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2025年4月

2025年4月30日 (水)

ロシアにふりまわされているトランプ

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トラ親方は自信満々で再登場しましたが、やることなすことヘマばかり。
特に外交は悲惨なばかりに失敗の連続ですが、そのなかでももっとも苦しんでいのは、ウクライナ和平交渉とイラン交渉でしょう。
どちらもいいように振り回されています。
イランは後回しにしてウクライナから。

プーチンは急にこんなことを言い始めました。

「 ロシアのプーチン大統領は米国のウィットコフ中東担当特使との会談で、ロシアは前提条件なしにウクライナと交渉する用意があると改めて表明した。 インタファクス通信が26日、ロシア大統領府のペスコフ報道官の発言として伝えた。 トランプ米大統領側近のウィットコフ氏は25日、訪問先のモスクワでプーチン大統領と会談し、ロシア・ウクライナ戦争の終結に向けた米国の計画について協議した。会談は3時間に及び、同席したロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)は、米ロの立場が接近したと述べた」
(ロイター4月27日)
プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 米特使に伝える 

「前提なしの協議」というのが曲者で、そう言いながら必ずゼッタイ条件をつけてくるのがいつもの手口です。
プーチンにベタ甘だったトランプにもそれがわかりかけてきたようで、ロシアのキーウ爆撃以降はこう言っています。

「 トランプ米大統領は26日、ロシアのプーチン大統領に対し、ウクライナの民間地域を攻撃すべきではないと主張、ロシアと取引する第三国を制裁対象にする2次制裁が必要かもしれないと述べた。
トランプ氏は自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」に「プーチンが過去数日間で民間地域、都市や町にミサイルを撃ち込む理由はなかった。彼が戦争を終わらせたくないのではないかと思わざるを得ない」と投稿。
「彼はただ私を弄んでいるだけで、『金融』や『2次制裁』を通じて、異なる方法で対処する必要があるのだろうか。あまりにも多くの人々が死んでいる!」と述べた」
(ロイター4月27日)
トランプ氏、ウクライナへの攻撃非難 対ロ「2次制裁」言及(ロイター) - Yahoo!ニュース

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【詳細】ウクライナ情勢 ロシアが軍事侵攻 戦況地図とともに詳しく 各国の外交や支援は(4月28日の動き) | NHK | ウクライナ情勢

分かりきっているじゃないですか。
プーチンは、戦争目標を達成するまで戦争は止めませんよ。
戦争目標とは、ウクライナ全土の占領と属領化です。
属領化とは彼らの言葉を使えば「非ナチ化」ですが、これはゼレンスキーを倒して親露政権を作ることです。
全土の占領は諦めてはいないものの、現実には5州の完全領土化と、そして忘れてはいけないのはロシア領クルスクの完全奪還が含まれています。
両方とも「完全」がつくのは、いま戦争を止めたらウクライナ領の奪取も、クルスク奪還も不完全なままの線で止まってしまうからです。

そうなれば英国の国防省が発表している2022年戦争開始以降のロシア軍の戦死者数20万~25万人、死傷者全体では約90万人、失ったロシア軍の主力戦車1万292両、装甲車2万1400両という戦後最悪の損害を国民にどう説明するのでしょうか。
これはロシアが被った第二次大戦以降最悪の損害です。
アフガン戦争では戦死者1万5千人、負傷者3万5千人で、ソ連は崩壊したのですから推して知るべしです。
プーチンはソ連の崩壊と、その後の無政府状態を肌で知っている世代ですしね。

だからここで戦争を止めさせるには、さらに圧力をかけ続けねばならないのに、トランプは真逆の方向に全力疾走してしまったのですからなんともかともです。
一番の圧力はトランプがほのめかしたように、今のロシアと取引している第三国に対しての2次制裁です。
これをしたらトラン親方の株は一気に上がるでしょう。
できるかどうか。

さて、トランプ特使のウイットコフはイラン問題の特使も兼任していますが、こんな職業外交官ですら解けない交渉を、ズブの素人の不動産屋にやらせるというのがそもそも非常識の極みです。
このオトコには交渉の機微がわからず、自由主義国盟主の理念すらありません。ただの小僧のお使いです。
ブリンケンのほうが100倍ましでした。それにしてもマルコよ、どこに消えちまったんだ~い。
プーチンはこのお使い小僧を相手にいいように時間稼ぎをしています。
最低でも5月9日の戦勝記念日くらいまでは、休戦を折り込んでダラダラと引っ張る気でしょう。

トランプが怒りそうになれば、間合いをはかるかのようにすぐに休戦を言い出します。
たいしたタフネゴシエーターです。

「ロシアのプーチン大統領は28日、ウクライナとの戦争をめぐり、5月に3日間の停戦を一方的に宣言した。こうした動きに、ウクライナ側は懐疑的な見方を示しており、プーチン氏に対しては、米国が提案している、より長期間の停戦案を受け入れるよう求めた」
ロシア政府は、ウクライナでの「全ての軍事行動」を5月8日午前0時から11日午前0時まで停止すると発表した。今回の決定は「人道的配慮」に基づくものだとしている。5月9日は対ドイツ戦勝80年の記念日にあたる」
(CNN4月29日)
プーチン氏、3日間の停戦を呼び掛け トランプ氏は永続的な休戦求める - CNN.co.jp

さすがに戦勝記念日のヒナ壇にトランプを乗せることまでは無理そうですが、ほんとうならプーチンは左右に習近平とトランプを並べて軍事パレードをしたかったことでしょう。
まるで悪い冗談のような風景ですが、トラ親方ならアリだと思っていたかもしれません。

トラ親方の就任当初のイメージでは、就任と同時プーチンと歩調を合わせ、抵抗するゼレンスキーの口に否応もなくなくロシアべったりの和平案を突っ込んで一気に休戦という目論見でした。
これぞバイデンがなしえなかったトラ親方の外交勝利、のはずでしたが、ヨーロッパの反対は予測できたものの、ゼレンスキーは激しく抵抗したためにホワイトハウスでフルボッコにしたわけです。

そして腹いせのようにあろうことかウクライナに制裁を加えて、軍事支援の停止を宣言し、ウクライナ軍にとって死活の衛星情報も遮断してしまいました。
これに呼応して、プーチンはクルスク州で奇襲をかけて、一気にウクライナ軍を押し返しました。
奇襲攻撃などわずかの時間で準備ができるはずがないので、たぶんトラ親方がロシアに対して密かに衛星情報遮断の日時を教えたのかもしれません。
もちろん憶測にすぎませんが、今のトラ親方ならやりかねません。
ゲラシモフ参謀総長は、19日、プーチンに昨年8月からの越境攻撃を受けているクルスク州について、制圧された面積のうち99.5%に相当する面積を奪還したと報告したようです。

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報告を受けるプーチン氏:時事ドットコム

「ロシアが26日、ウクライナ軍が一時占領した南西部のクルスク州全体の支配権を確保したと発表した。特に、クルスク州奪還の過程で北朝鮮軍がロシアを支援したとし、北朝鮮の派兵についても明らかにした」
(東亜日報4月28日)
ロシア総参謀長、北朝鮮兵参戦を初めて認める「クルスク奪還に相当な支援」 | 東亜日報

ロシアの大本営発表ではクルスクからウクライナ軍をほぼ追い払ったはずですが、ウクライナ側はクルスクからの完全撤退を認めておらず、まだ国境付近で頑強に立て籠もっていると考えられます。

「(ロシアの有名軍事ブロッカーの)RYBARも「ロシア軍兵士がゴナル集落内で国旗を掲げる様子が登場し集落全体の解放が確認された」と報告したが「完全解放宣言にも関わらずクルスク州の国境沿いや幾つかの渓谷にウクライナ軍が存在する」「ウクライナ軍がクルスク州内で維持する陣地はアクセスが困難なため継続的な砲撃やドローン攻撃を考慮しても当分持ち堪える可能性が高い」と指摘した」
(航空万能論4月26日)
プーチン大統領がクルスク解放を、ゲラシモフ参謀総長が北朝鮮軍の作戦参加を発表

つまり、クルスクは占領されたままであるということです。
これはプーチンに取って致命的です。
トラ親方「和平案」のように現況で「5州」を領土とすることができても、現在時点で銃を置いてしまうと、クルスクという自国領は一部であろうとウクライナが実効支配してしまうからです。
とんでもない面汚しで、クルスクでの戦闘が終了しないかぎりプーチンはトラ親方の「和平案」には乗れないのです。
それを知ってか知らずか、トラ親方はウクライナさえ叩きのめせばなんとかなると思っているのが素人の悲しさです。

 

2025年4月29日 (火)

石破首相、ベトナム、フィリピン歴訪

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わが石破首相がベトナムとフィリピンに歴訪しています。
大変けっこうな目のつけどころです。褒めるときは褒めねば、パチパチ。

「石破茂首相は27日、ベトナムを訪問した。首都ハノイで最高指導者トー・ラム共産党書記長と会談。東・南シナ海で威圧的な海洋進出を図る中国を念頭に、安全保障面の協力を深化させる。トランプ米政権の高関税措置への対応を巡っても議論し、貿易や投資の経済分野の連携も進める。首相はラム氏との会談に先立ち、ハノイ市内のタンロン工業団地を視察した。米国の高関税措置の影響や懸念などについて現地の日系企業の関係者らと意見交換した。関税措置を巡る今後の日米交渉や、影響を受ける企業への支援策の参考とする考えだ」
(産経4月27日)
石破首相がベトナムを訪問 最高指導者ラム書記長と会談、対中安保や米関税対応で協力 - 産経ニュース

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産経ニュース

おお、気のせいか、さっそうと見えるぞ(もちろん気のせいです)。なぜか美人の奥方が寝間着でご到着です。
今回、ベトナムとフィリピンを選んだのは、いうまでもなく対中シフトと追加関税対策です。
追加関税対策といっても、互いにトラ親方を刺激しないようにガンバロウなていどのことで、やることはほとんどありません。
腰の重い習近平が先日、直々に行っているので、ベトナムさんはいまはどちらからもモテています。
インドに似て、どちらにも決定的に加担しないというのがこの国の渋い基本スタンスで、逆にいえばベトナムとインドを「反覇権連合」に取り込めたら大勝利です。

今その一歩として、ベトナムに防衛装備品を供与できるOSAを伝えたようです。
ありきたりの経済支援とか日本企業の進出促進といったレベルから、ひとつ踏み込んで軍事的支援も含むOSAに踏み込んだのは、首相の手柄といってよいでしょう。  
ベトナムはいまだに共産国ですから、隣国の中国とは常に緊張をはらみながらも装備の中心は中国製かロシア製でした。
軍の編成もロシア式というのは、ウクライナと一緒です。
これでは装備を通じての従属につながりかねず、かといって米国式にしたいがハードルは高いしなぁというのが現状でした。

そこで現実的対応として編み出したのが、「南シナ海被害者連合」とでも言うべきベトナムとフィリピンの両国海軍の共同です。
きっかけは2019年6月、中国船とフィリピン船が衝突事故を起こしてフィリピン船が沈没したにもかかわらず中国船が救助せずに逃げた際にベトナム漁船が救助したことから始まりました。
これを期に、両国は急接近し、防衛対話を深めて「両国には多くの共通の戦略的利益と課題が存在する」とし、二国間防衛協力体制が進んでいます。

と凛々しく宣言したのはいいのですが、フィリピン軍はいままで国内のテロ組織との戦いに明け暮れていて、昨今ようやく海に目を向け始めた段階であり、まともな沿岸警備隊もありませんでした。
一方、ベトナムは典型的な陸軍国で、インドシナ半島最強の呼び名もあります。
なお、今年4月30日はベトナム戦争終結50周年です。
アア、あの頃は無条件にベトナムを支持していたもんですが。(遠い目)
とはいえ、ベトナムの海軍力は沿岸警備隊ていどで、海軍は無きが如しでした。

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フィリピン船と中国船の衝突で米「中国が危険な行動」と非難|テレ東BIZ

習近平は、トランプ関税を巡っていきなり近隣国に対して微笑外交に転じたようですが、そもそもこの南シナ海における軍事要塞づくりを停止し、フィリピン、ベトナム漁船への嫌がらせを停止せねばどうしようもありません。
それができないままニコポン外交に転じようというのが図々しいのです。

日本ができるのは、このフィリピン、ベトナム両国の脆弱な海軍力を助けて海上警備力のアップに協力することです。
そこででてきたのがOSAでした。

「首相は28日にはハノイで、行政トップのファム・ミン・チン首相との首脳会談も予定している。日本が同志国軍に防衛装備品を供与する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」について、ベトナムを対象に加えると伝達する方針だ。両国の外務・防衛当局間の協議体新設も確認する」
(産経前掲)

OSAとは、2022年から始まった「同志国」の軍などを対象に、資機材の供与やインフラの整備などを行う無償による資金協力の枠組みのことです。
従来からODAという支援枠組みはありましたが、ODAが非軍事原則であり、かつ無償の資金供与に加え、有償貸付や多国間援助でアル異に対して、OSAは軍事目的であり無償の資金協力に限定されています。
「同志国」とは、下図のように「反覇権国連合」に加わる意志がある諸国です。

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OSAとは 同志国の防衛支援枠組み、インド太平洋念頭 - 日本経済新聞

対象となるのは価値観を共有するインド・太平洋地域の諸国です。
「同志国」という表現が戦前の枢軸国みたいだなんて言う左翼メディアもいますが、要はFOIPの拡大バージョンのことです。
実際には、ヨーロッパとの共同訓練なども盛んに行われています。

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防衛省・自衛隊|令和6年版防衛白書|5 同志国などとの多国間訓練

フィリピンとはGSOMIAを締結するところまで、防衛協力は進展しています。

「フィリピンとは軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結への議論開始で一致するとみられる。マルコス大統領と物品役務相互提供協定(ACSA)の交渉入りでも合意し、海上保安機関の合同訓練実施を申し合わせるとみられる」
(産経4月25日)
石破首相、27日からベトナム・フィリピン訪問 訪中案から一転、「米離れ」つなぎ止めへ - 産経ニュース

実は米国はバイデン政権末期の去年11月にフィリピンとGSOMIAを締結しており、その当時から日本との交渉も始まっていたようです。
その他、F-16の最新モデルの供与も始まったようです。
日本と締結されたGSOMIAは機密情報を共有するための枠組みで、日本のシーレーンが伸びている南シナ海の情報が主になると思われます。

また同時に締結されたACSA(物品役務相互提供協定 )は、相互の軍隊が共同訓練したりする際に燃料や弾薬の融通を可能にする協定のことです。
ありていに言って準同盟関係のことで、同盟と違って互いに内政外交を束縛せずに、ケースバイケースで共同演習や国際対応を決定するレベルの関係のことです。

他の実例としては、日豪関係がそれにあたり、米国との日米安保のように条約に基づくものではなく、ACSA(物品役務相互提供協定)、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)、防衛装備品・技術移転協定などを結び、適時2プラス2(外務・防衛閣僚会合)を行って関係を緊密化する二国間関係です。
日本は、英国、カナダ、フランス、インド、そしてオーストラリアとこの準同盟関係にあります。
この枠内にフィリピンが新たに加わるということになり、ベトナムはその手前まで地ならしが進んだということになります。

ただし残念なことには、本来はこのアジアの安全保障の基軸とならねばならない米国が今はあの調子ですから困ったもんですが、最悪米国抜きぬきでもインド・太平洋の安定は「反覇権連合」でキープしなければなりません。

 

2025年4月28日 (月)

軽い国防長官、情報漏洩でピンチ

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今週はウクライナを巡って大きな動きがあるかもしれません。
たぶんバチカンでトランプがゼレンスキーに引導を渡したような気がしますし、プーチンも話あってもよいというようなことを米国に伝えたようです。
なにかイヤーな予感がします。

さてトランプはよく頭が混線しないもんだと感心するくらい問題を抱えている、というか自分で量産し続けてそれが増殖しているわけですが、そのうえに政権でまともなのはスコット・ベッセント財務長官くらいであとは使い物になりそうにない連中ばかりです。
マルコくらいなんとかと思ったんですが、存在感ナッシング。

イーロン・マスクなどやりたい放題ぶっ壊して、自分の会社があぶなくなると慌てて撤収です。
なにせテスラの顧客層であるリベラルを叩きまくったのですから無理もない。
3カ月で株評価額で1000億ドル(約15兆円)を失ったというのですから、火遊びにもほどがあります。

安全保障は国の根幹ですから、第1期のようなジェームス・マティスかハーバート・マクマスターのような軍と安全保障の裏表を知り尽くした硬骨漢でないと務まりません。
マクマスターはスチーブン・バノンのような怪しげな男をホワイトハウスに寄せつけずに、トランプの耳に痛いことも直言しつづけることができました。
ちなみにマクマスターの後任には、これまた人一倍の骨太漢であるジョン・ボルトンだったというのは、トラ親分にとって幸運でした。
これにポンペオが加わって第1期のめざましい業績が上がったのであって、今思えばトラ親分は彼らに操られていただけでした。
トラ親分にはこういう重しが、世界の誰よりも必要なのですが、さそかしストレスが溜まったのでしょう。
ジェームズ・マティス - Wikipedia
ハーバート・マクマスター - Wikipedia
ジョン・ボルトン - Wikipedia

ちなみにボルトンのトランプ評。

「 米トランプ政権時代に大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏は、11月の大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領について「大統領にふさわしくない」とし、「最初の(1期目の)4年間が悪かったとすれば、次の4年間はさらに悪くなるだろう」と述べた。
ボルトン氏は30日に発売された「(邦題)ジョン・ボルトン回顧録・トランプ大統領との453日」の新版の序文で、トランプ氏は私利私欲におぼれており、自身の敵への「報復しか考えておらず、2期目の大部分がそれに消耗されるだろう」と述べた。
さらに、トランプ氏は再選されれば、米国は北大西洋条約機構(NATO)から脱退し、ロシアが侵攻を続けるウクライナへの支援を制限するなど、総じて孤立主義を追求する可能性があると警告。トランプ氏が「孤立主義ウイルス」を発し、「国家安全保障ほど、トランプ氏の逸脱による破壊的な影響にさらされる分野はない」という見方を示した」
(ロイター1月31日)
トランプ氏再選なら「さらに悪い4年に」、ボルトン氏 回顧録の新序文 | ロイター

ボルトンが予言したNATO脱退、ロシアすり寄りは現実となり、まさに大当たりです。
第2期はこんなうるさ方はいらない、全員茶坊主だというのがトラ親分の方針でした。
ですから第2期トラ親分が指名したのは、専門性はこれなく、ヨイショしかできないテレビのキャスターでした。
ばかだね。そんな顎で使えるキャラしか内閣には入れないと、自分だってなんの専門知識もないんだからどーなんのさ。

たとえば今、ロシアを除く全方向でトラ親分は軋轢を起こしていますが、そのなかで特に切迫しているのがイラン情勢です。

「イランの核開発が絡む潜在的な大規模戦争の序章に過ぎない可能性がある。トランプ氏は、イランに核兵器開発を思いとどまらせるだけの最小限のアプローチか、イラン核開発プログラムの根絶を目指す要求を矢継ぎ早に突きつけるかという、両極端の選択肢の間で揺れている。前者はイランにとって受け入れ可能だとみられるが、後者はイラン側の拒絶を招き、さらには衝突のリスクをはらんでいる。
時間はない。夏半ばまでに合意が成立しなければ、トランプ氏はイスラエルか米国、または両国連携での軍事攻撃を認めるかどうかの決断を迫られるだろう。また、長年の優先事項とする「イランの核兵器保有の阻止」と「新たな中東戦争の回避」という2つの緊張関係を解決する必要がある」
(ブルームバーク4月25日)
【コラム】トランプ氏が取り組む6つの戦争、全て敗色濃厚-ブランズ - Bloomberg

イスラエルと共に核施設攻撃を含むイラン攻撃をするか、このまま曖昧な第2次核合意でお茶を濁して核を完成させてしまうか、こんな重要な決断をすることが素人のヘグセスにできるはずがありません。

ヘグセスは案の定、半年もたたなうちからつまらないことをやり始めました。


「ピート・ヘグセス米国務長官が、民間通信アプリ「シグナル」のグループチャットで、妻や弟、個人弁護士らと米軍の空爆作戦の詳細を共有していたと、米メディアが20日に報じた。ドナルド・トランプ大統領は21日、ヘグセス氏に「大きな信頼」を寄せていると擁護した。
米政権をめぐっては、高官たちが「シグナル」のチャットで、同国によるイエメンでの軍事攻撃の計画について協議し、そこにジャーナリストが「誤って」加わっていたことが、先月末に明らかになったばかり。米誌アトランティックのジェフリー・ゴールドバーグ編集長が、自分がマイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)によってチャットに追加されていたと報じたことで発覚した」
(BBC4月22日)
ヘグセス米国防長官、民間アプリで空爆情報を妻らと共有か トランプ氏は擁護 - BBCニュース

なんでも報道によれば、フーシ派に対する海軍の攻撃チームの飛行スケジュールまでチャットに漏洩させてしまったそうです。
どうしようもないアホウだね。(笑)


「ヘグセス氏は3月15日、F/A-18ホーネット戦闘攻撃機の飛行スケジュールを含む、イエメンの武装組織フーシ派に対する空爆情報を、チャットで共有したとされる。
ヘグセス氏の妻ジェニファー・ロシェ氏は米FOXニュースの元プロデューサー。現在、国防総省で正式な役職には就いていない。ヘグセス氏は以前、外国の首脳との会合に妻を同席させたと報じられ、批判を受けたことがある。
シグナルのグループチャットに妻と共に含まれていたと報じられている、弟フィル氏と個人弁護士ティム・パラトーレ氏は、いずれも国防総省で役職に就いている。しかし、この3人の中に、慎重に扱うべきアメリカの軍事攻撃計画について事前の警告を必要とする者がいるのかは明らかではない」
(BBC前掲)

ポリティコは、ヘグセス氏にとって打撃となる報道が相次いだ裏側に、国防総省内の激しい対立があると伝えています。

「内紛劇の中心はカスパー前長官首席補佐官だ。国防総省が今月、メディアに内部情報を無断で流出させたとしてカルドウェル前上級顧問ら幹部3人を解任した際、カスパー氏は主導的な役割を担った。自らに権力を集中させるため、強引な手法で追放したとされる。
解任されたカルドウェル氏らは共同声明で「根拠のない攻撃で、われわれの品位を中傷した」と反発。ポッドキャスト番組でも情報漏えいを否定し、名指しを避けつつ「われわれに個人的な恨みを持つ人々がいた」と訴えた。
ヘグセス氏は22日、NBCなどの一連の報道について、「国防総省から追放された連中が、われわれを妨害するために情報を漏らした」と根拠を示さず非難。一方で、混乱を招いたカスパー氏を首席補佐官から外したとも明らかにした」
(時事4月23日)
米国防総省、内紛で混乱 相次ぐ情報漏えい―権力争い背景、長官更迭論も:時事ドットコム

もうしっちゃかめっちゃかですね。
ヘグゼスはこの混乱の震源地であるばかりか、その収拾する力さえないのです。

問答無用です。辞めるしかありません。
国防長官が情報を許可されなていない人たちの間に流布し、そのなかに米軍の作戦計画の一部もあったとすれば救いようがありません。
広い意味でのスパイ行為です。
今回の漏洩情報したチャットには米週刊誌アトランティックのゴールドバーグ編集長も呼ばれており、内容的にも4月15日に実施したフーシー派空爆に使用する航空機、兵器システム、情報システムまで含まれていたようです。
そこには戦闘機の空爆時間まで記されていました。

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BBC


「ピート・ヘグセス国防長官からのメッセージには、午後12時15分(米東部時間)にF-18戦闘機が発進し、同1時45分から最初の空爆が起こりうると書かれている。
さらに、午後2時10分にさらにF-18が発進し、午後3時36分に2回目の空爆を開始するなどと記されている。
英陸軍の元情報将校のフィリップ・イングラム氏は、この種の情報は「極秘に分類されたであろうものに明確に該当する」とBBCの取材で指摘。「戦闘機がどこからやってくるのか、事実上判断できる」とした」
(BBC3月27日)
米軍のフーシ派攻撃に関するチャット、全体を米誌が公開 取り扱いに慎重を要するやりとりも - BBCニュース

米軍にはすこぶる評判が悪いようです。
当然ですが、平気で秘密情報を流して現場を危険に陥れるような上司がいる軍隊で戦いたくはないと思うでしょうからね。

ただし公聴会では政権の国家情報長官もCIA長官も影響がないと釈明しているようです。
トランプは例によってフェークニュースだと言っているようです。ワンパターンな対応ですね。


「今回の情報漏えいを、ものすごいミスだと思うかと問われると、「いいえ」と答えた。
ギャバード国家情報長官は、「機密情報は一切」漏れていないと繰り返し主張。情報の「不注意な公開」と「悪意ある漏えい」は別だとした。
野党・民主党の委員らは、問題のチャットに関わった人々を、いい加減で無能だと批判。「プロのすることではまったくない。謝罪もない」、「このミスの重大さを認めてもいない」などと責めた。
こうしたなか、上院の軍事委員会と外交委員会のそれぞれの委員長(ともに共和党)は、今回の情報漏えい問題に関して調査が必要だとする考えを表明した」
(BBC3月26日)
トランプ氏や情報機関トップ、チャットでの情報漏えいの影響は小さいと主張 - BBCニュース

共和党の上院軍事委員長も外交委員長も揃ってさらなる調査を要求しているように、これで済むとは思えません。
というのはこのような私的メールでの国家情報の拡散には前例があるからです。
2016年、当時民主党大統領候補だったヒラリー・クリントンは、国務長官時代に機密情報を私用メール・サーバーで取り扱ったことで取り調べを受けました。
ヒラリーは、複数の携帯電話やタブレットを使い分けるよりも、端末1台に集約した方が便利だったからだと説明しましたが、私用メールで機密情報を扱ったという疑惑は晴れずに大統領選で苦しむことになります。

 「昨年の米大統領選で民主党候補だったヒラリー・クリントン氏が国務長官在任中に私用メールアドレスを公務に使っていた問題は、同氏の選挙戦に致命的な打撃を与えた可能性があるとの研究結果が新たに発表された」(CNN 昨年の米大統領選で民主党候補だったヒラリー・クリントン氏が国務長官在任中に私用メールアドレスを公務に使っていた問題は、同氏の選挙戦に致命的な打撃を与えた可能性があるとの研究結果が新たに発表された」
(CNN2017年5月24日)

このヒラリー事件の時には共和党はさんざん攻撃の的にしたものですが、今回は立場が逆になりました。
トランプはそうでなくても国債の暴落で信任をなくしているところなので、フェークだ、フェークだで済まそうとしているようですが、被害者となった軍は黙っていないはずです。
緊縮、緊縮、トップは女だから更迭と、やられ放題だった軍は、ここぞとヘグセスの解任を要求するはずです。
さぁどうします、トランプさん。

 

2025年4月27日 (日)

日曜写真館 水のみにうぐひすをりる椿かな

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ころもがへ椿は花の紬かな 舎羅

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すたりたる椿咲けり御代の春 尚白

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ひよどりのかぶりて迯る椿かな 正秀

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口紅の初花ゆかし玉椿 鬼貫 .

