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2025年3月

2025年3月31日 (月)

ガザで反ハマスデモ勃発

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日本のメディアはハマスについて大甘ですから、あまり報じられていませんが、ガザで反ハマスのデモがありました。

「パレスチナ・ガザ地区で25日、同地区を実効支配するイスラム組織ハマスに対する抗議デモが行われ、何百人もが同組織に権力を手放すよう求めた。ガザでの反ハマス・デモとしては、イスラエルとハマスの戦争が始まって以来、最大規模。
覆面姿のハマス戦闘員は銃や棒を持ち、抗議行動に介入。デモ隊を強制的に解散させたり、数人に暴行を加えたりした。
ハマスに批判的な活動家たちがソーシャルメディアで広く共有した複数の動画では、ガザ北部ベイトラヒアで若い男性たちが行進している。参加者は「出ていけ、出ていけ、出ていけ、ハマスは出ていけ」と声をあげている。
ハマスの支持者たちは、抗議デモは大きな意味をもたないとし、参加者は裏切り者だと非難した。ハマスはこれまでのところコメントしていない。
ガザ北部での抗議デモは、ガザの武装組織イスラム聖戦機構がイスラエルに向けてロケット弾を複数発射したことを受け、イスラエルがベイトラヒアの大部分に避難命令を出した翌日に行われた。
(BBC2025年3月26日)
ガザでハマスへの抗議デモ、何百人もが参加 開戦以来最大規模 - BBCニュース

あれ、ヘンですね、反イスラエルデモじゃありませんよ。

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BBC

またXにも

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XユーザーのDalia Ziada 

このなかの「カタールが支援する偏向マスコミ」とはアルジャジーラのことです。

まぁ当然の声です。
ガザの一般住民にとってハマスがガザに居てテロを起こし続けることは、イスラエルの攻撃対象となってしまいます。
ですからこのデモはは、別にイスラエル万歳なんて言っているわけではなく、ストレートに「ハマス出て行け」です。
ハマスの親類であるイスラム聖戦機構がイスラエルにロケット弾を撃ち込んだ翌日に起きています。
こういった過激派のテロ攻撃は、報復されることを前提としており、イスラエル軍機が報復爆撃に来た時には過激派は遁走し、住民だけが被害を受けて、ガザ保健省という名のハマスが怒りの声明を出す、という仕組みです。
ハマスなどは空爆による民間人被害を喧伝して、このようにイスラエルは無法なのだ、停戦協定は守られていないと宣伝できます。

ガザの一般住民にとってはたまったもんじゃありません。
ですから、疫病神は出て行けというデモとなりました。

「ガザ北部での抗議デモは、ガザの武装組織イスラム聖戦機構がイスラエルに向けてロケット弾を複数発射したことを受け、イスラエルがベイトラヒアの大部分に避難命令を出した翌日に行われた」
(BBC前掲)

同じようなことが、1979年9月にパレスチナゲリラ(PLO)とヨルダン政府との間で起きたことがあります。

「ヨルダン王国はアラブ諸国の一つであり、パレスチナに隣接してその東に位置するため、第1次中東戦争と第3次中東戦争で生じたパレスチナ難民の多数が移住してきていた。パレスチナ=ゲリラ組織のPLOもヨルダンを拠点に活動し、イスラエルを攻撃したので、イスラエルもしばしばゲリラ鎮圧の名目でヨルダン領内に侵攻してきた。
 当初、ヨルダン政府はPLOを支援していたが、ゲリラの中にはヨルダンの王政を批判するものも現れたので、フセイン国王はパレスチナ難民とPLOの存在を、ヨルダンを危険にさらすものと考えるようになり、1970年9月にPLOに国外退去を宣告し、弾圧を加えた。首都アンマンのパレスチナ難民キャンプが戦場となり、一般市民も巻き込んで、パレスチナ人だけでも4000人近い死者が出た」
ヨルダン内戦/黒い9月

今回の反ハマスデモも構図は一緒です。
過激派はそこに住む人たちの平和な生活を犠牲にして、「パレスチナ解放」を唱えて爆弾を破裂させ、ロケット弾を撃ち込みます。
そしてとうとう一昨年10月7日にはハマスの戦闘員が、野外コンサートにロケット弾を大量に撃ち込んだ後に突入し、手当たり次第に発砲して200名以上を虐殺し、100人以上を拉致しました。
下の写真は、血だらけの女性が髪をつかまれて車に連れ込まれています。
この女性は長期に渡る人質となったはずで、生死は不明です。

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ハマス戦闘員が音楽イベントに――若者ら260人が犠牲に 「奇襲」「民間人の人質」「SNS」…イスラエルに異例な大規模攻撃 - ライブドアニュース (livedoor.com)

これが「武装勢力」とやらの「パレスチナ解放闘争」だそうです。
このようなテロ行為を日本のメディアは「イスラム組織ハマスの解放闘争」と呼んで美化しました。
つまり、ハマスはガザ地区を暴力で支配しているだけであって、なんの合法性も正義も持たないテロリスト組織にすぎません。
それを知ってか知らずか、うちの国の首相はこの10.7テロの
後、パレスチナ自治政府とイスラエルに平和を呼びかける電話をしたそうです。

「岸田文雄首相は10日、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長と近く個別に電話会談を行う方向で調整に入った。政府関係者が明らかにした。イスラエル軍とパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが大規模な戦闘状態に陥っていることを踏まえ、イスラエルとアラブ諸国の双方とも良好な関係を持つ日本の立ち位置を生かし、停戦を呼びかける」
(産経10月10日)
<独自>岸田首相、イスラエル・パレスチナに停戦呼びかけへ - 産経ニュース (sankei.com)

当時、おもわず馬鹿ですか、と吹き出したことを思い出しました。
だってパレスチナ自治政府はなんの力も権限もない映画の大道具みたいなところですよ、そんな所になにを期待しているのですか。
そりゃ、パレスチナ自治政府は、即時和平を働きかけよう、もっと支援のカネを送って下さい、と答えるでしょうが、なんの力もありません。
パレスチナ自治政府とは、昔のPLOのことですが、かつてはソ連の後ろ楯でブイブイいわしていましたが、今は腐敗して衰弱しきっています。
カネなし、武力なし、人材なしで、136カ国から承認された 「国家」のようなものだという看板だけが頼りですが、これもハマスに奪われかかっています。
パレスチナ自治政府 - Wikipedia

2007年にイランをバックにつけた新興勢力であるハマスと内ゲバを演じてコテンパンにされて以来、ガザ地区の実権はすべてハマスに「実効支配」されてしまいました。
ハマスはイランから潤沢な資金と武器、そしてイラン革命防衛隊の支援をもらって勝利を収めました。
以後、自治政府はヨルダン川西岸に引きこもって、ガザはハマスの天下です。

「2007年3月17日、ハマースとの挙国一致内閣が成立したが、両者の抗争は断続的に続いた。6月11日、ハマースがガザ地区の占拠に及んだことで、アッバースは一方的に内閣の解散を宣言。ハマースを排除した新内閣(首相サラーム・ファイヤード)を組織したが、ハマース側は当然これを認めなかった。以後はパレスチナは、ガザ地区を領するハマースと、ヨルダン川西岸地区を領するファタハの分裂状態となった。2012年10月にヨルダン川西岸地区のみで実施された地方選は、ハマースがボイコットしたため事実上のファタハへの信任投票となったが、主要都市で敗北した」
ファタハ - Wikipedia

一方、ハマスはUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)に浸透し、世界からの支援を独占してきました。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) |UNRWA

UNRWAは通常の支援機関とは異なり、パレスチナ難民キャンプの運営自体に関わっています。
教育や病院など900以上の施設を運営しており、道路などのインフラ整備なども実施しています。
その結果、UNRWAだけで3万人という大量の職員を雇用して、もちろんハマスに忠誠を誓う者しか採用されません。

UNRWAは5地域で702校を運営し、年間約55万人のパレスチナ難民の子どもたちに無料で初等教育を提供しているほか、次の教育・訓練施設を運営しています。
教員養成校2校(ヨルダン川西岸およびヨルダンに各1校):約2000人が教育学を学んでいます。
技能・職業訓練センター8校:約8000人のパレスチナ難民が様々な分野の技能・職業訓練や高等教育を受けています。  

EUだけで毎年UNRWAに6億9100万ユーロ(約1080億円)もの援助をおこなっており、巨大な利権となっています。
日本もUNRWAに対し第6位の援助国で、3320万米ドルを拠出していました。

このUNRWA利権を握っているのは、ガザ地区を「実効支配」しているハマスだからです。
日欧の「善意」は、ロケット弾に変わっているのです。

それを知っているガザ住民は、一昨年の23年7月には、大規模な反ハマスデモを起こしています。

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ガザ地区住民がハマスに抗議 生活苦から数千人がデモ参加(AP通信) - Yahoo!ニュース

「ハマスは"鉄の拳"でガザ地区を支配し、デモは禁止され、反対意見は封じ込められた。
 2006年に実施されたパレスチナ自治区の選挙で多数派となったハマスは翌年、ガザ地区を実効支配するに至り、イスラエルとエジプトは同地区を封鎖した。
 イスラエルにしてみれば、同国の生存権を否定するハマスを封じ込める必要があったが、封鎖はガザの経済を荒廃させ、失業率を急上昇させ、頻繁な停電をもたらした。
 現在の猛暑下で電力受給が逼迫、住民は1日に4時間から6時間の電力供給しか受けられない。
 湾岸の富裕国カタールから、ガザ地区の最貧困家庭に毎月100ドルが支給されるが、ハマスはそこから約15ドルの手数料を天引きしていることに対しても、デモ参加者はハマスを批判している」
(AP2023年7月31日)

そしてとうとうハマスは「教育組織」「福利厚生機関」はたまた「UNRWA 」「ガザ保健当局」といった仮面を脱ぎ去って、10月テロを行い、ガザを焦土と化しました。
ハマスは「悲惨なガザ住民を救うための勇敢な戦士」という顔を外には見せつつ、ガザ住民に対しては厳しい抑圧政治を敷いてきました。

そしていったんイスラエルとの戦闘になれば、住民を楯にしてその影から攻撃を加えます。
「ハマスは学校や病院を作ってきた」と言いながら、その地下には大規模なトンネルを堀り、戦闘拠点を作っていました。
人質はこのなかに閉じ込められていたようです。
イスラエルのワンブロックを焦土にするような空爆は強く批判されるべきですが、それはこのような背景があったからです。

やっとガザ住民にハマスノーと言えることが出来るようになったことを祝福します。
いままでの戦争中にも、ハマスが備蓄した支援の食料、燃料などを独占したために何度か暴動が起きていました。
そして戦後もまた支援を横取りしようとしていることに怒っているのです。 
このようなデモを過大に評価することはできませんが、仮にイスラエルでネタニヤフが失脚するようなことになれば、それと連動して新たなガザ政府を選ぶ選挙も不可能ではありません。

 

 

 

2025年3月30日 (日)

日曜写真館 乱るゝは風の当字や蘭の花

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蘭の花の風に祀りて吉備津彦 宮津昭彦

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蘭の葉のとがりし先を初嵐 荷風

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蘭の香にかなひて眠る薄瞼 飯田龍太

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蘭の香や浮世に遠き謦も鳴る 月渓

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蘭よりも大きリボンの付けられぬ 野中 亮介

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透ける洋蘭の呼吸音です植物園はいま 浅沼参三

 

2025年3月29日 (土)

ロシアのNATO離脱工作はいまや8合目

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トランプがウクライナ和平交渉でプーチンが遅延戦術をとっていることを認めました。
うぬぼれが強いこの男としては珍しい弱気ですが、なにをいまさら。

「ドナルド・トランプ米大統領は、ウクライナ戦争の早期終結に向けた自身の取り組みが思うように進んでいないことを認めた。その上で、ロシアが西側諸国からさらなる譲歩を引き出そうと、米国が仲介する停戦交渉を意図的に遅らせているように見受けられると指摘した。
トランプ氏のコメントは、ホワイトハウスが25日に黒海での停戦合意を取り付けたと発表した数時間後に出された。ホワイトハウスが合意を発表すると、ロシアは直ちに、停戦条件として西側諸国からの一段の制裁緩和を要求した。
トランプ氏は、ロシア政府が合意の履行を先延ばしにしていることを問われると、ロシア政府は「時間稼ぎをしている」可能性があると述べた。不動産交渉における自身の過去の戦術になぞらえた。
トランプ氏はニュースマックスのインタビューで、「私が長年やってきたことだ。契約書に署名したくない、ゲームにとどまりたい気持ちもあるが、そこまで乗り気ではない心境かもしれない」と語った。
(ウォールストリートジャーナル3月27日)
トランプ氏、ロシアが停戦合意で「時間稼ぎ」の可能性

プーチンを甘やかしたのは自分ではありませんか。
ゼレンスキーに対して「戦争を起こしたのはお前らだ」という正気とも思えない暴言を浴びせ、「もう勝てる可能性はない」と言ったのは、ロシアの領土要求に応じろという意味です。

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ベーアボック独外相

一方、ドイツのベーアボック外相は26日、こう分析をして見せました。
ちなみにベーアボックは反原発・反戦を掲げる緑の党党首ですが、この党もウクライナ戦争で急速に現実主義に目覚めたようです。

「26日、プーチンやクレムリンは、和平実現の願望について嘘をつき続けており、彼らの意向を真摯だと思ってはいけないと発言した。(略)
そしてベーアボック外相は、ウクライナへの大規模攻撃が続いていることは、プーチンが「戦場における事実を創出」しようとしていることを示していると強調した」
(ウクライナフォーラム3月27日)
対露穀物・肥料制裁など存在しない=ベーアボック独外相

ここでベーアボック独外相が言っている「戦場における事実の創出」とは、要はプーチンがこの交渉という手段を使って侵略地域を確定し、さらに拡大しようとしていることを指しています。
プーチンには停戦などする気はまるでありません。
ここで停戦したら彼が目標としていたウクライナ全土の制圧はおろか、4州の完全支配、クルスクからのウクライナ軍の放逐にははるかに遠いからです。

しかもいまや戦争前まで黒海艦隊が有していた黒海の制海権すら失いかけています。
せめて「非ナチ化」としてゼレンスキーの追放くらいは勝ち取らないと話になりません。
そのためには戦争中にもかかわらず、指導者を代えることを意味する大統領選の実施が必要です。
戦争中に指導者を代えるというのは非常識の極みですが、トランプはゼレンスキーに対して「お前は独裁者だ。選挙をしていない」と罵りました。
トランプの言い草はプーチンの「非ナチ化」要求に応じたもので、いわば大戦中にヒトラーからルーズベルトを代えろといわれてハイハイと従うようなものです。
もうプーチンの言うなりになれば「平和が来る」と思っていたようです。
しかしプーチンはそれほど甘くはなかったようです。

そりゃそうでしょう。
いくら人命が安いロシアだろうと、すでに最低で9万5千人、最大で20万以上の戦死者を出しているのです。
あのソ連崩壊の引き金となったアフガン戦争すら戦死者1万5千人なのですから、推して知るべしです。

「ここ数か月の間に死亡した兵士の遺体の多くは戦場に残されたままである可能性が高いことなどから、ロシア軍兵士の死者数は、14万人から最大で21万1000人以上に上る可能性があると指摘しています」
(NHK2025年2月22日)
“ロシア軍兵士 死者数は9万5000人以上” 英BBC独自調査を報道 | NHK | ウクライナ情勢

これだけの損害を出して収穫なしではいくら全体主義国家だといえど政権が持ちません。
ベーアボックはこう述べています。

「過去3年間、ロシアは、嘘や戦争プロパガンダは言うに問わず、偽りのナラティブもまたたゆまず推し進めてきたと指摘した。
その際同氏は、「ロシアが言うような、穀物や肥料に対する制裁など存在しないのだ。そのような制裁は過去3年間なかった。ロシアは、世界における穀物と肥料の最大の輸出国の1つであり、それは貿易が完全に可能であることを示している」と強調した上で、国連事務総長が技術的問題の解決手段の模索の努力をしていたが、ロシアは繰り返しその提案を拒否してきたことを指摘した。
同氏は加えて、「特に、黒海とウクライナの穀物に関しては、プーチンは世界で最も貧しい人々には一切の関心を示すことがなく、他方で、世界の最も貧しい人々の問題と挑戦を繰り返しもてあそんできた」と喚起した」
(ウクライナフォーラム前掲)

プーチンは平気で嘘をつきます。まるで穀物輸出の激減の原因が経済制裁にあるかのように言っています。
実際は、ウクライナの穀物輸出を妨害してきたのは黒海艦隊とロシアが大量に敷設した機雷が原因です。
2022年7月に「黒海イニシアティブ」という平和的に穀物輸送するための協定がロシアと国連の間でとりかわされました。
しかしこれを一方的に破って、ロシアは翌年7月には黒海での船舶航行制限、封鎖地域の拡大の強硬策に走ったために、実質上ウクライナは自国の港から海上輸出が出来なくなりました。
現在ではいたしかたなくルーマニアまで陸路で運び、そこから海上輸出しています。

ロシアに対して最も効いている経済制裁は原油輸出ではありません。
原油については、中国とインドが買いたたいて引き取ってしまったために問題なく流通しているようですが、問題は海外におけるロシア資産の凍結です。

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CNN

「欧州はこれまでのところ、欧州連合(EU)が押さえているロシア中央銀行の現金2290億ドルに手を付けるのを拒んでいる。この現金は、ロシアのプーチン大統領が2022年にウクライナへの全面侵攻を行った後で凍結されたものだ。
しかし先週、フランスの議員らは政府に対し、ロシアの凍結資産の使用を求める法的拘束力を持たない決議案を可決した。使用目的は「ウクライナの軍事支援並びに復興の資金に充てる」ことで、とりわけ利息による収益ではなく資産そのものの活用を明言している。
米国とカナダは既に政府の権限を強化する法律を導入。ロシアの凍結資産の差し押さえを可能にしている。米国ではバイデン前政権の最後の日々、欧州の同盟国に向けて、動かせない状態にあるロシアの資金を差し押さえるよう説得を試みてもいた。
その方面では先週、一定の進展がみられた。欧州議会が同意した決議は、ロシアの凍結資産をウクライナの「防衛と復興」のため差し押さえるという内容だった。現時点で決議の文言に関して、欧州議会議員による採決はまだ行われていない」
(CNN3月22日)
ウクライナ支援の資金が必要な欧州、ロシアの資産に手を付けない理由は - CNN.co.jp

現時点で、ヨーロッパはロシア海外資産を差し押さえていますが、現物そのものに手を着けずその利息のみをウクライナ支援に当てています。
それも不都合だから全面的に経済制裁を解除しろ、これがプーチンの和平条件です。

プーチンの主敵はNATOです。
ヨーロッパとは国境を接しており、歴史的にも確執を繰り返してきた地域です。
旧ソ連の時の最大版図(そのなかにはウクライナやバルト三国も含まれていましたが)を回復させ、近隣国をバッファにしてロシア、東欧、中欧に及ぶ広大な勢力圏を回復するのがプーチンの目標です。
米国はNATOの後ろ楯となり、強大な軍事力を提供しているから問題なのであって、実は二の次の敵にすぎません。
いくら頭のおかしな独裁者でも、米国と真正面から核戦争をする気はないのです。

ですから、ロシアの最大の戦略目標はNATOの解体です。
とりあえずはウクライナのNATO加盟を阻止し、米国のウクライナへの軍事援助停止させ、しかる後に米国のNATO離脱を実現したいと考えてきました。

米国がNATOから離脱すれば、NATO体制は崩壊するでしょう。
米国が西側諸国に対する覇権を喪失して世界を安定させているパックス・アメリカーナも同時に崩壊します。
そうなればいわゆる「西側陣営」は瓦解し、その後に現れるのは、ロシア圏、西ヨーロッパ圏、中国圏、そして縮小して米国だけとなってしまった米国圏というブロックです。
このブロック間の合従連衡が21世紀中葉の世界地図となるかもしれません。まさに悪夢です。

おそらくプーチンは今までありとあらゆる機会を通じてトランプの耳にNATOへの不信を吹き込み、離脱をそそのかし続けたはずです。
実は第1次政権時代の2018年にもトランプはホワイトハウス内で何度も「NATOからの離脱」を口にしたと言われていますが、その都度ジョン・ケリー首席補佐官、ジョン・ボルトン、ハーバート・マクマスター国家安全保障問題担当補佐官らの猛反対に遭い、引き下がらざるをえませんでした。
このことはただの噂ではなく、ボルトンが本に書いています。

トランプは第1次政権当時から、プーチンとは深いつながりを持っていたようです。
側近やスタッフを部屋から追い出して、プーチンと電話で話しこんだことも何度も目撃されています。
とまれこのようなプーチンとの関係を、トランプは深い信頼関係と考えており、今回の和平交渉もスラスラといくと考えていたようです。
それがこのザマです。
いまやこのロシアの工作は8合目まで到達しました。もう一息で西側陣営は崩壊します。

もういいかげん眼が冷めて欲しいものです。

 

 

2025年3月28日 (金)

旧統一教会に解散命令ですとさ

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旧統一教会が解散命令を東京地裁から受けました。

「旧統一教会の高額献金や霊感商法の問題をめぐり、東京地方裁判所は「膨大な規模の被害が生じ、現在も見過ごせない状況が続いている」として国の請求を認めて教団に解散を命じました。法令違反を根拠に解散が命じられるのはオウム真理教などに続いて3例目で、教団は即時抗告するとしています」
(NHK 2025年3月25日)
旧統一教会に解散命令 東京地裁 高額献金や霊感商法の問題で国が請求 オウム真理教などに続き3例目 | NHK | 旧統一教会

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画像・写真:旧統一教会と北朝鮮 30年来の深い関係【礒﨑敦仁のコリア・ウオッチング】(1/8):時事ドットコム

あらかじめ言っておきますが、私は旧統一教会などはしゃもない反日宗教だと思っています。
上の写真のように、日本から信者に寄付させた巨額資金を惜しみなく北朝鮮に献上して、勲章すらもらっているような団体です。
まがいもない悪質カルト宗教そのものです。
旧名称に「統一」がかぶっているのは、朝鮮半島生まれだからで、あの国の重要な輸出品であるウリスト教のひとつにすぎません。
自民党に反共連合という形で食い込んだ時期もありましたが、その本質は反日カルトです。
統一教会問題まだある論点 教団の「反日思想」 原語資料にある"これだけの証拠"(吉崎エイジーニョ) - エキスパート - Yahoo!ニュース

あんなもんを拝むなら、ユタさんを拝むほうがよほど健康的です。
しかし旧統一教会が邪教であろうとなかろうと、彼ら信徒が拝む限りそれは「宗教」なのです。
ショーコーだろうとブンセンメイだろうと、皆一緒。
他者の論評を許さない排他的主観、あるいは幻想が宗教です。
宗教という器の中には、最良の魂の安らぎもあれば、邪悪なものも入っているのです。

国は旧統一教会に「組織性、悪質性、継続性」があったから解散だといっていますが、どんなもんでしょうか。
たとえば、解散命令の理由の献金にしても、これが「悪質」かどうかを、誰が判断できるのでしょうか。
安倍氏を暗殺したテロリストの母も「喜んで」喜捨したのかもしれません。
強いて言えば強要された、詐欺的方法で騙されたというのなら、強要を受けたか受けないかは原則として信徒の内面の問題であって誰にも分かりません。
現にテロリストの母親はいまだに入信しており、いささかも騙されたとは思っていないようです。

それほどまでに「宗教」とはひとの精神の内部の問題なのです。
だから怖い。主観が現実を動かすのです。幻想に沿ってカネも動くし、軍隊すら動きます。
時には国家そのものも動きます。
ガザ戦争の背景には宗教対立が背景にありますし、ウクライナ戦争を煽り立てているのはロシア正教です。

ですから内面まで立ち入って禁止するとなると、あらゆる宗教が行っている喜捨行為を禁じねばならなくなります。
するとあらゆる宗教に解散命令を出さねばならなくなります。

ならば問題はその額でしょうか。
実はこれも1億2億の宗教的喜捨など、そう珍しいことではないのです。
カソリックなど諸外国の事例では1億、2億の献金などよくあること。
ギャングの寄付で出来た教会があるほどです。
「組織性・継続性」に至っては、「教会」と名乗っている以上、それは組織を継続し拡大するために作ったのですからあたりまえであって、ことさら旧統一教会に限ったことではありません。

もちろん旧統一教会を擁護する気などさらさらありませんが、元々「宗教」とはそういうものなのです。
旧統一教会のやり方があまりにも幼稚だったからこうなっただけのことで、そう驚くことではないのです。
ひと頃こんなこんなことをやっていた宗教法人は両手の数ほどあったはずですが、それをいちいち解散請求するつもりなのでしょうか。
民事的に処罰されるべきは処罰する、それでジ・エンドです。
解散命令など出すのは筋違いです。

去年3月27日、永岡文科相が統一教会に対する5回目の「質問権」を行使した時から、解散は既決のことでした。
しかもやっているのが司法ではなく、文科省傘下の文化庁という盲腸のような機関なのですから、いかにもこの国らしい姑息さです。

「文化庁は28日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する5回目の「質問権」を行使、教団側に質問を送付したと発表した。永岡桂子文部科学相が27日、宗教法人審議会に質問内容を諮問し了承された。回答期限は4月25日。
5回目は教団の組織運営や財産関連、献金などのトラブルを巡る示談状況など計203項目について回答を求めた。裁判所への解散命令請求の可否判断は4月以降になる。
教団側の過去4回の回答内容は乏しく、教団による違法行為の「組織性、悪質性、継続性」を要件とした解散命令請求の可否を文化庁が判断できる状況に至っていない。このため5回目の行使を決断した」
(産経3月28日)
旧統一教会問題 文化庁5回目質問権を行使 - 産経ニュース (sankei.com)

旧統一教会側は「組織性、悪質性、継続性」はないと言っています。

「文科省はおととし、解散命令の要件である「組織性」「悪質性」「継続性」の3つを満たすと判断し、旧統一教会に解散命令を出すよう東京地裁に求めました。
これに対し、教団側は幹部らが刑事責任に問われておらず、解散命令の要件となる「法令違反」は刑事事件のみが対象で、「民事上の不法行為は含まれない」と主張し、全面的に争っていました」
(TBS3月25日)
旧統一教会に解散命令で教団側は「法治国家としてあり得るのか…」東京地裁は「類例のない膨大な規模の被害生じた」(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

そりゃそう言うでしょうとも。
2018年に、安倍政権は霊感商法でだまし取られた寄付を返還できるように消費者契約法を改正しました。

これが決定打でした。いままで当人の寄付だと言って居直られたのが返還可能になってしまったのですから。
このことにより旧統一教会は霊感商法がたちゆかなくなり、2018年から19年にかけては旧統一教会側が主張するように訴訟は1年に
1件か2件にとどまっています。
つまり霊感商法を根絶したのは安倍氏なのです。

聞いているか、山上某よ。お前は旧統一教会の霊感商法、つまりお前の母親を全財産をドブに捨てたことに救済の道を開いた大恩人を殺したのだぞ。
逆恨みともいえない勘違いテロで世界的政治家を殺したのです。

むしろ問題は、この解散命令がテロリストの要求の結果生まれたことです。
安倍氏への同情が大きくなったことを恐れた反安倍メディアが同調してお涙頂戴ストリーを作り上げ、安倍氏暗殺事件を旧統一教会問題にすり替えました。

しっかりした保守の理念を持たず、お茶の間ワイドショーで政権を運営していた岸田氏は、これを党内の政敵である安倍派の一掃に無理やりに接合しました。
初めから安倍氏を暗殺した外道の言うことなど一切無視すればよかっただけのことで、テロリストに与えるべきは、絶望と無力感だけで充分だったはずです。

テロリストとその志願者に対して、テロをやってもなにも変わらない、政府は微動だにしない、一切の交渉もしないし、警察はテロリストに物語を語らせない、名前すら開示しない、動機も聞かない、一切を黙殺する、これが先進国のテロ対応原則です。
ところが奈良県警はベラベラと捜査情報をリークしまくり、メディアはテロリストの悲話を作り、一部の者はテロリストを「義士」とまで称賛しました。
そして、旧統一教会と自民党の代議士との関係などという、まったくどうでもいい方角にこの事件を逸らしてしまったのです。
あげく、宗教法人解散劇です。馬鹿馬鹿しい。

