を出しています。
つまりドイツは恒常的にテロを「気安くできる」条件があるようです。
バンスはこれを「ヨーロッパが共通の価値観から後退したためだ」と指摘しています。

「この会議に集まった国々が直面しているすべての差し迫った課題の中で、大量移民ほど緊急な課題はない。現在、ドイツに住むほぼ5人に1人が海外から移民してきた。もちろん、史上最高数だ。米国でも同様で、過去最高を記録した。欧州連合(EU)域外からEUへ入国した移民の数は、2021年から22年の1年間だけで倍増した。もちろん、それ以降もはるかに高くなっている」
(産経前掲)

つまり、ヨーロッパ諸国は「そもそもわれわれが何を守っているのかを知らずに、予算編成の問題について考えている」のだ、ヨーロッパ首脳が移民・難民問題から目を逸らして国防費を討議しているのは馬鹿げていると、バンスは決めつけます。

「欧州の有権者の中で、難民審査を待つ何百万人もの移民に門戸を開くために投票した人はいなかった。有権者は何に投票したのか。英国ではEU離脱(ブレグジット)に投票した。賛成か反対か意見表明した。
欧州全土で、制御不能な移民に終止符を打つと約束する政治指導者に投票する有権者が増えている。私はたまたまこれらの懸念の多くに同意するが、もちろん、あなたがたが私の意見に賛成する必要はない」
(産経前掲)

そしてバンスは、欧州の不法移民対策の手ぬるさ、インターネット規制のあり方への批判へとつなげていきます。
そしてこれ見よがしに、会談後、AfD(ドイツの選択肢)のワイデル共同党首と会談しています。

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JDバンス氏、ドイツの極右政党首との会談でタブーを破る |JDバンス |ガーディアン紙

一方、ドイツ首相のショルツはバンス氏の発言を頭から否定し、「国内政治に関して外国からの干渉は受け入れない」と述べています。
選挙干渉だ」とも言っていますが、これは近々国政選挙か行われる予定だからです。
ショルツ率いる社会民主党(SPD)は、他のドイツの主要政党と共に選挙協力をしてAfDを勝たせまいとしています。
彼らはこの選挙協力をその名もファイアーウォール(防火壁)と呼んでいます。

そこまでせねばならないのはAfDが、第1党になりかねない勢いを示しているからです。
去年9月の東部2州の選挙結果です。

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ドイツ東部州議会選で右派政党が躍進、戦後初めて極右系が最大勢力…ウクライナへの武器供与に反対 : 読売新聞

「AfDは2013年、債務危機に陥ったギリシャ支援に反対する勢力が結党した。反移民・難民、反イスラムに加え、ウクライナへの武器供与に反対し、ロシア寄りの立場を掲げる。
特に最近は、両州などの共産圏の東独に属していた地域で、旧西独地域との経済格差を背景に既成政党に不満を持つ有権者に浸透している。
直近の世論調査ではAfDは支持率24%でトップを走る」
(読売2024年9月2日)
ドイツ東部州議会選で右派政党が躍進、戦後初めて極右系が最大勢力…ウクライナへの武器供与に反対 : 読売新聞

AfDは新しい政党で、2013年にギリシャの債務危機に対する支援に反対する勢力が結党しました。
東ドイツで誕生し、反移民・難民、反EUに加え、ウクライナへの武器供与に反対し、ロシア寄りの立場を掲げています。
そしてそれだけではなく、ナチスに対しても肯定的で反ユダヤ主義です。

「ちなみに、テューリンゲン州のAfDの代表,ビュルン・ヘッケ氏は国家社会主義の言葉を彷彿させるレトリックを常用し、国家社会主義に基づく専制政治を公然と主張している政治家だ。ドイツの基本法は「ドイツ国籍を有する者はすべてドイツ人」と明記しているが、ヘッケ氏はそれを認めていない。単なる外国人排斥政策だけではない。
反憲法、反民主主義、反ユダヤ主義的な世界観を標榜している。彼は過去、ホロコースト記念碑を「恥の記念碑」と呼び、 ドイツの「民族的再生」を強調し、移民や多文化主義に対して強く反対してきた。また、ドイツの過去に対する悔恨を「過度なもの」として捉えている。ヘッケ氏の存在は、AfDが単なる不満票、抗議票を集める野党勢力ではないことを示している」
(長谷川良ウィーン発 『コンフィデンシャル』

長谷川氏が指摘するようにAfDには危険なネオナチ的傾向がみられるのも事実で、私にも彼らに対しての警戒心があります。
しかしやりすぎました。
川口マーン恵美氏によれば、おおよそ民主主義とはかけ離れた方法でAfDとその主張を押しつぶしてきたのがわかります。

「ドイツの全ての党は、AfDとは何があっても協力しない(ドイツではこれを防火壁と呼んでいる)ということを天命のように守り続けているため、AfDがどんな動議を出そうが絶対に通らない。
それどころか、提出された法案や動議にAfDが賛成しそうだとわかると、それらが取り下げられるのが常だった。あるいは、AfDが賛成できないような文言を最初からわざと織り込むとか。
つまり、ドイツの議会における重要度は、提出されている動議や法案の中身の是非ではなく、AfDがそれに賛成するか否かであった。これが7年間も続いてきたのだから、難民問題は一向に改善されず、さらには、ドイツの政治自体が機能不全になっていたのは、ある意味、当然だった。そして、この悪政に苦しんでいるのが、言うまでもなく国民である」
日本のメディアが報じない「ドイツのいま」がヤバすぎる…「難民問題」「極右打倒」で大混乱の「異常事態」に!(川口 マーン 惠美) 

このような非民主的な抑圧方法が、逆にAfDの大衆的支持を拡大し、何の抵抗もできない2歳の男児が白昼に公園で刺殺されたり、なんどとなく車両を群衆に突入して殺戮することを許してしまったことも確かでしょう。
そしてイーロン・マスクが批判するように、右派が強いSNSの規制までしています。

フランスも同様で、AfDより穏健な国民連合(RN)が第1党となりそうだと見ると、マクロン政権もファイアーウォールを築いて選挙区割りを変えてまで国民連合を潰す、ただそれ一点で極左に政権を渡してしまいました。
このような状況に一石を投じて堂々と喧嘩を売ったのがバンスだったわけです。
それにしてもEUに喧嘩売るのは自由ですが、ウクライナとEUを抜かして頭越しでロシアと和平交渉するのだけはやめなさい。
それは純然たる利敵行為です。
お断り
明日水曜日と木曜日は更新がありませんので、ご了承ください。
金曜日から再開します。

 

2025年2月17日 (月)

メキシコ湾を「アメリカ湾」にしろという愚案

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米国民はトランプに票をやりすぎたようです。トランプはいまやすっかり増長した馬鹿になっています。
トランプのやっていることを見ると、常識と非常識のゴッタ煮です。

たとえばエネルギー政策はまともすぎるほどまともで、ゆがんだ民主党政権の行き過ぎを是正しました。
しかしなんですか、「メキシコ湾を止めてアメリカ湾にしろ」、「カナダは米国の州になれ」ですと、頭大丈夫ですか。
子供か、あんたは。
国際的に確立した名称の変更が恣意的にできるとでも思っているのでしょうか。

かつてわが国にも「日本海」を「東海」(トンヘ)と呼べと強要してくる某国があって、なにかと日本海と呼ぶのは~日帝時代の残滓だ」といったどーでもよいようなことを国際社会でガナっておりました。
それに対する外務省のクールなお答え。

(1)議題7については,我が国は,議場にて発言を求め,本件会議は政治的問題を議論する場ではなく,我が国としてもその議論を政治化する意図はない旨を述べた上で,「主に日本,ロシア,朝鮮半島東岸に囲まれた海域の名称はSea of Japanであり,これが当該海域に関し国際的に確立した唯一の名称である。韓国提出の報告書に含まれた歴史的史実と相容れない誤った表現は,我が国として全く受け入れられない」旨を明確に述べました。
(2)議題17a)については,我が国は,韓国側の発言に対し反論の機会を求め,当該海域について国際的に確立した唯一の呼称としての日本海と「東海」の併記を目指すことは,政治的意図に基づいた一方的行為に他ならず,航行・国際海運の安全の観点からも不適当であり否定されるべき旨述べ,断固として反論を行いました。
日本海呼称問題 第11回国連地名標準化会議|外務省

ゴリアさん、「日本海」って別に日本がつけた名称じゃないの。
「日帝の残滓」でもなんでもなく、それ以前から国際社会はそう呼んでいて、19世紀の初めに定着しただけなの。
逆にいま「東海」なんて名称に変更すると、国際標識が変更されるために海図からなにから変えねばならず、管理ができなくなって大変なことになるの。
そもそもオレの国は200年前からそう呼んでいたと言いますが、あんたの国の東側の海でしかない呼称で、中国も東シナ海のことを同じ「東海」と呼んでいます。中国の東、朝鮮半島の西側ですね。そういえばにほんにも東海地方なんてありますしね。
こんな方位だけの地名を勝手に国際地名にしてしまったら、大混乱です。

コリアは、結局世界世界の笑い物になっただけでしたが、世界の盟主たる米国が地名の恣意的変更をすれば、冗談では済まされません。
なんとまぁメキシコ湾(Gulf of Mexico )を「アメリカ湾」( Gulf of America) にしろといい、従わなかったメディアには制裁を課しています。

「1月20日、フロリダ州のロン・デサンティス州知事(共和党所属)は大統領令に先行して「アメリカ湾」の表現を州の行政命令に用いた。同日、トランプは名称を変更する大統領令に署名し、連邦政府レベルで正式にアメリカ湾の名称を使用することとなった[1]。1月27日、Googleはアメリカの地名情報システムが変更され次第、地図アプリGoogleマップ内の表記を変更する方針を明らかにした。アメリカ国内のユーザーは「アメリカ湾」、メキシコ国内のユーザーは「メキシコ湾」、それ以外の国では両方が併記される予定である」
メキシコ湾 - Wikipedia

ご冗談でしょうと、をググると確かに並記ですがメキシコ湾(アメリカ湾)となっていました。

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Google Earth

おいおい、当該国のメキシコにも相談せずに国際連合地名標準化会議にもかけず、勝手に改称していいのかい、と思いますが、いいんんでしょうかね。
この「メキシコ湾の名称は由緒正しく少なくとも16世紀後半から使われていたようで、英国の地理学者が1589年に出版した本にも、この名前が登場するそうです。
メキシコ合衆国が成立したのが1810年ですから、それ以前から「メキシコ湾」と呼ばれていたのです。
また、米国が誕生するはるか前の200年前から使われていたことになります。

これをトランプは、「そこで仕事をしているのはほとんど我々であり、我々のものだ」と発言したわけです。
確かにメキシコ湾は、アメリカ南部の5州(テキサス、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダ)の経済にとって重要な場所かもしれませんが、呼称とは別問題です。

そんなことを許していたら、ロシアなんぞフィンランド湾を「ロシア湾」に改称しろなんて言い出すでしょう。
フィリピンやベトナムは、南シナ海(South China Sea )の名称からChinaをはずせと要求するでしょう。
実際にそのような要求はでています。

ザ・ストレーツ・タイムズは「南シナ海という名前名称が中国に周辺諸国へ嫌がらせを行う正当性を与えている」とし、「東南アジア海」(ASEAN Sea)へ名称を変更すべきと主張している。
インドネシアは2017年にこの海を「北ナトゥナ海」と名付けフィリピンは「西フィリピン海」と名付けているが、いずれも国際的に承認されていない。
タイの活動家団体は2010年に「東南アジア海」(Southeast Asia Sea)へ名称を変更するよう署名活動を行った」
南シナ海 - Wikipedia

要求の政治的正当性は置くとして、こんなことにいちいち取り合っていたら国際的地理標識がグチャグチャになってしまいます。
じぶんの国で国内的に呼ぶのはカラスの勝手ですが、それを国際社会に持ち出さないでいただきたい。
カナダが米国の一州だなどと放言するのは醜態の極みです。
グリーンランドにしかり、ウクライナの地下資源を要求してみたり、そうそうガザの一件だって、ただの大国の横暴、厳しく言えば子供じみた帝国主義にしか見えません。
私はリベラル諸氏のようにトランプを権威主義者、ヒトラーなどと意見には与しませんが、そのように外からは見えてしまう、というのは非常に損ではありませんか。

お断り
あさって19日(水)と20日(木)は短期入院のために更新はありません。
病院はキライだよー。

 

 

2025年2月16日 (日)

日曜写真館 一茎の小夜の紫蘭にペンを擱く

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秀づると見えし紫蘭の花 後藤夜半

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紫蘭咲き満つ毎年の今日のこと 高浜虚子

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雨の日は雨の紫蘭を玻璃越しに 高澤良一

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風の中紫蘭の内緒話かな 高澤良一

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虚子にして詠める紫蘭の句を知るや 高澤良一

 

 

 

2025年2月15日 (土)

石破政権、尖閣のブイを撤去させてしまう

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まぁ、なにやってんでしょうね、うちの国の政府。
中国様にありがたくもかたじけなくも、尖閣のEEZに作ったブイを撤去させてしまいました。
書き間違いではありませんよ。「させてしまった」のです。
わが国の主権内に作られた主権侵犯ブイを、まるでとうぜんのことのように中国が「勝手に」撤去したのです。

「日中間ではビザをめぐり双方が条件を緩和するなどして関係改善の動きが続いており、今回の発表はその流れを確かなものとしたい中国側の姿勢を反映したものといえそうだ。
中国外務省の郭嘉昆・副報道局長は同日の定例会見で「海洋気象観測ブイ」は「元の位置での運用任務を終えた」と説明。
ただ、設置については「中国の国内法や国際法にのっとったもの」と述べ、正当化した。中国は尖閣諸島を「釣魚島」と呼んで領有権を主張している」
(朝日2月11日)

中国、尖閣周辺のブイを撤去 日本側も確認 関係改善の姿勢反映か:朝日新聞

ダメでしょうって。あの違法ブイはわが国が撤去せねばならないものなのです。
極端に言えば、中国公船が撤去しようとしたら、それを阻止してでもわが国が撤去せねばならないことなのです。

