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2025年6月

2025年6月30日 (月)

超限戦としての中国のフェンタニル密輸

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山路さんも指摘されていましたが、日経(6月26日付)によると、今回のFIRSKY(ファースキー)は、2021年6月、沖縄県那覇市前原で設立され、2022年9月に名古屋市西区幅下に移転していました。
最初に那覇に拠点を構えたのは、中国の支援基盤が沖縄にあったからでしょう。
代表の夏鳳志はいまも那覇に住んでいますから、司令塔は沖縄にあるのかもしれません。
名古屋港は日本最大のコンテナ取扱量を持つ場所です。
コンテナは最も麻薬密輸に使われる輸送手段ですから、名古屋を選んだのでしょう。
港運/21年連続総取扱貨物量日本一の名古屋港/港湾機能強化へ/脱炭素化の研究調査進む|中部経済新聞 愛知・岐阜・三重・静岡の経済情報

夏は中国国内で少なくとも16社で株主になっていましたが、2024年7月にFIRSKYは清算しています。

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XユーザーのTCC2さん:X

名古屋以外にもフェンタニルの輸出ルートは複数存在し、ほかにもメキシコの麻薬組織「シナロア・カルテル」は横浜港からのルートがあるそうです。
シナロア・カルテル(CDS)は、メキシコの麻薬カルテルで、メキシコ国内最大の犯罪組織です
麻薬企業「すべて日本から国際小包で発送する」フェンタニル密輸 「ボス」が執着した日本 [お断り★]

シナロア・カルテル - Wikipedia

米国司法省は、密売組織ベルトラン・レイバを、米国へ大量のコカインやフェンタニルを輸出している密売組織として摘発し、メキシコ企業2社と個人15人に制裁を科しました。
またメキシコとカナダに対してもフェンタニルの取り締まりが緩いとして制裁関税を課しています。

この世界的なフェンタニル密売ルートの中心にいたのが夏鳳志です。
このような大規模な麻薬流通網を夏が個人でできるはずがなく、この男には国家のバックがついています。
おそらく間違いなく、これは中国の仕掛けた超限戦です。

フェンタニルを生産し、世界に拡散させているのは中国の国策です。
フェンタニルの生産に、中国政府は補助金を提供し続けています。
米下院特別委員会はこう述べています。

「米下院の中国共産党に関する特別委員会は16日、中国が麻薬鎮痛剤「オピオイド」の一種であるフェンタニルの生成につながる化学物質の製造に直接補助金を出し、米国のオピオイド中毒危機をあおっているとする報告書を出した。
それによると、中国はフェンタニルの類似体、前駆体、その他の合成麻薬を製造する企業に対し、国外に販売する場合に限って付加価値税の還付という形で補助金を提供し続けている。
報告書は、中国の国家税務総局のウェブサイトからデータを引用し、最大13%の還付が適用されている化学物質を列挙。4月現在も補助金は実施されているとしている。
特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党)は16日の公聴会で、中国は米国へのフェンニタルの流入が増え、中毒が「混乱と荒廃」をもたらすことを望んでいるようだ、と批判した」
(ロイター2024年4月17日)
中国がフェンタニル原料に補助金、米国の中毒あおる=米下院委 | ロイター

メキシコルートで流入する麻薬の原材料は中国が原産地です。
米麻薬取締局によれば、2022年に押収されたフェンタニルは粉末だけで4.5トン以上、錠剤で5060万錠に上りました。
これは3億7900万人分の致死量に相当します。

「米疾病対策センター(CDC)が18年11月に公開した報告書によると、17年の米国民の平均寿命は78.6歳で、3年連続で下がった。この主因となったのが、薬物の過剰摂取と自殺の急増だ。先進国でつくる経済協力開発機構(OECD)の中では、1位が日本(84.1歳)、2位がスイス(83.7歳)で、米国は29位。スロベニアやコスタリカよりも低い。
そもそも、医療や製薬の先進地の米国で平均寿命が下がり続けているのは、「先進国としては驚くべき」(米ウォールストリート・ジャーナル紙)状況だ。CDCのロバート・レッドフィールド局長は声明で「この冷徹な統計は、あまりに多くの若い米国人を失っているという警鐘だ」と訴えた」
(朝日global2019年2月20日)
朝日新聞GLOBE+

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そもそも麻薬こそ、中国が仕掛ける超限戦の古典的武器でした。
「超限戦」とは、戦争をあらゆる手段で一切の合法的制約無く戦うものとして捉える戦争形態を指します。
通常戦、外交戦、国家テロ戦、諜報戦、金融戦、ネットワーク戦、法律戦、心理戦、メディア戦など、境界を問わずダーティな戦いを西側陣営に仕掛けています。
そのひとつに麻薬戦もあります。
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抗日戦期、毛沢東は共産軍の抗日根拠地で麻薬栽培をしていました。
共産党軍は日中戦争は逼塞していましたが、増強に備えて武器や弾薬を手に入れるためにアヘンを育てて売っていたのです。
たとえば、陝甘寧辺区では大規模なケシ栽培を始めており、一時はアヘンの売買による利益が党中央の財政収入の約半分を賄っていたとも言われます。
※『中国抗日根拠地におけるアヘン管理政策 』内田知行)
中華人民共和国成立以降も、このダーティビジネスは継続されました。
国家ぐるみで麻薬づくりと密輸に手を染めていました。
麻薬が米国を内側から蝕む最も有効な手段だと知っていたからです。
特に盛大に米国人に麻薬を売りつけたのはベトナム戦争時でした。
米兵はこの無意味な戦いに倦み疲れ、大麻とヘロインに溺れました。
また国内でも史上空前のドラッグブームが起きて、ミュージシャンでドラッグ中毒でないものはいないくらいでした。
史上最も成功した超限戦です。

