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2025年5月13日 (火)

パキスタンの影の支配者・中国

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印パはとりあえず完全停戦になったのは、めでたいことではあります。
もちろんこれは山路さんがご指摘のとおりトラ親方の手柄でもなんでもなく、双方共にこれ以上やると損だから止めただけのことです。
インドは緒戦の空軍対決でふいをつかれて思わぬ惨敗を喫し、その原因は中国製の戦闘機と長距離対空ミサイル、そしてS-400という戦略的といっていいほど射程が長い(400㎞もあります)地対空ミサイルシステムの存在でした。
これらの背後には中国がいることは確実で、たぶん軍事顧問もいるはずです。
インドとしては、中国とまではことを構える気がなかったわけで、パキスタンに「負けた」というより、「中国の影」に怯えて、エスカレーションを止めたのです。

インドは中国をまったく信用していませんし、潜在的な最大の敵と認識しているはずですが、かといって殴り合う関係は望んでいません。
2020年に、ヒマラヤのてっぺんで双方共に素手で殴り合うという紛争をした後、2年間ほど冷却期間を置いて去年手打ちをしたばかりでした。

「国境問題をめぐって対立してきた中国とインドの首脳会談が5年ぶりに行われ、今後、特別代表団による対話を通じて関係改善を目指すことで合意しました。BRICSの首脳会議でロシアを訪問した中国の習近平国家主席とインドのモディ首相は日本時間の23日夜、5年ぶりに正式な首脳会談を行いました。
このなかで習主席は、「競争相手ではなく協力パートナーであるという共通認識を堅持し、ともに発展するための道を探っていくべきだ」と強調し、モディ首相も、「両国の関係は、世界の平和と繁栄、安定にとっても重要だ」と述べ双方が関係改善を目指す姿勢を示しました」
(NHK2024年10月24日)
5年ぶり中印首脳会談 関係改善を目指すことで合意 | NHK | 中国 

もとより中国とて、インドなどという腹にナニを隠しているかわからず、かつ人口と経済においていまや中国を陵駕しようとするライバル国なんぞこれっぽっちも信用しているわけはありません。
なんせインドは中国にいいようにあしらわれないように独自核武装さえしてしまった国で、しかも歴史的にはヒンドゥ国家でありながら共産圏の武器体系を導入して米国と張り合った歴史を持つ国ですからね。
いわば「アジアのフランス」のような国なのです。
それにしてもよくこんなスタンスの国が「反覇権国連合」であるFOIPに参加したものだと思いますが、これも故安倍氏の人徳あればこその奇跡でした。ゲルさんなど逆立ちしてもできっこない。

その中国がヒマラヤ越えで手を結んでいるのが、敵の敵であるパキスタンです。
このヒマラヤルートをカラコルム・ハイウェイと呼びます。
私もかつてここを踏破し、今回紛争が起きたカシミールも旅しました。
その前年には1カ月間、インドも回っていますので、肌感覚で見えてきます。
カラコルム・ハイウェイ - Wikipedia

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カラコルムハイウェイを北上せよ! - to the unknown ground

カラコルム・ハイウェイは、パキスタンの首都イスラマバードと、中国新疆ウイグル自治州を結ぶ920kmにも及ぶ交易路で、1958年に両国の合同事業として建設を開始し20年の年月をかけ、ヒンドゥークシュ山脈・カラコルム山脈・ヒマラヤ山脈の三方に囲まれた高地に道を通すという難工事でした。
いまやそれは延伸されてパキスタンのバローチスターン州内のグワーダル港につながっています。
グワーダル - Wikipedia

「パキスタンも一帯一路構想に入っている。それだけではなく中国とパキスタンの間にはCPEC(China-Pakistan Economic Corridor,中パ経済回廊)という構想が、一帯一路より早い2013年から動いている。これは中国西部を外洋に出る港と結びつける狙いがあり、具体的には中国の新疆ウイグル自治区からカラコルム・ハイウェイを通ってパキスタン国内に入り、南下してアラビア海に至るルートを確保しようとしているものである」
(近藤高史)
日本戦略研究フォーラム(JFSS) 