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ひよ鳥のあまされものや赤椿

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さびしげに猫別れ行赤椿 寂芝

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むかしやら今やらゆかしはや椿 土芳

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落つみし椿がうへを春の雨 松岡青蘿

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椿落て氷われたり池の上 土芳

2025年4月26日 (土)

トランプ、自分から対中関税引き下げる

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もう笑うきゃありません。
対中貿易戦争でトランプ、なにひとつ成果が現れないうちに早くも譲歩してしまいました。
報じるCNNの行間にも苦笑が漂っているようです。

「香港/ワシントン(CNN) 米国のトランプ大統領は22日、ホワイトハウスで、中国製品に対する関税は「大幅に引き下げられるが、ゼロにはならない」と述べ、中国との貿易戦争をめぐり方針を転換する可能性を示唆した。
トランプ氏の今回の発言は対中姿勢の軟化を示しているようだ。何週間にもわたる強硬姿勢と報復措置によって、トランプ氏は中国製品に145%の関税を課している。
トランプ氏は大統領執務室で記者団の質問に答え、145%の関税率は非常に高いとの認識を示し、「そこまで高くはならないだろう。大幅に下がるだろうが、ゼロにはならない」と語った」
トランプ氏の今回の発言は、ベッセント財務長官が米中間の高関税が両国の貿易を事実上の禁輸状態に陥らせていると発言したことについて質問された際に出た」
(CNN4月23日)
トランプ氏、対中関税は「大きく下がる」 方針転換を示唆 - CNN.co.jp

自分で目一杯吊り上げておいて自分で落す、しかも中国がナニひとつ譲歩していないのに、というんですから中南海の皆さんもさぞかしたまげたでしょうな。
理由は米国債市場の崩壊危機です。いわば自爆。

「トランプ米大統領が示した関税の規模は多くを驚かせた。同氏がいつ妥協するのか、あるいは妥協することさえあるのかも不透明だ。さらに、これらの関税が米経済に与える影響についても問題視されている。
関税がリセッション(景気後退)を引き起こし、インフレが弱まれば、米金融当局は利下げに踏み切る可能性が高い。通常であればこれは米国債の魅力を高める要因となる。しかし懸念されているのは、関税が物価を押し上げ、成長鈍化に対応する米金融当局の能力が限られてしまうことだ。これは米国債にとってマイナス要因となる。こうした不確実性は、ボラティリティーが高止まりする公算が大きいことを意味する。
投資家が米国債を含むあらゆる米国資産を敬遠し、リスクを減らす中、債券を手放しているだけという動きかもしれない。
そうなると、実質的な安全資産は現金だけとなる」
(ブルームバーク4月10日)
安全な逃避先のはずが、混乱時でも米国債が下げ止まらず-その理由は - Bloomberg

財務長官のスコット・ベッセントは、投資ファンドマネージャーをしていたウォール街の住人でした。
当然、為替のプロ中のプロですから、その関税爆上げのリアルな危険性はわかっていたようです。
ちなみに日本で儲けた経験があるそうで、やや日本に甘いとトラ親分に睨まれているとか。ま、どーでもいいですが。
トランプにもいまのようにムチャクチャな関税をかけていると「持続不可能」、つまり事実上の禁輸に相当するために米国の国債市場は危機回避のために売り一色になるぞと警告していたようです。
しかしトラ親分は「混乱は短期的だ」と歯牙にもかけなっかたようです。

 「ベッセント米財務長官は23日、中国との貿易を巡る交渉を進展させるには緊張緩和が必要とし、米中が互いに表明している関税率を現在の過度に高い水準から引き下げる必要があるとの見解を示した。
ベッセント長官は国際通貨基金(IMF)・世界銀行の春季会合に出席した際に記者団に対し、世界の二大経済大国が貿易関係を再調整するためには緊張緩和が必要との考えを示した。
このことは米国の対中関税率145%、中国の対米関税率125%の引き下げを意味するのかとの質問に対して、「そうあるべきだと考える」とし、「米国も中国もこれが持続可能な水準とは考えていない。禁輸措置に相当する水準だ。両国間の貿易の断絶は誰の利益にもならない」と述べた。
この日は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がホワイトハウス当局者の情報として、トランプ政権は中国との緊張緩和を目指し、中国製品に対する関税を50─65%程度に引き下げることを検討していると報じた」
(ロイター4月24日)
米中関税の相互的な引き下げ必要、進展に緊張緩和不可欠=米財務長官 | ロイター

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米、日本に24%相互関税 トランプ氏「非常事態」 産業に打撃懸念:ニュース:中日BIZナビ

しかしトラ助はやっちまったんですな。得意満面でデタラメな数式にデタラメな数値を入れて、トンデモな追加関税を世界にかけてしまいました。
しかもトラさんには敵味方の識別ができないので、自由主義陣営にもたっぷりと追加関税をかけて恐慌に陥れたのですから目も当てられない。
言っていることはおめーの国の国防費は少ないからオラの国が損しているべぇということと、オラの国は貿易赤字で損しているべぇのふたつ。
そもそも安全保障問題で追加関税をかけるなんて筋違いもいいところ。
貿易赤字といっても、世界が自由貿易で回っているのはこれも常識。
文句があるならG7閣僚会談という枠組みで協議するのが常道です。
国防費なら2+2の場があるでしょうに。
それをいきなり、相手産業を潰すような高関税をかけて得意になっているのですから、手に負えません。
まるで国防費減らして社会福祉上げろという共産党みたいないい分です。
そのうえにウクライナをプーチンと一緒になって叩き潰し始めたのですから、もうこいつは本当に米国大統領なのかというところです。
かくて一瞬で自由主義圏は米国に対する不信感一色となりました。
まるで悪い冗談のような一場でした。おっと、まだ終わっていないか。

自由主義圏崩壊と米国経済の危機が同時に押し寄せたんですから、さすがにトラさんもビビったのでしょう。
同盟国がどんなに悲鳴をあげようと知ったことではなかったトラさんですが、もう辛抱たまらぬというわけで、自分から関税を引き下げてしまったようです。
まことに世界に自分の馬鹿を大公開してしまいました。

これで今後、関税交渉する国はだいぶ楽になったことでしょう。

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ただし早々とホワイトハウスで赤いMAGA帽子かぶった人はピエロみたいですがね。



 

2025年4月25日 (金)

トランプ「和平案」を認めたら北方領土は永遠に還ってきませんよ

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今朝の某硬派情報ラジオ番組を聞いていたら、いつもはガサツな関西弁でまくしたてるヒゲの某教授が妙におとなしく、トランプのウクライナ和平案はしかたがないね、クリミアはすでに還ってこないのだから、みたいなことを言っておりました。
おいおいですが、実はトランプはそれがつけ目なんです。
ゼレンスキーの拒否回答に対してトランプの弁。

「トランプ米大統領は23日、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアによるクリミア半島支配を認めないと発言したことを非難し、「ロシアとの和平交渉に非常に有害」との認識を示した。
トランプ氏はSNSトゥルース・ソーシャルに、「ゼレンスキー氏のような扇動的発言が、この戦争の解決を非常に困難にしている。彼には誇れるものなど何もない。ウクライナの状況は悲惨であり、彼は和平を選ぶか、もう3年間戦い続けて国全体を失うかのどちらかしかない」と投稿した」
(CNN4月24日)
トランプ氏、ゼレンスキー氏を非難 ロシアのクリミア支配を認めない発言は「有害」 - CNN.co.jp

ウクライナにとって、クリミア半島は領土であると同時に失敗の側面もありました。
エドワード・ルトワックは、ウクライナについてやや皮肉ぽっくこう言っています。

「ウクライナは、今回の戦争でロシアに抵抗することを通じて一人前の国家となり、明確な国民意識を形成することができた。これは大きな成果であり、和平に向けたウクライナの自信にもつながる」
(産経4月24日)
トランプ氏、空振りのプーチン氏擁護 「終戦の意思」なきロシア、和平交渉は挫折濃厚 世界を解く-E・ルトワック - 産経ニュース

いい得て妙です。ウクライナ戦争が始まるまでのウクライナは、統一された民族意識も薄く、政府は腐敗し、軍隊はボロボロでした。
とてもではないが「一人前の国家」ではなかったのです。
これがウクライナ戦争を体験することで「ウクライナ人」の自覚をもつに至ったのですが、それまでのウクライナはロシアのカモにされても仕方がないような有り様でした。
クリミアを奪われても怒りもせず、ドンバスなどの東部2州に傀儡政府をつくられても真正面から戦おうとしなかった、その結果がこれです。

クリミア簒奪時のウクライナ政府はすでにゼレンスキーでしたが、ロシア正規軍が侵攻しているにもかかわらず、外交でどうかなるという誤った考えをもっていました。

「ウクライナ政府は外交圧力によるクリミア奪還をめざしており、2021年8月23日、「クリミア・プラットフォーム」初会合となる首脳会議を首都キーウで開き、合計46の国家国際機関が参加した。首脳級は14人で、シャルル・ミシェル欧州理事会議長(EU大統領)のほか、ロシアの脅威にさらされている東欧諸国からポーランド大統領リトアニア大統領モルドバ大統領が参加した。米独はエネルギー担当閣僚に、日本は駐ウクライナ大使にとどめた。ロシア政府は参加国に対抗措置を警告して「非友好的な行事」と非難した」
ウクライナ紛争 (2014年-) - Wikipedia

ウクライナの希望は虚しいものとなりました。
自国の領土を奪われたにもかかわらず国際社会に解決を求めた結果は、後に大きな禍根を残すことになります。
オバマとヨーロッパは口先だけの制裁しか唱えず、わずかな経済制裁で終わりにしてしまったのです。
これを見て気をよくしたプーチンは次の領土切り取りの段階へと進みます。
「クリミア自治政府共和国」とセヴァストポリ特別市で「住民投票」を実施して完全併合を合法化したのです。
「住民の意志で併合を望んだ」という建前ですが、軍事占領下での「住民投票」なるものは無効です。
しかしこれで完全にクリミアの領土化は完了してしまいます。

しかもこれで終わりませんでした。
次なる獲物は東部2州でした。
ウクライナは東部のドネツク州とルガンスク2州でもクリミアと同様の手段で、ロシアの傀儡武装勢力が決起して州政府を占拠し、後に「住民投票」で併合されてしまうことになります。

このとき結ばれたのがミンスク議定書です。
ミンスク議定書はロシアと2州の傀儡国家、西側諸国(欧州安全保障協力機構・OSCE)の三者で成立したものでした。

すでに合意自体が傀儡国家の存在を前提としており、彼らに「特別の地位を与える」としていました。
ウクライナ東部とロシアに緩衝地帯を作ることが骨子でしたが、これを守ったことなど一度もなく常に武力挑発の震源地でした。
このような無責任なヨーロッパと米国の態度が、西側はウクライナを守らないという信号となりました。

そしてさらにこれが呼び水となって、2021年春のウクライナへの本格侵攻を招くのです。
戦うべき時に戦わないで領土問題を国際間の話し合いで解決しようとすると、こういうことになるのです。

ところでトランプはゼレンスキーの言っていることを「有害だ。何年前のことを言っているのか」と言っていますが、何年たとうと領土は領土です。
日本が事実上北方領土を失ったのは、占守島防衛戦が終わった1945年8月21日でしたが、むざむざと無抵抗で引き渡したのではなく樋口季節一郎中将以下の将兵の英雄的な抵抗が停戦した後でした。
日本軍のこの戦闘での戦没者300名、露側3千人とされています。
占守島の戦い - Wikipedia

つまり、日本はきわめて強い軍事抵抗を見せた後、北方領土を奪われているのです。
ここが決定的にウクライナにおけるクリミア問題とは違う点です。
だから今に至るもそのロシアの違法性を何年たとうが、何十年たとうが日本は北方領土は日本の主権下にあると世界に向けて胸を張って宣言できるのです。

このように考えると、トランプの論法を認めたならば、北方領土は二度と永遠に還ってこないことになります。
そのうち習とディールがついたから尖閣は中国領土とすることにした、なんて言いかねません。
それにしても他国領土のグリーンランドを欲しいといい、隣国カナダはオレの国の州になれといい、国際地名のメキシコ湾はアメリカ湾とするという、この人物にとって小国の主権などハナクソのようなものなのでしょう。
たまらんなぁ。

 

 

 

2025年4月24日 (木)

トランプ、ウクライナ「最終調停案」出る

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とうとうトランプの「調停案」なるものが明らかになったようです。
予想どおりのシロモノで、これがロシア案だと言われても納得してしまいそうなものです。

トランプには恥を知る心がありません。
先だっての4月15日、ウクライナのスムイ市へのロシア軍のミサイル攻撃による民間人死者に対してこう言っています。

「トランプ氏は、「悲惨な出来事」であり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による「過ち」だと指摘する一方で、ゼレンスキー氏もやり玉に挙げた。
中米エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領との会談中、「数百万人の死者」を出した責任はゼレンスキー氏とプーチン氏、ジョー・バイデン前米大統領にあると主張。
「プーチン氏が1番目だが、バイデン氏も自分が何をしているのか全く分かっていなかったという点で2番目、そしてゼレンスキー氏だ」と述べた。
ゼレンスキー氏について、「ミサイル購入を常に画策していた」とし、「戦争を仕掛けるなら、勝算がなければならない」「自らの20倍の(戦力を持つ)相手に戦争を仕掛け、ミサイルを供与してもらうことを期待するなんてあり得ない」と批判した」
(AFP4月15日)
ウクライナ北東部攻撃、民間人標的をロシア否定 トランプ氏はゼレンスキー氏非難 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

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米大統領の代理人ウィトコフ氏、外交手腕に世界が注目-政権で存在感 - Bloomberg

ほぼ同時期、トランプの「最終提案」なるものが提示されました。
サンクトペテルブルクで今月、米政権のスティーブン・ウィトコフ中東担当特使と会談した際に伝えられたそうです。
このウィトコフはズブの外交素人で、トランプが連れてきたビジネス人ですが、言うことは100%プーチンナラティブです。
こんな男を特使に仕立て上げた時点で、トランプが言う「仲介」なるものがいかなるものかわかります。

ゼレンスキーはウィトコフを評してこう言っています。

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「ゼレンスキー大統領は17日にキーウで記者会見した際、「ウィトコフ氏はロシア側の戦略を取っていると思う」と述べ、「これは非常に危険だと思う。意識的なのか無意識になのかはともかく、彼はロシアの言い分を広めているからだ」と批判した」
(BBC4月18日)
ゼレンスキー氏、ウィトコフ米特使が「ロシアの言い分を広めている」と批判 - BBCニュース

内容的には、あーあやっぱりね、というような内容で、歴代大統領ならこうまで破廉恥なものはだせないでしょう。

「文書では、2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島の支配を米国が承認することを明記。ロシアが支配している4州のほぼ全域の占領も非公式に認め、現在の戦線を凍結する内容となっている。
米欧各国はクリミア併合後に対露制裁を強化したが、文書では14年以降に科された制裁の解除も掲げた。
ロシアが求めているウクライナの北大西洋条約機構(NATO)非加盟を「約束」する一方、文書では欧州連合(EU)加盟を容認する方針が示された。
ウクライナ側の要望も踏まえ、ロシアの再侵略を抑止するための「強固な安全の保証」として、欧州有志国などで構成する平和維持部隊のウクライナ駐留を認める。
ロシアが占領中のウクライナ北東部ハルキウ州の一部地域を返還することに加え、ウクライナの再建に向けた「補償や支援」も盛り込まれたが、誰が補償するのかは明示されなかった。南部のザポリージャ原子力発電所の周辺地域は米国が管理する方針も掲げられた」
(読売4月23日)
アメリカ和平案、ロシアによる4州占領容認…クリミア支配も承認にゼレンスキー氏「我が国の領土だ」 : 読売新聞

ウィトコフが「5つの地域」と言い出したとき、それはクリミアを含むというのはすでに予測がついていました。
クリミアは2014年の侵略を国際社会はこぞって否認しており、経済制裁の対象としてきました。
これを真正面から覆しクリミアはロシアの領土として認定する、経済制裁は解除するというのですから、もはやなにをかいわんやです。
ゼレンスキーはこの「最終調停案」を即座に拒否したようで、ルビオ国務長官も協議に出ないようです。

「米国のルビオ国務長官が、ロシアによるウクライナ戦争の終結に向けてロンドンで23日に開かれる協議を欠席する見通しであることがわかった。ウクライナ側は、3年に及ぶ戦争の終結に向けたトランプ米政権の提案に盛り込まれた重要項目を拒否する構えを示していた。
ルビオ氏は、ウクライナや英国、欧州の当局者らとの協議に出席するとみられていたが、国務省報道官は22日、「物流的な問題」で欠席すると明らかにした」
(CNN4月23日)
米国務長官、ウクライナ協議を欠席へ ゼレンスキー氏は米国の和平案を拒否 - CNN.co.jp

ウィトコフはこの「最終仲介案」なるものが、米露のビジネスチャンスを修復し発展し、米露関係を修復すると言っています。
ゲスな下心を漏らしてしまいましたね。
ちなみにウィトコフは「プーチンとトランプは素晴らしい友情で結ばれている」と言っています。

「「それに加えて、とても魅力的な商機を通じて、ロシアとアメリカの関係を再構築する可能性があると信じている。それが、この地域にも本当の安定をもたらすと思う」と、ウィトコフ氏は話していた」
(BBC前掲)

かねてからウクライナ和平に絡んで出てきているのがこの「商機」という和平交渉にはそぐわない概念です。
なんの商機なのか、これもわかってきています。おそらくは石油と資源利権の回復です。
私はこのての米国は石油のために戦争をしているという類の噂は信じないことにしていますが、今回はどうやらそのとおりのようです。

「18日(現地時間)、ウクライナ戦争終息のための米ロ間初の歴史的交渉が行われたが、平和という本質が抜けて天然資源利権に偏ったという皮肉が出ている。
ニューヨークタイムズ(NYT)やポリティコなどの米国メディアや海外通信社の報道を総合すると、ロシア代表団として今回のサウジアラビア会談にロシア代表団として参加したキリル·ドミトリエフ·ロシア国富ファンド(RDIF)会長は、交渉のテーブルで自国のエネルギー開発の議題を伝えたものと把握される。
彼は会談開始前の短いメディアインタビューで「米国の石油メジャーはロシアで非常に成功的なビジネスをしてきた」とし、両国関係改善で米国メジャー石油会社が終戦を通じて対ロシア事業機会を再び得ることを示唆したのだ。
さらに、「ウクライナ戦争の勃発で、米国企業がロシアのエネルギー事業から一斉に撤退し、ロシアが被った経済的被害が3000億ドル(432兆ウォン)に上るという点も、今回の交渉で提示するだろう」と伝えた。
露骨な利権と取引的アプローチを追求するトランプスタイルに合わせて、ロシア側が交渉テーブルに念仏(平和)より「縄張り」(天然資源事業)を投じる戦略を示したのだ」
(韓国毎日経済2025年2年19日)
念仏よりご飯に関心を示すトランプ式取引主義が早くもうわさを残している。18日(現地時間)、ウクライナ戦争終息のための米ロ間初の歴史的交渉が行われたが、平和という本質が抜けて天然資源利権に偏ったという皮.. - MK 

ウクライナ侵略による経済制裁で、ロシアに投資していた石油メジャーは撤退を余儀なくされています。
ウクライナ「和平」が達成されれば、さぁ経済制裁も解除だ、ロシア産天然ガスで大儲けするぞ、というメジャーの声が聞こえるようです。
ゼレンスキーに資源利権を要求したのも同一の文脈のはずです。
そしてもちろんトランプの環境保護政策を切り捨ても一緒です。

ステーブ・ウィトコフはトランプと同じ不動産富豪で、ウィトコフグループの総帥です。
すでにホワイトハウスの補佐官に就任しています。
トランプの盟友らしく、イスラエル特使もしています。
スティーブ・ウィトコフ - Wikipedia

「高級不動産を扱うウィトコフ・グループを率いる同氏は、資金力のある国際的な投資家から多額の資金を確保し、不動産を販売してきた。トランプ氏のディール(取引)を重視する世界観と一致する経歴だ。
しかし、政権内での高い地位は、トランプ氏の財務を巡り生じる疑問と同様、外交で重要な役割と自身のビジネスをどう分けるのかとの疑念を生じさせる。
ウィトコフ氏はウェストウイングの執務室からインタビューに応じ、利益相反の可能性を回避するため、不動産会社と暗号資産(仮想通貨)投資から撤退し、保有資産を息子らに移転していると説明。自身の評価について、和平交渉と人質解放の「結果で判断してほしい」と語った」
(ブルームバーク3月14日)
米大統領の代理人ウィトコフ氏、外交手腕に世界が注目-政権で存在感 - Bloomberg 

一方、3年間をウクライナの任地ですごし、ウクライナを励まし続けた米国の良心とでもいうべきブリンク米国大使は辞任しました。

20250424-052946

CNN

「トランプ政権が発足し、米国の政策がウクライナからロシア寄りへと劇的に転換して以降、ウクライナと米国の関係は大きく変化している。ブリンク氏の突然の辞任もそうした変化の最新の事例だ。
ブリンク氏に好意的な見方をしているウクライナの元当局者はCNNに対し、ブリンク氏がもはや新政権では正しいことができないと考えていると述べた。「ブリンク氏は(キーウでの)3年間、非常に組織的にウクライナを支援した。ウクライナの成功のため、ブリンク氏は自身の立場で許されることを全て実施した。ブリンク氏の信念は、それと反対のことをするのを許さなかった」
(CNN4月13日)
米国のブリンク駐ウクライナ大使の辞任、両国政府から圧力か 情報筋 - CNN.co.jp

ウィトコフ、「結果で判断」させていただきます。
あんたらがしたことは、長年において米国が世界に示してきた自由主義同盟の破壊以外なにものでもありません。

「トランプが同盟国を平気で敵視することによる地政学的コストもある。大統領の側近達は、米国は欧州の将来に対してほとんど戦略的な利益を持たないと信じているようであり、それゆえに大西洋同盟の国々の信頼を失っても気にしないのかもしれない。(略)
日韓豪といった国々は、中国の力を抑制・管理するために米国と協力する意思を示してきた。それは、最終的には米が自分達を守るために戦ってくれると信じていたからだ。しかし、トランプの取引主義で、予測不可能、かつ敵意を強める行動は、その信頼を破壊している」
(フィナンシャルタイムス2025年4月5日)
Trump’s destruction of global alliances

このような不動産屋特有のディール、つまり目先の取引を国際政治に持ち込んで、一国の平和と安全をただのカードと見なすやり方は、自分の商売の中だけにしてください。
その発想は、不動産ビジネスや債務再編ではカネを稼ぎだしたのかもしれませんが、国際政治においては米自身にも世界の平和にとっても極めて高い代償を払う結果となりました。

この「最終仲介案」を見て、西側同盟各国は一斉に米国から引き始めました。
ヨーロッパはもはや取り返しのつかないほど米国への不信を露にしています。
ウィトコフは盛んに「商機」といいますが、ロシアのナニを欲しいのか知りませんが、その代償としてヨーロッパ全体を失いました。
ヨーロッパは米国をむしろ拒絶して新たな自由貿易圏をTPPに求めとしています。
いままで英国がTPP加盟するのさえいい顔をしていなかったのに、EU全体も加盟することもやぶさかではないというのですから驚きです。
亡き安倍氏が作ったTPPは、いまやとてつもない大きさの経済ブロックに成長しようとしています。
ただし安倍氏の想定とは異なって米国を除外して、ですが。

