農水省ゴスプランの失敗
分かっていると思いますが、「コメ2000円台」というのは一瞬です。
いまでも高いままの当年米や銘柄米、ブレンド米は下がっていませんが、新米になっても高値は続くはずです。
だってそうでしょう。今年作付けの新米は今の高値を期待して作付けしたのですからね。
「コメ2000円台」というのはあくまでも備蓄米、すなわち古米価格です。
だから緊急時のバンドエイドみたいなもので一時のもの、ほんとうに妥当な価格を維持したいならその先に待ち構えている生産量を確保しなければなりません。
もちろんそんなことは小泉ジュニアもわかっていて(ゲル氏も分かっているはずです、元農水大臣ですからね)「減反は止める」と明言しています。
言っている人が軽量級の人なので、どうも眉に唾をつけてしまうのですが、それなりに本気のようです。
「これまで政府は備蓄米の放出にあたって具体的な価格には触れず、市場介入しないとの立場だった。首相と小泉氏は方針転換を鮮明にしている。小泉氏は高騰する米価を落ち着かせた上で「消費者、生産者ともに納得できる(価格の)一致点を見いだす」構えだ。
事実上の減反政策をやめ、コメの増産を推進。作りすぎて余った場合は輸出したり、価格が下落した際は農家に補償したりする方策を検討している」
(産経5月27日)
「忖度しない」小泉進次郎農水相、農政転換に着手 減反廃止でJAは反発か - 産経ニュース
減反なんかとっくに終わっていると言う人がいますが、なにをおっしゃる兎さんです。
終わったという2018年以降も、生産量管理を行い補助金を使って「事実上の減反」を続けてきているじゃないですか。
そんなことは農村に行けば誰でも知っています。
この「事実上の減反」というのはあらかじめコレコレの量を作るべしというお触れを出して生産農家を従わせるのですが、冷夏になったり、ウクライナ戦争のように国際穀物市場が高騰すれば影響が出て、当初の目論見と大きくズレていきます。
今年のコメの高騰は24年産の主食用コメは例年どおり収穫できたにもかかわらず、集荷量が前年より21万tも少なくなったのが引き金となりました。投機筋だという説がありつすが、よくわかっていません。
ただし根本原因はわかっています。農水省の生産量予測の失敗です。
農水省が米価を維持するために需給を非常に狭い幅で管理してきた結果、消費需要が少し増えただけでも、需給ギャップが起きてしまう脆弱な構造があるからです。
社会主義じゃあるまいに、こんなガチガチの計画生産を農水省ゴスプランが立てれば、モロモロの流動的要因でコケてあたりまえです。
ゴスプランとは、今はなきソ連の国家計画委員会のことですが、発想がそっくりなのでこう呼ばしてもらいます。
農水省ゴスプランの国家官僚たちは数字の世界に生きていますから、生ものである市場経済を知りません。
自分の管轄の堂島取引所を注意深く観察していれば、米価が上がる兆候やその後の推移は把握できたはずなのに、なんの手も打ちませんでした。
大阪にある堂島取引所は、世界初の穀物先物市場で、穀物市場を巡ってZとゴスプランが利権争いをしているそうですが、置きます。
この間のコメ相場はこうなっています。
今回の高騰の発端は、前年度から24年産に切り替わる端境期で品薄になって一時的にコメが店頭から姿を消すか、あっても高値で販売されたために消費者がコメパニックになったことから始まっています。
しかも端境期なために旧年度産を店頭から下げて新米に切り換えたためにいっそう品薄となったようです。
こうなると、例のトイレットペーパー・パニックと同じ消費者心理が働いて、われもわれもと新年度米に飛びついていっそう品薄に拍車を掛けるという負のスパイラルに突入してしまいました。
コメ高騰の原因を取り除くには、増産するしかありません。こんなことは子供でも分かるリクツでしょう。
今回、さすがに農水も食糧管理を温存させたままで増産はするようです。
しかし去年あれだけはずした農水ゴスプランに、また同じシステムでやらせようというのですから、民間企業では考えられません。
しっかりした供給を確保するためには、コメを作らせないために存在している生産量調整そのものを廃止せねばならないのはわかりきっているはずなのですが。
自給率の向上を唱えながら、コメを勝手に作るな、手を抜け、増産したらしょッ引くぞ、という悪名高き減反を止めないでどうこうしようとするほうが太い根性です。
もっとも食糧の基礎であるコメは基幹インフラのようなものですから、丸々自由化するのではなく、一定幅で備蓄米を国家が買い上げたり、輸出用として別枠でにするていどの一定の国家管理は残すべきですが。
