ネタニヤフはイスラエルを分裂に追い込む
トランプの後ろ楯で気を強くしたのか、ネタニヤフが暴走しています。
まずは、ガザの停戦協定が破られました。
トランプは贔屓にはベタベタに甘く、自分の思惑と異なる者には敵とつるんで叩いてきました。
イスラエルに対しては一切制止することなく、やりたい放題を認めたのですが、それがこの有り様です。
完全な停戦の失敗です。
「イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は18日夜、パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスに対する「戦闘を全面的に再開した」とするビデオ声明を出した。
ネタニヤフ氏は、「交渉は戦火の下でのみ続けられる」、「これは始まりに過ぎない」と挑戦的な警告を発した。
また、イスラエルはガザで拘束されているイスラエル人の人質を解放するため、ハマスとの交渉を試みてきたと主張。しかし、ハマスが毎回、提案を拒否したと非難した。
ネタニヤフ氏はさらに、すべての戦争目標を達成するため、イスラエルは戦い続けると宣言。目標は、「人質を戻し、ハマスを除去し、ハマスがイスラエルの脅威ではないことを確実にする」ことだとあらためて強調した」
(BBC3月19日)
ネタニヤフ氏、ガザ空爆は「始まりに過ぎない」 停戦合意は崩壊の危機 - BBCニュース
そしてまた空爆が再開されました。
イスラエル空軍は精密爆撃を遂行する能力をもっているにもかかわらず、一ブロックを全滅させるような爆撃を市街地に行いました。
このような停戦前の空爆こそ多大な民間人被害を出した元凶であるにもかかわらず、なんの反省も総括もないようです。
「イスラエル軍は18日、パレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織ハマスの拠点に大規模な空爆を実施した。1月19日の停戦発効以降、最大規模の攻撃で、ガザ保健当局は少なくとも404人が死亡したと発表した。米国などが仲介する停戦延長交渉が決裂し、停戦合意の枠組みが崩壊しかねない情勢となっている」
(読売3月18日)
イスラエル軍の大規模空爆、死者404人に…ハマスが戦闘再開なら停戦合意枠組み崩壊の恐れ : 読売新聞
また同時にガザ南部での地上戦闘も再開されました。
やり残したハマス殲滅を徹底するということのようです。
ハマスは狂信的な宗教的イデオロギー集団です。したがって彼らが滅ぶことはありえません。
必ずその教条は残りつづけ、また芽生えます。
膨大な被災者からは無数の戦闘員が誕生することでしょう。
つまり終わりはない、どこかで区切りをつけて撤収せねばならないのです。
初期の頃には防衛戦闘といってよいのですが、もうとうに過剰反撃です。
「イスラエル軍は19日、ガザの中部・南部で地上作戦を再開。20日には北部で、その後エジプト国境に隣接するガザ最南端ラファのシャブーラ地区で地上作戦を開始したと発表した。これにより1月から続いていたハマスとの停戦を事実上放棄した形となる」
(ロイター3月21日)
イスラエル軍、ガザ北部・最南部で地上作戦再開 空爆で少なくとも91人死亡 | ロイター
「深く悩まされている」ヘルツォークは、戦争の中で「分裂的な」政策のために政府をパン |イスラエルのタイムズ
この攻撃再開に対して強く抗議したのが大統領のアイザック・ヘルツォークでした。
大統領は、ガザに多くの人質が残っているにもかかわらず戦闘を再開し、これに国民の多くが大衆抗議行動をしているさなかに行われたことを強く非難しています。
また同時にネタニヤフが国内治安組織の長であるシンベトのローネン・バールを追放し、さらに司法制度を縮小する動きが政府を分裂に導いていると厳しく批判しました。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相とシン・ベトのローネン・バー
政府・国会がシンベトのバル長官解任決定:イスラエル内乱の危機か2025.3.21 – オリーブ山通信
シンベトとは、イスラエルにある三つの主要な情報機関の一つです。
別名はシャバクともいい、国内情報機関としてイスラエル国内で起きるテロや破壊工作、スパイ活動などについての情報を収集して対処する防諜機関です。
モサドがCIAのような対外諜報機関であるのに対して、FBIのような役割をしていたわけです。
シンベトの主任務は、ヨルダン川西岸地区やガザ地区からのイスラム過激派らによるテロ活動の監視と摘発でしたから、このハマスの大規模テロを未然に防げなかったのは、重大な過失でした。
これには背景があります。
このハマスの攻撃については実は事前に重大な警告が上がっており、イスラエル軍、諜報機関、そしてネタニヤフにも、ハマスに攻撃の兆しありという報告が上がっていたにも関わらず、彼らはなんの対処もせずに一方的な攻撃を許し対規模な殺害と多くの人質を奪われました。
「パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスによる越境攻撃について、イスラエルは開始3日前にエジプトから警告を受けていたと、米議会の有力者が11日話した。
