米中貿易戦争はチキンゲームにはならない
米中貿易戦争をもう少し細かく見ていきます。
世界関税戦争の本丸ともいえる対中関税戦争ですが、なかなか面白い展開となっています。
中国の海運がガラガラとなったのは昨日書きましたが、実になんと8割の米中便が止まっているそうです。
ほとんど通っていない状況ですね。
あたりまえですが、米中にはトラック便はありませんし(あってたまるか)、空輸もありますが、軽いものしか運べないですし、高いのでごくわずかです。
なんたって海運こそが大動脈で、中国系の海運会社が仕切っていました。
現在、この中国から米国への大動脈の海運の8割以上が停止しており、郵便小包も輸送が停止する予定となっています。
中国の輸出国第1位は、こともあろうに仮想敵国第1位の米国です。
「中国貿易相手国ランキング」中国貿易で注意すべきポイント | 海外進出ノウハウ | Digima〜出島〜
輸出品目はこのようになっています。
中国から米国には2次製品が多く、逆に米国から中国には1次産品です。
ここだけ見ていると、先進国と途上国貿易のようです。
ただし、技術と資本を中国に与えたのが米国でした。素晴らしい恩返しです。
米中貿易は典型的な非対称で、圧倒的に中国からの輸出が多く、金額的には約5倍にも達します。
米国にとってはトラが病的に嫌う貿易赤字国の堂々第1位です。
前述したように、米国から中国への輸出は主にエネルギーや穀物などの一次産品である一方、中国から米国への輸出は工業製品などの二次産品が主体です。
米国からのエネルギーや穀物は行き先を変えて転売すればよいのですが、中国のそれは個別の売り手宛ての荷物ですから潰しが効きません。
そのために米国には空コンテナ山積みという風景はありませんが、中国では空コンテナの置き場さえないような状況となっています。
また中国は報復として米国のボーイング社製旅客機を不買にするといい出しましたが、米国は痛くもかゆくもありません。
ボーイングは半完成品で中国に輸出し、現地で完成させていますが、すでに返品が開始されているようです。
「アモイ航空の広報担当者は21日、同社向けの航空機2機が米国へ向かったことを認めたが、理由は明らかにしなかった。
これら2機の米国返送を決定した当事者は判明していない。
ただ、ボーイングは代わりの買い手を見つけられそうだ。マレーシア航空はこれまで、中国の航空会社が納入受け入れを停止した場合のジェット機取得についてボーイングと話し合っていることを明らかにしている」
(ロイター4月21日)
中国から米ボーイング機返送、2機目がグアム着=飛行追跡データ | ロイター
ボーイングは決して経営が言いわけではありませんが、強みはバックオーダーがたっぷりあることで、通常は受注から数年待たされるのですが、中国航空会社の塗装を塗り替えてすぐに納品が可能となるというだけのことです。
したがって、困るのは中国の航空会社です。
ライバルのエアバスは生産能力が低い上に、部品の多くには米国製を使っているために対中制裁をかけられれば手も足もでません。
中国製旅客機はあるにはあるようですが、中国でできるのはドンガラだけで、アビオニクス(航法システム)やエンジンは米国製です。
ですから、この関税戦争はチキンゲームにはなりようがありません。
これではセルフ制裁です。
ところで、いまさらですが、習近平の権力の根源は経済です。
経済が右肩上がりなうちは、いくら民主的でなかろうが、選挙がなかろうが、情報統制でなにもしゃべれなかろうが国民は耐えます。
ところが経済が低調となり、やがて崩壊の兆しが見えてくると激しく動揺します。
そしてこの中国経済は輸出によって支えられています。
日本や米国は、昨日見たように経済のけん引力は個人消費で、おおよそ6割を占めています。
しかし中国はGDPにおける個人消費の割合は40%台と低いのです。
つまり中国は、昨日見た日本と違って「中国商店街」で買いましょうという内需主導に転換することがきわめて困難な構造なのです。
ですから、対米輸出が滞り、工場が長期レイオフとなり、庶民の収入が途絶えると一気に庶民の不安に火がつき、不満の矛先は政府に向かうことでしょう。
当座、習はその庶民の怒りの矛先を米国に向けるでしょうし、臆病な習としては清水の舞台から飛び下りた気で台湾を攻めてみるかもしれません。
戦争以外でいちばん誘惑にかられるのは、しこたま持っている米国債の売却ですが、できるでしょうか。
世界一の米国債保有国は日本ですが、かつて日本が冗談半分で米国債売却を匂わせたところ、反応は激烈で、以後二度とそれを口にしなくなりました。
そのくらい過激なカードで、これを使った瞬間戦争になると覚悟したほうがいいようなものですし、そもそも売った瞬間に米国は当該の債権を無効にするでしょうしね。
そして返礼として中国共産党幹部の海外資産凍結くらい平気でかますことでしょう。これは効くでしょうな。
10月の海外勢の米国債保有額、6ヶ月ぶりに減少に転じる!中国の米国債保有額、2009年2月以来の低水準!! – 豊トラスティ証券マーケット情報
したがって米国に対抗して東南アジアを巻き込んで反トラ同盟を作るしか手がないのです。
しかしそのような強硬姿勢を取り続ければ、妥協する余地がどんどん狭まっていき、社会不安の内圧は高まっていくはずです。
また長引けば、米国市場を支配したかに見えた中国製品の多くは、アパレルや玩具などのように米国にシフトすることは容易ですから米国に回帰するでしょう。
移転が難しかった電子機器、携帯、PCは早々に追加関税からはずしてしまいましたしね。
ですから貿易戦争になれば、中国側の経済の方が打撃が大きいのは当然のことです。
このように中国にとって使える選択肢は狭いのです。
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