こんなことをしたために、テロをすれば自分の願望が叶うという妙な空気が生み出されました。
手作りで爆弾を投げる、銃を作る、簡単に人を刺す、これが安倍暗殺事件以降の世情の「空気」です。
テロリストに褒美をやればこうなります。

 

2025年3月27日 (木)

山田吉彦氏、国民民主から出馬

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昨日、末尾でも書きましたが、海洋国境問題で一貫して戦ってこられた山田吉彦東海大教授が国民民主から出馬するとのことです。
パチパチ。
王毅の腕にすがってピエロを演じて見せる幹事長がいるような自民ではなく、国民民主にしたのは正解でした。

「海洋安全保障の専門家として知られる東海大海洋学部教授の山田吉彦氏(62)が、今夏の参院選比例代表に国民民主党から出馬する方向で調整していることが23日、関係者への取材で分かった。山田氏は産経新聞の「正論」執筆メンバー。「停滞している海洋政策や国境政策を進めるために国政に出ることを考えている」と話しているという。
山田氏は令和4年1月以降、尖閣諸島を行政区域に含む沖縄県石垣市の尖閣周辺の海洋調査を3度実施した。昨年4月の調査では、魚釣島の海岸に漂着するごみが増え、ヤギの食害で植生の衰退が進んでいることなどを報告。「海洋調査は本来、政府がすべきで、政府が島を守らないといけない」との考えを示していた」
(産経3月23日)
<独自>東海大・山田吉彦教授が国民民主から参院選出馬へ 「国境政策進める」(産経新聞) - Yahoo!ニュース

いうまでもありませんが、本来、山田氏がしてきたような尖閣水域や魚釣島の現地調査は国がするべきことです。
自国領土なら領土らしく、正しく主権を行使するのはあたりまえすぎていまさら言う気にもなれません。
国が予算をつけて海洋調査船を使って周辺海域を綿密に測量し、漁業資源を調べる、そして尖閣諸島には上陸して生態系を調査することをせねばなりません。
しかしこれを阻んできたのが、なんと日本政府だというのですからうんざりします。

「尖閣諸島は「日本人が行けない日本の島」の象徴的存在である。政府は「尖閣諸島の安全な維持管理」を理由に民間人の島への上陸を認めておらず、それは行政トップの石垣市長も例外ではない。戦前に248人が生活した記録も残る魚釣島だが、戦後、中国が領有権を主張。2012年には当時の民主党政権が魚釣島を国有化したものの、いまも周辺海域を公然と中国船が行き交う「領海侵犯」が常態化している」
(山本皓一 2022年3月5日)

【写真】日本政府が10年ぶりに実施「尖閣諸島の海洋調査」が持つ大きな意義|NEWSポストセブン - Part 6

ですから、22年の尖閣調査は極秘に進められました。
沖縄県石垣市は2022年1月31日から2月1日にかけて、東海大学山田教授にに委託する形で尖閣諸島周辺の海洋調査を実施し、調査船「望星丸」には中山義隆・石垣市長も乗船しました。
国はこれに許可を与え、海保巡視船8隻、空からは海自哨戒機がガードを固めるという陣容でした。

しかしそれでも中国海警は「領海警備」をしていました。

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NEWSポストセブン

「尖閣周辺の接続水域では中国海警局の公船2隻が調査船に接近してきたが、中国船の動きを予測察知していた海保の巡視船8隻が調査船の前後左右を完全にガード。上空では海自の哨戒機も状況を監視するなど、調査は滞りなく実施された」
(山本前掲)

このような調査活動が、民間と当該自治体だけでされるという異常さが存在するのが日本です。
政府は中国公船が侵入するたびに遺憾とだけ言うだけで、すべてを海保に丸投げしてきました。

22年の調査のように国がサポートするだけ進歩したと評すべきなのです。主権を正しく行使しないから、中国につけ込まれます。

領土・領海として主権を行使するなら、当然その前提として綿密な調査が必須です。
しかし国は中国の顔色をうかがうばかりでなにもしません。
自民党ときたひにはさらに悲惨で、昨日見たように中国共産党にしがみつくことこそが平和を守ることだと錯覚しています。
そんな連中が政権中枢にいるかぎり、日本の主権と領土が防衛されることはありません。
彼らに代わってこれをしてきたのが山田氏でした。
このような活動をしてきた山田氏が自民を選ばずに国民を選んでしまう、これが今の石破政権の性質をよく現しています。

そんなわが国を尻目に、今日も中国の軍艦や調査船は堂々と南西諸島を通過していきます。

2025年3月26日 (水)

情けなさマックスだった日中韓外相会談

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ナニやら日中韓の外相会談をしたようです。
今の石破政権の岩屋外相となると、どうせやる前から負けているに決まっていると思って眺めていると、ヤッパリ負けました。
というかハナから勝つ気などさらさらなく、友好を叫ぶだけが平和だと勘違いしています。

ロイターはすっきりこれだけ。報じる価値無しということのようです。

「21日 ロイター] - 訪日中の王毅・中国外相は21日、石破首相と会談し、相互信頼を高め、協力を強化して世界にさらなる安定と確実性をもたらすべきだと伝えた。国営の中国中央テレビ(CCTV)が報じた。
報道によると王毅外相は会談で、日本は二国間関係の政治的・法的基盤を維持し、歴史問題や台湾問題に関する政治的約束を履行すべきだと述べた。」
(ロイター3月22日)
中国外相、石破首相と会談 「相互信頼と協力強化を」=報道 | ロイター
日韓がなにを言おうと関係なし、要は王毅がなにを言うかだけが国際社会の気がかりだったということのようです。
象徴的なのは、あの日中議連の連中とのワンショットです。
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画像・写真:中国の王毅外相:時事ドットコム
これですよ、これ。王毅に嬉々としてぶら下がる親中議員がしゃしゃり出ています。
左には現職の自民幹事長にして議連会長の森山、右にはとっくにデッドストックに入っている河野洋平元自民党総裁までしゃしゃり出てくる醜態です。
おー不気味。こういう景色を媚を売るというのでしょうな。
トランプが在日米軍を縮小するかもしれないという時期に、中国とこんなことをしている政権中枢とはいったいなんなのでしょうね。
こういう自民党中枢のような連中を「マウントを取られやすい人」と呼ぶそうです。
強いものに迎合して侮られる人です。
ではどうしたらいいのでしょうか。
「具体的には、ボディーランゲージや相槌は少なめにして、リアクションも小さくすればいいのです。
マウントのターゲットにされやすいような人は、「人間とはみんな優しく、平和を望んでいる」と心から信じている、穏やかな考え方の持ち主がほとんどです。特に、なにか対策や努力をしなくても、人と人の問題は平和的に解決できると信じているため、無防備な状態で人と接しやすいのです」
"マウント取る人"への対処法|ニフティニュース
「対策も努力もなしで、国と国の関係を平和的に解決できると考えている人」、まさに今の自民党そのものじゃないですか。
対策は「相槌とリアクションは控えめに」だそうですが、まさに。
下の写真は安倍氏が習近平と会談した時のものですが、ニコリともしないで背筋を伸ばし相手の眼を見ています。
上の道化師たちと較べて見て下さい。
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第2次安倍政権下で初めてとなる日中首脳会談を前に…:中国・習近平氏 写真特集:時事ドットコム
キリっとしないから、この王毅を伝える中国外務省の記事は言いたい放題です。
「王毅氏は、今年は中国人民の抗日戦争と世界反ファシズム戦争の勝利80周年に当たる年であると強調した。歴史を正しく理解し、正しく扱うことは、戦後日本が国際社会に復帰するための重要な前提であり、近隣諸国との関係を発展させるための政治的基礎であり、日本が平和的発展への約束を遵守できるかどうかを試す重要な基準である。
中日間の4つの政治文書には歴史と台湾問題に関する明確な規定があり、これらは厳格に実施されなければならず、曖昧にしたり覆したりしてはならない。
中日平和友好条約では、中日共同声明のすべての規定を厳格に遵守すべきであると規定されており、同声明は条約とともに両国関係の法的拘束力のある指針文書を構成し、厳格に遵守されなければならず、歪曲または損なわれてはならないことを示している
中日関係の改善の勢いは容易に生まれたものではなく、両国関係の政治的基礎を維持することが特に重要である」
王毅外相が岩谷武史外相と会談 – 中華人民共和国外交部
例によってスゴイね。
「中日平和友好条約では、中日共同声明のすべての規定を厳格に遵守すべきであると規定されており、同声明は条約とともに両国関係の法的拘束力のある指針文書を構成し、厳格に遵守されなければならず、歪曲または損なわれてはならないことを示している」だそうです。
これは日中共同声明において、台湾について日本が「中国の一部である」ことを認めたと、常に中国が喧伝していることを蒸し返したものです。
では、件の1972年9月に調印された日中共同声明第三項を見てみましょう。
「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。
日本政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」
日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明
ここで言う「立場を充分に理解し尊重する」ということの意味は、 ”takes notes”ということです。
これはよく外交やビジネス交渉で、立場を異にしながらも妥結する場合によく使われる表現で、相手の主張は理解しましたが自分は違った考えですよ、という場合に使います。
「”take note”とは、英語のフレーズで、「注意を払う」、「記録する」、「覚えておく」といった意味を含む表現である。日常会話ビジネスシーンでよく使われる具体的な使用例としては、会議での発言記録する場合や、重要な情報忘れないように心に留める際などに用いられる
「Take note」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書
この日中共同声明は、田中政権が先走って米国の頭越しに国交正常化したいと前のめりになった時期のものです。
中国は文革による深刻な荒廃から立ち直るために日本の支援を熱望しており、田中も手柄として日中国交回復を引っさげて帰国したかったという事情から生まれました。
中国は、それ以前の1952年に日本が締結した日本と台湾との間で結んだ日華条約は「不法であって無効だ」と主張しましたが、日本は国際社会に復帰した条約を無効とするわけにはいきませんでした。
そこで日本政府は「意義を失い、終了した」という声明をだすことで納めようとしました。
「対日復交三原則の第三原則は、わが国が1952年に中華民国との間に締結した平和条約は、不法、無効であり、廃棄されなくてはならない、とするものであった。この主張は、中華人民共和国 (1949年に樹立宣言) の立場からすれば当然とも言えるが、他方、わが国としても、戦後わが国の国際社会復帰の枠組みの一環であった日華平和条約が不法、無効と認めるわけにはいかないことは明白であった。この双方の立場の違いを克服するには、交渉当事者の現実主義と外交的智恵を要したが、決して不可能なことではなかった。
実際にも、この問題は、共同声明発出直後に行われた記者会見において、大平外務大臣が「日華平和条約は、日中国交正常化の結果として、存続の意義を失い、終了したものと認められる」との一方的声明を行う(これに対し、中国政府が意義を唱えない)ことにより解決したのである」
(栗山尚一『台湾問題についての日本の立場-日中共同声明第三項の意味』)
JIIA -日本国際問題研究所
この日中国交回復の外務省随行団の一員だった栗山尚一(元駐米大使)は、中国が主張する「ひとつの中国」についてこう説明しています。
「第二原則は、台湾の地位に関し、先に引用した共同声明第三項の前段に述べられている中華人民共和国政府の立場を認めることを求めるものであった。この台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの中国の立場を受け入れることには、三つの基本的問題が存在した。
第一は、1949年に誕生した中華人民共和国は一度も台湾に実効的支配を及ぼしたことはなく、同地域は、中華人民共和国の支配を拒否する国民党政権 (当時) によって継続的に統治されてきている、という政治的現実である。
第二は法的な問題である。台湾の法的地位に関しては、サンフランシスコ平和条約がわが国の領有権を含む「すべての権利、権原」の放棄を規定するに止まり、同地域の最終的帰属を定めなかったという経緯がある。
これは、1949年以降の中国が、大陸を支配する中華人民共和国と台湾を支配する中華民国の二つに事実上分裂した事態の下で、サンフランシスコ平和条約の当事国である米国その他の連合国の間で、台湾をいずれの中国に帰属させるかについての合意が得られなかったことによるものである。
そして第三が、日米安保体制に係わる問題である」
(栗山前掲)
そして現実的には日米同盟との安全保障上の関係でした。
「韓国、中華民国(台湾)との間に相互防衛条約を結んでいる米国としては、万一朝鮮半島あるいは台湾海峡有事の際に、事前協議に基づく日本政府の許諾が得られず、沖縄の米軍基地の使用が著しく制約されれば、韓国、中華民国に対する防衛義務を効果的に果たせなくなることが懸念され、そのような事態は是非とも避けなくてはならない、という軍事上の要請があった」
(栗山前掲)
米国は後に79年の台湾関係法で明確になるように台湾に対して「防衛オプションを持っている」というのが立場です。
当時は米華防衛条約として明確に防衛義務を有していました。
しかし米中国交回復と共に大統領の取り得る「オプション」となりましたが、厳然として存在します。
そこで「戦略的あいまいさ」ということで落ち着いています。
「米軍の介入は義務ではなくオプションであるため、同法はアメリカによる台湾の防衛を保障するものではない。台湾関係法に基づく台湾有事への軍事介入を確約しないアメリカの伝統的な外交安全保障戦略は、「戦略的あいまいさ」(Strategic Ambiguity)と呼ばれる」
台湾関係法 - Wikipedia 
つまり、日中共同声明を認識する場合、当時の台湾はサンフランシスコ講和条約が締結され戦後秩序が作られた際に「最終的帰属」が決しておらず、中国は台湾を実効支配したことがなかったという歴史的事実が大前提であって、この状態は73年後の2025年に至るも変化していません。
そもそもこれは共同声明であって、条約ではありません。
日本は米国の「戦略的あいまいさ」を支持しています。
これを「法的拘束力がある指針文書」として押しつけてくるのが中国です。
法的拘束力などないことを、今までも機会あるごとに日本政府は表明しています。
たとえば小泉内閣では
「日中共同声明を巡っては、平成18年3月にも当時の小泉純一郎内閣は「法的拘束力を有するものではない」とする答弁書を閣議決定している」
(産経3月19日)
中国報道局長、石破内閣の日中共同声明「法的拘束力有さない」に反論 台湾と交流「反対」(産経新聞) - Yahoo!ニュース
また今回の中国政府の冒頭のブリーフィングに対しても、石破政権は同様の見解を示しています。
「石破茂内閣は11日、1972年の日中共同声明について、地方自治体や首長、地方議会、地方議員は声明文にある「中国の立場を十分理解し、尊重」する法的義務の有無を尋ねた質問主意書に対し、「法的拘束力を有するものではない」とする答弁書を閣議決定した」
(産経前掲)

ならばベタベタの「友好」ムードを演出し、岩屋外相のようにコメ不足の時に中国にコメ輸入の拡大を要請するなどというまねは止めたらよろしかろうに。
中国はこんな日本側の甘い腹積もりと裏腹に、淡々と尖閣に食指を伸ばしています。
とうとう尖閣は大型海警察の公船8隻体制に増大して、常にわが国領海を犯しています。

「中国海警局の劉徳軍(りゅう・とくぐん)報道官は24日、尖閣諸島周辺で操業していた日本の漁船4隻を追い払ったと主張した。海警局のサイトによると、劉氏は「(日本の漁船は)中国領海に不法に侵入した。中国海警局の船舶は法に基づき必要な取り締まり措置を取り、警告して追い払った」と述べた。また、尖閣諸島について「中国固有の領土であり、日本に対し、同海域における違法行為を直ちに停止するよう求める」とした」
(産経3月25日)
<独自>尖閣周辺の中国海警船、一時8隻態勢に 交代要員ではなく「異例」 - 産経ニュース 

日本側の抗議を歯牙にもかけない、これが中国です。
このような情けない自民党に対して、国民民主は領海問題で地道に戦ってきた山田吉彦氏を参院に擁立するようです。
まことにけっこう、どちらが政権党なのでしょうか。

2025年3月25日 (火)

真実味を帯びてきた米国のNATO脱退

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米国がNATOから脱退する可能性があると報じられています。

「NBCニュースがレビューしたペンタゴンのブリーフィングによると、トランプ政権はそれを変えることを検討しているという。
ペンタゴンは、アメリカ軍の戦闘司令部と司令部の大幅な再編に着手している。そして、検討中の計画の一つは、アメリカがNATOのヨーロッパ連合軍最高司令官(軍事用語ではSACEURとして知られている)の役割を放棄することを含むと、二人の国防当局者は述べた。
現在この役職に就いている将軍は、米国欧州軍の司令官も務めており、ロシアとの戦争でウクライナへの支援を監督する主要な司令官である。
このような再編成にどれくらいの時間がかかるかは明らかではなく、完了するまでに修正される可能性がある。
SACEURを放棄することは、少なくとも、第二次世界大戦以来、ヨーロッパの安全保障と平和を定義してきた同盟である」
(NBCニューズ3月19日)
Trump admin considers giving up NATO command that has been exclusively American since Eisenhower

このNATO司令官職は、ヨーロッパに対する米国の責任を象徴する地位でした。
この伝統は、米国がナチスドイツと戦った大戦中から戦後まで一貫した米国の立場でした。
初代の司令官は当時の大戦の英雄で、後の大統領ドワイト・D・アイゼンハワーであり、以来4星の将官(大将)によって継承されてきました。
つまり米欧同盟の揺るがぬ米欧連帯のシンボルだったわけです。
第1次政権の国防長官であったジェームス・マティスは
、2017年に「NATOは現代史上最も成功した、最も強力な軍事同盟だ」と誇らしげに語ったことがありました。
それほどNATOと米国は切っても切れない関係だったのです。

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JBpress (ジェイビープレス)

これが第2次政権になるといとも簡単に打ち捨てられることになります。
それはNATOたかり論が年来の持論のトランプが再登場したからです。

「ところが、先週末行った大統領選の選挙集会で、トランプ氏は仮にNATO加盟国がロシアから攻撃を受けてもこれを助けるつもりがないことを明らかにした。ロシアへの対応こそはNATOの核心部分であり、最優先事項に他ならない。にもかかわらず、トランプ氏はこう言い放った。「いや、私はあなた方を助けるつもりはない。むしろ彼ら(ロシア)に好き放題やらせるだろう」
(CNN2024年2月14日)
米国のNATO離脱、トランプ氏の本気度はかなりのもの - CNN.co.jp

「自分はヨーロッパを助けるつもりはない。ロシアの勝手にさせる」ですと、大統領としての見識もなにも、頭のネジが吹っ飛んだような発言です。
これは就任前の発言ですが、公約に忠実なトランプは有言実行(←褒めていない)でそのまま実行に移しました。
その表立っての理由は、NATO諸国が自分たちの適正な負担分を意図的に支払っていない、というものです。
つまりは米国はヨーロッパは防衛義務を怠たり、米国にたかっているのはけしからん、防衛費を3%にしろ、いやもう手切れだ、というものです。

こういう言い方はトランプの十八番で、日本に対してもしています。
それも「トランプの猛獣使い」とまで言われた安倍氏に対してです。
NHKの安倍首相番だった岩田明子氏はこう書いています。

「〝事件〟が起きたのは、会談が想定通りに進み、終盤に差し掛かったときだった。セーフガード(緊急輸入制限)の話に触れると、トランプ氏が「米国は安全保障上、日本を守っているのに、なぜ米国産牛肉が高いのだ? オーストラリアが日本を守っているわけではないのに、オージービーフは安い」と不機嫌になった。
そして、トランプ氏がいきなり、「Stupid deal(ばかばかしい交渉だ) Deal is off!(交渉はなしだ!)」と怒りを爆発させ、席を立ってしまったのだ。
首脳会談に備え、日本の茂木敏充経済再生相(当時)と下交渉を行っていたライトハイザー通商代表(同)の顔から血の気が引いたというから、トランプ氏の豹変(ひょうへん)は米国側にとっても予定外のトラブルだっただろう」
(産経3月9日)
安倍時代の日米決裂危機 トランプ氏説得秘話 ウクライナの事態人ごとではない 岩田明子 さくらリポート - 産経ニュース

結局この時は、トランプの娘婿で大統領上級顧問であったクシュナーがなだめて会談は再開されましたが、もう第2次政権では誰も止められないのですよね、と岩田氏は憂慮しています。
第2次政権では、物言う人はことごとく煙たがられて、いかに有能であろうと再び呼ばれることがなかったからです。
米国は日本を守っているのにアメリカンビーフが高い、いったいなんのこっちゃ、どう関係あるんかいな、アホとちゃうか、と思いますが、こういう大人なら赤面するようなことを公式の首脳会談で大声でまくし立て、おまけに席を蹴る、これがトランプ流のディールのようです。
こういうどこかの田舎のオッサンが酒場でクダを巻くようなことを首脳会談で言ってしまって無反省というのがトランプという男です。
トランプは飲みませんが、常に酔っぱらっているようなもんです。

トランプはNATOや日米安保の仕組みを理解していないか、分かっていてディールしているのかは知りませんが、そもそも間違っています。
確かにウクライナ戦争前までは、トランプのたかり発言は一部は的を射ていました。
NATOは太平の夢に眠りこけて軽武装を決め込んでいたからです。

「一方で14年には、NATOの加盟各国が国防費を今年までに国内総生産(GDP)の少なくとも2%へ引き上げることで合意していた。オバマ大統領以降、米国の歴代大統領はNATO加盟国に圧力をかけ、この拠出の水準を達成するよう迫ってきた。しかし合意の時点でその水準にあったのは米国、英国、ギリシャの3カ国のみだった」
(CNN前掲)

この太平楽が一度に吹き飛んだのはプーチンがウクライナに侵攻したからです。
ヨーロッパは現実のロシアの侵攻に恐怖し、特にロシアやウクライナと国境を接するエストニア、リトアニア、ルーマニアなど欧州のNATO加盟国は一斉に2%以上の拠出に踏み切りました。
軍事費削減の旗頭だったドイツさえ変化しました。

「ウクライナでの戦争を受け、ドイツも長年の政策に終止符を打つことを余儀なくされた。同国の国防費の拠出は従来、GDPに対してかなり少額に押さえ込まれてきたが、NATOに関するトランプ氏のコメントから間もない12日、ドイツのショルツ首相は政府としてGDP比2%に相当する国防費を拠出する約束を今年果たすと表明した。(略)
実際には、NATO加盟国間での国防費の拠出額は急増している。NATOによれば17年、欧州の加盟国とカナダの拠出額は2700億ドル前後だったのに対し、米国は約6260億ドルを支払った。23年には欧州とカナダの拠出額が3560億ドル、米国が7430億ドルとなる。NATO加盟31カ国中、今や11カ国が国防費の対GDP比2%以上の目標を達成している」
(CNN前掲)

メルケル軍縮によってボロボロにされたドイツ連邦軍さえ、いまや急速に蘇りつつあります。
しかしこのようなヨーロッパの大きな変化をトランプは理解せずに、40年間同じことを言い続けているのです。
第1次政権で安全保障補佐官だったジョン・ボルトンはトランプはNATOを脱退するつもりだと見ています。

「トランプ政権の大統領補佐官(国家安全保障担当)だったジョン・ボルトン氏と昨年夏、筆者のポッドキャスト番組で話をした際、同氏はトランプ氏について「NATOの前提を根本から見直すだろう。トランプ政権の2期目でそれをやるのだと思う。つまり米国をNATOそのものから離脱させるということだ」との見方を示した」
(CN前掲)

米国がNATOから脱退した場合、NATOは一気に存続の危機に立たされることとなります。
樋口元陸将はこう述べています。

「約10万人弱とみられる在欧米軍の主力が欧州から撤退したり、また、次図の通り、NATOにおいて、欧州(カナダを含む)各国を合わせた国防費(36%)と比較し、約2倍近くを国防費(64%)に充当し世界最強の軍事力を維持する米国が抜ければ、前掲のイスメイ卿が示したNATOの主要な3つの役割がすべて形骸化することになる」
(樋口譲次3月21日)

真実味を帯びてきた米国のNATO脱退、蘇るド・ゴール仏元大統領の遺言 トランプ政権、NATO軍最高司令官ポストの放棄を検討へ(1/3) | JBpress (ジェイビープレス)

このまま推移すればいわゆる「西側」と称された陣営は早晩消滅するのは必至です。
こういう素人同然の人物が大統領に座り、世界の安全保障体制を壊しまくる、なんとも悪い夢を見ているようです。
なんかバイデンが懐かしくなってしまいました。

 

 

2025年3月24日 (月)

ネタニヤフはイスラエルを分裂に追い込む

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トランプの後ろ楯で気を強くしたのか、ネタニヤフが暴走しています。
まずは、ガザの停戦協定が破られました。
トランプは贔屓にはベタベタに甘く、自分の思惑と異なる者には敵とつるんで叩いてきました。
イスラエルに対しては一切制止することなく、やりたい放題を認めたのですが、それがこの有り様です。
完全な停戦の失敗です。

「イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は18日夜、パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスに対する「戦闘を全面的に再開した」とするビデオ声明を出した。
ネタニヤフ氏は、「交渉は戦火の下でのみ続けられる」、「これは始まりに過ぎない」と挑戦的な警告を発した。
また、イスラエルはガザで拘束されているイスラエル人の人質を解放するため、ハマスとの交渉を試みてきたと主張。しかし、ハマスが毎回、提案を拒否したと非難した。
ネタニヤフ氏はさらに、すべての戦争目標を達成するため、イスラエルは戦い続けると宣言。目標は、「人質を戻し、ハマスを除去し、ハマスがイスラエルの脅威ではないことを確実にする」ことだとあらためて強調した」
(BBC3月19日)
ネタニヤフ氏、ガザ空爆は「始まりに過ぎない」 停戦合意は崩壊の危機 - BBCニュース 

そしてまた空爆が再開されました。
イスラエル空軍は精密爆撃を遂行する能力をもっているにもかかわらず、一ブロックを全滅させるような爆撃を市街地に行いました。
このような停戦前の空爆こそ多大な民間人被害を出した元凶であるにもかかわらず、なんの反省も総括もないようです。

「イスラエル軍は18日、パレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織ハマスの拠点に大規模な空爆を実施した。1月19日の停戦発効以降、最大規模の攻撃で、ガザ保健当局は少なくとも404人が死亡したと発表した。米国などが仲介する停戦延長交渉が決裂し、停戦合意の枠組みが崩壊しかねない情勢となっている」
(読売3月18日)
イスラエル軍の大規模空爆、死者404人に…ハマスが戦闘再開なら停戦合意枠組み崩壊の恐れ : 読売新聞

また同時にガザ南部での地上戦闘も再開されました。
やり残したハマス殲滅を徹底するということのようです。
ハマスは狂信的な宗教的イデオロギー集団です。したがって彼らが滅ぶことはありえません。
必ずその教条は残りつづけ、また芽生えます。
膨大な被災者からは無数の戦闘員が誕生することでしょう。
つまり終わりはない、どこかで区切りをつけて撤収せねばならないのです。
初期の頃には防衛戦闘といってよいのですが、もうとうに過剰反撃です。

「イスラエル軍は19日、ガザの中部・南部で地上作戦を再開。20日には北部で、その後エジプト国境に隣接するガザ最南端ラファのシャブーラ地区で地上作戦を開始したと発表した。これにより1月から続いていたハマスとの停戦を事実上放棄した形となる」
(ロイター3月21日)

イスラエル軍、ガザ北部・最南部で地上作戦再開 空爆で少なくとも91人死亡 | ロイター

20250323-154842

「深く悩まされている」ヘルツォークは、戦争の中で「分裂的な」政策のために政府をパン |イスラエルのタイムズ

この攻撃再開に対して強く抗議したのが大統領のアイザック・ヘルツォークでした。
大統領は、ガザに多くの人質が残っているにもかかわらず戦闘を再開し、これに国民の多くが大衆抗議行動をしているさなかに行われたことを強く非難しています。
また同時にネタニヤフが国内治安組織の長であるシンベトのローネン・バールを追放し、さらに司法制度を縮小する動きが政府を分裂に導いていると厳しく批判しました。