AFP通信によると、米下院外交委員会のマイケル・マコール委員長(共和党、テキサス州)が、中東危機の機密情報に関する非公開の報告会の後、記者団に対し、「私たちの知るところでは、今回のような事が起こりうると、エジプトはイスラエルに3日前に警告していた」と話した。(略)
エジプト情報当局の関係者は今週、AP通信に対し、ガザ地区で「何か大きな事」が計画されていると、イスラエルに繰り返し警戒を呼びかけていたと話した。
「近いうちに事態が爆発すると伝えていた。非常に近いうちに、大ごとになると警告してきた。だがイスラエル側はその警告を軽くみていた」
この関係者によると、イスラエル当局はガザ地区の脅威を軽視し、ヨルダン川西岸地区に注意を集めていたという」
(BBC2023年10月12日)
エジプト、ハマス攻撃を3日前にイスラエルに警告=米下院外交委員長 - BBCニュース
報告を受けていたこれらの機関はハレヴィ参謀総長と軍関係者が引責辞任し、シンベトのパル長官も責任を認めて辞任することを表明していました。
しかし、唯一ネタニヤフだけは戦争中であることを理由にして責任は認めながらも、今は辞任する時ではないと言い張って独断で戦争を拡大してきました。
こういうネタニヤフの責任回避について多くの反対論が国内で巻き起こっており、シンベトもこの件について調査中としていました。
このネタニヤフを調べていたシンベトのパル長官を、ネタニヤフが解任すると言い出しているわけです。
とうぜんの疑惑として、パルの後任にネタニヤフに都合のいい人物を据えるためだと勘繰られても致し方ありません。
シンベトはこれに抵抗して、正式な査問委員会が設立されるまで辞任させないとしています。
またネタニヤフの補佐官でもあったエリ・フェルドスタインが、カタールから金を受け取っていたという疑惑が浮上しています。
これは「カタールゲート」と呼ばれ、イスラエル国内で大問題となりました。
これらの出来事は並行して起きています。
共通するのはイスラエルの危険な右傾化です。
従来、イスラエルは外から見るよりはるかにバランスのいい国家で、三権分立が確立しているために、政府が独走できないような仕組みがあります。
「民主主義国家の基本は、三権分立である。政府、司法、国会は、それぞれの権利を維持しなければならない。しかし、この原則に基づき、イスラエルでは、政府の決めたことを司法の最高裁が簡単に却下することが可能であるため、ネタニヤフ首相は、かなり苦労させられている。イスラエルの司法は特に左派であり、右派系のネタニヤフ首相とは意見を違にすることが多いのである。
このため、さまざまな法案、人事を出して、国会が承認しても、その後で最高裁が却下してしまう。いわば、司法が政府の上に立っている状態だとネタニヤフ首相は言っていた。
ネタニヤフ首相は、最高裁が却下した法案が、復活するシステム、司法制度改革法案を打ち出して、司法にあたる最高裁と対立。国内では、意見が大きく分かれるようになった」
(オリーブの丘通信3月21日)
政府・国会がシンベトのバル長官解任決定:イスラエル内乱の危機か2025.3.21 – オリーブ山通信
このバランスを司法改革の名で替えようとしていたのがネタニヤフで、それに手を着けた矢先に10月のテロ攻撃が始まってしまい、戦時内閣という特例を楯に強引な戦争拡大に邁進してしまいました。
そして強烈なイスラエル贔屓のトランプが再登場し、ネタニヤフを応援したために、いっそうイスラエル国内の右傾化とそれに対する反発が拡がっているのです。
« 日曜写真館 むせび泣くあまりに高き蘭の香に | トップページ | 真実味を帯びてきた米国のNATO脱退 »
ネタニヤフのイスラエル、プーチンのロシア、習近平の中共、彼らが欲しいのは領有・管轄管理ができる更なる土地であって、其処にいる人は要らない。
子供まで根絶やしにするか、フィジカルでもメンタルでも二度と立ち上がれないようにしなければ、反抗の芽が残って安心できない。それが彼らの考え。
今イスラエルにはまだ…司法と国民の反対意見が効くかどうかに望みがある分だけほんの少しマシだが、ネタニヤフのイスラエルは(やはり)必要性と均衡性など気にも掛けていないのは確か。
過度に夢見がちな人々や騙され易い人々が非情な現実を認め得る可能性以外に、何も汲めるところは無い。
投稿: 宜野湾より | 2025年3月24日 (月) 15時22分
イスラエルの司法(最高裁)の在り方は日本と違って、司法積極主義でした。それをネタニヤフが正そうとするのはいいんだけど、立法によってでないところが事の問題の本質。イスラエルは見かけよりもかなりリベラルな国民が多く、ネタニヤフの思ったようには行きません。
ハマスとの停戦について、停戦条件を破ったのは一応ハマス側でしょう。それ見た事か!と空爆をしてしまうネタニヤフ翁は恐ろしい気がしますが、明らかにトランプがやっているイエメンフーシ派攻撃と連動してますよね。まずイランの手足をもいで、それからディールという文脈で理解していいんでしょうが、通用しません。その前にトランプ御大はロシアで躓きそうです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2025年3月25日 (火) 00時58分