お笑い米露首脳会談終わる
コメントにお前はかつてトランプ支持だったじゃないか、というお叱りを受けました。
そうですね、いまや狂乱ぶりに押されて遠い昔のような気がするのが不思議ですが、第1期政権まで私はトランプをそれなりに高く評価していました。
行き過ぎたリベラルの諸政策を止めるには、彼の図抜けたパワーしかないと思ったからです。
ただし、思えば第1期は素人政治家の足りない所を、ポンペオやボルトン、マチスなどのプロが補完していたのです。
脇をあの議事堂占拠事件ですら揺らがなかった硬骨の常識漢ペンスが固めていました。
第1期の成果は、ある意味彼らなくしてはありえなかったでしょう。
逆に言えば、トランプにとって思う存分ディールができず不満だらけだったでしょう。
しかし雌伏の4年間、トランプはいっそう裸の王様化していき、自分への忠誠心だけを基準にスタッフを固めてしまいました。
第1期から残った者は皆無です。代わりに入ったのが、小説家のバンスやテスラのマスクなど、どこか調子がおかしな連中ばかりです。
そして暗殺未遂事件がなにかの啓示でも与えてしまったようで、もうそうなると暴走は止まりません。
第1期で抑制されていた負のパワーが全開、手当たり次第ぶっ壊しまくっている、それが今のトランプです。
とてもじゃないが支持できるわけがありません。
ただし、以後も全否定ではなく、是々非々精神で見ることは止めないつもりではいますのでよろしくお願いします。
本題に入ります。お笑い米露会談が終わりました。
成果ですか、もちろんナッシングに決まっています。
「トランプ米大統領は18日、ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領と米露首脳を行った。ホワイトハウスの発表によると両首脳は、ロシアとウクライナの戦争終結に向け、エネルギーとインフラ分野への攻撃を停止し、将来の全面停戦に向けてただちに交渉を開始することで合意。露大統領府は同日、電話会談を受けてプーチン氏がウクライナのエネルギー関連施設への攻撃を30日間停止するよう露軍に命じたと発表した」
(産経2025年3月19日)
米露首脳、ウクライナ終戦へエネルギー施設攻撃停止で合意 全面停戦へ交渉開始 - 産経ニュース
そもそも「民間エネルギーインフラへの攻撃を停止する」なんて、元々戦時国際法違反ですから、成果に入るのかどうかすら怪しいもんです。
一方ウライナのロシアに対しての製油所攻撃はこれで止まるとすれば万々歳で、これはボディブローのように効いていたのです。
肝心要の戦闘の停止についてはなんの音沙汰もありませんでした。
歯牙にもかけなかったのでしょうね。
その代わりといってはナンですが、領土要求のほうは厚かましく言い立てたようです。
「 プーチン大統領はトランプ米大統領に対し、ロシアが2014年に一方的に「併合」したクリミアのほか、ウクライナ東・南部4州をロシア領として正式に承認するよう求めている。ロシア紙コメルサントが関係筋の話として報じた。
コメルサント紙は、プーチン大統領が参加した18日の非公開のビジネスイベントに出席した関係筋の話として、 プーチン氏はウクライナのルガンスク、ドネツク、ザポロジエ、ヘルソンの4州とクリミアを米国が正式にロシア領として承認することを望んでいると報じた。
近い将来に米国が承認すれば、プーチン氏は見返りとして、ウクライナの港湾都市オデーサやその他のウクライナ領土に対する領有権を主張しないと確約するという」
(ロイター3月20日)
プーチン氏、制圧ウクライナ地域「ロシア領承認」を米に期待=報道(ロイター) - Yahoo!ニュース
東部・南部4州の制圧は未完了で、オデーサの占領などに至っては黒海艦隊が動けない以上不可能だと見られています。
ですからプーチンの言い分は、制圧未完了な地域からウクライナ軍が出て行けば、制圧不可能な都市はあきらめてやるという実に虫のいい要求なのです。