20250323-152302

ベンヤミン・ネタニヤフ首相とシン・ベトのローネン・バー
政府・国会がシンベトのバル長官解任決定:イスラエル内乱の危機か2025.3.21 – オリーブ山通信

シンベトとは、イスラエルにある三つの主要な情報機関の一つです。
別名はシャバクともいい、国内情報機関としてイスラエル国内で起きるテロや破壊工作、スパイ活動などについての情報を収集して対処する防諜機関です。
モサドがCIAのような対外諜報機関であるのに対して、FBIのような役割をしていたわけです。
シンベトの主任務は、ヨルダン川西岸地区やガザ地区からのイスラム過激派らによるテロ活動の監視と摘発でしたから、このハマスの大規模テロを未然に防げなかったのは、重大な過失でした。

これには背景があります。
このハマスの攻撃については実は事前に重大な警告が上がっており、イスラエル軍、諜報機関、そしてネタニヤフにも、ハマスに攻撃の兆しありという報告が上がっていたにも関わらず、彼らはなんの対処もせずに一方的な攻撃を許し対規模な殺害と多くの人質を奪われました。

「パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスによる越境攻撃について、イスラエルは開始3日前にエジプトから警告を受けていたと、米議会の有力者が11日話した。
AFP通信によると、米下院外交委員会のマイケル・マコール委員長(共和党、テキサス州)が、中東危機の機密情報に関する非公開の報告会の後、記者団に対し、「私たちの知るところでは、今回のような事が起こりうると、エジプトはイスラエルに3日前に警告していた」と話した。(略)
エジプト情報当局の関係者は今週、AP通信に対し、ガザ地区で「何か大きな事」が計画されていると、イスラエルに繰り返し警戒を呼びかけていたと話した。
「近いうちに事態が爆発すると伝えていた。非常に近いうちに、大ごとになると警告してきた。だがイスラエル側はその警告を軽くみていた」
この関係者によると、イスラエル当局はガザ地区の脅威を軽視し、ヨルダン川西岸地区に注意を集めていたという」
(BBC2023年10月12日)
エジプト、ハマス攻撃を3日前にイスラエルに警告=米下院外交委員長 - BBCニュース

 報告を受けていたこれらの機関はハレヴィ参謀総長と軍関係者が引責辞任し、シンベトのパル長官も責任を認めて辞任することを表明していました。

しかし、唯一ネタニヤフだけは戦争中であることを理由にして責任は認めながらも、今は辞任する時ではないと言い張って独断で戦争を拡大してきました。
こういうネタニヤフの責任回避について多くの反対論が国内で巻き起こっており、シンベトもこの件について調査中としていました。
このネタニヤフを調べていたシンベトのパル長官を、ネタニヤフが解任すると言い出しているわけです。

とうぜんの疑惑として、パルの後任にネタニヤフに都合のいい人物を据えるためだと勘繰られても致し方ありません。
シンベトはこれに抵抗して、正式な査問委員会が設立されるまで辞任させないとしています。
またネタニヤフの補佐官でもあったエリ・フェルドスタインが、カタールから金を受け取っていたという疑惑が浮上しています。
これは「カタールゲート」と呼ばれ、イスラエル国内で大問題となりました。

これらの出来事は並行して起きています。
共通するのはイスラエルの危険な右傾化です。
従来、イスラエルは外から見るよりはるかにバランスのいい国家で、三権分立が確立しているために、政府が独走できないような仕組みがあります。

「民主主義国家の基本は、三権分立である。政府、司法、国会は、それぞれの権利を維持しなければならない。しかし、この原則に基づき、イスラエルでは、政府の決めたことを司法の最高裁が簡単に却下することが可能であるため、ネタニヤフ首相は、かなり苦労させられている。イスラエルの司法は特に左派であり、右派系のネタニヤフ首相とは意見を違にすることが多いのである。
このため、さまざまな法案、人事を出して、国会が承認しても、その後で最高裁が却下してしまう。いわば、司法が政府の上に立っている状態だとネタニヤフ首相は言っていた。
ネタニヤフ首相は、最高裁が却下した法案が、復活するシステム、司法制度改革法案を打ち出して、司法にあたる最高裁と対立。国内では、意見が大きく分かれるようになった」
(オリーブの丘通信3月21日)
政府・国会がシンベトのバル長官解任決定:イスラエル内乱の危機か2025.3.21 – オリーブ山通信

このバランスを司法改革の名で替えようとしていたのがネタニヤフで、それに手を着けた矢先に10月のテロ攻撃が始まってしまい、戦時内閣という特例を楯に強引な戦争拡大に邁進してしまいました。
そして強烈なイスラエル贔屓のトランプが再登場し、ネタニヤフを応援したために、いっそうイスラエル国内の右傾化とそれに対する反発が拡がっているのです。

 

 

2025年3月23日 (日)

日曜写真館 むせび泣くあまりに高き蘭の香に

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蘭の香の言葉のはしにただよへり 米澤吾亦紅

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月落ちてひとすぢ蘭の匂ひかな 大江丸

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既望は葉がくれに見る蘭の香ぞ 松岡青蘿

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蘭の花はみだら晩学稚気多く 小野蒙古風

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星空も生者の側に蘭溢れ 花谷和子

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紫の淡しと言はず蘭の花 後藤夜半

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蘭の香や菊より暗きほとりより 蕪村

 

2025年3月22日 (土)

トランプが在日米軍を縮小する?

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やっぱり、そうきましたか。トランプが在日米軍を縮小するようです。
正確にいえば、米軍全体の削減計画の一環として、在日米軍の強化策を放棄し縮小させるということのようです。
在日米軍の場合、司令部機能が対象のようです。

トランプの天敵CNNはこう報じています。

「トランプ政権が連邦政府の縮小を目指しているため、ペンタゴンは米軍幹部の大幅な削減を検討していると、CNNと米国防当局者が入手したブリーフィング文書が明らかにした。
検討中の計画には、戦闘部隊の統合、統合軍の開発、訓練、教育を監督する総局の廃止、在日米軍の拡大の停止などが含まれている。
CNNが入手した文書によると、検討されている目を引く措置の中には、欧州司令部とアフリカ司令部をドイツのシュトゥットガルトに拠点を置く単一の司令部に統合すること、および米国の北部と南部の司令部を単一のAMERICOM司令部に統合することが含まれます」
(CNN3月19日)
国防総省、米軍トップへの大幅削減を検討 |CNNの政治

トランプのことを戦争好きだと勘違いしている人がままありますが、それは大変な間違いです。
トランプは経営者感覚ですから、戦争なんかしたら損だと割り切っています。
自国に対する攻撃ならともかく、子分どもの国への戦争なんかに関わるのはゼッタイに損。これが彼の本音です。
ですから、軍備なんか相手国にディールを仕掛けるための張り子の虎ていどに考えているふしがあります。
たとえば第1期政権時には正恩を会談に引っ張りだすために、朝鮮半島水域に空母を3隻並べて見せました。
実際の戦争以外で、外交的威嚇のために平時にこんな馬鹿なことをやらせた大統領はいません。
世界の海軍で10万t前後の巨大空母を保有しているのは(しかも12隻ですぜ)、英米仏くらいなもんで、英仏はそれぞれ1隻。
それをズラリと3隻集結させたのは、別に戦争をしたくてやっているわけではなく、たんに正恩をビビらせて会談に出ることを強要しただけです。
ハッタリ好きなトランプらしい。
しかも現実に正恩はビビって直接会談を呑んでしまったのですから、これがトランプの軍隊利用の成功イメージとなりました。
トランプは経験主義者ですから、頑固な小国に言うことを聞かせるには脅すに限るというのが教訓となりました。
先日のゼレンスキーをホワイトハウスから追放して見せたのも同じです。
大国とはディール、小国には脅迫というわけです。
そして小国はディールのカードに使い、しかも恩に着せて守ってやったくらいなことは言います。
なにもかもが自己チューな人なのです。

こういう空母の使い方にトランプの米軍観が現れています。
つまり軍隊などカッコだけあれば充分、だって平時は大の金食い虫だからオレの考える「ちいさな政府」の障害にすぎん、というものです。
DEIで統合参謀本部議長を切り、海軍作戦部長を切り、沿岸警備隊の司令官を首にしたのはほんの手始め。
マスクにバサバサ切らせる対象に「米軍」を除くなんていささかも考えません。
むしろ「米軍」こそ、ムダの本丸と考えていることでしょう。
「この文書は、イーロンマスクの政府効率局が国防総省や他の連邦機関にお金を節約するために抜本的な削減を行うように促したため、今月、米国防当局者によって上級指導者向けに作成されました。
ピート・ヘグセス国防長官は先月のビデオで、国防総省は「連邦政府最大の裁量予算で詐欺、浪費、乱用を見つける」ためにDOGEに頼ると述べた。
アメリカ軍の現在の年間予算は、8000億ドルを超えている」
(CNN前掲)
国防長官にピート・ヘグセスを当てたのは、州兵少佐でアフガン従軍経験はあるものの生粋の軍人ではないからです。
ピート・ヘグセス - Wikipedia
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CNN ピート・ヘグセス国防長官
「2012年、ヘグセス大尉はミネソタ陸軍州兵と共にアフガニスタンに派遣され、カブールの対ゲリラ訓練センターで上級対ゲリラ教官を務めた。それ以前には、ヘグセス中尉は2005年から2006年にかけて第101空挺師団第3旅団と共にイラクに派遣され、2005年にはバグダッドで歩兵小隊長として、2006年にはサマラで民軍作戦将校として従軍した。
その1年前、ヘグセス少尉は2004年から2005年までニュージャージー陸軍州兵部隊でグアンタナモ湾(JTF-GTMO)に勤務していた。ピートは最近少佐に昇進し、現在は個人即応予備軍に所属しています」
Honor Our Heroes
たかだかといってはナンですが州兵少佐という下級佐官どまりで、軍の枢要に関わったわけではありません。
むしろFOXのキャスターとして有名でした。
一方、バイデン政権がロイド・オースティン大将を国防長官に任命したのは、彼が黒人だったからというDEIがらみの理由もさることながら、イラク多国籍軍司令官という難しい任務をやりきり、米中欧軍(CENTCOM)の司令官などを歴任するというピカピカの軍人エリートだったからです。
ロイド・オースティン - Wikipedia
片や、軍歴は持っているもののしょせんはテレビキャスター、片や黒人のエリート軍人です。
米国の国防総省の予算は財政年度(2017年現在)には、連邦予算の支出の14.8%を占めています。

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とうぜんのことながら、巨大組織にありがちな浪費も目立っています。
「2014年9月の時点で、国防総省は「8億5700万ドルの過剰な部門と歳出」を有すると見積もられた。このありさまは過去数年にわたり生じてきた、そして成果をあてにされ続けてきたものにおける国防総省の浪費の、二つのありさまは特に言及するだけの価値がある:「アフガニスタンにおける一握りのペンタゴン従業員のための私的な別荘における1億5000万ドル」ならびに、ペンタゴンでの開発計画に過去20年をかけた「航空防衛飛行船JLENS英語版の調達」は、20億7000万ドルがかかると見込まれる」
アメリカ合衆国の軍事予算 - Wikipedia
いままでの民主党政権下ですらこれだけの浪費があるとされたのですから、トランプはマスクの政府効率化省(DOGE)に国防予算と肥大化した米軍機構をバサバサ切らせるつもりでしょう。
メインシナリオは3つ。欧州軍とアフリカ軍の統合化、米国内の軍の統合化、そして在日米軍の拡大計画の縮小です。
こういうことをやるのに生粋の軍人エリートは不要どころか、邪魔です。
彼らは米軍の世界戦略を熟知していますが、同時に「米軍」という巨大組織の権益代表でもあるからです。
高級将官の仕事は予算を引っ張ってくることも入っていますからね。
だからほとんど素人同然のテレビ司会者をマスクの受皿の国防長官に当てたのです。

それにしても、今やることかいと思います。
次期駐日大使もビジネス仲間のジョージ・グラスがやってきます。
「ワシントン時事】トランプ米大統領から次期駐日大使に指名された実業家ジョージ・グラス氏は13日、上院外交委員会の承認公聴会で証言し、「日米関係の一層の強化へ精力的に取り組む」と意欲を表明した。一方、防衛力強化や米国産液化天然ガス(LNG)購入などで「日本に約束を守らせる」と述べ、厳しい姿勢でトランプ氏の「米国第一」外交を体現する構えを見せた」
(時事3月14日)
「日本に約束守らせる」 防衛力強化や関税で圧力―米大使候補:時事ドットコム  
グラスがことさらに言う「日本との約束」とは対日貿易赤字削減についてのようですが、大使が言うことかと思います。
こういうことはUSTR(米通商代表部)の仕事じゃないのですかね。

前任者のラーム・エマニュエルときたらLGBTに夢中でしつこく内政干渉してきたし、まったくもう。
中国と対抗していくと口ではいいながら、対抗する策源地の日本列島を空き家化するとしたら悪い夢です。
しかしトランプならやりかねません。
なにかで中国とディールの関係に入った場合、タイワン、そんなものは知らん、センカク?あんなものは無人の岩礁だくれてやれといいかねません。
なんせ小国の主権なんぞシガにもかけないお人ですから。

2025年3月21日 (金)

そして誰もいなくなった

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先日の記事にしたように、トランプはヨーロッパを「敵」に回してしまいました。
もちろん今はそんなことを口にするほど愚かではありませんが、前々からくすぶっていた米国への不信感が一気に脅威へと駆け上がったようです。
今でこそヨーロッパ各国は表面的には米国との正面対決は避けて穏便に済まそうとしていますが、明瞭に米国離れの準備を始めています。
EUは共通債発行することで、米ドルに代わる世界の準備通貨としてユーロを強化し、それを財源として独自軍事力の強化に進もうとしています。
いままで最小限にしていた軍備を飛躍的に増強しようという大転換です。

「欧州連合(EU)は全欧州的な防衛を強化するため、1500億ユーロ(約23兆4000億円)の融資を提案する予定だ。トランプ米大統領が欧州大陸への安全保障提供を後退させていることを受け、長年にわたる防衛費の過少投資を補う。
EUの行政執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長が4日ブリュッセルで発表した」
(ブルームバーク3月4日)
EU、1500億ユーロの融資を提案へ-全欧州的な防衛強化に向け - Bloomberg

これは表面的には、トランプの要求の防衛費増額要求に沿ったものですが、 いままでならこの新規の23億4千億円の軍事投資の多くは米国製兵器に流れたでしょうが、今回は違います。
ヨーロッパは自前の武器を開発し、製造することを目指しています。
たとえばヨーロッパの戦闘機は米国製アムラームに代わって欧州製ミーティアを搭載するようになるでしょう。

すでにその兆候は現れています。
象徴的な例が最新鋭ステルス戦闘機F-35です。
この機体は空自も運用していますが、一定以上増やすつもりはないようです。
なぜならこの機体は西側汎用戦闘機として作られたために、米国の意志次第で生かすも殺すも自由だからです。
F-35は機体のハードよりもその運用ソフトのほうが重要です。

高度なセンサーとアビオニクス、ネットワーク機能などのソフトウェアは、逐次定期的なアップデートがなければただのドンガラと化します。
このソフトのアップグレードの支配権を握っているのは米国です。
米国が以後お前の国のF-35はサポートしないからといわれればそっれっきりです。

いままでは、トルコのようにロシアから迎撃ミサイルシステムを導入するなどという背信行為をしない限り米国はそのようなことをしないという大前提に立っていましたが、トランプとなって一切の前提が崩壊しました。
同盟国のデンマーク領グリーンランドを併合する、軍事力行使も厭わないと言ってみたり、隣国カナダには「米国の51番目の州になれ」と脅したかっと思うと、ウクライナ戦争の原因はウクライナとヨーロッパにあるとも放言、徹底的にプーチン側につきました。

そしてそれに抵抗したウクライナには、軍事支援と軍事情報提供を停止したためにウクライナはそれが原因でロシアのクルスクの大部分をロシアに奪還され、その際ウクライナ軍は多くの戦死者を出しました。
このように仲介するといいながらロシアに有利に事を運び、その責任をウクライナとヨーロッパになすりつけたわけです。
このような所業はいままで米国が一度たりともしたことのないことで、ヨーロッパはトランプこそ「脅威」そのものであると認識したのです。
トランプなら気に食わないことをした同盟国のF-35のサポートを突然停止するくらい朝飯前だと感じたのです。

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【解説】ロシア国内ではトランプ・プーチン電話会談はロシアの勝利と BBCロシア編集長 - BBCニュース

ポルトガル空軍は米国製F35の導入を止め、欧州製に切り換えました。

「ポルトガル空軍はF-16戦闘機の後継機としてNATO主要国であるイギリスやドイツ、イタリアなどと同じようにアメリカのロッキード・マーティン社が開発生産するF-35戦闘機の購入を計画していたが、地元メディアのパブリコによれば同国のヌーノ・メロ国防相は、メディアのインタビューに応じ「F-35を採用するか?」との問いかけに、「選択をする際に地政学的環境を無視することはできない。NATOにおける米国の最近の立場を考えると、同盟国の予測可能性は考慮すべきより大きな資産であるため、最善の選択について考える必要がある」と答えたと報じられており、今のアメリカからF-35を購入する事は地政学的に危険であり、信頼できる欧州から購入する事を検討する事を表した形だ」
(ミリレポ3月15日)
米トランプ政権信用できず!ポルトガルがF-35購入を見直し│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア

今後このような流れは止まらないでしょう。
米国はわずかの期間にヨーロッパにおける外交資産のほぼすべてを失ったのです。
それと同時に米国軍事産業もまた巨大なお得意を失ったことになります。 

また同時に米国の核の傘からの離脱も開始され、英仏が代わってヨーロッパの核の傘を提供するようになるでしょう。

「フランスのマクロン大統領は5日、自国の核抑止力を欧州同盟国の防衛に活用することについて協議に入ると明らかにした。
マクロン大統領はテレビ演説で、「フランスの核抑止力を通じて欧州大陸の同盟国を防衛する戦略的議論を開始することを決断した」と述べた。  欧州連合(EU)首脳は6日にブリュッセルで緊急会合を開き、ウクライナ情勢と欧州大陸のより広範な安全保障に関して協議する。マクロン大統領は、ドイツのメルツ次期首相からの要請を受けて今回の決断に至ったと述べた。
EUと加盟国はロシアによる侵略の脅威に対抗するとともに、トランプ米大統領が欧州安全保障への米国の関与を劇的に後退させたことを補うため、数兆ユーロの追加防衛費の確保を急いでいる。米国の核安全保障の傘はこれまで欧州にとって中核的な抑止政策だった」
(ブルームバーク3月6日)
フランス、核の傘を欧州同盟国に拡大する協議開始へ-マクロン大統領 - Bloomberg

そういえば、日本に対しても「オレが守ってやっている。お前の国はオレを守らない」と言っていますが、心底ダーッとなりました。
トランプは、米国の国際戦略と日本の防衛がうまくマッチングしていることがわかっていないのです。
日本も心したほうがよさそうです。
米国は日本をカードにして中国とディールするかもしれませんよ。
ウクライナでわかるとおり、彼の頭には小国の主権などみじんもありませんから。

 

 

 

 

2025年3月20日 (木)

お笑い米露首脳会談終わる

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コメントにお前はかつてトランプ支持だったじゃないか、というお叱りを受けました。
そうですね、いまや狂乱ぶりに押されて遠い昔のような気がするのが不思議ですが、第1期政権まで私はトランプをそれなりに高く評価していました。
行き過ぎたリベラルの諸政策を止めるには、彼の図抜けたパワーしかないと思ったからです。
ただし、思えば第1期は素人政治家の足りない所を、ポンペオやボルトン、マチスなどのプロが補完していたのです。
脇をあの議事堂占拠事件ですら揺らがなかった硬骨の常識漢ペンスが固めていました。
第1期の成果は、ある意味彼らなくしてはありえなかったでしょう。
逆に言えば、トランプにとって思う存分ディールができず不満だらけだったでしょう。

しかし雌伏の4年間、トランプはいっそう裸の王様化していき、自分への忠誠心だけを基準にスタッフを固めてしまいました。
第1期から残った者は皆無です。代わりに入ったのが、小説家のバンスやテスラのマスクなど、どこか調子がおかしな連中ばかりです。
そして暗殺未遂事件がなにかの啓示でも与えてしまったようで、もうそうなると暴走は止まりません。
第1期で抑制されていた負のパワーが全開、手当たり次第ぶっ壊しまくっている、それが今のトランプです。
とてもじゃないが支持できるわけがありません。
ただし、以後も全否定ではなく、是々非々精神で見ることは止めないつもりではいますのでよろしくお願いします。

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CNN.co.jp

本題に入ります。お笑い米露会談が終わりました。
成果ですか、もちろんナッシングに決まっています。

「トランプ米大統領は18日、ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領と米露首脳を行った。ホワイトハウスの発表によると両首脳は、ロシアとウクライナの戦争終結に向け、エネルギーとインフラ分野への攻撃を停止し、将来の全面停戦に向けてただちに交渉を開始することで合意。露大統領府は同日、電話会談を受けてプーチン氏がウクライナのエネルギー関連施設への攻撃を30日間停止するよう露軍に命じたと発表した」
(産経2025年3月19日)
米露首脳、ウクライナ終戦へエネルギー施設攻撃停止で合意 全面停戦へ交渉開始 - 産経ニュース

そもそも「民間エネルギーインフラへの攻撃を停止する」なんて、元々戦時国際法違反ですから、成果に入るのかどうかすら怪しいもんです。
一方ウライナのロシアに対しての製油所攻撃はこれで止まるとすれば万々歳で、これはボディブローのように効いていたのです。
肝心要の戦闘の停止についてはなんの音沙汰もありませんでした。
歯牙にもかけなかったのでしょうね。

その代わりといってはナンですが、領土要求のほうは厚かましく言い立てたようです。

「 プーチン大統領トランプ米大統領に対し、ロシアが2014年に一方的に「併合」したクリミアのほか、ウクライナ東・南部4州をロシア領として正式に承認するよう求めている。ロシア紙コメルサントが関係筋の話として報じた。
コメルサント紙は、プーチン大統領が参加した18日の非公開のビジネスイベントに出席した関係筋の話として、 プーチン氏はウクライナのルガンスク、ドネツク、ザポロジエ、ヘルソンの4州とクリミアを米国が正式にロシア領として承認することを望んでいると報じた。
近い将来に米国が承認すれば、プーチン氏は見返りとして、ウクライナの港湾都市オデーサやその他のウクライナ領土に対する領有権を主張しないと確約するという」
(ロイター3月20日)
プーチン氏、制圧ウクライナ地域「ロシア領承認」を米に期待=報道(ロイター) - Yahoo!ニュース

東部・南部4州の制圧は未完了で、オデーサの占領などに至っては黒海艦隊が動けない以上不可能だと見られています。
ですからプーチンの言い分は、制圧未完了な地域からウクライナ軍が出て行けば、制圧不可能な都市はあきらめてやるという実に虫のいい要求なのです。

「ただ、トランプ氏の提案の柱である30日間の停戦については依然として合意が得られていない。クレムリンは停戦の検証やウクライナにおける「強制動員」の停止、戦闘休止を利用したウクライナ軍の再武装の防止といった点が依然、ロシア側の課題として残っていることを示唆している。
エネルギーインフラへの攻撃を一時停止するという米国の提案については、クレムリンの同意が得られた。プーチン氏は「直ちにロシア軍に対応する指示を出した」とされる」
(CNN3月19日)
トランプ氏を褒めそやすプーチン氏、ウクライナ戦争ではほとんど譲歩せず - CNN.co.jp

おもわず苦笑しちゃいましたが、あたりまえじゃないですか。
プーチンは勝っていると思っているんですよ。
クルスクを占拠しているウクライナ軍をもう一歩で包囲殲滅できて、彼らの屍を世界に曝せると思っています。
ただし、まだウクライナ軍は頑強に抵抗して包囲殲滅には至っていません。

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NHK

「ロシア国防省は15日、ウクライナ側から奪還したと発表したロシア西部クルスク州の都市、スジャで撮影したとする映像をSNSに投稿しましたが、アメリカのシンクタンクはウクライナ軍を完全に撤退させるには至っていないと分析しています。
ロシア国防省は15日、ウクライナ側から奪還したと発表したロシア西部クルスク州の都市スジャで撮影したとする「解放後のスジャの状況」と題した映像をSNSに投稿しました。
一方、アメリカのシンクタンク戦争研究所は15日、「ロシア軍はクルスク州で攻撃を続けているが、ウクライナ軍を完全に撤退させるには至っていない」とする分析を発表しました」
(NHK3月16日)
【詳細】ウクライナ情勢 ロシアが軍事侵攻 戦況地図とともに詳しく 各国の外交や支援は(3月16日の動き) | NHK | ウクライナ情勢

つまりプーチンは時間が欲しいのです。いまこんな状況で停戦したらクルスクにウクライナ軍が陣地を構えたまま停戦してしまうことになりますからね。
だからこのタイミングで、トランプはロシアのために「一切の支援を切る」という名で軍事情報の提供すら拒んだわけです。
これで目を奪われた格好になってウクライナ軍は混乱し、包囲を受けることになります。
世界大統領閣下に対して生意気な口を叩いたゼレンスキーを締め上げて、事実上の領土放棄を呑ませました。
そのうえでいつもながらの芝居がかった調子で「クルスクで地獄図絵がくりひろげられる」と絶叫してみせたのです。
誰に対して?もちろんウクライナに対してに決まっているでしょう。

「(CNN) トランプ米大統領は17日、ロシアのプーチン大統領と18日午前に電話会談を行う意向を記者団に明らかにした際、ロシアがクルスク州のウクライナ兵を「包囲」したとするプーチン氏の疑義のある主張を繰り返した。
トランプ氏は文化施設ケネディ・センターを視察中、「明日、ロシアのプーチン大統領と協議する。深刻な窮地にある兵士たちの一部を救うためだ。彼らは実質的に拘束下にあり、ロシア兵に包囲されている」と発言。そのうえで、クライナ兵は包囲されていると再度主張し、自身がいなければクライナ兵はもはやこの場所にいないと続けた。
ウクライナ軍はクルスク州で劣勢だが、ゼレンスキー大統領や軍事専門家からは、ロシア軍がウクライナ兵を包囲したとのプーチン氏の主張を疑問視する声が出ている。トランプ氏は14日にも、SNS「トゥルース・ソーシャル」でプーチン氏の主張をなぞっていた」
(CNN3月18日)
「ウクライナ兵はクルスクで包囲」、トランプ氏が再度主張 ウクライナ側は疑義 - CNN.co.jp

そして米露直接電話会談となったわけですが、結果はやる前から見えていました。
プーチンの主張はいささかもゆらいでいません。
「クレムリンは停戦の検証やウクライナにおける「強制動員」の停止、戦闘休止を利用したウクライナ軍の再武装の防止といった点が依然、ロシア側の課題として残っている」(CNN)そうですが、なんですか「強制動員」って。
戦時動員ならロシアのほうがはるかに徹底的にやっていて、いまや病院、囚人にまで及び、北朝鮮軍という外国人傭兵すら万単位で動員しているのは知られた事実です。

「戦闘休止を利用したウクライナ軍の再武装の防止」とは、ヨーロッパ各国、特に米国のウクライナ支援を停止せよという意味です。
また「ネオナチの排除」という言い方で、ゼレンスキーを辞めさせることも上げているはずです。
まったく同じことをトランプも言っています。

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NHK

トランプはプーチンが憑依したかのようにウクライナに圧力をかけ続けました。

「アメリカのNBCテレビは、トランプ氏が支援再開の条件として、ウクライナ政府がアメリカ政府との間で鉱物資源をめぐる協定に署名するだけでは不十分と報道。
ウクライナ政府による「領土面での譲歩」や「ゼレンスキー大統領の退任も視野に入れた選挙の実施を容認する」など、ロシアとの和平交渉に向けた姿勢の変化をトランプ大統領が望んでいると伝えています」
(NHK3月13日)
トランプ大統領 ウクライナ支援再開の条件は (油井’s VIEW) - 国際報道 2025 - NHK

まったくどちらの味方やら。
これだけプーチンと一緒になってゼレンスキーに圧力をかけたのに、プーチンは口では「感謝する」なんて言いながらいささかも譲歩しませんでした。
当然の結果です。トランプさん、就任すれば1週間で終わりにするんじゃありませんでしたっけね。
いったいこの根拠のない自信はどこから来るんでしょうかね。
プーチンが就任祝いで、直ちに停戦しようなんて言う手合いだと思ったのですか。人がいいこと。

