中国、トランプ出現で戦狼からとりこみ外交へ
トランプが関税戦争を始めたために、世界が蓋をあけたポップコーン状態になっています。
中国もその例外ではなく、いままでの一帯一路という世界戦略をとりあえず置いて、周辺国鎮撫外交に切り換えようとしています。
【北京=三塚聖平】中国外務省は11日、習近平国家主席が14日からベトナム、マレーシア、カンボジアの東南アジア3カ国を歴訪すると発表した。中国はトランプ米政権との間で追加関税の応酬が激化しており、同じく米国の関税圧力にさらされている周辺国との連携を強める考えとみられる。
発表によると、習氏は14、15両日にベトナムを訪れ、15~18日にマレーシアとカンボジアを訪問する。マレーシアは今年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を務めており、習氏は訪問を通じてASEANとの関係強化も進めるとみられる」
(産経4月11日)
習氏が東南アジア歴訪 対米にらみ外交強化 14日からベトナム、マレーシア、カンボジア(産経新聞) - Yahoo!ニュース
実は習は2023年12月にも、ベトナムのグエン・フー・チョン書記長およびボー・バン・トゥオン国家主席の招待を受けた形で訪越しています。
このときは包括的戦略的ハートナーシップを締結していますが、米日露印韓と同列でした。
2023年は、両国の包括的戦略的パートナーシップの樹立15周年にあたる。ベトナム外交上最高位の2国間関係である同パートナーシップ関係にあるのは、中国のほか、ロシア、インド、韓国、米国、日本だ。このうち、米国は9月、日本は11月に同パートナーシップ関係に格上げされている。今回の習氏の訪越は、中越関係を米越関係より上位に位置付ける狙いがあったとみられる」
(ジェトロビジネス短信1月4日)
習近平国家主席のベトナム訪問、2国間関係を深化へ(中国、ベトナム) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
今までの中国はひたすら中国経済圏を拡大しつつ、南シナ海の事実上の内海化を強引に進めてきました。
そのために南シナ海に領土を持つベトナム、フィリピン、マレーシアはこぞって中国に警戒心を抱き米国に接近してきました。
ベトナムとマレーシアは日本が主導したTPP11に入っていて、一瞬ベトナムも自由主義圏に入ったのかと錯覚しそうなほどでした。
習主席がベトナム訪問、「一方的ないじめ」への抵抗呼び掛け 米中貿易戦争受け - CNN.co.jp
ところがトランプが就任して風向きが変わりました。
ベトナムは、アメリカから46%の相互関税を通告され、90日の発動延期となったものの、今後これを減らす個別交渉に苦労するでしょう。
そしてモラトリアムの90日が終わればどうなることかと暗然としているはずです。
一方3カ国歴訪の一週間前の4月8日、中国共産党中央は中央周辺工作会議を招集し、政治局常務委員全員の前で習は「周辺運命共同体の構築」と題した重要演説をしています。
この中で習はこう言っています。
「周辺地域の戦略的意義が強調されました。
「周辺地域は、発展と繁栄のための重要な基盤であり、国家の安全を守る鍵であり、外交の全体計画における最優先事項であり、人類運命共同体の構築を促進する鍵である」「グローバルな視点から周辺を見つめ、周辺工作をうまくする責任感と使命感を高めるべきだ 」「目下、わが国と周辺の関係は近代始まって以来最も良好であり、同時に周辺の枠組みと世界の変局が連動する重要段階にはっている」
つまり、トランプ関税の砲撃が始まり、中国デカップリングの狼煙があがったこのタイミングで、習近平は、いったん人類運命共同体という本来の習近平外交思想の大風呂敷をたたんで、周辺国家に集中して外交リソースを割く、現実的な外交戦略に転換した、ということがこの会議からうかがえます。それは周辺国家、特に中国の裏庭に当たる東南アジア、インドシナ半島の戦略的重要性を再確認し、それら国と中国を分断するのが、トランプ関税政策の狙いにあることがわかったからでしょう」
(福島香織中国趣聞4月15日)
これは中国の世界戦略の転換です。
従来の一帯一路をとりあえず畳んで、周辺国との人民元基軸ブロック経済を構築する方向に転じた可能性があると福島氏は見ます。
「中国はトランプ政権の狙いが、米ドル基軸経済からの中国排除であり、最終的に中国共産党の崩壊であることに気づいているのです。
これに対抗するために、中国はグローバルサウスや一帯一路沿線国を自国陣営につけて米国経済圏よりも大きな市場と人民元機軸経済圏を造ろうと考え、「人類運命共同体」「中華民族の偉大なる復興の夢」といった大風呂敷で大げさなスローガンを掲げたのですが、習近平十年あまりの外交を振り返ったとき、巨額投資を行ってきた一帯一路も、人類運命共同体も実際は失敗であったことが明らかになりつつあります。
それは鄧小平の遺産である中国自由主義経済を習近平が自ら破壊したことも一因で、経済が急減速して広範囲に投資し続ける経済体力がなくなってきたからです。内政の失敗で、有能な官僚や軍人を粛清しすぎて、外交、軍事などの機能も落ちてきたことも要因でしょう」
(福島前掲)
トランプの関税戦争は失敗に終わるでしょうが、皮肉にも共に習の人民元基軸経済圏も失敗に終わるでしょう。
トランプは味方を作らずに貿易戦争を初めてしまいました。
中国のサプライチェーンからのデカップリングが目的ならば、ASEAN諸国や台湾、日本を敵にする必要はなかったにもかかわらず、まず味方叩きから始めてしまいました。順番が逆です。
世界経済に打撃を与え自国経済さえおかしくしてから、本来の敵と戦おうというのですから馬鹿みたいです。
一方、中国も何度か書いているように、経済が急減速しています。
この原因は鄧小平の国家自由主義経済路線を破壊し、社会主義統制経済に転換しようとしたせいです。
それを建て直そうにも、自らの手足となる官僚や軍人の多くを粛清してしまったためににっちもさっちもいきません。
一帯一路なんて世界規模の投資自体が不可能となってきたのです。
そういう時に起きたのがトランプの関税戦争でした。
習としては、足元のアジアをブロック化することしか手がなかったのです。
結局、アジアはこのふたつの勢力の角逐する場となったわけです。
本来ならば、紛争の原因であるはずの南シナ海の軍事要塞を撤去して見せるしかないはずですが、それは自分のやってきたことの否定となるのでできないのがつらいところです。
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国家自由主義経済路線って、なんですか。
投稿: Sum | 2025年4月17日 (木) 22時01分