「欧州連合(EU)が、日本や英国など12か国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)との連携強化を模索している。関税引き上げを乱発するトランプ米大統領に対抗し、自由貿易を推進する狙いだ。
EUの執行機関・欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は15日、シンガポールのローレンス・ウォン首相と電話会談し、「公平で開放的な世界貿易システムは重要だ」と強調した」
(読売4月16日)
EUがTPPとの連携強化を模索…関税引き上げ乱発のトランプ大統領に対抗、自由貿易を推進 : 読売新聞

いままでヨーロッパと米国は必ずしも考え方で歩調があっていたわけではありませんが、しかし最終的には、米国との同盟は共通の利益と価値観、あるいは理念という堅固な岩盤の上に成立しているという安心感がありました。
それが根こそぎ破壊されたのがトランプ関税であり、外交の禍々しい登場でした。

「関税によって打撃を受けた多くの政府は、経済への被害を緩和しようと、トランプと取引を結ぶために奔走する可能性がある。しかし同時に彼らは、米国による威圧的行為に対する脆弱性を減らすために、長期的な政策調整にも動き出すだろう。それはやがて、米国の富と力に長期的な影響を及ぼすだろう」
(フィナンシャルタイムス前掲)

とうとう来るところまできてしまいました。
米国は深甚な孤立を味わうことでしょう。
バイバイ、アメリカ。バイバイ、トランプ。そして呪われなさい、トランプ。


※関連記事
パンスよ、なにが「外交」だ: 農と島のありんくりん

 

2025年4月23日 (水)

米中貿易戦争はチキンゲームにはならない

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米中貿易戦争をもう少し細かく見ていきます。
世界関税戦争の本丸ともいえる対中関税戦争ですが、なかなか面白い展開となっています。

中国の海運がガラガラとなったのは昨日書きましたが、実になんと8割の米中便が止まっているそうです。
ほとんど通っていない状況ですね。
あたりまえですが、米中にはトラック便はありませんし(あってたまるか)、空輸もありますが、軽いものしか運べないですし、高いのでごくわずかです。
なんたって海運こそが大動脈で、中国系の海運会社が仕切っていました。
現在、この中国から米国への大動脈の海運の8割以上が停止しており、郵便小包も輸送が停止する予定となっています。

中国の輸出国第1位は、こともあろうに仮想敵国第1位の米国です。

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「中国貿易相手国ランキング」中国貿易で注意すべきポイント | 海外進出ノウハウ | Digima〜出島〜

輸出品目はこのようになっています。
中国から米国には2次製品が多く、逆に米国から中国には1次産品です。
ここだけ見ていると、先進国と途上国貿易のようです。
ただし、技術と資本を中国に与えたのが米国でした。素晴らしい恩返しです。

20250422-075232

Digima

米中貿易は典型的な非対称で、圧倒的に中国からの輸出が多く、金額的には約5倍にも達します。
米国にとってはトラが病的に嫌う貿易赤字国の堂々第1位です。

20250422-080141

米中貿易摩擦 | 株式会社ワンピース

前述したように、米国から中国への輸出は主にエネルギーや穀物などの一次産品である一方、中国から米国への輸出は工業製品などの二次産品が主体です。
米国からのエネルギーや穀物は行き先を変えて転売すればよいのですが、中国のそれは個別の売り手宛ての荷物ですから潰しが効きません。
そのために米国には空コンテナ山積みという風景はありませんが、中国では空コンテナの置き場さえないような状況となっています。

また中国は報復として米国のボーイング社製旅客機を不買にするといい出しましたが、米国は痛くもかゆくもありません。
ボーイングは半完成品で中国に輸出し、現地で完成させていますが、すでに返品が開始されているようです。

「アモイ航空の広報担当者は21日、同社向けの航空機2機が米国へ向かったことを認めたが、理由は明らかにしなかった。
これら2機の米国返送を決定した当事者は判明していない。
ただ、ボーイングは代わりの買い手を見つけられそうだ。マレーシア航空はこれまで、中国の航空会社が納入受け入れを停止した場合のジェット機取得についてボーイングと話し合っていることを明らかにしている」
(ロイター4月21日)
中国から米ボーイング機返送、2機目がグアム着=飛行追跡データ | ロイター

ボーイングは決して経営が言いわけではありませんが、強みはバックオーダーがたっぷりあることで、通常は受注から数年待たされるのですが、中国航空会社の塗装を塗り替えてすぐに納品が可能となるというだけのことです。

したがって、困るのは中国の航空会社です。
ライバルのエアバスは生産能力が低い上に、部品の多くには米国製を使っているために対中制裁をかけられれば手も足もでません。
中国製旅客機はあるにはあるようですが、中国でできるのはドンガラだけで、アビオニクス(航法システム)やエンジンは米国製です。
ですから、この関税戦争はチキンゲームにはなりようがありません。
これではセルフ制裁です。

ところで、いまさらですが、習近平の権力の根源は経済です。
経済が右肩上がりなうちは、いくら民主的でなかろうが、選挙がなかろうが、情報統制でなにもしゃべれなかろうが国民は耐えます。
ところが経済が低調となり、やがて崩壊の兆しが見えてくると激しく動揺します。
そしてこの中国経済は輸出によって支えられています。

日本や米国は、昨日見たように経済のけん引力は個人消費で、おおよそ6割を占めています。
しかし中国はGDPにおける個人消費の割合は40%台と低いのです。

20250422-023824

図表でみる中国経済(需要構造編) |ニッセイ基礎研究所

つまり中国は、昨日見た日本と違って「中国商店街」で買いましょうという内需主導に転換することがきわめて困難な構造なのです。

ですから、対米輸出が滞り、工場が長期レイオフとなり、庶民の収入が途絶えると一気に庶民の不安に火がつき、不満の矛先は政府に向かうことでしょう。
当座、習はその庶民の怒りの矛先を米国に向けるでしょうし、臆病な習としては清水の舞台から飛び下りた気で台湾を攻めてみるかもしれません。
戦争以外でいちばん誘惑にかられるのは、しこたま持っている米国債の売却ですが、できるでしょうか。
世界一の米国債保有国は日本ですが、かつて日本が冗談半分で米国債売却を匂わせたところ、反応は激烈で、以後二度とそれを口にしなくなりました。
そのくらい過激なカードで、これを使った瞬間戦争になると覚悟したほうがいいようなものですし、そもそも売った瞬間に米国は当該の債権を無効にするでしょうしね。
そして返礼として中国共産党幹部の海外資産凍結くらい平気でかますことでしょう。これは効くでしょうな。

20250422-024728

10月の海外勢の米国債保有額、6ヶ月ぶりに減少に転じる!中国の米国債保有額、2009年2月以来の低水準!! – 豊トラスティ証券マーケット情報

したがって米国に対抗して東南アジアを巻き込んで反トラ同盟を作るしか手がないのです。
しかしそのような強硬姿勢を取り続ければ、妥協する余地がどんどん狭まっていき、社会不安の内圧は高まっていくはずです。
また長引けば、米国市場を支配したかに見えた中国製品の多くは、アパレルや玩具などのように米国にシフトすることは容易ですから米国に回帰するでしょう。

移転が難しかった電子機器、携帯、PCは早々に追加関税からはずしてしまいましたしね。
ですから貿易戦争になれば、中国側の経済の方が打撃が大きいのは当然のことです。

このように中国にとって使える選択肢は狭いのです。

 

2025年4月22日 (火)

中国コンテナヤードがガラガラ

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中国が深刻な経済停滞に襲われているようです。
これまでの過剰生産をなんとか強引な輸出でカバーしてきたものが、このトランプ関税で一気に宿痾の病が吹き出しようです。
強気の中国政府とは裏腹に、関税戦争の波をもろに食らって、大量の商品が輸出できずに港湾のコンテナヤードに滞留している様が報告されています。
米国への輸出企業は受注ゼロとなり、また輸出産業だけではなく、多くの関連企業が今月末からのメーデー連休明けに仕事を止めるか、労働時間を圧縮することを選択せざるを得なくなっています。
この現象は輸出企業が集中する浙江省だけでなく、蘇州、江蘇省、東莞、広東省などにも広がっています。

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東経

「米中貿易戦争が激化する中、中国の主要輸出省である浙江省は、かつてない課題に直面しています。 大量の商品が滞留し、海外からの注文が急激に減少したため、多くの企業がメーデー後の業務停止や労働時間の短縮を余儀なくされています。 この現象は浙江省だけでなく、蘇州、江蘇省、東莞、広東省などにも広がりました。
中国の「メーデー」休暇が近づき、何百万もの外国貿易工場が米中貿易摩擦の影響を受け、米国の注文はほぼゼロに戻りました。 浙江省、江蘇省、広東省、その他の南東沿岸地域の外国貿易企業は、前例のない「集団休暇の潮流」を先導しています。
Douyinプラットフォームで拡散された複数のビデオによると、メーデー以降、浙江省の外国貿易企業の50%以上が長期休暇のために仕事を停止します。 この現象は、浙江省から蘇州市、江蘇省、東莞市、広東省、その他の重要な輸出都市に広がり、現在の中国の対外貿易の寒い冬の縮図となっています」
(ラジオフリーアジア2025年4月17日)
外国貿易企業「集団休日の潮流」中国の貿易業者:「数十年ぶりの経済状況」 – 北京語ホームページ 

ラジオフリーアジア(RFA)は米国が流している宣伝放送なので割り引いてみていましたが、中国の独立系メディアである「財新」からの別の情報も届いています。

「埠頭のコンテナヤードに、空きコンテナが溢れんばかりに積み上がっている。こんな光景は何年も前から見たことがない」。中国最大級のコンテナ港である上海港で荷役作業に携わるオペレーターは、そう困惑した表情で話す。これは上海港だけの話ではない。中国各地の大型コンテナ港に、うずたかく積まれた空きコンテナの山が出現しているのだ」
(東経2月27日)
中国の港に「空きコンテナの山」が積み上がる事情 コロナ禍での不足から一転、深刻な供給過剰に | 「財新」中国Biz&Tech | 東洋経済オンライン

中国経済は米国市場をアテにして作られてきました。
たとえばこの浙江省は中国の主要な対外貿易地域であり、2024年には輸出が省のGDPの実に70%を占めています。
つまりほとんどが米国向けで省の経済が成り立っていたのです。
これは習近平が打ち出した「双循環」政策といって、国内経済循環と国外経済循環をリンクさせた戦略が破綻したことを意味します。
国内の輸出企業の85%以上が国内販売もしていますが、輸出が主で内需が従であるために、企業本体の経営が行き詰まってしまいました。

「浙江省嘉興市では面積2万平方メートルの倉庫内で、対外販売が滞留している商品が山積みになっている。ある動画で、撮影者が、米国では売れば本来数十ドルする商品が、今や数ドルの値段でも誰も欲しがらない、と嘆いていた。」「関税戦争によって、外国に輸出できずあぶれた商品は、まったく悲惨な状況で、米国で一着100ドルで売ることができていた洋服が、今や一トンいくらで投げ売りされている。一着平均、数セントぐらいになって、この2万平方メートルの倉庫で塩漬けなっている」
(RFA前掲)

習近平の経済政策は土地を担保にジャンジャン低利で融資して、過剰生産もなんのそので安価で売りさばいて相手国の市場を独占してしまうという方法でした。
普通の自由主義経済ですと、過剰生産は国内市場の需要の収縮により在庫過剰となって頭打ちとなるものですが、中国は無制限な海外輸出をかけることで過剰生産を続けたのです。
スゴイね、この国。まるで19世紀の野蛮な帝国主義国家だよ。マルクス先生もビックリ。
ついでに南シナ海要塞のように領土侵略もするのですから、まがうことなきリッパなオールドタイプの帝国主義です。
それはさておき当然ダブついているものを輸出しているのですから叩き売り、ダンピングです。

その結果、起きたのが市場の飽和による価格低迷と輸入国の怒りでした。

「中国指導部でさえも危惧している。中国共産党最高幹部が先月末に開いた会議では、企業間の「悪質な競争」を抑制する方針が示された。
ここ数カ月、産業界の過剰生産能力を巡る状況が一段とひどくなっている。中国の工場が生産できるリチウム電池やソーラーモジュール、鉄鋼の全てを吸収できるだけの世界需要はない。しかも、これは企業利益を犠牲にしている。
ゴールドマン・サックス・グループによると、ソーラーやEV、鉄鋼、建設機械の産業供給で半分余りが利益を上げておらず、状況は前年から急激に悪化。消費財を生産している企業にも恩恵はない。例えば、牛乳はここ14年間で最長の価格低迷に陥っており、経済をむしばむデフレの憂いが強まっている」
(ブルームバーク2024年8月22日)
【コラム】中国の過剰生産能力、習氏の統制も力及ばず-シュリ・レン - Bloomberg

中国の過剰生産はどこの国でも摩擦を呼びました。
あたりまえです。とんでない価格で売りさばくのですから、まともな競争が成立しません。
国内企業はことごとく敗北し、マネできないような高度の技術をもった高級品を作る企業しか国内には残らなくなりました。
今のわが国の国内企業が普及品は中国製造へ、国内生産は高級品にシフトしているのはそのためです。

図表1 中国鉄鋼の過剰生産能力と輸出量



(出所)中国国家統計局、税関総署、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成


 

(出所)中国国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 中国の設備稼働率(四半期)


「2024年4月上旬に訪中した米国のイエレン財務長官は、中国における鉄鋼やEVなどの過剰生産能力に対して懸念を表明し、中国政府による政策転換の必要性を強調した。バイデン大統領も同月17日、演説において「中国の鉄鋼会社は、中国が必要とするよりもはるかに多くの鉄鋼を生産し、過剰な鉄鋼を不当に安い価格で世界市場に投入している」と非難し、米通商代表部(USTR)による調査で反競争的な貿易慣行が確認され次第、中国製の鉄鋼・アルミ製品の輸入関税を3倍に引き上げると表明した。
欧州では、欧州委員会が2023年10月以降、欧州市場を席巻し始めた中国製EVについて、中国の不当な補助金が競争を阻害していないかの調査を継続しているが、2024年4月に入ってから、太陽電池関連と風力タービン関連の中国企業に対する政府補助金についてもそれぞれ調査を開始すると発表した」
中国経済の宿痾たる過剰生産能力 ─ 鉄鋼や「新三様」が貿易摩擦の火種に ─ | みずほリサーチ&テクノロジーズ

このような習近平指導部が意図的に作り出してきた過剰生産の山は、自転車操業よろしく輸出先の国の産業をなぎ倒してしまおうと、当該政府からダンピングだと提訴されようとどうしようと、カネが入ってくるうちはよかったのです。
それがトランプ関税でピタリと止まってしまったのですから、彼らの周章狼狽ぶりはハンパではなかったことでしょう。

いまや米国市場をせき止められたために、輸出製品を詰め込んで港を出て行くコンテナより海外から戻ってくる空きコンテナのほうが多くなってしまったのです。
そして中国の主要コンテナ港は、いずこも空きコンテナで埋まり、その置き場不足で港沖のコンテナ船にまで積み込んでいるとか。
ざまぁないですね。

長いので後半は次回に回しました。大幅に加筆します。

2025年4月21日 (月)

いい機会だと思ってトラ関税を使い倒しましょう

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トランプが世界関税戦争を始めてしまったためにわが国でも悲観論がただよっていますが、ほんとうのところはどうでしょうか。
メディアは日本の自動車産業が潰れるといわんばかりの報じ方をしていました。
「アメリカのトランプ政権が自動車に25%の追加関税を発動してから17日で2週間となり、日本の自動車や部品メーカーも業績に深刻な影響を受けることになります。民間リサーチ会社の試算によると、今回の自動車関税で対策をとらなかった場合、大手自動車メーカー6社の営業利益をあわせて3兆2467億円押し下げるとしています。(略)
第一生命経済研究所は関税分が新車の販売価格にそのまま転嫁された場合、現地アメリカでの自動車の販売価格は平均で8.1%上昇し、新車の販売台数は12.1%減少すると試算しています」
これに伴い、日本からの輸出も減少して部品メーカーなど幅広い業種に影響することが見込まれ、日本のGDP=国内総生産を1年間で0.53%押し下げる可能性があるとしています」
(NHK4月17日)
米トランプ政権の自動車関税 発動で日本メーカーに影響 営業利益 3兆円押し下げる可能性も | NHK | 関税 

日本は20世紀(1995年)には米国が最大の輸出相手国で、27%ものシェアを占めていましたが、2019年現在は中国向けが20%で最も多く、次いでアメリカ17%、韓国6%、台湾5%です。
上位5か国で約半分のシェアに達しています。
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324 日米の貿易相手の変化 - 相手国別輸出入シェア|小川製作所 | 製造業x経済統計
輸出額のGDPに対する依存度は先進国中で最低水準です。
あいかわらず日本を貿易で食べている国(貿易立国)と安易に呼ぶ人がいますが、それは昭和のイメージであって令和の現実ではありません。

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【グラフ編】現実:日本の外需依存度は低い / 理由:外国と比べても低いため

このような中で、なんの脈絡もなくトラ関税戦争が突如勃発してしまったのです。
この人は一種の右翼小児病で、大人に対するように話してもまったく無意味です。
言いがかりだろうとナンだろうと、ガキをなだめるように、数字でハッキリと見せねばなりません。
結論からいえば、対米貿易黒字が大問題だぁとトラが言っているのですから、対米輸出が減ったように見えればよいのです。

そのためには輸出額が少なくなったように見えるように、通貨をドルに対して高くするのもひとつの方法です。
実は今、トランプは為替問題に苦しんでいます。
米国が搾取されているというのがこの男の言い分ですが、ならば為替をドル高に導けば輸入は確実に減り、貿易赤字は解消になります。
わかっているので盛んにFRB議長のパウエルに圧力をかけているのですが、なかなか聞いてもらえないので昨今は解任だと叫んでベッセント財務長官から止められました。
そもそも大統領とて中央銀行総裁を解任する権限なんかないんですがね。頭のおかしなワンマン社長といったところです。

「 ベッセント米財務長官が、パウエル連邦準備理事会(FRB)議長の解任は金融市場の不安定化を招くリスクがあるとして、ホワイトハウス当局者らに繰り返し警告していることが分かった。米政治専門サイトのポリティコが17日、関係筋の情報として報じた。
トランプ大統領は、パウエル議長の解任は「早ければ早いほど良い」と述べ、FRBに対し改めて早期利下げを要求した」
(ロイター4月17日)
米財務長官、ホワイトハウスに警告 FRB議長解任巡り=報道 | ロイター
当然です。今、こんなことをしたら米国がインフレ容認に転じたと思われて、ドル売りと国債が売りが激しくなります。
そうでなくても、原油はバレル60ドルをきりそうな勢いですし、輸入品は追加関税でショートしています。
だから為替をドル高誘導するのは難しいのです。
逆にいえば、日本にとって円高誘導が可能な時期です。
輸出産業のみなさんには気の毒ですが、ここは国難と堪えてもらうしかありません。
この間の円安でたっぷりもうかったのですから勘弁してくださいな。
為替問題とは別に、日本は内需を増やさねばなりません。
日本を商店街にたとえれば、できるだけ商店街の中でカネのやりとりをするようにします。
肉屋の親父は商店街の飲み屋でカネを使い、飲み屋の親父は商店街の八百屋で資材を買い込むというようなローカルエリアで経済活動をするようにします。
できるだけ量販では買わない、チェーン店は使わないようにします。
もちろん現実にはなかなか難しいのは百も承知ですが、地場産業・商業がしっかりしている地域はなかなか崩れにくいものです。
要は、カネをできるだけ日本商店街の中でまわすようにするのです。
そのために地場でカネを落せるように、個人消費を伸ばさねばなりません。
日本の輸出依存度は18%で、先進国下から二番目に輸出依存度が低い国となります。
ドイツ、フランス、イギリスは約60~70%になり、それに対して日本は外需依存ではなく、内需依存国です。
ここがEU諸国や韓国と比較して大きく異なる点です。
これは内需のうち大きな割合を占める個人消費が、コロナ以降充分に回復したとはいえないからです。
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個人消費を中心とした内需の回復力は弱い | J-MONEY Online - 機関投資家・金融プロフェッショナルのための金融情報サイト
では、国内の消費と投資を刺激するにはどうしたらよいのでしょうか。
その方法はすでに経験済みで、政府の財政投資によって需要を創出し、企業がカネを借りやすくするために政府金利を下げることです。
アベノミクスがやったのはまさにこれでした。

「国内消費・投資を支える政策は通常、財政と金融の2種類。つまり政府が各種プログラムに直接予算を投入するか、中央銀行が政策金利引き下げもしくは流動性供給を通じて消費や投資を喚起するかだ。
これらの措置は総需要を拡大し、雇用を創出できる。だが物価を押し上げ、民間投資を閉め出し、自国通貨を弱めてしまう。さらに一国が財政・金融刺激策をどの程度打ち出せるかは、出発点での「余力」に左右される」
(ロイター2025年4月17日)
コラム:トランプ関税で迫られる内需型転換、アジア諸国の対応余力は | ロイター
個人消費が回復しない最大の理由は、国民にかかる税負担があまりに大きく、いまや「5公5民」といわれる状態で放置されているからです。
これについては大きなテーマなので別記事としますが、今の自民党はやる気ナッシングです。
彼らに政権の座から落ちて下野する恐怖を味合わせねばならないでしょう。
トラがコメの高関税について言っている以上、無関税化をして見せねば納得しないでしょう。
いい機会ですから、自由化に向けてプログラムを組むことです。
さらに、トランプ政権はいわゆる「自由主義同盟圏」を急速に破壊しようとしています。
ウクライナには敵対し、ロシアに接近し、NATOから脱退すると脅迫しています。
本来世界の自由主義圏の指導者でなければならないはずなのに、その破壊者と化しているようです。
その先は中心なき世界、俗に「Gゼロ」と呼ばれる世界が訪れるかもしれません。
ブロックごと分断されて抗争する世界です。

日本は日米同盟を唯一の基軸としてきましたが、これに安穏と寄りかかることができなくなりつつあります。
軍事的にも自立が求められるでしょう。
トラさんが防衛費が少ないと言っているのですから、ここでも外圧を使って見直しを図ることです。
核武装についてもタブー視しないで議論を進めるべきです。
このようにできることはいくつもあって、いい意味で外圧を使うことです。

2025年4月20日 (日)

日曜写真館 新しき道生まれおり朝桜

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在りながらひらきて枝の朝ざくら 岡井省二

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朝桜少年の声ひとり澄む 大嶽青児

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一枝より風呼び入るる朝桜 大岳水一路

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うすうすと天に毒あり朝桜 宗田安正

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うか~と涅槃も過ぬ初ざくら 三宅嘯山 

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話したし聞いて置きたし朝桜 高木晴子

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その白さためつすがめつ朝櫻 高澤良一 

2025年4月19日 (土)

トラさんが知らない日米同盟の進化

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トラさんはあいかわらず日米安保にご不満なようです。

「アメリカのトランプ大統領は日米安全保障条約について「私たちは彼らを守るが彼らは私たちを守る必要はない」と述べて不満をにじませました。
トランプ大統領は10日、ホワイトハウスで記者団に対し、アメリカが、これまで自国が不利になる取り引きを各国としてきたという認識を示した上で、日米安全保障条約について「日本とはとてもうまくやっている。しかし、私たちは彼らを守るが彼らは私たちを守る必要はない。私たちは協定を結んでいて、多くの金を払って、守っている」と述べて不満をにじませました。
そして「これは数ある取り引きのうちの1つだが、誰がこのような取り引きをしたのか疑問に思う。私たちの国を嫌っている人たちか、気にもとめていない人たちだ」と述べました」
(NHK4月11日)
アメリカ トランプ大統領 日米安全保障条約に不満 “私たちは彼ら守るが彼らは私たちを守る必要ない” | NHK | アメリカ 

オレはお前を守っているが、お前はオレを守らないだって?
いつまでも同じこと言ってろ、中坊かと罵りたくなります。
この人の日本認識は、自動車にしてもそうでしたが前世紀で止まったままなのです。

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| NHK | アメリカ

日本列島は米国の国際戦略の重要な、おそらく世界最大の拠点です。
日本列島には隅から隅まで実にたくさんの米軍基地が点在しています。
この米軍基地の駐留経費にする「思いやり」支援が、トランプがのたまう「米国が日本を守るため」に支出している予算で、この支援規模は文句なく世界最大です。
おもいやり支援、硬く言えば接受国支援、横文字でいえばホストネーション・サポートで、思いやり予算とはいかにもヤニ臭い自民党国防族の匂いがします。

それはさておき、トランプ如きにただ乗りとは言わせないのは、同じ米軍の駐留を受けている「ホストネーション」であるドイツ、イタリア、韓国にはないか、あったとしても日本の半分ていどにすぎないからです。


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2002年の米国の資料による各国米軍駐留経費負担率比較
・日本  ・・・75%
・ドイツ ・・・33%
・韓国   ・・・40%
・イタリア・・・41%

では次に、何に支出されているかを見てみましょう。

「現在は特別協定に基づく従業員の基本給、米軍の訓練移転費、光熱費に加え、協定外の従業員の福利費、施設整備費も日本が払っている」
(ロイター2025年10月12日)
「思いやり予算」の改定交渉、3回目も日米の溝埋まらず | ロイター 

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上の写真は筆者が撮ってきた横須賀軍港の未婚者用住宅地域の看板ですが、これも日本側の「思いやり予算」で作ったようです。
この他に、 日本はレストランやバーなど基地内の娯楽施設で働く従業員約5000人の給与や建設費なども気前よく負担しています。
ゴルフ場や教会も作っています。
あと出していないのは米軍将兵の訓練費と給料くらいですが、おいトラちゃん、ここまで出しちゃうと、もう君らは日本の傭兵ですよ。