しかし朝日さんの書きっぷりだと、まるで「関係改善の動き」、つまりは日中友好が進んでよかったね、万歳、ということに転じてしまっています。どーしてそうなる。
中国はあくまでもあの違法ブイ設置は「国内法と国際法に則ったせのだ」とシラばっくれており、そこの部分を世界に問うて行かねばならないのです。
それをみすみす手をこまねいて放置し続け、「勝手に」中国に撤去させてしまったのですからなんともかとも。

林官房長官など、まるでこの違法ブイが天然自然にそこに浮いていたとでもいわんばかりに「存在しないことを確認した」なんて言っています。

20250214-014540

ANN

「2023年7月に東シナ海の我が国排他的経済水域内で設置が確認されておりましたブイがEEZ内に存在していないことを海上保安庁が確認をしました」
また、林長官は東シナ海の日本のEEZの外に別の新たなブイが設置されていることを確認したと説明しました」
(ANN2月12日)
尖閣諸島周辺の中国のブイ撤去 与那国島南EEZ内のブイは残ったまま

違うでしょう。
あれは中国が尖閣水域を「国内・国際法」上中国の主権下にあると認識しているから設置したのです。
その主権侵害を問わず、口先で「毅然として対処する」と言うだけで撤去には小指一本動かさなかったために、勝手に中国に「撤去されてしまった」のです。
中国の言い分ときたら「任務を終了した」ですから、まるで予定通りの主権の行使だったみたいです。
こういうふざけことを言わせたら負けです。
日本の手によって撤去せねばならないものを、みすみす中国自身にさせてしまったのですから、そのノーテンキぶりにはほとほと呆れます。

いいかげん中国様のやり方を覚えなさい。

①初めはなんでもいいから言いがかりを吹きかけてくる。ネタは尖閣でも「放射能汚染水」でもなんでもよい。科学的根拠や国際法など気にしなくてよい。日本がいちばん嫌がる場所に現物を置くこと。
②世界に向けてその言いがかりネタをプロパガンダし、本来火のない所に煙は立たずなのに交渉案件にしてしまう。
③日本が口先で抗議してきても、柳に風と取り合わない。どうせ口でしか言えない腰抜けなのだ。
④ひとしきり騒ぎ立てて国際問題化して、てきとうに長期化したら、日本に貢ぎ物を持って来るように仕向けて一区切りつける。
⑤その頃にはオバーラップして新しい紛争ネタを作り出し、①に戻る。

20250215-001818

共同通信

ところで現実の経過はこのようであったようです。
違法ブイが設置されているという読売のスクープに対して、岸田政権幹部はこう答えたそうです。

「尖閣諸島の海域は、当然日本の海域だが、中国側も同様の主張をしているため、国連海洋法条約上、確定ができていない。国際海洋法条約では『他に主張する国家がない』ことが、EEZ認定の前提となるからだ。
 確定ができていない場合、ブイは公路障害物となって、設置した側が回収するのが国際法のルールだ。日本は普段、世界に向けて『法の支配』をアピールしているため、厳密に国際法に照らせば、できるのは中国側に撤去を要求することまでなのだ」
(近藤大介2025年2月25日)
【ようやく撤去】中国が尖閣付近に設置した観測ブイを1年7カ月も“放置”した日本政府、見透かされてしまった胆力 東アジア「深層取材ノート」(第270回)(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)

EEZを国際海洋法では他に主張する国がいない場合にのみ認定するが、その「確定」ができていない、のだとか。
したがって「設置した側が撤去する」のが国際法である以上、中国が撤去するのを待っているしかない、とことのようです。
そのうえに、政府の船舶ではなきないので民間委託となるとめんどくさいことが派生する、と政府はこぼします。
いわく

「仮に強権を発動して撤去するにしても、政府には専用の回収船がないので、民間に委託することになる。その際、どの官庁が委託業務を担当するのか? 民間船が撤去業務を行う際の身の安全を、どうやって保証するのか? 中国側の不測の事態にどう対処するのか? ブイの撤去は、簡単なことではないのだ」
(近藤前掲)

いつまでも国際法とやらをコネくり回している愚かしい官僚どもめ、というところです。
明確な侵犯の意志をもって日本の主権を侵害する中国に対して戦わずして負けています。
というか、戦う気が初めからありません。いつもなぁなぁ、まぁまぁ、前例踏襲、すべてこの世は事もなし。

国際法を主権を守る武器としてとらえず、保身と責任をたらい回しの具にしているのが、わが国の凡愚の政治家と官僚たちです。
この違法ブイの件ならば、直ちに日本政府が堂々と事務的に、冷やかに、あたりまえのような顔して撤去するべきでした。
これができないのは政府主導にならず、官僚主導になっているからです。
民間委託するにしてもどの官庁がするのかでまよってなにもしないのですから、絶望的に暗愚な政府です。

要は、中国様を怒らせるとコワイということに尽きます。
中国は「力の信者」です。強く出れば引っ込みます。弱くでればつけあがります。
まるで子供のようですが、そのような国だと思ってつきあうしかない。

これが理解できないから、日本は負け続け、主権を削り取られていくのです。
気がついたら与那国島の久部良港にブイを置かれますよ。
なにせいまやこの時期に政府が習近平を国賓で招きたいと言っているのだから、ヘルプレスです。
こんな体たらくでトランプに「尖閣は安保第5条だから守ってくれ」などとよく言えたものです。
自ら守らない者がなにを言っているのやら。

宮古海峡を4万t級の新造したばかりのユーシェン級揚陸艦が、艦隊を引き連れてこれ見よがしに通過していきました。
こんなものをわが国との境界すれすれを航行させて、なにが友好ですか。
自衛隊が「中国海軍の巨艦」を確認! 空母のような強襲揚陸艦が宮古島沖に現れる ミサイル駆逐艦や補給艦も(乗りものニュース) - Yahoo!ニュース

 


 

2025年2月14日 (金)

スウェーデンの現実的新エネルギー政策

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スウェーデンの新エネルギー政策が発表されました。
これは中道右派が政権をとったことで、従来の急進的な環境・人権政策の見直しが行われたためです。
ちなみにあの左翼少女グレちゃんの出身国はこの国でしたっけね。

スウェーデンは日本のリベラルの憧れの聖地で、かねてから原発廃止を目指し、ガソリン車撤廃を主張してきました。
その実、原子力はスウェーデンで水力と並ぶ主力電源でした。
スウェーデンでは、1972年に国内最初の商業用原子炉が運転を開始し、石油危機以降、原子力が石油代替エネルギーの主翼を担ってきました。
しかし、1979年の米国スリーマイル島原子力発電所事故によって、反原発運動が盛んになり、翌1980年に実施された国民投票の結果を受けて、スウェーデンは脱原子力政策に舵を切りました。
スウェーデン政府は当時、運転中・建設中の原子炉を除いて新たな原子炉の建設は行わないこと、また、2010年までにすべての原子炉を閉鎖することを決定したのです。

ただし、いたずらに急進的反原発運動に流されなかったのはさすがで、このような付帯事項もついていました。

①現行法や国際的な取り決めに反した対策は行わない。
②急性の深刻な健康被害を防ぐために、あらゆる努力を行う。
③対策は正当性のあるものでなければならない。
④講じる対策は、なるべく良い効果をもたらすように最適化する。
⑤対策の柔軟性が制約されたり、今後の行動が制約されることはできるだけ避けるべきである。
⑥経済的に費用が高くなりすぎない限り、農作物・畜産物は生産段階で汚染対策を行う。
⑦一般的に大規模な投資の必要がない汚染対策を実行すべきである。
スウェーデン原発事故報告書その2 政府と自治体は、リスクコミュニケーションの総括と対策の場を作れ: 農と島のありんくりん

この辺は原発事故において、リスクコミュニケーションに失敗し、風評を政府みずからが煽った結果、全原発の検査停止に走った頭の軽い民主党政権とは対照的です。
しかも民主党政権はこの原発の代替として当時大流行だった再生可能エネルギーをいちづけ、全量固定買い取り(FIT)という過激な政策を国民に押しつけました。
いまだ日本は原発再稼働もまとせに出来ず、そのための電気料金の高止まりと恒常的エネルギー不足に苦しんでいます。

それはさておき、スウェーデンでも代替電源の開発が進まず、電力料金の高騰を嫌う産業界や職場を奪われる労働組合の抵抗もあって、実際には原子炉の閉鎖は進展しませんでした。
この過激なエネルギー政策を否定し、現実的な方向に舵を斬ったのが新政権です。

エネルギー問題で、エネルギー新政策を作ったのが29歳の環境大臣ロミナ・ポールモタクリです。
中道右派である自由党出身です。

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スウェーデンの史上最年少閣僚の右派政治家、気候環境相ロミナ・ポルモクタリ氏、同国の「2045年ネットゼロ」目標を堅持。達成できない場合は大臣を辞すると宣言(RIEF) | 一般社団法人環境金融研究機構

「新エネルギー政策
 スウェーデンは2045年までに温室効果ガスネットゼロを目指していますが、ロミナ氏はこれを実現するために今後20年で新しい原発10基を建設する計画としています。2030年までにガソリン車の販売を禁止するなど、前政権時代に立てた目標は左派政党を満足させるためだけのものだとして、この計画を撤回しています」
ロミナ・ポールモクタリ氏 | GOTS認証のアパレルOEM製造ならPEACE SKETCH|株式会社ビルドアンプグループ

具体的には動画が上がっています。
【金曜のモハP】スウェーデン環境大臣ロミナ動向!中国通販に激怒!洋上風力発電は却下!

①従来の左派政党による利権まみれの環境予算を60%カットする。
②近い将来、気候環境省を解体し、ビジネス省の一部とする。
③原発廃止を見直す。
④原発促進の投資を実行する。
⑤今後20年で10基の新設原発建設する。
⑥左派政権が提言した2030年までにガソリン車、ディーゼル車禁止は自己満足なので撤回する。
⑦ウラン鉱の確保。
⑧2040年までに原発利用で100%非化石化燃料での発電を目指す。
⑨洋上風力発電が対ロシアミサイル‣レーダー監視の障害になるためにバルト海での13基の新規設置を却下する。

その他消費減税や中国製品に対する輸入制限なども語っています。
満点です。
同じことでもトランプがアク強く言うんじゃなくて、北欧美女が理知的に言うのとは受けたかんじがまるで違いますね。(結局、そこかい)

2025年2月13日 (木)

USAIDで騒ぎなさんな

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USAIDが炎上しています。
一呼吸置いて、深呼吸でもしてくださいな。
SNSを見ていると、まるでUSAIDは謀略機関で、果てはDS(影の政府)の鬼の 首を獲ったみたいなことを言うものまでいます。
ま、DSなんて論証不能なものを言い出した段階で眉唾ですが。

ところでUSAIDと関わった数少ない日本の政治家である国民民主の玉木氏はこんなXをしています。

「私はUSAIDと実際に仕事をしたことのある数少ない国会議員の一人だと思っていますが、それゆえ、USAIDとの関係について、謂れのない誹謗中傷を受けて当惑しています。やめていただきたいと思いますし、批判している皆さんも、正直、一呼吸置いた方がいいと思います。
そもそも、USAID(ユーエスエイアイディー)は米国の海外援助政策の執行機関で、あえて日本で例えると、JICA(国際協力機構)とJBIC(国際協力銀行)を足したような組織のイメージでしょうか。トランプ政権ではUSAIDを廃止して国務省に統合しようとしているようですが、JICAとJBICを廃止して外務省の国際協力局に統合するようなものです。仕事が全てなくなるわけではありません。
米国の行政組織の見直しに日本が口を出すべきではありませんし、無駄な予算があるなら止めればいいと思います。ただ、私自身の名誉のためにも言わせていただきますが、少なくとも私がUSAIDと一緒に取り組んだヨルダンの灌漑事業は、大変有意義な事業でした。イスラエルと平和条約を結んだアラブの国であるヨルダンへの支援の政治的・経済的な意義は大きく、小渕政権時代に日米で力を合わせて取り組みました。
事実が確認できない言説がまかり通りやすいネタではありますが、冷静に事実を調べて発信されることをお勧めします。
また、与野党の議員でワシントンDCにあるUSAIDの本部を訪ねた際には、海外援助におけるNGO等民間セクターとの協働のあり方についてディスカッションさせてもらいましたが、とても参考になるもので、現在、日本の外務省もこうした対外援助における官民連携のアプローチを取り入れています」
Xユーザーの玉木雄一郎(国民民主党)さん

「JICA(国際協力機構)とJBIC(国際協力銀行)を足したような組織」ですか、さもありなん。
このどこがDSの陰謀組織でしょうかね。
トランプがやりたかったのは、海外支援の再編です。
トランプが政権当初に出した大統領命令のひとつに「米国の対外援助再評価と再編成」に関する指示があります。

この大統領令にはこうあります。

「米国の対外援助業界と官僚機構は、米国の利益に沿うものではなく、多くの場合、米国の価値観とは正反対である」

SNSで大騒ぎしている人らはこのかんじんな部分を読んでいないのです。
これは今までのオバマからバイデン、ハリスへと流れるリベラル思想の普及こそが世界平和への唯一の道である、という民主党イデオロギーにとりつかれていましたが、その価値観に対する真正面からの挑戦です。
トランプはBLMやLGBTQを擁護し、資金提供して肥大化させてきたから歴代政権を批判しているのです。
USAID は国内の左派勢力に支援にとどまらず、世界のメディアや政党にまで資金援助して影響力行使していることが明らかになっています。
リベラルメディアの総本山であるBBCの寄付金において、USAIDは大きな割合を占めていることが明らかになりました。

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BBC

たぶんこの調子なら日本のメディアにも潜り込んでいることでしょうし、一部は公金チューチュー団体に渡ったかもしれません。
あえて言いますが、だからなんなの。こんなていどの影響力行使は、米国はいままで民主、共和を問わずあたりまえにやってきたことじゃないですか。
今回は民主党路線に振れすぎた振り子を、ドランプが反対方向に修正したということにすぎません。

