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2025年5月16日 (金)

米中、自由主義圏の頭越しに手打ち

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米中が関税交渉で手打ちをしてしまったようです。

「アメリカと中国は、スイスで行われた貿易協議での合意を受けて、日本時間の14日午後1時すぎ、これまで互いに課していた追加関税を115%引き下げました。引き下げた関税のうち、24%については撤廃ではなく90日間の停止となっていて、両国は今後、アメリカが求める貿易赤字の解消などに向けて協議を進めることになります。
アメリカと中国は、今月10日から2日間、スイスのジュネーブで行った協議の結果、互いに課していた追加関税を115%引き下げることなどで合意しました。
これに基づき両国は日本時間の14日午後1時すぎに関税を引き下げ、アメリカのトランプ政権による中国への追加関税は145%から30%に、中国によるアメリカへの一律の追加関税は125%から10%になりました。
引き下げた関税のうち24%については撤廃ではなく90日間の停止となっていて、両国は今後、経済や貿易関係について協議を進めることになります」
(NHK5月14日)
アメリカと中国 互いの追加関税を115%引き下げ 中国への追加関税は30%に アメリカへの追加関税は10%に | NHK | 関税

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  NHK

トランプは上機嫌でこんなことをSNSに投稿しています。

「トランプ大統領は10日夜、日本時間の11日午前、SNSに投稿し「中国とスイスでとてもよい協議が行われた。たくさんのことが話し合われ、多くの合意があった。完全なるリセットについて友好的で、建設的な方法で交渉が行われた。われわれは、中国とアメリカ双方の利益のために、アメリカの企業に中国が開放されることを望んでいる。大きな進展があった」と強調しました」
(NHK5月11日)
トランプ大統領“大きな進展”米中貿易協議 初日終えSNSで強調 | NHK | 関税

いわば出来試合です。初めから落とし所が決まっていて、予定通り短時間でそこに落としました。
ベッセント財務長官は中国から米国へは30%というラインを狙って、予定通りそこで妥結に持ち込みました。
一般的に、米国への輸出品の平均的な採算ラインは関税率35%前後で、それ以上では輸出をすれば赤字になり、しないほうがましということだそうです。

30%だとかろうじて輸出が成立すると言われています。
中国としては、たぶんその5%分を輸出補助金のような国内助成でカバーする気でしょう。
WTO違反ですが、そんなことはずっと中国はやってきました。

つまり、今後もなんの支障もなく米国への輸出は続けられるということになります。
これでトランプが、中国とのデカップリングをまったく望んでいないということがはっきりしました。

トランプが本気で中国と戦う気があるなら、最善の策は中国の軍事膨張と権威主義的ルールの改悪との戦いという大義の下に同盟国を集結させることのはずですが、トランプはまったく関心を示さず、むしろ味方を窮地に追い込んで悦にいっています。
米国を中心とする巨大な自由貿易圏を作る気なら、1期目に中国が参加を拒否されていたTPPを強化すべきだったのに、逆にそこから離脱し、貿易面で中国を孤立させるための絶好のチャンスを逃しています。
中国はTPPに拒否されて以降、ACFTA(中国ASEAN自由貿易協定)などを作って、中国経済圏を強化してしまいました。 

いいかげん目を覚ましなさいと思いますが、いまだトランプ愛好者の皆さんはトラ関税を、中国包囲の形成だ、チャイナ・デカップリングが始まった、国内に製造業を呼び戻すためのだと言っていましたが、これでわかりましたか。
トランプには、中国と対決する気などさらさらないのですよ。
今回の交渉でなにか米国内に製造業回帰の兆候でもありましたか。
ナッシングです。そもそも米国には製造業を盛んにするだけの技術や人材が、この半世紀で完全に欠落してしまっているのです。

たとえば造船業です。
第2次大戦時のイメージからか、米国は圧倒的な工業生産力を持ち、軍艦を大量に造っていると思われがちですがとんでもない。
今の米国の造船能力には他の製造業と同じで往時の姿はありません。
それまでかろうじて軍艦だけは作ってきたのですが、冷戦終結による軍縮、予算削減にともないそれも大幅に削減されてい、よもや軍艦を中国につくらせるわけにもいかず韓国に頼むかというところまで追い詰められています。

USスチールだって、経営体力だけではなく技術力がどうにもならないほど落ちてしまい、日本製鉄に助けてもらわねば潰れるしかなかったのです。
日鉄が買収という手段を使わざるを得なかったのは、子会社化しないと技術がダダ漏れしてしまうからです。
資本が少なくて済む繊維・アパレルなど、とっくに米国から離れてしまいました。

