トランプ「和平案」を認めたら北方領土は永遠に還ってきませんよ
今朝の某硬派情報ラジオ番組を聞いていたら、いつもはガサツな関西弁でまくしたてるヒゲの某教授が妙におとなしく、トランプのウクライナ和平案はしかたがないね、クリミアはすでに還ってこないのだから、みたいなことを言っておりました。
おいおいですが、実はトランプはそれがつけ目なんです。
ゼレンスキーの拒否回答に対してトランプの弁。
「トランプ米大統領は23日、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアによるクリミア半島支配を認めないと発言したことを非難し、「ロシアとの和平交渉に非常に有害」との認識を示した。
トランプ氏はSNSトゥルース・ソーシャルに、「ゼレンスキー氏のような扇動的発言が、この戦争の解決を非常に困難にしている。彼には誇れるものなど何もない。ウクライナの状況は悲惨であり、彼は和平を選ぶか、もう3年間戦い続けて国全体を失うかのどちらかしかない」と投稿した」
(CNN4月24日)
トランプ氏、ゼレンスキー氏を非難 ロシアのクリミア支配を認めない発言は「有害」 - CNN.co.jp
ウクライナにとって、クリミア半島は領土であると同時に失敗の側面もありました。
エドワード・ルトワックは、ウクライナについてやや皮肉ぽっくこう言っています。
「ウクライナは、今回の戦争でロシアに抵抗することを通じて一人前の国家となり、明確な国民意識を形成することができた。これは大きな成果であり、和平に向けたウクライナの自信にもつながる」
(産経4月24日)
トランプ氏、空振りのプーチン氏擁護 「終戦の意思」なきロシア、和平交渉は挫折濃厚 世界を解く-E・ルトワック - 産経ニュース
いい得て妙です。ウクライナ戦争が始まるまでのウクライナは、統一された民族意識も薄く、政府は腐敗し、軍隊はボロボロでした。
とてもではないが「一人前の国家」ではなかったのです。
これがウクライナ戦争を体験することで「ウクライナ人」の自覚をもつに至ったのですが、それまでのウクライナはロシアのカモにされても仕方がないような有り様でした。
クリミアを奪われても怒りもせず、ドンバスなどの東部2州に傀儡政府をつくられても真正面から戦おうとしなかった、その結果がこれです。
クリミア簒奪時のウクライナ政府はすでにゼレンスキーでしたが、ロシア正規軍が侵攻しているにもかかわらず、外交でどうかなるという誤った考えをもっていました。
「ウクライナ政府は外交圧力によるクリミア奪還をめざしており、2021年8月23日、「クリミア・プラットフォーム」初会合となる首脳会議を首都キーウで開き、合計46の国家と国際機関が参加した。首脳級は14人で、シャルル・ミシェル欧州理事会議長(EU大統領)のほか、ロシアの脅威にさらされている東欧諸国からポーランド大統領、リトアニア大統領、モルドバ大統領が参加した。米独はエネルギー担当閣僚に、日本は駐ウクライナ大使にとどめた。ロシア政府は参加国に対抗措置を警告して「非友好的な行事」と非難した」
ウクライナ紛争 (2014年-) - Wikipedia
ウクライナの希望は虚しいものとなりました。
自国の領土を奪われたにもかかわらず国際社会に解決を求めた結果は、後に大きな禍根を残すことになります。
オバマとヨーロッパは口先だけの制裁しか唱えず、わずかな経済制裁で終わりにしてしまったのです。
これを見て気をよくしたプーチンは次の領土切り取りの段階へと進みます。
「クリミア自治政府共和国」とセヴァストポリ特別市で「住民投票」を実施して完全併合を合法化したのです。
「住民の意志で併合を望んだ」という建前ですが、軍事占領下での「住民投票」なるものは無効です。
しかしこれで完全にクリミアの領土化は完了してしまいます。
しかもこれで終わりませんでした。
次なる獲物は東部2州でした。
ウクライナは東部のドネツク州とルガンスク2州でもクリミアと同様の手段で、ロシアの傀儡武装勢力が決起して州政府を占拠し、後に「住民投票」で併合されてしまうことになります。
このとき結ばれたのがミンスク議定書です。
ミンスク議定書はロシアと2州の傀儡国家、西側諸国(欧州安全保障協力機構・OSCE)の三者で成立したものでした。
すでに合意自体が傀儡国家の存在を前提としており、彼らに「特別の地位を与える」としていました。
ウクライナ東部とロシアに緩衝地帯を作ることが骨子でしたが、これを守ったことなど一度もなく常に武力挑発の震源地でした。
このような無責任なヨーロッパと米国の態度が、西側はウクライナを守らないという信号となりました。
そしてさらにこれが呼び水となって、2021年春のウクライナへの本格侵攻を招くのです。
戦うべき時に戦わないで領土問題を国際間の話し合いで解決しようとすると、こういうことになるのです。
ところでトランプはゼレンスキーの言っていることを「有害だ。何年前のことを言っているのか」と言っていますが、何年たとうと領土は領土です。
日本が事実上北方領土を失ったのは、占守島防衛戦が終わった1945年8月21日でしたが、むざむざと無抵抗で引き渡したのではなく樋口季節一郎中将以下の将兵の英雄的な抵抗が停戦した後でした。
日本軍のこの戦闘での戦没者300名、露側3千人とされています。
占守島の戦い - Wikipedia
つまり、日本はきわめて強い軍事抵抗を見せた後、北方領土を奪われているのです。
ここが決定的にウクライナにおけるクリミア問題とは違う点です。
だから今に至るもそのロシアの違法性を何年たとうが、何十年たとうが日本は北方領土は日本の主権下にあると世界に向けて胸を張って宣言できるのです。
このように考えると、トランプの論法を認めたならば、北方領土は二度と永遠に還ってこないことになります。
そのうち習とディールがついたから尖閣は中国領土とすることにした、なんて言いかねません。
それにしても他国領土のグリーンランドを欲しいといい、隣国カナダはオレの国の州になれといい、国際地名のメキシコ湾はアメリカ湾とするという、この人物にとって小国の主権などハナクソのようなものなのでしょう。
たまらんなぁ。
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日本のトランプ支持者の皆さん、これが奴の本性ですよ
1期目の自由で開かれたアジア太平洋構想も安倍氏とペンタゴンや国務者の側近の意見が一致しただけでトランプの本意ではなかったのですよ。
本音はアジアやヨーロッパの自由や平和(長い目で見ればアメリカへの国益に繋がるのに)もどうでもよく、軍事費の支出と貿易赤字さえ減らせばいいと思っている近視眼的な残念な思考です。
韓国はもちろんのこと、台湾、尖閣、北方領土もディールと称して見捨てられるでしょうな。日本本土だってどうなることやら
投稿: 中華三振 | 2025年4月25日 (金) 09時29分
樋口季一郎中将の決死の戦いがなければ現在の北海道がどうなっていたか、想像するだけでもゾッとします。
また多くのユダヤ人の命を救ったことでも知られてはいますが、なぜか日本では杉原千畝氏の業績は取り沙汰されるものの、樋口中将の名前はほぼ聞かれません。この辺りにも戦後の教育、メディアの歪みを感じます。
話がそれました。
未だ保守系の言論人にはトランプに対して「格が違う」などと持ち上げる方が少なくありません。単に私の浅慮が故かもしれませんが、全く理解できません。
投稿: 右翼も左翼も大嫌い | 2025年4月25日 (金) 16時24分