石破首相、ベトナム、フィリピン歴訪
わが石破首相がベトナムとフィリピンに歴訪しています。
大変けっこうな目のつけどころです。褒めるときは褒めねば、パチパチ。
「石破茂首相は27日、ベトナムを訪問した。首都ハノイで最高指導者トー・ラム共産党書記長と会談。東・南シナ海で威圧的な海洋進出を図る中国を念頭に、安全保障面の協力を深化させる。トランプ米政権の高関税措置への対応を巡っても議論し、貿易や投資の経済分野の連携も進める。首相はラム氏との会談に先立ち、ハノイ市内のタンロン工業団地を視察した。米国の高関税措置の影響や懸念などについて現地の日系企業の関係者らと意見交換した。関税措置を巡る今後の日米交渉や、影響を受ける企業への支援策の参考とする考えだ」
(産経4月27日)
石破首相がベトナムを訪問 最高指導者ラム書記長と会談、対中安保や米関税対応で協力 - 産経ニュース
おお、気のせいか、さっそうと見えるぞ(もちろん気のせいです)。なぜか美人の奥方が寝間着でご到着です。
今回、ベトナムとフィリピンを選んだのは、いうまでもなく対中シフトと追加関税対策です。
追加関税対策といっても、互いにトラ親方を刺激しないようにガンバロウなていどのことで、やることはほとんどありません。
腰の重い習近平が先日、直々に行っているので、ベトナムさんはいまはどちらからもモテています。
インドに似て、どちらにも決定的に加担しないというのがこの国の渋い基本スタンスで、逆にいえばベトナムとインドを「反覇権連合」に取り込めたら大勝利です。
今その一歩として、ベトナムに防衛装備品を供与できるOSAを伝えたようです。
ありきたりの経済支援とか日本企業の進出促進といったレベルから、ひとつ踏み込んで軍事的支援も含むOSAに踏み込んだのは、首相の手柄といってよいでしょう。
ベトナムはいまだに共産国ですから、隣国の中国とは常に緊張をはらみながらも装備の中心は中国製かロシア製でした。
軍の編成もロシア式というのは、ウクライナと一緒です。
これでは装備を通じての従属につながりかねず、かといって米国式にしたいがハードルは高いしなぁというのが現状でした。
そこで現実的対応として編み出したのが、「南シナ海被害者連合」とでも言うべきベトナムとフィリピンの両国海軍の共同です。
きっかけは2019年6月、中国船とフィリピン船が衝突事故を起こしてフィリピン船が沈没したにもかかわらず中国船が救助せずに逃げた際にベトナム漁船が救助したことから始まりました。
これを期に、両国は急接近し、防衛対話を深めて「両国には多くの共通の戦略的利益と課題が存在する」とし、二国間防衛協力体制が進んでいます。
と凛々しく宣言したのはいいのですが、フィリピン軍はいままで国内のテロ組織との戦いに明け暮れていて、昨今ようやく海に目を向け始めた段階であり、まともな沿岸警備隊もありませんでした。
一方、ベトナムは典型的な陸軍国で、インドシナ半島最強の呼び名もあります。
なお、今年4月30日はベトナム戦争終結50周年です。
アア、あの頃は無条件にベトナムを支持していたもんですが。(遠い目)
とはいえ、ベトナムの海軍力は沿岸警備隊ていどで、海軍は無きが如しでした。
フィリピン船と中国船の衝突で米「中国が危険な行動」と非難|テレ東BIZ
習近平は、トランプ関税を巡っていきなり近隣国に対して微笑外交に転じたようですが、そもそもこの南シナ海における軍事要塞づくりを停止し、フィリピン、ベトナム漁船への嫌がらせを停止せねばどうしようもありません。
それができないままニコポン外交に転じようというのが図々しいのです。
日本ができるのは、このフィリピン、ベトナム両国の脆弱な海軍力を助けて海上警備力のアップに協力することです。
そこででてきたのがOSAでした。
「首相は28日にはハノイで、行政トップのファム・ミン・チン首相との首脳会談も予定している。日本が同志国軍に防衛装備品を供与する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」について、ベトナムを対象に加えると伝達する方針だ。両国の外務・防衛当局間の協議体新設も確認する」
(産経前掲)
OSAとは、2022年から始まった「同志国」の軍などを対象に、資機材の供与やインフラの整備などを行う無償による資金協力の枠組みのことです。