「ただ、トランプ氏の提案の柱である30日間の停戦については依然として合意が得られていない。クレムリンは停戦の検証やウクライナにおける「強制動員」の停止、戦闘休止を利用したウクライナ軍の再武装の防止といった点が依然、ロシア側の課題として残っていることを示唆している。
エネルギーインフラへの攻撃を一時停止するという米国の提案については、クレムリンの同意が得られた。プーチン氏は「直ちにロシア軍に対応する指示を出した」とされる」
(CNN3月19日)
トランプ氏を褒めそやすプーチン氏、ウクライナ戦争ではほとんど譲歩せず - CNN.co.jp
おもわず苦笑しちゃいましたが、あたりまえじゃないですか。
プーチンは勝っていると思っているんですよ。
クルスクを占拠しているウクライナ軍をもう一歩で包囲殲滅できて、彼らの屍を世界に曝せると思っています。
ただし、まだウクライナ軍は頑強に抵抗して包囲殲滅には至っていません。
NHK
「ロシア国防省は15日、ウクライナ側から奪還したと発表したロシア西部クルスク州の都市、スジャで撮影したとする映像をSNSに投稿しましたが、アメリカのシンクタンクはウクライナ軍を完全に撤退させるには至っていないと分析しています。
ロシア国防省は15日、ウクライナ側から奪還したと発表したロシア西部クルスク州の都市スジャで撮影したとする「解放後のスジャの状況」と題した映像をSNSに投稿しました。
一方、アメリカのシンクタンク戦争研究所は15日、「ロシア軍はクルスク州で攻撃を続けているが、ウクライナ軍を完全に撤退させるには至っていない」とする分析を発表しました」
(NHK3月16日)
【詳細】ウクライナ情勢 ロシアが軍事侵攻 戦況地図とともに詳しく 各国の外交や支援は(3月16日の動き) | NHK | ウクライナ情勢
つまりプーチンは時間が欲しいのです。いまこんな状況で停戦したらクルスクにウクライナ軍が陣地を構えたまま停戦してしまうことになりますからね。
だからこのタイミングで、トランプはロシアのために「一切の支援を切る」という名で軍事情報の提供すら拒んだわけです。
これで目を奪われた格好になってウクライナ軍は混乱し、包囲を受けることになります。
世界大統領閣下に対して生意気な口を叩いたゼレンスキーを締め上げて、事実上の領土放棄を呑ませました。
そのうえでいつもながらの芝居がかった調子で「クルスクで地獄図絵がくりひろげられる」と絶叫してみせたのです。
誰に対して?もちろんウクライナに対してに決まっているでしょう。
「(CNN) トランプ米大統領は17日、ロシアのプーチン大統領と18日午前に電話会談を行う意向を記者団に明らかにした際、ロシアがクルスク州のウクライナ兵を「包囲」したとするプーチン氏の疑義のある主張を繰り返した。
トランプ氏は文化施設ケネディ・センターを視察中、「明日、ロシアのプーチン大統領と協議する。深刻な窮地にある兵士たちの一部を救うためだ。彼らは実質的に拘束下にあり、ロシア兵に包囲されている」と発言。そのうえで、クライナ兵は包囲されていると再度主張し、自身がいなければクライナ兵はもはやこの場所にいないと続けた。
ウクライナ軍はクルスク州で劣勢だが、ゼレンスキー大統領や軍事専門家からは、ロシア軍がウクライナ兵を包囲したとのプーチン氏の主張を疑問視する声が出ている。トランプ氏は14日にも、SNS「トゥルース・ソーシャル」でプーチン氏の主張をなぞっていた」
(CNN3月18日)
「ウクライナ兵はクルスクで包囲」、トランプ氏が再度主張 ウクライナ側は疑義 - CNN.co.jp 。
そして米露直接電話会談となったわけですが、結果はやる前から見えていました。
プーチンの主張はいささかもゆらいでいません。
「クレムリンは停戦の検証やウクライナにおける「強制動員」の停止、戦闘休止を利用したウクライナ軍の再武装の防止といった点が依然、ロシア側の課題として残っている」(CNN)そうですが、なんですか「強制動員」って。
戦時動員ならロシアのほうがはるかに徹底的にやっていて、いまや病院、囚人にまで及び、北朝鮮軍という外国人傭兵すら万単位で動員しているのは知られた事実です。