プーチンは戦争を止めざるを得なくなる状況まで粘ります。
それはプーさんがコメントで指摘されていた原油価格の暴落かもしれないし、政変かもしれない。
確かにロシア経済は微妙な状況です。
元ロシア中銀副総裁のビューギンはこう言っています。

「米国のこうした動きについて元ロシア中央銀行副総裁のオレグ・ビューギン氏は、ロシアが2つの望ましくない選択肢に直面する中で起きていると分析。ロシアはウクライナ戦向けの軍事支出の拡大を中止するか、あるいは支出を拡大し続けてその代償として何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受するか、二者択一を迫られているが、いずれの道も政治的リスクを伴うと指摘した。
財政支出は通常、経済成長を促進する。しかしロシアでは民間部門を犠牲にする形でミサイル向け支出という、新しい価値創出につながらない軍事支出で経済が過熱し、中央銀行の政策金利は21%にまで達して企業の設備投資が鈍り、インフレは抑制できていない」
(ロイター2月25日)
アングル:苦境のロシア経済、トランプ米大統領の早期終戦案は助け船か | ロイター

プーチンは制裁など効いていないとうそぶいていますが、ムチャな軍事ケインズ主義は一時的には経済を活発にするように見えますが、中長期的には悪質なインフレを招くはずです。
特に戦争が終結し、軍事生産が止まったら、さぁ大変です。
フル回転して砲弾や戦車を作らせていた工場に鍋ヤカンでも作らせるのでしょうか。
どっと倒産企業が増え、失業者が溢れます。
戦争で死んだり障害を負った人は死者が19万8000人、けが人が55万人以上という膨大な数ですから、さぁどうケアします。
アフガン戦争の比ではない社会的荒廃の釜の蓋が開くのです。

戦争目的であるウクライナ全土制圧はできず、かろうじて4州を取ったはいいが戦争で荒廃しきった土地と不服従の住民を抱えて、どう復興させるつもりでしょうか。
ウクライナから領土はあるていどもぎ取れても戦時賠償までは取れませんからね。
プーチンがまともな国家指導者ならビューギンの忠告を聞いてここらで戦争を止めたほうが傷は浅いのですが、しないだろうなあの男のことだから。

いずれにせよ、いまプーチンが銃を置く条件はないのです。
しゃもないディールとやらで時間を与えずに、正統な米国流でプーチンに圧力をかけて止めさせなさい。
それがかえってトランプの親友プーチンへの友情というもんです。

 

 

2025年3月19日 (水)

トランプの田舎成り金的視野狭窄

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トランプとベンスはあのホワイトハウスゼレンスキー追い出し事件で盛んに「感謝しろ」と叫んでいました。
こんな調子です。


「君はもうたくさん話した。君が勝つことはない」と、トランプ氏がゼレンスキー氏にある時点で告げた。「感謝しなくてはならない。君には切り札がない」と。
これに対してゼレンスキー氏は、「私は(カードゲームの)トランプをやっているのではありません」と答えた。「私は大まじめです、大統領。私は戦時下の大統領なのですから」。(略)
ヴァンス副大統領は「この会議中で君は一度でも『ありがとう』と言ったか?  言っていない」と重ねて非難した」
(BBC3月1日)
ホワイトハウスで激しい口論 ウクライナとアメリカ大統領の間で何が - BBCニュース

これほどまでにくどくどと被侵略国の元首に「感謝しろ」なんて言わなければ、そりゃ有り難うございましたでお終いにすべきです。
ゼレンスキーも同じだったろうと思いますが、「お前が勝つことはない」とか「オレがいなければ3日でこの戦争は終わってた」「感謝が足りない」なんて言われれば、江戸ッ子ならずともてやんでぇ、ベラボーめ、血を流して戦っているのはこちとらだ、と思って当然です。

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BBC

では、このホワイトハウスの主のいうことは丸々ホントでしょうか。
もちろんウクライナ支援の多くは米国が出したこと自体は事実です。
しかしそれは半分だけホント、半分は言わないでおこうね、という類にすぎません。

見せたくない反面とはなんでしょうか。
ウクライナ支援について米保守系シンクタンクアメリカン・エンタープライズ研究所の調査が出ているので参考になります。
ウクライナ支援の概要 |アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート - AEI

このレポートはこう結論づけています。

「ウクライナ支援総額の約70パーセントは、米国または米軍に費やされている」

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AEI

上図の青色が米国内への支出で、黄色部分がそれ以外です。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、米国がウクライナに提供した援助所は1750億ドル(約26兆3600億円)、うち約70%が米国内の軍事企業と米軍に費やされています。

高橋浩祐氏(米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員)が解説しておられます。
氏によれば、この「米国のウクライナ支援」として一括りに言われているものはいくつもに分かれています。

「例としては、大統領権限による米軍備蓄の放出分(PDA)、対外軍事資金プログラム(FMF)、ウクライナ安全保障支援イニシアティブ(USAI)などが含まれる。
PDAはウクライナに武器を供給し、その在庫を補充するために米国企業に資金を提供する。FMFは外国に米国企業から武器を購入するよう促すことで、米国企業に対する需要を高める。USAIは多くの場合、米国企業との契約を通じて、ウクライナに情報と兵站支援を提供する。追加の援助は、海外での米軍のプレゼンス強化に充てられる」
トランプ氏「ウクライナは感謝しろ」 でも米国によるウクライナ支援の7割が米国内か米軍に費やされている(高橋浩祐)

たとえば米国はミサイルや砲弾を米軍備蓄から供与し、米国軍事企業にそれを補充することで米国経済の利益としています。
米国のウクライナ支援パッケージには必ず「装備提供」と「弾薬提供」の両方が含まれています。

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HIMARS向けGMLRS弾(誘導型MLRS弾)
米国陸軍

むしろ弾薬提供の割合が大きく、レズニコフ国防相は「HIMARS向け弾薬と155mm砲弾×75,000発が含まれている」と言及しています。
このHIMARS向け弾薬(GMLRS弾)は1発16.8万ドル(約2530万円)と非常に高価で、フル装填(6発)のランチャーでHIMARSが攻撃すると1回100万ドル(1億5,586万円 )ものコストがかかります。

ただし精密攻撃ができるためにウクライナは大量供与を要望し、米国は数万発提供したと言われています。
しかし米軍とてこれほど高価な兵器の備蓄が無尽蔵にあるわけではないので、一時米陸軍ですら備蓄不足を来したようです。

「米国指導部はウクライナへの支援をやめるつもりはなく、定期的に新たな援助パッケージを作成している。 GMLRSミサイルも含む。その結果、配備されるミサイルの総数は増え続けており、米軍の予備軍は減少している。
2022年末に遡ると、米国は既存の在庫からの武器と弾薬の供給を通じたウクライナへの支援の悪影響について話し始めた。このようなプロセスは、遅かれ早かれ、彼ら自身の埋蔵量を危険なレベルまで枯渇させることになるだろう。将来的には、米軍自体が弾薬不足の問題に直面する可能性すら出た」
GMLRSミサイル製造:大きな計画と新たな問題

このGMLRS弾はノースロップ・グラマンを主契約者として多くの下請けで製造されています。
国防総省はこの備蓄不足に対して補填を開始しましたが、その時に使われた財源が前述のPDA(大統領権限による米軍備蓄の放出)でした。
米国はウクライナに対しての供与によって需要を創出していたわけです。
備蓄が減れば、減った分米国企業が儲けるという仕組みです。

トランプという御仁は貿易赤字の事もそうでしたが、私企業の親父体質がぬけきらないところがあります。
貿易赤字なんぞ、国内重要の引きが強いから輸入しているわけで、国家指導者としては歓迎すべき経済現象なのに、ぎゃーぎゃー騒ぎ立てます。
このウクライナ支援手もしっかり米国産業は儲かっているのですから経済が回ってウェルカムとならねばいけないのに、「米国はお前らにあまりにも支援しすぎて貧しくなった」なんてトンデモなことを言い出します。
そりゃ企業なら資産ストックがどんどん減れば経営が傾きますが、国家規模の経済ではひとつの不足は別の需要を生み出しているのです。
軍の備蓄放出は当該の産業にとってウェルカムなはずですが、なぜこんな簡単なことがわからないのでしょうか。
そしておおいばりで「俺様がお前にを助けてやったんだ。感謝しろ」と恩を着せるんですから、たまったもんじゃありません。

 

2025年3月18日 (火)

なぜヨーロッパはロシアと戦えなかったのか?

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英国のフィナンシャルタイムズが、トランプは欧州を団結させた偉人であるというブラックな論説を掲載しています。
ドナルド・トランプは欧州を再び偉大にしている、進展なかった結束強化に弾み――ギデオン・ラックマン(1/3) | JBpress (ジェイビープレス)

さすがブラックジョーク好きな英国人らしく言い方がふるっています。
「ドナルド・トランプは絶対にノーベル平和賞を受賞しないが、欧州の結束に最大の貢献をした人に毎年授与されるカール大帝賞(シャルルマーニュ賞)の有力候補になるだろう」という書き出しです。

実にトランプはいいことをしてくれた、バラバラでまとまりのない仲良し学級委員会にすぎなかったヨーロッパをなんとひとつにまとめ上げてくれたのだぁ、すんばらしい偉業だ、ブラボーということのようです。
あながち冗談ではなく、ほんとうにシャルルマーニュ賞(カール大帝賞)というのは実在します。
賞の目的はヨーロッパの団結の促進です。
カール大帝 - Wikipedia

「われわれは、西欧の理解と地域の同一性に寄与し、また人類と世界平和において最も価値のある功績に対して国際的な賞を贈ることにさせていただきます。その功績とは、文学、科学、経済、政治における業績を対象とします」
カール大帝賞 - Wikipedia

ちゃんと政治も一項入っていますから、トランプの頭上にさん然と輝くのもあながちなしとも思えません。
ただし、もちろん逆説であって、ほんとうはゴールデンラズベリー賞主演男優賞でしょうがね。

とまれ、この間一昔前を知る者にとって驚くほど「ヨーロッパの団結」が進みました。
もちろんその理由は、ウクライナ戦争とその和平を巡ってのトランプがロシアに急接近し、ヨーロッパを切り捨て、EUには関税で牙を剥き、さらには内政にまで手を突っ込んで親ロシア極右勢力を後押ししたことに起因します。
これはヨーロッパ各国をまんべんなく恐怖に陥れました。
ゼレンスキーがホワイトハウスから追い出された件の事件の時など、ハンガリーを除くほぼすべての国が強い抗議声明を出したほどです。
シュナイダー、メルケルと2代に渡って親ロシアの筆頭だったドイツの次期首相のメルツはこう述べています。

「ドイツのフリードリッヒ・メルツ次期首相は「親愛なるウォロディミル・ゼレンスキー、私たちは良い時も厳しい時も、ウクライナを支えている。この恐ろしい戦争において我々は決して、侵略者と被害者を混同してはならない」と書いた」
(BBC3月2日)
欧州など各国首脳、次々とゼレンスキー氏を支持 トランプ氏との衝突後(BBC News) - Yahoo!ニュース

では、頂戴したコメントにもありましたが、なぜヨーロッパは真正面からロシアと戦えないのでしょうか。
ウクライナ侵略の直後、エドワード・ルトワックはこう書いたことがあります。

「G7の一員である米英独などを主体とする北大西洋条約機構(NATO)も、ドイツなどが国防への投資を怠ってきたことから弱体化が指摘されてきた。ロシアは、そうした現状を見越して侵攻に踏み切ったわけだが、その瞬間からNATOは逆に極めて強力な組織に変貌を遂げた。
ショルツ独首相は国防費を国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げると表明したほか、加盟国のポーランドやデンマークなどが今月に入って国防費の大幅増額を決めた。NATOは目を覚ましたのだ」
(ルトワック『ウクライナが呼んだNATOの覚醒』2022年3月18日)
【世界を解く-E・ルトワック】ウクライナが呼んだG7の「覚醒」 - 産経ニュース (sankei.com)

プーチンがウクライナ侵攻に踏みきったのは、NATOを甘くみていたからです。
では、なぜ甘く見られていたのでしょうか。
NATOは軍事同盟でありながら、各国が勝手なことを言ってまとまらず、しかもカネがなかったのです。
軍事力を強くするためには新たな兵器の増産と導入、それを扱う兵員の増強と部隊編成、そして技術革新が必要です。
そのためになにがいるでしょうか。それを支える積極財政です。

しかしNATO、つまりはEUには軍備にかけるだけのカネがありませんでした。
EUは人類の夢という甘い黄金の檻に閉じ込められて、財政拡大でテコ入れしようにも欧州財政収斂基準(マーストリヒト基準 )で緊縮財政を強いられ、大規模な財政出動をしようにもその権限は当該国財務省にはなくECB(欧州中央銀行)がガッチリ握っていました。
つまりはトランプがいきなり国防費を3%にしろ、とガナっても欧州財政収斂基準の強い縛りのためにできなかったのです。

しかし容易に分かるように、それでは思わざる緊急時に対応できません。
それが痛いほどわかったのが新型コロナでした。

「EUの財政ルールには、各加盟国の統制の及ばない異常事態が発生した場合には、適用を一時停止する条項(一般免責条項)が設けられている。2020年3月に欧州委員会は、新型コロナウイルス感染症の拡大を「異常事態」とみなし、財政ルールの適用の一時停止を提案し、欧州理事会はこれを承認した。
そのため、各国は財政ルールに囚われず、大型の財政出動を実施することが可能となった。財政ルールの再開時期については当初は定められていなかったが、2024年から再び適用されることとなった」
EUにおける財政(規律)ルール見直しと日本への示唆 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

そして新型コロナが収束した直後に起きたロシアのウクライナ侵略でした。
これでわかったことは、感染症や戦争は国境をたやすく超越し、ヨーロッパは無力だということでした。
いままで国境を越えるパンデミックなどスペイン風邪くらいのもんさ、もう過去の話さ、ロシアの侵略だって、そんなもん冷戦期の発想だよ、今は経済が相互に乗り合っているんだ、ロシアが天然ガスのお得意さんを侵略しっこないいぜ、という考えがヨーロッパの常識でした。

そして口にこそしませんが、軍事などという汚れ仕事は米国に任せておけばいいという貴族趣味もあったのです。
それを体現したのが、緊縮財政の筆頭のメルケルでした。
16年も続いたメルケルによって、かつて強豪を自他ともに認めたドイツ連邦軍はボロボロになっていきます。

陸軍は動く戦車は一握り、海軍はまともな艦船がないという体たらくの時期すらあったようです。

「ドイツ国防軍の装備はとてもお粗末で、すでに10年以上も前から問題になっていた。有事となれば、戦闘機は飛ばない、駆逐艦は出ない、戦車は走らない、弾丸はないという状態になるだろうと言われつつ、しかし、いっこうに改善されないまま今日まで来ている。飛ばないヘリコプターが多すぎて、演習の時にADAC(日本のJAFに相当する民間の自動車連盟)から借りたという不名誉な話もあるほどだ」
(川口マーン恵美2022年11月27日 )
「防衛費増額」の是非を議論している場合ではない…平和ボケで国防軍がボロボロになったドイツの教訓 専門知識が失われて、軍備増強の計画を立てられない | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

こんな状況だから砲弾やミサイルの備蓄が足りず、ウクライナに支援したくともできなかったのです。
このヨーロッパ流平和ボケがまったく誤りだったことはこのパンデミックとウクライナ戦争で証明されてしまいます。
いま、ヨーロッパはやっと目が覚めました。

「これまで何十年も滞っていた欧州の結束強化へ向けた抜本的な対策が今、進み始めている。
注目しておくべき重要な分野が3つある。1つ目は欧州の防衛、2つ目は欧州共同債、そして3つ目は英国とEUの不和の修復だ」
ドナルド・トランプは欧州を再び偉大にしている、進展なかった結束強化に弾み――ギデオン・ラックマン(1/3) | JBpress (ジェイビープレス) 

「ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は、ウクライナの防衛と欧州主要国の国防強化には今後10年間で3兆1000億ドル(約470兆円)の追加費用がかかり得ると推計する。北大西洋条約機構(NATO)の計画立案当局は、防衛費を国内総生産(GDP)の最大3.7%に加盟国は引き上げる必要があると試算したと、ブルームバーグは先に報じた。NATOに加盟する32カ国のうち、GDP比2%の防衛支出目標を昨年時点で達成しているのは23カ国だけだった。
資金調達について協議されている選択肢には、EUの財政規則に抵触せず調達額を引き上げることが可能な免責条項も含まれる。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は先週のミュンヘン安全保障会議で、このような防衛投資のためのメカニズム発動を提案した」
(ブルームバーク2月18日)
欧州首脳が防衛強化策で協議、共同債議論されずー米仏首脳が電話会談 - Bloomberg

欧州の世論は軒並み8割近くがトランプに不信感を露にし、米国はいまや信頼出来るパートナーから「脅威」とさえ見られるようになりました。
それはヨーロッパ各国政府も同様で、外交上の配慮から口にしないだけです。

「外交上の理由から口に出して言う人はほとんどいないものの、欧州諸国の多くの指導者はトランプの米国が今では脅威になったと考えている。 欧州首脳は、80年目に入った大西洋同盟のために、欧州が米国の軍事支援に大きく依存するようになったことも痛感している。
これはお金だけの問題ではない。本当に危険なのは米国の技術と兵器に対する依存だ。
欧州の人々はトランプ政権が機密情報と兵器の供与を停止した後、ウクライナ人がどれほど大きな問題に陥ったか、よく分かっている」
(フィナンシャルタイムス前掲)

軍事力を強化せねばならない、というのはとりたててトランプに言われなくてもわかりきった話です。
また米国の軍事力、たとえば駐欧米軍の存在や米国の兵器体系に依存していたことを抜本的に改善せねばならないことも分かっていました。
ただEUのマーストリヒト条約基準で国のサイフが締まってしまってカネがなかったのです。
これをなんとかしないと1ユーロも出ないでしょう。

ヨーロッパがウクライナ支援の必要性をいやというほど分かっていても、米国ほどの支援が出来なかったのは、ひとえに軍事費が不足しており、備蓄している兵器も少なかったからです。
それは支援の額でわかります。

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【そもそも解説】ウクライナ支援の現状 武器のレベルは徐々にアップ:朝日新聞

EUは非軍事的財政支援に多く回り、軍事支援はわずかであることがわかります。
ドイツはレオパルトⅡ戦車を送っていますが、それが遅れに遅れたのはなんのことはない自国軍の備蓄も少なかったから支援できなかったのです。
戦車はただの輸出品、じぶんの国では使わない、これがメルケル流でした。

「EU共通債へのタブーは伝統的に、倹約的なドイツで強かった。
新型コロナウイルスのパンデミック中に、このタブーが部分的に破られた。それがこれから完全に一掃される公算が大きい。
ドイツの次の首相になるフリードリヒ・メルツは、防衛とインフラ関連の歳出をドイツの基本法(憲法に相当)で定められた赤字支出の上限から除外する方向へ進もうとしている。
ドイツが過去に財政規律を重んじてきたことは、多額の債務を抱えたフランスや英国よりも借り入れの余地がはるかに大きいことを意味する」
(フィナンシャルタイムス前掲)

軍事費を赤字の上限の範疇から除外するというのは、日本の財務省にも聞かせてやりたい措置です。
恒久的インフラ整備や軍事費拡大を言うと、直ちに自民党税制部会の宮沢や財務省はすぐに財源はと水をかけるのですが、今後の世代の安全に寄与するインフラには積極的に国債を当てればよいだけのことです。

ヨーロッパの場合EUという枠組みがありますから、欧州共同債となります。

「これがEUの防衛産業に投資するために1500億ユーロ調達することを欧州委員会に認めた首脳陣の決断のロジックだった。
新規支出は恐らく防空システムなど、欧州諸国が特に大きく米国に依存している分野に集中的に投じられるだろう。
EUの共通債発行はただ単に防衛のために資金を調達する手段ではない。米ドルに代わる世界の準備通貨としてユーロを強化する機会も与えてくれる。
トランプ政権の移り気は、安全資産として米国債に代わるものを求める世界的な意欲が大きいことを意味するからだ」
(フィナンシャルタイムス前掲)

このようにヨーロッパは従来の米国依存から目覚め、独自の勢力としての力を再構築しようとしています。
日本も他人ごとではありませんよ。

 

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 Neonila Martyniuk(@catskillowl2021)

2025年3月17日 (月)

ロシアはどうなる?

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トランプは、プーチンがお前オレの仲で、すぐにでも和平会談が開かれるとでも思っていたようです。
そうとうに馬鹿だと思います。もう少しで勝てると考えているプーチンと、いまさらナニを話そうとだからなんだというのです。

時間稼ぎに使われるれるだけのことです。

ゼレンスキーさえ這いつくばらせればオーケー、小うるさい癖に無力なヨーロッパをオフリミットにすれば段取り終了、あとはポン友と密室談合だけ、そう思って起こしたのがあのホワイトハウス事件でした。
そして続くサウジの会議で、トランプはゼレンスキーに事実上の領土放棄を認めさせました。スゴイね。
西側同盟の盟主が、被侵略国の小国をつかまえてお前領土くれてやれよ、それで収まるんだからさ、というのですから。

まさに苦汁の選択そのもので、これでウクライナの勝利という道は閉ざされ、残るのはよくて引き分け、最悪は敗北ということになります。

「サウジアラビアで11日に行われた米国との会合で「ロシアとの30日間の停戦」という米提案にウクライナが同意したことは、同国が事実上、露軍の占領下にある領土の武力奪還を断念する用意があるとの立場を示したことを意味する。侵略された側のウクライナにとって苦渋の決断となるが、戦場で劣勢にある上に国力も疲弊している同国は、譲歩に応じてでも米国の支持を取り付け、将来的な対露交渉で可能な限り「引き分け」に近い条件での停戦を実現したい思惑だとみられる」
(産経3月12日)
【動画】ウクライナ、領土奪還方針を事実上放棄 「引き分け」狙い苦渋の決断 サウジでの対米協議 - 産経ニュース

そりゃ心ならずも屈するよ、誰でもね。トランプはただ支援を止めるといっただけではなく「即刻、何もかも止める」と言ったのです。
ほとんど数日をおかずして支援は止まり、軍事機密情報もまた停止しました。
ロシア軍の位置や勢力がつかめなくなったために、クルスクに侵攻している精鋭部隊はロシア軍に包囲されたのです。(戦争研究所は包囲されたことを認めていません)
こういう行為を世の中では、恥知らずの裏切り、あるいは利敵行為と呼びます。

トランプという男には、国境を接してロシアと対峙しているウクライナの戦略的意味が理解できないのです。
たぶんウクライナの価値は鉱物資源ていどだ、小麦はうちの国のライバルだしな、人口も3000万人ぽっち、テキサス州と同じくらいなチッポケな国だし、メンドー起こすならいっそなくなってもいいような国だ、ウクライナ戦争なんてただの局地戦でロシアとガチでなぐりあったら大戦になるぜ、ていどの認識なのでしょう。
まるで田舎のおっさんていどの認識です。

前ウクライナ外務大臣のドミトロ・クレバ氏(現パリ政治学院教授)はこう言っています。

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NHK

「戦争を終わらせるのがなぜこれほど難しいのか。それはプーチン大統領が勝利に向けて順調に勝ち進んでいると確信しているからです。
プーチン氏はウクライナ全体を手に入れることができると信じているのです。彼がウクライナの一部を獲得することで満足できるわけがありません」
(NHK3月14日)
「トランプ氏は騎兵隊?」ロシア プーチン氏との停戦協議は?ウクライナ侵攻どうなる?クレバ前外相に聞く | NHK | WEB特集 | 国際特集

クレバ前外相が指摘しているように、プーチンが狙っているのは「ウクライナ領の一部獲得」ではありません。
それはなぜ侵攻したのが、フィンラントやエストニアではなくウクライナであったのかを考えればわかってきます。

西村金一元自衛隊情報本部一佐が解説するように、ウクライナの価値は鉱物資源になどにあるのではなくその地勢的位置にあります。
ウクライナこそ、ヨーロッパの「要石」(キイストーン)なのです。
下図をご覧いただくと、ウクライナがロシアに対して最初のファイアウォールになっていることが理解できるでしょう。

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西村金一氏作成
JBpress (ジェイビープレス)

西村氏はこう述べています。

「今後、ウクライナが米国とロシアとの交渉などによって、弱体化された場合には、再びロシアの侵攻を受ける可能性がある。
そうなれば、ロシアの脅威は、ウクライナに隣接し南西方向にあるモルドバやルーマニア、北西方向のポーランドに及ぶことになる。
また、ロシアに直接接するバルト3国であるエストニア、ラトビアおよびリトアニアにも脅威は及ぶ。
さらには、ロシアと陸続きのフィンランドをはじめ、ノルウェー、スウェーデンのスカンジナビア3国に波及することになるだろう。
ウクライナの戦略的価値は、欧州各国へのロシアの脅威を止めることができる「要石(KeyStone)」なのである」
(西村金一3月10日)
ウクライナを蔑むトランプとその子分は、安全保障を全く分かっていない 現代戦では、大西洋・太平洋は米国を守ってくれる障壁ではなくなった(1/5) | JBpress (ジェイビープレス)

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西村金一氏作成
JBpress (ジェイビープレス)

そしてウクライナという防波堤が崩壊すれば、その危機は西欧全体にも及びます。
米国の支援を受けられない場合、西欧は孤立し、全域が不安定にさらされます。
この状況はすでに始まっていて、西欧を代表するフィナンシャルタイムスなど、「米国はすでにヨーロッパの脅威だ」という言い方をし始めています。

「欧州の世論に見られる劇的な変化だ。
先週実施された世論調査は、英国人の78%がトランプを欧州に対する脅威と見なしていることを示していた。ドイツ人の約74%、フランス人の69%もこれに同意している。
ドイツで実施された別の世論調査では、フランスがドイツ人の85%から「信頼できるパートナー」と評価され、英国も78%の高得点を獲得したのに対し、米国は16%にとどまった。
外交上の理由から口に出して言う人はほとんどいないものの、欧州諸国の多くの指導者はトランプの米国が今では脅威になったと考えている(略)
トランプは米国大統領としてロシアに接近し、北大西洋条約機構(NATO)への信頼を損ない、欧州連合(EU)を関税で脅し、欧州で極右勢力を後押しした。
これらすべてがEUにショックを与える効果を発揮した。
これまで何十年も滞っていた欧州の結束強化へ向けた抜本的な対策が今、進み始めている」
ドナルド・トランプは欧州を再び偉大にしている、進展なかった結束強化に弾み――ギデオン・ラックマン(1/3) | JBpress (ジェイビープレス

しかしヨーロッパが団結して米国を友邦ではなくはっきりと脅威と位置づけたとしても、屁ともおもわないのがトランプです。
だって大西洋があるじゃん、グレートアメリカはどこからも侵略されない「安全無比な国」だぜ、というのがトランプの思惑です。

「米国が何によって、誰によって守られているのかについて認識がなく、米国は他国の協力を得なくても「どの国からも侵攻を受けることのない安全な国」という誤った認識が根底にあるからであろう。
米国とロシア間の交渉の行方によっては、米国と欧州がお互いに不信感を抱き、分断が現実になるかもしれない。
そして、米国がNATO(北大西洋条約機構)から脱退して米軍が欧州から去れば、欧州の軍事力は著しく低下することは明らかだ。
私は、「ウクライナが弱体化し米軍が欧州から去れば、いずれ世界のパワーバランスが崩れ、ロシアと中国の脅威が米国を囲む大西洋・太平洋に及ぶことを、米国は予測していない」のではないかと危惧している」
(西村前掲)

いとも簡単にトランプは西側同盟の守護者という立場を捨て去り、むしろ全体主義国家と手を組みました。
ならば、気楽なもんです。
どうなろうとかまわない、自分の政治的手柄としてはウクライナ和平を考えてもいいが、それ以上ではないというところです。