USAIDの方針が左傾化しすぎている、対外援助は国益と合致していないという声は前々から共和党内にはありましたが、いままではゴマメの歯ぎしりだったのをトランプが現実化したのです。
大統領令を受けたマスクが米国の対外援助を90日間停止し、事業の効率性と外交政策を見直すことにしました。

一方メディアは、USAIDの対外援助プログラムの見直しについて、これで海外援助は全滅だと叫んでいましたが間違いです。
巷間いわれるように全部を潰したわけではありません。

トランプがルビオ国務長官に委任し、彼が指名する人物が行政管理予算局(OMB)と協議しながら、対外援助プログラムを見直すことにしただけで取捨選択の基準はこのようになっています。

「これは、およそ600億ドルの対外援助予算のうち、どのプログラムが米国の支援に対するトランプ政権の凍結措置の対象外となるのかについて、支援団体に送られたメモのなかでのべられている。
メモのなかで、ルビオは人道的支援を「救命に必要な医薬品、医療サービス、食料、避難所、生活支援、およびそのような支援に必要な物資や妥当な管理費」と定義し、プログラムが「中絶、家族計画会議…ジェンダー」や多様性プログラム、「トランスジェンダー手術、または救命以外の支援」に関わる場合は、そのプログラムは免除されないとした。さらに、同報道では、「当初は、国務省がイスラエルとエジプトに提供する軍事支援のみが免除の対象となっていた」とされている」
トランプが暴露した「リベラルデモクラシー」という名のウクライナ支援の無駄使い(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

とりあえずルビオはいったん、1月24日に既存のほとんどの海外援助助成金について90日間支出を業務停止するよう命じ、その後人道支援については認めるとしました。
ただし「人道支援」がトランスジェンダーやDEI (多様性プログラム)に関わっていた場合、これを認めないとしています。
なおこの「業務停止命令」に例外措置があって、エジプトとイスラエルへの軍事支援、ガザへの緊急食糧援助は別枠です。
このあたりマスクと違ってマルコは中庸な保守リアリストであることが好感できます。

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イーロン・マスクの「DOGE」が米政府の内部情報を掌握する未来 | WIRED.jp

一方、前後して動き出したのが、トランプ革命のロベスピエールであるイーロン・マスクです。
マスクは、新たに出来たばかりの「政府効率化省(DOGE)」の長官として、トランプに輪をかけたような強引さで、斬りまくっていますが、その標的とされたのがこのUSAIDでした。
DOGEのやり方はまるでアンタッチャブルで、1月27日にUSAIDの本部と関連施設に立ち入り、財務や人事の機密情報の開示を迫りました。
拒否するとその幹部は休職処分を受けてビルの外に締め出されたというのですから、そうとうなものです。

「DOGEのメンバーは、機密情報へのアクセス権限の大前提となる「セキュリティ・クリアランス(適格性評価)」を受けていません。そんなDOGE メンバーが高度な機密情報に接することができていることに多くの米国民が衝撃を受けています。
「これはクーデターそのものだ」という声すら上がっています。
合衆国憲法は重要な権限を持つ閣僚などの公務員は「上院の助言と承認を得て、大統領が任命する」と規定しています。マスク氏はじめDOGE のメンバーは議会の承認を得て改革を進めているわけではありません。前代未聞の急進的かつ大規模な政府組織の変革に対し、違法性を指摘する批判が拡大することが予想されます」
トランプが暴露した「リベラルデモクラシー」という名のウクライナ支援の無駄使い(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

うーん、はなはだ危険な動きです。
こういう急進主義こそ、トランプが言っていた良きアメリカの伝統を破壊するものではないのですか。
トランプ政権が、マルコ・ルビオのような方向に行くのか、イーロンマスクのような方向に過激化するのか、いまが別れ道な気がします。

それはともあれ、いまトランプ政権は、連邦政府調達にかかわるすべての企業団体に対して、DEI や脱炭素運動に関わらないように求めています。
製造業だけではなくこれは金融機関にも及んでおり、FRBに関わる米国のメガバンクや証券会社などにも影響を及ぼしています。
このためDEIやグリーン関連の投資や債権を組めなくなっているそうです。
おそらくこれは米国市場に関わっている外国企業にも適用されるはずなので、バイデン・岸田時代にわが世の春を迎えたリベラルは急激に資金難に陥るはずです。
資金源を断たれてしまってはどうしようもありません。リベラル冬の時代の到来です。

 

 

2025年2月12日 (水)

出ガザ、一時的か恒久的か

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トランプのガザ「領有」案について、政権内部から違うニュアンスがでてきています。
このトランプの出ガザ案の不明な点はいくつかありますが、その最大のものはパレスチナ人の「避難」が一時的なものか恒久的なものかという点です。
この一時的か恒久的かについて、ふたつのトーンが明らかに存在します。
ひとつはトランプの他国へ「恒久的に再定住させる」という方針です。

「水曜日、アメリカの高官たちは、前日のドナルド・トランプ大統領の呼びかけ、全てのパレスチナ人をガザ地区の外に「永久に」移住させるという呼びかけから離れようと試み、ホワイトハウスとマルコ・ルビオ国務長官は、ワシントンの目標は彼らを「一時的に」排除することだけだと強調した。
火曜日、ホワイトハウスでベンヤミン・ネタニヤフ首相を迎えたトランプは、「人々を恒久的に再定住させる美しい地域を手に入れる」ことを目指しており、彼の希望は「彼らが戻りたくない」ことだと述べた。何人のガザ住民を移住させるつもりなのかと尋ねると、彼は「全員だ」と答えた」
(タイムス・オブ・イスラエル2月5日)
騒動のさなか、米国政府高官は、トランプ大統領はガザの人々を「一時的に」排除しようとしているだけだと発言 |イスラエルのタイムズ

しかしこれに対して、マルコ・ルビオ国務長官は「一時的なだけだ」と言っています。
ホワイトハウスのリービット報道官は、こう言っています。

「ホワイトハウスがトランプの「恒久的」な移転から「一時的な」移転へと移行しているかどうかを明確にするよう求められたリービットは、「大統領は、この取り組みの再建のために、彼らを一時的にガザから移転させる必要があると明確にしている。なぜなら、ガザは今のところ解体現場であり、人間にとって住みやすい場所ではないからだ」と答えた」
(タイムス・オブ・イスラエル前掲)

つまり、いまや瓦礫の山と化しており、双方の不発弾がいたるところに埋まっている危険なガザから、いったん人を出して安全にしてから帰還してもらう、といういう考え方です。
これはヨーロッパ諸国や国連の反発もさることながら(トランプにとって痛くもかゆくもないでしょうが)、今、開始されたばかりの停戦・人質解放協定が出だしからクラッシュするかもしれないと見たからです。
ハマス自治政府の反発は折り込み済みでしょうが、仲介者のエジプトとカタールからまで拒否されてしまっては、停戦協定はポシャります。

実は今、イスラエル軍は協定に基づいて撤退を開始しています。
重要な第一歩は、イスラエル軍のネツァリム回廊からの撤退です。
それに伴ってイスラエル軍によって支配されていた北部占領地区に戻るパレスチナ人が検問所に押しかけました。

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「イスラエル軍は、ハマスのテロ組織との停戦人質取引に従って、土曜日から日曜日にかけて、ガザ地区中央部のネツァリム回廊全体から撤退したと、飛び地の情報筋は確認した。
ガザ市の南でガザ地区を二分する枢軸国から軍が撤退した後、パレスチナ人は、飛び地への地上侵攻の初期からイスラエル国防軍によって支配されていた地域に戻るのが見られた。
合意の概要によれば、停戦の21日目に、イスラエルは全回廊から撤退し、ガザのイスラエルとの国境沿いの約1キロまでの緩衝地帯に駐留することだけを要求された。 」
(タイムス・オブ・イスラエル2月9日)
パレスチナ人がネツァリム東部に戻る、イスラエル国防軍がガザ中央回廊全体から撤退 |イスラエルのタイムズ

このネツァリム回廊とは、2本あるガザの横断道路のうちのひとつです。

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この道路を作ったのはイスラエル人ですが、2005年にイスラエル軍が撤退すると、2007年にはハマスが支配するようになっていました。
そして2023年10月の大規模テロによりガザ戦争が始まると、イスラエル軍はハマスの南北の移動を阻止するために素早くネツァリム回廊を占拠しました。
それが今回の停戦が発効となり、イスラエル軍は協定に基づいて1週間後の1月27日、まずネツァリム回廊の西半分から撤退し、海岸沿いにガザ避難民50万人以上が北部へ戻っていったというわけです。

もう一本の横断道路のフィラデルフィア回廊からのイスラエル軍の撤退は、停戦発効50日後の協定第2段階ということになっています。
ただし、ネツァリム回廊近辺には掃討が終了していないエリアもあり、そこにハマスの残党がいると見られています。

と、このような状況で、ネタニヤフは訪米しトランプと会談をもって、たぶん煮詰まらないうちに共同記者会見をするはめになったのだと思われます。
ネタニヤフは、トランプとの共同記者会見でこれを聞いた時には、クチバシこそ込まなかったものの、有難迷惑というような微妙な顔をしました。
中東諸国の日和見ぶりを熟知しているネタニヤフにとって、ガザ住民を引き取るような殊勝な国などひとつもないことを知っているからです。
また「米国が所有」するという言い方にも引っかかったことでしょう。
トランプはこの部分について主権まで割譲させるのか、施政権は米国が有するのか、そうなった場合米軍は駐留するのかというかんじんな部分についてまともに答えていないからです。

ネタニヤフは米軍の駐留について「冗談じゃない。我々は任務を遂行している。重労働を担っている。米軍は必要ない」と一蹴し、「イスラエル軍が重要な仕事をしている」としました。
ガザが潜在的にイスラエル領だと考えている右派は、ガザから住民が出て行けばそれはハマスも出ることになり、テロリストを完全に駆逐するよいチャンスだとする声もあるようです。

とまれハマスはイスラエルが交渉団を派遣しないことを理由に、合意に違反しているとして2月15日に予定していた6回目人質解放を「次に通知するまで延期する」と発表しました。
また、停戦とともに搬入すると約束していた人道支援物資の搬入をイスラエルが妨害しているとも言っています。(イスラエルは否定)
ネタニヤフ首相は、第一段階をできるだけ引き伸ばして、人質を全員取り戻したところで、ハマスへの攻撃を再開したいのが本音ですし、取り返された人質の様子はトランプがホロコーストの生存者のようだと漏らしたように悲惨な状態でした。

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XユーザーのVivid.🇮🇱さん

たぶんトランプは人質奪還に時間がないことを知ったはずです。
10月7日のハマスのテロ攻撃で拉致された人質は251人。3分の1の73人の人質がまだ残っています。
米国人人質も2人含まれ、すでに死亡しているとみられる米国人人質4人の遺体もガザに残っています。
こういう状況で米国を守ると宣言したトランプが、直接奪還に動く可能性もなしとはいえません。

 

 

2025年2月11日 (火)

ビジネス・プレゼンのような首脳会談

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ゲル氏の訪米について続けます。
共同声明はこんなところです。

「黄金時代」というキラキラワードは大藤領就任式演説冒頭の一句を頂戴したのでしょうが、内容的には凡庸にして新味ゼロです。

整理すれば
①対中シフトのために南西諸島の防衛力強化。
②在日米軍と自衛隊の指揮・統制の一体化。
③防衛装備品の共同生産や維持整備に関し、日米の防衛産業の連携。

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安倍氏に及ばずも…石破首相、トランプ氏と相性の良さ見せる 掛け合いで会見場で笑い誘う - イザ!

当然のことながらゲル氏提唱の「アジア版NATO」構想などという空疎なものは影も形もなく(あたりまえだ)、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて共に協力していきたいに止まりました。
ただし、北朝鮮の非核化と台湾海峡の安定は会談ではあったようです。

米国は世界の盟主でありながら、同盟関係の国は日英しかなく、英国が労働党政権になってしまっために、これ以上の孤立は避けたいのが本音です。
トランプとしても、いいときに来たね、というわけで、ここで日本は忠実な同盟国であるぞという宣言をしたかったのでしょう。

実は米国に行く前から、外務省と国務省の担当官同士の細かい打ち合わせがあって出来ているのです。
これだけ大きな会談では、共同声明の概要から字句の調整まで徹底的に洗われていまから、意外性はありません。
決まっておらず直接の交渉となったのは、おそらくUSスチール問題くらいではなかったのかと思います。
だからツルッと行くかと思うとそうではないのです。
なんせ相手が最終的にはトランプ御大だからです。

トランプとの首脳会談はプレゼンのような部分がありました。
ともかくトランプは忙しいのです。
あれだけ強引なリベラル狩りをしながら、カナダやメキシコとは貿易戦争を開始しようとし、ネタニヤフを呼んではガザの相談し、ゼレンスキーとはウクライナ戦争の落とし所を探り、その他もろもろと普通の首脳の100倍くらいは忙しい。

そしてなにより野心的な首脳がそうであるように、自分が決めねば納得しないタイプなのです。
確かにマルコ・ルビオが国務長官をしていますが、なぜ彼にしたのか。
理念が近いのは当然として、前政権時のバランスがとれた国務長官のマイク・ポンペオや、頑固一徹の安全保障補佐官のジョン・ボルトンでは、自分が決められないからイヤなのです。

たとえばトランプは北朝鮮の正恩との直接交渉で、危うく核兵器の完全な放棄を担保できないまま妥結しようとしました。
止めたのはボルトンです。
また在韓米軍の撤退をすると何度か口にしてポンペオなどから、今はその時ではないと制止されたことか。
ですから、今のマルコがトランプの止め男になれるかどうかといえば、そうとうに不安です。
トランプその人に納得してもらわねば、なにも始まりません。

