トラさんが知らない日米同盟の進化
トラさんはあいかわらず日米安保にご不満なようです。
「アメリカのトランプ大統領は日米安全保障条約について「私たちは彼らを守るが彼らは私たちを守る必要はない」と述べて不満をにじませました。
トランプ大統領は10日、ホワイトハウスで記者団に対し、アメリカが、これまで自国が不利になる取り引きを各国としてきたという認識を示した上で、日米安全保障条約について「日本とはとてもうまくやっている。しかし、私たちは彼らを守るが彼らは私たちを守る必要はない。私たちは協定を結んでいて、多くの金を払って、守っている」と述べて不満をにじませました。
そして「これは数ある取り引きのうちの1つだが、誰がこのような取り引きをしたのか疑問に思う。私たちの国を嫌っている人たちか、気にもとめていない人たちだ」と述べました」
(NHK4月11日)
アメリカ トランプ大統領 日米安全保障条約に不満 “私たちは彼ら守るが彼らは私たちを守る必要ない” | NHK | アメリカ
オレはお前を守っているが、お前はオレを守らないだって?
いつまでも同じこと言ってろ、中坊かと罵りたくなります。
この人の日本認識は、自動車にしてもそうでしたが前世紀で止まったままなのです。
日本列島は米国の国際戦略の重要な、おそらく世界最大の拠点です。
日本列島には隅から隅まで実にたくさんの米軍基地が点在しています。
この米軍基地の駐留経費にする「思いやり」支援が、トランプがのたまう「米国が日本を守るため」に支出している予算で、この支援規模は文句なく世界最大です。
おもいやり支援、硬く言えば接受国支援、横文字でいえばホストネーション・サポートで、思いやり予算とはいかにもヤニ臭い自民党国防族の匂いがします。
それはさておき、トランプ如きにただ乗りとは言わせないのは、同じ米軍の駐留を受けている「ホストネーション」であるドイツ、イタリア、韓国にはないか、あったとしても日本の半分ていどにすぎないからです。
●2002年の米国の資料による各国米軍駐留経費負担率比較
・日本 ・・・75%
・ドイツ ・・・33%
・韓国 ・・・40%
・イタリア・・・41%
では次に、何に支出されているかを見てみましょう。
「現在は特別協定に基づく従業員の基本給、米軍の訓練移転費、光熱費に加え、協定外の従業員の福利費、施設整備費も日本が払っている」
(ロイター2025年10月12日)
「思いやり予算」の改定交渉、3回目も日米の溝埋まらず | ロイター
上の写真は筆者が撮ってきた横須賀軍港の未婚者用住宅地域の看板ですが、これも日本側の「思いやり予算」で作ったようです。
この他に、 日本はレストランやバーなど基地内の娯楽施設で働く従業員約5000人の給与や建設費なども気前よく負担しています。
ゴルフ場や教会も作っています。
あと出していないのは米軍将兵の訓練費と給料くらいですが、おいトラちゃん、ここまで出しちゃうと、もう君らは日本の傭兵ですよ。
さてトラちゃんは、「日本は米国を守っていない」なんて子供のようなことを言っていますが、日本に展開する米空軍、海軍、海兵隊の航空機や艦船は、別に日本のため「だけ」に存在しているわけではありません。
日本の領空や領海を守っているのは自衛隊や海保です。
深くトラさんは勘違いしているようですが、日本だけがいわゆる専守防衛している分には自衛隊と海保だけで事足りています。
ただ世界情勢が荒れて来た場合、自衛隊だけでは手に負えない事態になると予想されるために米軍を「置いてあげている」のです。
ただし、世界最強の軍隊に駐留してもらうメリットも大いにあって、特になにもしなくてもいるだけでドーンという存在感があって、邪なことを考える外国が手を出しにくくなります。
これをプレゼンス(存在感)と呼びます。
その法的裏付けが日米安保条約第5条です。
日米安全保障条約第五条
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
資料69 日米安全保障条約第五条
トラさんはこの5条の「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する」の部分が、「日本は米国をら守らない」と解釈しているようです。
逆に聞きたいもんです、かつてメルケルはNATOでドイツ連邦軍の弱体化を指摘されて、「そんなに強いドイツ兵を見たいのか」と啖呵を切ってそうです。
それに倣えば、トラよ、そんなに強い日本兵を見たいのか。
日米安保は大昔安保条約ができた当座は「ビンの蓋」とたとえられたことがありました。
また軍国日本を復活させないために、在日米軍がいるのだという構図で、表立っては否定していますが、たぶんGHQは内心はそう考えていたはずです。その流れで9条なんてもんを押しつけたのですからね。
