現代のチェンバレン・トランプ
お見舞いありがとうございました。
まだ痛い、というか、歳食うと時間をおいたほうが痛くなるんですね。やれやれ。
さて、ウクライナと米国務省との停戦協議がサウジで始まりました。
「国務省」とわざわざ書いたのは、トランプ御大がいつでもちゃぶ台返しが出来る上に、仮にこれで何か決まったとしても、図に乗っているプーチンが聞く耳を持たないのはわかりきっているからです。
比較的ウクライナに同情的なマルコが行ってゼレンスキーをなだめて、停戦会談に顔を出すことを確認するという予備会談のそのまた予備会談といったところです。
「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とマルコ・ルビオ米国務長官は10日、ウクライナとロシアの停戦に向けた協議を行うため、サウジアラビア入りした。
ウクライナ側の当局者は同日、匿名を条件にAFPに対し、「空と海での停戦案がある」「この案は開始と監視が容易な停戦の選択肢であり、まずはここから始めることが可能だ」と語った。
一方、ルビオ氏は記者団に、部分停戦案について「それだけで十分とは言えないが、紛争を終結させるためには必要となる譲歩の一つだ」「双方が譲歩しない限り、停戦も終戦も実現しない」と述べ、ウクライナ側の提案に望みが持てるとの考えを示唆した」
(AFP3月11日)
ゼレンスキー氏と米国務長官、対ロシア停戦協議へ サウジ(AFP=時事) - Yahoo!ニュース
ウクライナの停戦案はもうわかっています。
海上での戦闘の停止とドローンやミサイルなどによる空爆をしないということのようです。
海上戦闘はウクライナがセヴァストーポリ軍港から事実上ロシア黒海艦隊を追い払ってしまっていますが、空爆はロシアが見境なく連日猛爆を浴びせています。
むしろ問題は、現在、ウクライナはクルスクで1万とも言われる部隊がロシアの包囲にはまっていることで、このままま推移すればクルスク侵攻部隊は全滅という惨事になりかねません。
その理由はトランプにあります。
トランプはロシアとは話がついている、いうことを聞かないゼレンスキーめを懲らしめてやる、とばかりに支援を完全に停止してしまいました。
「米国家地球空間情報局の報道官は7日、G-EGDシステムからの衛星画像へのウクライナのアクセスを一時的に停止したと明らかにした。これについてはニューヨーク・タイムズ紙が先に報じていた」
(ブルームバーク前掲)
たぶん衛星情報のみならずインテリジェンス機関からの情報共有もストップしているはずで、これで事実上ウクライナはロシア軍の動向を掴む目を失いました。
これが西側の盟主というのですから、ヘソで茶を沸かすとはこのことです。
一方トランプが盟友だと考えでいるプーチンは、きわめて強気です。
なにひとつ要求を後退させていません。
「事情に詳しい複数の関係者によれば、ロシア当局者は先月行われた米当局者との協議で、最終的な和平合意に向けて進展がある場合、短期的な停戦を検討する用意があると伝えた。非公式な協議を理由に匿名を条件に語った。
関係者のうち2人は、停戦に合意するためには、最終的な和平協定の原則的な枠組みについて明確な理解が必要になると語った。別の関係者は、ロシアは最終的な平和維持活動の境界を確立することに特にこだわるだろうと述べた。これには具体的にどの国が参加するかについての合意も含まれるという」
(ブルームバーク3月8日)
ロシア、停戦受け入れ用意を示唆-米政権はウクライナに圧力継続 - Bloomberg
ここでロシアが言う「平和維持活動の境界を確立する」とか「和平条約の原則的枠組み」ということの意味は、支配地域を確定しろ、それはロシア軍が軍事支配しているクリミアと4州そしてクルスクです。
ここからウクライナ軍は州境まで撤退しろ、クルスクにいるウクライナ軍は殲滅する、ということになります。
トランプはすでにロシアへすり寄った融和策を考えています。
それはバイデン時代に決まった制裁をことごとく解除する内容で、和平会談うんぬんの前にすでに負けています。
「協議に詳しい複数の関係者によると、トランプ氏のアドバイザーらは、対ロシア制裁をどのように緩和するかについて既に概要を練っている。緩和対象にはロシア産石油の価格に設定されている上限などが含まれる」
