すべての中東諸国に拒否されたトランプの「ガザリゾート案」
中東諸国は首脳会議を開き、トランプの「ガザリゾート計画」を正式に拒否しました。
「アラブ諸国は4日、パレスチナ自治区ガザの再建計画を協議する首脳会議をカイロで開いた。トランプ米大統領の構想に対抗することが狙い。ただ最終的に提案をまとまるには、いくつもの重要事項で調整する必要がある。
エジプトのシシ大統領がアラブ連盟の特別首脳会合で提案を明らかにした。会合にはヨルダンのアブドラ国王やカタールのタミム首長、シリアのシャラア大統領らのほか、国連のグテレス事務総長も出席した。
シシ大統領は冒頭の演説で「この計画をわれわれ首脳会議が採択し、中東および国際的な支援が動き出せるよう訴える」と発言。「この計画はパレスチナの住民が自分たちの故郷を再建し、その土地にとどまる権利を確実にするものだ」と説明した。
シシ大統領は来月にエジプトでガザ再建会議を主催すると発表。再建特別基金への各国拠出を促した。同時に政治および安全保障の面でも取り組みを開始し、再建計画を支援するとも述べた」
(ブルームバーク3月5日)
アラブ連盟、ガザ再建案で首脳会議-トランプ氏案への反対で団結図る - Bloomberg
さぁ、トランプどうしますか。
気がついているでしょうが、あんたはヨーロッパに続いて中東でも拒否されたのですよ。
トランプのガザリゾート案とはこのようなものです。
トランプとネタニヤフがビーチでセイウチのような腹をみせてくつろいでおり、その前には黄金のトランプの銅像やら、踊るアラブのねぇちゃんたちが登場するという不気味なものです。
下は黄金のトランプ像がリゾートガザにそびえたっております。げぇ~。
このトランプが作らせたと思われるビデオクリップは、たぶんアラブ世界を挑発し怒らせるために作ったんでしょうな。
トランプの提案は細部なしのただの机上プランですので、このていどしかわかっていません。
① 米国はガザ地区を引き継ぎ、ガザ地区を長期的に所有し、その責任を負う。そのことが中東の安定につながる。
② 米国はガザを平定し、破壊された建物や不発弾を撤去する。
③ 帰還まで全員が移住。
④ 移住する住民の受け入れ先の候補地はヨルダンあるいはエジプト。
⑤ パレスチナ人は帰還する
なお米軍は派遣しないそうで、では一体どこのどいつがガザ住民を退去させるのでしょうね。
よそさんの国の紛争には口も手も突っ込みカネをせびるが、自分はヒトとカネは出さないというのがトランプ流のアメリカファーストです。
ガザの場合、住民退去も移住先も中東諸国がやれ、ということでしょうが、オレにはキンキラの銅像を建てて感謝しろということのようです。虫がいいこと。
問題は、いうまでもなくまだ消滅していないハマスの存在です。
イスラエル、ハマスの支配温存なら戦闘休止に合意せず=報道官 | ロイター
いまだ多数のハマスの戦闘組織は温存されており、イスラエルはハマスが残る限りガザ戦争の終結はありえないとしています。
「戦闘休止が提案されているとの報道については「ガザ地区におけるハマスの統治と軍事力の破壊」と「全ての人質の帰還」というイスラエルの目標に変更はないとし、「ガザに人質を残し、ハマスの権力が温存されるような戦闘休止はあり得ない」と述べた」
(ロイター2024年1月24日)
イスラエル、ハマスの支配温存なら戦闘休止に合意せず=報道官 | ロイター
ハマスがいるかぎりまた同じことはくりかえされる、というのがイスラエルの一貫した態度ですから、それについて語らないトランプの「ガザリゾート計画」が空論であるのは明らかです。
ウォールストリートジャーナルによれば、ハマスは着々と戦闘力を回復させています。
「ハマスと話をしているアラブ諸国の当局者ら」の話として、ハマスが新たな指揮官を任命し、戦争が再開した場合に戦闘員を配置する場所の計画を練り始めた。地下トンネル網の修復を開始し、武器を使用してイスラエルに対してゲリラ戦を仕掛ける方法を説明したビラを、経験の浅い新人戦闘員に配布している。
ハマスの戦闘員らは不発弾を即席爆発装置に作り変え、イスラエル軍が自分たちの動きを監視するために残した盗聴器を探して家屋を捜索していおり、ガザ地区のスパイ監視のための戦闘員を配置し、別の部隊にはイスラエル軍の潜入の可能性を監視する任務を与えている」
(WSJ 2月13日)
イスラエルとハマス、ガザ停戦紛争の解決に合意 - WSJ
イスラエルとハマスの間は政治的解決がありえません。
いかなる調停案も直ちに破られるでしょうし、いま停戦しているのもイスラエルにとって人質交換という死活問題があるからにすぎません。
人質がとられていなければ、イスラエルはとことんまでハマスを追い詰めて絶滅させるはずです。
その場合、ガザは荒廃した(いまでも充分に破壊され尽くしていますが)更地と化すことでしょう。
アラブ連盟、ガザ再建案で首脳会議-トランプ氏案への反対で団結図る - Bloomberg
したがって、トランプの「ガザリゾート計画」を実現するには、まずこのハマス問題を片づけねばなりません。
再度トランプにお聞きしたい、だれがハマスを撤退させ、どこの国がそれを受け入れるのでしょうか?