しかし時がたち、いまや合衆国大統領閣下直々に「日本は米国を守らないからけしらん」なんて仰せです。
勝手な言いぐさです、米国どころか自分の国さえ満足に守れない憲法を押しつけておいてヨー言うよです。
憲法論議にそれると長くなるので置きますが、前述したように米空軍、海軍、海兵隊の航空機のうち日本の防空任務についているものは1機もありませんし、艦艇で日本の領海を守っている船は一隻もありません。
逆に、在日米軍基地の防空をしているのは空自ですし、陸からの破壊活動に備えているのは陸自や警察です。
また、米海軍の空母打撃群を広い意味で守っているのも、海自の護衛艦隊です。
そのために安保法制すら改革したほどです。
いまは日米両国の統合司令部まで発展しており、海兵隊は戦車部隊を捨てて第1列島選に沿った海兵沿岸連隊(MLR)に改変しています。
「中国側の「接近拒否戦略」をかいくぐって、「第1列島線」の内側にとどまり、作戦を実行することが期待されているのが、「海兵沿岸連隊」なのです。
第3海兵沿岸連隊の司令部で話を聞いた兵士は、いわば「敵のふところ」近くにいることで、相手の動きを把握し、有効な反撃を行えると強調していました。
世界では『接近拒否戦略』の課題として現れているが、われわれが存在する理由のひとつは敵の兵器の交戦区域で活動することだ。その中にいることで、敵の脅威を認識し、そして後退させる手段を提供する」
(NHK2023年5月30日)
対中国で軍の再編急ぐ アメリカ 「MLR=海兵沿岸連隊」創設の狙いは? | NHK
米軍と共に尖閣・離島を守る時代へ: 農と島のありんくりん
この海兵沿岸連隊は沿岸戦闘チーム(LCT)が主力部隊であり、これは自衛隊の石垣、宮古、奄美に展開する長距離対艦ミサイル部隊と歩兵大隊を中心に編成されています。
さらにこのLCTは、いま自衛隊が奄美、石垣、宮古に展開している対艦ミサイル部隊と相互補完する部隊です。
南西諸島では、地対艦ミサイル部隊は地対空ミサイル部隊とともに、2019年に奄美、宮古島、石垣島に配備済みです。
このように海兵隊の海兵沿岸連隊構想自体が、自衛隊の対艦ミサイル部隊展開構想に影響されたもので、一体で運用されるでしょう。
これは日本を守るためだけにいるのでしょうか、トラさん。
あなたの頭は数十年ズレているのです。
たぶんトラさんが分かっていない部分は、米国が直接、日本を「守る」ために駐留していると考えていることです。
それは半分正しく半分まちがっています。正確に言えば、「日本を守るためにもいる」のです。
これを前述したようにプレゼンスと呼びますが、「存在感」と和訳します。
微妙な言い回しですが、一般の語義どおり、「その独特の持ち味によって、その人が紛れもなくそこにいると思わせる感じ」のことです。
米軍は別に日本防衛のためにいるわけではないが、「いる」だけで、他国は世界最強の米軍が敵になるかもしれないとビビるわけです。
沖縄に米軍が「いる」というのも、このプレゼンスを中国が認識しているからです。
仮に米軍が、沖縄防衛のためにいるわけでなくても、沖縄に軍事攻撃を仕掛ければ、米軍を相手にせねばならないというのは、大変にイヤなことのはずです。
同じように、三沢の米空軍はアジア地域で紛争が起きた場合に、真っ先に乗り込んでレーダーやミサイル施設を破壊するためにいます。
横田の輸送機部隊もまた同様に、アジア地域の戦術輸送を担っています。
厚木は横須賀軍港の航空機のための基地で、米空母の運用のために作られています。
そして、横須賀軍港こそが、日米安保の心臓部です。ここにいる空母打撃群は、アジア地域のみならずアフリカ東海岸までエリアにした「動く航空基地」です。
日本はその米軍軍事力の世界拠点を提供しているのです。
そしていまや統合司令部を作って、海兵沿岸連隊のように一体化して中国に備えています。
このような世界規模のことを見通すのが米国大統領の仕事だとおもいますが、トラさんは極度の近視のようです。
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そもそも「関税」についての話し合いに出向いたはずなのに。
そこで親分が出て来ていきなり「米軍の駐留経費が」とか言い出した時点で「今はそんなことの話ではありませんでしょ」と返せないのが情けない。
日本のマスコミで勝手に「なるべく引き伸ばしながら交渉するだろう」なんて書かれた記事を向こうがチェックしていて、夏の参院選前に無理難題押し付けて決着付けさせよう。あとは自民党がどうなろうと国際条約だから何もできまい。。位は考えてるでしょうね。
投稿: 山形 | 2025年4月19日 (土) 06時32分