周囲に止められた場合、トランプは自分の息のかかった人物に特使の形で割り込むことをするでしょう。
実際にガザ問題では、ユダヤ系の富豪ステーブン・ウィトコフを特使に任命して送り込んでいます。
この人物はユダヤ系以外になんの実績もなかった民間人です。
トランプは直接対応したい場合、こういうことをする人なのです。

だからマルコがいくらバランスの取れた外交政策を持っていたとしても気休めにしかなりません。

「ルビオは中国のことを、「米国がこれまで対峙した中で最も強力でほとんど同レベルの力を持つ敵」と呼び、「21世紀を定義付ける脅威」と呼んでいる。
台湾については、「中国から台湾を防衛することは、米国にとって「必須(Critical)」」とし、「米国は、台湾を抑圧し、脅迫し、中国が望むように行動することを強要するためのあらゆる努力を拒否する」。そして、「中国は台湾にちょっかいを出すことを止める必要がある」としている。
同時に、「米国は1979年から一貫している『一つの中国政策』を継続する」とも発言している。これらの発言は、冒頭発言の中ではなく、その後の上院議員とのやり取りで出てきたものであり、ルビオの対台湾政策に対する関心の深さと準備の周到さが見て取れる」
「日米同盟だから」はもはや米国には通用せず!トランプと微妙に異なるルビオ国務長官候補の考えとは?  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) 

ですから、岩屋外相が訪米してこういう言質をとっても眉に唾をつけておいたほうが無難です。

「訪米中の日本の岩屋毅外相は1月21日、ルビオ氏と首都ワシントンで日米外相会談を行った。両外相は、今後も日米同盟を新たな高みに引き上げるとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日米で協力していくことで一致した。経済分野についても意見交換を行い、日本企業による対米投資や経済安全保障を含む日米経済関係の重要性を確認した」
ルビオ米国務長官就任、米国第一主義の外交政策追求、日米外相会談も実施(日本、米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

ありていに言って、トランプの頭には「日本」の二字はなかったはずです。
今の日本はいちおう世界第4位ですから、経済的脅威とはみなされていないラッキーな位置にいます。

中国がいまのようなモンスターではなく、わが国が世界第2位だった70年代から80年代にかけていじめまくられました。

今はいい位置にいて、脅威とは目されずに、日米間は凪。USスチール問題以外に懸案がありませんからね。
では、懸案がなければいいのかというとそうではありません。
いままでの民主党系大統領なら自動操縦に任せておけばよかったので、就任初の首脳会談もただの表敬訪問でした。

しかしトランプは違います。
岡崎研究所はこのように述べています。

「さらなる問題は、トランプ政権の選択的関与の姿勢である。ルビオは公聴会の冒頭発言の中で、「トランプ大統領の下で国務省の最大の優先事項は、常に『米国』だ」と明言している。これはある意味当然だが、それ以上に、全ての計画や政策に使う資金は、米国を安全にするか、強くするか、裕福にするかの3点で評価される」としている。
この意味することは、「同盟だから」といって特別な下駄をはかせることは無い、ということだ。元々は、同盟関係に入ること自体それが米国のためになるとの判断があってこそのはずなので、これらの3つの要素に資するはずである。
日本のような同盟国にとって重要なのは、同盟関係を当然視せず、同盟の維持・強化が米国のためになることを常に説明していくことだろう」
「日米同盟だから」はもはや米国には通用せず!トランプと微妙に異なるルビオ国務長官候補の考えとは?  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) 

だからこそ、ゲル氏は徹底的にいかにUSスチール案件が、「米国を安全にするか、強くするか、裕福にするかの3点」であることを懇切にプレゼンしたのです。
ここさえ落とし込めば、あとの日米同盟や対中政策などは自ずと答えは決まっています。

 

2025年2月10日 (月)

日米首脳会談とUSスチール問題

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まぁ、ようござんした。
ゲルさんとてつもないバカやるんじゃないかと心配していましたが、まずまずの成功です。
共同記者会見でトランプが握手する前に帰ったからどーの、ゲルが肘をついて握手したとか、大嫌いなシンゾーの名を5回も言われたとかは、まぁご愛嬌でしょう。
いい仕事をした時には、それなりに評価しないといっそう目つきが悪くなりますからね。
ご承知のように、私は彼をまったく評価していないのですが、客観的に見なければと自分に言い聞かせています。

さて、今回の訪米はふたつのことを相互に確認することにありました。
ひとつは、いうまでもなく日米軍事同盟の確認。
二つ目は、米国経済の覇権を再構築に協力する日本経済の確認。
つまり日本は米国による世界秩序構築の支柱であることを、トランプにしっかり落とし込み、日米間のUSスチール問題のトゲを抜くことが、訪米の任務でした。
その意味では見事に目標達成です。

安倍氏の敷いた路線の上を走っただけだろうって。それは言わない約束でしょうが。
岸田氏もそうですが、だれが首相になろうとそれしか選択肢がないんですから仕方がない。
岸田氏のように露骨にバイデンのリベラル路線にすり寄る醜悪さはありませんでした。

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トランプ氏、初対面の石破首相は「偉大な首相になるだろう」 石破氏「実際に会うと誠実」 - 産経ニュース

トランプは今日はとことんゲル氏を持ち上げる気だったらしく、こんなことを言っています。

Well, I think that he is going to be a great prime minister. I think he's a very strong man, very, very strong. I have great respect for him. I've known him for a long time through a reputation. Shinzo Abe thought the world of him.
そうですね、彼は素晴らしい首相になると思います。彼はとても強い男だと思う、とても、とても強い。私は彼をとても尊敬しています。彼とは評判を通じて長い間知っています。シンゾー・アベは彼を高く評価していた。

わけないしょ。シンゾー氏はくさしはしなかったにせよ、ゲル氏を「高く評価する」はずがない。
これはシンゾー、シンゾーと連呼することで、彼の路線をはずれるんじゃねぇぞというシグナルです。
分かっているのか、ゲル氏もふてくされたような顔をしていました。(いや、あれはたんなる地の顔か)
まぁ、この記者会見の時点では一番の難所は乗り切っていました。例のUSスチール問題です。

日米間の喉に引っかかったトゲになりつつあるUSスチールの買収問題が、これ以上こじれずに軟着陸させることが緊急に必要でした。
これについて、ゲル氏のオファーはなかなかよい。
「買収ではなく投資」という言葉で、話を砕いてトランプに呑み込ませたのです。
こういうやり方はシンゾーがよくしたもので、対峙するのではなく問題の角がどこにあるのかを探り当てて、ブレークダウン(砕く)する手法です。

「石破茂首相は9日、 NHKの「日曜討論」に出演し、日本製鉄によるUSスチール買収計画について、「単なる買収ではない。そこにおいて投資を行い、あくまで米国の会社であり続ける」と述べた。
石破首相は、トランプ米大統領との7日(現地時間)の首脳会談を振り返って発言した。日鉄による投資額の積み増しに関しては「具体的な数字は民間の話なので申し上げることはできない」とした。
 トランプ大統領は会談後の記者会見で、日鉄は「USスチールを所有するのでなく、同社に大規模な投資を行うことで合意した」と述べていた。
 石破首相はまた、日本が対米投資額を1兆ドル(約150兆円)に引き上げる意向を表明したことに関し、具体的な投資分野として自動車や人工知能(AI)、エネルギー、鉄鋼を挙げた。米国からの液化天然ガス(LNG)の輸入拡大は、米国にとっての貿易赤字削減につながるほか、安全保障の観点から「日本の国益にかなう」と述べた」
(ブルームバーク2025年2月9日 )
石破首相「USスチールは米の会社であり続ける」、首脳会談受け - Bloomberg

カマラも大統領選で駆けつけたし、トランプも「ならんならん、ゼッタイにならん」と組合員の前で演説した製鉄所です。
いっちゃナンですが、単純なことです。
社名にUSとついていたからです。恐れ多くも「US」様を冠しておられるのだぞよ。
方や買収するこっち側も「日本」製鉄ですがね。
これではいまさら70年代から80年代に戻ってもう一回日米貿易摩擦をやるのか、ということになります。

USスチールは、米国人の忘れられないプライドなんですよ。
世界の鉄鋼業のリーディングカンパニーとして君臨したピッツバークの老Tレックスみたいなもんです。
今は甘やかされたために企業体力を失い、なんと生産量では落ちも落ちたり世界27位。
オレ様は大リーガーだと思っていたら、田舎の貧乏球団だったという悲喜劇です。
現実を直視したくないからプライドにすがるんです。

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USスチール買収はナゼもめるのか 日本人が無自覚なワシントンの視線 | 三井住友DSアセットマネジメント

現実はどうかといえば、ご覧のように2位のアルセロール・ミタル(オランダ・ルクセンブルク)を除いて、1位から6位までは全部中国の製鉄企業が独占しています。
10位以内にいるのは韓国のポスコと日本製鉄くらいなもの。

ちなみにこの2位のアルセロール・ミタルの北米事業は不振で、2020年にクリーブランド・クリフスに売却しました。
このクリーブランド・クリフスの名に覚えがありませんか、そうあの暴言王ゴンカルベスCEOの製鉄所です。
この男はこんな差別的なことを言って、この買収劇をまるで日本の経済侵略のように煽りました。


クリーブランド・クリフスはUSスチールをも安く買い叩こうと、日本製鉄よりはるかに安い買収額を提示していました。
そこでゴンカルベスは、バイデンとハリスに訴え出て、政府に拒否を出させて日米貿易摩擦を再来させようとしたのです。悪い奴です。

対してゲル氏はこう考えたのだそうです。

「首相はインタビューで、製造業復活を掲げるトランプ氏にとり「象徴が鉄だ」と指摘。会談で、USスチールが米企業であり続けることと日本の投資によって鉄の品質が向上する利点を説明したと明らかにし、「精神的な意味、実利の面の二重に大事なことがトランプ氏の心に響いたのではないか」と分析した。事態が解決に向かうかを問われると「そう思う」と語った」
(読売2月9日)
石破首相「二重に大事なことがトランプ氏の心に響いたのではないか」…USスチール「投資」提示で(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

 正解です。劣位の交渉者は相手のプライドをくすぐりながら実利を落すしかないのです。
たぶん安倍氏ならもっと対等の関係で交渉できたでしょうが、ゲル氏としては上出来。
正直、ゲル氏にこういう外交的駆け引きができるとは思わなんだ。

では、なぜこんなにも中国製鉄業が強力なのでしょうか。
理由は簡単、中国政府がゲタを履かせているからです。
中国の鉄鋼企業は全部国営で、中国政府がジャブジャブと産業補助金を注ぎ込んできたからです。

そして進出した海外企業に焚いては強制的に技術を吸い取ることをしてきました。
そして見境のないダンピング攻勢の三拍子です。
このことは中国のダンピングと戦った米国商務省はよく分かっていたはずです。

「中国側が「国家主権に抵触する」と抵抗したのは、どの条件だったのか。正式な情報の公開はないが、アメリカと中国の双方がリークした情報では、(1)不適切な産業補助金、(2)国有企業、(3)技術の強制移転であったらしいことが伺える。さらに、公表された第一段階の合意文書では、(3)技術の強制移転への対応が発表された」
RIETI - 中国鉄鋼国有企業の競争中立性:補助金の影響についての因果推定

いま米国は景気絶好調なので、鉄鋼需要はふんだんにあります。
そもそも米国の世界覇権を支える軍事品なんかすべて鉄の固まりです。
いくらでも鉄が欲しい、需要はふんだんにあるのです。

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 三井住友DSアセットマネジメント

この供給不足につけ込んでダンピングした低価格で、米国鉄鋼市場を一気に制圧したのが中国でした。

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〈なぜ、日本製鉄はUSスチールを買収するのか〉米国鉄鋼市場だけではないエネルギー価格という側面  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)

米国は自国内シェアで3位と4位のあいだをウロウロしているような状況です。
長年の政府の甘やかしで技術革新が遅れ、高炉も8基あるうちの2基が休止中、電炉も5基なければならないのに2基が建設中。
これも資金不足が原因です。
ここに技術と資金を提供しようと言うのですから、このどこがイヤなのと逆に聞きたくなります。
日本にとっても米国内での生産ということで一気にシェアを伸ばせてちゅうごくに勝てます。
まさにウィンウィンを絵に描いたような案件です。

「もし、こうしたUSスチールの設備に日本製鉄の技術を導入すれば、その生産性、生産量はともに伸びる可能性が高く、今回の買収提案は魅力的な成長戦略と言ってよさそうです。また、USスチールは環境技術に優れた最先端の電炉メーカーを子会社に抱える上に、両社統合後の粗鋼生産高は世界3位の規模まで拡大する点も、買収のメリットとすることができそうです」
USスチール買収はナゼもめるのか 日本人が無自覚なワシントンの視線 | 三井住友DSアセットマネジメント

だから、角をとって飲み易くすりゃいいのです。
買収がいやなの、なら投資と言おうかね、投資といえばトランプさんの貿易赤字が減るでしょう。
貿易赤字ってその国の食欲みたいなもんで、自国生産だけで足りないからよそから買っているわけで、むしろ景気がよくて喜ぶべき現象なんですが、言葉が「赤字」だからイヤなのね。こういう所になると、トランプは急に企業経営者の感覚に戻ってしまう。
まぁたんなる言い換えなのですが、これで納得してくれたんだからいいじゃないですか。
とまれ、ゲルちゃん大変よくできました。

 

2025年2月 9日 (日)

日曜写真館 うつむいて冬も過けり花椿

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さくや椿今年の霜はうけつけず 寥松

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あたゝかになるや椿のぽつたぽた 諷竹

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あるく日はひばり寐る日は庭椿 野坡

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咲そめて盛もなしに椿哉

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木の下やくらがり照す山椿 桃隣

2025年2月 8日 (土)

トランプが進めるレッドパージ

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ほんとうにここまでやるんだぁ、というかんじですが、トランプが公職追放を進めています。
かつての戦後日本でもGHQが公職追放を2回しています。