さてトラちゃんは、「日本は米国を守っていない」なんて子供のようなことを言っていますが、日本に展開する米空軍、海軍、海兵隊の航空機や艦船は、別に日本のため「だけ」に存在しているわけではありません。
日本の領空や領海を守っているのは自衛隊や海保です。

深くトラさんは勘違いしているようですが、日本だけがいわゆる専守防衛している分には自衛隊と海保だけで事足りています。
ただ世界情勢が荒れて来た場合、自衛隊だけでは手に負えない事態になると予想されるために米軍を「置いてあげている」のです。
ただし、世界最強の軍隊に駐留してもらうメリットも大いにあって、特になにもしなくてもいるだけでドーンという存在感があって、邪なことを考える外国が手を出しにくくなります。
これをプレゼンス(存在感)と呼びます。

その法的裏付けが日米安保条約第5条です。

日米安全保障条約第五条
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
資料69 日米安全保障条約第五条

トラさんはこの5条の「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する」の部分が、「日本は米国をら守らない」と解釈しているようです。
逆に聞きたいもんです、かつてメルケルはNATOでドイツ連邦軍の弱体化を指摘されて、「そんなに強いドイツ兵を見たいのか」と啖呵を切ってそうです。
それに倣えば、トラよ、そんなに強い日本兵を見たいのか。

日米安保は大昔安保条約ができた当座は「ビンの蓋」とたとえられたことがありました。
また軍国日本を復活させないために、在日米軍がいるのだという構図で、表立っては否定していますが、たぶんGHQは内心はそう考えていたはずです。その流れで9条なんてもんを押しつけたのですからね。
しかし時がたち、いまや合衆国大統領閣下直々に「日本は米国を守らないからけしらん」なんて仰せです。
勝手な言いぐさです、米国どころか自分の国さえ満足に守れない憲法を押しつけておいてヨー言うよです。

憲法論議にそれると長くなるので置きますが、前述したように米空軍、海軍、海兵隊の航空機のうち日本の防空任務についているものは1機もありませんし、艦艇で日本の領海を守っている船は一隻もありません。
逆に、在日米軍基地の防空をしているのは空自ですし、陸からの破壊活動に備えているのは陸自や警察です。
また、米海軍の空母打撃群を広い意味で守っているのも、海自の護衛艦隊です。
そのために安保法制すら改革したほどです。

いまは日米両国の統合司令部まで発展しており、海兵隊は戦車部隊を捨てて第1列島選に沿った海兵沿岸連隊(MLR)に改変しています。

「中国側の「接近拒否戦略」をかいくぐって、「第1列島線」の内側にとどまり、作戦を実行することが期待されているのが、「海兵沿岸連隊」なのです。
第3海兵沿岸連隊の司令部で話を聞いた兵士は、いわば「敵のふところ」近くにいることで、相手の動きを把握し、有効な反撃を行えると強調していました。
世界では『接近拒否戦略』の課題として現れているが、われわれが存在する理由のひとつは敵の兵器の交戦区域で活動することだ。その中にいることで、敵の脅威を認識し、そして後退させる手段を提供する」
(NHK2023年5月30日)
対中国で軍の再編急ぐ アメリカ 「MLR=海兵沿岸連隊」創設の狙いは? | NHK
米軍と共に尖閣・離島を守る時代へ: 農と島のありんくりん

この海兵沿岸連隊は沿岸戦闘チーム(LCT)が主力部隊であり、これは自衛隊の石垣、宮古、奄美に展開する長距離対艦ミサイル部隊と歩兵大隊を中心に編成されています。
さらにこのLCTは、いま自衛隊が奄美、石垣、宮古に展開している対艦ミサイル部隊と相互補完する部隊です。
南西諸島では、地対艦ミサイル部隊は地対空ミサイル部隊とともに、2019年に奄美、宮古島、石垣島に配備済みです。
このように海兵隊の海兵沿岸連隊構想自体が、自衛隊の対艦ミサイル部隊展開構想に影響されたもので、一体で運用されるでしょう。
これは日本を守るためだけにいるのでしょうか、トラさん。
あなたの頭は数十年ズレているのです。

たぶんトラさんが分かっていない部分は、米国が直接、日本を「守る」ために駐留していると考えていることです。
それは半分正しく半分まちがっています。正確に言えば、「日本を守るためにもいる」のです。
これを前述したようにプレゼンスと呼びますが、「存在感」と和訳します。
微妙な言い回しですが、一般の語義どおり、「その独特の持ち味によって、その人が紛れもなくそこにいると思わせる感じ」のことです。
米軍は別に日本防衛のためにいるわけではないが、「いる」だけで、他国は世界最強の米軍が敵になるかもしれないとビビるわけです。

沖縄に米軍が「いる」というのも、このプレゼンスを中国が認識しているからです。
仮に米軍が、沖縄防衛のためにいるわけでなくても、沖縄に軍事攻撃を仕掛ければ、米軍を相手にせねばならないというのは、大変にイヤなことのはずです。

同じように、三沢の米空軍はアジア地域で紛争が起きた場合に、真っ先に乗り込んでレーダーやミサイル施設を破壊するためにいます。
横田の輸送機部隊もまた同様に、アジア地域の戦術輸送を担っています。
厚木は横須賀軍港の航空機のための基地で、米空母の運用のために作られています。
そして、横須賀軍港こそが、日米安保の心臓部です。ここにいる空母打撃群は、アジア地域のみならずアフリカ東海岸までエリアにした「動く航空基地」です。
日本はその米軍軍事力の世界拠点を提供しているのです。
そしていまや統合司令部を作って、海兵沿岸連隊のように一体化して中国に備えています。

このような世界規模のことを見通すのが米国大統領の仕事だとおもいますが、トラさんは極度の近視のようです。

 

2025年4月18日 (金)

やる前から負けていた日米交渉第1ラウンド

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SUMさん、「国家自由主義経済」とは私の造語ですが、共産党が統制する専制的で独裁的な国家経済のことです。
自由主義圏のそれのように、国家の干渉や統制を最小限にするリベラルな経済と対称させて使っています。

さて、第1回目の日米交渉が終わりました。
なんにも決まらなかったようですが、完全に米国ペースです。

「日米両政府は16日(日本時間17日午前)、米政権の関税措置を巡って閣僚級の交渉を米首都ワシントンで行った。交渉に先立ち、赤沢亮正経済再生担当相がトランプ米大統領とホワイトハウスで会談した。赤沢氏は閣僚交渉後に記者会見し、米国側から関税の取り下げについて確約を得られず、継続協議になったことを明らかにした。
赤沢氏は会見で、閣僚交渉で米政権による一連の関税措置が「極めて遺憾だ」と伝え、見直しを求めたと説明した。トランプ氏は赤沢氏と会った際に、対日交渉を最優先で進める意向を示したという。
両政府は今月中に次回の閣僚会合を調整し、事務レベルでも協議を進めることで一致した。日米双方が早期に妥結し、両国首脳による合意発表を目指すとした。
閣僚交渉には、米政権からベセント財務長官とラトニック商務長官、通商代表部(USTR)のグリア代表が出席した」
(産経4月17日)
日米交渉、関税取り下げは継続協議 トランプ氏「大きな進展」、赤沢担当相は「遺憾」伝達 - 産経ニュース

たぶんこんな中国貿易の制限も言われたでしょうね。

「トランプ米政権は関税交渉を利用し、米国の貿易パートナーに中国との取引を制限するよう圧力をかける計画だと、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。
事情に詳しい複数の関係者の話としてWSJが報じたところによると、ホワイトハウスが課す貿易・関税障壁を削減することと引き換えに、貿易相手国から中国経済を孤立させる上での確約を引き出すのが狙い。
米政府関係者は70カ国余りとの交渉を通じ、中国が自国経由で商品を輸出するのを認めないことや、中国企業が米関税回避のため拠点を置くのを防ぐこと、中国の安価な工業製品を自国経済に取り込まないことを要求する計画だという。
こうした措置は、中国経済に打撃を与え米中首脳会談を前に中国側の交渉力を弱めるのを目的としており、具体的な要求内容は各国の中国経済への関与により大きく異なる可能性があるとしている」
(ブルームバーク4月16日)
トランプ米政権、関税交渉を利用し中国を孤立させる計画-WSJ紙 - Bloomberg 

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産経ニュース

なぜ日本が最初の交渉国になったのかわかりますね。
最弱の交渉国だからです。
余裕の笑みを浮かべるトランプの横でコチコチになって突っ立っているのがわれらが赤沢氏です。小者感満載。
自分で「格下の私に会って頂いて」というようなことを赤沢氏は言っているようですが、どうして突然予定になかったはずのトランプが飛び出てきたのかわかりますでしょう。

相手を呑んだんです。

そもそも、こんな第1回交渉に赤沢氏などという「大臣もどき」を出すこと自体非常識でした。
外交交渉には暗黙のプロトコルがあって、向こうが大統領というトップを出したら首相を出すのが礼儀です。
ベセント財務長官が出てくるのが分かっていましたから、日本からはカウンターパートの加藤財務大臣が行くべきです。
財務大臣なら関税は所轄ですしね。
できないならば、財務、外務、総務、経産、防衛という主要閣僚から選ぶか、自民党の幹事長、ないしは幹事長経験者が妥当でしょう。
最良なのは、かつての安倍政権下でシビアな交渉をしぬいた茂木氏だったでしょう。
茂木氏なら前回の日米交渉の裏の裏まで熟知し、交渉も英語でできるというこれ以上ないキャラでした。
あの人は首相という器ではないが、外国との交渉をまとめることにかけては今の自民で頭ひとつ抜けています。

赤沢氏が1番バッターで出たとき、世界はため息をついたことでしょう。
ああ、これでトランプの横暴がまかり通る、次の交渉国が大変だ、とね。

ゲル氏は、経済再生担当相という所轄官房を持たない人物を送ってどうするつもりだったのでしょうか。
ですから交渉役は、麻生氏か加藤氏、茂木前幹事長が妥当だったはずなのになんで赤沢氏を送ったのか、ゲル氏がいかに党内で頼れる「友達」がいないのか分かります。
第1回交渉役は、交渉の範囲を決定する重要な1番打者ですから、米国はトランプ御大を送ってきて一瞬で交渉範囲を確定させてしまいました。
やる前から負けです。
そもそもゲル氏くらい交渉ごとが苦手な人はいませんから。
彼の得意は評論です。

たぶん日米交渉は、対中貿易制限を呑まされて、日米安保の「おもいやり予算」を増額させられ、ドル高を容認させられ、米国武器やエネルギーはしこたま買うことになり、結局関税はほとんど負けてもらえないということになりそうな予感がします。
そして自民党、夏の参院選で大敗して下野。

 

 

2025年4月17日 (木)

中国、トランプ出現で戦狼からとりこみ外交へ

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トランプが関税戦争を始めたために、世界が蓋をあけたポップコーン状態になっています。
中国もその例外ではなく、いままでの一帯一路という世界戦略をとりあえず置いて、周辺国鎮撫外交に切り換えようとしています。

【北京=三塚聖平】中国外務省は11日、習近平国家主席が14日からベトナム、マレーシア、カンボジアの東南アジア3カ国を歴訪すると発表した。中国はトランプ米政権との間で追加関税の応酬が激化しており、同じく米国の関税圧力にさらされている周辺国との連携を強める考えとみられる。
発表によると、習氏は14、15両日にベトナムを訪れ、15~18日にマレーシアとカンボジアを訪問する。マレーシアは今年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を務めており、習氏は訪問を通じてASEANとの関係強化も進めるとみられる」
(産経4月11日)
習氏が東南アジア歴訪 対米にらみ外交強化 14日からベトナム、マレーシア、カンボジア(産経新聞) - Yahoo!ニュース

実は習は2023年12月にも、ベトナムのグエン・フー・チョン書記長およびボー・バン・トゥオン国家主席の招待を受けた形で訪越しています。
このときは包括的戦略的ハートナーシップを締結していますが、米日露印韓と同列でした。

2023年は、両国の包括的戦略的パートナーシップの樹立15周年にあたる。ベトナム外交上最高位の2国間関係である同パートナーシップ関係にあるのは、中国のほか、ロシア、インド、韓国、米国、日本だ。このうち、米国は9月、日本は11月に同パートナーシップ関係に格上げされている。今回の習氏の訪越は、中越関係を米越関係より上位に位置付ける狙いがあったとみられる」
(ジェトロビジネス短信1月4日)
習近平国家主席のベトナム訪問、2国間関係を深化へ(中国、ベトナム) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

今までの中国はひたすら中国経済圏を拡大しつつ、南シナ海の事実上の内海化を強引に進めてきました。
そのために南シナ海に領土を持つベトナム、フィリピン、マレーシアはこぞって中国に警戒心を抱き米国に接近してきました。
ベトナムとマレーシアは日本が主導したTPP11に入っていて、一瞬ベトナムも自由主義圏に入ったのかと錯覚しそうなほどでした。

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習主席がベトナム訪問、「一方的ないじめ」への抵抗呼び掛け 米中貿易戦争受け - CNN.co.jp

ところがトランプが就任して風向きが変わりました。
ベトナムは、アメリカから46%の相互関税を通告され、90日の発動延期となったものの、今後これを減らす個別交渉に苦労するでしょう。
そしてモラトリアムの90日が終わればどうなることかと暗然としているはずです。

一方3カ国歴訪の一週間前の4月8日、中国共産党中央は中央周辺工作会議を招集し、政治局常務委員全員の前で習は「周辺運命共同体の構築」と題した重要演説をしています。
この中で習はこう言っています。

「周辺地域の戦略的意義が強調されました。
「周辺地域は、発展と繁栄のための重要な基盤であり、国家の安全を守る鍵であり、外交の全体計画における最優先事項であり、人類運命共同体の構築を促進する鍵である」「グローバルな視点から周辺を見つめ、周辺工作をうまくする責任感と使命感を高めるべきだ 」「目下、わが国と周辺の関係は近代始まって以来最も良好であり、同時に周辺の枠組みと世界の変局が連動する重要段階にはっている」
つまり、トランプ関税の砲撃が始まり、中国デカップリングの狼煙があがったこのタイミングで、習近平は、いったん人類運命共同体という本来の習近平外交思想の大風呂敷をたたんで、周辺国家に集中して外交リソースを割く、現実的な外交戦略に転換した、ということがこの会議からうかがえます。それは周辺国家、特に中国の裏庭に当たる東南アジア、インドシナ半島の戦略的重要性を再確認し、それら国と中国を分断するのが、トランプ関税政策の狙いにあることがわかったからでしょう」
(福島香織中国趣聞4月15日)

これは中国の世界戦略の転換です。
従来の一帯一路をとりあえず畳んで、周辺国との人民元基軸ブロック経済を構築する方向に転じた可能性があると福島氏は見ます。

「中国はトランプ政権の狙いが、米ドル基軸経済からの中国排除であり、最終的に中国共産党の崩壊であることに気づいているのです。
これに対抗するために、中国はグローバルサウスや一帯一路沿線国を自国陣営につけて米国経済圏よりも大きな市場と人民元機軸経済圏を造ろうと考え、「人類運命共同体」「中華民族の偉大なる復興の夢」といった大風呂敷で大げさなスローガンを掲げたのですが、習近平十年あまりの外交を振り返ったとき、巨額投資を行ってきた一帯一路も、人類運命共同体も実際は失敗であったことが明らかになりつつあります。
それは鄧小平の遺産である中国自由主義経済を習近平が自ら破壊したことも一因で、経済が急減速して広範囲に投資し続ける経済体力がなくなってきたからです。内政の失敗で、有能な官僚や軍人を粛清しすぎて、外交、軍事などの機能も落ちてきたことも要因でしょう」
(福島前掲)

トランプの関税戦争は失敗に終わるでしょうが、皮肉にも共に習の人民元基軸経済圏も失敗に終わるでしょう。
トランプは味方を作らずに貿易戦争を初めてしまいました。

中国のサプライチェーンからのデカップリングが目的ならば、ASEAN諸国や台湾、日本を敵にする必要はなかったにもかかわらず、まず味方叩きから始めてしまいました。順番が逆です。
世界経済に打撃を与え自国経済さえおかしくしてから、本来の敵と戦おうというのですから馬鹿みたいです。

一方、中国も何度か書いているように、経済が急減速しています。
この原因は鄧小平の国家自由主義経済路線を破壊し、社会主義統制経済に転換しようとしたせいです。
それを建て直そうにも、自らの手足となる官僚や軍人の多くを粛清してしまったためににっちもさっちもいきません。
一帯一路なんて世界規模の投資自体が不可能となってきたのです。
そういう時に起きたのがトランプの関税戦争でした。
習としては、足元のアジアをブロック化することしか手がなかったのです。

結局、アジアはこのふたつの勢力の角逐する場となったわけです。
本来ならば、紛争の原因であるはずの南シナ海の軍事要塞を撤去して見せるしかないはずですが、それは自分のやってきたことの否定となるのでできないのがつらいところです。

 

2025年4月16日 (水)

イ・ジェミョンの左翼政権ができたら

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ほぼ99%の確率で、次期韓国の大統領はイ・ジェミョン(李在明)になるはずです。
イは「共に民主党」の予備選では圧勝。

「韓国大統領選(6月3日投開票)の左派系最大野党「共に民主党」の党内予備選に向け、 文在寅(ムンジェイン) 元大統領に近い候補が相次いで出馬を表明した。2022年の前回選に出馬して知名度が高い 李在明(イジェミョン) 前党代表(60)は支持率で独走しており、優位は揺るぎそうにない状況だ」
(読売4月15日)
韓国大統領選の最大野党候補、文在寅氏側近ら名乗り…李在明前代表の優位揺るがず 

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読売

一方、与党「国民の力」は四分五裂というていたらく、ダメじゃこれ。

「韓国の与党「国民の力」が15日、大統領選に向けた党内の候補者登録を締め切る。与野党の公認候補の選出が本格化している。尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領を失った国民の力からは元閣僚や前党代表などの出馬宣言が相次いでいる」
(日経4月14日)
韓国大統領選、与党候補が乱立 月内にも絞り込みへ - 日本経済新聞

クーデターという大失敗のあとで一本にまとまっても勝てないのに、なんと候補が6人ですからやる前から負けています。

では、イ・ジェミョンが大統領になったらどうなるでしょうか。
特に想像を巡らす必要はありません。
もちろんバリバリの反日反米です。それ以外ありえません。
しかも大統領が属人的にそれを行使するでしょう。
元来大統領権限が強い上に、国会も「共に民主党」が圧していますからねじれなし。

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文前大統領、「あのクズ(李在明)のせいで復活した国民のお荷物クズ」ツイートに「いいね」-Chosun online 朝鮮日報

いや、イは日本に親和的なことも言っていたという向きもあるでしょうが、それは世論調査が与党と野党を拮抗しているときだけに限られます。
ムンジェイン政権を作ってきたイ・ジェミョンの本音は徹底的に日本と戦って勝つことです。
韓国左翼が根強いのは、彼らの民族的心情の底に「克日」、つまり日本に一度でいいから勝ってみたいというドロドロしたものが眠っているからです。

中華を中心とする華夷秩序の中で上位の朝鮮が、目下の日本に植民地にされたという屈辱はパククネ流にいえば「百年たっても忘れてはならじ」なのです。(ああ、しつこい)
このネガティブな心情は、たとえばベトナムの対米感情にはありません。
なぜなら完全に勝ったからで、民族的トラウマにはならないからです。

それはさておき、したがってユン政権下でやっと再建できた日米韓三カ国連携は、たちまちヒビが入るはずです。
バイデンが大統領なら手荒なことはしないでしょうが、トランプは歯に衣を着せないで「日韓の防衛を米国は負担しないぞう。安全保障にもっとカネを出せ」とガナります。
日本に対しては、例によって例の如しで日米安保護持が国是ですから、なんとか柳に風と受け流すか、米国兵器を買い増してお茶を濁そうとするでしょうが、韓国左翼政権の場合感情的に反発してきた歴史がありますからタダでは済みません。
ムン政権で起きた最悪の米韓関係が倍返しで再現します。

思い出して頂きたいのですが、ムン政権は三不路線という反米政策をとってきました。
三不とは、THAADミサイル追加配備不可、韓日米軍事同盟不可、米国MD(ミサイル防衛)体制参加不可の三つを刺します。
米国の高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)を設置してくれという米国の要求を、ムン政権はぬらりくらりと拒否してきました。  
THAAD(サード)は、弾道ミサイル迎撃システムPAC3の隙間を埋めるために作られました。 

短射程のPAC-3では、米国に向かう高高度を飛んでくる弾道ミサイルを落とせないのです。 
これでは米国に向かう弾道ミサイルを撃ち落とせないから困るというので、米国は韓国国内にTHAADを配備させてくれと要求してきました。
同盟国ですから、当然です。
米国は現地調査も済ませ、あとはミサイル本体の搬入という段になってムン政権がゴネました。
ひとつには、自分の得にならないことにはベロも出さない韓国にとって、THAADなんていう明らかに中国を意識した迎撃システムを入れれば、中国サマから何を言われるかわかったもんじゃないからです。

そして隠し味は、自分は同胞の北からミサイル攻撃されることはないという妙な自信があったのと、さらにあわよくば、北と統一を果たした暁には北の核を共有できるという目論見があったからです。
日本の左翼と韓国左翼は義兄弟の契りを交わしていて、年中沖縄や韓国に行ったり来たりしているほどの関係ですが、大きな違いは日本のそれがとことん平和主義の軍事アレルギーであることに対して、韓国の方は核保有も視野に入っている軍拡派なことです。

ですから韓国左翼政権は軍拡に熱心です。
したがって、左翼が政権を取ると必ず軍事費が伸長します。
下図は韓国の軍事費推移ですが、ムン政権でハネ上がっているのがわかります。

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韓国の国防費増額傾向をどう読むか | 記事一覧 | 国際情報ネットワークIINA 笹川平和財団

「こうした韓国国防費の増加傾向と戦力増強の動きがより鮮明になる中で、昨年9月22日付の中央日報が、韓国軍が「将来脅威になりうる周辺国である日本と中国に対する牽制のための戦力が必要だ」として、SLBM搭載型原潜と弾道ミサイルで対象国の核心(指揮部や主要施設)を攻撃する「毒針戦略」を紹介した」
 笹川平和財団

そしてユン政権下でも韓国は核兵器に対して前のめりでした。

「米政府が、韓国を国家安全保障や核不拡散などの観点で注意が必要な「敏感国」に指定していたことが分かった。北朝鮮の脅威を受けて韓国で核武装論が出ていることを踏まえた措置とみられる」
(ロイター3月16日)
米、韓国を要注意国に 核武装論を警戒 | ロイター

つまり、韓国は核兵弾頭を積んだSLBM原潜を保有する意志があるのです。
この流れはイ政権でいっそう加速され、おそらく任期中には保有できることになるかもしれません。
しかもその核の牙は日本と米国に向いているのです。

このようなことにトランプが懐手しているはずがありません。
いままでの軍事費を増やせから、一転して核保有を認めない圧力方針に切り替わるでしょう。
その場合、米韓同盟は解消されます。
あるいは形だけ残っても、在韓米軍は撤退ということもありえます。
それについては第1期に本当にやりそうになって、マチスに絶対に止めて下さい、やるなら2期目にしたらどうですか、と止められたといういわくつきですが、常識人の鎖から離れたトランプならやりかねません。
そしてそれを迎える韓国は左翼軍事政権ですから、なんともこれはすんばらしいマッチングです。

 

2025年4月15日 (火)

自民終了

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もう自民はダメでしょうね。
本当にゲル氏が任命した森山幹事長になってからの落ちっぷりはジェットコースターみたいです。

先日の共同の調査でとうとう自民は国民民主に7.4ポイント差まで追いつかれました。

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「国民1人5万円」の愚策しか打ち出せない石破政権に与党内もウンザリ、なぜ頑なに消費税減税から目をそらすのか(1/4)

「夏の参院選比例代表の投票先は自民党24.6%、国民民主党18.5%、立憲民主党12.3%、れいわ新選組4.1%、公明、日本維新の会の両党が3.9%の順だった。
政党支持率は自民25.8%(前回27.7%)、立民11.9%(11.1%)、維新4.9%(5.4%)、国民18.4%(12.9%)、公明4.2%(3.8%)、れいわ4.8%(7.0%)、共産党3.4%(3.6%)、参政党1.0%(1.3%)、日本保守党1.9%(0.3%)、社民党0.7%(0.8%)、みんなでつくる党0.2%(0.1%)。「支持する政党はない」とした無党派層は20.1%(23.0%)だった」
(日経4月13日)
内閣支持率わずかに上昇32.6% 共同通信世論調査 - 日本経済新聞

同じ傾向は他社の世論調査でも出ています。

「産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が22、23両日に実施した合同世論調査で、今夏の参院選の比例代表でどの党に投票するかを尋ねたところ、最多は自民党の19・3%だった。次点は国民民主党の12・0%で、立憲民主党が8・5%、れいわ新選組が5・3%で続いた」
(産経3月24日)
参院選比例投票先、国民民主は18歳から40代まで首位 自民は全体首位も2割届かず 産経・FNN合同世論調査 - 産経ニュース

