出ガザ、一時的か恒久的か
トランプのガザ「領有」案について、政権内部から違うニュアンスがでてきています。
このトランプの出ガザ案の不明な点はいくつかありますが、その最大のものはパレスチナ人の「避難」が一時的なものか恒久的なものかという点です。
この一時的か恒久的かについて、ふたつのトーンが明らかに存在します。
ひとつはトランプの他国へ「恒久的に再定住させる」という方針です。
「水曜日、アメリカの高官たちは、前日のドナルド・トランプ大統領の呼びかけ、全てのパレスチナ人をガザ地区の外に「永久に」移住させるという呼びかけから離れようと試み、ホワイトハウスとマルコ・ルビオ国務長官は、ワシントンの目標は彼らを「一時的に」排除することだけだと強調した。
火曜日、ホワイトハウスでベンヤミン・ネタニヤフ首相を迎えたトランプは、「人々を恒久的に再定住させる美しい地域を手に入れる」ことを目指しており、彼の希望は「彼らが戻りたくない」ことだと述べた。何人のガザ住民を移住させるつもりなのかと尋ねると、彼は「全員だ」と答えた」
(タイムス・オブ・イスラエル2月5日)
騒動のさなか、米国政府高官は、トランプ大統領はガザの人々を「一時的に」排除しようとしているだけだと発言 |イスラエルのタイムズ
しかしこれに対して、マルコ・ルビオ国務長官は「一時的なだけだ」と言っています。
ホワイトハウスのリービット報道官は、こう言っています。
「ホワイトハウスがトランプの「恒久的」な移転から「一時的な」移転へと移行しているかどうかを明確にするよう求められたリービットは、「大統領は、この取り組みの再建のために、彼らを一時的にガザから移転させる必要があると明確にしている。なぜなら、ガザは今のところ解体現場であり、人間にとって住みやすい場所ではないからだ」と答えた」
(タイムス・オブ・イスラエル前掲)
つまり、いまや瓦礫の山と化しており、双方の不発弾がいたるところに埋まっている危険なガザから、いったん人を出して安全にしてから帰還してもらう、といういう考え方です。
これはヨーロッパ諸国や国連の反発もさることながら(トランプにとって痛くもかゆくもないでしょうが)、今、開始されたばかりの停戦・人質解放協定が出だしからクラッシュするかもしれないと見たからです。
ハマス自治政府の反発は折り込み済みでしょうが、仲介者のエジプトとカタールからまで拒否されてしまっては、停戦協定はポシャります。
実は今、イスラエル軍は協定に基づいて撤退を開始しています。
重要な第一歩は、イスラエル軍のネツァリム回廊からの撤退です。
それに伴ってイスラエル軍によって支配されていた北部占領地区に戻るパレスチナ人が検問所に押しかけました。
「イスラエル軍は、ハマスのテロ組織との停戦人質取引に従って、土曜日から日曜日にかけて、ガザ地区中央部のネツァリム回廊全体から撤退したと、飛び地の情報筋は確認した。
ガザ市の南でガザ地区を二分する枢軸国から軍が撤退した後、パレスチナ人は、飛び地への地上侵攻の初期からイスラエル国防軍によって支配されていた地域に戻るのが見られた。
合意の概要によれば、停戦の21日目に、イスラエルは全回廊から撤退し、ガザのイスラエルとの国境沿いの約1キロまでの緩衝地帯に駐留することだけを要求された。 」
(タイムス・オブ・イスラエル2月9日)
パレスチナ人がネツァリム東部に戻る、イスラエル国防軍がガザ中央回廊全体から撤退 |イスラエルのタイムズ 。
このネツァリム回廊とは、2本あるガザの横断道路のうちのひとつです。
この道路を作ったのはイスラエル人ですが、2005年にイスラエル軍が撤退すると、2007年にはハマスが支配するようになっていました。
そして2023年10月の大規模テロによりガザ戦争が始まると、イスラエル軍はハマスの南北の移動を阻止するために素早くネツァリム回廊を占拠しました。
それが今回の停戦が発効となり、イスラエル軍は協定に基づいて1週間後の1月27日、まずネツァリム回廊の西半分から撤退し、海岸沿いにガザ避難民50万人以上が北部へ戻っていったというわけです。
もう一本の横断道路のフィラデルフィア回廊からのイスラエル軍の撤退は、停戦発効50日後の協定第2段階ということになっています。
ただし、ネツァリム回廊近辺には掃討が終了していないエリアもあり、そこにハマスの残党がいると見られています。
と、このような状況で、ネタニヤフは訪米しトランプと会談をもって、たぶん煮詰まらないうちに共同記者会見をするはめになったのだと思われます。
ネタニヤフは、トランプとの共同記者会見でこれを聞いた時には、クチバシこそ込まなかったものの、有難迷惑というような微妙な顔をしました。
中東諸国の日和見ぶりを熟知しているネタニヤフにとって、ガザ住民を引き取るような殊勝な国などひとつもないことを知っているからです。
また「米国が所有」するという言い方にも引っかかったことでしょう。
トランプはこの部分について主権まで割譲させるのか、施政権は米国が有するのか、そうなった場合米軍は駐留するのかというかんじんな部分についてまともに答えていないからです。
ネタニヤフは米軍の駐留について「冗談じゃない。我々は任務を遂行している。重労働を担っている。米軍は必要ない」と一蹴し、「イスラエル軍が重要な仕事をしている」としました。
ガザが潜在的にイスラエル領だと考えている右派は、ガザから住民が出て行けばそれはハマスも出ることになり、テロリストを完全に駆逐するよいチャンスだとする声もあるようです。
とまれハマスはイスラエルが交渉団を派遣しないことを理由に、合意に違反しているとして2月15日に予定していた6回目人質解放を「次に通知するまで延期する」と発表しました。
また、停戦とともに搬入すると約束していた人道支援物資の搬入をイスラエルが妨害しているとも言っています。(イスラエルは否定)
ネタニヤフ首相は、第一段階をできるだけ引き伸ばして、人質を全員取り戻したところで、ハマスへの攻撃を再開したいのが本音ですし、取り返された人質の様子はトランプがホロコーストの生存者のようだと漏らしたように悲惨な状態でした。
たぶんトランプは人質奪還に時間がないことを知ったはずです。
10月7日のハマスのテロ攻撃で拉致された人質は251人。3分の1の73人の人質がまだ残っています。
米国人人質も2人含まれ、すでに死亡しているとみられる米国人人質4人の遺体もガザに残っています。
こういう状況で米国を守ると宣言したトランプが、直接奪還に動く可能性もなしとはいえません。
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ネツァリム回廊からの撤退は私も驚きました。確かあそこは停戦交渉でも撤退の是非をめぐり最後までもめていたところですよね?ハマスを全く信用していないであろうイスラエルがあそこから撤退するのが意外です。もしかしたら人質の死亡などでハマスが停戦合意を守れないこと知った上での行動なのかもしれませんね。そうなれば大義名分を得て攻撃再開できますから。あとトランプの言うガザ住民の移住はどこまで本気なのでしょうかね?案外ガザ北部からのパレスチナ人排除あたりを目指したディールなのかもしれません。
投稿: 中島みゆき | 2025年2月13日 (木) 21時29分