トランプ関税戦争を嫌った米国株式市場
トランプは就任以来のディールが大成功したと勘違いしています。
トランプは決して歴史を学び世界の構造を知って大統領になったわけではありません。
持っている知識といえば、「影の政府」がどーしたとかQアノンがこう言ったといったレベルです。
なにより経営者としての成功体験を絶対のものとして、政界に進出したような人物です。
つまり徹底した経験主義者、パワーの信者なのです。
どうだあの傲慢なゼレンスキーさえ這いつくばらせたぜ、結局オレの言うなりにしてりゃ問題ないんだ、という妙な成功体験を得てしまったようです。
経験主義者には実体験で目を覚ましてもらうしかありません。
やや笑えることには、トランプが始めた世界貿易戦争は自国の株式市場の復讐を受けています。
3月11日のシカゴ日経平均先物(CME)です。
ドーンと爆下がりしているのが分かりますね。
「デルタ航空や小売り企業による消費鈍化警告で、警戒感が広がり、寄り付き後、下落。カナダによる国内電力価格引き上げに対抗しトランプ大統領がカナダ産鉄鋼とアルミニウム関税引き上げを警告し、貿易摩擦拡大懸念に相場は大幅続落となった。警戒感に軟調推移が続いたが、終盤にかけて、ウクライナがトランプ政権提案の停戦案を受け入れる用意があると発表、トランプ大統領がウクライナ情報共有と安全保障支援再開で合意したとの報道を受け停戦期待が広がり、さらに、カナダとの協議後、貿易を巡る懸念も緩和し、相場は下げ幅を縮小し、終了。セクター別では、自動車・自動車部品、半導体・同製造装置が上昇、電気通信サービスが下落した」
米国株式市場は続落、消費鈍化や貿易摩擦深刻化を警戒(11日)/海外市場動向 | 市況 - 株探ニュース
いうまでもなく、米国株式が下落した理由は、カナダ、メキシコなどに対するトランプの関税戦争です。
「アメリカのドナルド・トランプ大統領は11日午前、カナダから輸入する鉄鋼とアルミニウムへの関税を50%に引き上げると発表した。しかし、同日午後にこれを撤回し、当初の25%にするとした。カナダの鉄鋼とアルミニウムへの25%の関税は、12日に発効する。
トランプ氏がカナダへの関税を大幅に引き上げると警告した数時間後、カナダ・オンタリオ州は、米北部の複数の州に供給する電力に25%の追加料金を課す計画を停止。この対応を受け、トランプ氏は関税を当初の25%に戻した。
北米の隣国同士に経済的損害をもたらしかねない貿易戦争で、再び小競り合いが起きた」
(BBC3月12日)
カナダへの鉄鋼・アルミ関税、トランプ氏が「50%に倍増」表明も数時間で撤回 - BBCニュース
そりゃ撤回したとはいえ、大統領が一時でも50%関税上乗せなんてクレージーなことを言えば、たまげるよ。
これってもう宣戦布告みたいなもんですから。
当然カナダは売られた喧嘩を買いますわな。買わなきゃ殴られっぱなしで「米国の1州」になってしまいますから。
報復関税はあたりまえ、電力供給に追加料金をかけると言い始めました。
「カナダは今月3日、トランプ氏の貿易をめぐる攻撃は不当だとして、300億カナダドル相当のアメリカ製品に新たな関税を課すなどの報復措置を発表した。
カナダ・オンタリオ州のダグ・フォード州首相は、自国への関税を撤廃させるため、アメリカに供給する電力に追加料金を課すつもりだと発表していた。
また、アメリカが「事態をエスカレート」させるなら、「電力を完全に停止することも辞さない」とも述べていた」
(BBC前掲)
典型的な貿易戦争の勃発です。
しかもいま、カナダは長年続いたトルドーからマーク・カーニーへと政権交代しようかというタイミングでした。
マーク・カーニー次期首相
Bloomberg
「与党党首に選出されたカーニー氏は勝利演説で、「米国はカナダではない。いかなる形でもカナダが米国の一部になることは決してない。この闘いはわれわれが求めたわけではないが、(殴り合いのために)誰かがグローブを投げ捨てれば、カナダ人は常に相手をする用意がある。貿易でもホッケーでもカナダは勝つ」と訴えた」
(ブルームバーク3月10日)
カナダ与党党首にカーニー氏、首相交代へ-トランプ米政権と対決姿勢 - Bloomberg
自由党党首となったカーニーは冷静な銀行家で、カナダ中央銀行総裁と英国中央銀行総裁を勤めたこともあるという人物で、おおよそトランプのような煽動家とは無縁な人ですが、米国の属国になれと言わんばかりの米国と徹底して戦う気のようです。