1946年昭和21年)1月4日附連合国最高司令官覚書「公務従事に適しない者の公職からの除去に関する件」により、以下の「公職に適せざる者」を追放することとなった。下記の7分類でありA項からG項まであった
戦争犯罪人 A項
海軍職業軍人 B項
超国家主義団体等の有力分子 C項
大政翼賛会等の政治団体の有力指導者 D項
海外の金融機関や開発組織の役員 E項
満州台湾朝鮮等の占領地の行政長官 F項
その他の軍国主義者・超国家主義者 G項
公職追放の対象は軍人や公職にあった者のみならず、政界、財界、マスコミ界、教育界、町内会、部落会にまで及ぶ日本史上空前の大粛清であったという。 追放政策を発令したのはGHQ民政局であったが、追放指令については日本国民に対し口外してはならぬという箝口令が敷かれ、日本側との折衝はケーディスらが行った 」
公職追放 - Wikipedia

そもそも軍事占領している国の政治体制を変革すること自体が国際法違反で、狡猾にもGHQは日本政府の自主的意志を偽装して弾圧政策を行いました。
この公職追放の該当者は直ちに罷免され、退職金その他の諸手当も停止され、該当者だけでなくその家族も困窮し、親族・関係者らも社会から抹殺同然にされてしまう規定があったため当時の日本社会全体を恐怖で支配するものだと伝えられています。
また有能な官僚層や政治家、言論人を大量に失ったために、社会全体が動かなくなるということが起きました。

そのなかで唯一我が世の春を謳歌していたのが、共産党と労働運動でした。
彼らは世界情勢も国共内戦が共産党軍が勝利を固め、朝鮮半島では来た朝鮮軍が国境を越えると、革命前夜だと判断し革命を視野に入れた2.1ストをするなどと過激化していきます。

これに恐怖したのが、この公職追放を命じたGHQでした。
彼らはこんどは正反対に走ります。これがレッドパージです。

「翌1951年5月1日マシュー・リッジウェイ司令官は、行き過ぎた占領政策の見直しの一環として、日本政府が「総司令部の指令施行のため出された現行の諸法令」を修正することを認めた。これにより公職追放の緩和・及び復帰に関する権限を得た日本政府は、総理大臣の権限において追放基準の緩和をおこない、6月に内閣直属の公職資格審査会を設置して追放非該当者を決定する作業を進めた結果、10月31日までに17万7261人の追放を解除。残る追放者は陸海軍将官や戦犯など17977人となった」
レッドパージ - Wikipedia

このような愚かな占領政策がいかに社会の末端まで回復不能の傷を負わせたのか、考えるだに腹わたが煮えます。
教訓があるとしたら、いかに絶対的権力を握ったとしても、社会を人工的に改造してはならない、ということです。
右左の別なくそれをするなら、必ず反動を呼びます。

18世紀、まるで熱に浮かされたように自国民を虐殺し、国土と文化を破壊し続ける革命フランスを、海峡の向こうで冷やかに見ていた英国人のエドモンド・バークは、『フランス革命の省察』でこう述べています。

「正しい目標をめざすかぎり、社会の変化は抜本的であればあるほど良い、と見なす考え方と規定しうる。ここからは当然、「正しい目標をめざすかぎり、社会の変化は急速であればあるほど良い」という結論も導かれよう。
かくして成立するのが、いわゆる急進主義の理念にほかならない。フランス革命が真に重要なのは、「自由・平等・博愛」を謳ったことや、人権宣言を採択したことにあるのではなく、急進主義に基づく史上初の大規模な革命だったことにあるのだ」

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アングル:トランプ政権の反DEI政策、米国の官民に広がる影響と動揺 | ロイター

この急進主義に対するバークの箴言に、かつてのGHQは、そして今のトランプは耳を傾けるべきでした。
そして今、米国で起きているのは、このレッドパージです。
政権党が代わるごとに、スイングドア(回転扉)といって前政権によって任命された官僚はワシントンから追い出されるのが通例でしたが、今回は史上最大規模の追放劇が起きています。

トランプのターゲットになったのはなんと米国情報機関の大本山であるCIAでした。

「米中央情報局(CIA)は4日、全職員に対して早期退職を勧奨する通知を出した。トランプ政権は1月下旬、連邦政府職員に在宅勤務禁止などの方針に従えない場合は退職を勧奨するとの通知を発出し、国家安全保障関連の職務は対象外としていた。ラトクリフ長官が組織改革を目的にCIAも対象とすることを決定した。
ウォールストリート・ジャーナル紙が報じた。CIA職員がどの程度応じるかは不明。人事管理局は1月28日、退職に応じた職員には9月末までの給与を支払うとし、2月6日までに返信するよう求めていた」
(産経2月5日)
米CIAが全職員に退職勧奨 ラトクリフ長官が決定、労組は差し止め求め提訴 - 産経ニュース

現職員に対して退職勧告を出すとは、いったん全員クビにして再審査の上で雇用を決めるということでしょうが、こんなことが果たして平時の民主主義国家で許されるのかははなはだ疑問で、とうぜん連邦政府の労組は提訴するとしています。
またFBIに対しても職員に関わった捜査についてのすべてを報告するように求められました。

「2021年の米連邦議会議事堂襲撃事件に関連した各種刑事事件を巡り、連邦捜査局(FBI)職員は2日、自身が関わった可能性のある捜査全てを対象とした詳細な質問リストに回答するよう命じられた。職員の間では新たな解雇の波が押し寄せるとの懸念が広がっている。(略)
これに先立つ1月31日に本部の上級職員8人とマイアミとワシントンの幹部を解雇したエミル・ボーブ司法副長官代理は、FBIに対し2月4日の東部標準時正午(1700GMT)までに襲撃事件捜査に関わった職員の全リストを提出するよう要求していた。ボーブ司法副長官代理は併せて、パレスチナ自治区ガザの武力衝突を巡るイスラム組織ハマス指導層の刑事事件捜査に関わった職員のリストも提出するようFBIに求めた」
(ロイター2月3日)
米政権、FBI職員に担当した捜査の報告要求 議会襲撃事件など(ロイター) - Yahoo!ニュース

立場の如何にかかわらず、議事堂占拠は犯罪です。
それを司法機関が捜査するのは当然すぎるほど当然で、刑事処罰するのもまた法の精神に照らしてまったく合法かつ正当です。
それをこのような復讐的行為をするとは呆れたものです。

また、米国国際開発局(USAID)に至っては、機関が丸ごとが廃止されました。

「ルビオ米国務長官は、米国際開発局(USAID)の業務見直しを完了した後、同局が国務省に吸収され、独立した機関としては廃止される可能性があると議会に伝えた。
ルビオ長官は上院と下院の外交委員会トップに宛てた書簡で、現行の対外援助プロセスは「米国民に実質的な恩恵をもたらしていない」と指摘。USAIDの一部の任務や局を再編成し国務省に統合する可能性があり、「残りは適用法に従って廃止され得る」と述べた。
さらに、USAIDの見直しと再編により、活動の中止や縮小、ポストや局の閉鎖、「これらの組織の職員数削減」、民間請負業者の活用拡大につながる可能性があると付け加えた」
(ブルームバーク2月4日)
米国際開発局は見直し後に廃止も、ルビオ国務長官が議会に通知 - Bloomberg 

全世界にいるUSAID職員8000人の程度を米国に呼び戻すということです。
これはUSAIDが民主党リベラルに支配されているからというのが理由です。
確かにUSAIDの海外プログラムは、民主党が主導するDEI(多様性、公平性、包摂性)に偏ったものが多かったのは事実です。
たとえば以下のようなものが上げられます。

・セルビアの職場におけるDEI推進に150万ドル
・アイルランドでのDEIミュージカル制作に7万ドル
・コロンビアでのトランスジェンダー・オペラに4万7千ドル
・ペルーでのトランスジェンダー向けコミックに3万2千ドル

これらのプロジェクトは、それを執行する民間NGOにとって利権化しており、公的資金をじぶんたちの団体に還流し私物化するいわゆる公金チューチューの巣窟でした。
これにメスをいれるのはけっこうですが、機関を丸ごと消滅させるとは。

いまや一事が万事。
民主党リベラルが築いてきた数十年規模での遺産を短期間に消滅させようという強烈なトランプの意志を感じます。
目的の正当性とその手段の正当性は別です。目的は手段を浄化しないのです。
いまトランプがしていることは、左翼急進派のメダルの裏返しにすぎず、このような手法には到底賛成できません。

 

2025年2月 7日 (金)

パナマ運河問題は「領土拡張意欲」などではありません

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このところトランプ外交に批判的なことばかり書いていますが、「空気投げ」という秘術もあったことを書きそびれていました。
「空気投げ」というのは、ほぼなにもしないうちに相手のほうから飛んでいってしまうという謎の術です。
それがパナマ運河問題です。

【米国のルビオ国務長官は2日、就任後初となる外遊先の中米パナマでホセ・ラウル・ムリノ大統領と会談し、パナマ運河から中国の影響力を排除するよう求めた。ムリノ氏は、パナマに運河の運営権があると反論した一方、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から離脱する方針を示した」
(読売2月3日)
アメリカ国務長官と会談したパナマ大統領「一帯一路」から離脱方針示す…運河は「我が国が運営」 : 読売新聞

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読売新聞

では、どうしてパナマに米国がこだわるのでしょうか。
読売の特派員が書いているような「領土拡張欲」でしょうか。

わきゃありません、トランプはが今シャカリキでやっているのは中南米から流入する膨大な不法移民なのに、中米を自国領にしてどうしますか。

最大の理由は、パナマ運河が事実上中国によって支配されているからです。
パナマ運河には太平洋側と大西洋側の出口にある二つの港湾があります。
それは太平洋側のバルボア港と大西洋側のクリストバル港で、これを運営しているのは香港系のハチソンですが、ここが大いに怪しい。

ハチソン(CK Hutchison Holdings Limited )は李嘉誠が握る財閥で、香港を拠点とし、ケイマン諸島に登記されている多国籍コングロマリットだとされています。
ハチソンは総売上高の8割以上を海外から得ており、エネルギーやインフラ、通信、港湾といった国の基幹産業を握っています。
CKハチソン・ホールディングス - Wikipedia 

日本では考えられませんが、発展途上国では往々にしてインフラを外国に委ねています。
いかにこれが恐ろしいことなのかわかっているのかな。

このハチソン財閥の李嘉誠は、かつては中国と民主派の二股をかけていましたが、いまは完全に中国の支配下になっています。

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Bloomberg

「香港一の富豪、李嘉誠氏は香港民主化運動の隠れ支持者であり、中国に対する裏切り者だとして「ゴキブリの王」と呼ばれる一方で、米国のトランプ政権とその同盟国は李氏を中国共産党に忠誠を誓う人物で、極めて重要なインフラ事業は任せられないと考えている。
中国と欧米の間に広がるあつれきの板挟みとなっている李氏にとって、双方共に満足させることはかつてないほど困難だ。91歳の李氏が築き上げた企業帝国は、多くの人々が「新冷戦」と呼ぶ今の状況に国際的な企業がどう対応すべきかを示す重要な指針となっている」
(ブルームバーク2020年7月7日)
米中ににらまれた香港一の富豪、「新冷戦」に企業はどう向き合う - Bloomberg

李の息子は人民政治協商会議のメンバーとなっていて、中国国内の港湾開発と運営を多数手がけています。
このような利権は、中国共産党に絶対服従を誓わない限り得られないものです。
つまり、ハチソンは中国政府の言いなりの政商です。
こんな影に中国政府がいる企業が、大西洋と太平洋を結ぶ要であるパナマ運河の肝を握っていたわけです。おーこわ。

これに対して反撃を開始したのがトランプでした。
トランプは就任演説でこう言っています。

【米国のトランプ大統領は20日の就任演説で、「米国は領土を拡大し、新たな地平に国旗を掲げていく」と述べ、領土拡張に意欲を示した。太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河の領有や、国内外の地名の一方的な改称を主張した。
トランプ氏は演説で、「中国がパナマ運河を運営している。それを取り戻す」と訴えた。1999年に米国がパナマに管理権を返還したことを「愚かな贈り物だった」と述べ、パナマ運河の通航料金が高すぎるとの不満を示した。これに対し、パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領は20日、X(旧ツイッター)での声明で、パナマ運河は「今もこれからもパナマのものだ」と反発した」
(読売1月21日)
トランプ大統領「領土を拡大」「パナマ運河を取り戻す」…管理権返還は「愚かな贈り物だった」 : 読売新聞

読売はトランプ憎しで、「領土拡張に意欲」などと薄っぺらいことを書いていますが、トランプが狙っているのはパナマ運河の運営権を中国から奪還すること、さらに中南米にはびこっている一帯一路と対峙することです。
中南米はかつては圧倒的な米国の経済圏でしたが、いまや見る影もなく、中国資本が跳梁跋扈し、一帯一路の要衝になっています。
去年もチリに中国を結ぶ新たなハブ港湾が完成しました。

「ペルーの首都リマ郊外で14日、中国国有の海運大手が過半を出資するチャンカイ港が開港する。アジアと南米を結ぶ貿易の大幅な効率化が期待され、南米の新たなハブ港となる。中国の広域経済圏構想「一帯一路」の南米での要になると見られており、中国の影響力が増すことを米国は警戒する。アジア太平洋の経済統合に向けた新しい『海上高速道路』を切り開くことになる」
(日経2024年11月12日)
中国、ペルーに「一帯一路」要港 中南米貿易を効率化 - 日本経済新聞

このような構図の中に置いてみると、パナマ運河の重さがわかるでしょう。
中南米の海運のハブ、大西洋と太平洋を結ぶ要として浮かび上がってきたのです。
中国はこのハブ港に中国に情報を筒抜けにするバックドアを仕掛けました。

それが中国の一帯一路政策のと共に肥大したLOGINK(国家物流平台 )という物流管理情報システムでした。

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 広東省は、物流業界ネットワークchain_Modernバルク商品供給の新しいモデルを探求-Modern LogisticsNews公式サイト