従来からODAという支援枠組みはありましたが、ODAが非軍事原則であり、かつ無償の資金供与に加え、有償貸付や多国間援助でアル異に対して、OSAは軍事目的であり無償の資金協力に限定されています。
「同志国」とは、下図のように「反覇権国連合」に加わる意志がある諸国です。
OSAとは 同志国の防衛支援枠組み、インド太平洋念頭 - 日本経済新聞
対象となるのは価値観を共有するインド・太平洋地域の諸国です。
「同志国」という表現が戦前の枢軸国みたいだなんて言う左翼メディアもいますが、要はFOIPの拡大バージョンのことです。
実際には、ヨーロッパとの共同訓練なども盛んに行われています。
防衛省・自衛隊|令和6年版防衛白書|5 同志国などとの多国間訓練
フィリピンとはGSOMIAを締結するところまで、防衛協力は進展しています。
「フィリピンとは軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結への議論開始で一致するとみられる。マルコス大統領と物品役務相互提供協定(ACSA)の交渉入りでも合意し、海上保安機関の合同訓練実施を申し合わせるとみられる」
(産経4月25日)
石破首相、27日からベトナム・フィリピン訪問 訪中案から一転、「米離れ」つなぎ止めへ - 産経ニュース
実は米国はバイデン政権末期の去年11月にフィリピンとGSOMIAを締結しており、その当時から日本との交渉も始まっていたようです。
その他、F-16の最新モデルの供与も始まったようです。
日本と締結されたGSOMIAは機密情報を共有するための枠組みで、日本のシーレーンが伸びている南シナ海の情報が主になると思われます。
また同時に締結されたACSA(物品役務相互提供協定 )は、相互の軍隊が共同訓練したりする際に燃料や弾薬の融通を可能にする協定のことです。
ありていに言って準同盟関係のことで、同盟と違って互いに内政外交を束縛せずに、ケースバイケースで共同演習や国際対応を決定するレベルの関係のことです。
他の実例としては、日豪関係がそれにあたり、米国との日米安保のように条約に基づくものではなく、ACSA(物品役務相互提供協定)、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)、防衛装備品・技術移転協定などを結び、適時2プラス2(外務・防衛閣僚会合)を行って関係を緊密化する二国間関係です。
日本は、英国、カナダ、フランス、インド、そしてオーストラリアとこの準同盟関係にあります。
この枠内にフィリピンが新たに加わるということになり、ベトナムはその手前まで地ならしが進んだということになります。
ただし残念なことには、本来はこのアジアの安全保障の基軸とならねばならない米国が今はあの調子ですから困ったもんですが、最悪米国抜きぬきでもインド・太平洋の安定は「反覇権連合」でキープしなければなりません。
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アメリカ-フィリピン主催で5月9日まで開催中の多国間共同訓練バリカタン2025には、我が国自衛隊も艦艇等の装備品派遣とオブザーバーの両方で参加中。
この演習で初めてNMESISが展開されたバタン島の位置を見れば、そこが我が国にとっても肝要なポイントであることは、小学4年生にも理解できると思います。
中共が九段戦と呼ぶ海域は、フィリピン、ヴェトナム、台湾、マレーシア、ブルネイも領有を主張するわけですが、軍事力による現状変更はもとより、砂洲などに少人数で上陸して国旗を立てて「掌握している」と宣伝する中共の、なし崩し勝ちの企みも見過ごさない等で地域諸国の意思疎通を図り、抑止に寄与する裏付けを積む役割は、トランプ政権が諸国に齎す不安によって更に必要性を増していると考えます。
投稿: 宜野湾より | 2025年4月29日 (火) 11時27分
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あ、変換選択ミス、九段「戦」になっちゃってました。
もちろん九段線です。失礼致しました。
投稿: 宜野湾より | 2025年4月29日 (火) 12時28分