「戦闘休止を利用したウクライナ軍の再武装の防止」とは、ヨーロッパ各国、特に米国のウクライナ支援を停止せよという意味です。
また「ネオナチの排除」という言い方で、ゼレンスキーを辞めさせることも上げているはずです。
まったく同じことをトランプも言っています。
NHK
トランプはプーチンが憑依したかのようにウクライナに圧力をかけ続けました。
「アメリカのNBCテレビは、トランプ氏が支援再開の条件として、ウクライナ政府がアメリカ政府との間で鉱物資源をめぐる協定に署名するだけでは不十分と報道。
ウクライナ政府による「領土面での譲歩」や「ゼレンスキー大統領の退任も視野に入れた選挙の実施を容認する」など、ロシアとの和平交渉に向けた姿勢の変化をトランプ大統領が望んでいると伝えています」
(NHK3月13日)
トランプ大統領 ウクライナ支援再開の条件は (油井’s VIEW) - 国際報道 2025 - NHK
まったくどちらの味方やら。
これだけプーチンと一緒になってゼレンスキーに圧力をかけたのに、プーチンは口では「感謝する」なんて言いながらいささかも譲歩しませんでした。
当然の結果です。トランプさん、就任すれば1週間で終わりにするんじゃありませんでしたっけね。
いったいこの根拠のない自信はどこから来るんでしょうかね。
プーチンが就任祝いで、直ちに停戦しようなんて言う手合いだと思ったのですか。人がいいこと。
プーチンは戦争を止めざるを得なくなる状況まで粘ります。
それはプーさんがコメントで指摘されていた原油価格の暴落かもしれないし、政変かもしれない。
確かにロシア経済は微妙な状況です。
元ロシア中銀副総裁のビューギンはこう言っています。
「米国のこうした動きについて元ロシア中央銀行副総裁のオレグ・ビューギン氏は、ロシアが2つの望ましくない選択肢に直面する中で起きていると分析。ロシアはウクライナ戦向けの軍事支出の拡大を中止するか、あるいは支出を拡大し続けてその代償として何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受するか、二者択一を迫られているが、いずれの道も政治的リスクを伴うと指摘した。
財政支出は通常、経済成長を促進する。しかしロシアでは民間部門を犠牲にする形でミサイル向け支出という、新しい価値創出につながらない軍事支出で経済が過熱し、中央銀行の政策金利は21%にまで達して企業の設備投資が鈍り、インフレは抑制できていない」
(ロイター2月25日)
アングル:苦境のロシア経済、トランプ米大統領の早期終戦案は助け船か | ロイター
プーチンは制裁など効いていないとうそぶいていますが、ムチャな軍事ケインズ主義は一時的には経済を活発にするように見えますが、中長期的には悪質なインフレを招くはずです。
特に戦争が終結し、軍事生産が止まったら、さぁ大変です。
フル回転して砲弾や戦車を作らせていた工場に鍋ヤカンでも作らせるのでしょうか。
どっと倒産企業が増え、失業者が溢れます。
戦争で死んだり障害を負った人は死者が19万8000人、けが人が55万人以上という膨大な数ですから、さぁどうケアします。
アフガン戦争の比ではない社会的荒廃の釜の蓋が開くのです。
戦争目的であるウクライナ全土制圧はできず、かろうじて4州を取ったはいいが戦争で荒廃しきった土地と不服従の住民を抱えて、どう復興させるつもりでしょうか。
ウクライナから領土はあるていどもぎ取れても戦時賠償までは取れませんからね。
プーチンがまともな国家指導者ならビューギンの忠告を聞いてここらで戦争を止めたほうが傷は浅いのですが、しないだろうなあの男のことだから。
いずれにせよ、いまプーチンが銃を置く条件はないのです。
しゃもないディールとやらで時間を与えずに、正統な米国流でプーチンに圧力をかけて止めさせなさい。
それがかえってトランプの親友プーチンへの友情というもんです。
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