これは圧倒的に優勢なインド海軍にインド洋を押さえられた場合に、陸路で中国と繋がろうというパキスタンの思惑と、中国の新疆ウイグル自治区からカラコルム・ハイウェイを通ってパキスタン国内に入り、南下してアラビア海に至る一帯一路ルートづくり構想が一致して出来たものです。
中華帝国から四方八方に伸びる交易路、すべての道は中華につながる、これが習近平が描いた「中華の夢」です。

思えば、ベトナム侵攻の時に中国が使った言葉が皇帝が臣下に使う「膺懲」(ようちょう)ですから、アナクロの極みで、現代の話とも思えません。
膺懲の意味は懲らしめること。しかも対等な関係ではなく、歴代の中国王朝が冊封国に使った表現です。
中国がどういう眼で周辺国を見ているか、判ろうというものです。
彼らの脳みその中身は古代から不変で、常に中国は周辺国に三つのことを要求します。

ひとつめは、中国に服従を誓う従順な姿勢。
二つめは、国を安定させること。
三つめは、中国の国家戦略への絶対的服従です。

「服従・安定・従属」、香港国安法でも同じことを言っていましたが、逆に嫌うのは、自由主義諸国と友好関係にあって「帝国主義の走狗」がうじゃうじゃいるような国です。
彼ら西側の走狗共は、いつ何どき米国に寝返るかわかったもんじゃないので、ほんとうはきれいさっぱり属国にしてしまいたいと考えています。
その一番の良き子がミャンマーの軍事政権で、彼らは期待に答えて軍事クーデターを行い、民主派を徹底的に弾圧しました。
カンボジアはひたすら恭順です。

パキスタンには海に出る陸上ルートを求めました。
かつてロシアが温かい海を求めて南下したことで世界は動乱に叩き込まれましたが、いまの中国も同じように海に抜けるルートを作り続けています。
中国大陸沿岸は浅瀬が続いているために大型船が停泊できる良港に乏しいうえに、いったん米国と戦争になれば数日で機雷封鎖されてしまうといわれています。
だからその場合にでもサバイバルできる陸路で海洋に抜けるルートが欲しいのです。

このカラコルム・ハイウェイのパキスタン側の入り口こそが、今回の係争地であるカシミール地方であるのは偶然ではありません。
パキスタンはこの係争地カシミール地方が将来の火薬庫になることを見越して、その戦略的保険として中国の軍事的支援を得るためにこのルートを通したのです。

一方、パキスタンも緒戦に勝利したものの、戦闘を継続する力はもう残っていなかったようです。
元々パキスタンは、国力でいってもはるかにインドに及ばない上に、2023年から大規模な水害に見舞われて国土の3分の1が水没するという経済的困窮のさなかにあります。

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日本赤十字社

「2022年6月以降、パキスタンではモンスーンによる豪雨と深刻な熱波に続く氷河の融解の影響によって大規模な洪水が発生し[3]、政府によると国土の3分の1が水没した。死者は1,678人を超えており、全人口の約15%に当たる3300万人以上が被災している。8月25日、パキスタンは洪水のため非常事態を宣言した。パキスタン政府は、今のところ、洪水による損失が400億ドルに上ると見積もっている」
パキスタン洪水 (2022年) - Wikipedia

赤十字によれば、パキスタン全国で洪水、鉄砲水、地滑りなどが起こり、100万棟以上の家屋が損壊し、70万頭以上の家畜が失われ、更に3000km以上の道路と約150の橋が被害を受けるなど、インフラにも大きな影響を与えています。
【速報】パキスタン洪水:国土の3分の1が水没・日本赤十字社は海外救援金の募集を開始|トピックス|国際活動について|日本赤十字社

農業は壊滅状態で、ウクライナ産穀物の輸出がロシアによって阻害されているために食料難さえ起きています。
そこに燃料の高騰が被ってしまい、泣き面にハチ。
とてもじゃないが隣の軍事大国と戦争をするような余裕はなく、それどころか一昨年の2023年2月から3月の間にイギリスを通じてウクライナに122mmロケット弾17万発、155mm砲弾6万発を輸出し、3億6400万ドルの収益を得たと伝えられています。
またイスラムが国教でありながら、恥もかなぐり捨ててイスラエルにも砲弾を売却したようです。
軍は政府の財政難の煽りで、いかにサイフがカラッポなのか分かろうというもので、予算が2022~2023年は国家予算の16%に削減されています。