実はこの部分は妙にバイデンと平仄が合っています。
前出のクレバ前外相はバイデンの対ウクライナ政策についても、「答えにくい質問だが」と断ってこう言っています。

「バイデン氏はウクライナにとても強い思いを持っていたし、きずなもありました。しかし、バイデン氏は冷戦時代にその地位を確立した政治家です。
その政策の根底にあったのは『ウクライナを支援する。ただしロシアとの直接対決は避ける』というものでした。これをロシアに巧みに利用されました。
バイデン氏は(武器の供与など)多くの決定を下しましたが、すべての決定に時間がかかりすぎ、ロシアが戦闘で優位に立つことを可能にしてしまいました。
バイデン氏には冷戦時代の米ロの対立の記憶が強く残っているのです」
(NHK前掲)

決定に時間がかかりすぎ、常に及び腰、これがバイデンの政策でした。
トランプはこの米国の「及び腰」を修正するどころか、決然としてロシア勝利に導こうとしました。

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トランプ氏、ウクライナでの「ばかげた戦争」の停止をプーチン氏に求める 応じなければ新たな制裁科すと警告 - BBCニュース

ところで、ゼレンスキーがトランプに殴り倒されたことを見ていたプーチンは、この事態にどう見たでしょうか。
さっそく和平会談に乗り出した、いえいえ喧嘩を売るだけが能のトランプとは違って「待ち」を知っているのがプーチンです。
深遠な「待ち」ではなく、文字通り交渉相手を待たせるのです。
いままでも正恩をポツンと夜の駅頭に待たせたことがありましたし、バチカン法王すら待たせたり、わが安倍氏など数時間待たせて後のスケジュールを台無しにしました。
こういう男です。巌流島の武蔵よろしく遅刻することでマウントをとろうというのですから、なんとも卑しい。

今回は、和平提案を持って来た米国の特使がたっぷり8時間待たされました。
フツーこれだけ待たされたら、ふざけるなと捨て台詞を吐いて帰っていいのです。
というか、むしろ決然として帰るべきです。
しかしプーチンは自分が圧倒的有利な立場にいると思い込んでいますから、なんなら1日でも待たせようか、という気分なんでしょう。

「英スカイニュースは14日、ロシアの首都モスクワを13日に訪問した米国のスティーブン・ウィトコフ中東担当特使が、プーチン大統領との会談のため少なくとも8時間は待たされたと報じた。プーチン氏は首脳会談などでも遅刻が多く、スカイニュースは主導権を誇示するための「古典的な威圧の手法だ」と伝えた」
(読売3月15日)
「遅刻魔」プーチン氏、アメリカの特使を8時間待ちぼうけに…「古典的な威圧手法」の指摘も(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース 

こういうことを平気でして見せるのがザ・プーチンです。
プーチンは少なくともクルスクのウクライナ軍を完全殲滅するまで和平会議には乗りません。
そして乗っても「非ナチ化」がどうしたの、占領地は神聖なロシア領だのと盗人猛々しいことを言い続けて、なにひとつ決まらないはずです。
さて、盟友にこう出られてトランプはどうする気でしょうね。
追加関税なんてまったく意味をなしませんよ。今週には電話でサシの話あいをするとか。
 

2025年3月16日 (日)

日曜写真館 夢死するもよし 梅林のこの日溜り

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梅林の遥かに見ゆる水田哉 政岡子規 

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再会の老けはともども 梅林 伊丹三樹彦

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梅林を額明るく過ぎゆけり 桂信子

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梅林を出て懐に梅のつぼみ哉 曉台

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梅林の空の機嫌をうかがへる 上田五千石

 

この写真を無理な姿勢で撮ってこけました(涙)。

 

 

2025年3月15日 (土)

逃がさぬゾとミズーリ州連邦裁判所

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新型コロナについて面白いことが同時に起きました。
まずひとつが2020年にドイツの対外情報機関である独連邦情報局(BND)が報告書の中で、武漢ウィルスラボを名指しで新型コロナウィルスの流出源だと特定していたことです。
実は似たような報告は米国情報機関も上げていましたが、改めて他国のインテリジェンスの線からも流出源が特定されたことが重要です。

「ドイツの有力紙ツァイトと南ドイツ新聞は12日、ドイツの対外情報機関が2020年、新型コロナウイルスが中国・武漢のウイルス研究所から流出した可能性が高いとの極秘報告書をまとめ、独首相府に提出していたと報じた。
報道によると、独連邦情報局(BND)は、19、20年に執筆された新型コロナウイルスに関する未発表論文などを入手して分析。報告書では、武漢のウイルス研究所が、人間に感染しやすいようウイルスを改変する実験を行っていたと指摘した。ウイルスの扱いはずさんで、多くの安全規則違反があったとし、ウイルスが研究所から外部に流出した可能性が「80~95%」で非常に高いと結論付けた
ウイルスの発生源を巡っては、研究所から流出した説と、動物を介して人間に感染したとする説とで論争が続き、23年6月公表の米政府の報告書でも原因特定には至らなかった。BNDの報告書は米中央情報局(CIA)にも共有されたといい、今後、論争に影響を与える可能性もある」
(読売3月13日)
新型コロナウイルス、中国・武漢の研究所から流出可能性「80~95%」…ドイツ情報機関が極秘報告書 : 読売新聞 

2023年には、米国エネルギー省が新型コロナウィルスの発生源を武漢ウィルスラボと結論づけたと、ウォルーストリートジャーナルが報じていました。

「【ワシントン】米エネルギー省は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の起源について、研究所からウイルスが流出した可能性が最も高いと結論付けた。ホワイトハウスや米議会の主要議員に最近提出された報告書から明らかになった。
 同省はウイルスが広まった経緯についてこれまで判断を下していなかったが、アブリル・ヘインズ国家情報長官(DNI)のオフィスがまとめた2021年の資料を改訂する中で今回の考えを示した」
(WSJ 2023 年 2 月 27 日)
新型コロナの起源、研究所から流出の可能性高い=米エネルギー省 - WSJ

しかし残念ながら、このエネルギー省のレポートは現時点では非開示なので、見つけたと推測される「新たな証拠」がなにかはわかりません。
ただ、エネルギー省は傘下に多くの研究機関を持ち、病理学的新証拠を発見したようにも見えます。
というのは、それを強く示唆するフレーズをWSJは社説で書いているからです。

「26日の報告において重要な点は、エネルギー省が「新たな」情報に基づいて、その結論に至ったということだ。最終的にどんな情報が判断の変更に影響したのかが明らかになれば幸いだ。エネルギー省は国立研究所の責任を負う部署であり、研究所の一部は生物学的な研究を行っているため、同省の判断は、なおさら注目に値する。中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)の専門分野は同省と異なり主に人の介在や電波信号の傍受による諜報活動を扱う」
(WSJ 2023 年 2 月 28 日)
【社説】コロナ流出「コンセンサスなし」は逃げ - WSJ

同様にFBIも流出説を報告していました。

「Covidウイルスは、中国の武漢にある研究所から漏れた可能性が最も高いと、FBI長官のクリストファー・レイ氏は述べています。「FBIはかなり長い間、パンデミックの起源は武漢での潜在的な実験室での事件である可能性が高いと評価してきました」とクリストファー・レイはフォックスニュースのインタビューで語った。 ところで,私は武漢ウィルスラボがしていた機能獲得実験によって、人間の喉や肺のACE2受容体に感染し易いようウイルスを操作していたと考えている」
(ヒンドスタンタイムス2023年3月1日)
中国が管理する研究所からコビッドが「最も可能性が高い」リーク:FBI長官の主張|世界のニュース-ヒンドゥスタンタイムズ (hindustantimes.com) 

武漢ウィルスラボの主任研究員の石正麗とそのグループは、今年またもや復活し同じ変異実験をしていることが最近報じられました。
よほど情報隠蔽に自信があるのでしょう。
彼らは、新型コロナウィルスの始祖ウィルスを雲南省墨江ハニ族自治権にある鉱山の坑道で発見し、そのコウモリの糞からRaTG13ウィルスを得て、それを機能性獲得実験によって変異させて新型コロナウィルスを作成したのです。

軍事用生物兵器として開発されたはずですが、兵器使用されたという証拠はありません。
ただしなんらかの理由、おそらくは不作為の流出事故によって武漢市内に流れだしそれが世界に拡がったのです。
FBIは2021年に、この武漢ウィルスラボからの流出に対して「中程度の確信」を公表しています。
なお、この「中程度の確信」という言い方は、情報が錯綜したり、対立する場合、その結論の信用の度合いを示すものです。

「FBIは微生物学者・免疫学者などを含む研究者を雇用しており、炭疽菌やその他の生物学的脅威の可能性を分析するために2004年にメリーランド州フォートデトリックに設立された米バイオディフェンス分析対策センター(NBACC)の支援を受けている。(略)
長期の戦略分析を行う米国家情報会議(NIC)と政府関係者が特定を避けた4機関は、このウイルスが感染した動物からの自然感染によって生じた「確度は低い」と評価している、と最新報告書は述べている。
機密扱いの同報告書を読んだ前出の関係者らによると、米中央情報局(CIA)および政府関係者が名前を明かさない別の機関は、実験室からの漏洩説と自然伝播説の間で決めかねている。
各機関の分析は異なっているものの、今回の報告書は新型コロナが中国の生物兵器プログラムの結果ではないという既存のコンセンサスを再確認したものだという」
(WSJ前掲)

いい機会ですから、初期時系列をおさらいしておきましょう。

・2019年12月8日、武漢で既に「原因不明の肺炎」が発生。
・同年11月には、武漢で「原因不明の病気」の患者が確認され始める。
おそらく武漢ラボの黄氏が始めの患者だった可能性が高いですが、いずれにしても11月下旬に発症していたことから、潜伏期を入れれば既に初旬頃から感染が始まっていたと思われます。
・同年12月30日、武漢中心医院救急室の患者の肺胞洗浄液から「SARSコロナウイルスと一致」という検査結果が出る。
これが分かっているのは、中国情報を傍受している米海軍情インテリジェンス機関が、この時期に「中国で新型コロナ発生か」という情報をリリースしているからです。
・同年12月後半、台湾の蔡英文政権は直ちに中国武漢からの直行便航空機内での検疫活動を開始し、全力で防御体制に移す。
・2020年1月1日、救急救命室に勤務している艾芬(ガイフン女性)主任は、病院の責任者が参加する会議で「SARSが帰ってきた。人間に感染するかもしれない」と警告したがにぎりつぶされた上に、叱責を受ける。
この医師は長期に渡って行方不明となります。

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艾芬(ガイフン医師

また同病院の陳小寧医師は「伝染病が始まった12月30日の非常会議で「コロナウイルス」「『隔離」などの単語を使用してはならないという指示があった」と証言。

・1月1日武漢警察は、ツイッター上で「事実でない情報をSNSで拡散させた8人の武漢市民として中心医院眼科医の李文亮医師を拘束。

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その上、ご丁寧にも武漢市衛生当局は「患者のパニックを誘発しかねない」という理由で、医療陣のマスク着用すら禁止しています。
なんと感染初期において、武漢の医師はマスク着用すら政治的に禁じられていたのですから呆れ果てます。
実はこの時には、19年12月末の時点で中国国家衛生健康委員会の専門家チームは武漢に乗り込んでいたのです。
しかしその調査結果は、現場の医師はおろか武漢市衛生当局にすら通知されず、問い合わせに対しての答えは「待て」の一言でした。
そして理由は明かされないまま武漢は爆発的感染、すなわちパンデミックに突入します。
にもかかわらず中国当局のみならずWHOもヒトヒト感染はないとして警報をだしていません。

・2020年1月1日、武漢「華南海鮮市場」閉鎖。
・1月11日、武漢市で新型コロナウイルスによる初の死者が発生。
・1月12日、WHOはヒトヒト感染はないと発表。

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・1月前半、広東省でも新型肺炎患者が発生。
・1月13日、タイで感染者確認。
・1月16日、日本で感染者確認。
・1月16日、中国で病院の医療陣26人の感染事実が報告されたが、武漢市は「医療陣の感染はない」と発表。
・1月中頃、医療陣から26名もの感染者が発生。

1月20日、中国疾病統制センター(CDC)が新型コロナについて公式に認める。
実に発生から1ッカ月近くたっていました。

・1月20日、中国感染者135人、死者3人が確認され、韓国でも初の感染者が発生。
・1月中頃から春節休暇が開始。中国政府はまったく移動制限をかけずに放置。
約500万人が武漢から全国各地と世界へ移動開始。
・1月23日、欧州にも火の手が上がり、イタリアで初の感染者発生。
・1月24日、武漢での感染拡大がわかると、台湾政府は直ちに1月26日には湖北省から台湾への渡航を禁止。同時に台湾国内に滞在している中国人留学生などの中国から台湾に入国していた人々の隔離を開始します。
・1月28日、中国最高人民法院、「新型肺炎はSARSではないが、この情報の内容は完全に捏造とういわけではない。もし社会大衆が当時、この“デマ”を聞いていたら、SARSの恐怖を思い出し、みなマスクをして、厳格に消毒し、野生動物のいる市場を避けるなどの措置をとって、今の新型肺炎防疫状況はもっとましになっていただろう」とコメント。
・1月28日、それまで傍観していたWHOのテドロス事務局長は、突如「中国の現状を詳細に理解するため」と称して中国訪問。
担当責任者の李克強とは面談せず、なぜか学習近平と手を握りあった写真を撮らせます。もちろん武漢への訪問などはまったくなく、医療機関とは思えないようなご機嫌伺いにすぎませんでした。
・2月中旬から下旬、武漢の病院という病院は満杯。医療崩壊が始まる。

たぶん感染した動物に噛まれた職員が新型コロナウィルスを持ち出したのでしょう。
武漢ラボの実験動物の扱いは非常にルーズで、よく職員が噛まれるという事故を出していました。

中国による意図的ウイルス散布ではなく、事故による流出が濃厚です。
いずれにせよ、問題は頑として中国政府が情報を秘匿し続け、秘匿することで初期対応を誤らせ世界に拡散させたことてす。
この責任は逃れようもありませんが、発生源と強く疑われる中国が認めない以上責任論に発展しないと諦められてきました。

これに一石を投じたのが、ミズーリ連邦裁判所の中国共産党に対する賠償訴訟です。

「ミズーリ連邦地方裁判所は7日、「新型コロナウイルスの存在を隠蔽し、初期対策を怠った」として、中国共産党に対して240億ドル(約3.6兆円)の賠償を命ずる判決を下した。
この判決の事実背景は、パンデミック当初に中国政府の関連機関は、人から人への感染について正確な情報の開示を意図的に抑制したり、虚偽の情報を示したこと、また、中国政府の関連機関がミズーリ州でパンデミックの初期から防護服を独占的に買い占めたために、防具服が不足し、また価格が高騰したことなどがあげられている。
同裁判所は賠償金に充てるため、ミズーリ州にある中国人所有の資産を差し押さえることも容認している。 ミズーリ州政府が2020年4月に起こした訴えが全面的に認められたわけだが、同州には中国人が所有する農地が多数存在しており、州政府がこれらを接収する事態となれば、中国側が猛反発するのは必至だろう。
(現代ビジネス3月13日)
 中国政府に3.6兆円の賠償を命じた「ミズーリ判決」は、なにが根拠なのか?「新型コロナ」の深層に迫る判決のヤバすぎる中身(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース  

実に面白い判決です。
今のままでは知らぬ存ぜぬを決め込む中国はこのまま逃げきったと考えているはずです。
中国共産党に声を荒らげて道義を説いても無駄です。

ですから新型コロナウィルスを人為的に作って拡散させただろうという責任論をいったん置いて、もっとも初めの発生国でありながら持っている情報を隠匿し、開示を怠った点を追及します。
それがこのミズーリ連邦裁判所判決のすごいところで、しかも賠償金を州内の中国人所有の資産から差し押さえるという方法で具体的に解決したことです。
この方法は使えます。米国内のあらゆる州政府は同じような訴訟を連邦裁判所に起こし、州内の中国資産を差し押さえたらよいのです。
トランプも関税だけが能じゃないでしょうに。
他国でもこのミズーリ連邦裁判所判決を研究し、世界規模で罪をつぐなってもらいましょう。

 

 

 

2025年3月14日 (金)

トランプ関税戦争を嫌った米国株式市場

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トランプは就任以来のディールが大成功したと勘違いしています。
トランプは決して歴史を学び世界の構造を知って大統領になったわけではありません。
持っている知識といえば、「影の政府」がどーしたとかQアノンがこう言ったといったレベルです。
なにより経営者としての成功体験を絶対のものとして、政界に進出したような人物です。
つまり徹底した経験主義者、パワーの信者なのです。
どうだあの傲慢なゼレンスキーさえ這いつくばらせたぜ、結局オレの言うなりにしてりゃ問題ないんだ、という妙な成功体験を得てしまったようです。

経験主義者には実体験で目を覚ましてもらうしかありません。
やや笑えることには、トランプが始めた世界貿易戦争は自国の株式市場の復讐を受けています。
3月11日のシカゴ日経平均先物(CME)です。
ドーンと爆下がりしているのが分かりますね。

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株探ニュース

「デルタ航空や小売り企業による消費鈍化警告で、警戒感が広がり、寄り付き後、下落。カナダによる国内電力価格引き上げに対抗しトランプ大統領がカナダ産鉄鋼とアルミニウム関税引き上げを警告し、貿易摩擦拡大懸念に相場は大幅続落となった。警戒感に軟調推移が続いたが、終盤にかけて、ウクライナがトランプ政権提案の停戦案を受け入れる用意があると発表、トランプ大統領がウクライナ情報共有と安全保障支援再開で合意したとの報道を受け停戦期待が広がり、さらに、カナダとの協議後、貿易を巡る懸念も緩和し、相場は下げ幅を縮小し、終了。セクター別では、自動車・自動車部品、半導体・同製造装置が上昇、電気通信サービスが下落した」
米国株式市場は続落、消費鈍化や貿易摩擦深刻化を警戒(11日)/海外市場動向 | 市況 - 株探ニュース

いうまでもなく、米国株式が下落した理由は、カナダ、メキシコなどに対するトランプの関税戦争です。


「アメリカのドナルド・トランプ大統領は11日午前、カナダから輸入する鉄鋼とアルミニウムへの関税を50%に引き上げると発表した。しかし、同日午後にこれを撤回し、当初の25%にするとした。カナダの鉄鋼とアルミニウムへの25%の関税は、12日に発効する。
トランプ氏がカナダへの関税を大幅に引き上げると警告した数時間後、カナダ・オンタリオ州は、米北部の複数の州に供給する電力に25%の追加料金を課す計画を停止。この対応を受け、トランプ氏は関税を当初の25%に戻した。
北米の隣国同士に経済的損害をもたらしかねない貿易戦争で、再び小競り合いが起きた」
(BBC3月12日)
カナダへの鉄鋼・アルミ関税、トランプ氏が「50%に倍増」表明も数時間で撤回 - BBCニュース

そりゃ撤回したとはいえ、大統領が一時でも50%関税上乗せなんてクレージーなことを言えば、たまげるよ。
これってもう宣戦布告みたいなもんですから。
当然カナダは売られた喧嘩を買いますわな。買わなきゃ殴られっぱなしで「米国の1州」になってしまいますから。
報復関税はあたりまえ、電力供給に追加料金をかけると言い始めました。


「カナダは今月3日、トランプ氏の貿易をめぐる攻撃は不当だとして、300億カナダドル相当のアメリカ製品に新たな関税を課すなどの報復措置を発表した。
カナダ・オンタリオ州のダグ・フォード州首相は、自国への関税を撤廃させるため、アメリカに供給する電力に追加料金を課すつもりだと発表していた。
また、アメリカが「事態をエスカレート」させるなら、「電力を完全に停止することも辞さない」とも述べていた」
(BBC前掲)

典型的な貿易戦争の勃発です。
しかもいま、カナダは長年続いたトルドーからマーク・カーニーへと政権交代しようかというタイミングでした。

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マーク・カーニー次期首相
Bloomberg

「与党党首に選出されたカーニー氏は勝利演説で、「米国はカナダではない。いかなる形でもカナダが米国の一部になることは決してない。この闘いはわれわれが求めたわけではないが、(殴り合いのために)誰かがグローブを投げ捨てれば、カナダ人は常に相手をする用意がある。貿易でもホッケーでもカナダは勝つ」と訴えた」
(ブルームバーク3月10日)
カナダ与党党首にカーニー氏、首相交代へ-トランプ米政権と対決姿勢 - Bloomberg

自由党党首となったカーニーは冷静な銀行家で、カナダ中央銀行総裁と英国中央銀行総裁を勤めたこともあるという人物で、おおよそトランプのような煽動家とは無縁な人ですが、米国の属国になれと言わんばかりの米国と徹底して戦う気のようです。
というのは、トランプの一連の「帝国主義」発言は、カナダの愛国心に火をつけてしまったからです。
当然です。トランプが愛国者というなら、言われたほうも国を愛しているのです。
「愛国」はあんたひとりの持ち物じゃないんだよ、なぜそんなことがわからんのか、この男。

トランプから関税戦争を仕掛けられたEUもしっかり報復すると宣言しました。

[ブリュッセル 12日 ロイター] - 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は12日、鉄鋼とアルミニウムを巡る米国の関税に対抗し、来月から260億ユーロ(280億ドル)相当の米国製品に関税を課すと表明した。
トランプ米政権はこの日、貿易相手国に対する25%の鉄鋼・アルミニウム関税を発効させた。これまでの除外措置や無関税枠が失効したのに伴い、関税が実質的に引き上げられた。
欧州委は、米製品に対する現行の関税一時停止を4月1日に終了し、同月中旬までに新たな対抗措置のパッケージを打ち出すという。
関税が一時停止されていた米製品はボートからバーボン、バイクまで多岐にわたり、EUは今後2週間でその他の製品についても協議する。EUは新たな措置について、約180億ユーロ相当の製品を対象とし、総額が米国による新たな関税で影響を受ける貿易額と同等にすると述べた」
(ロイター3月12日)
EU、米関税に来月から報復措置へ 280億ドル相当の製品に | ロイター

オーストラリアも長年の友好を裏切るのかと怒って参戦しました。

「オーストラリアのアルバニージー首相は発動直前に「全く不当」であり、「わが国との間で長年続く友好の精神に反する」と批判した。その一方で、関税の応酬や貿易をめぐる緊張の高まりは経済上の「自傷行為」で、成長の鈍化やインフレ激化を招くと指摘。報復関税は課さない方針を示した」
(CNN3月12日)
トランプ米政権、鉄鋼・アルミに一律25%の関税発動 EUが即座に報復 - CNN.co.jp

トランプは報復関税かけたら、また追加関税かけてやると息巻いています。
かくしてとうとう世界を巻き込んだ関税戦争の勃発です。
いまのような安全保障の枠組みが十重二十重にできていなければ、大戦へ直行でしたね。
トランプはそのくらいアブナイことをしている自覚があるのかしら。

一方、米国株式が風邪をひくと兜町は肺炎になるといわれるわが国の株式市場はどうだったでしょうか。

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日経平均 前営業日比30円安で寄りつき(2025年3月12日掲載)|日テレNEWS NNN

なんと、シカゴ市場が冴えなかったのに日経平均は持ちこたえています。
ここではっきりしつつある経済状況は、米国経済が明らかな景気減速モードをみせはじめた、ということです。
もちろん、今後輸出産業などで日本に影響が来ない道理がありませんから、日本経済もおつきあいするはめになるかもしれません。

とまれこのような馬鹿げた貿易戦争は世界経済を減速させることだけは確かで、それを米国株式市場は嫌ったのです。

 

2025年3月13日 (木)

なんだただの帝国主義じゃないか

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なんだ「ただの帝国主義」じゃん、昨今のトランプの所業をみているとそう見えてきます。
というか、帝国主義と言い切ってしまうと実に分かりやすい。

トランプの再登場に期待をこめて見ていたはずの武者陵司氏が、こう苦々しげに書いています。

「歴史の針が大きく逆回りし始めたように見える。20世紀前半までの、列強による世界分割、各国が権益追及を丸出しにして、戦争にまい進した帝国主義時代に戻ったとしか思えない変化が起きている。南シナ海の公海上の岩礁を埋め立てて軍事要塞化した中国や、主権国家ウクライナにあからさまに侵略し領土を奪取したロシアなど、ならず者国家群(Rogue Nations)だけかと思ったら、トランプ政権もそれに劣らず対外膨張の意欲をあからさまにしている。
トランプ氏はグリーンランドの領有やパナマ運河の管理権の奪還の意志を示した。また。メキシコ湾をアメリカ湾への呼称変更し、2015年に「デナリ」と改称されていたアラスカ州の北米最高峰の名称を、それ以前の「マッキンリー」の呼称に戻した。これらは領土拡大の野望をむき出しにしたものととらえられている。マッキンレーはハワイ併合・フィリピン併合・米西戦争など帝国主義政策を推し進めた第25代大統領(1897-1901)である」
トランプ氏は帝国主義者なのか | 武者リサーチ

ただし武者氏は、さらに露骨な古典的帝国主義国家である中国とトランピズムは同じではないとして、こうもつけ加えています。

「一見帝国主義に見えるトランプ氏の一連の政策、言説の多くは、この中国の「現代版帝国主義」に対抗してのものである。グリーンランドやウクライナの鉱物資源は、今や世界の希少資源生産の大半を支配する中国依存を脱却する必要性から出てきている。パナマ運河も中国による権益支配を許さないために打ち出された。トランプ大統領が侵略者であるプーチン氏と気脈を通じ、祖国防衛に苦闘するゼレンスキー氏に大きな譲歩を求めているが、それも対中戦略から出てきていると考えられる」
(武者前掲)

つまり武者氏は、帝国主義的外交が対中包囲シフトの形成のために必要なのだと説明していますが、これは保守文化人共通の贔屓の引き倒しにすぎません。
残念ながらそうではないと思います。

トランプが自由主義陣営の盟主としての責任とプライドを放棄していなければ、そうもいえないことはないと思いますが、残念ですがその大前提がくるってしまっています。
自由主義国家を保護するという西側盟主の任務を放棄してしまえば、そこに現れてくるのは「ただの帝国主義」にすぎないのです。

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習主席とトランプ次期大統領が電話会談 “意思疎通で合意” | NHK | 習近平主席

トランプは、今後予想される台湾侵攻に際して、台湾防衛の義務について言葉をにごしながら、半導体産業は貿易赤字を生んでいるのだ、なんとかしろと言っています。
ウクライナの鉱物資源と同じことで、これもディールなのです。
トランプは台湾をカードのダシに使って習近平とディールするはずです。
そしてディールの配当は米国のみが独占するのでしょう。

日本に対してもまったく同じ。
安倍氏がいたら別だったでしょうが、特に日本への思い入れもなにもないはずで、日米安保の世界戦略上の構造的意味などには無頓着で「米国が日本を守ってきた」という一面しか見ようとしません。
当然のこととして、これからも守ってほしかったらナニかを寄こせと迫ってくることでしょう。

その典型がウクライナ戦争です。
トランプはゼレンスキーに対して、「米国の軍事支援がなければ、この戦争は2週間で終わっていただろう。我々に感謝するべきだ。あなたはカードを一切持っていない。鉱物資源を兵器供与の見返りで寄こせ」と言いましたが、ほんとうにそうでしょうか。
根本的にまちがっています。
米国の武器供与がなければ、ウクライナは2週間ももたなかったとは、事実と正反対の認識です。

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ウクライナ侵攻、首都キーウで爆発音か 数千人が国外へ避難 - BBCニュース

では、この侵略後2週間になにがあったのでしょうか。
ロシア軍は北部と東部国境から一気に雪崩込み、首都キーウを陥落させ、ゼレンスキーを亡命に追いやり、傀儡政権を作る目論見でした。
その時、「米国供与の武器」があったとでもいうのでしょうか。
いや、ウクライナに対しての本格的武器供与のためのレンドリース法(武器貸与法)が成立したのは、開戦後3カ月後の22年5月でした。
仮にゼレンスキーがウクライナから逃亡し、国民も団結して抵抗しなかったなら、トランプの言い草のように間違いなく侵攻から3日で戦争は終結していました。