「中国が世界の物流に関するデータを把握する能力を急速に拡大させている、と米ウォールストリート・ジャーナル紙が警戒的に報じている。それを通じて中国が、経済活動のみならず安全保障上の優位を高めることにもつながりかねないためだ。
中国は、2007年に開発された「LOGINK」と呼ばれる物流情報システムを軸にデジタルネットワークを拡張している。LOGINKは世界の荷主を結ぶデジタルネットワークであり、「ワンストップの物流情報サービスプラットフォーム」とも呼ばれている。
そこでは、公的データベースのほかに、実に45万以上に上る中国国内および世界各地の巨大港湾のユーザーから入力された情報も併せて利用されている。
中国政府はこれを通じて、世界の商取引に関する他国には分からない情報を得ることができるのである」
一帯一路構想のもと世界の物流データの支配を強める中国とデータを巡る米中覇権争い | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

また中国が投資した港湾で使われるZPMC(上海振华重工(集团)股份有限公司) 製の大型クレーンにもバックドアがついていました。
ZPMCは世界の港湾クレーンの7割のシェアを持ち、米国でも8割を寡占している企業ですが、このクレーンを使うと自動的に中国に情報が発信されることが判明して、米国で大きな問題となっています。

「米国の海事産業は中国で製造・加工・組立された機器や技術に危険なほど依存していると総括した。特に、港湾クレーンに関してはZPMCが世界市場の7割、米国市場の8割を生産していると問題視した。この寡占状態は、中国政府が世界の海事産業で支配的な地位を占めるべく、ZPMCに対して国営銀行などを通じて融資や補助金などの優遇措置を戦略的に提供し、それをもとにZPMCが市場相場から離れた価格設定を行ってきた結果だとした。また、米国国内で代替製造能力が欠如していることも問題視した」
米共和党議員、港湾クレーンの中国依存を問題視、代替調達や国内製造の強化も提言(中国、日本、米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

つまり中国の一帯一路とは、港湾、空港、道路、鉄道などのインフラを中国が押さえることで、世界の物流の要衝を支配し、物流と情報を支配することです。
そして自らの中国経済圏に組み込み、敵対する国家の海運情報を盗むのです。
そして一度戦争が始まればこの情報は大いに役に立つことでしょう。
パナマ運河の場合、今後予想される米中対決に際して、運輸情報を抜き取られるのもさることながら、運河自体が閉鎖され、大西洋と太平洋の連結を断ち切られます。
民間船舶のみならず、大西洋の軍艦は太平洋に行くことが不可能になります。

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BBCニュース

マルコ・ルビオは初仕事してパナマを訪問し、パナマ大統領は会見後、中国の一帯一路からの脱退を表明しました。
また、現在のところ、2026年の更新をしないとしているが、場合によっては早期の脱退もあるとしています。

「マルコ・ルビオ米国務長官は2日、中米パナマの首都パナマ市で同国のホセ・ラウル・ムリノ大統領と会談し、同国が管理権を持つパナマ運河について、中国の「影響と支配」を「即時に変更」するよう求めた。
ルビオ国務長官は、パナマが行動しなければ、両国間の条約に基づく権利を保護するために必要な措置を講じると警告した。
ムリノ大統領は記者団に対し、アメリカ軍が運河を奪取するという深刻な脅威はないとみていると語った。その上で、中国の影響に関するトランプ氏の懸念に対処するため、技術レベルの話し合いを提案したと述べた」
(BBC2月3日)
ルビオ米国務長官、パナマ運河の「中国の影響」を減らすよう要求 パナマ訪問で - BBCニュース

米国は武力までちらつかせてパナマを脅迫したわけですが、結局パナマも空気投げされてしまったようです。

 

 

2025年2月 6日 (木)

トランプ、ガザを米国領にするって?

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こういうのを右派急進主義とでもいうのですかね。
トランプは一斉にあらゆる分野で、しかも急激かつ過激に「革命」を始めました。
しっかりしたものもある反面、おい、こりゃただの思いつきだろうというものも大量に混在しています。
内政面の政策はさすがに練られていますが、外交はハチャメチャです。

就任前からトランプはグリーンランドを売れ、パナマ運河はオレのモノと言ってきましたが、冗談めかした本気程度に思っていましたがそうではないようでまったく本気のようです。
このことについては別途記事にする予定ですが、言っているのが合衆国大統領ですからなんとも。

ところで今回はなんとまぁあのガザを米国領にするというのですから、さすがにトランプ耐性がついて来たと思った私もたまげました。
飛躍している、なんて生易しいものではありません。
トランプの横のネタニヤフですら困ったような微妙な表情をしていました。
ネコニヤフからすれば、武器支援さえくれれば万々歳なのに新たな火種をつくりやがって有難迷惑というところでしょうか。

「アメリカのトランプ大統領は4日午後、日本時間の5日朝、ワシントンを訪れているイスラエルのネタニヤフ首相とホワイトハウスで会談しました。
その後の共同記者会見で、トランプ大統領は「アメリカはガザ地区を引き継ぎ、われわれが仕事をする。ガザ地区を所有し、責任を持って、そこにある危険な不発弾や兵器を取り除く」と述べました。
その上で「長期的に所有することを見込んでいる。それが中東の一部そして、中東全体の安定にもつながると見ている。私が話した誰もがアメリカが土地を所有し何千もの仕事を作り出すというアイデアを気に入っている」と説明しました。
またトランプ大統領は「ガザ地区は何十年もの間、死と破壊の象徴であり、その近くに住む人々にとって最悪だった。ガザ地区に住む180万のパレスチナ人が最終的に住むことになるさまざまな場所を建設する。死と破壊、そして、不運を終わらせる」と述べて,
ガザ地区の住民の別の場所への再定住を進めるべきだと主張しました」
(NHK2月5日)
トランプ大統領「アメリカがガザ地区を所有」長期所有の考え示す イスラエル ネタニヤフ首相と会見 会談も | NHK | トランプ大統領

20250205-113716

アメリカ大統領選:トランプ氏とイスラエル・ネタニヤフ首相が会談へ、20年9月以来 : 読売新聞

まだ速報レベルですので詳細はわかりませんが、このようなプラン(なのか?)のようです。
当人は「綿密にあらゆる角度から見当した」と言っていますが、ご冗談でしょう。
整理するとこんなかんじかな。
【速報】トランプ大統領「ガザはアメリカが所有する」 ガザ住民「全員の移住」を提案(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

① 米国はガザ地区を引き継ぎ、ガザ地区を長期的に所有し、その責任を負う。そのことが中東の安定につながる。
② 米国はガザを平定し、破壊された建物や不発弾を撤去する。
③ 帰還まで全員が移住する。
④ 移住する住民の受け入れ先の候補地はヨルダンやエジプトである。
⑤ パレスチナ人は帰還するが、彼らは他の方法を試して失敗した。歴史から学ばなければならない。

結論から言います。
絶対に不可能です。成功するはずがありません。
パレスチナ側にとっては再び祖国を追われることになりますし、米国にとってブッシュが始めた反テロ戦争を繰り返すことになります。
トランプは米軍派遣を口にしていませんが、軍事的安定なくしてはガザの復興、ましてや再開発などは夢幻です。

すると誰がどのような形で軍隊を派遣するのでしょうか。
イスラエル軍がそれをすれば、ただの占領地の固定化である以上、パレスチナ側と国際世論、そしてトランプが味方につけたいと考えている中東諸国から猛反発を受けることでしょう。
だから米国が一時的に所有権を握るという奇手で乗り出したのでしょうから、このイスラエル軍支配はありえません。

紛争地に軍を派遣するには、国際的枠組みを作るのが常道です。
最近の典型的なケースは、国連安保理1386号を根拠にした米国とNATO軍の作ったISAF(国際治安支援部隊)があります。

憲章第43条の規定に基づいている。軍事的強制措置は、「安全保障理事会と加盟国の間の特別協定に従って提供される兵力・援助・便益」によって行われる。ISAFはこの措置に従い、2001年12月31日にアフガン暫定政府と軍事技術協定(Military Technical Agreement)を結んでおり、この協定はアフガン正統政府の発足後、2003年12月9日に再び調印されている」
国際治安支援部隊 - Wikipedia

トランプはこのような国連を通した国際的枠組みが大嫌いですから、法的根拠に国連と言う枠組みを使わないつもりでしょう。
だとすると、誰の要請に基づいてどこと協定を結んで米軍を派遣する気なのでしょうか。
よもやイスラエルではないですよね。ガザはイスラエルの領土ではありませんよ。
今ガザにイスラエル軍が存在しているのは、ハマスのテロに対応した自衛戦闘という建前になっているからで、たぶん十数年かかるであろう再建復興までイスラエルが支配してよいということではないのです。

唯一合法の主権者はパレスチナ自治政府です。
彼らがいかに復興という名目であろうとも、ガザから住民を追い出すことに同意するとは思えません。
パレスチナ自治政府は絶対にこのプランに同意しない以上、このトランプ案の法的根拠は存在しないのです。

ガザのパレスチナ人たちが平穏な戦闘のない生活を望み、復興を望んでいるのは事実でしょう。
しかし同時に彼らの大多数はハマスの精神的支配下にあるのもまた事実です。
ハマスが仕掛けたテロだ、ハマスは人間の楯を使ったというのは、彼らにとってどうでもよよいことです。
そしてガザ戦争の結果、彼らはイスラエル軍によって家族を失い住む場所を失いました。
いまやパレスチナ人は、ガザ戦争前の意識とは違う宗教的とすらいってよい反イスラエルと化しています。

そういう彼らがおとなしくガザの地を離れて難民生活をするでしょうか。
とてもそうは思えません。
仮に移住先が見つかったとしても(それ自体きわめて困難ですが)、そこはテロリストの巣窟となるのは必至だからです。
そもそも米国が引き受けないと言っているまさにその理由で中東諸国も引き受けないのです。
ただちに中東諸国は拒否の共同声明を出しています。

「土曜日、強力なアラブ諸国は、ガザから隣国のエジプトとヨルダンにパレスチナ人を移住させるというドナルド・トランプ米大統領の提案を拒否した。
エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、パレスチナ自治政府、アラブ連盟は、ガザと被占領西岸地区のパレスチナ人を自分たちの領土から退去させる計画を否定する共同声明を発表した」
アラブ諸国は、パレスチナ人をガザからエジプトとヨルダンに移住させるというトランプの提案を拒否 |AP通信

特に候補となっているエジプトは、ハマスの母体であるイスラム同胞団がいるために国境検問所すら締め切っています。
よりによってこの時期に、ネタニヤフの直後に訪米するゲルさん、ガザ難民を受け入れるなどと寝ぼけたことを言っていると、ではひとつ日本かうけいれないかねと言われますよ。

まだ速報ていど程度の情報量なのでここまでとしますが、トランプの底抜け脱線ぶりが改めてわかりました。
道理でリアリズム外交のポンペオを呼ばなかったはずです。

 

2025年2月 5日 (水)

トランプ関税戦争、中国の不思議な静けさ

027

カナダとメキシコが1カ月間の猶予をもらったようで、追加関税の執行が先のばしになったようです。
撤回じゃありませんからね、念のため。

「米政府が4日に発動するとしていたカナダとメキシコ製品に対する25%の関税について、ドナルド・トランプ米大統領は3日、1カ月間停止すると表明した。カナダのジャスティン・トルドー首相とメキシコのクラウディア・シェインバウム大統領も同日、発動が停止されると発表した」
(BBC2月4日)
トランプ氏、メキシコとカナダへの関税発動を1カ月停止すると発表 国境対策などで合意  - BBCニュース

トルドーは2回トランプに電話し、こんなことを提案したようです。
新提案ではなく焼き直しただけですが。

「トルドー氏がソーシャルメディア「X」に投稿した内容を引用し、カナダが国境警備に13億カナダドル(約1400億円)を支出することを約束したと説明。同国がさらに、合成麻薬フェンタニルの販売阻止に取り組む責任者を任命し、関連組織をテロリストに指定することになったとした。
そのうえでトランプ氏は、「この最初の結果に非常に満足している」とした」
(BBC前掲)

国境警備の厳重化と合成麻薬を売りさばいている組織のテロ組織指定ですか。
国境警備なんてなにをいまさら強化かつうところですし、麻薬マフィアの連中は中国系ですよ。
大丈夫かな、トルドーさん。あ、もう辞めるンだったっけね。
まぁ、1カ月やるから成果が上がったか、お手並み拝見というところでしょうな。

20250204-150953

BBC

ところで、今回の関税戦争で、妙に他人事のような顔をしているのが中国です。
いちおう抗議らしきものは口にしていますが、かつてのように報復関税などとは叫ばず、WTOに提訴なんぞと上品なことを言っています。
世界でいちばんWTOを舐め腐っていたのは、他ならぬ中国のはずで、こんな形骸化した機関になんの拘束力もないことは中国も米国もとっくに承知のはずです。
したがって痛くもかゆくもありません。

「 中国商務省は2日、米国の追加関税に世界貿易機関(WTO)を通じて異議を申し立てると発表した。
商務省は声明で、米国の関税措置は「WTOのルールに著しく違反している」と非難。同時に、率直な対話と理解を呼びかけ、協議の余地を残した。
中国政府は「対抗措置」を取るとも述べたが、詳細には踏み込まなかった。
中国側の今回の反応は、第1次トランプ政権時の米中貿易紛争で見られたような即時の緊張激化には至らず、中国がここ数週間に用いてきた比較的慎重な表現を繰り返すにとどまった。
トランプ米大統領は米国時間1日、カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課す大統領令に署名。合成麻薬「フェンタニル」の米国への流入を中国が阻止する必要があるとした。
中国外務省は「フェンタニルは米国の問題だ」と反発し、「中国側は米国と広範囲にわたる麻薬対策協力を行い、目覚ましい成果を上げてきた」と強調した」
(ロイター2月2日)
中国、WTO通じて対抗へ 米国の追加関税に | ロイター

