トランプが進めるレッドパージ
ほんとうにここまでやるんだぁ、というかんじですが、トランプが公職追放を進めています。
かつての戦後日本でもGHQが公職追放を2回しています。
「1946年(昭和21年)1月4日附連合国最高司令官覚書「公務従事に適しない者の公職からの除去に関する件」により、以下の「公職に適せざる者」を追放することとなった。下記の7分類でありA項からG項まであった。
戦争犯罪人 A項
陸海軍の職業軍人 B項
超国家主義団体等の有力分子 C項
大政翼賛会等の政治団体の有力指導者 D項
海外の金融機関や開発組織の役員 E項
満州・台湾・朝鮮等の占領地の行政長官 F項
その他の軍国主義者・超国家主義者 G項
公職追放の対象は軍人や公職にあった者のみならず、政界、財界、マスコミ界、教育界、町内会、部落会にまで及ぶ日本史上空前の大粛清であったという。 追放政策を発令したのはGHQ民政局であったが、追放指令については日本国民に対し口外してはならぬという箝口令が敷かれ、日本側との折衝はケーディスらが行った 」
公職追放 - Wikipedia
そもそも軍事占領している国の政治体制を変革すること自体が国際法違反で、狡猾にもGHQは日本政府の自主的意志を偽装して弾圧政策を行いました。
この公職追放の該当者は直ちに罷免され、退職金その他の諸手当も停止され、該当者だけでなくその家族も困窮し、親族・関係者らも社会から抹殺同然にされてしまう規定があったため当時の日本社会全体を恐怖で支配するものだと伝えられています。
また有能な官僚層や政治家、言論人を大量に失ったために、社会全体が動かなくなるということが起きました。
そのなかで唯一我が世の春を謳歌していたのが、共産党と労働運動でした。
彼らは世界情勢も国共内戦が共産党軍が勝利を固め、朝鮮半島では来た朝鮮軍が国境を越えると、革命前夜だと判断し革命を視野に入れた2.1ストをするなどと過激化していきます。
これに恐怖したのが、この公職追放を命じたGHQでした。
彼らはこんどは正反対に走ります。これがレッドパージです。
「翌1951年5月1日にマシュー・リッジウェイ司令官は、行き過ぎた占領政策の見直しの一環として、日本政府が「総司令部の指令施行のため出された現行の諸法令」を修正することを認めた。これにより公職追放の緩和・及び復帰に関する権限を得た日本政府は、総理大臣の権限において追放基準の緩和をおこない、6月に内閣直属の公職資格審査会を設置して追放非該当者を決定する作業を進めた結果、10月31日までに17万7261人の追放を解除。残る追放者は陸海軍将官や戦犯など17977人となった」
レッドパージ - Wikipedia
このような愚かな占領政策がいかに社会の末端まで回復不能の傷を負わせたのか、考えるだに腹わたが煮えます。
教訓があるとしたら、いかに絶対的権力を握ったとしても、社会を人工的に改造してはならない、ということです。
右左の別なくそれをするなら、必ず反動を呼びます。
18世紀、まるで熱に浮かされたように自国民を虐殺し、国土と文化を破壊し続ける革命フランスを、海峡の向こうで冷やかに見ていた英国人のエドモンド・バークは、『フランス革命の省察』でこう述べています。
「正しい目標をめざすかぎり、社会の変化は抜本的であればあるほど良い、と見なす考え方と規定しうる。ここからは当然、「正しい目標をめざすかぎり、社会の変化は急速であればあるほど良い」という結論も導かれよう。
かくして成立するのが、いわゆる急進主義の理念にほかならない。フランス革命が真に重要なのは、「自由・平等・博愛」を謳ったことや、人権宣言を採択したことにあるのではなく、急進主義に基づく史上初の大規模な革命だったことにあるのだ」
アングル:トランプ政権の反DEI政策、米国の官民に広がる影響と動揺 | ロイター
この急進主義に対するバークの箴言に、かつてのGHQは、そして今のトランプは耳を傾けるべきでした。
そして今、米国で起きているのは、このレッドパージです。
政権党が代わるごとに、スイングドア(回転扉)といって前政権によって任命された官僚はワシントンから追い出されるのが通例でしたが、今回は史上最大規模の追放劇が起きています。
トランプのターゲットになったのはなんと米国情報機関の大本山であるCIAでした。
「米中央情報局(CIA)は4日、全職員に対して早期退職を勧奨する通知を出した。トランプ政権は1月下旬、連邦政府職員に在宅勤務禁止などの方針に従えない場合は退職を勧奨するとの通知を発出し、国家安全保障関連の職務は対象外としていた。ラトクリフ長官が組織改革を目的にCIAも対象とすることを決定した。
ウォールストリート・ジャーナル紙が報じた。CIA職員がどの程度応じるかは不明。人事管理局は1月28日、退職に応じた職員には9月末までの給与を支払うとし、2月6日までに返信するよう求めていた」
(産経2月5日)
米CIAが全職員に退職勧奨 ラトクリフ長官が決定、労組は差し止め求め提訴 - 産経ニュース
現職員に対して退職勧告を出すとは、いったん全員クビにして再審査の上で雇用を決めるということでしょうが、こんなことが果たして平時の民主主義国家で許されるのかははなはだ疑問で、とうぜん連邦政府の労組は提訴するとしています。
またFBIに対しても職員に関わった捜査についてのすべてを報告するように求められました。