産経でも自民と国民民主の差は7.3ポイントです。
この自民の悪評はこの党がポリコレリベラルにして増税の党となってしまったからです。
コメ高騰も止められず、賃上げを軽く吹き飛ばすインフレは亢進し続け、中国要人が来れば下にも置かない揉み手をして見せ、トランプ関税に対しては哀訴しかなく、その対策が5万円の給付金しかない、減税なんか断じて認めん、というのですからどうしようもない。
こんな状況なのに、改めてポリコレ候補を立ててくるという自民の鈍感さに耐えられません。

国内政局はくだらないので基本書かないつもりでしたが、ここまでヒドイとねぇ。
とうとうバリバリの左翼運動家を参院候補にしてしまいました。
いまや自民執行部は居直って「自民は保守政党じゃない。国民政党だ」なんて言っていますが、へぇーそうだったんだぁー。
とことん「国民政党」にでもなんでも振り切って下さい。

「自民党東京都連(会長・井上信治元万博相)がNPO法人代表理事の渡部カンコロンゴ清花氏(34)を夏の参院選の東京選挙区(改選数6)に擁立する方向で調整していることについて、党内の保守系議員から懐疑的な声が上がっている。渡部氏が報道番組などで自民党の政権運営に批判的な論客として活動する上、過去に安倍晋三元首相らを侮辱するような表現を用いたとされることが背景にある」
(産経4月14日)
安倍氏侮辱の渡部カンコロンゴ氏、自民都連擁立調整 党内から疑問の声「強烈な違和感」 - 産経ニュース

この渡部カンコロンゴ氏を擁立した井上信治・自民党東京都連会長は河野太郎をボスと仰ぎ、日中友好議連の会員だそうです。

カンコロンゴ氏の過去の言説はこうです。
安保法制についてはむき出しの左翼。

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そしてきわめつけはアベガーだったようです。

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この人、アベガー言説を井上都連会長は知っていて擁立したんでしょうね。
ナメてんのか、という内容ですが、原発に対しても「汚染水」と平気で書いています。
神経が疑われます。風評まいて憚らない、ほとんどこりゃ反社でしょう。

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ま、特にもうつけ加えることはありませんね。論評するに値せずです。
逆に渡辺カンコロンゴ氏はがなぜあえて自民から出馬するのか、思想が変化したとは思えないのでぜひ明快に答えていただきたいものです。

自民党は、こんな左翼運動家を参院候補にせにゃならんくらい落ちぶれれたのです。
「国民政党」になりたいんだそうですが、いままで自民とその支持者らが戦ってきたのはこのカンコロンゴ氏たちのような連中だったんじゃなかったのですか。
きっと高市氏のことを「右によりすぎている」という連中がカンコロンゴ氏を擁立したのでしょうね。

都連は解散して立憲と、いや共産党と統合しちゃいなさい。
それが今の自民に似合いです。
それにしても、この世界が動揺し大きく変わらざるを得ないとき、こんな煮え切らない唾棄すべき与党しか持たない日本は不幸です。


 

 

2025年4月14日 (月)

なにが起きても減税不可という財務省の奇習

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トランプ関税対策として政府や与党の間で国民生活救済と称してポイント還元と給付金を出しています。
毎度のことながらのボンクラぶりです。
しかも給付は、いつもなら減税すると財源がどうのという自民税調が黙っているのが奇怪です。
一律5万円給付したなら、6~7兆円必要だとされていますが、はてでは国民民主が主張した「手取りを増やす」の財源が7~8兆円必要だからできないと抜かしていたのはなんだったんでしょうか。

なんのこたぁない、減税すれば国民に税金を取りすぎていたことがバレるからです。
こういう税金を国民から過剰にむしり取って留保しておき、それを有り難そうに配るやり方を「取って配る」方式と言います。
たとえばガソリン税に典型ですが、消費税と揮発油税を二重取りして取りすぎなことをいじらないために、補助金を業界に給付して価格を抑制しようとします。
さっさとトリガー条項使えばよいものを、根幹にある「取って配る」方式に執着しているのです。

ゲル首相も一時出てきた食品だけに限定して消費税を減らす、ないしは廃止するという案に対してにべもなくこれを拒否しました。

「石破茂首相は1日の記者会見で、物価高対策として食料品に限定して消費税率を引き下げる考えがあるかを問われ「税率の引き下げは適当ではないと考えている」と否定した。
首相は消費税について「全世代型の社会保障を支える重要な財源だ。全額、社会保障の給付に充てられている」と説明した」
(産経4月1日)
【動画】食料品限定の消費税減税「適当でない」 石破首相、社会保障財源を強調 - 産経ニュース

せっかくエプリエルフールだったんですから、減税します、と言っておけばよいものを。
国民民主の「収入の壁」に徹底的に抵抗した宮沢羊一税調会長を見ればわかるように、いかに時限的であったとしても減税は御法度なようです。下の写真が宮沢会長ですが、岸田氏のいとこにあたり「103万円のラスボス」と呼ばれた人物です。

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「話にならない」年収103万円に自民が壁…国民無視〝ラスボス〟宮沢洋一税調会長が抵抗 財務省の意向優先「減税・負担軽減」やる気なし?(1/2ページ) - zakⅡ

「国民民主党が求めた所得税が生じる「年収103万円の壁」の178万円への引き上げは、自民、公明両党との妥結点を見いだせず、来年以降の継続協議が決まった。立ちはだかったのは、税制の事実上の決定権限を握る自民党の宮沢洋一税制調査会長だ。税制に精通した東大卒の元財務官僚で、親族に元首相もいる〝華麗なる宮沢一族〟の一人。減税政策に慎重な緊縮財政派として知られ、SNS上では103万円の壁を守る「ラスボス(最後の敵)」とも呼ばれた人物だ」
(産経2024年12月20日)
103万円の壁に立ちはだかった〝ラスボス〟自民・宮沢洋一税調会長 攻略法は「論破」か - 産経ニュース

さて、このような減税に対する抵抗勢力には財政の奇習とでもいうべきものがあります。
今回も現れたのが財務省の奇習です。

私が奇習と呼ぶのは、主要国でこんなおかしなルールを作っているのはうちの国だけだからです。
もちろん役人の前例踏襲の内規であって法律でもなんでもありませんから、政治の力で変えられます。
しかしなにぶん奇習の主が、国家予算の生殺与奪の権限を持つ財務省だからシャレになりません。

日本にはおおよそ三つの財務上の奇習があります。
1番目が税収弾性値、2番目が国防予算を国債にいれないルール、3番目が国債60年償還ルールですが、今日は初めの税収弾性値だけにします。

維新の会の柳ケ瀬裕文議員がこのような質問をしました。

「7日、参議院決算委員会において、日本維新の会の柳ケ瀬裕文議員が加藤金融担当大臣と税収について議論した。
柳ケ瀬議員は「直近3年間の令和3年度予算策定時における『後年度影響試算時の税収』当該年度『当初予算策定時における税収』『決算の税収』を示す。ここで『後年度影響試算』と『決算』の違いに注目してほしい。毎年10兆円近くずれている。22年度は11.7兆円、23年度10.7兆円、24年度はまだ出ていないが9.9兆円ぐらいだろう」と指摘。(略)
「令和3年度に財務省が試算した税収の予測値と実際の決算との差を見ると、毎年約10兆円も税収を少なく見積もっていた。『結果として税収が多かったからいいじゃないか』と思う方もいるかもしれないがそうではない。
税収を10兆円も少なく見積もると『税収が足りないからさらなる増税が必要だ』であるとか『税収が足りないから減税なんかできない』というような誤った財政運営に繋がっていく。また、税収を少なく見積もると国債を多く発行する必要があるかのように見せてしまうことになり、それはあたかも我が国の財政状況が悪化しているかのような虚偽の情報を国内外に示すことになる。
また、決算剰余金を原資に審査が甘い莫大な補正予算を組むことにつながり、不必要な事業を行うなど、財政運営そのものを誤らせてしまうことになるのではないか。それだけこの後年度影響試算というのは、妥当な理屈を持って妥当な数値を示さなければいけないものと認識している」
(アベマニュース4月7日)
財務省の“数字のカラクリ”を理詰めで追及?「毎年10兆円近くずれている」「全く論外」「つじつまを合わせた?」「財源が足りないという虚像の証左」(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース

よくぞ言った。まさにそのとおり。

こんな10兆も当初予算の税収見込みが狂う原因はひとつです。
税収弾性値を1.1~1.2などと過剰に低く見積もっているから、税収が年間10兆円も上振れするのです。
そりゃ補正予算なんか楽勝ですよね。なにが財政危機だつうの。

税収弾性値が1.1とは、要は税収はゼロ成長を大前提するということです。
日本経済はゼッタイに成長しない、しないといったらしない、なぜならオレラ財務省が成長しそうになるとしっかり潰すからだ、ということのようです。
いつも景気が回復しそうになると、増税派が消費増税をしかけて成長の芽をつぶしてきていたのでヘンだとは思っていたのです。
案の定、彼らには彼らしか通用しないロジックがありました。それが前述したように「税収弾性値が1.1」ということでした。
税収弾性値とは、「名目GDPが増えた時に税収がどの程度増えるか」という予測値のことですから、財務省の1.1とはゼロ成長で経済を考えていたわけです。

経済を回復させれば税収が増える、という子供にも分かるこの理屈が、東大法学部出身のエリート官僚の皆さんには理解できないようです。
ですから彼らは経済はずっとデフレでけっこうと思っていますから、景気をよくする、雇用を増大させる、収入を増やして個人消費を伸ばすという平々凡々たる経済の道筋が見えません。

仮に景気が上振れして税収が伸びたとしても、そんなことは一時的なこと、税率を高く設定せねば財政は健全化しないぞ、だから税率を高くせねばならないのだ、ありとあらゆる機会を逃さずに増税を、くらいに盲進しています。
与野党を問わず、議員の大半もこの信徒だから困ったもんです。
これが、財務省や自民税制部会がよく口にする「恒久的財源」論です。

もちろん現実には、税収の伸びが1.1なんてことはありえません。
下図は90年代後半に消費税増税をして以後の、過去15年間の一般会計税収ですが、名目GDPが増えれば税収は1.1どころか3倍ちかくに増大することがわかっています。

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一般会計税収の推移

ですから経済に冷や水を掛けなければ、1兆円ていどの税収不足など軽く自然の税収増だけで得られてしまいます。
2021年度の一般会計決算概要によると、国の税収は67兆378億8500万円と過去最高だった20年度の税収(60兆8216億400万円)を更新しました。
しかもこのコロナ不況の真っ最中で個人消費がメタメタであったにもかかわらず、予想を3.1兆円も上回りました。しかも2年連続です。

普通に考えれば景気が回復すれば税収は今回の3.1兆円上振れしたようなことが起きるはずですが、彼らの税収弾性値では1.1しか成長しないはずなので、常に財政危機なのです。
経済学者の飯田泰之氏が言っていますが、「何か論理的な意味があって存在するわけではなく、なんとなくそれっぽい数字を並べて権威付けしているだけ」のこけ脅かしにすぎないのです。

トランプは付加価値税、つまり消費税は非関税障壁だと言っています。
この男の言うことが正しいかどうかは別にして、ディールのカードに消費税減税を掲げてみたらどうなんです。

 

2025年4月13日 (日)

日曜写真館 いちにちのはじまる冷えの初桜

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中空に風すこしある初ざくら 能村登四郎

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初花の夕ベは巳にほの白く 高野素十

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初花に何より心明るさよ 後藤比奈夫

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これはこれはあちらこちらの初桜 正岡子規

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初ざくら見つゝもこぼす涙かな 卓池

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とめて見る色も出さでや初桜 りん女

 

2025年4月12日 (土)

中国への追加関税は145%

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さすがにこんなウルトラ高関税を掛けられた中国に多少同情したくなります。
なんと、なんやかやで乗せられて145%だそうです。

 米ホワイトハウスは10日、中国からの輸入品への追加関税は145%だと説明を修正した。トランプ大統領は前日に対中追加関税を125%に引き上げると明らかにしていた。
中国に対する追加関税がさらに大きくなったことを受けて、米株式市場ではダウ工業株平均の前日比の下げ幅が一時2000ドルを超え、主要通貨に対してドル安が進んだ。9日には、トランプ氏がほぼ全ての国・地域に対する相互関税を90日間停止すると発表し、ダウ平均は大幅に上昇していた」
(CNN2025年4月11日)
対中追加関税は計145%、米ホワイトハウスが修正 - CNN.co.

米国と正面きって戦争したことのあるわが国にとって、これはハルノートに匹敵するもので、前後は違いますが、関税の次に来るのは経済制裁と海外資産凍結となるのかもしれません。
そうなると中国に原油や天然ガスを売ることを禁じるといったような、今の北朝鮮に掛けられているものと同類のものが炸裂するかもしれません。
高関税・経済制裁・海外資産凍結をトリプルでかけられると、さすがの全体主義国家でも堪えるはずです。
ここまでやると準戦時状況です。

これは中国包囲網の構築なんだと思いたいのは、分からないではありません。
たとえば福島香織氏はこう書いています。

「ただ政治的な目的が、中国の封じ込めであるとみると、これは成功するかもしれません。 
表向き、すべての国に対して相互関税を導入ということで、日本に対しても24%という高関税を発表しています。もし中国以外の国とは、ディール、交渉を持ちかけ、その交渉成立という形で追加関税を取りやめ、中国だけを高関税対象にして、グローバル経済から退場させようというのが狙いだとする可能性もあります。習近平はみずからグローバル経済の旗手のようにふるまっていますが、グローバル経済のルールを中国共産党ルールにされては、日本などはついていけません。だから、結局、米国サイドに立つことを約束し、米国とのディールを成立させ、同盟国としての立場を強化する選択肢しかないと思います」
(福島香織4月5日)

うーん気持ちはわかりますし、そう思いたいのも当然ですが、違うと思います。
中国と対峙せにゃならん、という気分はトランプにあっても、あまりに馬鹿な高関税をろくな準備もしないでいきなり世界相手にぶつけてしまったために、米国債権という経済の基幹までもが危機に陥ってしまいました。

「10日にはトランプ氏の関税政策や中国との貿易摩擦激化に対する懸念から米国株は急落し、9日に記録した歴史的な上げの半分を失った。(略)  やがては株価の動きが正常なものに戻り米国債との連動が弱まるとしても、政権へのメッセージは既に発せられている。
米国債に対する投資家の信頼は、もはや当然視できるものではない。長年にわたる借金の乱費で負債が膨れ上がり、国内外のルールを書き換え、その過程で最大の債権者の多くに敵対することに固執する大統領がホワイトハウスにいる限り、信頼は当然のものではない。
信頼失墜は世界金融システムに重大な影響を及ぼし得る。世界の「リスクフリー」資産として、米国債は株式から国債、住宅ローン金利に至るまであらゆるものの価格を決定するベンチマークとして使用されている。1日に何兆ドルもの融資の担保としても利用されている」
(ブルームバーク4月11日)
米国債が突如リスク資産扱い、逃避先の地位に疑義-トランプ氏に警鐘 - Bloomberg

株の乱高下まではトランプは読んでいたでしょうが、よもや国債の信用まで瓦解するとは思っていなかったので焦った。
ですから、たった13時間で2次追加関税を取り下げ(90日間なんて言っていますが)、それではあまりにカッコ悪いので、中国へ特盛の追加関税を課したといったところが実際でしょう。

本来はもうすこし対中関税戦争も段階を踏んで応酬があってエスカレートしていくものですが、一気にマックスという相手が引くに引けない拙劣なやり方を取ってしまいました。
当然、仕掛けられた中国も、仕掛けたほうの米国も共に返り血でものすごいことになります。
というのは、米中の経済関係はいまさらデカップリング(分離)するのが難しいほど一体化が進んでいるからです。

ちょっと古いですが2017年現在の米国の対中輸出入はこうです。
まず輸出。
北米貿易協定のカナダ、メキシコを除けば第3位です。

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アメリカ貿易の基礎知識 | 貿易相手国ランキング / 米大統領選・米中貿易摩擦・新型コロナが与える影響…ほか | 海外進出ノウハウ | Digima〜出島〜

次に輸入。堂々の第1位で、こちらは輸出より約2倍弱を輸入しています。

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海外進出ノウハウ | Digima〜出島〜

次に中国からの輸入の内訳を見ます。
2017年のものですが、ズラっと庶民の生活必需品となった携帯とかPC、スポーツ用品、アパレルが並び、自動車部品も多くを輸入しています。

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米中貿易摩擦は自暴自棄、長続きはしない:大山聡の業界スコープ(14)(1/2 ページ) - EE Times Japan

米国の輸出品です。

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EE Times Japan

米国からの輸出で特徴的なのは食品・農産物が14%占めることで、これは家畜飼料の大豆カスやトウモロコシなどを含んでいます。
かつてのトランプ第1次政権時の米中経済摩擦で、中国は米国に共和党の支持層である農民へ圧力をかけるために輸入をカットしたことがありましたが、たちどころに豚肉の値上がりを招いて撤回したという経緯があります。

背景には、中国農業の破綻と自給率の大幅な低下があります。
実は、中国で最も重要な穀物はコメではなく、大豆です。
中国人は豚肉を好み、中国で肉と言ったら豚肉を指すほどですが、現在、中国人が食べている豚肉は大豆粕を多く使って生産されています。

大豆を絞った粕を大豆ケークと呼びますが、これを豚に与え、大豆油は人間が料理に用います。
このように重要な穀物を、中国は自給はおろかいまや完全に輸入に頼りきっています。
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中国が抱える意外な弱み「食料自給率の低下」

上図は中国の大豆自給率ですが、かつて中国は国内で大豆を生産し1980年代には170万トンもの大豆を輸出したことすらありましたが、21世紀に入って自給率は急速に低下し始め、2013年にはわずか16%まで低下しました。
前世紀から中国はエネルギーを漁るために中東やアフリカに進出しましたが、石油と同様に海外から大量に輸入するものが、実は大豆です。
下図は大豆輸入量を見たものですが、中国は日本の20倍を輸入しており、もちろん世界最大の大豆輸入国です。

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大豆輸入量の推移(単位:100万トン、出典:FAO  JBプレス

中国の大豆輸入量は6000万トンを上回り、世界で交易される大豆の実に6割に達する勢いです。
よく我が国は食料輸入大国だと言われていますが、中国の食糧輸入量に較べると可愛いものです。
ただしここで中国にとって問題となるのは、大豆の最大の輸入先がこともあろうに米国なことです。
中国は大豆を、主にブラジル、米国、アルゼンチンから輸入しています。
2013年の輸入量はブラジルからが3180万トン、米国が2220万トン、アルゼンチンが600万トンで、すべて太平洋を超えて渡って輸入されます。

ですから、米国の大豆なくしては中国人の食卓は成り立たないのです。
彼らの海洋進出の裏事情は単純化していえば、中東からのオイルロードが伸びるインド洋、南シナ海と、米国とブラジルからの大豆ロードが伸びる太平洋を押さえる必要があるからです。
つまり、中国は米国農産物に高関税をかけられるとそのまま豚肉の価格上昇を招き、庶民の怨嗟を買うことになります。

逆に、米国も携帯やアパレル、食品などの価格上昇を被ることになります。
米国は世界貿易戦争を初めてしまっていますから、輸入品すべてと広範囲です。
これも馬鹿な話で、そんなに中国と戦いたいならば自由主義陣営にまず矛先を向けて味方をぶっ叩いてから主敵と戦うといった倒錯したことをせねばよいのです。
ホワイトハウスをイエスマンで固めりゃ、誰も忠告しないんでしょうが、本当に馬鹿です。

別記事にしますが、トランプは台湾防衛をしたくありません。
イーロンマスクなど「台湾は中国にくれてやれ」といわんばかりの発言をしている始末です。

「問題となったのは、英紙フィナンシャル・タイムズが7日に報じたマスク氏のインタビュー記事。マスク氏はこの中で、台湾海峡での武力衝突は避けられず、世界経済に大きな損害を与えるとの認識を示した。その上で「全ての人に受け入れられる提案ではないが、(台湾が中国の)特別行政区になることを検討したらどうか」と発言した。
(産経2022年10月18日)
【中国点描】「台湾は特別区に」マスク氏発言の波紋 矢板明夫 - 産経ニュース

マスクはテスラの工場の主力を中国に置いています。
たとえばこの発言があった時期は、上海工場の拡張申請をしている時期にあたっています。
ですから、実は中国と戦うどころか摩擦さえも起こしたくないはずです。
こういう男を側近に据えるようなトランプに、まともな対中シフトなんかできる道理がありません。
今回弾みで対中関税上乗せなんかしてしまいましたが、たぶん適当なところで腰折れするでしょう。
トランプとすれば、台湾のTSMCさえ米国に持ってくればいいだけのことなのです。

とまれいきなりここまで振りかぶってしまっては、双方共に引っ込みがつかないでしょう。
中国が個人消費を伸ばして内需を押し上げればいいのでしょうが、今の景気低迷では手の打ちようがありません。

なんせ中国は毛沢東まで引っ張りだして徹底抗戦を呼びかけているんですから。

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TBS
「中国外務省毛寧報道官は10日、中国建国の父、毛沢東がアメリカに「完全勝利するまで戦う」と演説した動画を自身のSNSに投稿しました。
関税をめぐりアメリカと応酬を繰り広げる中、徹底抗戦する姿勢を示した形です。
投稿された動画は、1953年2月に国政の助言機関、人民政治協商会議で毛沢東が行った演説です。
当時、中国は朝鮮戦争に参戦し、アメリカと戦っていました。演説で毛沢東は「戦いがどんなに続いても我々は決して屈しない。(アメリカに)完全に勝利するまで戦う」と訴えています」
(TBS4月11日)
中国外務省報道官が毛沢東の動画投稿「完全勝利するまで戦う」徹底抗戦の姿勢示す狙いか (TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース
ちなみに、毛寧報道官は湖南省の毛沢東と同じ氏族だそうです。

あとは双方ともに国民がどこまでこの消耗戦に我慢できるのかを競うことしかありません。

2025年4月11日 (金)

トランプ、消費税も貿易障壁だ

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ほー、面白いことをおっしゃいます。
トランプがこんなことを言っています。

「15日、トランプ大統領はSNSへの投稿で、「アメリカは友好国からも敵対国からも長年にわたって不当な扱いを受けてきた。この措置は貿易に公平性と繁栄を即座にもたらすことになる」として、相互関税の正当性を改めて訴えました。
そして、「関税よりもはるかに厳しい付加価値税を導入している国々は、関税を課しているのと同等と見なす。これに加え、他国による補助金にも規定を設ける」とし、ヨーロッパ諸国などが導入している付加価値税や、各国による補助金についても、相互関税を課す理由になりうると強調しました」
(NHK2月16日)
トランプ大統領 “付加価値税や補助金も相互関税課す理由に” | NHK | トランプ大統領

初めてトランプと関税で違憲が一致しました。

またコメを言い出されましたよ

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トランプが追加関税の2次分を90日間停止するんですと。
あまりに金融市場が爆発してしまったんで、仕掛けた本人もタマげたようです。ざまぁ味噌漬け。
なら初めからやるな。

「トランプ米大統領は9日午後、同日発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。5日に課した10%の一律関税は維持する。日本も含まれ、即時実施される。一方で報復措置を打ち出した中国に対しては10日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)、関税を125%に引き上げた」
(日経4月10日)
トランプ政権、「相互関税」上乗せ部分を90日停止 対中国は125%に上げ - 日本経済新聞

特に株式市場の乱高下もさることながら、金融システムの根幹である米国債の信用までもが暴落しました。

「米国債は、政府の歳出が歳入を上回る際に、財務省が発行する債券だ。利回り(=金利)は、高率の相互関税が発動された9日未明に大きく跳ね上がった。トランプの関税発動を受け、多くの投資家が国債を売却したからだ。
10年債の利回りは4.5%超に急騰。30年債は5%を超え、2年債も一時3.8%を上回った。
「米国債は、世界の不安定な情勢の中で、最後の安全な投資先とされていた」と語るのは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの政治経済学教授ポール・ド・グラウエ。「だが今や、アメリカ政府自体が最大の不確実性の源になった。米国債に代わる安定資産を探すのは当然だ」」
(ニューズウィーク2025年4月10日)
関税ショックは株だけじゃない、米国債の信用崩壊も始まった|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

株安・通貨安・国債安のトリプル安ですから、これは痛いなんてもんじゃありません。
このままトランプ関税に驀進すれば、米国のみならず世界経済が崩壊する可能性さえ出たのですから。

このようになにをしたいのかよくわからない右往左往ぶりです。
翁が常識を取り戻したなんて喜ばないで注視し続けましょう。
気分と状況ひとつでコロリと変わりますから。
トランプのやることの意味を理解しようとするのは無駄です。

そもそもの話、トランプが定めた相互関税の算出に使用していた計算式でさえデタラメで、しかも計算に代入する数字からして間違っているのがわかっています。
数式や論理ではなく、ただのパフォーマンスなのですから。

20250411-013215

米「相互関税」第2弾きょう発動…日本は24%、「受けて立つ」と対抗措置の中国には100%超か : 読売新聞

ところで、このこところコメが妙な注目をされています。
海の向こうでは相互関税の理由に日本の貿易障壁を上げ、その筆頭にコメの高関税を上げています。
また国内では、あいも変わらずのコメ不足で、農水がチビチビと備蓄米を放出するもんだからさっぱり消費価格は下がりません。
あたりまえだろうって、放出するなら一気にエっというくらいに出して驚かせないと効果は出ません。

