いいかげんにしろ、ネタニヤフ
トランプが帰国したのを見極めたかのように、イスラエル軍が大規模なガザ侵攻を再開しました。
まぁ、ガザリゾート計画の提唱者が中東にいるときにやったら、いくらなんでも面当てにしか見えませんしね。
「イスラエル国防軍は、ガザ地区での「ギデオンの戦車」と呼ばれる大規模な攻勢の第一段階を開始したと述べている。
「先日、イスラエル国防軍は、ギデオンの戦車作戦の開始とガザでの作戦の拡大の一環として、ガザ地区の戦略的地域を占領するために大規模な攻撃を開始し、軍隊を動員した。これは、人質の解放とハマスの打倒を含むガザでの戦争のすべての目標を達成するためである。」と軍は声明で述べています。
「南方軍のイスラエル国防軍部隊は、イスラエル国民を保護し、戦争の目標を実現するために活動を続ける」と軍は付け加えている。
イスラエル当局者によると、ギデオンの戦車攻勢は、イスラエル国防軍がガザを「征服」し、領土を保持することになるという。パレスチナの民間人をガザ地区の南に移動させること。ハマスを攻撃する。そして、テロ集団が人道支援物資を支配するのを防ぐ」
(タイムズ・オブ・イスラエル5月16日)
イスラエル国防軍は「戦略的地域を掌握している」と述べ、「ギデオンの戦車」と名付けられたガザの新たな大規模攻勢の第一段階を開始 |イスラエルのタイムズ
「ギデオン」とは、旧約聖書の士師に出てくる「破壊者」という意味だそうです。
趣味悪い。停戦と復興と平和を考えねばならぬこの時期になっても、まだ破壊者はないでしょう。
状況判断のパラメーターがイカレているとしか思えません。
ギデオン - Wikipedia
イスラエル、ガザで大規模な地上作戦開始 停戦協議の再開直後、18日だけで135人死亡 - 産経ニュース
Times of Israel がカタールのメディアからとして伝えているところによると、とりあえず、アメリカの監視の元、2ヶ月停戦とし、その間に、恒久的な停戦について話し合われる方向で交渉が進んでいるそうです。
この間に解放される人質は10人で、引き換えに、イスラエル側が解放するパレスチナ人囚人は、200から250人になるとのこと。
イスラエル当局者は、これは最低限であり、ハマスがこれを受け入れないなら、さらに激しいガザ攻撃が続くだけだと言っています。
で、今回の「ギデオンの戦車作戦」は、さらにハマスに人質を返すようにさせるための攻撃ということになるようですが、逆効果もいいところです。
ハマスが人質を返さない理由はただひとつ。怖いからです。
警官隊に包囲された立て籠もり犯の心理と一緒で、人質を全員返したら楯がなくなって皆殺しにされると考えているからです。
だから、釈放した後に、二度と攻撃しないことを約束しろと叫んでいるのです。
ただし、ネタニヤフの思惑は、ここでハマスを根絶することにあるので、むしろハマスが頑強に人質を釈放しないことのほうが好都合です。
爆撃の口実ができますからね。
ですから、この状況を打開するにはハマスが全面無条件降伏をするか、ネタニヤフがハマス殲滅を放棄するかどちらかしかないわけです。
今、残る人質の生存者は21人だと推測されています。
イスラエル国内では、毎週土曜、安息日明けのデモが行われており、ハマスはこれを最大限政治的に利用して、これに合わせて人質のビデオを公開しています。
そのビデオには2名の男性人質が写っており、ぐったりした人質がもうひとりの横たわった者が「もうなにも食べられなくなっている」、と訴えています。
人質生存者は3人減って21人か:ハマスが新たなプロパガンダ映像 2025.5.12 – オリーブ山通信
実に悪魔的な映像です。
これを撮っているのは拉致して監禁しているハマスなわけで、ならば降伏して人質を釈放すればよいだけのことです。
一方イスラエルも、今や誤った方向に突っ走っています。
イスラエル軍のハガリ報道官ですら、去年6月の段階でこう述べています。
「イスラエル軍の報道官が地元テレビのインタビューでイスラム組織ハマスについて「ハマスは思想であり、完全に排除できると考える人は間違っている」などと述べ、壊滅は不可能だという認識を示しました。これに対し、イスラエル首相府は軍は政府の方針に従うべきだとする声明を発表し、地元メディアはネタニヤフ政権と軍との間で緊張が生じていると伝えています。
イスラエル軍のハガリ報道官は19日、地元テレビのインタビューで「ハマスを壊滅、消滅させるという任務は人々に真実を見えなくさせる。ハマスは人々の心に根づいた思想であり、ハマスを完全に排除できると考える人は間違っている」などと述べ、ハマスの壊滅は不可能だという認識を示しました。