「中国は、嗜好用と医療用の大麻(マリファナ)を厳しく禁止しているが、産業用大麻を合法化し、ヘンプ製品の生産・加工技術などで世界のトップレベルを誇る」
(『「公式な統計は存在しないが…」中国が"世界一の大麻大国"と呼ばれる背景』矢部武)
PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

また、中国とミャンマー、ラオスなど周辺諸国における麻薬サプライチェーンは、むしろいっそう強い繋がりを形成しています。
いまや、これらの周辺国での麻薬栽培は、メタンフェタミンと幻覚剤のケタミンなどの違法麻薬に移行して組織的に大量に製造されています。
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「カンボジアの主要都市シアヌークビルには、中国マフィアが管理するメタンファタミンを製造する工場があり、今回の中台マフィア組織の摘発直前に、同工場で7人の中国人が違法薬物製造の容疑で逮捕されている。
カンボジアでは近年、中国資本が多数進出しており、その流れの中で中国マフィアも入り込み、麻薬製造・密輸やカジノ経営、人身売買などの凶悪犯罪を主導している。カンボジア国内においても、メキシコのように政府内の腐敗が進み、中国マフィアに積極的に協力する有力者も存在している」
日本戦略研究フォーラム(JFSS)
今回、日経のスクープで明らかになった日本ルートは、ごく一部でしかありません。

 

2025年6月29日 (日)

日曜写真館 すゞしさや旅に出る日の朝ぼらけ

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鶯や筑波紫の朝ぼらけ 正岡子規

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でで虫の大いなる伸び朝朗(あさぼらけ) 高澤良一

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朝朗露ゆりすえて蓮匂ふ 鈴木道彦

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朝顔に風新しき朝朗 高澤良一

 

2025年6月28日 (土)

日本が中国からのフェンタニルの中継地だった

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やっかいな時にやっかいなことが起きましたね。
グラス駐日米大使の26日のツイートです。

「フェンタニルやメタンフェタミンといった合成薬物は、日米両国において多くの命を奪っています。そして、中国共産党はこの危機を意図的にあおっています。中国からのフェンタニルやその前駆体化学物質の密輸には中国共産党が関与しており、それを阻止するには国際的な取り組みが不可欠です。われわれはパートナーである日本と協力することで、こうした化学物質の日本経由での積み替えや流通を防ぎ、両国の地域社会と家族を守ることができます」

フェンタニルは、トランプが世界関税戦争を起こす理由にした合成麻薬です。
医療用麻薬「オピオイド」の一種で、化学的に合成して作られ、ヘロインの50倍といわれる強力な鎮痛作用があります。
また致死性はわずか2ミリグラムで、米国においては年間ひとつの都市が消滅にしたに等しい7万人以上の過剰摂取による死亡者を出しています。
いまや18歳から45歳までの年齢層の死因第一位です。
医療用としても末期がんの痛みを和らげるためにも使われていますが、強い高揚感があり、わずかな量で中毒者となります。
一粒数ドルで買うことができるために、米国では中毒者が激増し、ゾンビータウンを作っています。

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【独自取材】「現代のアヘン戦争」フェンタニルの脅威を阻止できるのか?史上最悪の麻薬で街が“ゾンビタウン化”トランプ新大統領の決断(前編)|FNNプライムオンライン

「路上生活で背中が痛いときなどに飲むと、痛みを止める効果があります。高揚感も得ることができます。とても強くてハイになれるから、その感覚を得ようと何でもしてしまいます。どこでも買えるから、金さえあれば買ってしまうんです」
(NHK23年10月30日)
アメリカ鎮痛剤フェンタニルなど薬物の死者おととし10万人超 若者の死亡相次ぐ なぜ? | NHK | WEB特集 | アメリカ

米国におけるフェンタニルの被害はすさまじく、「麻薬の大量破壊兵器」とまで呼ばれています。
その原料の大部分は中国で製造され、メキシコなどで加工され、米国に密輸されており、米国は中国やメキシコ、カナダに対し高関税を課すなど、強硬策に訴えて、世界貿易戦争のきっかけを作りました。

この原産国である中国との中継基地が名古屋にあることを、27日の日経のスクープが報じています。

「グラス駐日米大使は26日、合成麻薬「フェンタニル」について、日本経由での不正取引を防ぐ必要性についてコメントした。X(旧ツイッター)への投稿で「日本と協力することで(フェンタニル原料である)前駆体物質の日本経由での積み替えや流通を防ぎ、両国の地域社会と家族を守ることができる」と述べた」
(日経6月27日)
グラス駐日米大使、フェンタニル「日本経由の密輸防止を」 - 日本経済新聞