そしてウクライナ軍は武装解除され、1カ月以内に西部も含んでウクライナ全土が事実上のロシア領となっていたことでしょう。

その結果、ウクライナにはロシア軍が軍事進駐し続け、事実上のロシアの「国境線」はウクライナとポーランド国境となったはずです。
そしてプーチンは次なる侵略の標的としてバルト3国か、フィンランド、あるいはポーランドに狙いを定めたでしょう。
つまりは旧ロシア帝国の勢力圏の回復です。
このようにロシアが肥大化した場合、ヨーロッパの勢力図は大きく塗り替えられたはずです。
日経の欧州総局長赤川省吾氏がこう述べています。

「不安が広がる。在英ヘッジファンドの運営責任者は「バルト3国消滅」を地政学リスクの「最悪シナリオ」に組み込むかどうか頭の体操を始めた。
米国の大幅譲歩により、ウクライナがロシアの属国になる。その後、ロシア・ベラルーシなど旧ソ連の強権国家軍が「旧領回復」を目指してバルト3国に侵攻するという筋書きだ。その際に金融市場がどう反応するのかをシミュレーションしている。
心配は市民生活にも忍び寄る。筆者は記者の傍ら、ベルリン自由大学で週1回、非常勤講師として教えている。先日、授業で欧州の安保政策をテーマに議論したところ、学生の多くが内心、恐れていることがあった。「近い将来、徴兵され、ロシア軍と戦うために東欧の前線に送られる」。米国が西側の盟主であると信じられなくなったことによる心理的な影響は計り知れない。
いずれトランプ政権は行き詰まり、穏健な政権に交代するとの期待はある。しかしトランプ大統領を選んだ米国の民意は残る。「ポスト・トランプ」で古きよき米国に戻り、それが長続きするという保証はどこにあるのか。安保も経済も米国に頼る日本もひとごとではない」
(日経2025年3月9日)
「西側の盟主」アメリカ、終わりの始まり ヨーロッパに漂う距離感 - 日本経済新聞

この「強権国家軍の旧領回復」を、いま、板一枚で防いでいるのがウクライナなのです。
ウクライナにカネと武器を渡して助けたから恩に着ろ、というのは真逆で、ウクライナにヨーロッパと世界は助けられたのです。

このような発言をいやしくも合衆国大統領が恥ずかしげもなく言える米国は、ウクライナの真の価値を見誤っており、世界の安全保障を大きく脅かしている大馬鹿者のように思われます。

元駐米大使の佐々江賢一郎氏はこう見ています。

「中露など米国に挑戦する国々を念頭に、もう一回力を背景とする国益の維持を図らなければ、きれいごとでは済まされない。米国から見たこうした現実主義的な見方を端的に率直に表した外交が、〝トランピズム〟といえる。
懐深く世界のために資金を出し、軍事・安全保障も提供し、鷹揚に構えていた米国の時代はもう終わりつつある」
(産経1月25日)
「世界に軍事力を提供した米国」の終焉 トランプ氏が突きつけた「自分の力で自分を守る」時代に対応を 佐々江元駐米大使 - 産経ニュース

残念ですが、このような狭い視野しかない男が大統領になってしまい、無邪気にグリーンランドを寄こせ、カナダは米国の1州だ、ウクライナの鉱物資源を寄こせと言うのですから、なんともかとも。
こうして米国は「ただの帝国主義」に堕していく道を歩むことでしょう。

 

 

2025年3月12日 (水)

現代のチェンバレン・トランプ

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お見舞いありがとうございました。
まだ痛い、というか、歳食うと時間をおいたほうが痛くなるんですね。やれやれ。

さて、ウクライナと米国務省との停戦協議がサウジで始まりました。
「国務省」とわざわざ書いたのは、トランプ御大がいつでもちゃぶ台返しが出来る上に、仮にこれで何か決まったとしても、図に乗っているプーチンが聞く耳を持たないのはわかりきっているからです。
比較的ウクライナに同情的なマルコが行ってゼレンスキーをなだめて、停戦会談に顔を出すことを確認するという予備会談のそのまた予備会談といったところです。

ウクライナウォロディミル・ゼレンスキー大統領とマルコ・ルビオ米国務長官は10日、ウクライナとロシアの停戦に向けた協議を行うため、サウジアラビア入りした。
ウクライナ側の当局者は同日、匿名を条件にAFPに対し、「空と海での停戦案がある」「この案は開始と監視が容易な停戦の選択肢であり、まずはここから始めることが可能だ」と語った。
一方、ルビオ氏は記者団に、部分停戦案について「それだけで十分とは言えないが、紛争を終結させるためには必要となる譲歩の一つだ」「双方が譲歩しない限り、停戦も終戦も実現しない」と述べ、ウクライナ側の提案に望みが持てるとの考えを示唆した」
(AFP3月11日)
ゼレンスキー氏と米国務長官、対ロシア停戦協議へ サウジ(AFP=時事) - Yahoo!ニュース

ウクライナの停戦案はもうわかっています。
海上での戦闘の停止とドローンやミサイルなどによる空爆をしないということのようです。
海上戦闘はウクライナがセヴァストーポリ軍港から事実上ロシア黒海艦隊を追い払ってしまっていますが、空爆はロシアが見境なく連日猛爆を浴びせています。
むしろ問題は、現在、ウクライナはクルスクで1万とも言われる部隊がロシアの包囲にはまっていることで、このままま推移すればクルスク侵攻部隊は全滅という惨事になりかねません。

その理由はトランプにあります。
トランプはロシアとは話がついている、いうことを聞かないゼレンスキーめを懲らしめてやる、とばかりに支援を完全に停止してしまいました。

「米国家地球空間情報局の報道官は7日、G-EGDシステムからの衛星画像へのウクライナのアクセスを一時的に停止したと明らかにした。これについてはニューヨーク・タイムズ紙が先に報じていた」
(ブルームバーク前掲)

たぶん衛星情報のみならずインテリジェンス機関からの情報共有もストップしているはずで、これで事実上ウクライナはロシア軍の動向を掴む目を失いました。
これが西側の盟主というのですから、ヘソで茶を沸かすとはこのことです。

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ロシアのウクライナ侵攻 - Yahoo!ニュース

一方トランプが盟友だと考えでいるプーチンは、きわめて強気です。
なにひとつ要求を後退させていません。

「事情に詳しい複数の関係者によれば、ロシア当局者は先月行われた米当局者との協議で、最終的な和平合意に向けて進展がある場合、短期的な停戦を検討する用意があると伝えた。非公式な協議を理由に匿名を条件に語った。
関係者のうち2人は、停戦に合意するためには、最終的な和平協定の原則的な枠組みについて明確な理解が必要になると語った。別の関係者は、ロシアは最終的な平和維持活動の境界を確立することに特にこだわるだろうと述べた。これには具体的にどの国が参加するかについての合意も含まれるという」
(ブルームバーク3月8日)
ロシア、停戦受け入れ用意を示唆-米政権はウクライナに圧力継続 - Bloomberg

ここでロシアが言う「平和維持活動の境界を確立する」とか「和平条約の原則的枠組み」ということの意味は、支配地域を確定しろ、それはロシア軍が軍事支配しているクリミアと4州そしてクルスクです。
ここからウクライナ軍は州境まで撤退し
ろ、クルスクにいるウクライナ軍は殲滅する、ということになります。

トランプはすでにロシアへすり寄った融和策を考えています。
それはバイデン時代に決まった制裁をことごとく解除する内容で、和平会談うんぬんの前にすでに負けています。

「協議に詳しい複数の関係者によると、トランプ氏のアドバイザーらは、対ロシア制裁をどのように緩和するかについて既に概要を練っている。緩和対象にはロシア産石油の価格に設定されている上限などが含まれる」
(ブルームバーク前掲)

 全体主義国家が現に侵略をし、それを追認するという外交政策をアピーズメント(融和・Appeasement)と呼びます。

「近代の外交政策で“歴史的な失態”という評価が定着した実例は、イギリスの首相ネヴィル・チェンバレンのナチス・ドイツ総統アドルフ・ヒトラーに対する宥和である。1938年のミュンヘン会議でチェンバレンはドイツによるチェコスロバキアの一部占拠を認めてヒトラーを増長させ、ポーランドへの侵攻を招き、第2次世界大戦を引き起こす結果となったとされる」
(古森義久2021年12月29日)
80年前の歴史的大失態と並べられるバイデン「宥和」外交の不安 バイデン大統領は現代のチェンバレンなのか?(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)

トランプ贔屓の古森氏はバイデンこそ現代のチェンバレンだと断定していますが、ならばトランプはなんでしょうか。
融和以前の癒着でしょうか。
少なくともトランプは西側陣営の盟主たる責任を捨て去り、全体主義と手を組んだのはまちがいないことです。

トランプの現代の宥和政策に対して勇敢なNZの外交官が一石を投じています。

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駐英ニュージーランド大使 不適切発言で解任 | 大紀元 エポックタイムズ

「ニュージーランドのフィル・ゴフ駐英国大使が、ロンドンでのイベントでトランプ米大統領の歴史の知識に疑問を唱えた後で解任されていたことが分かった。
オークランド市長や外相を務めた経歴を持つゴフ氏は4日、英シンクタンク王立国際問題研究所(チャタムハウス)のイベントで発言。「私はチャーチル(元英首相)が下院で1938年に行った演説を読み返していた。ミュンヘン会談の後の演説で、チャーチルは(当時の首相の)チェンバレンに向かってこう言った。『あなたは戦争と不名誉との間で不名誉を選んだわけだが、それでも戦争をもたらすことになるだろう』」と述べた。
続けて、「トランプ大統領はチャーチルの胸像を大統領執務室に戻した」「しかし彼が本当に歴史を理解していると、あなた方はお考えか?」と問いかけた。
ここでゴフ氏は、ロシアとウクライナの戦争終結に向けたトランプ氏の取り組みを38年に結ばれたミュンヘン協定になぞらえている。当時、英仏独の首脳が調印したこの協定はヒトラーに対し、チェコスロバキアの一部の併合を認める内容だった。ヒトラーは翌年ポーランドに侵攻。第2次世界大戦が勃発した」
(CNN3月7日)
駐英NZ大使が更迭、トランプ氏の歴史知識に疑問投げかけ(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース

結局、ゴフ大使は即刻解任されてしまいましたが、、これこそ自由主義陣営の共通の声なはずです。
トランプは現代の融和主義者チェンバレンです。

※追記
アップした後にウクライナが停戦案を受諾しました。

「サウジアラビア西部ジッダで11日、米国とウクライナの高官級会合が行われ、会合後に共同声明を発表した。ウクライナは同国を侵略したロシアとの戦争に関し、米国が提案した30日間の暫定的な即時停戦に応じる用意があると表明した。ルビオ米国務長官は米国案をロシア側に示すとし、停戦実現の可否はロシア次第だとの見方を示した。
ウクライナのゼレンスキー大統領はX(旧ツイッター)への投稿で、「前向きな一歩だ」として米国案の受諾を確認し、米国によるロシアの説得に期待を示した」
(産経3月12日)
ウクライナが30日の即時停戦受け入れ表明 米国が提案、軍事支援再開 ロシアの出方が焦点 - 産経ニュース

 

2025年3月11日 (火)

本日は休場

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昨日、梅の山を撮影していたところずり落ちてしまい、イヤってほど歩道に叩きつけられて全身打撲。
カメラを守ろうとしたのがいけなかったんですよ。

う~、痛てェよぉ。
というわけで本日は休場いたします。すいません。

 

 

2025年3月10日 (月)

武漢ウィルスラボでまた新型コロナ出現

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トランプの錯乱暴走の影に隠れて、中国がこんな発表をしています。
なんとまたあの武漢ウィルスラボが新型コロナの新たな株「HKU5―CoV-2 」を発見したというのです。

「中国湖北省武漢の武漢ウイルス研究所の研究者らが2月、ヒトに感染する可能性がある新たなコロナウイルスがコウモリから検出されたとする論文を学術誌に発表した。論文では「現時点でヒトへの感染は確認されていない」として平静を呼びかけている。ただ、武漢ウイルス研究所はCOVID19の起源を巡る「研究所流出説」で疑惑の目が向けられている施設。今後の拡大などを不安視する声が上がる」
(産経3月9日)
中国で「新たなコロナウイルス」発見 武漢の研究所調査 「ヒトへの感染は未確認」も疑念 - 産経ニュース

今回発表されたのは、日本では2023年4月1日までに3346万2859人、国内人口にして約26.5%とパンデミックをせたらしたCOVID-19と同系統のコウモリ由来のものです。

「新たなコロナウイルス「HKU5―CoV-2」。過去に中東で流行した中東呼吸器症候群(MERS)と同じ系統のウイルスで、COVID-19と同様にヒトを含む哺乳類のタンパク質と結合し、細胞内に侵入できるという」
(産経前掲)

「ヒトを含む哺乳類のタンパクと結合できる」ということは、ヒト感染が可能だという意味です。
COVID-19はコロナ(Corona)と「ウイルス(Virus)、病気(Disease)の単語を組み合わせ、それにWHOに報告された2019年を組み合わせでできていますから、今回WHOは確定していませんが、これが新たな新型コロナならば「COVID-25」とでも呼ぶべき存在となります。

こういう不吉な予感がぬぐえないのは、今回の新型コロナウィルスを「発見」したのが、例の悪名高き武漢ウィルスラボの石正麗グループだからです。
また出たか、妖怪コウモリ女め。

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中国科学院武汉病毒研究所HP

「発表したのは、広東省広州や武漢の中国科学院傘下組織や大学の研究者でつくるチーム。チームを主導した一人には「バットウーマン(コウモリ女)」の異名を持つ武漢ウイルス研究所の石正麗氏も含まれる。コウモリ由来のウイルスの研究者で、COVID-19の流行を巡って度々、研究所流出説を否定する発信を行ってきた人物だ」
(産経前掲)

いままで公式に石正麗は一度も姿を現していませんでした。世界の追及から逃げ回ってきたのです。
あれほどの重要人物は自由主義国家ならどこへ逃げようとメディアから逃れられませんが、あの国は国家が隠蔽すればとことん隠し通せるのです。
発生源と目された武漢ウィルスラボそのものもは無人の館と化して、ウィルス株のサンプルもないとされていましたが、またいつのまにかほとぼりが冷めたと思ったのか舞い戻っていたようです。
あの国ですから隠そうと思えば、完全にないものとしてし扱えますからね。

とまれ原因究明をすべきWHOが、中国御用達機関となって久しく、中国の流出疑惑に対してWHOのトンデモ「現地調査」で終止符を打ったきになっていました。
中国はこれで逃げきったゼ、と信じていたはずでしたが、あいにく天網恢恢疎にして漏らさずとはよく言ったもんで、武漢から発生して丸々3年もたった2023年になって大ブーメランの大流行を爆発させています。
世界各国が鎮静化している頃を狙いすましたかのように、ひとり中国一国だけが8億人という巨大パンデミックを引き起こしたのです。悪いことはできません。

ではどうしてCOVID-19は全世界の累積感染者数は2億4629万7757人、累積死亡者数は499万4113人(2021年11月 現在)という膨大な被害を出したのでしょうか。
それは武漢ウィルスラボが自然界のコウモリウィルスRaTG13を収拾しただけではなく、ヒトへの感染力を強め、致死力を強めていく機能獲得変異実験を施したからです。
機能獲得変異実験は米国内で禁止されていることからわかるように、いったん流出すれば致死力の高い未知のウィルスを世界にばらまいてしまうことになります。実際そうなりました。

機能獲得変異研究について簡単に説明します。
これは実験室で反復し、より強力さと威力を持たせるように遺伝子コードを操作し、ウイルスが新たな機能を獲得する研究です。
この実験によってきわめて危険な、しかも人類がいままで遭遇したことのない新種のウイルスを実験室内でつくることができたのです。
中国が当初から世界に拡散させるきがあったのかどうかはわかりませんが、あらかじめ実際の流行前に治療法やワクチンを作っておくことが可能だと考えていたことは確かです。
そうでなくては世界最速でワクチンができるはずがありません。ただし効きませんでしたが。(笑)

この実験は一度誤ると大惨事になります。
なにせここで作り出された新型ウィルスは、自然界にあるものではなく、強力に感染し致死率が高くなるように人工的に作られた悪魔のウィルスだからです。
転用すればウィルス兵器として絶大な効果を発揮することは、感染爆発した3年間を見ればわかるでしょう。
敵対国において、大量の人を殺し、経済を壊滅に追い込み、社会に前代未聞の混乱を与え、しかも軍事力まで崩壊させることが可能なことは証明されました。
しかも仕掛けた自分の国は、あらかじめワクチンを用意し、対策を立てているので傷は至って軽症で、世界で最も早く立ち直り、感染流行後のヘゲモニーを握ることができますから、こたえられません。まぁ、そううまくはいかず自分も手ひどい被害に合いましたが。
しかもそれを誰も人為的攻撃だとは思わないときていますから、悪魔の兵器としてこれ以上のモノを想像するが難しいほどです。

このウィルス機能獲得実験が一度間違えると極めて危険なウィルス兵器開発になることを危惧してオバマ政権は、2014年、連邦研究施設における機能性獲得実験の米国内における実験を禁止します。

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NIAID所長アンソニー・ファウチ

しかし、これに強く抵抗した推進派が米国内にいました。米国感染症界の第一人者でありNIAID(米国国立衛生学研究所 )所長のアンソニー・ファウチです。
NIAIDは最初の機能性獲得実験をしたラボで、当時、彼はこの研究が「冒す価値がある危険」であり、「重要な情報と本質の理解は、潜在的に危険なウイルスの実験室での生成から得られるだろう」と主張する論説記事を、ワシントンポスト紙(2011年12月30) に共同寄稿しています。
そしてファウチは、国内で禁じられると武漢ラボに多額の費用負担で委託しました。その時に多額の委託金も支払っています。
こうして米国NIAID と中国武漢ウィルスラボの水面下での危険なウィルス実験のつながりができてしまったのです。

ちなみにファウチはバイデンが最後屁で残していった恩赦の対象となっています。バイデンはなにを隠したかったのでしょうか。

驚くべきことに、今回もまた石らはなんの反省もなくヒト遺伝子組み換えマウスを用いて実験しているようです。

「英紙テレグラフ(電子版)は2月26日、論文の結論部分にウイルス株の「さらなる調査」や、ヒト遺伝子組み換えマウスを用いた実験の必要性が提案されていることに言及。研究チームが今後、さらに追加で「感染性を高める実験」を行う恐れがあるとして「不吉だ」と指摘した。
COVID19の「研究所流出説」を唱えてきた米ブロード研究所の分子生物学者、アリーナ・チャン氏は同紙に対し、論文の結論に書かれた追加の実験は「COVID19のパンデミックの引き金になった可能性がある実験と類似している」と懸念を示した。

交流サイト(SNS)では「COVID19は何度も変異して違う型が発生して感染が拡大した。なぜ今回だけ危険ではないと言い切れるのか」などと不安視する声も上がっている」
(産経前掲)

またまた中国で非常にコワイことが行われているようです。

 

 

2025年3月 9日 (日)

日曜写真館 あらゝぎのはるかに日ざす梅の花

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キヤラメルをいくつかくらひ梅の花 八木林之介

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ああだつたこうだつたなあ梅の花 田原節子

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カアさんといひてみてをり梅の花 川端茅舎

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めいめいに考える椅子 梅の花 伊丹三樹彦

 

 

2025年3月 8日 (土)

関税が天ツバであることを知らないトランプ

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関税は天ツバです。
天そばではありませんよ、天に唾するというやつです。
天に向かってつばを吐けば、そのつばは自分の顔に落ちてくるという戒めです。

さて関税を政治的武器にしてはいけない、そんなことは現代の常識のハズでしたが、トランプがなんと大々的に関税ウェポンを使いまくっています。
猶予を与えたカナダとメキシコに、改めて関税をかけ始めました。

「トランプ米政権は4日、メキシコとカナダ、中国に対する関税を発動した。メキシコなどから完成車や部品を輸入する自動車産業への影響は大きい。関税発動に伴って米国内の自動車産業にかかるコストは合計で年間610億ドル(約9兆円)膨らむ可能性がある。米国の競争力を取り戻すための関税政策が逆に米国の製造業の力を落とし、中国勢の力を高めることにもつながりかねない」
(日経3月4日)
トランプ関税が招く「米国離れ」 車産業コスト9兆円増 - 日本経済新聞

大昔、関税はウェポンでした。といっても第1次大戦前までのことですが、それまで気に食わないと外国製に関税をかけて悦にいっていたものです。
結果どうなったのか。高関税をかけられた側は報復関税をかけ、それを受けてさらに重い関税をかける(以下繰り返し)、そしてやがて互いにインフレを招いて不況となり戦争に活路を見いだすようになる、はい、そしてほんとうに戦争です。

こんなばかなことをしたのは、ひとつに関税は貿易に必ず付帯しますから取りッぱぐれのない重要財源だったからという実利もありました。
この反省から、戦後にその調整機関としてのWTOをつくったのです。
まぁ、今は空洞化していますが、いちおう骨格だけは残っています。

そしてもうひとつ関税をかける建前は自国産業の保護です。
国際競争力が弱い産業を外国製品から守るために関税をかけて高くするわけですが、なんども書いてきていますが、関税を払うのは自国民なのです。
ですから関税は消費者が手にする食品や消費財、あるいはエネルギー価格にそのまま転嫁されてしまいます。
それを買う米国民にとってそれは増税であり、企業や国民を圧迫します。
また2割関税を乗せれば2割価格が跳ね上がり、インフレを招きます。
今の米国はインフレ退治が終了したといえない状況ですから、FRBは政府金利を上げて火消しをせねばなりません。

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米国のインフレ率、ついに4%割れ それでも再び利上げ論が出るわけ:朝日新聞

たぶん好意的に見てやれば、トランプはこう言いたいのでしょう。
けしからん麻薬を流入させて来るカナダやメキシコは関税で首を締めてやる、お前らの国の輸出は米国頼みだ、それがたちゆかなくなれば困るだろう、うちの国を逃げ出したヘタレの米国企業は国内回帰するに違いない、とまぁこんなところかな。

ところが、早くも関税ウェポンの副作用が明らかになりました。
国内回帰するもなにも、トランプ関税が自国自動車産業に大打撃を与えることがわかったのです。
考えてみればそりゃそうです。
いまやさまざまな米国企業は多国籍化していて、本社は米国にあっても製造工場はより賃金が安いメキシコやカナダに移しているのはよくあることです。
かつてはNAFTA(北米自由貿易協定)が存在し、今はUSMCA( 米国・メキシコ・カナダ協定)へと改定されています。
米国で活動する企業は、NAFTA の頃からサプライチェーンを構築してきました。
いまや自動車、畜産物、乳製品などはカナダ、メキシコで、全部あるいはその一部を作られるものが増えています。

もちろん自国産業の空洞化を防ぐために、自動車部品の5割は国内製造とするといった規制があったのですが、国内産業の流出に歯止めがかからなかったのです。
だって、国内の賃金は高いもん、というわけです。

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Cumbre de líderes del G20 (44348050270) - 米国・メキシコ・カナダ協定 - Wikipedia

「自動車の原産地規則の要件により、自動車の価値の一定部分は、締約国内から得られなければならない。NAFTAでは62.5%が要求された。USMCAはこの要件を12.5ポイント増やし、自動車の価値の75%にする。トランプ政権の当初の提案は、85%に引き上げ、自動車部品の50%はアメリカの自動車メーカーが製造するという条項が追加するものであった」
米国・メキシコ・カナダ協定 - Wikipedia

そして今回のカナダ、メキシコへの関税は、事実上USMCAの違反行為です。
では、この関税ウェポンがどんな副作用があるかといえは、自国の産業が破壊されてしまいかねないということが分かってきました。

「トランプ米政権が4日にメキシコとカナダに対して発動した25%の関税措置は、米国に輸出される自動車の価格上昇を招き、市場を冷え込ませる可能性がある。メキシコ、カナダを米国向け輸出の拠点とする日米の自動車メーカーには大きな打撃だ。さらに日本は、米国が検討する自動車への税率25%程度の関税の対象となる恐れもあり、日本政府は適用除外に向けて交渉を加速する。
米商務省によると、2024年の乗用車の輸入額は2140億ドル(約32兆円)で、輸入額が最も大きいのはメキシコ(487億ドル)。カナダは4位で276億ドルだった」
(産経3月4日)
トランプ関税影響でGM利益90%減、マツダ57%減の試算 自動車に追加も、日本交渉へ - 産経ニュース

たとえば自国の自動車産業が打撃を受けることが明らかになりました。
野村證券リサーチによれば、米国ブラントの車は平均で6%値上がりし、25年の新車需要を25%も押し下げます。
おいおい25%需要を下げたらエライことですぜ。

「需要の冷え込みは、メキシコとカナダを米国向け輸出の拠点とする日本メーカーに大きな逆風となる。野村証券の試算では、関税措置がメキシコからの輸入に影響し、マツダの26年3月期の営業利益が57%減る。トヨタ自動車は両国からの輸入が打撃を受け18%減だ。ホンダは2月の決算会見で、カナダ、メキシコへの関税が発動されると、年7000億円規模の影響が出るとの見方を示した。打撃がより大きいのは米国メーカーだ。野村証券の試算ではメキシコからの輸入が多いゼネラル・モーターズ(GM)は25年12月期の営業利益が90%減る。フォード・モーターも30%減という」
(産経前掲)

そのトッバッチリを最も受けるのがGMです。

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産経ニュース

政府が損害を補填してくれるというなら話は別ですが、トランプにはそんなきはありません。
ドーンドーンと派手に関税ウェポンを投下し続けてやってる感を出したいガキですから。
なんのこたぁない、関税ウェポンはじぶんの国の巨大企業を直撃してしまったのです。馬鹿ですか。
これで産業は国内回帰するどころか、いっそう米国離れを起こし、個人消費は落ち込み、インフレ型不景気に落ち込むかもしれません。

ビッグスリーは恐慌を来し、ホワイトハウスに泣きついて、自動車だけは執行を猶予してくれるように頼んだようで、関税執行は少し伸びました。カナダ、メキシコに対しての2カ月の猶予と一緒です。
こういう高めの危険球を放って、その後泣きついてきたら交換条件で言うことを呑ませ、少し執行を値切ってやる、これがトランプという男のいうディールです。
しかし半年一年ではサプライチェーンの変更はできませんから、焼け石に水でしょう。
この関税ウェポンを嫌って米国株が一斉に下がり始めました。

「6日のニューヨーク市場でドル売り・株売りが進んだ。トランプ関税の先行きなど新政権の政策不確実性や米景気の悪化懸念を背景に、ドルは円、ユーロなど幅広い通貨に対して売られ4カ月ぶりの安値をつけた。ダウ工業株30種平均も反落し、前日比で427ドル下落した。米政権が追加関税の一時猶予を発表したにもかかわらず、投資家の懸念は深まるばかりだ」
(日経2025年3月7日 )
ドル4カ月ぶり安値・NYダウ急落 関税猶予も拭えぬ不安 - 日本経済新聞

たぶんこんな関税を武器にして貿易構造を破壊し続ければ、米国株はさらに下がっていくはずです。
そもそも関税を政治的武器として使うなんぞ外道もいいところ。
認められているのは安全保障上の狭い範囲だけなのに、拡大解釈をして使いまくる。

そもそも貿易赤字を問題視するほうがどうかしています。
貿易赤字は米国の消費が堅調で、国内供給で間に合わないから貿易で輸入しているだけの話で、むしろ貿易赤字は誇ってよいことです。
サプライチェーンがカナダ、メキシコに伸びているのも、別に米国の雇用を奪っているわけではなく、自動車産業が盛んだから起きる現象にすぎません。
その証拠に米国の最新の雇用統計は雇用が堅調だと教えています。

「2月の米雇用者数は堅調に伸びたもようだ。トランプ政権の政策の不確実性が高まる中でも労働市場は安定を維持したことが7日公表の雇用統計で示されそうだ。
ブルームバーグのエコノミスト調査の中央値によると、2月の非農業部門雇用者数は、前月比16万人増に伸びが加速したと予想されている。失業率は歴史的低水準の4%で横ばいと見込まれている」
(ブルームバーク3月7日)
2月の米雇用者数、政策の影響前で堅調な伸び維持の公算-7日発表 - Bloomberg