また、ハガリ報道官は「すべての人質を軍事作戦で取り戻すことは不可能で、ほかに帰還させるシナリオを見つけなければならない」とも述べたということです」
(NHK2024年6月20日 )
イスラエル軍報道官 “ハマス壊滅は不可能” 政権と軍が緊張か | NHK | イスラエル
この認識はイスラエル軍の情報関係の共通した認識のようで、似た趣旨の発言はなんどもなされていますが、ネタニヤフ政権はまったく耳を貸そうとしていません。
「首相府は声明を発表し「ネタニヤフ政権は戦争の目的の1つにハマスの軍事力、統治能力を破壊することを掲げている。それに従うことが軍の義務だ」として強い不快感を示しました」
(NHK前掲)
要は、ハマスを物理的に徹底殲滅するのが目的だということのようで、そんなことが不可能だと軍が言っているのがどうしてわからないのか。
先に死亡したシンワル兄(ヤヒヤ)に代わってハマスを指揮しているとみられるシンワル弟(ムハンマド)も死亡したと報じられています。
シンワル弟が今のハマスの最高指揮官のようです。
「イスラエル軍は13日、イスラム組織ハマスの最高幹部ムハンマド・シンワル氏を標的にパレスチナ自治区ガザ地区南部の病院を攻撃した。イスラエルの高官や情報筋が明らかにした。
ムハンマド氏は、昨年10月にイスラエル軍に殺害された当時のハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏の弟。ヤヒヤ氏の死後、ムハンマド氏はハマスの事実上の指導者となっている」
(CNN5月14日)
イスラエル軍、ガザの病院を攻撃 ハマス最高幹が標的 - CNN.co.jp
このシンワル弟への攻撃もガザの病院を標的にしており、いかにハマスが人間の楯を使っているからといって、もうこのような再三再四に渡る非人道的攻撃には目を覆いたくなります。
仮にこうしたことがハマスの攻撃を一時鈍らせることがあったとしても、必ず生き残った者から次の指導部が生まれ、新たな戦闘部隊をつくるでしょう。
なぜならハガリ報道官が言うように、「ハマスは人々の心に根づいた思想であり、ハマスを完全に排除できると考える人は間違っている」からです。
ハマスの思想そのものは非実体であり、肉体が滅びても生き続けます。
思想とはそのようなものだと、ハマスらと長年戦い続けているイスラエル軍は分かっているのです。
ネタニヤフは、かつてのようにイスラエルがガザを直接軍政下におくことを目論んでいるのでしょう。
ネタニヤフは都合よく1967年の第3次中東戦争を経て、イスラエルがガザを2005年まで占領し、その間ガザにイスラエル人の入植地を作り続けたことを忘れたようです。
これがうまくいったかと言えば否です。
イスラエル軍を圧制者と見たパレスチナ人は常に暴動を起こし、治安はまったく安定しませんでした。
そのために1993年にパレスチナ自治政府を認めて、自治権を与えるオスロ合意がとなったのです。
しかしこれも自治政府である、旧PLOの極度の腐敗から、ハマスにとって代わられることになります。
おそらく今回二度目のガザ軍政を敷いたとしても、結果は似たような結末になるはずです。
一方、いままでネタニヤフの無条件な支持者だったトランプは変心を開始しています。
「今週のトランプのサウジアラビア、カタールとアラブ首長国連邦への4日間の慌ただしい歴訪は、儲かる投資によって特徴づけられる単なる外交上の見世物以上のものだった。
それは、新たなスンニ派主導の中東秩序の出現を封印した - それはイランの粉々になった「抵抗の枢軸」を覆い隠し、イスラエルを脇に追いやるものだと、三つの地域と二つの西側の情報源は言う。
イスラエルがガザでの停戦に至らなかったことに対するワシントンの苛立ちが高まる中、トランプの歴訪は、大統領が1月に大統領に復帰した後、ワシントンを訪問した最初の外国指導者である米国の親密な同盟国であるネタニヤフにとって冷遇的だったと、その情報筋は語った。
トランプのイデオロギー的ではなく、より結果重視の中東外交のビジョンでは、ネタニヤフはもはや彼の右翼のアジェンダに対するアメリカの無条件の支持を当てにすることができなかった、と情報筋は語った。(略)
しかし、トランプ政権は、ネタニヤフに、アメリカは中東で独自の利益を持っており、彼がその邪魔をすることを好まないというメッセージを伝えたかった、と情報筋は付け加えた」
(ロイター5月18日)
トランプ大統領の湾岸歴訪、中東外交地図を一新 |ロイター
明日詳報しようかと思いますが、WSJによると、ハマスは2022年9月29日の極秘会議で、アラブ諸国とイスラエルの国交正常化が「パレスチナの大義」にとって深刻な脅威となるということを話しあい、10月7日の大規模テロに踏み切ったようです。