そういう所に手を着けないで、関税だけでどうにかできるということ自体が拙速の極みです。
ただ手柄が欲しいだけでスタンドプレーを「やって見せた」だけのことです。

スイス・ジュネーブで12日朝、記者会見に臨んだベッセント米財務長官は、「双方は、デカップリング(切り離し)も禁輸も望んでいない」と言い切った。高関税による弊害の回避は、2日間の交渉を担った米中両国代表団の「コンセンサス(合意)」だったとも強調した。
両国が協議についたのは、米国から中国に145%、中国から米国に125%という異例の高関税を掛け合う事態を受けてのことだ。これほどの高関税下では通常の貿易の継続は難しく、米中双方の経済に良いことがないのは明らかだ。ベッセント氏は会見でこの点を踏まえ、「私たちは利害を共有している」という趣旨の発言を繰り返した。高関税の削減は米中双方の意思だったことを演出したものだ」
(朝日5月12日)
一転して関税削減合意、トランプ氏が急いだ理由 中国は自信深めたか [トランプ関税]:朝日新聞

もっとも一方の中国はこれで妥結したなんてまったく思っていないようで、こんなことを言っています。

「中国メディアの論評は、米側は「一方的な関税の慣行を正すべきだ」と繰り返し強調しています。 人民日報は5月10日付で、中米間の1回や2回の関税交渉で問題を解決するのは非現実的だとコメントしまています。中国は実際は「持久戦」を覚悟しているようです」
(福島香織中国趣聞5月13日)

目先の手柄にばかり気を取られて、ジグザグを繰り返し、出とこ勝負のトランプに中国を追い詰められるはずがありません。
かたや同盟国で妥結の方向に向かっているのは英国のみで、9割のトラ関税を吹っ掛けられた国々はいまだなんの光明も得ていません。
それなのに、ああそれなのに、主敵である中国とはさっさと手仕舞ですか、いい気なもんだ。
これではトランプの関税戦争は、同盟国と自国民を困窮させるためにやっているようなものです。

わが国の主要製造業である自動車産業は、首を並べて大幅な減収予測を出しています。

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Bloomberg 

「国内主要自動車各社の決算が14日までに出そろった。米国の関税政策により通期では数千億円規模で営業利益を押し下げると見込む会社もあり、改めて影響の大きさが浮き彫りとなった。
ホンダが13日、今期(2026年3月期)に関税影響で6500億円の減益要因を見込み、今期の営業利益予想は前期比59%減の5000億円とした。現時点で試算できる金額を全て反映したという。
トヨタ自動車は4-5月だけで関税が営業利益を1800億円下押しするとの見通しを示した。一方、関税影響として最大4500億円を見込むとした日産自動車は通期の利益見通しについて公表しなかった」
米国販売のおよそ半分を日本からの輸出で賄うSUBARU(スバル)の大崎篤社長は14日の決算会見で、関税が年度を通じて続き何も策を講じない場合に同社が受ける影響は約25億ドル(約3700億円)との見通しを明らかにした。同社は関税政策の動向など不透明な状況が続いていることを理由に今期の業績見通しは見通しとした。
国内自動車メーカーではマツダも通期の業績予想の公表を見送った」
(ブルームバーク5月14日)
トランプ関税が日系車メーカーの利益圧迫、大手3社は数千億円規模に - Bloomberg 

ダンピングをしたわけでもなく、粗悪な欠陥品を売ったこともなく、米国の雇用を奪ったのでもなく、米国の消費者から絶大な支持を受け、なんの罪科もないあたりまえの貿易行為をしていたらこんな狂ったような高関税を吹っ掛けられて、一気に予想もしなかった大減収とリストラの嵐です。
こんな馬鹿げた貿易戦争など聞いたことがありません。まるでヤクザの言いがかり。

米国自動車産業すら、グローバルサプライチェーンを破壊されて悲鳴を上げています。

「トランプ米大統領は、米国の自動車産業を脱輪につながるほど荒々しく運転しようとしている。26日の記者会見で、トランプ氏は自動車と部品に25%の関税をかけると発表したが、国境をまたぐグローバルなサプライチェーンを危険にさらすようなものだ。影響は自動車メーカーの総利益に匹敵する規模になるかもしれない。自動車は戦略的価値の高いセクターだが、これはあまりに速く、あまりに行き過ぎた措置だ」
(ロイター3月27日)
コラム:「制限速度」無視の米自動車関税、供給網の破壊招くリスク | ロイター 