そしてもうひとつは戦後統治の問題です。
ハマスはいままでガザのすべてを実効支配していました。
政治機構も、警察組織も、保健機関も全部ハマスがひとりで仕切っていたのです。
パレスチナ自治政府はガザにおいては丸ごと乗っ取られており、ハマスなくしては社会がまわらなかったといってよかったわけです。
ハマスに代わる統治組織を誰がどのようにして作るのか、それが明らかにされない「ガザリゾート計画」など夢幻塵芥です。
一方、受皿であることをトランプに期待されている中東諸国は複雑です。
総論で反対というところまでは一緒ですが、そこから各論に行くと、お前がやれよ、いやだよお前こそやれよ、という具合になってしまいます。
「サウジアラビアを含むアラブ諸国は、一致団結してトランプ氏のパレスチナ人移転案に抵抗する姿勢を打ち出したい一方、このイニシアチブには大きなハードルがいくつもある。推定150ページに及ぶ文書について説明を受けた複数の関係者が明らかにした。
扱いに注意を要するため匿名で話した関係者によれば、パレスチナ人によるガザ地区統治の問題で意見が分かれている。同地区の安全保障やハマスの今後も未解決の問題だという」
(ブルームバーク3月5日)
アラブ連盟、ガザ再建案で首脳会議-トランプ氏案への反対で団結図る - Bloomberg
結局、なにも決まらない。それはガザ問題はハマス問題だからです。
それはどこの国も「パレスチナ難民」という形でハマスを引き受けたくないからです。
彼らに定住されると難民キャンプという形でコロニーをつくり、受け入れ国の中に「国家内国家」を作ってしまい、それをハマスが仕切るようになることが目に見えているからです。
かつては難民キャンプにPLO系アラブゲリラが巣くってしまい、イスラエル攻撃のテロ拠点にしてしまいました。
1970年にはあまりの無法ぶりに手を焼いたヨルダン政府とアラブゲリラが内戦にまで発展しています。
そのヨルダンが引き受けるはずがないでしょうが。
ヨルダン内戦 - Wikipedia
エジプトがなぜガザとの国境のゲートを開けないのか分かっているのでしょうか。
エジプトは難民と共に入ってくるハマスを恐れているからです。
なぜならエジプトはハマスの原型であるイスラム同胞団の誕生の地であり、追い出すまでに手を焼いたからです。
またサウジは引き受けたら最後、砂漠のど真ん中に徹底した監視を敷いたキャンプを作って、一歩も外に出さないくらいする国です。
なんならハマスの大幹部がゾロっと住んでいたカタールあたりいかがでしょうか。
しかし彼らは米国と二股外交をしていても、ハマス入り難民という大型地雷をを引き受けるつもりなどまったくない。
しかも今のハマスはイランというバックが控えています。
つまり中東諸国で、引き受ける国は一国もないのです。
それにしてもトランプさん、世界中であなたの思いつきのプランは拒否されまくっていますね。
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