しかしJA全農がほとんど買い取ってしまったから、冷却効果がなくなりました。
JA全農は米価の低下を一番嫌がっている団体です。なぜならコメが安くなるからです。
やるなら、スーパーなどの量販店に思い切って流せばクールダウンできたのです。

馬鹿だねぇ、コメの管理制度が外から内から揺らいでいるのに、いつまでたっても彌縫策ばかりで乗り切れると思っているようです。

まず、トランプの「コメの関税が700%だ」という言い草ですが、半分は正しく半分間違っています。
江藤拓農林水産相は「論理的に計算してもそういう数字は出てこない。理解不能だ」と言っていますが、ギクリとしたんじゃないでしょうか。
たしかにミニマムアクセス(最低輸入量)として、最初は国内消費量の4%、今は約8%の外国米を無関税で輸入し、それを超過する分は精米で1kg当たり341円の関税を取っています。
精米して一般に流通している5キロ袋に換算すれば1705円ですから、これでは合わないので輸入はないに等しいわけです。

いまでもコメは「減反」されています。
こう書くと農水は減反政策は止めている、と言うでしょうが、ウソです。
生産量管理として厳然として残っています。
減反は戦中-戦後の配給米制度の名残ですが、このような戦時統制経済を21世紀まで続けるとは、さすが農水省も思わなかったのではないでしょうか。 

高関税は減反制度という世にも奇怪な制度と連動しています。
なにせ国が半強制的に作らせないのですからスゴイ。いつからうちの国は社会主義になったんだとおもいますが、ことコメだけはそうなのです。
よくテレビのコメンテーターが、「高関税で守られている農家のために都会の消費者は世界一高い農産物を食べさせられているんですよ」などと聞いたようなことを言っているのをみると、情けなさでがっくりきます。そりゃコメだけだろうが。

昔は作れ、作れ、沢山作ったら表彰だ、と言っていたのが、今は作ると痛い目に合うぞとばかりに、お国の監視員が見回りに来ます。
こんな不毛な仕事に農水省は万余の役人を張り付けています。まったくバッカじゃないかと思います。
コメを作るとまるで犯罪のようで、減反割り当てがたとえばある地域で36%と決まると、専業も兼業も揃って減反の消化が義務づけられます。

耕作する水田の実に4割弱を「作るな」というのです。冗談ではない。こんな馬鹿なことをやっている国は世界広しといえどわが国だけです。リッパな価格カルテル行為です。公取委なんとかしろ。
昔は青刈りといって植えてまだ実が入らない前に刈り取っていましたが、余りに農業者の評判が悪いので(そりゃそうだ)、何か植えることにして転作という形にしました。 
ひと頃は飼料用米といってまずいが大量に出来る品種を作って、家畜にやるのが流行っていました。
ほとんどが税金の補助で成り立っていて、なにが飼料の自給なんだかと、農家は陰で笑っています。 

とまれ、日本では1970年以降、農家に国民(納税者)負担で補助金を出して「減反」させ、コメ生産を意図的に減らし、高価格(消費者負担)を維持してきました。
ですからコメ不足が発生した際に利用できるのは、減反により生産された前年産のコメ(備蓄を入れても800万トン)になります。
この収量予測と消費予測がピタリと合わせるという職人芸をしてきたのが農水省でした。
もちろん合うわけないわけで、去年から今年のコメ不足が生じたのです。

そこに減反と表裏の関係にある高関税をトランプに指摘されたのですから、農水省はさぞかしパニックったことでしょう。
外圧を理由にできていいじゃないですか、トランプがいけないんだ、泣いて馬謖を斬るとか言って減反を止めて自由化してしまいましょう。
アメ車ならぬアメ米もウェルカム。
米国は口がおごった日本の消費者を制圧できるほど多くの美味いコメは持っていませんよ。
いい機会です。

 

 

2025年4月10日 (木)

トランプ関税は中国への巨大な「戦略的ギフト」だ

S6d-071

ウォールストリートジャーナルが、トランプ関税は習近平への「戦略的ギフト」だと皮肉っています。
たとえばアジアの新興経済国にとって、ようやく中国経済圏の支配から脱出していた矢先、すべてをぶち壊して再び中国に吸いよせられる結果となりました。

「中国の指導者にとって、何と素晴らしい運命の変化でしょう。トランプ氏は、世界の他の国々をライバルの北京に対抗する経済的・戦略的なブロックに結びつけていた経済コードに斧を振りかざし、まさにその瞬間、多くの国々がついに中国との経済関係を再評価し始めた。
アジアでは、ベトナムなどの国々が、米国との貿易を拡大することで、中国政府の支配下から抜け出すことができると期待していた。トランプ氏がベトナムからの輸入品に46%の関税を課した今はそうではない。同様に、タイ(36%)、インドネシア(32%)、フィリピン(17%)など、中国政府の影響力を打ち消すために米国との関係を切望している他の国々も同様です。
北アジアにおける米国の重要なパートナーである日本と韓国は、24%と25%の関税を課せられた。反米主義は、これらの場所の多くで依然として強力な政治勢力であり、その感情が高まると予想している。巨大な市場を持つ北京は、もう一つの選択肢です」
(WSJ4月4日)
U.S. Tariffs Make Xi Jinping’s Day - WSJ 

そしてヨーロッパに対しても、米国への絶望と裏腹に中国への接近が始まったと見ています。

「ヨーロッパでも同様で、欧州連合の27カ国が20%の関税に直面しており、特別な関係でさえも英国がベースラインの10%の税金を免れることはできませんでした。米国は、ヨーロッパ諸国が中国に経済的に過度に依存するのを思いとどまらせるために、長年の外交に専念してきた。このことが、ついに、北京との緊密な関係に対するヨーロッパの懐疑的な見方につながり始めていた。今や、フランス、ドイツ、その他の場所から中国への貿易使節団が再び動き出すのは時間の問題だ」
(WSJ前掲)

20250410-021455

BBC

すでに中国ヨーロッパのトランプ関税の協議は始まっています。

「 欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は8日、中国の李強首相と電話会談し、トランプ米大統領の関税によって引き起こされた問題がさらにエスカレートしないよう、交渉を通じた解決を求めた。 発表文によると、フォンデアライエン氏は「世界の2大市場として、強力で改革された貿易システムを支持する欧州と中国の責任」を強調した。 また、米国の関税措置を受け、中国の安価な輸出品が欧州に流入する可能性があるとの懸念がEU内で出ていることを踏まえ、こうした動きを把握するメカニズムの設置についても協議した」
(ロイター4月9日)
欧州委員長と中国首相が電話会談、米関税巡り協議  

習近平からすれば、今中国経済が陥っている不動産不況以降の低迷をすべてトランプ関税のせいにできます。
いままで鉄板と思われていた国民の不動産投資が止まり、全国に人が住まない巨大高層住宅群(鬼城)がそこかしこに出現した結果、個人消費は冷え込みました。

20250409-035726

「悲惨すぎる」中国不動産バブル崩壊の中で、「ほぼ唯一」成長している会社の正体 |FinTech Journal

そこになにをトチ狂ったのか、トランプが関税戦争を吹っ掛けたのです。
中国は怒ったふりをして実はこれは大きい救いの手だと考えました。
そりゃそうでしょうとも。今の不況は自分の失政でこうなったのではなく、米国という旧来からの敵が仕掛けてきた経済攻撃なんですから。
経済オンチの習には打つ手がなくズブズブと沈んでいく経済基盤をみていただけなのですから。

「中国の不動産市場は、崩壊という言葉がしっくりくるほど、打つ手に欠く状態になっている。不動産価格は下落を続け、消費者は「まだまだ下がる」と見て購入しない状況だ。中国政府は不動産購入の規制緩和をとるなどの対策をしているが、効果は出ていない。(略)
中国では経済成長とともに、不動産は「家賃も取れる高利回りの手軽な投資」とみなされ、不動産投資が広く流行した。家賃と売却益を合わせて、数年所有するだけで100%以上の利益が得られることも少なくなく、これが個人消費拡大の原動力となっていた。
 しかし現在は、住宅価格が下落するだけでなく、損切りのための売却ですら簡単ではなくなっている。資産が目減りすることは消費マインドに深刻な影響を与え、個人消費は全面的に低空飛行を続けている。 」
(FIN TECHジャーナル2024年10月11日)
FinTech Journal 

習からすれば、外敵の攻撃にすり替えて国民に団結を呼びかけてファイティングポーズをとればいいだけなのですから。

「中国の李強首相は9日、経済専門家や企業家を集めた会合を開いた。中国国営新華社通信によると、李氏は会合で「わが国の発展は、これまで困難と課題を克服する中で前進してきた」と強調し、「団結、奮闘」を呼び掛けた。中国政府は、トランプ米政権の関税圧力に徹底抗戦の構えを崩しておらず、李氏は「圧力」にも備えができていると国内外に訴えた」
(産経4月9日)
「中国は困難を克服して前進」 李強首相がトランプ政権の関税圧力に「団結」呼び掛け - 産経ニュース

そのうえに同じように馬鹿げた高関税を掛けられたアジア諸国やヨーロッパに対しても団結を呼びかけられますから二度おいしい。
現実にASEAN諸国はいままで築き上げてきた中国経済圏からの脱出を止め、再び元の鞘に収まろうとし始めました。
かくて、習近平は、中国を真の中華とする帝国の夢が再び現実のものとなったのです。
しかも笑いが止まらないことには、米国のほうがいまや世界の敵としてデカップリングされかねない情勢です。
トランプには感謝してもしきれないではありませんか。

「カナダのマーク・カーニー首相は、世界的なムードを総括し、「米国との統合を着実に深めるという古い関係は終わった」と述べた。カーニー氏は、80年にわたるアメリカ経済のリーダーシップの終焉に言及し、「これは悲劇であると同時に、新たな現実でもある」と付け加えた。
習氏と彼の共産党の同志たちは、長い間、西側は弱く、分裂し、後退していると信じてきた。彼は今週を確証と見なすでしょう、そして彼はそれらの分裂を利用するために多くのことをする必要はありません」
(WSJ前掲)

傾き掛かった中国を建て直し、自らを世界市場からデカップリングしようというトランプは、ほんとうに素晴らしい「アメリカファースト」の英雄です。
そのうち習近平から表彰状が来ることでしょう。

 

 

2025年4月 9日 (水)

アメ車が売れないからトランプ関税

S6d-006

トランプはイっちゃったヤツ特有のアドレナリン出まくりの顔をしています。
自分じゃ救国の英雄だと思っているんでしょうな。

「【4月6日 AFP】ドナルド・トランプ米大統領は5日、ほぼすべての貿易相手国に対する一律10%の追加関税を発動したのを受け、国民に忍耐を求める一方、歴史的な投資と繁栄をもたらすと約束した。
トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、「われわれはこれまで愚かで無力な『むち打ちの柱』だったが、もう違う。かつてないほどに雇用と企業を取り戻している」と書き込んだ。
「これは経済革命であり、われわれは勝利する」とし、「耐え抜け。簡単ではないが、最終的な結果は歴史的なものになる」と付け加えた」
(AFP4月6日)
トランプ氏「耐え抜け」 関税発動で国民に檄 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

20250408-095448

AFP

耐え抜けってねぇ、あんたの思いつき世界戦争につき合わされている国民と世界のひとびとはいいツラの皮なんですよ。
米国経済が株式市場の大暴落から始まったのは手始め。
深刻なインフレと景気後退となるのは必至です。FRBもそれを指摘し始めました。

「米シカゴ地区連銀のグールズビー総裁は8日、トランプ大統領が打ち出した関税措置は想定されていたものよりも「はるかに大きい」とし、同措置に伴うコスト拡大の影響がどれだけ速く、そしてどの程度消費者に転嫁されるかは不透明という認識を示した。インフレが再燃するリスクへの不安もあると述べた。
グールズビー総裁はイリノイ公共ラジオとのインタビューで「インフレが制御不能に陥ると何が起こるか、われわれは学んだばかり」と指摘。関税は「マイナスの供給ショック」で、米連邦準備理事会(FRB)による対応は必ずしも明確ではないと語った」
(ロイター4月9日)
再送-トランプ関税、予想よりはるかに大きい インフレ再燃リスクも=シカゴ連銀総裁 | Start Magazine

これによって今後米国では、窃盗や万引きと暴動が多発するでしょう。
貧富の差は拡大し、ホームレスや犯罪が増加するのは目に見えています。
製造業はを呼び戻すそうですが、生産資本、技術蓄積、熟練者が少ない米国で、数年で簡単に製造業が復活するとはとうてい思えません。
仮に無理やり作っても、国内賃金では高くて国民は買わず、輸出しようにも報復関税で米国製品は高くて海外でも売れないでしょう。
こんなことはわかりきっているから、ビッグスリーや全米自動車労組すらトランプ関税に反対しているのです。

では、なぜトランプがマスクにすら反対されても、こんな巨大な愚行を始めたのか、後世の史家は悩むことでしょう。
トランプ系シンクタンク「アメリカン・コンパス」のチーフエコノミストのオレン・キャス 氏は、こう言っています。

「もう一つは『経済政策』としての役割です。アメリカには1兆ドルの貿易赤字があります。背景には、外国がアメリカの製品を買ってくれないこと、そして、アメリカ人が海外の製品ばかりを多く使っていることがあります。
貿易にはバランスが必要ですが、今はそれがない状態です。関税で、価格を少し調整し、アメリカ製のものを優遇することが必要です。また、関税でアメリカ国内の製造業を活性化させることもできると思います。製造業は、社会や雇用、景気の行方にとって重要で、経済の成長にとって不可欠なものなので、守らなければなりません」
(NHK4月13日)
関税政策 相互関税 日本への影響 トランプ大統領の狙い 世界経済の見通しは 経済政策のキーパーソンに聞く | NHK | WEB特集 | トランプ大統領

典型的保護主義貿易の発想です。
貿易の均衡を守るために「関税で少し価格を調整する」といいますが、24%、トラックで50%の関税が「少し」でしょうか。
「米国人が外国製品ばかり使う」という原因が貿易の障壁にあると、どうして言えるのでしょうか。
具体例で考えてみましょう。

おずおずと電話したゲル氏へこう言ったそうです。

「トランプ米大統領は7日、同日の石破茂首相との電話協議で「日本は自国を開放しなければならない」と伝えたと明かした。自動車や農産品について、日本が米国産を輸入しないと不満を示した。また、関税を一時停止するとの観測については「そんなことは考えていない」と否定した。
ホワイトハウスで記者団に述べた。トランプ氏は「彼らは米国で何百万台もの車を売っているのに、日本では我々の車が売れていない。ほぼゼロだ」と主張。「彼らは農産品も買ってくれない。少しは買ってくれるが本来買うべき量は買っていない」とも述べた。
では、米国は世界各国に関税を課すことを発表しました。これは、米国との「不公正な貿易取引」を行う相手に対する関税であり、2024年の米国貿易赤字を非常事態とし、IEEPA法(緊急経済権限法)に基づくものとされています」

(毎日4月8日)
トランプ氏「日本は自国を開放せよと伝えた」 石破首相との電話協議(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

おいおい、です。
米国車がうちの国でいまひとつパッとしないのは、要は日本人が買いたい車がないからです。
うちの国の民は世界有数の車に眼が肥えている国民ですからね。

ドイツ車はどこのメーカーの車もよく売れていますが、その理由はカッコイイ、高品質、ハイソというイメージが日本人をくすぐるからです。
一方、誰がGM車を欲しがりますか、欲しがるのはアメ車ファンとヤンキーだけです。
デザインは大味、作りも甘い、唯一売れているのはその独特のフォルムが残るジープだけです。

そしてアメ車といえばかならずでてくるのは故障の多さ、そしてアフターサービスのひどさです。

「高速走行中にいきなり10マイルスピードが落ちたことがあり、肝を冷やしたが、止まらなかっただけ良かったかもしれない。友人のゼネラル・モーターズ(GM)の車は交差点で右折(右側通行なので日本の左折と同じ)時にエンジンがよく止まっていた。
納車後数カ月でエアコンが効かなくなった。ディーラーに持ち込んだところ、部品の交換だったのだが、「日本製なので取り寄せに時間がかかる」と言われた」
トランプ関税で米国製自動車の”キューバ化”が進む?(Wedge(ウェッジ)) - Yahoo!ニュース

そもそもどこに行ったらアメ車を売っているのでしょうか。

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日本人が「メルセデス・ベンツ」「BMW」を好む理由、米国・中国産と違う“ある特徴” |Seizo Trend

日米貿易摩擦の解消を謳って鳴り物入りでGMが日本輸出に涙ぐましい努力をしたことは認めます。
例えばおもいだすのが「シボレーキャバリエ」です。
アメ車には右ハンドルがないだろうという声の向こうを張って右ハンドルだけ輸出し、デカすぎるだろうという罵声に耐えて車体サイズも日本車の小型セダンに合わせ、宣伝してないじゃんという声にはCMにはアメ車フリークで有名な所ジョージまで登場させました。
そのうえなんといままでなきに等しかった販売網はトヨタ自動車が正規ディーラーとなったという至れり尽くせりでしたが、さっぱり売れずに早々に撤退してしまいました。
つまりは、売れるもモン作ってこいやということ以外言いようがありません。
かつて世界の青少年の心を熱くし、米国の夢を支えたV8マスタングのような車が不在なことが、この「貿易不均衡」の原因なのです。
第一、米国の自動車専門誌のサイト年間ベストテンですらアメ車が制圧できず、半分が日本車なのです。
米国にも非貿易障壁があるってことでしょうかね。

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「2023年に米国で最も売れた車ベスト20」日本車が半数を席巻。上位独占はピックアップトラック | Business Insider Japan

そして農産物については、あのネェちゃん報道官のレビットがワーワー鬼の首でも取ったように喚いています。ボスに似て無知無教養粗暴野卑。
なんでも「コメ関税が700%」だとか。

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「日本は700%の関税課している」ホワイトハウス報道官が日本のコメ関税を批判 撤廃ならカリフォルニア産カルローズ米5kgが1295円に…農家に深刻打撃か(FNNプライムオンライン) - Yahoo!ニュース

「実際に日本は700%も関税を掛けているのか。
農水省によれば、2001年ごろのWTO(世界貿易機関)の貿易自由化の交渉で、当時のコメの国際価格に基づき、税率に換算すると778%だという。
しかし、政策研究大学院大学の川崎研一教授は、現在の実行関税率は204.3%だと試算している。
日本が義務として輸入している年間約77万トンのコメを除き、国産のコメの価格に影響を与えないよう、1kgあたり341円の関税を掛けている。
では、もしも日本がアメリカ産のコメに掛けている関税がなくなれば、アメリカのコメはどのくらい安くなるのだろうか。
例えば、5kgで3000円のカリフォルニア産のカルローズ米の場合、1705円の関税がかかっている。
つまり関税がなければ、計算上は3000円から1705円を引いた、1295円で売られることになるはずだ」
(FNN前掲)

コメに関しては日本農政の汚点であることは事実です。
しかし輸入米を一定量まで無関税で受け入れるミニマムアクセスの分も全くカウントされておらず、トランプの言い草はフェアではありません。

言いたいことが山ほどあるので、別記事にしますが、コメは例外中の例外。
コメだけとりあげて騒ぐんじゃないよ、まったく。
コメ以外は無関税に等しいはずです。

とまれ、これらの貿易赤字を非常事態宣言を出してIEEPA法(緊急経済権限法)という戦時法もどきで大統領に大権を与えて、相互関税を世界にかける神経のほうがおかしいのです。
先ほどの「アメリカン・コンパス」のオレン・キャス氏は、うまくいくはずだと楽観しています。

「関税には2つの役割があります。1つ目は『交渉の道具』としての役割です。アメリカ政府は長い間、関税を交渉に使ってきませんでした。しかし歴史的に見れば、関税を交渉に使うのは普通のことです。トランプ氏の就任後、これがうまく行ったのが、コロンビアの例です。トランプ氏は、移民がアメリカに不法入国しているとして、強制送還したいと考えていました。そこで、輸入品に関税をかけると発表したのです。すると、すぐにコロンビア政府は考えを変え、移民の送還を受け入れたのです」
(NHK前掲)

そりゃコロンビアのような小国にはね。しかし大きな国力を持つ独仏はこう戦闘宣言を発しています。

「フランスとドイツは、トランプ米大統領の関税措置に対してより強い対応を求め、交渉で欧州連合(EU)の立場を強化できるような強力な報復措置を主張している。
フランスのマクロン大統領は企業に対し、米国での投資を見合わせるよう呼び掛けた。マクロン氏は、関税による影響を受ける業界団体との会合を前に、米国が欧州に対して攻撃的な態度を取っている中、企業が米国で投資することはほとんど無意味だと発言した。
同氏は「大手欧州企業が米国経済に巨額の投資を行っている一方で、われわれを攻撃するとはどういうメッセージなのか」と述べ、「われわれは団結しなくてはならない」と語った」
(ブルームバーク4月3日)
独仏、強力な報復措置主張-マクロン氏は対米投資見合わせ促す - Bloomberg   

EU全体もこれに追随し、米国とヨーロッパはブロック化に突入するでしょう。
信じられないような時代の逆行です。

こんなトランプの狂態に、全米と世界で「トランプ革命」に反発が爆発しています。


「アメリカ各地で5日、ドナルド・トランプ大統領に対する抗議デモが行われた。イギリス・ロンドンやフランス・パリなどでも抗議者が集まり、トランプ氏の2期目就任後、最大規模の抗議デモとなった。
トランプ氏に対する「Hands Off(手出しするな)」抗議の主催者は、全米50州を含む計1200カ所での集会開催を目指した。ボストンやシカゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク、ワシントンなどでは数十万人が集まった。
抗議者たちは社会問題から経済問題まで、トランプ氏のアジェンダ(政策課題)に対する不満を挙げた。
イギリス・ロンドンやフランス・パリ、ドイツ・ベルリンなど、世界各地でもトランプ氏に対する抗議デモが開催された。トランプ氏は2日、世界のほぼ全ての国や地域に輸入関税を課すと発表し、反発を呼んでいる」
(BBC4月7日)
「手を出すな」と全米でトランプ氏への抗議デモ 英仏などでも - BBCニュース

当然ですね。ああ、つくづくこういう時にシンゾーが生きていてくれたら大きくちがっていただろうにと思います。

 

 

 

2025年4月 8日 (火)

原油急落、ロシアピンチ

S6d-052

トランプが世界に相互関税戦争を発布するに当たって、「盟友」プーチンを忖度していたことは確かです。
なぜなら、人が住まないような土地にすら相互関税をかけたトランプが、ロシアだけ除外しているからです。

「米トランプ政権は程度の差はあれ、世界185カ国に対して関税引き上げの措置をとったが、なかにはそれを免れた国もある。 特に目立つのが、ロシアの除外だ。ロシアに対する関税を引き上げなかった理由として、トランプ政権は「制裁が行われていること」と「すでに取引がほとんどないこと」をあげている。
しかし、こうした説明は事実に反する。
ウクライナ侵攻後、アメリカはロシア産天然ガスなどの輸入を停止したが、肥料、木材、ウラン精鉱などの輸入は続けていて、その金額は2024年、約32億ドルだった」
(六辻彰二4月7日)
なぜロシアはトランプの関税引き上げから除外されたか(六辻彰二) - エキスパート - Yahoo!ニュース

確かにウクライナ戦争前より10分の1ほどに減ったものの、肥料、木材やウランなどの稀少金属の輸入で32億ドル輸入しています。
米国 ロシアからの輸入 - 2025年、データ、2026年、予測、1992-2024年、過去

イラン、中国にすらかけているのですし、ウクライナにも10%かけていますから、このトランプのロシアへの腰の引け方はフツーではありません。
六辻氏はウクライナ和平交渉で、ウライナに過度に厳しく、一方ロシアに過度に融和的対応を示すことでロシアを和平会談に誘い込もうとしていると見ています。

「おまけに、たとえ関税引き上げを免除されたからといって、ロシアがすぐさま停戦協議に応じるかは不透明だ。トランプの停戦案に乗れば、その時点でアメリカに対するロシアの影響力が低下するからだ。
だからギリギリまで戦闘を続けることがロシアにとって外交的な意味をもつ。その間、トランプはロシアに融和的な態度をとり続ける公算が高い。
トランプ関税の衝撃にはロシアの影響力を相対的に高める効果さえあるといえるのである」
(六辻前掲)

しかし誘い込むもなにも、狡猾なプーチンには初めから足元を見られており、逆に戦闘を続けることで更なる妥協を強いることができると思わせてしまいました。なにがディールなんだか。
ヨーロッパは現在、停戦協議がいずれ不可避だと見て、ロシアが少しでも占領地を拡大しようとして、大軍を動かしていると観測しています。
クルスク、スーミからハルキウ地域の奪還は、北朝鮮の力を借りてでもなし遂げたいはずです。
そしてクルスク地域からウクライナ軍を一掃し、さらにその先に緩衝地帯を置くことを意図しているとされています。
一方ウクライナ軍としては、プーチンにいささかも和平の平和的解決の意志なしと見て、クルスクにおいて徹底抗戦し、東部地域のロシア軍も押し返したいはずです。
つまりトランプは「オレ様が大統領になれば1週間で解決してみせる」と豪語したにもかかわらず、プーチンからは足元を見られ、ゼレンスキーとの関係は冷えきったままということになります。