ウォールストリート・ジャーナルは4月10日付け社説でこう述べています。

「トランプの対中政策には戦略が欠けており、対中問題の解決のためには同盟国の力が必要だがトランプは関税で同盟国を痛めつけている。
トランプが4月9日に関税の一部を停止したことを「勝利」として売り込もうとするホワイトハウスの情報操作には、思わず笑ってしまう。現実には、トランプは行き当たりばったりで動いており、特に中国への戦略が欠けている。
ベッセント財務長官は、米国の貿易政策の目標は最初から、中国を主要な違反国として孤立させることだったと述べた。略奪的な貿易慣行を考えると、中国に対し他と異なる対応を取ることには正当な理由がある。米国に対するサイバー攻撃、知的財産の窃取、中国での米国企業への不平等な扱い、新型コロナウイルスを巡る数々の嘘などだ。
しかし、トランプ、ベッセントが中国に何を望むのか、その達成のために如何なる戦略を取るのかは明確でない。米中の全面的なデカップリング(切り離し)を望んでいるのか。
145%という関税水準は、それを示唆している。しかしそれでは、短・中期的に経済的な大混乱になる。
米中は約6000億ドルに上る貿易取引を失うか、他の調達先や行き先を探すかの選択を迫られる。重要な物品に対する戦略的デカップリングの方が理に適っている」
(WSJ4月10日)

Does Trump Have a China Trade Strategy? - WSJ


まことにそのとおりです。
トランプがやっているのは同盟国に手ひどい打撃を与え、自国民と米企業を貧しくすることです。
トランプはとうとう外国で政策された映画にも100%の関税をかけると言い出しています。
そうなれば多くを外国で作っているハリウッドは、どえらいことになるでしょうな。
とてもじゃないが正常とは思えません。

なにがメイク・アメリカ・グレート・アゲインだ。
自国民と同盟国を踏みにじってナニを言っていやがる、不動産成り金め。

 

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コメント

造船業なんか、原潜や空母は作る技術があるけど商船なんかとっくに壊滅してますからね。タンカーやコンテナ船といった民間の主力船舶は日本でさえ市場を韓国と中国に奪われて青息吐息で大手が大合併して耐えてる状態。
日本からも働きかけているようですが、米国造船の日本委託はwin-winだと思うんですが。

鉄鋼なんざUSSは「電炉」の技術だけ最先端なだけでシェアも資本も無く高コストで設備老朽化。日鉄傘下に入るのがベストマッチなのに米国内の弱小ライバル企業トップの連盟代表が「パールハーバー」まで持ち出して日本を口汚く罵る演説してトランプさんのご機嫌取りする始末。

アパレルに至っては論外。
まあ民主党政権でもそれこそ「ウイグル産の生地がぁー!」と騒いでましたけど、市場の小さいハイブランドはともかく長年世界一だったリーバイスが日本のバブル期にレナウンにトップを奪われて真っ先に中国に工場建てて米国内には工場が無くなってます。まあレナウンもその後にユニクロ他の低価格ブランドに食われて壊滅しましたが。
リーバイスはなあ、10代の頃から愛用しているけど型番が随分と整理されちゃってUS-505-02(元祖モデルでボタン留め501のジップタイプ)が無くなったり···ほぼ同じなのが現在632だっけか?一応現物のバッジには「Lot505」の焼印入ってるけどチャイナ製です。値段は高いので普通にこだわりの無い人はユニクロやしまむらのを買うでしょう。

いつも楽しみに拝読しております。
トランプのコストは、米国内では米国民がスタグフレーションで負担する一方、米国へファイナンスしている同盟国は、米国債売りで応えることになると思っています。こんな滅茶苦茶な国の通貨は基軸通貨ではいられなくなって、経済の地域ブロック化が進んで行くとすると、米国中心で成り立っている世界の安全保障の仕組みがどうなるのかが気になります。
しかもこんな時期に石破首相ですし。

 トランプが好きなのは専制主義体制の国家や指導者で、それは習近平でも例外ではありません。強権で従わせるべき敵は西側諸国であって、そこはブレていません。ウクライナの「30日間の無条件停戦」を通じた「プーチン、非戦論の嘘あばき」も、トランプの無為無策とプーチン好き嗜好によってアホな顛末に帰しそうです。
もっとも痛々しいのは、我が国の保守層がすべからく「トランプ愛好者」であるという事で、WILLやhanada,はたまた正論誌までもがそういう論者であふれている醜悪。私自身、保守的な立場に親和性がある者ですが、これらいいかげんな保守言論人の連中にはほとほとウンザリします。
最初に読んだ時は「まさか!」と思いましたが、今読み返してみると全体としてボルトンの著書の通りです。
チキンであり無知蒙昧。自己顕示欲と承認欲求の塊りであって、保守というよりも悪しきリベラルに近いマインドの強欲ビジネスマン。それがトランプです。

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