というのは、トランプの一連の「帝国主義」発言は、カナダの愛国心に火をつけてしまったからです。
当然です。トランプが愛国者というなら、言われたほうも国を愛しているのです。
「愛国」はあんたひとりの持ち物じゃないんだよ、なぜそんなことがわからんのか、この男。
トランプから関税戦争を仕掛けられたEUもしっかり報復すると宣言しました。
[ブリュッセル 12日 ロイター] - 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は12日、鉄鋼とアルミニウムを巡る米国の関税に対抗し、来月から260億ユーロ(280億ドル)相当の米国製品に関税を課すと表明した。
トランプ米政権はこの日、貿易相手国に対する25%の鉄鋼・アルミニウム関税を発効させた。これまでの除外措置や無関税枠が失効したのに伴い、関税が実質的に引き上げられた。
欧州委は、米製品に対する現行の関税一時停止を4月1日に終了し、同月中旬までに新たな対抗措置のパッケージを打ち出すという。
関税が一時停止されていた米製品はボートからバーボン、バイクまで多岐にわたり、EUは今後2週間でその他の製品についても協議する。EUは新たな措置について、約180億ユーロ相当の製品を対象とし、総額が米国による新たな関税で影響を受ける貿易額と同等にすると述べた」
(ロイター3月12日)
EU、米関税に来月から報復措置へ 280億ドル相当の製品に | ロイター
オーストラリアも長年の友好を裏切るのかと怒って参戦しました。
「オーストラリアのアルバニージー首相は発動直前に「全く不当」であり、「わが国との間で長年続く友好の精神に反する」と批判した。その一方で、関税の応酬や貿易をめぐる緊張の高まりは経済上の「自傷行為」で、成長の鈍化やインフレ激化を招くと指摘。報復関税は課さない方針を示した」
(CNN3月12日)
トランプ米政権、鉄鋼・アルミに一律25%の関税発動 EUが即座に報復 - CNN.co.jp
トランプは報復関税かけたら、また追加関税かけてやると息巻いています。
かくしてとうとう世界を巻き込んだ関税戦争の勃発です。
いまのような安全保障の枠組みが十重二十重にできていなければ、大戦へ直行でしたね。
トランプはそのくらいアブナイことをしている自覚があるのかしら。
一方、米国株式が風邪をひくと兜町は肺炎になるといわれるわが国の株式市場はどうだったでしょうか。
日経平均 前営業日比30円安で寄りつき(2025年3月12日掲載)|日テレNEWS NNN
なんと、シカゴ市場が冴えなかったのに日経平均は持ちこたえています。
ここではっきりしつつある経済状況は、米国経済が明らかな景気減速モードをみせはじめた、ということです。
もちろん、今後輸出産業などで日本に影響が来ない道理がありませんから、日本経済もおつきあいするはめになるかもしれません。
とまれこのような馬鹿げた貿易戦争は世界経済を減速させることだけは確かで、それを米国株式市場は嫌ったのです。
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カーニーさんは徹底的な銀行家であって政治家経験が少ないのが不安材料。いきなり大統領になったトランプよりはマシか。
対して我が国の石破総理は···今度は去年の選挙で新人議員を囲い込もうとして10万円の商品券を配ろうとしたとか。なんかちっこい話で揺らいでますね。今頃リークされたのも気になる話ですが。
先程「フライトレーダー24」をちょっと観てたら、普段はウザいだけのポップアップ広告でオンタリオ州政府公式で「こんなに事業環境が整ってるよ!」という対外投資呼び込みの広告がありました。
もうアメリカなんざ知るか!と全世界に呼びかけたことになります。
投稿: 山形 | 2025年3月14日 (金) 06時18分
この関税政策の理論的基盤になっているのが、経済諮問委員会のミラン委員長の論文らしいです。
要は、「関税を用いて国際貿易の再編をし、米国に有利な条件を引き出す」目的で、3分類して敵味方をはっきりさせるのだそう。
一種の安全保障が狙いでもあるけれど、実験的にすぎて突拍子もないやり方。これじゃ、味方は誰もいなくなる。
先に米国経済が詰んでしまっては、再編成もなにもない。
中間選挙も乗り切れないでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2025年3月14日 (金) 16時41分