とまれ、「米を食べることが自給率の向上だ」という食育を提唱しながら、一方で農家に「米を勝手に増産するな」と世界最大の農業生産カルテルを他ならぬ国が強制する矛盾を直視すべきです。
私は戦後農政の最大の失政は、減反にあると思っています。
日本の農家のやる気を削ぎ落とし、ただ作れば国が全量買い上げてくれるような張りのない農業にしてしまったのも、この減反というまさに悪政が根っこにあるのです。
ここから変えていかないと、また今年のようなことが起きるでしょう。
ただジュニアは分かっているでしょうが、これに手をつけるのは今年の収穫以降でけっこうです。
コメの自由化は輸入の完全自由化も含む問題です。
「日本米」は和牛に並ぶような大きな輸出商品になりえます。
そう考えて、ミニマムアクセスなんて言っていないで、輸入も解禁することです。
まぁここでコメ関税をなくすなんていったら、いまの日米関税交渉でとてつもなく大きなカードになりえますが、手柄を焦らない。
農政改革は、小泉パパの郵政改革なんぞよりはるかに巨大なテーマなんですから。
もう既に今年収穫の作付けは終わっていますし、じっくりとやって下さい。
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全くもって、戦後の農水政策は社会主義かよ!と。
そんな設計主義で大失敗して滅んだのがソビエトで、その3年後には平成の米騒動だったんですけどねえ。そんな算盤通り(時代的にはパソコンか)には行かない典型がお天気任せの農業です。
30年も農水省は何をやっていたのやら。
小規模農家はひたすら楽して(楽にするのは悪くないけど新しいアイデアがあれば)適当な収量を農協に納めておけば良いので、最低標準だけ守ってるだけで当然意欲は無くなります。コルホーズや人民公社と同じで「努力して収量増やす意味が無い」ですからね。
同時期に狭い国内で食味とブランド競争ばっかりやってたけど、反収は増えていません。
まあ93年の経験で冷害に弱い品種が一気に淘汰されて、最近は冷害にも猛暑にも強い品種が開発されてるのがちょっとした救いですね。
農業はお天気次第です。一部の葉物野菜を除いて「植物工場」というわけには行きません。
ちなみに果樹類だと今年はメロンやスイカが豊作になりそうだけど、サクランボは受粉期に低温被害があった上に灰星病発生で2年連続で不作です。
投稿: 山形 | 2025年5月31日 (土) 07時20分
米の消費量が減っている事実を忘れないで下さい。以前「減反政策は未だ続いている」というデマを鵜呑みにして米価高騰の一因に挙げていましたが、一昨年までは米価が下落傾向にあった事を忘れないで下さい。
投稿: | 2025年5月31日 (土) 07時32分
誰だかしらんけど、「減反政策は未だ続いてる」のはデマでもなんでもなく事実でしょうに。
国民一人当たりの米の消費量が半世紀で半分に減ってますけど、それは関係無い話ですよね。じゃあ麦や蕎麦に転作しますか?で、補助金無しでの農家所得はどうなるんでしょうか。
なんなら輸入小麦粉の政府保証売り渡し価格を廃止できますか?
そんなことは全く別問題ではないかと。
米が既に主食ではなくパンや麺類ばかりの人のことなんて知らんがな。
農水省は食料自給率の低さを強調しながら減反政策を維持し続けて来たのが遂に破綻したという話てす。
過去30年のブランド米競争をしながらも価格は下がり続けてきた。
バブル崩壊後に給料か上がらずにデフレに慣れてそれが当たり前だと思ってきた消費者にもかなり問題があると思うのですが。
それにしても去年の春から1年で米価が2倍になったことの話なんですけど。。
米を国民消費者が買わなくなったと言うのなら、何故に値段が急激に上がったのやら!?
何らかのエビデンスを提示した上で、対策案も含めて反論して下さるのをお待ちしてます。
事態はそういう段階ですし、既に周回遅れの話ですよ。
投稿: 山形 | 2025年5月31日 (土) 10時24分
えーと、減反政策に手をつけ始めたのは安倍晋三元首相で、もう反論の機会が無い故人について何かを断じたりはしないと前置きした上で、当時の事実としては「生産数量目標の廃止」であって、作らなければ補助金を出す政策は続いていると記憶しております。
人口減や高齢化、ライフスタイルの変化等々で米の消費量が減っているのも事実ですが、それがどうとかいうよりも、量的にカツカツでやって遊びが無い故に、天候事情・中食外食需要増・インバウンド需要増などで一時的複合的に起きる条件の変化を吸収できないってことではないですかね。
国内分が「非常事態」になる時は、輸出分の調節(と備蓄分)でパニクらない対応ができたらよいのではと考える次第。
投稿: 宜野湾より | 2025年5月31日 (土) 11時07分