なにが「フェンタニルは米国の問題」だって、製造元は中国で、それがカナダやメキシコを通じて流れ込んでいるんでしょうが、とトランプに代わって怒りの表明。
ところがかんじんのトランプ翁は妙に中国にはクールで、たぶん就任前の習近平との電話会談でなにかゴニョゴニョと密約でもしたような気がしてきました。

就任前にトランプは、中国製品に対して60%の追加関税を課すと公約していました。
それがカナダ、メキシコの2分の1の10%ですから、この60%はただの中国を交渉の席に座らせるためのブラフだということになります。
中国経済の現状は、とてもじゃないが米国と正面切って関税戦争なんぞする余裕はありません。
社会主義計画経済をお題目にしているはずのこの国が、膨大な過剰生産を仕出かしているからです。
その縮図が不動産バブルの崩壊です。

「中国において、近年世界が経験したことがない不動産価格の異常な値上がりが起きたことが指摘される。不動産価格の水準を年間所得との比較で見ると、上海50倍、深圳43倍、香港42倍、広州37倍、北京36倍(2023年NUMBEO調べ)と、歴史的高水準に達している(東京は12倍、NY10倍)。バブル期の東京の同倍率が15倍であったことと比較すると、中国の深刻度は明らかである」
(武者リサーチ2023年9月9日)
日中不動産バブルの比較と中国Japanificationの可能性 | 武者リサーチ (musha.co.jp)

不動産投資は中国経済の主要な牽引力であり、中国の対GDP比率544%に達します。
企業規模も巨大であり、都市住民の25%以上が建設不動産関連が雇用しているために、不動産バブル崩壊と企業破綻が本格化することにより、雇用不安が一気に表面化します。
失業率の増大は個人消費を確実に冷え込ませますから、家電、衣料など幅広い消費分野を道連れにしました。

このような国内市場の過剰生産による飽和は、いやでも海外輸出に頼らざるを得なくなります。

「中国の全体的な対外貿易の状況は、非常に不利な状況と言うべきです。中国は現在、過剰生産状態で、いかに輸出を拡大するが緊急の課題で、そうしなければデフレが加速し、将来の雇用圧力もさらに高くなります。これは中国政府が長年にわたって、自分で仕掛けた罠にかかってきた結果であり、もはや現在、解決することはできない問題だと、李恒青はいいます」
(福島香織中国趣聞1321)

中国はすでに60%関税に対して具体的対策を整えていました。
その安全弁がメキシコです。
たとえば中国は過剰生産となっている鉄鋼・アルニミウムをいったんメキシコに輸出した形にして、メキシコから米国へ迂回輸出していました。

米国もそれに気がついており、メキシコからの鉄鋼・アルミニウムに対して25%の関税をかけるとしていました。

「メキシコ経済省は2月27日付プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、北米鉄鋼産業強化に関する米国通商代表部(USTR)との会合に関連して、次の合意内容を明らかにした。
1(輸出入のモニタリング強化のため)鉄鋼、アルミニウム製品について、米国と統合した関税分類を作成する(既に完了)。
2 貿易協定のない国からの鉄鋼、アルミニウムの輸入動向に配慮し、205の関税品目で一般関税率を25%とする(2023年8月15日付官報公布政令に基づき実施済み)」
メキシコ経済省、米USTRと鉄鋼・アルミニウム製品輸出入の監視強化と関税率変更で合意(米国、メキシコ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ 

ですから、中国にとっての心配はたかだか10%の追加関税などではなく、メキシコに対する25%の関税なのです。

「米国セント・トーマス大学の葉耀元によれば、中国政府にとって追加関税10%より心配なことは、メキシコから米国に輸出される商品の多くにかけられる25%の関税だろう。実際にはメキシコの対米輸出品の多くは、メードイン中国の再輸出であり、最終的には中国の製造業に影響を与えるものだからだ、といいます。実はメキシコへの追加関税は中国への制裁なのです」
(福島前掲)

一方、トランプにとっての最優先課題は、まず第1に不法移民の強制送還と国境の安全を守る事、そして麻薬の流入防止です。
これに基づいてトランプは隣国のカナダとメキシコに関税戦争を仕掛けました。
実に乱暴な手段ですが、この両国が参りました、麻薬と不法移民は今後ださないことを誓いますと一札いれないか限り続くことでしょう。
トランプは90日間といっていますが、どうでしょうか、これだけで政権が丸々4年間かけてやっても終わらないような大きな案件のはずです。

となると、必然的に中国の優先順位が落ちます。
同時にはとてもできません。
今、中国は経済はデフレに直下降、政権内部は常にガタピシいっており、台湾に手を回す力の余裕は限られています。

「アメリカのトランプ次期大統領と中国の習近平国家主席が17日夜、電話で会談し、経済や貿易など両国間の問題について意見を交わしました。
中国側の発表では、双方は戦略的な意思疎通の仕組みをつくることで合意したとしていて、習主席としては安定した関係の構築を目指したいという姿勢を示した形です。
中国外務省によりますと、電話会談で習主席は、両国の経済・貿易について「本質はウィンウィンの関係で対立や衝突は選択肢であるべきではない」と述べました。
また、統一を目指す台湾については「中国の国家主権と領土の一体性に関わる問題でアメリカには慎重に対応することを望む」と述べました」
(NHK1月18日)
習主席とトランプ次期大統領が電話会談 “意思疎通で合意” | NHK | 習近平主席

とまぁ、今は互いにゴタは避けような、というところのようです。
ゲルさん、いまさら日米会談で「尖閣は安保第5条の確認をめざす」なんてやっていると、うるさがられますよ。
とうぶん、彼の脳裏には「尖閣」なんてありませんから。

 

2025年2月 4日 (火)

さぁ、米国はインフレ再燃だ

S-252

トランプ関税戦争によって引き起こされる事態でもうひとつ深刻なことは、米国のインフレが再燃し、それを押さえるためにFRBが金利を上げざるをえなくなることです。
トランプはこんなことをうそぶいています。

「ドナルド・トランプ大統領は31日、米政府は早ければ2月中旬にもコンピューターチップ、医薬品、鉄鋼、アルミニウム、銅、石油・天然ガスの輸入品に関税を課すと表明した。カナダ、メキシコ、中国からの輸入品には2月1日付で関税を発動する方針を繰り返し示してきた。トランプ氏はホワイトハウスの大統領執務室で記者団に対し、「かなり早期に実現するだろう」とし、「2月18日になると思う。鉄鋼に多くの関税を課すつもりだ」と述べた。
トランプ氏は、想定している関税は、既存の関税に上乗せする追加関税だとし、インフレ再燃や世界的なサプライチェーン(供給網)の混乱を懸念する声を一蹴した。「関税はわれわれをとても豊かにし、強くするだろう」と述べ、有権者や市場の反応については懸念していないと付け加えた」
(ウォールストリートジャーナル2月1日)
トランプ米政権、半導体や鉄鋼などに関税発動へ 2月18日にも | The Wall Street Journal発 | ダイヤモンド・オンライン

おいおい、なにが「関税はわれわれを豊かにする」だ。頭大丈夫か、と言いたくもなります。
彼のロジックは、推察するに関税収入を政府の財源にするから、関税上げた分だけ「豊かになる」ということのようです。
しかし関税を払っているのは米国民ですから、形を変えた増税です。いいんでしょうか、米国の有権者の皆様。

実は第1次大戦前まで関税は重要な政府財源でしたが、結局関税戦争がエスカレートしてホントの戦争になったので、戦後にその調整機関としてWTOをつくったのです。
今どきそんなレトロな関税戦争に戻るなんて、大丈夫かい。

関税は消費者が手にする食品や消費財、あるいはエネルギー価格にそのまま転嫁されるのですから、2割関税を乗せれば2割価格が跳ね上がります。
ただ国際競争にさらされている商品、たとえば自動車なんかは簡単に価格転化できないでしょう。

結局、製造会社がかぶることになり企業体力は落ちます。

ただし唯一のいいことは、自動車生産などが低賃金のメキシコで生産していたメリットが消滅しますから、米国に回帰します。
ひょっとしてこれをトランプは狙っての深慮遠望かしら。
だとすると今回の蛮行はわからないではありませんが、今の時点ではなんともいえません。

しかし食肉や果実などの消費財はストレートに反映するはずです。
そうなったら米国民をあれだけ苦しめたバイデン・インフレがまた再燃します。
下図は米国のインフレ率の推移を見たものですが、新型コロナの時に国民にカネをバラ撒きすぎて米国は深刻なインフレに陥りました。

20250202-173129

米国のインフレ率、ついに4%割れ それでも再び利上げ論が出るわけ:朝日新聞

例のドジャーススタジアムでホットドックセットを食べたらウン千円という時期です。
これだけ商品価格が上がると、せっかく上がった賃金によって個人消費の見かけは活発でも、内実は打ち消されてしまうことになりかねません。
米国の中央銀行FRBはこの狂乱インフレを消し止めようとして、政策金利を上げました。

20250203-032241

アメリカ 2025年の米国の政策金利とインフレの見通し |フランクリン・テンプルトン

上のインフレ率と政策金利が同調しているのがおわかりでしょう。
米国の金利上昇と日本のデフレから抜け出しきらないための低金利の金利差が、日本の為替相場を円高にしていた原因なのはご承知のとおりです。

このようなFRBの奮闘努力のかいあって、やっとインフレという山火事は鎮火しはじめてきていました。

「一時は約40年ぶりの高水準だった米国の物価高(インフレ)が和らいできた。6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3・0%上昇と、2021年春以来の低水準になり、ピークの昨年6月の3分の1まで縮んだ。それでも、米連邦準備制度理事会(FRB)は一度止めた利上げを今月再開するとの見方が大勢だ。背景に何があるのか。
米労働省が12日発表した6月のCPI上昇率は、5月の前年同月比4・0%から減速し、3%台となった。これは、2・6%だった伸びが4・2%に急加速した21年3~4月の水準に近い。2年以上かかって今回のインフレ局面の入り口まで水準が戻った」
(朝日2023年7月12日 )
米消費者物価、6月は3.0%上昇 伸びは鈍化、1年前の3分の1に:朝日新聞

やれやれと胸をなでおろしていたら、こんどはトランプ王が関税爆上げという必殺技で、またまたインフレ再燃です。
自動車だけではなく、食肉や果実、アパレルといった消費財まで直撃ですからタチが悪い。
そのうえに、しかも今回の命令では、小規模な貨物に適用されるデ・ミニミス免除が撤廃されました。
メキシコなどから来る個人宛て小荷物にはよく麻薬が仕込まれているからです。

このデ・ミニミス免除とは、少額の電子商取引やオンライン小売業の課税を免除する仕組みですが、これが麻薬取引の温床になっていたのです。

「輸入貨物の申告額が800ドル以下の場合、米国ではデミニミスルールの下、関税が賦課されず、また原産地などの情報を申告せず、簡易的に輸入できる。そのため、フェンタニルなどの違法合成麻薬などがデミニミスを利用して輸入されているのではないかと懸念されていた」
バイデン米政権、デミニミス利用した不公正な輸入に対処する新たな措置発表(中国、米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

これで抜け穴が塞がれてしまって、小売業・通販にまで広く関税が課されるようになります。
自動車産業の関係者は前々から関税が雇用や投資、消費者に悪影響を与えると警告してましたが、これが現実となったわけです。
たぶん自動車株や食品株は暴落することでしょうから、金利高・株安・ドル安は必然です。

しかしトランプは、インフレ再燃は折り込み済み、短期で終わると言っているようですから、つまりはインフレ容認・ドル安容認ですから始末に悪い。
たぶんトランプは、カナダやメキシコとチキンゲームをする気です。
報復関税合戦して、先に音を上げたほうが負け、くらいに考えています。
この結果はなんとも予測がつきません。トランプいい意味でも悪い意味でも根っからのポピュリストだからです。
インフレ再燃に怒った国民によって支持率が下がり始めたら方針転換する可能性もあります。
ぜひそう願いたいですが、こればかりはわかりません。

 

2025年2月 3日 (月)

あーあやっちゃった、トランプが高関税発動

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ああやっちまった、というかんじです。
私はぎりぎりまで振り降ろさないというほうに賭けていたので、がっくりきました。
関税は武器、刀は抜かないから抑止になるので、抜いて斬ったらただの凶器にすぎません。
そのくらいトランプはわきまえていると思っていましたが、そうではないようです。
BBCはこう伝えています。

「ドナルド・トランプ米大統領は1日、メキシコとカナダからの輸入品に25%の関税をかけ、中国には10%の追加関税を課す一連の大統領令に署名した。ホワイトハウスが発表した。メキシコとカナダはそれぞれ、報復措置や報復関税を発表した。カナダのジャスティン・トルドー大統領によると、アメリカの関税発動は4日から。
ホワイトハウスは声明で、「本日の関税発表は、毒性の麻薬のアメリカ流入を阻止するという約束の責任を、中国、メキシコ、カナダに取らせるために必要なものだ」と表明した。
大統領令は、カナダからのエネルギー輸入については25%より低率の10%の関税をかけるとしている。
ホワイトハウスは関税措置について、「トランプ大統領は、麻薬との戦争でメキシコがアメリカに協力するまで、メキシコ生産者が支払う関税25%を実施する」としている」
(BBC2月2日)
トランプ氏、カナダ・メキシコ・中国に関税発動の大統領令 - BBCニュース

関税という武器を抜いた理由は麻薬と不法移民です。
米国、メキシコ、カナダの3カ国間で締結されていた北米自由貿易協定(NAFTA)がいったん解消され、それに代わって米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が締結されています。
2020年7月1日に発効。乗用車の対米輸出台数制限や自動車部品に関する原産地規則の強化、他国の通貨安誘導を防ぐ為替条項などが新たに導入されました。
とうぜん、この相互自由化に伴い大量の移民や、米国にとって好ましくないものも入ってくることになります。