名古屋に拠点を置いていた中国系企業FIRSKYは、米当局が摘発した中国・武漢の化学品メーカーHubei Amarvel Biotech(湖北精奥生物科技)と人的・資本的なつながりがある会社です。
Amarvelの幹部社員らは米国にフェンタニル原料を違法流入させたとして、25年1月に米東部ニューヨークの連邦裁判所で有罪評決を受けています。
ニューヨーク連邦地裁でのHubei Amarvel Biotech幹部の証言。

「陳は中国・武漢の化学品メーカー「Hubei Amarvel Biotech(湖北精奥生物科技)」の元幹部だ。
上司である王慶周(Wang Qingzhou)の通訳を務め、違法薬物の販売サイト設計も担っていた。数週間前に米当局が南太平洋のフィジーで王ともども身柄を押さえ、フェンタニル原料を米国に違法流入させた罪で起訴した。
トン単位という化学兵器にひとしい規模の危険物質をニューヨークに送り込む。当局のおとり捜査で陳らはそうした企図を明かし、メキシコの麻薬カルテルさえ手玉に取ろうとしていた」
(日経Asia2025年6月27日)
フェンタニル密輸、「ボス」が執着した日本 見えてきた偽装のしかけ (米中「新アヘン戦争」の裏側 狙われた日本㊥) - 日本経済新聞

フェンタニルを水面下でやり取りするため、Amarvelは日本、中国、米国に多くの兄弟会社を持っていました。
日経がオープンソースから得た麻薬売買の組織は下図のようです。

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フェンタニル密輸、「ボス」が執着した日本 見えてきた偽装のしかけ (米中「新アヘン戦争」の裏側 狙われた日本㊥) - 日本経済新聞

FIRSKYの代表取締役を務めるのは、「日本のボス」と呼ばれる中国籍の人物で、FIRSKYを含む日本企業や中国、米国で計18社の株主でした。
フェンタニルは日本の名古屋に集められて、小分けされて国際宅急便で買い手に送られます。
販売代金は暗号資産でやり取りされていました。

「当社の製品はすべて日本から、フェデックスやUPS、日本郵便などの国際小包で発送します。5〜7営業日でお届けします」
富仕凱は中国語読みに近い「FIRSKY」というブランド名で活動していた。英語のホームページでは日本にある「Japan FIRSKY」の100%出資企業だといい、取り扱う化学薬品を日本から世界各地に送るとアピールしている」
(日経Asia前掲)

FIRSKYが日本に拠点を置いたのは、日本のブランド力を利用し、しかも日本はフェンタニルの清浄国であると認識されていたので税関を軽くすり抜けるからです。
ですから、日本からのフェンタミルの小荷物は、警戒度が高い中国や、麻薬カルテルが暗躍するメキシコと違い、各国の捜査当局からも警戒されにくいと見なされていました。
しかし現実には、名古屋には世界規模のフェンタニルの中継地、つまり最前線基地があったのです。

まだ米国政府の反応は駐日大使のツイートしかありませんが、日本政府がフェンタニルの中継地を野放しにしていたとわかれば、厳しい制裁をかけられても文句はいえないでしょう。

 

2025年6月27日 (金)

イラン核施設空爆は広島、長崎だって?

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トランプを初めて褒めたら、さっそくこれです。
NATO首脳会議での発言。

「トランプ米大統領は25日、イランとイスラエルの停戦は「非常に順調だ」と述べた。米軍によるイラン核施設への攻撃でイランの核開発計画を「数十年」遅らせたと成果を強調。「あの攻撃が戦争を終結させた。広島や長崎の例は使いたくはないが、あの戦争を終わらせた点で本質的に同じことだった」と主張した」
(朝日6月25日)
トランプ大統領、イラン空爆と広島・長崎の原爆投下「本質的に同じ」(朝日新聞) - Yahoo!ニュース

初めこの発言をリードだけ読んだ時は、「広島、長崎のような悲劇を招かないためにイランの核施設を空爆したのだ」という趣旨かと思って頷いていたら、まったく逆。
今後起きるかもしれないイランとの戦争を予防するために、オレは広島・長崎のような空爆を命じたのだ、ということのようです。日本はイランと一緒か。
ナニ言ってんだか。このような言い草に日本政府は例によってスルーですが、日本人としてはだまって見逃すわけにはいきません。

このトランプの言説は、米国がよく原爆投下の言い訳に使うものですが、「米軍は本土決戦による100万人戦死を予防するために原爆投下を決断した」と、まるで人道上の判断で核攻撃したかのような体裁となっています。
事実はこの原爆投下計画(マンハッタン計画)は、すでに1943年(昭和18年)5月5日に決定されています。
時期としては、ガダルカナルからの撤退、山本五十六長官の戦死、アッツ島で日本軍が全滅の頃です。本土決戦はおろか、まだ勝負の行方はわからなかった時期です。 すなわち、戦争の中盤頃から既に、米国は核攻撃の意志をもち、それを実行に移していたのです。 

「最初の爆弾の投下地点について意見が交わされたが、最適の投下地点はトラック港に集結している日本艦隊であろうというのが大方の意見のようであった。スタイアー将軍が東京を挙げた。 (中略)
日本人が選ばれたのは、彼らが、ドイツ人と比較して、この爆弾から知識を得る公算は少ないと見られるからである」
(『資料 マンハッタン計画』1943年5月5日付け資料135 軍事政策委員会政策会議)

