英仏ウもマッドマンセオリをしてみたらいかがでしょうか
英仏が調停案を出しました。大変に現実的なものです。
「[パリ/ロンドン 3日 ロイター] - フランスのマクロン大統領とバロ外相は、英仏が1カ月間の部分的な停戦を提案していると明らかにした。空・海とエネルギーインフラへの攻撃が対象になり、地上での戦闘は含まないとしている。
バロ氏は3日「空・海とエネルギーインフラへの攻撃を停止すれば、ロシアのプーチン大統領が停戦に合意した際に誠意を持って行動しているかどうか判断できる。その時こそ真の和平交渉が始まる可能性がある」と述べた」
(ロイター3月4日)
仏英、1カ月のウクライナ部分停戦を提案 米側は謝罪で妥協せず | ロイター
もはやトランプに和平の舵取りは任せられないとヨーロッパは認識したようです。
言葉では米国を信用していると言っていますが、内心もうトランプの間は手をつけられないと考えているはずです。
ここまでヨーロッパを侮辱すれば当然すぎるほど当然で、その程度の覚悟なしにはどうにもなりません。
かつてエドワード・ルトワックはこのように述べていました。
「この数十年間、専門家と称する人たちや、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で講演するような経済人や政治家は、世界で「力の拡散」が進んでいると唱えてきた。日米欧などの主要国で構成されるG7が弱体化し、代わりに中国やロシア、トルコなどの新興国を含む20カ国・地域によるG20の時代が到来している、という主張だ。
G7の一員である米英独などを主体とする北大西洋条約機構(NATO)も、ドイツなどが国防への投資を怠ってきたことから弱体化が指摘されてきた。ロシアは、そうした現状を見越して侵攻に踏み切ったわけだが、その瞬間からNATOは逆に極めて強力な組織に変貌を遂げた。
ショルツ独首相は国防費を国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げると表明したほか、加盟国のポーランドやデンマークなどが今月に入って国防費の大幅増額を決めた。NATOは目を覚ましたのだ」
(ルトワック『ウクライナが呼んだNATOの覚醒』2022年3月18日)
【世界を解く-E・ルトワック】ウクライナが呼んだG7の「覚醒」 - 産経ニュース (sankei.com)
まったくそのとおりで、NATOはぬるいお友達倶楽部でしかありませんでした。
なんのための軍事同盟なのか、いや軍事同盟であることすら忘れかかっていたのです。
それができたのは米国の圧倒的軍事力と、ロシアへのベッタリしたエネルギー依存があったからです。
軍事力は米国頼みで、エネルギーはガッチリロシアに頼り、束の間の「戦間期の平和」に酔っていられたのです。
すくなくともウクライナ戦争までは。
リーダー格のドイツからしてやる気ナッシング。
安逸の夢に酔い痴れ、日本といい勝負の2%以下でした。
ドイツ軍はぼろぼろ、戦車は輸出品でしかなく、自国では飾り物でした。
今回のウクライナ戦争でも、なぜNATO諸国の支援が低調だったかといかハ、自国の備蓄があまりに乏しかったからです。
ドイツ、32年ぶり軍事費「GDP2%」超え 揺らぐ財政ルール - 日本経済新聞
それが変化したのが、ご承知のようにロシアのウクライナ侵略でした。
戦争はたったひとりの独裁者の恣意で起きてしまい、双方共に万の桁という膨大な死者がでるのです。
しかもロシアは純然と軍人ですが、ウクライナ側には膨大な一般市民が含まれています。
「米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは昨年9月、双方の戦死傷者が約100万人に達したと推計した。ウクライナのゼレンスキー大統領は今月上旬、英ジャーナリストの取材に、自軍の損害が死者約4万5100人、負傷者約39万人と公表。英BBC放送などの調査報道は、ロシア軍の死者は氏名が確認されただけで9万5000人以上(今月21日時点)と発表し、未確認分を含めるとはるかに多いと指摘している」
(時事2025年02月23日)
1097日目、死傷者100万人超 数字で見るウクライナの現状:時事ドットコム
そしていま、事次第ではトランプ米国と手切れになるかもしれない、米国がロシアと野合して米露同盟すら作るかもしれないという段になって初めて自らのヨーロッパは自分の手で守らねばならないということに気がついたのです。
遅きに失したといえど、気がつかないよりましです。
ちなみにわが国はまだ安逸の眠りの中にいます。