つまり第1次政権の時の遺産であるアブラハム合意をハマスは恐れていたわけです。
トランプはこの中東歴訪でいっそうサウジ主導を盛り立てました。
いままでイスラエルしかなかった米国の外交拠点がもうひとつ増えたのです。
一方、あまりに頑迷なネタニヤフにトランプは匙を投げています。
ですから彼が訪米したときは、面会しないことで不快感を伝えました。
そもそもトランプは実利があるかなしかが判断基準の男です。
イスラエルは支援を要求するばかりでなんの富も産み出さない、新たな同盟国であるサウジ、カタール、UAEは新しい事業で米国に富をもたらす、そう考えているようです。
ちなみに、今回の歴訪でカタールには米国製武器を売りつけたようです。
「トランプ大統領は、14日にカタールと締結した防衛装備品調達契約は420億ドル相当と明らかにした。このほかカタール航空のボーイング機購入契約も締結した」
(ロイター5月15日)
トランプ氏、UAE到着 カタールでは米軍基地への100億ドル投資を歓迎 | ロイター
「その後トランプ氏は、3番目の訪問国アラブ首長国連邦(UAE)に到着。アブダビ国際空港でムハンマド大統領の出迎えを受け、シェイク・ザーイド・グランド・モスクを訪問した。
ロイターは14日、米政府が暫定的な合意として、UAEが今年からエヌビディア(NVDA.O), opens new tabの最先端人工知能(AI)用チップ50万セットの輸入を認めると伝えた。
トランプ大統領の歴訪の最終行程ではAIが焦点となる見通し。バイデン前政権下では、中東などへの米国製AIチップの輸出に厳しい制限を課していた。トランプ大統領は、一部湾岸諸国との関係改善を政権の重要な目標に掲げている。湾岸諸国、特にUAEで提案されている半導体関連の取引がすべてまとまれば、AI競争において同地域は米国、中国に次ぐ第3のパワーセンターになる可能性がある」
(ロイター前掲)
ベタベタに甘い贈り物です。
一方、イスラエルには立ち寄りもせずにパスでした。
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昨日のお題との合わせコメントになる勝手を先に謝罪します。
・シャラア暫定大統領は既に、「全てのシリア人の参加を必要とする多様で包括的な移行政府をつくる」方針を明らかにしている。
・シャラア暫定政権は行方不明者捜索委員会を立ち上げた。
「アサド政権と数々の武装グループによって失われた10万人を超える魂を探し出す人道の取り組み」という。
・シャラア暫定政権はアサド政権残党の犯罪者の捜索、逮捕を進めている。
・シャラア暫定政権は各地に散らばる小規模武装グループに対して、期限を設けて国防省に参加するよう促している。
(以上BBC、ロイター、CNN、黒井氏、常岡氏などの報道と、複数の現地情報の翻訳による)
中東情勢もまた偽情報流布による操作の宝庫なので、クロスチェックし、疑い、観察するのは当然。
それでも、「HTSはアルカイダだからシャラアだって恐怖と独裁で支配するに決まってる!」は親アサド側による誘導で、メタな考え方としてある「(己がそうだから)あいつもそうに違いない」によるものだなと、それを見慣れている沖縄県民のアタクシとしては思うわけです。
疑えば何処までも疑い続けられる。しかしながら、流布される「シャラアはアルカイダなんだから云々」情報とは真逆のことをシャラア暫定大統領と暫定政権が実行し、多くの新生シリア国民があまりにも酷すぎたこれまでを変える希望を持っている現在がある以上、EUや米国が推移を見守りながら制裁解除や復興支援を計画し、我が国も足並みを揃えて制裁解除へ動いていくのは当然のことです。
それが「これからの成り行きを問わない」ことになるわけではないので、見守る最中に状況が変われば、その時はその時。
本質や肝を見失わなければ、誰かのビジネスとか誰が誰を大好きかとか、アタクシにはある程度は割とどうでもよし。目に入れて見失わずにいるべきものを保ち続けられるなら、ですがね。
そしてイスラエルとハマス。
プーチンの言葉を借りれば、「危機の根本原因を除去する」しかないのでしょう?ならば少なくとも、ロシアもウクライナも、イスラエルもパレスチナも全員全部、人と国土まるごと全て地球から消滅するしか無い。
でもそんなの良いわけないでしょう?
何処の誰であろうと、「だからといってそれをやっていいことにはならない」世界を、ビジネスも信条も宗教も柵(しがらみ)も面子も甘えも他責志向も羞恥心も乗り越えて具現化できたらどんなにマシだろう…と途方に暮れる気分になるだけのアタクシ。
投稿: 宜野湾より | 2025年5月20日 (火) 11時55分