しかもこの米国の記録から分るように、当初には、東京が攻撃目標に上げられていました。
東京が原爆投下の目標にならなかったのは、都市部が完璧に通常爆撃で焼き尽くされて廃墟と化していたからにすぎません。
このように原爆開発は、まったく本土決戦とは関係のない、米国人の戦略的都合にすぎません。

0c6d8ea485e84112b9dff01c587fc07b_xl(写真 広島の原爆によるキノコ雲。)

ただし米国は、落とすことには積極的でしたが、どこに具体的に落すかについては、若干悩んだようです。
実は京都は最後まで広島と攻撃対象を争った都市でした。 
前掲『資料』はこう語ります。 

「京都―この目標は、人口100万を有する都市工業地域である。それは、日本のかつての首都であり、他の地域が破壊されていくにつれて、現在では、多くの人々や産業がそこへ移転しつつある。心理的観点から言えば、京都は日本にとって知的中心地であり、そこの住民は、この特殊装置のような兵器の意義を正しく認識する可能性が比較的に大きいという利点がある」  

京都は、「知的レベルが高い」から、核攻撃の意味を正しく理解するだろうということのようです。なんとふざけた言い分か! 
これを戦後日本人は、米国の良識が歴史都市京都を救った美談ストーリーのように語り伝えています。
冗談ではない、京都も投下候補地だったのです。

また多くの教科書は広島が、「軍都」であることが重要な投下理油だったと書いています。
これは、戦後左翼の常套句で、まるで広島か軍都だったからこんな目にあったんだ、みんな軍国主義が悪いんだ、という理由付けに使われました。 
前掲『資料』は、広島についてもこう冷厳に投下候補になった理由を書いています。 

「広島―ここは、陸軍の重要補給基地であり、また、都市工業地域の中心に位置する物資積み出し港である。広島はレーダーの格好の目標であり、広い範囲にわたって損害を与えることのできる程度の広さの都市である。隣接して丘陵地があり、それが、爆風被害をかなり大きくする集束作用を生むであろう。川があるので、焼夷弾の目標としては適当ではない」

ここで米国が重視しているのは、軍事的な理由ではなく、広島がむしろその爆撃効果がはっきりと掴める地形的理であったことです。 
要するに広島になったのはこういう理由です。

「日本人は、知的レベルが低いから、ドイツ人のようにこの原爆の価値をみやぶって、自分も作る科学力はない。
だから、米国の意志を教えるために、「知的レベル」が高く日本人が貴重に思っている京都に投下するのもいいだろう。政治的に効果はもっとも高い。
一方広島は、丘陵に囲まれ、一方が海に開けているので、核兵器の集束効果が期待できて、今後の核開発に役に立つ」 

事実、戦後直ちにこの結果を知るべく、米国は大規模な米国戦略爆撃調査団( USSBS)を、広島、長崎に送り込み精力的な調査に当たらせました。
もちろん人命救助ではありません。その核の効果を早く知りたかったのです。彼らは膨大な報告書を作成しています。
この報告書は、ソ連との冷戦期の戦略構築に大きく貢献しました。
Records of the U.S. Strategic Bombing Survey | 日本占領関係資料(憲政資料室) | リサーチ・ナビ | 国立国会図書館

Photo

 

さて、上の写真を御覧ください。Google Earthによるものですが、広島は海に面して三方を山によって塞がれている地形だとお分かりいただけると思います。
これに原爆の爆撃効果の図を重ねてみます。

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このような地形は、もうひとつの被爆地・長崎にも共通していますが、核爆弾の数十万気圧の超高圧と、数万度に達する超高温、そして風速280メートルもの爆風を効果的にするにはうってつけの地形でした。 
鍋の中で爆発させるほうが、広い場所でするよりも効果が高められると計算したのです。 
まさに悪魔の智恵。

また、市街地範囲が直径3マイル(約4.8㎞)以上あることも条件でした。この規模ならば市民の人口が30万人ていどに及び、殺傷力の測定が容易になるからです。
5月11日の第2回投下目標検討会議で、このような条件を持っていた京都、広島、横浜、小倉、新潟、長崎、京都などが挙げられ、これらの都市は広島が第一目標となるまで空襲が差し控えられました。  

空襲してしまうと、核兵器の威力が測定できなくなるからで、広島の空襲禁止指示は5月28日に出されています。  
私は原爆投下という日本特有の表現ではなく、「核攻撃」nucleophilic attackという表現を使用すべきだと思ってきました。
これを同志として使えば、an atomic bomb was dropped on・・・ですから、その目的語まで指定せねばなりません。

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(写真 長崎市への核攻撃された瞬間)

その目的語はいうまでもなく、Hiroshima  citizenです。しかも、もっと厳密に言えば、非武装市民demilitarization citizenです。
したがってこうなります。
The United States nucleus atacked demilitarization citizens in Hiroshima,Nagasaki.