これはそのうちまとめて考えてみたいのですが、かつて独自核武装に強く反対していましたが、いまやそんなことを言っておられる状況になくなりつつあります。
日本も米国依存だけで安全保障を考えていい時代は急速に終わりつつあります。
それはさておき、今回のヨーロッパ諸国のウクライナ和平案はそういった危機感に裏打ちされています。
「ロンドン=江渕智弘】スターマー英首相は2日、英仏などがウクライナと協力して停戦計画を立て、そのうえで米国と協議すると表明した。ウクライナ、米国、フランスと合意したという。トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談の決裂を受け、事態の収拾をはかる」
(日経3月2日)
英仏ウクライナで停戦案 策定後にトランプ政権と協議へ - 日本経済新聞
この「部分停戦」というのがミソで、地上戦闘は含まれていません。
つまりいま戦闘の主力になっているドローン攻撃をよめさせようということで、ロシアが本気で民間人攻撃を止めるきがあるのか、本格停戦をするきがあるのかを見ようということです。
ウクライナ戦争では、双方が防空システムを無力化できないために航空優勢が確保できませんでした。
そのため通常の戦争では主力となる戦闘機や対地攻撃機は、地対空ミサイルの脅威に怯えて活動が止まったままです。
逆に激増したのが、ミサイルや滑空誘導爆弾などのスタンドオフ兵器です。
一方、地上戦は一進一退で、ロシアは4州の完全支配を目指そうにも、ウクライナ軍とロシア軍との間にはドニエプロ河が横たわっています。
越川作戦には大きな犠牲が伴い、今の両軍の力ではほぼ不可能だと言われています。
プーチンはいままでいくどとなく完全占領を命じてきましたが失敗しています。
ロシア軍の最大の弱みは、実はプーチンにあります。
ISWはロシア軍最大の弱点は「プーチンの決定の脆弱性」にあるとしていますが、この男はかつての福島事故時のイラカンよろしく、現場指揮にまでクチバシをつっこんでは現場を混乱させました。
戦略は言うまでもなく、部隊配置や戦術にまで介入し、キーウ攻略など軍部は考えていなかったのを押しつけたとも言われています。
どう見てもプロが作ったとは思えないハチャメチャな戦略ですから、さもありなんではあります。
ちょうどトランプ王の自国軍隊破壊作戦みたいですね。
ヨーロッパはリアルに和平案を考えていますから、スクーマーは「永続的な和平には、強いウクライナ、欧州による安全の保証、米国の後ろ盾の3つが必要だ」としています。
ヨーロッパからは英仏などの有志国連合がウクライナに平和維持部隊を駐留させることを現実化させるでしょう。
そしてたぶん並行してヨーロッパ独自の核の傘構想も進行するはずです。
同じように米国の最大の弱みはトランプにあります。
トランプのディール愛好癖こそ彼の弱点です。
すべてをサロンのポーカーゲームだと考えている、そここそが弱みです。
ならばウクライナとヨーロッパが掛け金をつり上げてやればよい。
トランプの誰の目にも明らかなロシアベッタリの調停案の代わりに、実現可能な停戦案をぶつける。
ここまでが現時点ですが、さらにそれをぎりぎりまで譲らない。
米軍がヨーロッパ防衛から手を引くぞ、といわれればどうぞと平然と答える。
そしてヨーロッパが核の傘を持ち、NATOを飛躍的に強化する。
トランプは口をきわめて恫喝するでしょうが、ヨーロッパ案で突き進む。
少し落ち着いて考えてみればわかるのですが、これでウクライナが敗北するようなことになれば、一番困るのは誰あろう、そう仕向けた男、すなわちトランプなのです。
たまにはこちらもマッドマンセオリをしてみるのも良いかと思います。
いつまでもトランプ遊びができるのが、世界で自分だけだとうぬぼれるのを止めさせなさい。
ヨーロッパもマッドマンセオリをしてみたらいかがでしょうか。
コレはトランプと北朝鮮だけの独占物じゃないはずですから。
それにしても米国はグレートアゲインどころか、ヨーロッパから見放され、バクチをしたくともウクライナというカードも自分から手放してしまい、みるみるうちに存在を縮小させてしまいました。いまや裸の王様です。
« トランプ、米軍と情報組織をプーチンに売る | トップページ | すべての中東諸国に拒否されたトランプの「ガザリゾート案」 »
コメント
« トランプ、米軍と情報組織をプーチンに売る | トップページ | すべての中東諸国に拒否されたトランプの「ガザリゾート案」 »
ウクライナを見るにつけ、北朝鮮やイランならずともあらゆる国が防衛兵器としての核を持ちたくなるのも当然です。日本、台湾はどうするのか、真剣に考えなければなりません。
投稿: あいうえお | 2025年3月 6日 (木) 10時52分