(ブルームバーク前掲)
全体主義国家が現に侵略をし、それを追認するという外交政策をアピーズメント(融和・Appeasement)と呼びます。
「近代の外交政策で“歴史的な失態”という評価が定着した実例は、イギリスの首相ネヴィル・チェンバレンのナチス・ドイツ総統アドルフ・ヒトラーに対する宥和である。1938年のミュンヘン会議でチェンバレンはドイツによるチェコスロバキアの一部占拠を認めてヒトラーを増長させ、ポーランドへの侵攻を招き、第2次世界大戦を引き起こす結果となったとされる」
(古森義久2021年12月29日)
80年前の歴史的大失態と並べられるバイデン「宥和」外交の不安 バイデン大統領は現代のチェンバレンなのか?(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)
トランプ贔屓の古森氏はバイデンこそ現代のチェンバレンだと断定していますが、ならばトランプはなんでしょうか。
融和以前の癒着でしょうか。
少なくともトランプは西側陣営の盟主たる責任を捨て去り、全体主義と手を組んだのはまちがいないことです。
トランプの現代の宥和政策に対して勇敢なNZの外交官が一石を投じています。
駐英ニュージーランド大使 不適切発言で解任 | 大紀元 エポックタイムズ
「ニュージーランドのフィル・ゴフ駐英国大使が、ロンドンでのイベントでトランプ米大統領の歴史の知識に疑問を唱えた後で解任されていたことが分かった。
オークランド市長や外相を務めた経歴を持つゴフ氏は4日、英シンクタンク王立国際問題研究所(チャタムハウス)のイベントで発言。「私はチャーチル(元英首相)が下院で1938年に行った演説を読み返していた。ミュンヘン会談の後の演説で、チャーチルは(当時の首相の)チェンバレンに向かってこう言った。『あなたは戦争と不名誉との間で不名誉を選んだわけだが、それでも戦争をもたらすことになるだろう』」と述べた。
続けて、「トランプ大統領はチャーチルの胸像を大統領執務室に戻した」「しかし彼が本当に歴史を理解していると、あなた方はお考えか?」と問いかけた。
ここでゴフ氏は、ロシアとウクライナの戦争終結に向けたトランプ氏の取り組みを38年に結ばれたミュンヘン協定になぞらえている。当時、英仏独の首脳が調印したこの協定はヒトラーに対し、チェコスロバキアの一部の併合を認める内容だった。ヒトラーは翌年ポーランドに侵攻。第2次世界大戦が勃発した」
(CNN3月7日)
駐英NZ大使が更迭、トランプ氏の歴史知識に疑問投げかけ(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース
結局、ゴフ大使は即刻解任されてしまいましたが、、これこそ自由主義陣営の共通の声なはずです。
トランプは現代の融和主義者チェンバレンです。
※追記
アップした後にウクライナが停戦案を受諾しました。
「サウジアラビア西部ジッダで11日、米国とウクライナの高官級会合が行われ、会合後に共同声明を発表した。ウクライナは同国を侵略したロシアとの戦争に関し、米国が提案した30日間の暫定的な即時停戦に応じる用意があると表明した。ルビオ米国務長官は米国案をロシア側に示すとし、停戦実現の可否はロシア次第だとの見方を示した。
ウクライナのゼレンスキー大統領はX(旧ツイッター)への投稿で、「前向きな一歩だ」として米国案の受諾を確認し、米国によるロシアの説得に期待を示した」
(産経3月12日)
ウクライナが30日の即時停戦受け入れ表明 米国が提案、軍事支援再開 ロシアの出方が焦点 - 産経ニュース
« 本日は休場 | トップページ | なんだただの帝国主義じゃないか »
古森さんに限らず、トランプ好きの我が国の保守言論人たちにはあきれますね。「トランプは対中政策の為にプーチンを味方につける、いわゆる逆キッシンジャー戦略だ」とか、そんなお花畑が現出するハズがありません。
トランプはチェンバレンか、それとも癒着か? で言えば、それは後者でしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2025年3月12日 (水) 23時07分