こんな中で起きたのがカシミール地方のテロで、まるでガザのハマスを思わすような悪質な無差別テロでした。

「インドとパキスタンなどが領有権を争うカシミール地方のインド支配地域で22日、武装集団が観光客らを銃撃し、地元民放NDTVによると少なくとも26人が死亡した。負傷者も10人以上に上っており、当局はテロとみて捜査を始めた。
現場は、美しい渓谷などから「小さなスイス」と呼ばれる北部ジャム・カシミールの人気リゾート地パハルガム。NDTVは目撃者の話として、森に潜んでいた武装集団が無差別に発砲を始めたと報じた」
(読売4月23日)
カシミール地方で武装集団が観光客ら銃撃、少なくとも26人死亡…インド首相「極悪な行為」と非難 : 読売新聞

これを受けてインドは即座に報復を開始し、それに呼応してパキスタンも制裁を課して報復合戦となりました。
 ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

この紛争の原因を作ったのはインドです。
インドはいままで与えていたインド側カシミール(ジャンム・カシミール)地方から自治権を奪いました。
ヒンドゥ原理主義者のモディさんの別の顔が覗いたのです。

「インドのナレンドラ・モディ首相は8日、実効支配するジャンムー・カシミール州から自治権を剥奪したことについて、同州の発展を妨げてきた「障害」を取り除き、「新時代」をもたらしたと、正当性を主張した。自治権剥奪をめぐっては、インドの支配強化につながるとして、物議を醸している」
(BBC2019年8月9日)
インド首相、カシミールに「新時代」と 「自治権」剥奪の正当性主張 - BBCニュース 

愚かな決定で、住民のムスリムを敵にまわすようなものです。
ヒンドゥ原理主義vsイスラム原理主義、これで戦争にならないわけがありません。
ちょうどユダヤ教原理主義のネタニヤフとイスラム原理主義のハマスとの戦いのようなもので、形を変えた宗教戦争ですから互いに互いを根絶するまで続きます。

そしてとうとう5月6日、この両者は本格的軍事衝突に発展したのです。

「係争地カシミールでのテロをきっかけとしたインドとパキスタンの軍事衝突。6日、インドがパキスタン領内のテロ組織拠点を空爆したのに対し、パキスタンは応戦し、ラファール3機を含むインド空軍機5機を撃墜したと主張した。当初は情報が錯綜していたが、少なくともラファールとMig-29戦闘機各1機の損失は確実と見られている」
(ミリレポ5月8日)
インド軍機を撃墜したされる中国製のJ-10C・JF-17戦闘機とPL-15ミサイル

空軍の戦闘には勝利したものの、パキスタンも空軍基地やそのほかの軍事目標に対するミサイル攻撃は防げていないようで、実際は五分五分だったようです。
すると緒戦でほぼ全力を出しきった感のあるパキスタンに、今後の継続戦闘能力は残りわずかでしょう。
というわけで中国を背後に置いたパキスタンと、それを嫌うインドの係争はどこまでも続くのです。


 

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コメント

今回のテロ組織も、ハマスと同様に「表の顔は住民を守る平和集団、実際は住民を肉の壁にする極悪非道集団」という感じだったんですかね?

だとしたら根絶は難しそうですね。

 ちょっと記事の主旨とは関係ないですが、「カラコルムハイウェイを踏破」とか、おどろきました。まるで沢木耕太郎の「天路の旅人」のよう。
現地に行った事のない人には絶対分からんという、イスラム・ヒンドゥー入り乱れたインド・アフガニスタン・パキスタン界隈。
我々西側の価値観に浸りきった頭では理解しづらいモディの悪政も、深い歴史と現在インドをつなぐ思慮によるものだったんでしょう。
それにしてもラファールが撃墜された事をもって、テロ国家パキスタンが勘違いしなきゃいいですが。

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