中国にサプライチェーンが伸びすぎたことに対して日米で反省が生まれているのは、あの無法国家が恣意的にルール破りをしてサプライチェーンを政治的カードに使うからです。
カナダ、メキシコはそんなことはしていないはずです。
確かに私企業なら決算が赤字なら大変ですが、国は違います。
トランプは私企業と国の区別がついていませんから、「赤字」と聞いただけで大騒ぎして世界相手に貿易戦争を開始するのですから、困ったやつです。

それにしても政府機関を壊し、軍を壊し、国際関係を壊し、とうとう経済もぶっ壊したわけで、Breaking America Againです。
こんなことをし続けて喜ぶのは中国だけです。

 

2025年3月 7日 (金)

すべての中東諸国に拒否されたトランプの「ガザリゾート案」

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中東諸国は首脳会議を開き、トランプの「ガザリゾート計画」を正式に拒否しました。

「アラブ諸国は4日、パレスチナ自治区ガザの再建計画を協議する首脳会議をカイロで開いた。トランプ米大統領の構想に対抗することが狙い。ただ最終的に提案をまとまるには、いくつもの重要事項で調整する必要がある。
エジプトのシシ大統領がアラブ連盟の特別首脳会合で提案を明らかにした。会合にはヨルダンのアブドラ国王やカタールのタミム首長、シリアのシャラア大統領らのほか、国連のグテレス事務総長も出席した。
シシ大統領は冒頭の演説で「この計画をわれわれ首脳会議が採択し、中東および国際的な支援が動き出せるよう訴える」と発言。「この計画はパレスチナの住民が自分たちの故郷を再建し、その土地にとどまる権利を確実にするものだ」と説明した。
シシ大統領は来月にエジプトでガザ再建会議を主催すると発表。再建特別基金への各国拠出を促した。同時に政治および安全保障の面でも取り組みを開始し、再建計画を支援するとも述べた」
(ブルームバーク3月5日)
アラブ連盟、ガザ再建案で首脳会議-トランプ氏案への反対で団結図る - Bloomberg 

さぁ、トランプどうしますか。
気がついているでしょうが、あんたはヨーロッパに続いて中東でも拒否されたのですよ。
トランプのガザリゾート案とはこのようなものです。
トランプとネタニヤフがビーチでセイウチのような腹をみせてくつろいでおり、その前には黄金のトランプの銅像やら、踊るアラブのねぇちゃんたちが登場するという不気味なものです。

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XユーザーのSky Newsさん

下は黄金のトランプ像がリゾートガザにそびえたっております。げぇ~。

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XユーザーのSky Newsさん

このトランプが作らせたと思われるビデオクリップは、たぶんアラブ世界を挑発し怒らせるために作ったんでしょうな。
トランプの提案は細部なしのただの机上プランですので、このていどしかわかっていません。

① 米国はガザ地区を引き継ぎ、ガザ地区を長期的に所有し、その責任を負う。そのことが中東の安定につながる。
② 米国はガザを平定し、破壊された建物や不発弾を撤去する。
③ 帰還まで全員が移住。
④ 移住する住民の受け入れ先の候補地はヨルダンあるいはエジプト。
⑤ パレスチナ人は帰還する

なお米軍は派遣しないそうで、では一体どこのどいつがガザ住民を退去させるのでしょうね。
よそさんの国の紛争には口も手も突っ込みカネをせびるが、自分はヒトとカネは出さないというのがトランプ流のアメリカファーストです。
ガザの場合、住民退去も移住先も中東諸国がやれ、ということでしょうが、オレにはキンキラの銅像を建てて感謝しろということのようです。虫がいいこと。

問題は、いうまでもなくまだ消滅していないハマスの存在です。

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イスラエル、ハマスの支配温存なら戦闘休止に合意せず=報道官 | ロイター

いまだ多数のハマスの戦闘組織は温存されており、イスラエルはハマスが残る限りガザ戦争の終結はありえないとしています。

「戦闘休止が提案されているとの報道については「ガザ地区におけるハマスの統治と軍事力の破壊」と「全ての人質の帰還」というイスラエルの目標に変更はないとし、「ガザに人質を残し、ハマスの権力が温存されるような戦闘休止はあり得ない」と述べた」
(ロイター2024年1月24日)
イスラエル、ハマスの支配温存なら戦闘休止に合意せず=報道官 | ロイター

ハマスがいるかぎりまた同じことはくりかえされる、というのがイスラエルの一貫した態度ですから、それについて語らないトランプの「ガザリゾート計画」が空論であるのは明らかです。
ウォールストリートジャーナルによれば、ハマスは着々と戦闘力を回復させています。

「ハマスと話をしているアラブ諸国の当局者ら」の話として、ハマスが新たな指揮官を任命し、戦争が再開した場合に戦闘員を配置する場所の計画を練り始めた。地下トンネル網の修復を開始し、武器を使用してイスラエルに対してゲリラ戦を仕掛ける方法を説明したビラを、経験の浅い新人戦闘員に配布している。
ハマスの戦闘員らは不発弾を即席爆発装置に作り変え、イスラエル軍が自分たちの動きを監視するために残した盗聴器を探して家屋を捜索していおり、ガザ地区のスパイ監視のための戦闘員を配置し、別の部隊にはイスラエル軍の潜入の可能性を監視する任務を与えている」
(WSJ 2月13日)
イスラエルとハマス、ガザ停戦紛争の解決に合意 - WSJ

イスラエルとハマスの間は政治的解決がありえません。
いかなる調停案も直ちに破られるでしょうし、いま停戦しているのもイスラエルにとって人質交換という死活問題があるからにすぎません。
人質がとられていなければ、イスラエルはとことんまでハマスを追い詰めて絶滅させるはずです。
その場合、ガザは荒廃した(いまでも充分に破壊され尽くしていますが)更地と化すことでしょう。

20250306-072245

アラブ連盟、ガザ再建案で首脳会議-トランプ氏案への反対で団結図る - Bloomberg

したがって、トランプの「ガザリゾート計画」を実現するには、まずこのハマス問題を片づけねばなりません。
再度トランプにお聞きしたい、だれがハマスを撤退させ、どこの国がそれを受け入れるのでしょうか?

そしてもうひとつは戦後統治の問題です。
ハマスはいままでガザのすべてを実効支配していました。
政治機構も、警察組織も、保健機関も全部ハマスがひとりで仕切っていたのです。
パレスチナ自治政府はガザにおいては丸ごと乗っ取られており、ハマスなくしては社会がまわらなかったといってよかったわけです。
ハマスに代わる統治組織を誰がどのようにして作るのか、それが明らかにされない「ガザリゾート計画」など夢幻塵芥です。

一方、受皿であることをトランプに期待されている中東諸国は複雑です。
総論で反対というところまでは一緒ですが、そこから各論に行くと、お前がやれよ、いやだよお前こそやれよ、という具合になってしまいます。

「サウジアラビアを含むアラブ諸国は、一致団結してトランプ氏のパレスチナ人移転案に抵抗する姿勢を打ち出したい一方、このイニシアチブには大きなハードルがいくつもある。推定150ページに及ぶ文書について説明を受けた複数の関係者が明らかにした。
扱いに注意を要するため匿名で話した関係者によれば、パレスチナ人によるガザ地区統治の問題で意見が分かれている。同地区の安全保障やハマスの今後も未解決の問題だという」
(ブルームバーク3月5日)
アラブ連盟、ガザ再建案で首脳会議-トランプ氏案への反対で団結図る - Bloomberg

結局、なにも決まらない。それはガザ問題はハマス問題だからです。
それはどこの国も「パレスチナ難民」という形でハマスを引き受けたくないからです。

彼らに定住されると難民キャンプという形でコロニーをつくり、受け入れ国の中に「国家内国家」を作ってしまい、それをハマスが仕切るようになることが目に見えているからです。

かつては難民キャンプにPLO系アラブゲリラが巣くってしまい、イスラエル攻撃のテロ拠点にしてしまいました。
1970年にはあまりの無法ぶりに手を焼いたヨルダン政府とアラブゲリラが内戦にまで発展しています。
そのヨルダンが引き受けるはずがないでしょうが。
ヨルダン内戦 - Wikipedia

エジプトがなぜガザとの国境のゲートを開けないのか分かっているのでしょうか。
エジプトは難民と共に入ってくるハマスを恐れているからです。
なぜならエジプトはハマスの原型であるイスラム同胞団の誕生の地であり、追い出すまでに手を焼いたからです。
またサウジは引き受けたら最後、砂漠のど真ん中に徹底した監視を敷いたキャンプを作って、一歩も外に出さないくらいする国です。
なんならハマスの大幹部がゾロっと住んでいたカタールあたりいかがでしょうか。
しかし彼らは米国と二股外交をしていても、ハマス入り難民という大型地雷をを引き受けるつもりなどまったくない。
しかも今のハマスはイランというバックが控えています。
つまり中東諸国で、引き受ける国は一国もないのです。

それにしてもトランプさん、世界中であなたの思いつきのプランは拒否されまくっていますね。

 

 

2025年3月 6日 (木)

英仏ウもマッドマンセオリをしてみたらいかがでしょうか

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英仏が調停案を出しました。大変に現実的なものです。

「[パリ/ロンドン 3日 ロイター] - フランスのマクロン大統領とバロ外相は、英仏が1カ月間の部分的な停戦を提案していると明らかにした。空・海とエネルギーインフラへの攻撃が対象になり、地上での戦闘は含まないとしている。
バロ氏は3日「空・海とエネルギーインフラへの攻撃を停止すれば、ロシアのプーチン大統領が停戦に合意した際に誠意を持って行動しているかどうか判断できる。その時こそ真の和平交渉が始まる可能性がある」と述べた」
(ロイター3月4日)
仏英、1カ月のウクライナ部分停戦を提案 米側は謝罪で妥協せず | ロイター

もはやトランプに和平の舵取りは任せられないとヨーロッパは認識したようです。
言葉では米国を信用していると言っていますが、内心もうトランプの間は手をつけられないと考えているはずです。

ここまでヨーロッパを侮辱すれば当然すぎるほど当然で、その程度の覚悟なしにはどうにもなりません。

かつてエドワード・ルトワックはこのように述べていました。

「この数十年間、専門家と称する人たちや、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で講演するような経済人や政治家は、世界で「力の拡散」が進んでいると唱えてきた。日米欧などの主要国で構成されるG7が弱体化し、代わりに中国やロシア、トルコなどの新興国を含む20カ国・地域によるG20の時代が到来している、という主張だ。
G7の一員である米英独などを主体とする北大西洋条約機構(NATO)も、ドイツなどが国防への投資を怠ってきたことから弱体化が指摘されてきた。ロシアは、そうした現状を見越して侵攻に踏み切ったわけだが、その瞬間からNATOは逆に極めて強力な組織に変貌を遂げた。
ショルツ独首相は国防費を国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げると表明したほか、加盟国のポーランドやデンマークなどが今月に入って国防費の大幅増額を決めた。NATOは目を覚ましたのだ」
(ルトワック『ウクライナが呼んだNATOの覚醒』2022年3月18日)
【世界を解く-E・ルトワック】ウクライナが呼んだG7の「覚醒」 - 産経ニュース (sankei.com)

まったくそのとおりで、NATOはぬるいお友達倶楽部でしかありませんでした。
なんのための軍事同盟なのか、いや軍事同盟であることすら忘れかかっていたのです。
それができたのは米国の圧倒的軍事力と、ロシアへのベッタリしたエネルギー依存があったからです。
軍事力は米国頼みで、エネルギーはガッチリロシアに頼り、束の間の「戦間期の平和」に酔っていられたのです。
すくなくともウクライナ戦争までは。

リーダー格のドイツからしてやる気ナッシング。
安逸の夢に酔い痴れ、日本といい勝負の2%以下でした。
ドイツ軍はぼろぼろ、戦車は輸出品でしかなく、自国では飾り物でした。
今回のウクライナ戦争でも、なぜNATO諸国の支援が低調だったかといかハ、自国の備蓄があまりに乏しかったからです。

20250306-005115

ドイツ、32年ぶり軍事費「GDP2%」超え 揺らぐ財政ルール - 日本経済新聞

それが変化したのが、ご承知のようにロシアのウクライナ侵略でした。
戦争はたったひとりの独裁者の恣意で起きてしまい、双方共に万の桁という膨大な死者がでるのです。
しかもロシアは純然と軍人ですが、ウクライナ側には膨大な一般市民が含まれています。

「米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは昨年9月、双方の戦死傷者が約100万人に達したと推計した。ウクライナのゼレンスキー大統領は今月上旬、英ジャーナリストの取材に、自軍の損害が死者約4万5100人、負傷者約39万人と公表。英BBC放送などの調査報道は、ロシア軍の死者は氏名が確認されただけで9万5000人以上(今月21日時点)と発表し、未確認分を含めるとはるかに多いと指摘している」
(時事2025年02月23日)
1097日目、死傷者100万人超 数字で見るウクライナの現状:時事ドットコム

そしていま、事次第ではトランプ米国と手切れになるかもしれない、米国がロシアと野合して米露同盟すら作るかもしれないという段になって初めて自らのヨーロッパは自分の手で守らねばならないということに気がついたのです。
遅きに失したといえど、気がつかないよりましです。

ちなみにわが国はまだ安逸の眠りの中にいます。
これはそのうちまとめて考えてみたいのですが、かつて独自核武装に強く反対していましたが、いまやそんなことを言っておられる状況になくなりつつあります。
日本も米国依存だけで安全保障を考えていい時代は急速に終わりつつあります。

それはさておき、今回のヨーロッパ諸国のウクライナ和平案はそういった危機感に裏打ちされています。

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スターマー:ウクライナの平和を保証する意思の連合

「ロンドン=江渕智弘】スターマー英首相は2日、英仏などがウクライナと協力して停戦計画を立て、そのうえで米国と協議すると表明した。ウクライナ、米国、フランスと合意したという。トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談の決裂を受け、事態の収拾をはかる」
(日経3月2日)
英仏ウクライナで停戦案 策定後にトランプ政権と協議へ - 日本経済新聞

この「部分停戦」というのがミソで、地上戦闘は含まれていません。
つまりいま戦闘の主力になっているドローン攻撃をよめさせようということで、ロシアが本気で民間人攻撃を止めるきがあるのか、本格停戦をするきがあるのかを見ようということです。
ウクライナ戦争では、双方が防空システムを無力化できないために航空優勢が確保できませんでした。
そのため通常の戦争では主力となる戦闘機や対地攻撃機は、地対空ミサイルの脅威に怯えて活動が止まったままです。
逆に激増したのが、ミサイルや滑空誘導爆弾などのスタンドオフ兵器です。

一方、地上戦は一進一退で、ロシアは4州の完全支配を目指そうにも、ウクライナ軍とロシア軍との間にはドニエプロ河が横たわっています。
越川作戦には大きな犠牲が伴い、今の両軍の力ではほぼ不可能だと言われています。
プーチンはいままでいくどとなく完全占領を命じてきましたが失敗しています。

ロシア軍の最大の弱みは、実はプーチンにあります。
ISWはロシア軍最大の弱点は「プーチンの決定の脆弱性」にあるとしていますが、この男はかつての福島事故時のイラカンよろしく、現場指揮にまでクチバシをつっこんでは現場を混乱させました。
戦略は言うまでもなく、部隊配置や戦術にまで介入し、キーウ攻略など軍部は考えていなかったのを押しつけたとも言われています。
どう見てもプロが作ったとは思えないハチャメチャな戦略ですから、さもありなんではあります。
ちょうどトランプ王の自国軍隊破壊作戦みたいですね。

ヨーロッパはリアルに和平案を考えていますから、スクーマーは「永続的な和平には、強いウクライナ、欧州による安全の保証、米国の後ろ盾の3つが必要だ」としています。
ヨーロッパからは英仏などの有志国連合がウクライナに平和維持部隊を駐留させることを現実化させるでしょう。
そしてたぶん並行してヨーロッパ独自の核の傘構想も進行するはずです。

同じように米国の最大の弱みはトランプにあります。
トランプのディール愛好癖こそ彼の弱点です。
すべてをサロンのポーカーゲームだと考えている、そここそが弱みです。
ならばウクライナとヨーロッパが掛け金をつり上げてやればよい。

トランプの誰の目にも明らかなロシアベッタリの調停案の代わりに、実現可能な停戦案をぶつける。
ここまでが現時点ですが、さらにそれをぎりぎりまで譲らない。
米軍がヨーロッパ防衛から手を引くぞ、といわれればどうぞと平然と答える。
そしてヨーロッパが核の傘を持ち、NATOを飛躍的に強化する。

トランプは口をきわめて恫喝するでしょうが、ヨーロッパ案で突き進む。
少し落ち着いて考えてみればわかるのですが、これでウクライナが敗北するようなことになれば、一番困るのは誰あろう、そう仕向けた男、すなわちトランプなのです。
たまにはこちらもマッドマンセオリをしてみるのも良いかと思います。
いつまでもトランプ遊びができるのが、世界で自分だけだとうぬぼれるのを止めさせなさい。
ヨーロッパもマッドマンセオリをしてみたらいかがでしょうか。
コレはトランプと北朝鮮だけの独占物じゃないはずですから。

それにしても米国はグレートアゲインどころか、ヨーロッパから見放され、バクチをしたくともウクライナというカードも自分から手放してしまい、みるみるうちに存在を縮小させてしまいました。いまや裸の王様です。

 

2025年3月 5日 (水)

トランプ、米軍と情報組織をプーチンに売る

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トランプがウクライナへの支援を「和平をのぞむまで」一事停止するそうです。

【ワシントン=坂本一之】米主要メディアは3日、トランプ大統領がウクライナに対する全ての軍事支援を一時停止することを決めたと報じた。(略)ホワイトハウス当局者は産経新聞に対し、対ウクライナ支援に関し「トランプ氏は和平に専念している。パートナーにも同じ目標へ取り組んでもらう必要がある」と指摘。「支援が(和平に向けて)寄与するよう一時停止し、見直している」と述べた。
報道によると、軍事支援の停止は一時的な措置で、ウクライナがロシアとの戦争終結に向けた交渉を進めることを確約するまでの期間としている。2月28日にホワイトハウスで開いた米ウクライナ首脳会談でゼレンスキー氏がトランプ氏らに取った態度への対抗措置となる」
(産経3月4日)
トランプ米大統領がウクライナ支援を一時停止 4日の議会演説で政策を説明へ - 産経ニュース

かねてから大統領なったら直ちにウクライナ支援は止めるとは言っていましたから、有言実行です。

「トランプ前大統領は4日、共和党保守派による大規模イベントの演説で大統領への返り咲きに自信を示し、そうなれば、最優先でウクライナ支援を止めると表明しました」
(テレ朝3月5日)
トランプ氏「最優先でウクライナ支援停止する」 大統領への返り咲きに自信 (tv-asahi.co.jp)

正直、本当にやるとはおもわなんだ。
ホワイトハウスからゼレンスキーを叩き出しただけでは飽き足らず、ここまでもというかんじです。まるでジャイアンですな。

もちろん大きな影響が出るでしょう。

「計画中および発注済みの10億ドル以上の武器と弾薬に影響するとされ、ウクライナに移送のため、隣国ポーランドに送られているものも移送が停止されているが、これらの内容は不明だ。
アメリカはこれまで3基のパトリオット、12基のNASAMSの両防空ミサイルシステム。3000発のスティンガー防空ミサイル、1万発以上のジャベリン対戦車ミサイル、31両のM1エイブラムス戦車、40台以上のHIMARS、300両以上のブラッドレー歩兵戦闘車、400両以上のストライカー装甲車、200門以上の155mm榴弾砲などを供与してきた。また、欧州が供与しているF-16戦闘機で使用するミサイルや支援パーツも供与している。停止が長引けば米国製兵器のスペアパーツの入手が難しくなり、稼働率が低下する恐れがある。また、これまで長距離射程と精密打撃でウクライナ軍を支えてきたHIMARSのロケット弾の補給がもし無くなればウクライナ軍は戦術の転換を強いられる」
(ミリレポ3月4日)
トランプ大統領、ウクライナへの軍事支援を停止!その影響は│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア

支援有志連合を作ったヨーロッパはなんとか援助を続けるでしょうが、ウクライナは厳しい状況に追い込まれます。
卑劣としかいいようがない措置です。
これほどまでに堕落した米国を初めて見ました。

ところで当人らはなにか深く勘違いしているようですが、トランプには交渉カードなんてもう残っていませんから。
トランプがいましゃかりきでしている「ロシアへのカード」とやらは、自国の軍事力をいっそう弱めていくという自滅行為でプーチン大帝のご機嫌とりをしようと言うものにすぎません。

たとえば黒人であるだけという理由で、統合参謀本部議長のチャールズ・ブラウン大将と、海軍トップのリサ・フランケッティ大将を女性であることを理由に解任してしまいました。
チャールズ・ブラウン・ジュニア - Wikipedia

20250304-065007

トランプ大統領、米軍最高司令官を解任!ペンタゴンは粛清される│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア

トランプの掲げるDEI(多様性・公平性・包括性)排除で解任されたのでしょうが、彼らはいずれも有能で黒人だから、女性だからという理由で任命されたわけではありません。
軍人としての能力ではなく、反DEIというイデオロギーで解任されたのです。

たとえば女性で最初の海軍トップとなったリサ・フランケッティはこのような困難な仕事をこなしてきました。
リサ・M・フランケッティ - Wikipedia

「私はリサ・フランケッティをよく知っていますが、彼女はいわゆるDEI採用者ではありません。彼女は戦闘で誘導ミサイル駆逐艦、軍艦の戦隊、および2つの空母打撃群を指揮しました。彼女はまた、地中海の由緒ある第6艦隊の司令官でもありました。彼女は経験豊富な戦士であり、優れた戦略家であり、このような状況下での彼女の離脱は海軍にとって深刻な損失です」
最高司令官の解任で米国の治安が悪化 - ジャパンタイムズ

その他、空軍副参謀長のジェームズ・スライフ大将、陸軍、海軍、空軍のトップの制服弁護士である3人の判事擁護将軍(JAGS)も解任こされました。
この決定に対して、現政権のロイド・オースティン国防長官、ウィリアム・ペリー、チャック・ヘーゲル、レオン・パネッタ、そしてったジェームズ・マティスが抗議署名をしています。

こんなことをすれば米軍の士気はダダ下がることでしょう。
もちろんトランプに対しての忠誠心など生まれる道理がありません。ばかなことをするものです。

もちろん大統領は軍トップの最高指揮官( Commander-in-chief)として将軍ら上級将校を解任する権限を持っています。
いままで歴代の大統領は将軍たちをクビにしてきました。
たとえばエイブラハム・リンカーンは、南北戦争を勝利するために多くの将軍を更迭し、ユリシーズ・S・グラントに辿りついたのは有名な話です。

日米戦争が勃発した1941年には真珠湾に対する日本の奇襲攻撃の責任を取らせてルーズベルトは陸軍大将と海軍大将を同時に更迭して、チェスター・ニミッツ提督とダグラス・マッカーサー大将を据えました。
後任の数年後、ハリー・トルーマンは、朝鮮戦争中の不服従と政策の違いを理由に、当時の国家最高司令官であったマッカーサーを解任しました。
オバマですら、バイデン副大統領に対する暴言を理由に、マクリスタル陸軍大将を解雇しましたが、後に陸軍監察官によって無罪となっています。

このように大統領は軍の上級将校を解任する権限を持っていますが、今回はどうでしょうか。
ブラウン、フランケッティは共に優秀な指揮官として知られ、いままでなにかしらの失策や不都合なことをしたことは記録されていませんし、トランプはその解任理由を明らかにできていません。
なぜなら解任理由は単に黒人や女性であったからにすぎないからです。

安全保障上、いま、もし米国に戦争が仕掛けられたら軍中枢不在ということになってしまいます。
というのはひとりの上級将校が解任されれば、彼と仕事をしてきた彼のスタッフや系列の部下たちも一線からはなれざるを得ません。

それは会社の社長交代劇と軍も同じことです。
これが軍という厳しい命令系統を持つ組織にどれほどの混乱をもたらすのかはかりしれないほどです。

また、多くの黒人や女性は軍内部で活躍することをためらうようになるでしょう。
活躍して昇進し責任ある地位に就けば、貶めようとする者らから「DEI人事だ」といわれかねないからです。
あまりこういう言い方はしたくありませんが、これは差別ではないですか。

20250305-021501

トランプ政権「ロシアによるサイバー攻撃を容認」 衝撃の180度方針転換 | クーリエ・ジャポン

トランプの米軍じゃ弱体化政策はこれに止まりません。
いまロシア、中国と熾烈なサイバー空間の戦いを演じているサイバー部隊に活動停止を命じました。

「米国がロシアに対するサイバー攻撃作戦の活動と計画を一時停止したことがわかった。米高官がCNNに明らかにした。
同高官によると、この停止は「大きな打撃」だという。そのような作戦の計画には特に時間と調査が必要なためだ。同高官はロシアに対するサイバー攻撃作戦の一時停止により、同国からのサイバー攻撃に対して米国の脆弱性が増すとの懸念を示す。ロシアは、米国の重要インフラを混乱させ、機密情報を収集できる強力なハッカー集団を擁している。
サイバー戦の攻守を担う米サイバー軍の活動と計画の一時停止は、トランプ政権がロシアとのより広範な緊張緩和を模索する中で決定された」
(CNN3月3日)
対ロシアのサイバー作戦停止 ロシアとの緊張緩和を模索 - CNN.co.jp

ロシアと中国は常習犯的に米国の重要インフラ、軍、官庁、研究所などに侵入し、多くの機密情報を盗み取ってきました。
まぁその政府官庁は、CIAを先頭にしてもう解任の嵐で倒壊寸前なのですが。

「米中央情報局(CIA)は4日、全職員に対して早期退職を勧奨する通知を出した。トランプ政権は1月下旬、連邦政府職員に在宅勤務禁止などの方針に従えない場合は退職を勧奨するとの通知を発出し、国家安全保障関連の職務は対象外としていた。ラトクリフ長官が組織改革を目的にCIAも対象とすることを決定した」
(日経2025年2月5日)
CIA、全職員に早期退職を勧奨 米紙報道 - 日本経済新聞

そしてその大量に解雇されたCIA職員たちには中国とロシアが再雇用に動いているそうです。

「ロシアや中国といった米国の敵対国は、ここへ来て自国の諜報機関に対し、米連邦政府職員の採用を強化するよう指示を出している。対象は国家安全保障に携わる職員で、既に解雇されたか、間もなく解雇されると感じている職員らを標的にしているという。この問題に関する最近の米諜報に詳しい4人の人物と、CNNが検証したある文書から明らかになった。
当該の諜報が示唆するところによると、複数の敵対国がトランプ政権の取り組む大規模解雇に乗じようと積極的に動いている。解雇は連邦政府職員全体にまたがるもので、今週人事管理局(OPM)が計画の概要を発表した」
(CNN3月1日)
解雇に不満の米連邦職員、ロシアと中国が採用に動く 情報筋 CNN EXCLUSIVE - CNN.co.jp

このトランプにより政治的に解雇された職員から大量の情報が流出することは間違いありません。
国家安全保障省ではロシアが監視対象からはずされました。

また、ロシアは大統領選挙にも介入したようです。
そういえば2016年のトランプ落選時に大量に流されたデマは、ロシアが発信元だったというのが有力です。
これも裏が取れない情報ですが、トランプは過去にロシアのオルガルヒからビジネスの恩恵を受けたという情報もあります。
これらは皆確認しようがない情報ですが、ここまで露骨なロシアラバーをされると信じたくもなります。

「米フェイスブック社は30日、ロシア政府系企業が投稿した情報は過去2年間で1億2600万人の米国内ユーザーに届いたと明らかにした。2016年米大統領選の前後に、約8万件の投稿が米国の有権者向けにロシア系アカウントから発信されたという。そのほとんどは、社会を分断し対立を煽る政治的内容だった」
(BBC2017年10月31日)
フェイスブック ロシア発偽情報、米国で1億2600万人に届いたと - BBCニュース