ここでなんとトランプが頭のネジが全部飛んだような相互関税戦争を世界に向けて発動してしまいました。
世界経済似対する核攻撃のようなもので、しかもツァーリーボム級です。
その中でひとつ面白い現象が起きています。
原油価格が大暴落を開始したのです。
原油相場が暴落して、指標となる67ドル/バレルを簡単に突破し、60ドル割れは時間の問題だとされています。

「原油価格が4日、1バレル当たり65ドルを下回り、4年ぶりの安値水準に急落した。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」が予想より大幅な増産で合意したことと、米国の関税による世界の貿易戦争の急速な激化で、金属やガスも含めコモディティー市場が揺らいでいる。
2日にトランプ米大統領が相互関税を発表後、世界経済の成長と消費が脅かされるとの懸念が広がり、原油暴落の引き金となった。トランプ氏の発表から数時間後、OPECプラスが5月の生産量を3倍に増やすことで合意した。メンバー国代表らによると、割り当てを上回る生産を続けてきたメンバー国に対する対応として、意図的に価格を引き下げる取り組みだという。
北海ブレント原油はわずか2日間で13%下落し、米国の原油先物価格も2021年以来の最低値を記録した。4日には、中国が米国製品に報復として関税34%を科すと発表し、世界経済と原材料の需要を脅かす貿易戦争がさらに悪化したとして、原油は下げ幅を拡大した。
他のコモディティーも、金融市場全体が打撃を受けたことで下落した。欧州の天然ガス先物価格は10%近く急落した」
(ブルームバーク4月4日)
原油下落、バレル当たり65ドル割り込み4年ぶり低水準-銅も安い - Bloomberg

さぁどうします、プーチンさん。
トランプ関税は免除してもらったが、思わぬ連鎖が起きて原油相場が60ドルを切りそうです。
コメントでプーさんも指摘されていましたが、ロシアは原油価格が高騰すると元気になり、暴落すれば青菜に塩となるという分かりやすい国です。
なぜなら、主要な輸出品は原油と天然ガスしかない1次産品国ですから。

下図は世界政治と原油価格との相関をみたものですが、プーチンがウクライナ侵略を決意した背景には100ドルを越えようとしていた原油価格相場があったことがわかります。

20250407-155822

ウクライナ情勢と原油価格、そして、脱炭素(前編) – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute

「最近の100ドルを超える原油価格の高騰の原因として、ウクライナ紛争が指摘される。確かに、本年2月以降の原油価格の上昇・高止まりの主な原因は、ウクライナ紛争による供給不安、特に、対ロシア経済制裁によるロシア産石油の供給減少懸念にあることは間違いない。しかし、それ以前に、原油価格は、2020年後半以降一貫して上昇しており、本年年明けには80ドル水準に達していたことが指摘できる」
(日本エネルギー経済研究所 石油情報センター 橋爪吉博 2022年7月26日 )
ウクライナ情勢と原油価格、そして、脱炭素(前編) – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute

それがいまや60ドルを突破してしまいました。
50ドルを切る可能性さえあります。
するとどうなるでしょうか。

ロシアは現在戦時経済体制をとって一切合切を軍備につぎ込んでいますが、対外債務は貸してくれる国などあるわけがなく、戦時国債を発行しようにも2022年にデフォールトしているので買い手がいません。
残るは国民福祉年金という予備ストックだけから戦争コストを捻出しています。

「国債の発行が増えれば、ロシア中銀がそれを引き取らざるを得なくなる。その程度が強まれば、物価高・通貨安圧力が強まるため、国民生活にさらなる痛みが及ぶ。一方で、対外債務を調達しようとしても、2022年に実質的にデフォルトしていることもあって、今のロシアの国債を積極的に購入しようという外国人投資家などいないだろう。(略)
ロシア政府の事実上の「予備費」である国民福祉基金も厳しい状況が続いている。この国民福祉基金は、財政赤字の実質的な補填に用いることができる流動性部分と、将来の経済発展のために投資に回す非流動性部分に分かれている。うち流動性部分は枯渇しており、政府は再建に努めているが、その進捗は捗々しくないようだ」
(土田 陽介三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員2025年1月25日)

いまさら「戦争をやめたい」とは言えない…プーチンが就任早々のトランプ大統領にすがりつく"確かなデータ" 財政収支の改善が物語る「ロシアのカネ不足」 (2ページ目) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

その頼みの国民福祉年金基金が見る見るうちに減少しています。

20250407-161102

プレジデントオンライン

しかも国民福祉基金は流動性部分、つまり現金は枯渇し、どこにも持っていきようがないゴールドだけが残されている状況だそうです。
まだしも国庫に原油相場崩壊で日銭が入ってくれば戦争経済の燃料となるのでしょうが、これが絶望的です。
となると、ひょっとしてプーチンは遠からず原資切れに陥るかもしれません。
それも「盟友」トランプが世界の原油価格を崩壊させてしまったからで、とてつもない「制裁」をしてくれたものです。(苦笑)

 

2025年4月 7日 (月)

イ・ジェミョン無罪、ユン大統領即時失職

S6d-011

まぁそうなるだろうなと思っていたら、やはりそのとおりになってしまいました。
「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明 )があれだけいろいろ犯罪に手を染めても無罪放免だと司法がしたことで、その先は見えていました。

「韓国の最大野党のイ・ジェミョン(李在明)代表が、公職選挙法違反の罪に問われた裁判で、2審の高等裁判所は26日、1審の有罪判決を取り消し、無罪を言い渡しました。イ代表は次期大統領選挙の最有力候補にあげられていて、裁判の行方に注目が集まっていました。
韓国の最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表は、自治体の市長だったときの都市開発に関連し、自身が立候補した3年前の大統領選挙の過程で虚偽の発言をしたとして公職選挙法違反の罪で在宅起訴されました。
1審のソウルの地方裁判所は去年11月、懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を言い渡し、検察とイ代表側の双方が控訴していました。
26日、2審の判決でソウル高等裁判所は、虚偽の事実を公表したとは認められないなどとして、1審の有罪判決を取り消し、無罪を言い渡しました」
(NHK3月26日)
NHK

これはやや意外でした。
というのはイ・ジェミョンは犯罪歴の宝庫で、それらは政治的なものではなかったからです。
イ・ジェミョンが訴追されていたのは、裁判で5件、8つの事件、14の罪ですから、なかなかのものです。
20250406-152815
イ・ジェミョン
韓国最大野党「共に民主党」代表 3年前の大統領選挙めぐる裁判 2審高等裁判所 1審判決取り消し無罪言い渡す | NHK | 韓国

①テジャンドン開発不正・ 背任・利害衝突防止法違反
②ウィレ新都市開発不正 ・ 旧腐敗防止法違反
③ペクキョンドン開発不正・ 背任
④城南FC違法後援金・ 第三者供賄・犯罪収益隠匿
⑤偽証教唆・ (2020年の公職選挙法違反裁判での)偽証教唆
⑥公職選挙法違反・ 虚偽事実公表(2020年のものとは別)
⑦北朝鮮違法送金 ・ 第三者供賄・外為取引法違反・南北交流協力法違反
⑧法人用クレカ私的流用 / 業務上背任

①~④までの事件については同一の裁判で城南市長としての犯罪としてひとくくりにされていて無罪。
⑤の偽証教唆について地裁で無罪判決。
そして⑥の公職選挙法違反については地裁で有罪、懲役1年執行猶予2年の判決でしたが、控訴して高裁で今回に判決が3月26日に出て、これも無罪だそうです。

おいおい、どれもこれもみんな地位利用の汚職疑惑ですが、韓国司法というのは政権の風を読むので無罪だそうです。
これでイはこわいものなしで、あとは現職ユン大統領の弾劾が憲法裁判所で決まるかどうかだけだったわけです。
それが今回の弾劾成立、即時失職とあいなったのです。

イ・ジェミョンは半グレのような男で貧困家庭からヤクザのような方法でのし上がり、弁護士資格をとって、とうとうムンジェイン政権の外交安保特別補佐官に登り詰めたという成功体験を持つ男です。
つまりあのムンジェインのこれでもかというほどの反日政策を考えたのは、イジェミョンなのです。
イがしゃべれば、口移しにムンが同じことをしゃべる、というイのパペットのようでした。

こんな人物が政権をとったからといって、いきなり現実主義になるはずがありません。

「韓国野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が外信とのインタビューに応じ、「日本の防衛力強化」について「現在韓日関係は敵対的ではないので、韓国にとって脅威にはならない」と述べた。李在明代表はまた日本との関係強化や韓米日協力についても「現在の地政学的な現実を考慮し反対はしない」との考えを示した。これらの発言を見ると、つい先日まで日本を「敵性国家」「自衛隊の軍靴」などと敵対的な発言を続けた李在明代表がその立場を180度転換したと言えそうだ」
(朝鮮日報2月4日)
共に民主・李在明代表「日本の防衛力強化は韓国にとって脅威にはならない」 180度転換した発言が話題に-Chosun online 朝鮮日報


するわきゃないしょ。ただの擬態です。
イが同時にこんなことを言っていたことをお忘れなく。
「韓国の最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は7日の党最高委員会議で、韓米日の3カ国が朝鮮半島東の東海で合同訓練を行ったことについて、「極端な親日行為で、対日屈辱外交に続く極端な親日国防」と批判した。
李氏は「日本を巻き込んで韓米日合同軍事訓練をすれば、日本の自衛隊を正式な軍隊として認めると解釈されかねない」として、「国防惨事である。韓国の国防が韓国の軍事安保を守るのではなく日本の軍事的利益を守るということ」と批判。「国民は韓米日の軍事同盟を望んでいない。朝鮮半島情勢に大きな危害を与えかねないと信じるため」とし、「国民の間ではもしかして局地戦が起きるのではないかという懸念が徐々に高まっている」と述べた。
また、「日本の軍事大国化を支えかねない合同訓練に対し、政府が明白に謝罪し、再び韓米日の合同軍事訓練をしないと約束しなければならない」と強調した」
(聯合2025年2月4日)
共に民主・李在明代表「日本の防衛力強化は韓国にとって脅威にはならない」 180度転換した発言が話題に-Chosun online 朝鮮日報
日米韓の合同軍事演習にすら自衛隊は違憲だ、認めたら戦争を招くぞ、ユンはもう二度と合同軍事演習などするなと極左のようなことを言っていたのに数カ月でくるりと変わるはずがありません。
いや、極左のようなことを「言っていた」のではなく、真正の極左です。

反日で政治生命を養ってきた人物なんですよ、彼は。

これでほぼ次の大統領は8割方決まってしまったのですが、トドメはやはりユン大統領の弾劾が成立するかしないかでしたが、こちらは弾劾成立・即時失職です。

「去年12月に「非常戒厳」を宣言した、韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾裁判を審理してきた憲法裁判所は4日午前、弾劾は妥当だとする決定を言い渡しました。
憲法裁判所は「軍と警察を国会に投入して憲法上の権限の行使を妨害することで、国民主権や民主主義を否定するとともに、布告令を出して国民の基本権を侵害した」と指摘しました。
その上で「国家の緊急権を乱用する歴史を繰り返し、社会、経済、政治、外交のすべてで混乱を引き起こした。憲法を守る責務を放棄し、国民の信任を裏切った」などと述べ、8人の裁判官全員の意見が一致したと説明しました。
これによってユン大統領は直ちに罷免されて失職し、その後、弁護団を通じて「未熟な私を支持して応援してくださった皆様に深く感謝します。皆様の期待に添えず、非常に残念で申し訳ありません」とするメッセージを出しました」
(NHK4月4日)
【詳細】韓国 ユン大統領の弾劾は妥当 憲法裁判所 大統領は罷免・失職 60日以内に大統領選挙へ | NHK | ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領

韓国司法というのは自称「徴用工」裁判をみればわかるように、左に大きく傾いています。今回も裁判官全員一致です。
イ・ジェミョンはもう勝利宣言をしてブイブイいわしています。
自称「光の革命」だそうです。

「共に民主党のイ・ジェミョン代表は憲法裁判所が尹錫悦大統領を全員一致で罷免決定したことに対して「ろうそく革命に続く光の革命で、韓国国民はこの地の民主主義を劇的に復活させた」と明らかにしました。
「イ・ジェミョン代表は今日(4日)午前、宣告直後に国会本庁党代表室で緊急立場発表のための記者会見を行い「戒厳軍の銃刀に倒れていった済州4・3、光州5・18英霊たちが、銃刀とタンクの前に対抗した国民たちが、不当な命令を拒否した将兵たちの勇気が今日この偉大な光の革命を導いた」としてこのように話しました」
(KBS4月4日)
イ・ジェミョン:「『光の革命』は、この地の民主主義の劇的な復活です...人々への尊敬と感謝」 

とまれ、これで韓国の短かった関係正常化の道は断たれ、またムンジェインを倍するような反日が始まります。
やれやれ、短い韓国保守の夢でしたが、ま、かまいませんがね。困るのはそちらですから。
だいぶ私たち日本人にも耐性がついてきましたから、また保守になったらなんて妙な期待はスッパリ止めて朝鮮半島と距離を置きましょう。

2025年4月 6日 (日)

日曜写真館 初花のしんから冷えて来たりけり

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いちにちのはじまる冷えの初桜 岡本眸

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こもりくは冷えにしづみぬ初桜 鷲谷七菜子

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中空に風すこしある初ざくら 能村登四郎

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傘なくもぬれながら見る初桜 正岡子規

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初ざくら誰へともなき夜の言葉 岡本眸

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初桜空気つめたくなりにけり 桂信子 花影

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初花に諸芽うながす夜風あり 飯田龍太

 

今年は満開前後から降り込められて濃霧の中の花見に。
雨の合間をぬって撮ったものです。グスっ。

2025年4月 5日 (土)

トランプ自爆

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トランプが画期的、かつ致命的な相互関税を発令しちまいました。

「トランプ大統領は2日、ホワイトハウスで演説し、「まもなく世界中の国々に対して相互関税を導入する歴史的な大統領令に署名する。つまり、相手がわれわれに対して行うことはわれわれも相手に対して行うということだ。非常に単純な話だ。これほど単純なことはない」と述べ、貿易相手国の関税率や非関税障壁を踏まえて自国の関税を引き上げる「相互関税」を導入する考えを明らかにしました。
ホワイトハウスによりますと、すべての国や地域を対象に基本の関税率を設定し、一律で10%を課すとしています。この措置はアメリカ東部時間の今月5日に発動するということです。
さらに、国や地域ごとに異なる税率を上乗せする形で設定し、日本については24%の関税を課すことを明らかにしました。
この理由として、アメリカにとっての非関税障壁を考慮すると、日本はアメリカに対して46%の関税を課していることに相当するためだとしています」
(NHK4月6日)
相互関税 日本には24%課すとトランプ大統領発表 影響は? 「相互関税」とは【各国一覧も】 | NHK | トランプ大統領

「これほど単純なこと」がわからないのが、この世界に喧嘩を売って得意満面の男です。
これで米国の失われた富が取り返せると息巻いています。
そもそも何度も言っていますが貿易赤字は、世界の最終消費地であり、もっとも活発な内需がある米国に発生するのは当然のことです。
米国の旺盛な内需を自国で賄えないから輸入しているわけで、誰に損害をかけているわけではないウィン-ウィンの関係です。
それを「富を奪った」という被害妄想に駆られて、報復しようとするのがどうかしています。

しかも出すや早々に計算根拠がデタラメなことがバレてしまいました。

「みずほ銀行の長谷川久悟マーケット・エコノミストによると、この関税率は米国の対日貿易赤字額を輸入額で割り、100を掛けて算出した可能性が高いという。実際に米国の2024年の対日貿易赤字685億ドルと輸入額の1482億ドルをもとに計算すると、約46%になった。 他の主要国でも同様の結果で、相互関税率は関税率を単純に2で割った数字にほぼ一致した。相互関税率を関税率の半分程度とした理由について、米政府高官は「大統領は寛大であり、世界に親切でありたいと望んでいる」と強調した」
(時事4月4日)
関税率、算出根拠に疑念 「適当な計算」と指摘も―トランプ米政権:時事ドットコム

日本への相互関税でとうして24%にもなるのか不思議でしたが、なるほどねぇ単に貿易赤字額を輸入額で割って、100を掛けただけだけなんだそうです。
米国政府は計算根拠を関税率と非関税障壁から計算されたと主張しています。

「米国政府は、相互関税または包括税率は、貿易相手国が行った為替操作を含む非貿易障壁を考慮した後に決定されたと述べた」
「信じられないほど愚か」:専門家はトランプの関税の背後にある貧弱な数学を指摘します - 「信じられないほど愚か」:専門家はトランプの関税の背後にある貧弱な数学を指摘します BusinessToday

しかし現実にはすべての国ごとに、その国との貿易赤字をその国からアメリカへの輸出額で割っているだけです。
たとえばインドネシアに対するアメリカの貿易赤字は179億ドル(約2兆6000億円)で、インドネシアの輸出額は280億ドル(約4兆円)です。
従って、計算は「179÷280=64%」となり、これは米国に対するインドネシアの関税率と同じです。
ちなみに、ChatGPT、Gemini、Claude、Grokといった主要なチャットボットに貿易赤字を解消する方法を尋ねると、驚くほど一貫して「赤字÷輸出」の計算式を出してくることが分かったそうです。
なんだトランプ生成AIで政策決めてんだ(爆笑)。
実際に各国に課せられたトランプ関税は、そのとおりとなっています。

20250405-042851

BusinessToday

世界を相手に喧嘩するというのに、このトランプの素人染みたズサンさが好き。
自分以外の国にエコノミストも経済学者もおらず、このヘンな数字の計算根拠を調べないとでも思ってるんでしょうかね。
世界を舐めすぎ、というか舐めていなければこんなことはできませんやね。

日本政府がだらしがないのは置きます。岩屋がNATO会議でなにを米国とルビオと話そうがまったくどうにもなりません。
今、ルビオなんかと会談すると「そんなことは内政問題だ。それより防衛費を5%にしろ。バーロー」といわれますよ。
ルビオはかわいそうにNATOにお使いに行かされて、逆にもう米国製武器なんか買わないからと言われたそうな。
あたりまえです。あれだけいじめればこうなります。

 

ゲル氏の対抗措置は哀訴と全国各地に相談所を設けるくらいのことだそうで、まったくどうしようもなく使えないやつです。
政敵を背中から撃ってばかりいたから、まともな喧嘩の作法を知らない。
いっそ、TPPに欧州ぐるみ入れや、くらい言ってみたら。

では、今後どうなるでしょうか。
もちろん経済法則どおりに動くに決まっています。
米国の経済紙ブルームバークはこう書いています。

20250404-031731

US Emerges as Biggest Loser in Markets From Trump’s Tariffs - Bloomberg

「ブルームバーグ): トランプ米大統領による世界貿易体制の改革は、大統領が追加関税を課した多くの主要経済国の資産よりも、米国の資産に打撃を与えている。
米株価指数先物は2日の市場終了後にトランプ氏が大規模な一連の関税を発表したことを受けて、4%以上急落。ドル指数も大きく下落した。
他の地域への影響はそれほど極端ではなく、アジア株の指標は、一時1.7%下落したが回復。欧州株先物は2.4%安となった後下げ幅を縮めた。  世界の幅広い市場で株価が下落したことは、投資家が貿易戦争から勝者が生まれるとは考えていないことを示している。
米国自体が、トランプ氏の保護主義政策による最大の犠牲になる可能性も示唆される。
シンガポールのメイバンク証券の機関投資家向け株式セールス・トレーディング責任者ウォン・コクフン氏は「米国例外主義から米国疎外へと物語は変わりつつある」と述べた。
トレーダーが関税の経済への影響に備える中、3日はドルにとって今年最悪の1日になろうとしている。円は対ドルで1.5%上昇し、ユーロは1%以上上昇。10年物米国債利回りは昨年10月以来の水準に低下し、ドルの下落にさらに拍車をかける」
(ブルームバーク4月3日)
米国が最大の敗者に、トランプ関税は米資産に他国以上のダメージ | Start Magazine

株価先物市場は一斉に下落しましたが、他の国の相場は下落したもののそれほどではありませんでした。

20250404-032523

ブルームバーク

ここでいうアンダーパフォームとは「投資成果を表す言葉で、ファンドや個別銘柄、ポートフォリオなどの運用成績がベンチマークとする指標を下回っていること」です。 
アンダーパフォーム | 金融・証券用語解説集 | 大和証券

つまり市場関係者は米国のひとり負けを予測しているわけです。
なぜでしょうか。このようなメカニズムです。
まず関税を上げた結果、米国では確実にインフレがさらに亢進します。
何度も書いてきているとおり、関税を払うのは米国民だからです。

米国にきている外国製品はありとあらゆるものに及びます。
自動車のような大型消費財、鉄鋼・アルミのような素材、ICチップのような電子部品、あるいは食品ような農畜産物、米国ブランドでも衣類などほとんどが外国製です。
これらに一斉に関税という名の「増税」が乗るのですから、米国消費者はたまったもんじゃありません。
まちがいなく米国人は悲鳴を上げます。
米国から富を盗む悪い外国勢をやっつけろとトランプは言うが、やられてるのはオレら米国民じゃないかってね。
インフレが加熱しそうだったらブレーキ役の政府金利上げがお約束ですから、FRBは利下げどころではなく、利上げしてインフレを食い止めねばなりません。

「関税で米国のインフレは短期的に加速するだろう。もしインフレが強く出ると、米連邦準備理事会(FRB)も利下げどころではなくなり、利上げに転じる可能性すらある。そうなると円安が進行する。今、日本の物価・賃金情勢を見ると、ほぼ2%目標を達成している。ここで強い円安圧力がかかると物価が上振れてしまい、利上げの必要性が増す」
(ロイター4月3日)
トランプ米大統領、相互関税を発表:識者はこうみる | ロイター

ところがトランプは逆に金利を下げろと命令しています。
この男は、経済はいかに脅してこちらの要求を飲ませるのかといったディールで決まるものていどにしか理解できていないので、マクロ経済がまるで理解できていないようです。

「相次ぐ関税政策でアメリカの景気後退が懸念されるなか、トランプ大統領はFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長に「利下げの絶好の機会だ」と圧力を強めました。
トランプ大統領は4日、自身のSNSでFRBのパウエル議長を名指しし、「金利を引き下げるには、今が絶好の機会だ」「政治的な駆け引きはやめろ」と要求しました。
パウエルFRB議長
「不確実性が高い水準にある一方で、関税政策が予想を大幅に超える規模になりつつあることが明らかになり、経済への影響についても同様になる可能性が高いと思われる」(テレ朝4月2日)
トランプ氏 FRB議長に「今が利下げ好機」と要求 議長は関税の影響を見極め政策調整(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース

そんなことをしたらインフレが止まらなくなっちゃうじゃないですか。

トランプはこの関税の目的がサプライチェーンを米国に引き戻す、つまり外国に行っている米国の工場を国内に引き戻すというのが目的でしょうが、簡単にはいきません。
外国の工場を閉めて人員を整理し、解雇手当てを支給し、同時に米国内に新規の工場幼稚を買収し、そして新工場を作らねばなりません。
そのためのあらた部品などのなサプライチェーンの構築、技術を持った人員の確保などやるべき事が山積みです。
どうなに急いでも数年かかるでしょう。
経営者といっても不動産成り金でしかないトランプには、製造業のこの苦しさが理解できないのですね。

新たに入る関税で豊かになるなんてワケのわからんことも言っていますが、そのカネはじぶんの国の国民から奪ったものです。
つまり増税と一緒です。
このことに早晩国民は気がつくはずです。

おおかたの企業主は怒りを溜めるでしょう。なぜうまくいっていた多国間協業を破壊するのかってね。
そもそもその米国内への移動の間、消費者はどうするのでしょうか。関税でつり上げられた高い外国製を買わされて、買い控えをするようになるでしょう。
しかもこれに通貨安が加わりますから、ドル安、消費低迷・インフレの亢進という三重苦が米国経済を襲うでしょう。
いわゆるインフレ下の景気後退、すなわちスタグフレーションです。

では諸外国が同じような道を歩むのかといえば、そうとも限りません。
諸外国はなにでトランプ関税に対抗するか、です。
いまはとりあえず政治的メッセージで報復関税に走っていますが、一服すればもっと効く秘薬があります。
それが自国通貨安です。金融政策で、円安、ユーロ安、逆に言えばドルの独歩高に誘導すればよいのです。
つまりトランプが仮に20%関税を上げたなら、こちらは20%ドルを高くしてしまえばチャラです。

このトランプ関税で唯一いいことは、もう二度と米国民はトランプにだまされないということです。

 

2025年4月 4日 (金)

ルペン、大統領選被選挙権失う

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トランプ関税については明日にします。論評したくないほどの愚行です、しかも世界を巻き込む。

さて、ヨーロッパ極右の今後を占うフランスの極右大統領選に、国民連合候補であるマリーヌ・ルペンが出馬できないようです。
罪状はかつての辻本清美氏と同じ秘書給与の不正受給です。
逮捕拘留は避けられたものの、判決は禁錮4年、2年の執行猶予つきですから、この5年間は被選挙権停止となるようです。
したがって間近に迫った大統領選には出馬自体が出来ないこととなります。
彼女はわずかの望みを託して控訴すると言っていますが、控訴日程は早くて年内か2026年初め、判決は来年春となりますから大統領選はそのあいだに終わってしまうことでしょう。