「2021年の米連邦議会議事堂襲撃事件に関連した各種刑事事件を巡り、連邦捜査局(FBI)職員は2日、自身が関わった可能性のある捜査全てを対象とした詳細な質問リストに回答するよう命じられた。職員の間では新たな解雇の波が押し寄せるとの懸念が広がっている。(略)
これに先立つ1月31日に本部の上級職員8人とマイアミとワシントンの幹部を解雇したエミル・ボーブ司法副長官代理は、FBIに対し2月4日の東部標準時正午(1700GMT)までに襲撃事件捜査に関わった職員の全リストを提出するよう要求していた。ボーブ司法副長官代理は併せて、パレスチナ自治区ガザの武力衝突を巡るイスラム組織ハマス指導層の刑事事件捜査に関わった職員のリストも提出するようFBIに求めた」
(ロイター2月3日)
米政権、FBI職員に担当した捜査の報告要求 議会襲撃事件など(ロイター) - Yahoo!ニュース
立場の如何にかかわらず、議事堂占拠は犯罪です。
それを司法機関が捜査するのは当然すぎるほど当然で、刑事処罰するのもまた法の精神に照らしてまったく合法かつ正当です。
それをこのような復讐的行為をするとは呆れたものです。
また、米国国際開発局(USAID)に至っては、機関が丸ごとが廃止されました。
「ルビオ米国務長官は、米国際開発局(USAID)の業務見直しを完了した後、同局が国務省に吸収され、独立した機関としては廃止される可能性があると議会に伝えた。
ルビオ長官は上院と下院の外交委員会トップに宛てた書簡で、現行の対外援助プロセスは「米国民に実質的な恩恵をもたらしていない」と指摘。USAIDの一部の任務や局を再編成し国務省に統合する可能性があり、「残りは適用法に従って廃止され得る」と述べた。
さらに、USAIDの見直しと再編により、活動の中止や縮小、ポストや局の閉鎖、「これらの組織の職員数削減」、民間請負業者の活用拡大につながる可能性があると付け加えた」
(ブルームバーク2月4日)
米国際開発局は見直し後に廃止も、ルビオ国務長官が議会に通知 - Bloomberg
全世界にいるUSAID職員8000人の程度を米国に呼び戻すということです。
これはUSAIDが民主党リベラルに支配されているからというのが理由です。
確かにUSAIDの海外プログラムは、民主党が主導するDEI(多様性、公平性、包摂性)に偏ったものが多かったのは事実です。
たとえば以下のようなものが上げられます。
・セルビアの職場におけるDEI推進に150万ドル
・アイルランドでのDEIミュージカル制作に7万ドル
・コロンビアでのトランスジェンダー・オペラに4万7千ドル
・ペルーでのトランスジェンダー向けコミックに3万2千ドル
これらのプロジェクトは、それを執行する民間NGOにとって利権化しており、公的資金をじぶんたちの団体に還流し私物化するいわゆる公金チューチューの巣窟でした。
これにメスをいれるのはけっこうですが、機関を丸ごと消滅させるとは。
いまや一事が万事。
民主党リベラルが築いてきた数十年規模での遺産を短期間に消滅させようという強烈なトランプの意志を感じます。
目的の正当性とその手段の正当性は別です。目的は手段を浄化しないのです。
いまトランプがしていることは、左翼急進派のメダルの裏返しにすぎず、このような手法には到底賛成できません。
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USAIDはともかくCIAに関してはどう考えてもやりすぎですよね。正直トランプ周辺にロシアのスパイがいることを疑ってしまうレベルです。
投稿: 中島みゆき | 2025年2月 8日 (土) 17時16分
ウクライナ人ジャーナリストのボクダン氏によれば、米国からの人道援助の15%届けばいい方で、最近は10%しか現地に届かないそうです。
すでに米国内の支援団体にそうとう頭ハネされていて、他国にあるその支援団体本部、ウクライナ国内の現地支部や地方政治家などを経由して行くほどに10%になるのだと解説されてました。
私たちが見る映像は最末端の真のボランティアの映像ですが、キーウ市内の最高級レストラン(ランチで一万円程度)では赤十字やユニセフ、国連職員で逆に盛況とのこと。ガザのUNRWAしかり。
USAIDはハリウッド俳優に巨額の資金を投入することで、慈善家ぶったスターをアフリカやウクライナへ訪問以来をしていた事が問題にもなっています。これらが民主党応援団となっていた事は、これまた容易に想像がつきます。
ですから、トランプのやろうとしている事はまったく胸のすく思いです。
しかしですよ、えせ慈善団体を崩壊させてしまうことでウクライナへは10%も届かない事になる、とボクダン氏。
トランプは焦りすぎかもしれません。トリプルレッドの今でしか出来ない「黄金の二年間」にすべてを賭けているように見えます。
米国の高級官僚が腐っているのは、なにも民主党だけのせいでもなく、トランプ後に民主党政権が出来る場合もある。それもニューサムのようなヤツが大統領にでもなれば揺り戻しは最悪となるでしょう。
漸進的にして、次の世代につながるような施政をお願いしたいところです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2025年2月 8日 (土) 21時08分