彼らは通常の戦いでの不利をサイバー空間における米国に対する戦術的優位性で凌ごうとしています。
一方、米国の軍や諜報機関のサイバー部隊はそれを食い止めたり、逆にロシアのハッカーに対して打撃を与えてきました。
CIAをぶっ壊し、ロシアを監視対象からはずし、米軍幹部の首を斬り、そしてサイバー部隊の活動まで止めてしまうとは、トランプがロシアにいかに媚を売っているかということを示しています。
露骨なまでのロシアへのすり寄り、これがトランプとバンスの言う「カード」、あるいはディールとやらです。
もはや売国といってよいでしょう。

日本のトラピストたちは、ここまで露骨なロシアへのすりよりが明らかになっても、まだ対中への深慮遠望なのだ、と言い張るつもりなのでしょうか。

2025年3月 4日 (火)

ドイツの分裂

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ドイツ総選挙の結果、ご承知のとおり、中道左派の社会民主党(SPD)や緑の党などで作る現政権が敗北し、ショルツ首相は首相の座を失いました。
第1党となったCDU(キリスト教民主同盟)はSPDなどと連立を組む予定だそうで、メルツ党首が新首相となるでしょうが、変わり映えのしないことです。

ただし新首相のCDUのメルツは、いままでのメルケルの流れを大転換しようとしています。
理由は、トランプの出現と後述するAfD(ドイツの選択肢) が第2党となったことです。

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ドイツ野党メルツ氏、トランプ氏との取引に前向き-総選挙前倒し促す - Bloomberg

「私の絶対的な優先事項は、できるだけ早くヨーロッパを強化し、アメリカからの真の独立を徐々に獲得できるようにすることです」
これは、次期ドイツ首相となるであろうフリードリヒ・メルツ氏の宣言である。(略)
メルツ氏は昨年12月初旬、ベルリンの連邦安全保障政策アカデミーで講演した。
その際に、将来的にドイツ連邦軍には「少なくとも年間800億ユーロ」が必要になると強調した。今のレート(1ユーロ約155円)で計算すると、約12兆4000億円である。1ユーロ130円で計算しても、10兆4000億円だ。
ちなみに、2025年度の日本の防衛予算案(米軍再編経費など含む)は、過去最大の8兆7005億円である」
ドイツが「アメリカからの独立」を目指して軍拡の準備を始める。米ではなく欧州の核の傘へ。独仏の連携強化(今井佐緒里) - エキスパート - Yahoo!ニュース

このヨーロッパの大転換は別途記事にしますが、とにもかくにも、第2党となったAfD だけは政権に入れないということのようです。
まぁ、マスクやバンスらの贔屓の引き倒しが反発を招いたのでしょうか。
ちなみにAfDはトランプと一緒で、ウクライナ支援反対です。

得票数はこのようなものでした。
AfDが孤立しておらず、連立を組める党がひとつでもあれば政権党となった可能性があります。

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BBC


「ドイツの総選挙が23日に行われ、最大野党会派の中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が得票率28.6%で第1党となった。24日未明(日本時間24日朝)までに開票が終了した。CDUのフリードリッヒ・メルツ党首(69)が次期首相になる見通し。メルツ氏が、「防衛においてアメリカから独立できるよう、できるだけ早くヨーロッパを強化することが最優先事項だ」と述べたことが注目されている。
開票の結果、CDU・CSUに続き、極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が得票率20.8%で2位、現与党の中道左派・社会民主党(SPD)が同16.4%で3位、緑の党が4位、左派党が5位となった。
オラフ・ショルツ首相率いるSPDにとっては、過去最悪の結果となった」
(BBC2025年2月24日)
ドイツ総選挙、最大野党の中道右派が勝利 極右AfDは第2党に - BBCニュース

今回、ドイツが地方別であまりにもはっきりと色分けされてしまって、米国の南北戦争を思わすような鮮明さです。
下の地図をご覧ください。
左が各選挙区で最も得票した政党で、右が二番目に得票した政党で、AfDは青、黒がCDU、赤がSPDです。

20250226-011809

JIIA 

「第一党がCDU/CSU、第二党がAfDであることより右派政党への支持が伸びたと考えられがちであるが、両者は分けて整理する必要があるだろう。まず、CDU/CSUへの支持は数字を見れば分かる通り飛躍的に伸びているわけではない。一方で、AfDの伸び率は全政党の中でも二番目に高く、注目に値する。各選挙区で最も得票した政党(Stärkste Kraft)を見ると、とりわけ旧東ドイツにおいてその強さが目立ち、多くの選挙区で第一党を獲得した。東西ドイツが統一後も経済格差や文化の違いを経験してきたことはこれまでも多く指摘されており、このことからAfDを「東ドイツの政党」と理解する向きもあるが、一方で、二番目に得票した政党(Zweitestärkste Kraft)を見ると分かる通り、伝統的にCDU/CSUの牙城であるとされる南部でも得票率を上げていることに注意する必要があり、AfDの影響力が拡大しつつあることが窺える」
(髙島亜紗子 日本国際問題研究所研究員2024年6月24日 )
JIIA -日本国際問題研究所-

これは去年6月の選挙のものですが、今回その傾向はいっそう鮮明になったようでてす。
AfDは完全に旧東ドイツを代表する政党となっており、いつまでも極右の色物政党と見る時期を脱しています。
一方ショルツ首相を出しているSPDは労組などの固定票頼りで、浮動票の獲得には失敗しています。
年齢別支持者層も老年層が基盤のようで、これも世界的なリベラルと軌を一にしています。

CDUはいまやドイツの衰退を作った責任者なので単独政権を作ることは難しく、SPDと組むという大連立をするしかない状況です。
CDUの党勢は、ヨーロッパ議会の動向にも影響があり、CDUが加盟している欧州人民党グループ(EPP)は、現職委員長のフォン・デア・ライエン(CDU所属)を出しています。

緑の党はひと頃の熱に浮かされたような脱炭素時代にはそれなりの力は持っていましたが、いまや国民の支持を失っているようです。
たとえばドイツは極端な脱炭素・反原発政策が実施されており、たとえば緑の党が作った暖房法のようなすべての暖房に再エネ使用を義務づけるようなことをしてきました。

「緑の党が主導して行った「暖房法」などに代表される、経済問題への関心の低さが離反要因であるように思われる。2024年より新設される全ての暖房設備は再生利用エネルギーの使用を義務付けられ、現行の暖房が壊れた場合なども適応される。とりわけ旧東ドイツ時代に作られた建物では、一時的な退去を含めて様々な対応が必要になることが予測され、インフレが続く中で住居にかかるコスト増に批判が集まった」
(高島前掲)

ドイツは緑の党と連立を組んだSPDのシュレーダーの下で脱原発が始まり、パイプラインによるロシアへのエネルギー依存を高めていきました。
そのシュレーダーは首相の座を降りるとすぐにロシア国営エネルギー企業ガスプロムの役員に転身し、その後もロシアのエネルギー企業の役員に天下りし、ロシアの代弁者となるという姿をさらけだしています。
メルケルもこのシュレーダーの脱原発路線を継承し拡大しました。
そしてドイツは、この脱炭素こそが21世紀のエネルギー政策だ、反対する者は地球の敵だくらいに吹きまくったわけです。

そのような極端なエネルギーシフトをしている時に起きたのが、新型コロナとコロナ回復後のエネルギー高騰であり、その後のロシアのウクライナ侵攻によるロシア制裁でした。
これで脱炭素・脱原発できた秘密であったロシアからの安価なエネルギーを失ったドイツは、国内の製造業が一気に不採算化してしまったわけです。

ドイツはロシアから輸入した安いエネルギーで自動車を作り、中国へ輸出するというモデルを作ってきました。
しかし自らが作った脱炭素政策はEVをうみだしました。
ドイツの強みは内燃機関誕生国であったはずですが、その優位性をみずから捨ててEVに走るという歴史的な失敗をしたのです。
フォルクスワーゲン、アウディー、揃ってEVに全振りです。

EVの仕組みは単純。ただの電気モーターで動くゴーカートのようなもので、一定の工業力があればどんな国でも作れます。
内燃機関のような複雑な仕組みも、エンジンを統御する精密な電子システムもいらない、 それを築き上げた百年の歴史も必要がなく、チャチャっとできる、まことにイージーなものでした。
だから中国政府の補助金を得てBYDなどが、一瞬にして世界有数の自動車会社となれたのです。
問題は世界のランバルを同じ土俵に引き込むことでしたが、まんまと脱炭素イデオロギーの僕と化して自分から、チャイナEVと同じ土俵に上ってくるのですからなんともかとも。
とうぜんのこととして、チャイナEVは外国製EVを蹴散らして、世界市場を独占しました。
日本も日産のように大きな打撃を受けた企業もありますが、トヨタは賢明にも揺るぎませんでした。

かくしてドイツは自らのビジネスモデルを一挙に失い、深刻な壁に突き当たっています。
この経済不況に最も影響を受けたのが、統一後も発展が遅れた旧東ドイツだったのです。
そこから誕生したのがAfDでした。
トランプが行き過ぎたリベラルのグリーン政策やDEIから生まれたように、このAfDもまた同じなのです。

 

2025年3月 3日 (月)

パンスよ、なにが「外交」だ

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トランプとゼレンスキーが大げんかを演じました。
それも事もあろうに報道陣の前での大立ち回りです。
きっかけはトランプがプーチンに近いのではないか、という記者団の質問から始まっています。

「会談が始まっておよそ40分ほど経過したあと、トランプ大統領は記者から「プーチン大統領に近すぎるのではないかという懸念も出ているが」と質問されました。
トランプ大統領は「双方に歩み寄らなければ合意は得られない」などと答え、同席していたバンス副大統領が「平和と繁栄への道は外交に取り組むことかもしれない」と述べました。
これにゼレンスキー大統領は「私たちはこれまでプーチン大統領と多くの対話をし、署名をしてきた。停戦の協定にも署名した。全員が私に『プーチン大統領は決してもう戦争をしない』と言った。しかし彼は停戦を破り、私たちの国民を殺し、捕虜の交換にも応じなかった」と説明しました。
その上で「どんな外交だ?バンス副大統領、あなたは何のことを言っているのだ」と述べました」
(NHK2025年3月1日)

トランプ大統領とゼレンスキー大統領会談 激しい口論に 共同会見中止 鉱物資源めぐる合意文書署名に至らず | NHK | トランプ大統領

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BBC

バンス、よく言うよ、いままでプーチンが約束を通持ったことなどただの一回もあるのか。
それを平べったく「平和と繁栄への道は外交に取り組むこと」なんて超一般的に片づけられては困ります。
プーチンという希代の大ウソつきに交渉のテーブルにつかせたところで、どうせグダグダとロシアに都合のいいことを並べるでしょうから、これをいかに封じ込めるのか、そこを議論しなければならないはずです。

そのために遠い所をわざわざゼレンスキーは来たのです。

トランプはたぶんゼレンスキーにこう言ったはずです。
かねがねこの男の和平案は明らかでした。

「ウクライナのゼレンスキー大統領は米国のトランプ前大統領に対し、ウクライナとロシアの戦争終結に向けた自らの和平計画を公表するよう強く求めた。ただ、ウクライナが領土をあきらめる内容であれば、いかなる和平計画も受け入れられないと警告した。
19日のCNNとのインタビューで述べた。
この前には国連総会で一般討論演説も行ったゼレンスキー氏は、「彼(トランプ氏)は自らの考えを今、公表すればいい。時間を無駄にすることはない。人命も失ってはならない。自分の解決策はこうだと言えばいい。戦争を止め、あらゆる悲劇に終止符を打ち、ロシアの侵攻を阻止する方法はこれだと宣言すればいい」と述べた。
一方で「それでももしその考えが、我が国の領土の一部を取り上げてプーチン(ロシア大統領)に与えるという内容なら、それは平和の解決策ではない」と付け加えた」
(CNN2023年9月20日)
ウクライナ大統領、トランプ氏に和平計画の公表を要求 ロシアへの領土割譲は拒否(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース

ウクライナが領土を割譲しろと、これしかないと思え、これがトランプの和平案とやらです。
これがバンスがいうところの「外交」なのです。
バンスは、かつてウクライナに「国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する」と言っていましたが、これが曲者です。
ほー、どうやって「保証」するんでしょうかね。
ウクライナはNATOに入れないんでしたよね、では、米国が安全保障条約を個別に結ぶならよいのですが、その気はいささかもない。

バンス、いまウクライナで核兵器をつくろうという募金が始まってかなりの金額が集まっているのを知っていますか。
それは1994年、ソ連の遺産相続でウクライナにあった大量の核兵器を放棄して、ブタペスト覚書を結ばせて、結局裏切ったのはどこの誰なんですか。米国ではありませんか。
ブダペスト覚書 - Wikipedia

「ブダペスト覚書は、ウクライナ国内法「1968年7月1日付核兵器不拡散条約へのウクライナの加盟」が採択されたことに関連して、署名されたものである。この法律には、「本法律は、核兵器保有国からウクライナに対し、関連の国際法的文書への署名を通じて形成される、安全の保証が与えられた後に発効する」と書かれている。
このようにして、ブダペスト覚書署名国は、「ウクライナの独立、主権、現存国境を尊重する」こと、「ウクライナに対して、今後一切の武器を使用しない」こと、「ウクライナの政策に影響を及ぼすことを目的とした経済的圧力を控える」ことが義務づけられたのである。(略)
同覚書にのっとり、当時世界第3の核兵器保有国であったウクライナは、自発的に核兵器能力を放棄し、非核国家となった。ソ連邦崩壊時、ウクライナ領内には、大陸間弾道ミサイル、戦術核兵器、核兵器を搭載可能な戦略爆撃機、戦略核兵器があった。ウクライナが独立した直後から、アメリカとロシアは、当時のウクライナ政権幹部に対し、できるだけ早く核兵器を放棄するよう説得し始めていた。(略)
これを利用したのがロシアである。2014年3月1日、プーチン大統領は、ウクライナ領におけるロシア軍の使用許可を同国連邦院から受け取ることになる。以降、クリミア占領、ドンバス戦争があり、ウクライナは、ブダペスト覚書はその署名国であるロシアにより違反されたとみなしている。さらに、ウクライナでは、同覚書のその他の署名国も自らの義務を守らなかったとして批判する者が少なくない」
(ウクライナフォーラム2024年11月21日)

「存在しなかった安全」ブダペスト覚書署名から24年

ブタペスト合意は西側とロシアが作ってウクライナに因果を含ませて飲まして結ばせたものですが、そこで約束されていた「独立と主権の保全」は以後まったく省みられずごみ箱行きでした。
ゼレンスキーは被団協のノーベル平和賞受賞に複雑な表情を浮かべていました。

ウクライナはあのままだまされずに核兵器を握っていたら侵略されることはなかったからです。
いまもその声は消えません。

「米国の軍事支援停止が現実味を帯びたことを受け、地元実業家が「核(兵器開発)のため」との名目で募金を始めたところ、1日で2300万フリブナ(約8300万円)が集まったという」
(産経3月2日)
米との会談決裂でウクライナに動揺広がる 「核兵器募金」に1日で8300万円(産経新聞) - Yahoo!ニュース

今回の米国のウクライナに対するあからさまな裏切りで、ヨーロッパは英仏が主導して独自の核の傘に入ることになるでしょう。
米国の核の傘など、時の大統領の気分ひとつで、もう差さないから、差してほしいならナニか寄こせなどと言われますから。
そうなると各地域で、たとえば中東ではサウジが、アジアでは韓国が独自核武装に踏み切ることでしょう。
日本でもリアルな核武装の議論が始まるでしょう。
トランプさん、あんたはとんでもないパンドラの箱を開いたンだよ、分かっているのか。

それはさておき、ロシアはハナからウクライナの「独立と主権」なんぞ尊重する気はいささかもなく、まずは傀儡の親露政権を作り、それが倒されるやいなや東部2州に親露分離主義のゴロツキを集めて政権を作るという浸透工作を開始しました。
そしてさらに軍隊で占領して実効支配すればコッチのものというロシア流儀で、かねてから黒海支配の要衝であるクリミア半島に部隊章をはずした正規軍を送り込んだのが2014年です。

クリミアを侵略された後に西側が仲介策として言い出したのが、2014年のミンスク議定書です。
ここで筋としてはNATO加盟を現実化すべきだったにもかかわらず、西側の腰は引きっぱなしでした。
ドイツのようにロシアにエネルギーを握られていたからです。
プーチンは侵略しておきながら図々しく「ウクライナの中立化」を求め、西側は第3次大戦の危機を理由に、ロシアの言い分を丸呑みしたのです。
ミンスク議定書 - Wikipedia

ミンスク議定書はロシアと2州の傀儡国家、西側諸国(欧州安全保障協力機構・OSCE)の三者で成立したものでした。
すでに合意自体が傀儡国家の存在を前提としており、彼らに「特別の地位を与える」としていました。
ウクライナ東部とロシアに緩衝地帯を作ることが骨子でしたが、これを守ったことなど一度もなく常に武力挑発の震源地でした。
このような無責任なヨーロッパと米国の態度が、西側はウクライナを守らないという信号をロシアに与えた結果、3回目の大規模侵略の呼び水となったのでした。
実に罪深い「外交」としかいいようがありません。

今回のロシア正規軍が堂々と正面玄関からキーウを狙うということからウクライナ戦争は始まりました。
どちらがなんのために侵略したのかはあまりに明白です。
今になって「平和と繁栄への道は外交に取り組むこと」ですか、片腹痛い。

そしてベンスは、ゼレンスキーに「どんな外交だ」と反論されるとカッとなって筋違いの礼儀論に持ち込み、トランプに助けを求めます。
このバンスは危険ですね。
第1次政権時の常識の人ペンスの真逆で、どこかに恨みでもあるのか、常に偏って過激です。

「バンス副大統領は反発し「あなたの国の破壊を終わらせるための外交のことを言っている。大統領、アメリカメディアの前で論争するために執務室に来ることは敬意を欠いている」とゼレンスキー大統領を批判しました。 しかし数分後、控えめに言っても前例のない事態が勃発した。和やかな雰囲気は、辛辣(しんらつ)な対立に代わり、室内は混乱に陥った。大勢が声を荒げ、状況にあきれ果て、中傷が飛び交った。そのすべてが世界中のテレビカメラの前で行われた。
アメリカの大統領と副大統領は、自国を訪れているゼレンスキー大統領を叱責し、ウクライナの戦争努力を支えてきたアメリカの支援にゼレンスキー大統領が十分に感謝していないと非難した」
(NHK前掲)

トランプの和平案は底が知れています。
おそらくこうでしょう。

①現状の戦線の固定
②ウクライナのNATO加盟を棚上げ
③欧州軍の停戦部隊派遣

しかしこれでもプーチンは納得しません。
クリミア半島と4州の支配は絶対条件だと言っているはずです。

なぜなら、プーチンはクリミアと東部・南部4州の一部を占領して編入宣言までしているのに、全面支配に至っていないからです。
いまのまま固定されるとこの4州いずれもウクライナの支配地域が存在したままになってしまい、占領完了したから編入だと国民に言っていたのにメンツ丸つぶれです。

かといって残りを軍事支配するだけの力はありません。
ロシアもまた攻勢限界点を越えてしまっているからで、完全支配するためには「外交」が必要だからです。

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地図で見るウクライナ情勢 ~ロシアのウクライナ侵攻~:時事ドットコム

たぶん現ウクライナ政権の打倒、ないしは最低でもゼレンスキー政権の交代、クリミア、東部・南部4州からのウクライナ軍の撤退、ウクライナのNATO加盟の永久的凍結をトランプに伝えているはずです。
これがロシアの最低ラインです。
そしてこれをトランプがウクライナに呑ませない限り「和平」はないと通告していることでしょう。
だからトランプはなんとしてでもゼレンスキーにひざまずかせてこの「和平」案を呑めと強要しているのです。

BBCはこのように述べています。


「ある外交専門家に言わせると、公の場でのこの口論は計画的なものだったのではないかと一部で疑われている。仕組まれた、政治的なひったくりのようなものだったのではないかと。つまり、ゼレンスキー氏をアメリカの言いなりにさせるか、あるいは次に何が起きても彼のせいにできるような危機を、わざと引き起こしたのではないかと」
(BBC3月1日)
【解説】トランプ氏とゼレンスキー氏の対立 NATOにとって一大危機 - BBCニュース

大いにありえます。私もこれは意図的演技だとかんぐっています。
マルコを出席させず、代わりに副大統領のバンスが出てくるのは不自然でした。

いちばん喜んだのはいうまでもなくプーチンです。
トランプとバンスとまったく同じ言葉でゼレンスキーを叩いています。

「会談が物別れに終わったことについて、ロシア外務省のザハロワ報道官は28日、テレビ番組で、ゼレンスキー大統領について「何が起きているのかの見極めができない人物で、誰に対しても無礼で、暴言を吐き、餌をくれた手にかみつく」と述べて、批判しました。
さらにロシア安全保障会議のメドベージェフ副議長もSNSに「これは有益だが、まだ足りない」と投稿し、ウクライナへの軍事支援の停止につなげるべきだと主張しました」
(NHK前掲)

もはやトランプはロシアの盟友だと分かりました。
今後そのつもりで彼を見ていきましょう。
プーチンの盟友であるトランプは、ウクライナ支援から手を引くかもしれません。

今のロシアには戦闘を継続する力はあまり残されていません。
しかしウクライナ戦争がこのようなロシアの新たな支配権拡大とその容認で終結した場合、ロシアによる新たな侵略を防ぐことのできる仕組みがありません。
プーチンが約束を反故にすることが絶対法則である以上、一時的な「平和」があってもそれは次の戦争に向けての戦間期でしかないのです。
ロシアは痛んだ戦争機械を修繕し、必ずまた新たな勢力圏を求めて侵略を再開します。
それが再びウクライナとなるのか、フィンランドになるのか、エストニアになるのか、ポーランドになるのか、あるいは極東の島国になるのかはわかりません。
ですから第2、第3のウクライナ戦争を防止するには、ロシアを確実に押さえ込める体制の構築が必須なのです。

しかしトランプはこの責務に答えるどころか、公然とロシアと手を結び、プーチンの盟友と化しました。
このまま推移すれば、米国は遠からず最悪の米露同盟へと突き進むことでしょう。
来る5月9日の戦勝記念日には、プーチンと肩を並べてロシア軍を閲兵するトランプとバンスが見られるかもしれません。
なにがメイク・アメリカ・グレート・アゲインだ、笑わせる。


 

2025年3月 2日 (日)

日曜写真館 仰ぐこと多くなり春の空となる

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古里の風は昔のまま昼寝 杉橋仙蕉

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墨の香の梅の香の中菓子給ふ 石川桂郎

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明日はまだある筈 梅の香にさまよう 伊丹三樹彦

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梅か香を共にすひこむたはこ哉 政岡子規 

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梅が香にむせてこほるゝ涙かな 政岡子規

2025年3月 1日 (土)

ころんでもタダ起きないウクライナ

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ウクライナの鉱物資源が注目を浴びています。
ウクライナは意外な印象を受けるかもしれませんが、資源大国です。
ただ戦争によって利用できないだけです。
ウクライナ戦争が始まった2022年春には、ハイテク製品に必須のレアメタルのサプライチェーンが大混乱しました。

「ロシアのウクライナ侵攻を受け、希少資源の調達懸念が世界規模で強まってきた。半導体製造に不可欠なネオンの7割をウクライナに、自動車の主要部品に使うパラジウムの4割をロシアに依存するなど両国産の希少資源が多いためだ。すでに陸海空の物流寸断で供給が止まる例が出るなど、昨年から続く半導体不足に拍車がかかる可能性が高まる。世界的な供給網の混乱に自動車など幅広い産業が身構えている」
(日経 2022年3月4日)
希少資源に調達危機 ロシア・ウクライナ産7割依存も - 日本経済新聞

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【特集2】ウクライナ問題の中国への影響 ~何もしないことが中国にとって最も得策か~ | 今月の特集記事 | 中国株レポート | 中国株 | 東洋証券

 このようにロシアとウクライナの希少資源の占めるシェアは大きいのですが、多くは岩石の中に存在し気の毒にもロシアにはそれを掘り出す技術がありません。
ロシアは主力輸出品の天然ガスですら、プラントの維持保全ができずに生産効率を落す体たらくで、高度の採掘技術が必要な希少資源があることはわかっても単独では掘り出せないのです。

米国はこの採掘技術を独占しています。
表のメジャーはエクソンやモービルですが、裏のメジャーはハリバートン、ベーカーヒューズ、SLBなどの米国に拠点を持つ資源開発企業です。
これらの「裏メジャー」は石油や天然ガス、シェールガスなどの開発会社向けに各種技術サポートを行う油田サービス企業です。
彼らは希少資源の採掘技術も有していて、ロシアには米国籍の資源開発会社の技術がぜひとも必要なのです。

これがロシアがこのウクライナ資源問題で米国に再三「共同開発しよう」と言っている理由です。

ウクライナのレアアース(希土類)は、スマートフォン、電気自動車(EV)、風力発電タービンなどに不可欠な戦略的資源であり、現在その供給の7割を中国に依存しています。
中国はこのレアアースを戦略物資として政治的に利用しています。
中国の言うことに従わないと供給を断つというまねをしてきました。
このような中国の姿勢がはっきりしたために、自由主義経済圏は中国依存からの脱去を目指しています。
こうした新たな供給源を模索している時に浮上したのがウクライナでした。

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トランプは、ウクライナが米国にその希土類鉱物へのアクセスを与えることに「本質的に同意した」と主張している - Euromaidan Press

上図のように、ウクライナは全土にチタン、リチニウム、クリプトン、ヘリウムなどの豊富な資源を持っています。
緑がレアースです。ドネツク州にロシアに支配されている所が3カ所見えますが、西部にも5カ所、中部には4カ所も鉱山が存在します。
ウクライナ中央部や西部地域には、ネオジムやジスプロシウムといった希少元素が含まれる鉱床が存在しています。
チタニウムも中部に大きな鉱脈を持っています。

これらの元素は、高性能磁石や電子機器の製造に必要不可欠であり、世界的な需要が非常に高い。
ウクライナは非常に有望な希少資源の産地として注目され、2021年にはEUとの間で「戦略的原材料パートナーシップ」に署名し、レアアースを含む重要鉱物の探査・開発において協力関係を深めることを確認しました。
これにより、ウクライナの鉱業開発への外国投資が活発化することが期待されていた矢先にロシアの侵略にあってしまったのです。

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希少資源に調達危機 ロシア・ウクライナ産7割依存も - 日本経済新聞

今後、米国は今回の合意に基づいてウクライナの希少資源開発に本腰を入れるはずです。
たぶんトランプは米国籍の「裏メジャー」に採掘権を与え、そのために安定した政治環境を望むでしょう。
つまりはウクライナの安全保証の提供です。

ロシアのドローンやミサイルに怯えながら採掘はできませんからね。
理念や友情ではなく、むき出しの利害でもかまいませんからね。

ロシアにどのような飴玉をなめさせるのかはわかりませんが、いずれにせよ掘ったものは運ばねばなりません。
資源は重量があるために陸路か海路となりますが、そこで参考になるのが、戦争中の穀物輸出ルートです。

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産経ニュース

「ウクライナは小麦やトウモロコシなどの生産が盛んで、「欧州の穀物庫」と呼ばれる。ウクライナからの輸出は、南部オデッサ港からトルコのボスポラス海峡を通るのが主要ル ートだが、ロシアによる海上封鎖や機雷敷設の影響で2000万トン以上の穀物がウクライナ国内に滞留、世界的な穀物不足と価格高騰につながっている」
(産経2022年6月9日)
〈独自〉ウクライナ穀物輸出、G7が代替ルート確保へ 露の封鎖回避 - 産経ニュース

黒海に敷設されたロシアの機雷を除去せねばなりませんが、オデッサ港が使えるようになればここからの黒海ルートを使用することが可能です。
トランプも大いに協力するのではないでしょうか。

このようにゼレンスキーは、当初はトランプのオファーを蹴飛ばしましたが、米国に一定の採掘権を与えることで、ウクライナの安全保障に噛ませることができることに思い至ったのだと思います。
ただ守ってくれ、武器援助をしてくれではテコでも動かないオッサンですからね、トランプは。
そう考えると、ゼレンスキーの深慮遠謀には舌を巻きます。
ゼレンスキーはワシントンでまだ粘っているようです。ころんでもタダ起きないウクライナを見せて下さい。


 

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