「信じられない」。マリーヌ・ル・ペン氏は3月31日、小声でこの一言を口にしながら、怒った様子でパリの裁判所を後にした。フランス極右政党「国民連合(RN)」の前党首は、欧州連合(EU)議会の議員だった2004年から2016年にかけて、公設秘書の給与を党の活動資金に流用した罪に問われていた。
パリの裁判所はこの日、ル・ペン氏に有罪判決を言い渡し、5年間公職に立候補することを禁じた。言い渡しより前に、ル・ペン氏は法廷を後にしていた。この判決を受けて、ル・ペン氏が2027年のフランス大統領選挙に立候補することはほぼ確実に不可能となった。
裁判官が判決全文を読み上げるのを待たずして、RNの前党首は、自分の政治生命が危機的な状況にあると認識したのだ。 控訴しても、一審判決の執行は猶予されない。彼女が公職に立候補することは実際に、かつ直ちに禁止される」
(BBC4月1日)
ル・ペン氏に被選挙権5年停止の有罪判決 フランス極右に衝撃 - BBCニュース

2022年4月10日に行われた大統領選挙の第1回投票で、ルペンは現職マクロンの得票率27.8%に次ぐ第2位23.1%をつけました。
フランス大統領選は、米国と違って上位2名が決選投票を行います。
結局、マクロンは薄皮一枚の勝利しましたが、去年の議会選挙ではマクロンの党は国民連合に敗北しています。

「フランスでは、マリーヌ・ルペン氏らが率いる極右政党「国民連合(RN)」が2024年6月の欧州議会選挙と、その結果を受けてエマニュエル・マクロン大統領が実施を決めた国民議会(下院)の解散・総選挙で、これまでにない大躍進を果たした。
フランスで2024年6月8~9日に行われた欧州議会選挙では、RNの得票率が31.37%でトップとなり、マクロン大統領を支持する中道の「与党連合」(14.60%)に大差をつけて勝利を収めた。前回2019年の同選挙では得票率の差は1ポイントの僅差で、獲得議席数は同数だった。しかし、今回は16.8ポイントの差がついた」
(ジェトロ短信2024年8月13日)
極右「国民連合」が欧州議会と下院の両選挙で躍進(フランス) | 欧州最新政治情勢:欧州の行方を見定める注目論点 - 特集 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ 

マクロンはなりふりかまわず政治主張の異なる極左まで含む連立を組んでなんとか凌いでいますが、流れは絶対的に国民連合の側にあることは疑いようがありません。
そこにこのマリーヌの被選挙権停止ですから、ただで治まるはずがないでしょう。
ゲっとなったのは、ルペンの支持者だけではなく、政敵であるマクロンから、極左のジャン=リュック・メランション、中道のフランソワ・バイル首相、右派のジェラール・ダルマナン法相までが一様にビックリしたといわれています。

政敵まで驚いたのは、この公金の鷹揚ないしは流用は、どこの党の政治家も多かれ少なかれやっていたことだったからです。


「当該の法律は最近、公金の不正使用に対する罰則を非常に厳しくした。そのように変えたのは、今やその適用に不平を唱える政治家らだった。今の事態はあなたたち政治家の自業自得だと、裁判官は明確に告げたことになる。
ル・ペン氏がこの結果を予測できなかったのは、おそらく事態を甘く見ていたからだ。RNは明らかに、備えが全くできていなかったように見える」
(BBC前掲)

国民連合(RN )は現党首の29歳のジョルダン・バルデラを急遽立候補させるしか方法がなくなりました。

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ルペン氏の秘蔵っ子、ジョルダン・バルデラ氏 仏極右勢力の新たな顔に - CNN.co.jp

バルデラはルペン家の家業であった国民戦線を変え、人種差別的な要素を払拭し「普通の党」化したと言われています。

「バルデラ氏は党から反ユダヤ主義的及び人種差別的な印象を払拭(ふっしょく)する努力を続けているが、従来のポピュリスト的言説にはほとんど変化が見られない。公約に関する過去の発言では「国家安全保障に脅威を与える義務不履行者、犯罪者、外国のイスラム教徒の追放を実行する」と主張。移民の自由な移動に対する制限や、大規模な国外追放を行う意向を示唆した」
(CNN2024年6月13日)
CNN.co.jp

ルペンは大規模抗議デモを呼びかけていますし、今回の判決に怒りに燃える支持者の一定の盛り上がりを期待することは可能です。
しかしいままでなんどとなく大統領の座に肉薄してきたルペンとは重みが違います。
なんせ、ユダヤ人差別を口にした創設者の親父を叩き出した女傑ですから。
フランスの国民連合は、ドイツ系極右とちがって現実主義を受け入れて普通の保守になってきているんですが、この功労者がこのマリーヌです。
またもやフランスの極右はファイアーウォールに阻まれたようです。

2025年4月 3日 (木)

ヘグセス国防長官、日米安保堅持

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国防長官のピート・ヘグセスが来日しました。
硫黄島の式典の後に来日したものです。
日本ではカウンターパートの中谷元防衛大臣と会談しています。

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米国防長官「中国抑止、日本は不可欠なパートナー」 日米防衛相会談:朝日新聞

中谷氏とは硫黄島で共同慰霊式展に出席したのち、東京でも会談しています。
ちなみにこの両人共に軍隊経験がある防衛大臣で、中谷大臣は防大から元第1空挺団のレインジャー教官を経て最終階級は2尉でした。
当時の同期生はほとんどが将官となっています。
一方ヘグセス国防長官はイラクとアフガンの従軍経験があり、最終階級は少佐(州兵)です。
軍人であったことが決定的な資質とは思いませんが、軍事の現場感覚を持っていることがプラスであることは確かです。

「中谷氏は冒頭、前日29日にヘグセス氏とともに太平洋戦争における激戦地・硫黄島を訪問したことに触れ、「80年前には、激戦をまじえた両国が世界で最も成功した重要な同盟国となり、地域の平和と安定を保っていることを確認できたということは大変、意義深く思う」と語った。そのうえで、今月24日に陸海空自衛隊を一元的に指揮する防衛省・自衛隊の「統合作戦司令部」が発足したことに言及し、「日米の指揮統制の枠組みの向上の発展を感謝、歓迎する」と語った」
(朝日3月30日)
米国防長官「中国抑止、日本は不可欠なパートナー」 日米防衛相会談(朝日新聞) - Yahoo!ニュース

また中谷氏は、統合作戦司令部(JJOC・JSDF Joint Operations Command )が出来たことを上げて日米同盟がいっそう強固になっていることをアピールしています。
従来からあった統合幕僚監部(統幕)は、首相への助言などをする機関となり、防衛相命令に基づく平時からの3自衛回を統合した部隊運用は統合作戦司令部の司令官が担います。
規模は240人体制で、初代司令官は南雲憲一郎空将で、F-15のパイロットでした。ちなみに有名な南雲忠一中将とは共に山形県出身ですが、姻戚関係はないとか。

統合作戦司令部の米国側カウンターパートはハワイにある米インド太平洋軍司令部と、東京に新設予定の米統合軍司令部です。
日米双方共に指揮・統制の円滑化が進むことになります。
なんのためにこんな再編統合をしているのかといえば、いうまでもなく中国の脅威に立ち向かうためです。
いったん有事となっいた場合に、3自衛隊が個々でバラバラに動いていては仕方がありません。
かつての大戦のように、陸軍と海軍がまるで敵のようにいがみ合っていてはどうにもならないのは明らかで、平時から統合された指揮・統制下に置いておく必要があります。

さて、そういった流れで来た所にトランプ御大の狂乱旋風で、一時は在日米軍縮小などといった恐ろしいニュースさえ流れたところでした。
このタイミングでの国防長官の来日で、産経がさっそくインタビュー(書面ですが)していますが、あんがいまともなことを言っていて逆にびっくりします。

言っちゃーなんですが、マトモなことを言うと驚かれるのが今のトランプ政権です。

「--先の大戦で戦った日米が地域や世界の平和に貢献する同盟となった。
日米同盟は引き続き地域の平和と安全の礎だ。日米は今日、平和を維持し、侵略を阻止するためにかつてないほどに協力している。
--防衛費を含め同盟国である日本に何を期待するか。
日米は共に抑止力の再確立と防衛強化のために切迫感を持って集中的に行動しなければならない。共通の目標を達成するために、日本が自衛隊を強化し、同盟を近代化するためにさらに努力することを支持する」
(産経3月29日)
「日米はかつてないほど協力」 ヘグセス米国防長官、単独書面インタビュー詳報 - 産経ニュース

おお、なんと常識的な受け答え!
いきなり防衛費を増額しろ、てめーはオレの国からカネを盗んでいる、と怒鳴ると思いきや共通の目標を達成するために、「日本が自衛隊を強化し、同盟を近代化するためにさらに努力する」ですか。フツーじゃないですか。
不安が残ることもポロリと言ってはいます。ここです。

「--トランプ氏が構築を目指す次世代ミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」に関し日本と協力できる可能性は。
国防総省はトランプ氏の大統領令の履行に重点を置いている。現時点では、同盟国やパートナーとの将来的な協力の機会について話をすることはできない。しかし、日本は米国の主要なミサイル防衛のパートナーの1カ国であり、両国の協力は将来にわたり末永く続くと考えている」
(産経前掲)

ここでヘグセスがいう「ミサイル防衛のパートナー」とは、3月30日、日米防衛相会談で日本側が提案した艦対空ミサイル・スタンダード・ミサイル6(SM6)の共同生産提案のことです。
日米防衛相会談ののちの共同記者会見での中谷氏の発言。

「共同開発、共同生産、そして共同維持整備を通じて日米の防衛産業基盤が支え合って補完し合っていくことは、防衛力の抜本的強化に向けた死活的な課題である。特にミサイルの安定供給は双方にとって重要であり、日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)の枠組みの下に空対空ミサイルAMRAAMの共同生産の早期開始に向けて取り組みを加速することで一致した。また、私からSM6対空ミサイルについても共同生産の可能性を追求したところである」

実は米国は今、ロシアとの間にミサイル生産ギャップという難問を抱えています。
米国は一貫してウクライナ戦争でウクライナにミサイルを供給し続けてきましたが、自身の備蓄を切り崩すこととなりました。

一方ロシアは戦時経済マシーンをフル回転させて大量のミサイルを製造し、おしげもなくウクライナの頭上に降らせています。
これは多くの分野で同様で、105㎜砲弾といったスタンダードのものからハイマースのような高度に精密誘導できるタイプのミサイルまで供給が苦しくなりました。
ハイマースは高価なためもあって供与できたのはわずか40基だけで、到底こんな数では戦局を逆転させることは不可能でした。
防衛省はすでに昨年7月に、国内で製造した地上配備型の迎撃ミサイルPAC3を米国に輸出する契約も結び、ウクライナへの軍事支援で備蓄不足に悩む米国を既に下支えしているという実績があります。

ただし、ヘグセスが「国防総省は大統領令の履行に重点を置いている」というのが引っかかります。
つまり、ヘグセスがどう考えていようと、最終的にはトランプの意のままに動くということです。おー、こわ。
かつてはジェームス・マチスやマクマスターのようなプロ中のプロがホワイトハウスに居て止めオトコになったのですが、ヘグセスでは頼りない。
彼はしょせんトランプへのロイヤルティ (忠誠)を誓って国防長官になった男ですからね。

 

2025年4月 2日 (水)

トランプ、世界に追加関税の嵐

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ご承知のようにトランプは、日本も含む世界各国に対して追加関税を課しました。
特に貿易の主軸になる自動車に対しては25%(トラック50%)という関税をかけると言っています。
自動車部品にもことごとくかけられるようです。

「トランプ大統領は26日、記者団に対し「アメリカ製ではないすべての自動車に25%の関税を課す」と述べ、輸入される自動車に25%の追加関税を課すと正式に表明しました。そして通商拡大法232条に基づく文書に署名しました。
自動車や特定の自動車部品の輸入がアメリカの国家安全保障を脅かすおそれがあると説明しています。
すべての国からの輸入車が対象となり、日本車も含まれ、アメリカ東部時間の来月3日の午前0時すぎに発動します。
また、エンジンなどの主要な部品にも5月3日までに25%の追加関税を課すということです」
(NHK3月27日)
トランプ氏 25%の自動車関税署名 日本車も対象 国内影響は? | NHK | トランプ大統領 

20250401-031349

NHK

ここでトランプが法的根拠としている米国通商拡大法232条とは、ある産品の米国への輸入が米国の国家安全保障を損なうおそれがある場合、関税の引き上げ等の是正措置を発動する権限を大統領に付与する規定です。
従来のWTO協定でも、アンチダンピング税、補助金相殺関税、セーフガード措置等を認めていました。
また安全保障を理由として正当化する余地を認めています。
今回、トランプが米国通商拡大法232条発動の理由としているのはこの安全保障を理由とする例外規定ですが、米国は自国の判断に従えと言っていますが、当然のことながらかけられた国々はそんな解釈はありえないとしています。

つまりはメチャクチャな世界貿易の破壊で、こうなると自動車は米国内で作るしかなくなります。
その米国生産の比率は以下です。

■S&Pグローバル・モビリティ調査による2023年にアメリカで販売した車の生産国割合
●トヨタ自動車・・・現地生産が56%、日本からの輸入が20%、カナダとメキシコからの輸入がそれぞれ12%。
●ホンダ  ・・・ 現地生産が62%、カナダから27%、メキシコから11%、日本から1%未満を輸入。
●日産自動車・・・ 現地生産が61%、メキシコから24%、日本から15%それぞれ輸入。
●スバル  ・・・ 現地生産が52%、日本から48%を輸入。
●三菱   ・・・ 現地に工場がなく、日本から85%、タイから15%を輸入。
<米国と欧州の自動車メーカー>
●GM   ・・・ 72%が現地生産、残りの28%はメキシコから輸入。
●フォード ・・・ 現地生産が80%、メキシコから14%、カナダから6%を輸入。
●フォルクスワーゲン(ドイツ)・ 現地生産は41%、メキシコから55%、ドイツから4%を輸入。
 NHK 

これに自動車部品やアルミ、鉄鋼などの素材が被ってきますから、自動車産業に死ねと言っているようなものです。
耐えられる企業はわずかですから、おそらく自動車産業の寡占化が進むことでしょう。

誰の眼にも明らかなWTO(世界貿易機関)協定破りですが、トランプはWTOの出資を止めると脅しています。

「トランプ米政権が歳出削減に取り組む中で、米国は世界貿易機関(WTO)向けの拠出金支払いを凍結している。3人の関係者がロイターに明かした。トランプ政権は包括的な歳出見直しの一環として「米国第一」の経済政策に反すると見なす国際機関からの脱退や拠出金カットなどを進めている」
(ロイター3月28日)
トランプ米政権がWTO資金拠出凍結、歳出削減の一環=関係者 | ロイター

米国はWTOにとって最大の資金拠出国で、2024年のWTO予算の約11%を負担していました。
最大貿易国であり最大拠出国の米国が脱退すると、WTOは瓦解します。
WTOは、元来先進国を中心とした自由社会が自由な貿易を守るためにひとつのルールを作るために設立された機関です。
WTOの議決権は出資比率に応じて与えられる仕組みです。
米国は16.5%の議決権を保有し、単独拒否権を持っています。
米国はこの単独拒否権を利用し、WTOの最高採決機関である上級パネルの委員選任を拒否してきました。
その結果、常に上級パネルの委員が不在状態となって、最終的な決定を下せない状況が続いています。
そのために米国以外の国が米国をWTOに提訴しても、審議する機関がなくなってしまいました。
つまり世界唯一の貿易調停機関はただのドンガラですから、脱退してもしなくても同じなのです。
空洞化した原因は中国の加盟でした。
2005年に中国はWTO加盟しましたが、その時の条件は、完全な為替と資本の自由化でしたが、実際には資本規制を強化し、為替の自由化も進んでいません。
さらに、土地の私有や個人財産の保証、あるいは知的財産権の保護も行わず、国有企業に対して輸出補助金をつけています。
しかも笑えることには、中国は加入時に「新興国」(発展途上国)待遇であったために、GDP世界2位となったいまでもそのままの優遇措置を受けることができます。
実に不平等で、これが米国が上級パネルを拒否している理由となっています。

このようにいまや世界貿易には調停機関が不在です。
このように、ヨーロッパや中国がトランプ関税に対してWTOに提訴しても、なんの解決にもなりません。
この理不尽なトランプ関税に対して、国対国の個別交渉でしか解決しようがないのです。
しかしうちの国のトップときたらこうです。
訪米した際のトランプ関税についてのゲル首相の答え。
「『仮定のご質問にはお答えしかねる』というのが、日本の定番の国会答弁でございます」
石破氏の回答に、肝心のトランプ大統領は「WOW!」と肩をすくめながら、「ベリー・グッド・アンサー」をわざわざ3回繰り返し「石破首相はやるべきことをわかっているようですね」と絶賛した」
(東京2月11日)
なぜトランプ氏は首相の「仮定の質問には…」に大ウケ? アメリカの記者が失笑した「答弁」をたどる:東京新聞デジタル
なぜトランプは手を叩いてベリーグッドアンサーと囃したのでしょうか。
トランプは会談で関税上乗せを打診したのですが、これに対する答えがヨーロッパのように対抗して報復関税をかけるのではなく「仮定の話」としてはぐらかしたわけです。
つまり、日本はこの件で報復してこない無害な存在だと自分を言ってしまっているわけです。
そして関税については、日本は最大の投資国だから見逃してほしいということを会談で言っているようですが、トランプからすればそんなの知っているぜ、だからそれ以上のことを望んでいるのだ、ということです。
この訪米時点ではまだなにも決まっていなかったので、ガツンと言っておけばまだ動く可能性がありました。
明日に公表される追加関税がでてからは、もう米国が決めた主権の範疇だと突っぱねられてしまうでしょう。
すこしでも動かすなら訪米時点で「大変に遺憾である。日米貿易に多大な被害を及ぼすので撤回していただきたい」と言うべきでした。
それを日本の国会答弁のような日本人しか通用しない「仮定には答えられない」では、なんともなりません。

2025年4月 1日 (火)

イランになめられているトランプ

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トランプの触れ込みは、イランに対する厳しい制裁のはずでしたが、どういうわけかイランからも大きな期待を受けています。
イランの原口ではないハラグチ外相はこう述べて、トランプとの交渉に前のめりです。

「イランが、核開発をめぐるアメリカからの協議の呼びかけに対して、第三者が仲介する間接協議であれば応じる考えを示す中、アメリカのトランプ大統領は「イランと問題を解決するのは私の強い希望だ」と述べ、イランとの協議に改めて意欲を示しました。
トランプ大統領は、核開発をめぐる協議を呼びかける書簡を敵対するイランに送り、イランのアラグチ外相は27日、第三者が仲介する間接協議であれば応じる考えを示しています。
こうした中、トランプ大統領は28日、記者団に対し「イランは、私が最も注視しているものの1つだ。イランと問題を解決するのは、私の強い希望だ」と述べ、協議に改めて意欲を示しました」
(NHK3月29日)
トランプ大統領 「イランと問題解決したい」 核開発めぐる協議 | NHK | イラン

トランプはこれに答えてこう言っています。

「一方で「話し合いで解決するか、そうでなければ、イランに非常に悪いことが起きるか、そのどちらかだ」と述べ、協議に前向きに臨むようイランに求めました」
(NHK前掲)

トランプは爆撃するぞ、とも言ったようです。
なにかいまでもトランプ御大は勘違いしているようですが、もうこのテの脅しは効かないのですよ。
ブラフをやるなら1回まで。だから効くのです。
マッドマンセオリを踏襲しているつもりでしょうが、こう何度も何度も見せられるとハッキリ言って飽きます。
かくしてヨーロッパから呪われんばかりに嫌われ(自業自得ですが)、世界すべての国に追加関税で蛇のように嫌悪され、好かれているのはプーチンだけです。いや、プーチンからも大いになめられていますか。
まぁ、これほど世界から嫌われた米国指導者を初めて見ました。

「非常に悪いことが起きる」といっても、トランプがイランを軍事攻撃する可能性など数%で、それもかんじんの核施設は攻撃対象からはずすでしょう。
あくまでも彼にとって軍事攻撃はただのディールですから、いきなり本丸を狙って失敗でもしたらシャレになりません。
あるいは、せいぜいがイランの子分であるフーシ派にトマホーク攻撃をしかけるていどのことはやります。
それも事前にヘグセスとバンスらがグチグチャと攻撃内容を話ているのが、SNS に流出して大恥をかきました。
ホント、今ホワイトハウスにいる連中は揃いも揃ってやることが幼稚。

20250331-051533

ロイター

「トランプ大統領が15日イエメンのフーシ派に対する大規模な軍事攻撃を始めた数時間前、ヘグセス国防長官はこのメッセージンググループに「標的、アメリカが配備する武器、攻撃の順序に関する情報を含む」計画の詳細を投稿したとゴールドバーグ氏は記した。記事では詳述を避けたものの、同氏はこれを「衝撃的な記録」と呼んだ。
ゴールドバーグ氏はさらに、チャットグループの参加者にはバンス副大統領、ルビオ国務長官、中央情報局(CIA)のラトクリフ長官、ギャバード国家情報長官、ベッセント財務長官、ワイルズ大統領首席補佐官、NSC高官らのアカウントがあったとも指摘した」
(ロイター3月25日)
米高官、フーシ派攻撃計画を誤って記者と共有 アプリで | ロイター

これは大事にいたらなかったからよかったものの、2012年に起きたヒラリー国務長官が私的携帯で連絡を取り合い、リビア・ベンガジの大使館襲撃を招いたとされる事件とやや似ています。
当時、共和党はヒラリーを叩きましたが、なんのことはない自分も政権の座につくと同じことをやらかしたわけです。
2012年アメリカ在外公館襲撃事件 - Wikipedia

それはさておき、このトランプ政権の外交下手をいいことに、イランは間接交渉にやる気満々です。
ISW(国際戦争研究所)はこうレポートしています。

「①イランの核交渉・イラン高官が米国との間接核交渉に前向きな姿勢を示す発言をしており、これは国内向けのパフォーマンスや、スナップバック制裁・核施設攻撃の回避を狙ったものとみられる。
②フーシ派の経済統制・イエメンのフーシ派は、政府支配地域への銀行移転に反発し、職員の移動を制限。これはサウジとUAEへの敵意を示す動きでもあり、停戦違反と見なされている。
③米国の対フーシ派空爆・米中央軍は3月27日以降、フーシ派支配地域に対して44回以上の空爆を実施。フーシ派は、サウジとUAEを通じて空爆中止を米国に働きかけさせようとしている。
④イラク政治・シーア派指導者サドル師が2025年の議会選挙不参加を表明。イラク政治の不安定化を懸念する声が上がっている」
イラン・アップデート、2025年3月28日 |戦争研究所

①のスナップバックとは、過去の国連制裁を定めた安保理決議を復活させ、イランに核合意に戻させることを意図した措置のことです。
米国はトランプ第1次政権時の2018年5月に、イラン核合意からの離脱を宣言しています。

したがって自動的に、核合意の参加国であるP5+1(安保理常任理事国+独)に与えられたスナップバックの権限は、核合意の離脱によって失われていると解釈されました。
しかしトランプは「安保理決議2231には核合意参加国として米国の名前があるからスナップバックに対して権限が持ち続けるのだ」と主張しました。
つまり核合意からは離脱したが、国連制裁には権限があるということのようです。

とまれ、現時点でイランの核開発は「技術的には完成、後は政治的判断で核保有を宣言するかどうか」の段階と観測されています。
それに対していままで比較的イランとの友好的関係をキープしてきたヨーロッパが困惑している一方、トランプはさぁ出番がまた来たとばかりに張り切っていました。

「トランプ氏が20日に大統領に返り咲くことで、不確実性が増すかもしれない。トランプ氏は対イラン強硬路線を支持し、新政権でもこのアプローチを共有する人物が周りを固める。しかし、トランプ氏は自らを交渉人「ディールメーカー」とみなし、最初の任期中に北朝鮮を訪問したように、単独でテヘランと直接交渉したいという誘惑に駆られる可能性もある」
ジュネーブで米国不在のイラン核協議、進展なく終了  - SWI swissinfo.ch 

これは三重にトランプにとって快感なはずです。
ひとつは、従来から目の敵にしていたイランを徹底的に叩き潰すいいきっかけとなえること。
第2に、これまた目の敵としているヨーロッパにざまぁみろと意趣返しできること。
第3に、ひとかたならず贔屓にしてきたイスラエル右派に対して、これ以上ないいい顔ができること。

うまくすればノーベル平和賞もんだと考えているのかもしれません。
こんなトランプの思惑など、とっくにイランは読んでいますから、政権発足時には交渉に消極的でした。


「イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は12日、核開発計画についてアメリカと交渉する考えはないと述べた。アメリカのドナルド・トランプ大統領は先週、イランの核開発をめぐり、交渉を要求する書簡を送ったと述べていた。イランはこの日、書簡を受け取ったことを認めた」
(BBC3月19日)
イラン、核開発めぐる米国との交渉拒否 トランプ氏の書簡を受領 - BBCニュース

この時出たのが先述した「イランが核開発について協議に応じなければ軍事行動に出る可能性があると、書簡で警告した」という発言です。
そしてイランも今回柔軟に出て間接交渉ならやっても良いに変化したわけです。
押したり引いたり、なかなかイランは外交上手です。
それに引き換え、脅すだけがディールとやらのわれらがトランプはいいように弄ばれているようです。

 

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