 

14_1120_rememb_07(写真 原爆投下の当日、やけどと負傷にあえぐ被爆者。学童や女子学生の無惨な姿が痛ましい。1945年8月6日午前11時ごろ、爆心地から2.2キロの千田町三丁目御幸橋西詰撮影松重美人氏=広島平和記念資料館の展示物より)  

私たち日本人は非武装市民の頭上に核兵器を投下されたのです。
軍事的に見ても、まったく広島・長崎への2発の核攻撃は不要なものだったのです。
もし軍事的な攻撃目標が必要ならば、広島の近隣にある呉軍港を標的にすればいいのですが、戦後この軍港をつかいたかった米軍はここをあえてはずして人口密集地に定めました。  
百歩譲って軍事的圧力により日本を降伏に追い込みたいのならば、後にさんざん核実験をしたような無人島で実験してみせればいいのです。それだけで、すでに継戦能力を喪失していた日本政府は降伏を決意したでしょう。 

米国は、大戦の後にくるであろう対ソ戦に備えて核兵器の実戦データを欲していました。
ユタ砂漠などの実験では威力が読みきれなかったからです。
露悪的に言えば、人体実験データが必要だったのです。 
だから、現実に人が大勢住む都市で、無警告に落としてみる「必要」があったのです。
いわば広島・長崎合わせて約34万人の犠牲者(5年後)は、生きながらにして人体実験に供せられたのです。

このことを戦後、日米はぼやかそうとしました。
米国は本土決戦で百万人死ぬのを予防するためだといい、日本人はまるで天災にでもあったように「安らかに眠ってください」と蓋をしてしまいました。

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これはあの有名な「過ちはくりかえしません。安らかに眠って下さい」、という平和公園石碑の文句にもつながる重大な自己欺瞞です。
小野田氏はルバング島から帰還して、平和公園を訪れた時、この石碑を見てこう尋ねたそうです。
「これは米国が書いたものか」

戦後、保守側は、米国の庇護によって冷戦期を泳ぎ渡ろうとし、一方戦後リベラル側もすべてを日本軍国主義の責任にしたかったために、その思惑の一致から、米国の戦争犯罪に対する追及がはずされ、まるで日本民族を襲った天災か、自業自得のように「修正」されたのです。
そしてその思惑は、米国の罪悪を帳消しにしてくれるために、日米合作の「歴史修正」となり、21世紀でもトランプかチャラっと言ってのけるような「事実」となってしまったのです。

 

2025年6月26日 (木)

股裂きとなる石破政権

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そりゃいつか股裂きになるよ、ゲル首相。その日が、思ったより早く来ただけのことです。
イスラエルに対しては強気で非難していましたね。こういう調子です。

石破茂首相は13日夜、首相官邸で記者団に「平和的解決に向けた外交努力が継続している中、軍事的手段が用いられたことは到底許容できない」と指摘。「極めて遺憾で強く非難する」と強調した。
イランによる報復攻撃については「事態をエスカレートさせる、いかなる行動も慎まねばならない。強く非難する」と述べ、関係各国に自制を強く求めた。「G7で日本の立場を明確に述べ、沈静化に向け、関係国で連携して対応する」と語った」
(時事6月13日)
日本政府、イスラエルを非難 中東不安定化を懸念:時事ドットコム

「平和的解決に向けた外交的努力」はなにも自分がやっていたわけではなく、英仏独がやっていたんですが、なんの成果もなく破綻。
本来は唯一のイランの「伝統的友好国」とまで言っているんですから、ココ一番で橋渡しをするのが役目でしょうに、特になにもしない。
いや、失礼、イスラエルにはこんなことを電話で伝えていました。

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「私は、イランが核兵器を取得することを決して許してはならないという日本の声明に感謝の意を伝えました。 私は、イランが北朝鮮のようになることは絶対にないと断言しました。イランは核兵器を持たないでしょう!」

たぶんイスラエルのサアル外相は、岩屋氏がイスラエルの「イランに核兵器を持たせない」と言ったことを、イスラエルの空爆作戦の支持と受け取ったのでしょうな。当然です。
通常の発電なら5%のウラン濃縮で済むものを60%にまで上げて大規模に継続する意味はひとつしかない、それは核兵器保有のためです。
60%から兵器級の90%までもう一息というところまで、2023年に既に到達しているのです。
これは完全に合意違反です。

「IAEAの報告によると、これらの施設では減産開始以降、濃縮度60%のウランが月間約3キロのペースで生産されていたが、今年11月末から月間約9キロまで加速していることを確認したという。
IAEAの定義に基づくと、イランはさらに濃縮すれば、核爆弾3発が製造できる濃縮度60%のウランをすでに十分保有している。イランメディアによると、エスラミ原子力庁長官は「何も新しいことはしておらず、規則に従って同じ活動を行っている」と述べた」
(ロイター2023年12月27日 )
イラン、濃縮度60%のウラン生産加速 減産から転換=IAEA | ロイター

いや、これは合法だというイラン擁護の意見もあるので驚きますが、15年の核合意で認められていた濃縮度は3.67%なのですから合意違反です。
たんなる原子力発電するなら、日本の六ヶ所村のようにIAEAの査察官を常駐させて5%をキープすればよい。

それを兵器級直前の60%にして、IAEA査察を拒むのですから、核保有を目指すといわれても当然です。
真の「伝統的友好国」ならば、イランに対してIAEAの査察官を常駐させて、5%にしろ、60%にしてしまったウラン濃縮物はIAEA管理に置きなさい、と友情こめて説得すべきでした。
ところが秘密裏に搬出して隠してしまったようです。