たとえばカナダのトルドーが解禁した大麻や、メキシコから入って来るコカインや合成麻薬も大量に流入しています。

20250203-012016

カナダ首相「トランプ関税に反撃する用意ある」貿易戦争へ | KWP News/九州と世界のニュース

特にフェンタニルは麻薬鎮痛剤としても使われており、フェンタニルは2ミリグラム服用しただけで死に至る可能性があり、その効果はモルヒネの100倍といわれています。
トランプは、このフェンタニルの流入阻止と取り締まり強化を関税を上げた理由にし、「米国が求めるレベルの措置を導入するまで関税を維持する」と述べています。
一方、カナダ政府は、米国に流入するフェンタニルの99.9%がメキシコ産であり、トランプ氏がカナダとメキシコの麻薬・移民流入を同列に扱っていると反論しているようです。
そもそもフェンタニルの原産は中国ですが、なぜ中国に対して軽い関税なのでしょうか。

20250202-154036

麻薬の裏側:南北アメリカの麻薬ネットワーク | 国際問題レポート2021-2024

そして米国に流入する移民、あるいは不法移民によって安価で使い捨てにできる下層労働者が大量に生まれ、彼らによって米国民の賃金低下がもたらされました。 

また、この3カ国の間で複雑で大規模なサプライチェーンが構築されています。
米国への輸入額において、中国が首位陥落し 23年の貿易収支でメキシコが上回りカナダが並んでいます。

20250202-150129

 中日新聞

常識的に考えて、カナダ・メキシコ両国は対抗せざるをえませんので報復関税を取るでしょう。
しなければ負けっぱなしですから、国内に示しがつきませんもんね。

【カナダのトルドー首相は1日、記者会見し米国からの輸入品に25%の報復関税を上乗せする方針を明らかにした。同日、トランプ米大統領がカナダに最大25%の追加関税を課す大統領令に署名したことに対応する」
(日経2月2日)
カナダ、トランプ関税に報復 まず3兆円分に25% - 日本経済新聞

トランプはムシがいいことに、エネルギー関連だけはカナダ産の石油・天然ガスには10%の軽減税率を適用すると通知しているそうで、これは真冬に自動車の燃料や暖房用燃料を高騰させたくないからでしょう。
米国が輸入する原油の約60%、電力の85%がカナダ産ですからね。
しかしそんなことはよくわかっているカナダは天然ガスについて関税率だけではなく、供給そのものを制限するとしています。

「アルバータ州のスミス首相は、当局が米国への石油供給制限や関税賦課に踏み切ると懸念を示しており、報復措置に反対。当局との関係が悪化している。
カナダは輸出品やサービスの75%を米国に輸出。最大の原油供給国でもあり、米国が2023年に輸入した原油の半分以上がカナダ産だった。
ウィルキンソン氏は記者団に対し、米国への報復措置がカナダの特定の分野や地域だけに不公平な打撃をもたらすものであってはならないと強調。「西部(アルバータ州)だけを選ぶのではない。(対米報復措置が)痛みを伴うなら、ケベック州もオンタリオ州もそれを分かち合うことになる」と述べた」
(ロイター1月30日)
報復措置、米国に損害与える製品に重点=カナダ天然資源相 | ロイター

また自動車部品については高関税をかけ、輸入される自動車、特にイーロン・マスクの率いるテスラには100%の関税をかけると言っています。

「米国勢調査局によると、2023年のカナダからの原油輸入は1000億ドル近くに上り、同国からの輸入全体の約4分の1を占めた自動車メーカーは特に大きな打撃が予想される。
カナダとメキシコで生産される自動車は、最終組み立て前に部品が複数回、国境を越えるケースもあるため、新たな関税によって広範なサプライチェーン(供給網)に負担が生じることになる。

カナダのトルドー首相は、米国の関税措置に対抗して1550億カナダドル(約1065億米ドル)相当の米国製品に25%の関税を課すと記者会見で表明した。また、トランプ氏の関税により食料品やガソリンの価格が上昇し、自動車組立工場が閉鎖され、ニッケル、カリウム、ウラン、鉄鋼、アルミニウムなどの供給が制限される可能性があると米国民に警告した」
(ニューズウィーク2月2日)
「自動車は特に打撃」トランプ関税2月4日、メキシコ・カナダ・中国に発動...貿易戦争に発展か|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

当然ですが、カナダやメキシコに進出していた日本の自動車産業も大きな影響を受けます。
米国市場向けに高関税がかかり、部品の供給がメチャクチャになるのは日本も同じだからです。

しかしこんなことでめげるトランプではありませんから、待ってましたとばかりに対抗関税をつり上げるでしょう。
かくして本格的な関税戦争のエスカレーションが開始されます。

しかも同盟国内部での関税という名を借りた「戦争」ですからタチが悪い。
共にほんとうに実体経済にダメージが拡がってやっと止めるということになります。
その頃には、経済は相当に破壊され、安全保障の連携にまでヒビが入りかねません。
なんせ仮想敵国である中国には10%ですから、どっちを見て貿易戦争しているんだというカナダの気持ちもわかります。

先週書きましたが、間違いなくインフレが驀進します。
トランプは信じがたいことにこんな太平楽なことを言っています。

「トランプ米政権が1日に最初の関税引き上げに踏み切ると、ホワイトハウス報道官が31日の記者会見で明言した。関税により米国のインフレ率が上振れするリスクが高まり、米国の1世帯あたり830ドル(約13万円)以上の負担増になるとの試算もある。報復関税の応酬という、勝者なき消耗戦も現実味を帯びる。
31日に記者団の質問に答えたトランプ氏は、関税が輸入物価に転嫁される影響を聞かれ「短期的な混乱が起こるかもしれないが、人々はそれを理解するだろう」と主張した。「関税はインフレではなく、成功を引き起こす」と述べた」
(日経2月1日)
トランプ関税第1弾 インフレ上振れ、世帯13万円負担増も - 日本経済新聞

短期的な混乱?わけないしょ、あんたビジネスマンだろう、こんなことやって「短期的混乱」で済むはずがないでしょう。

まちがいなくインフレは亢進します。「関税をかける」という言い方をするから何かかけられた当該国が支払うと思ってしまうのですが、違うのです。
支払うのは関税をかけたほうの国で、たとえばカナダのエネルギーならば、西部や中部のカナダのエネルギー供給に依存している諸州の国民が払うことになります。
また産業用としては自動車部品の割合が大きいので、米国の自動車産業は関税だけはかんべんしてくれと前から叫んでいました。
この米加墨の3カ国は緊密な経済連携をとっていました。


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第Ⅰ-4-2-2-19図 NAFTA域内(メキシコ、米国、カナダ)の貿易関係(2016年) | 白書・審議会データベース検索結果一覧

そしてサプライチェーンは複雑に入り組みました。
今、一番問題となっている自動車部品では商務省国際貿易局(ITA)交通機械部(OTM)によれば、このようになっています。

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自動車・部品に対する追加関税により影響を受ける輸入先国は(米国) | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ

メキシコは第1位、カナダは2位です。これらの国に高関税をかければ、それはたちまち米国ブランドの自動車の価格に直結するのは目に見えています。
そのうえ自動車本体輸入においても、この2国は群を抜いています。

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ジェトロ

こんなことをしたら、アメ車が凋落してしまいますよ、いいんですか、トランプさん。
つまるところ、世界貿易は縮小します。
世界一の消費大国であり、自由主義貿易のリーダーの米国が関税を武器にするということをするからです。

そして最大の問題はインフレ率が急上昇することですが、これについては次回に。

 

 

2025年2月 2日 (日)

日曜写真館 曙の空色衣かへにけり

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曙はまだ紫にほととぎす 松尾芭蕉

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春曙ただよふて水枕かな 梶千秋

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曙のむらさきの幕や春の風 蕪村

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帰りなん春曙の胎内へ 佐藤鬼房

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命あり春曙となりにけり 加藤母宵

2025年2月 1日 (土)

トランプとサウジの6000億ドルディール

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トランプは積極的な中東外交をしています。
その主眼はサウジです。目のつけどころがすごい。

「サウジアラビアが年内にも原油の減産方針を転換し、増産にかじを切るとの見方が急浮上している。サウジが主導する石油輸出国機構(OPEC)プラスの供給シェア回復を狙って生産を増やせば、原油価格の下落要因となる。原油安は消費国の日本には恩恵が大きい。
サウジはこれまで石油収入を十分に確保するため、市場の需給調整役として供給を減らし原油価格を下支えしてきた。原油安の局面ではOPECプラスを主導し、減産方針」
(日経2024年10月17日)
「逆オイルショック」の足音 サウジ動向次第で原油急落も - 日本経済新聞

仮にこれが成功したら原油価格は暴落し、先進工業国は一挙にエネルギー問題を解決でき、かつ、原油輸出一本に依存しているロシアは窮地に陥ります。
実はサウジのサウド皇太子とトランプは、今白熱の交渉のま最中なのです。

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サウジアラビア、米国の新規投資と貿易に4年間で6000億ドルを計画 |ロイター

サウジの官報です。

「皇太子兼首相のムハンマド・ビン・サルマン・ビン・アブドゥルアジーズ・アル・サウード王子殿下は、今夜、アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領と電話会談を行いました。
電話会談で、アル・フセイン皇太子は、二聖モスクの守護者に対し、彼がアメリカ合衆国大統領に就任し、大統領に就任したことについて、閣下に祝辞を述べ、友好的な米国民の進歩と繁栄を願った。
電話会談では、中東の平和、安全、安定を確立するための王国とアメリカ合衆国の協力方法や、テロと戦うための二国間協力の強化について話し合いました。
また、皇太子殿下は、大統領政権が米国で予想される改革により、前例のない経済的繁栄を生み出す能力があることを指摘し、王国がパートナーシップと投資の機会を活用しようとしていることに言及し、今後4年間で投資と米国との貿易関係を6,000億ドル拡大したいという王国の願望を強調しました。
米国大統領は、二聖モスクの守護者と皇太子殿下が彼らを祝福してくれたことに感謝と感謝の意を表し、サウジアラビア王国の指導者と共通の利益に役立つすべてのことについて協力することへの熱意を強調しました」
政治家/皇太子殿下が米国大統領に電話をかける 

砂漠の国だからというわけではないのでしょうが、仰天するほどドライなやりとりです。
さすが帝王型大統領とアラブの王様の駆け引きは違うと、妙に感心してしまいました。

要は、今後4年間で6千億ドル(約93兆7942億)米国に投資すれば、米国はお前の言う願いを聞いてやるぞということです。
ロイターはこんなことを報じています。

「報告書は、サウジアラビアはこれらの条件を利用するために投資を望んでいると述べました。6000億ドルの出所、それが公的支出か民間支出か、また資金がどのように使われるかについては詳述しなかった。
投資は「さらなる機会が生じれば、さらに増加する可能性がある」と、同機関はビン・サルマンがトランプに語ったと引用した。トランプ氏は1期目でサウジアラビアを含む湾岸諸国との緊密な関係を育んだ。トランプが退任した後、国はトランプの義理の息子で元補佐官のジャレッド・クシュナーが設立した会社に20億ドルを投資した」
(ロイター日 )
サウジアラビア、米国の新規投資と貿易に4年間で6000億ドルを計画

クシュナーが絡んでいそうですが、この人物こそ第1期トランプ政権のノーベル平和賞級の外交成果だったアブラハム合意の立案者です。
第2期には入閣していませんが、なんせ娘婿ですからね。
トランプは2017年に大統領に就任したとき、サウジを最初に訪問しました。
それはサウジが米国製品を4500億ドル買うことに同意したからであり、今回は5000億ドル分買うならまたサウジに行くよと、言ったわけです。わかりやすい。

そうしたらサウドは、いやいや1000億ドル上乗せして6000億ドルにしましょうと答えたわけです。

その代わりにお願いがふたつあるとして提案したひとつが、イエメンのフーシー派のテロ組織再指定です。
第1期トランプ政権が指定したのに、これをイランに融和的なバイデンがひっくりかえしたのです。
信じがたい馬鹿ですね。

イランが喜ぶまいことか、ただちにフーシー派に武器と資金を提供し、たちまちハマス、ヒズボラと並ぶ中東地域凶悪テロ組織三兄弟となってしまったのはご承知のとおりです。

サウジにとって非常に困るのは、イエメンが一衣帯水の隣国だということです。
フーシー派はサウジ王家打倒を掲げサウジの石油施設に執拗な攻撃をしかけています。
業を煮やしたサウジはイエメン内戦に介入しています。
ですから、こんなフーシ派を撃滅できれば、6000億ドルなんてお安いものということです。
一方トランプにとっても安いもの、直ちにこの要請に応じて再指定されます。

もうひとつのサウジの要求は米国との防衛協定でした。
これについてはバイデンもまんざらではなく、そうとうなところまで煮詰まっていた案件ですが、トランプがゴールに蹴り込む役となったようです。

「ワシントン 20日 ロイター] - 米ホワイトハウスは20日、サウジアラビアとの2国間防衛協定で最終合意が近いと明らかにした。サリバン米大統領補佐官が先週末にサウジのムハンマド皇太子らと会談し、協議が大きく進展したという。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、2国間協定での合意に「これまで以上に近づいている」とし「最終に近い」と述べた。
協定はサウジが中国製兵器の購入を停止し、中国からの投資受け入れを制限する見返りに、米国がサウジ防衛を正式に保証するとともに、サウジがより先進的な米国製兵器にアクセスできるようにする内容になる見通し。
米当局者によると、合意の一環として米国からサウジに対するF35戦闘機などの武器売却も協議している。
2国間協定が成立すれば、イスラエルのネタニヤフ首相に提示する、より広範な枠組みの一部となる。ネタニヤフ氏はサウジとの関係正常化を実現するために譲歩するか決めることになる」
(ウォールストリートジャーナル2024年6月10日)
米、サウジに防衛協定を提案へ イスラエルとの関係正常化に向け - WSJ
これが締結されると、米国はサウジの安全保障に大きく関わることになります。
具体的にはフーシー派撃滅に軍事的支援をすることになります。
そしてこういう背景を受けて、でてきた大技が、冒頭のサウジの生産の原油増産による原油価格の引き下げですが、長くなってので次回に回します。

 

 

 

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