岩屋氏がイランにやった「外交」はこうです。



「6月16日、午後6時から約15分間、岩屋毅外務大臣は、アラグチ・イラン・イスラム共和国外務大臣(H.E. Dr. Seyyed Abbas ARAGHCHI, Minister of Foreign Affairs of the Islamic Republic of Iran)と電話会談を行ったところ、概要は以下のとおりです。
冒頭、岩屋大臣から、今般の報復の応酬が中東地域全体に波及することを深く懸念している旨伝えつつ、これ以上事態をエスカレートさせるいかなる行動も慎むべきであり、我が国として、全ての関係者に最大限の自制を求める旨述べました。
これに対し、アラグチ外相から、イラン側の立場について説明がありました。
また、岩屋大臣から、在留邦人保護への協力を要請し、アラグチ外相から、全面的に協力するとの発言がありました。
両外相は、地域の平和と安定に向け、日・イラン間の様々なレベルで、引き続き緊密に対話を行っていくことで一致しました」
日・イラン外相電話会談|外務省

あのね、岩屋さん、イランは6回も協議を蹴り、トランプが設定した2カ月間の猶予期間が切れた翌日の6月14日にやったことは核施設での作業を開始し、フォルドゥの核施設の遠心分離機の新型との交換と増設も行うと発表したの。
これに対して12日、IAEAは強く反発し、イランに非難決議を出して可決したわけでしょう。
これこそが「事態をエスカレーションする行為」そのものではないのですか。ならば「緊密に対話」して止めなさいよ。
だから、もはや平和的に核保有を止められないと見たイスラエルは、核施設の爆撃に踏み切ったのです。
これを「予防戦争だから国際法違反だ」と非難するのは簡単ですが、ならば他に阻止する手段があったら教えていただきたいもんです。
これしか方法が存在しない以上、形式的な国際法違反という訴因は阻却されます。

わが国では日頃非核を唱えていた運動家まで、米国の核施設攻撃を「予防戦争だ。国際法違反だ」と非難していますが、ならばいっそ核兵器をイランに持たせたほうがよかったのですかね。
この人らの「非核」という運動が、いかに反米の隠れ蓑か分かろうというものです。
また米国国防情報局が爆撃の効果が上がっていないという漏洩情報を元にして、米国の爆撃は無意味だという説も出ているようですが、ならば再爆撃すればよいだけのことです。

こういうところまで状況が煮詰まっているにもかかわらず、まるで高見の見物よろしく「平和的解決に向けた外交努力が継続している中、軍事的手段が用いられたことは到底許容できない。極めて遺憾で強く非難する」と言っちゃう神経がむしろわかりません。
まさにゲル氏特有の評論家体質そのものです。
そして直後のG7では完全に孤立してしまいます。
どっちが正しいんだと共産党からねじこまれて、こう答えています。

「石破茂首相は19日の与野党党首会談で、イランとイスラエルの軍事衝突を巡る日本政府の立場を説明した。両国に自制を求めた岩屋毅外相の発言と主要7カ国首脳会議(G7サミット)の共同声明に齟齬(そご)があるとの指摘に「外相が発したものが日本政府の立場だ。G7はG7だ」と語った」
(日経2025年6月19日)
石破首相「外相発言が日本の立場」、イラン・イスラエル衝突対応 - 日本経済新聞

つまり、G7ではウソついて来たってことですか。
そしてこれで終わったやれやれと思ったら、試練続きます。なんとG7直後のトランプのイラン核施設空爆ですから、ゲル氏はダーッだったことでしょう。

イランとの「伝統的友好」と、「日米同盟は日本外交の基軸」を金科玉条にしてきた日本は、完全に股裂きとなりました。あたりまえです。
イランを立てれば米国が立たず、米国を支持すりゃイランが立たず、どうすりゃいいんだ、このあたし、とゲル氏は髪を掻きむしりたい気分だったことでしょう。
で、米国に合いたくないからNATO会合には欠席。ああ情けない。
そもそも日米同盟組んでいる日本が、世界一の反米国家と「伝統的友好」なんぞできるわきゃない、常識で考えてもわかりそうなもんです。
第2期のトランプは、本来の米国大統領がやるべき国際的責務を放棄しつづけてきて、やっとその気になったのですから、その足を引っ張ってはいけません。


 

2025年6月25日 (水)

イスラエル-イラン停戦

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毎日びっくりして恐縮ですが、突然イラン-イスラエルが停戦だそうです。

「ドナルド・トランプ米大統領は米東部時間23 日(日本時間24日)、イスラエルとイランの停戦合意が成立したと発表し、同24日午前1時(日本時間同日午後2時)すぎ、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で「停戦合意が発効した。頼むから違反しないでもらいたい!」と書いた」
(BBC6月24日)
トランプ氏が停戦発表、イスラエルは合意認めるもイランが停戦違反と非難 イランは否定 - BBCニュース

事実上の「降伏」です。さぞや無念だったことでしょう。
降伏の合図は、落とされたバンカーバスターの下図と一緒の14発のミサイルでした。
これをカタールの米軍基地に事前通告つきで発射したのですから、おいたわしや。
もう打つ手なしということです。

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トランプ氏、「イスラエルとイランが停戦合意」とSNSに投稿「世界から称賛される」とも - 産経ニュース

イランは盛んに報復を叫んでいましたが、やるにしても手段は三つしかありません。
①ミサイル②テロ③ホルムズ海峡封鎖です。

①のミサイルは、イスラエルに撃つ数が激減していました。
目標もロシアと一緒で、もうイスラエルならなんでもありというかんじで、軍事目標ではなく民間のアパートや病院を攻撃しています。
こんな場所を撃ってもイスラエルを怒らせるだけ、なんの効果もありません。

②のテロですが、テロ本部とも言える革命防衛隊のトップがまた殺され、支部であるハマス、ヒズボラ、フーシー派もほとんど無力化されているのでかつてのようなロケット弾やドローン攻撃は封じこめられています。
あとは濃縮度60%のウランをミサイルに詰めて撃つというヤケクソ戦術が残されていますが、これをやったら百年糾弾され続けます。

③のホルムズ海峡封鎖に至っては、やりゃ自分のトコロの細々とした石油輸出も止まってしまいます。
原油最大手のサウジとUAEは独自の陸上パイプラインを使っていますから、原油市場に与える影響は限定的です。
米国は中国にすら呼びかけてもやらせないつもりで、付近の海上パトロールを強化していますから、機雷を撒きにボートでノソノソ出張ったら即座に撃沈です。

というわけで、イランは手も足も出ないから゛せめて口だけで報復を連呼していたのです。
ですから停戦というマイルドな言い方になっていますが、実は降伏です。

イランは北朝鮮のように瀬戸際外交で、核開発を進めていま一歩まできたわけですが、相手が韓国や日本ではなく世界一の強面国家のイスラエルだったことが間違いの始まりでした。
イランはよもや「ライジング・ライオン作戦」なんて大規模空爆をやるとは思っていなかったのでしょう。
仮にやろうとしても米国が止め入るとかんがえていたのかもしれませんが、バイデンではなくトランプだったのが誤算でした。
すべてが誤算続きで、結局「停戦」という名の降伏となりました。

 

 

2025年6月24日 (火)

勝てもしないが、大敗もしなかった自民

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ゲル首相はほっとしているでしょう。
都議選は大敗とメディアは囃していますが、あんな程度の負けでは勝ったも同然です。
都連の幹部は厳しい結果などと脂汗を流して見せますが、内心は違うでしょうに。

「22日に投票が行われた東京都議会議員選挙で、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会は31議席で第1党となりました。一方、自民党は過去最低の議席数となり、第1党を維持できませんでした。また、国民民主党と参政党が初めての議席を獲得しました。一方、公明党は9回連続の全員当選はなりませんでした」
(日経6月22日)
東京都議選、都民ファーストが31議席で第1党奪還 自民は最低21議席 - 日本経済新聞

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日本経済新聞

自民はせめて23議席とりたかったようですが、あえなく21議席。
こんな程度で済んだと、実は勝利と総括しているんじゃないかしら。
自民は「裏金問題で負けた」なんて言っていますが、それをメーンの追及テーマとした共産党も同様に19議席が5議席源票を減らしていますから、いまさら賞味期限切れの裏金もないもんでしょうに。

そう言えば、やや驚いたのが既成野党の皆さんの停滞ぶりです。
公示前に19議席だった共産党は5議席減らして14議席と敗北しました。
「自民に逆風」「裏金問題で大ピンチ」とメディアが応援してくれているのちこのざまです。
共産党票を食ったのは立憲で、5議席増やして17議席ですから、左翼支持票総体には変わりがナカッタということになります。

国民民主は0議席が一気に9議席ですが、かねてからの持論だったガソリンの暫定税率をとっとと追及すればこんなもんじゃなかったはずです。会期終了直前にやりやがってやる気あんのか。
ちょうど選挙期間がイラン問題で火を吹いて、瞬く間に80㌦を越えるというご時世が到来したのですから、この問題で政府に食い下がっておけばね、と思いますが、もう遅い。
この党の現役世代の負担軽減という目のつけどころは大変グッドなのに、勝負勘がないというか、なんというか、かんじんな時に反ワクチン活動家を擁立して、自ら支持層を減らしました。もうちょっとなんとかしてください。

参政党なんてパッチモン政党が議席を得たとメディアは騒いでいますが、まさに徒花。
あんなモンが国政政党だというだけで恥ずかしい。
同じく百田党も沈没。あれだけ盛大に内ゲバをやっていたら、もうこの先メはない、早く解散しちゃいなさい。
文化人は政党なんかやるな、見苦しい。

というわけで、これで参院選はだいたい見えて来ました。
自民は壊滅的とまでは言えないにしても敗北は必至、維新とれいわはサヨウナラ。
保守党はハナから問題にならず、参政党はちびッと議席を確保、共産党の減った分の左翼票を取り込んで立憲と国民民主は微増かしら。
自民は微減で「勝てはしないが、負けもしない」ということで、ゲル政権はズルズル続投し、減税ノー、チャイナ・イエスの森山翁の支配はまだ続く。
あ、そうそう、今回のトランプのイラン空爆のように、私の予想はしょっちゅうハズれますから気にしないでくださいね。

それにしてもつまらん。
ダイナミズムがないから内政は書きたくない、というところで今日はこのくらいで。

 

2025年6月23日 (月)

米国、イラン核施設を爆撃

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米国がイランの核施設を爆撃しました。

「トランプ米大統領は21日夜、ホワイトハウスのクロスホールから国民に向けて演説を行い、イラン核施設3カ所に対する米軍の攻撃を「華々しい軍事的成功」と評した。
トランプ氏は攻撃後初となる公の発言で「私は今夜、攻撃は華々しい軍事的成功だったと世界に報告できる。イランの主要な核濃縮施設は完全かつ徹底的に消し去られた」と述べた。
またイランが和平に応じない場合、米国は追加の目標を攻撃する可能性があると警告。21日に核施設3カ所への攻撃を決定した後のタイミングで外交的解決を呼び掛けた」
(CNN6月22日)
トランプ氏、イラン攻撃は「華々しい軍事的成功」 主要核施設「完全消滅」 - CNN.co.jp

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トランプ大統領「世界最大のテロ支援国家がもたらす核の脅威を阻止」…イランへの攻撃成功を強調 : 読売新聞

ヘグゼス国防長官とケイン統合参謀本部議長は記者会見をおこない、作戦詳細を述べています。
この爆撃作戦は周到に計画された非常に大規模なもので、7機の米空軍第509爆撃航空団所属のB-2戦略爆撃機、先導とエスコートする戦闘機が125機、空中給油機が複数投入されたようです。

B-2はステルス機ですから単独でも侵攻作戦をすることが可能ですが、分厚い護衛機群をつけて保護したようです。
護衛編隊も第4世代、第5世代戦闘機とされていんますから、F-22やF-35といったステルス機がおしげもなく投じられたようです。
たぶんイランの防空部隊は爆撃されるまで、察知することすら出来なかったのではないでしょうか。
それとは別にイラン時間22日午前2時10分頃には、B-2がイラン領空に入る直前に合わせて、米海軍の潜水艦が30発以上のトマホークでイスファハンを攻撃しました。
B-2を使った作戦ではもちろん最大規模です。

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イラン核施設を破壊し得る「バンカーバスター」とは-QuickTake - Bloomberg

使用された地中貫通爆弾は、バンカーバスターのなかでも最大級のGBU-57で、あわせて14発を使用したということです。
重量13トンを超えるGBU-57A/Bは、B-2に2発までしか搭載できないために7機ものB-2が使われたわけです。
3つの目標に対して14発ですから、一カ所に4発以上投下したことになります。

「MOPは重さ3万ポンド、長さは6メートルに及び、世界最大の精密誘導兵器とされる。
米空軍によれば、「厳重に防護された施設にある大量破壊兵器」を破壊するよう設計されている。これまで戦闘で使用されたことはない。 空軍によると、MOPは爆発する前に最大で61メートルの深さまで貫通する能力を持つ。フォルドゥの一部はこれよりさらに深いところに埋設されているが、MOPは同じ地点に連続投下でき、一段と深部まで掘り進めることができる」
(ブルームバーク6月20日)
Bloomberg

地下90mといわれる核濃縮施設をケイン統参議長は、「初期の評価では、3つの施設すべてに極めて大きな被害を与えた」としていますが、詳細な被害評価は出ていません。

6月21日夜、B-2戦略爆撃機はミズーリ州ホワイトマン空軍基地から離陸し、アラスカ沖・太平洋航路上空でKC-135給油機による複数回の空中給油を実施し、1万1000kmをノンストップで37時間飛行してイランに到達したようです。
当初これらはグアムかディエゴ・ガルシア島に配備されると推測されていましたが、米本土から直接爆撃したようです。。

爆撃は、イラン時間6月22日早朝2時30分頃から、イランの核施設3カ所へ開始されました。

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米国、イラン核施設3カ所を攻撃 イラン「重大な国際法違反」 - 日本経済新聞

フォルドゥ地下濃縮施設
ナタンツ核関連施設
イスファハン核技術センター

このうちもっとも重要と見られた中部フォルドにある核濃縮施設は、テヘランの南約200キロの山岳地帯にあり、中部ナタンズのウラン濃縮施設と並ぶイラン核開発の中枢拠点でした。

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イラン、地下ウラン濃縮施設に高性能の機械を追加 ―IAEA|ARAB NEWS

濃縮施設は地下80~90メートルにあるとされ、2015年にイランが欧米と結んだ核合意では、フォルドゥは核技術関連の研究施設に転換されたと称していましたが、実は旧型の遠心分離機1044台を残しており、ウランを使わない条件で稼働が認められたことをいいことにして稼働を持続していたようです。

第1次トランプ政権が、2018年に核合意から離脱すると、イランもそれを理由に核合意を公然と無視するようになり、19年にはフォルドゥでのウラン濃縮活動を再開しました。
2021年には合意で認められていない高性能の核濃縮装置を導入しています。

「イランがナタンズの地下ウラン濃縮施設に高性能の遠心分離機を新たに設置した上、増設を計画していることが、国連の原子力監視機関が水曜日に発表した報告書で分かった。イランは主要国との核合意に違反する動きを強めている。
この報告書は、2015年の合意の下で高性能な機械を濃縮ウランの生産に使用することが認められていないにもかかわらず、イランが高性能な機械の設置を進めていることを示す最新の証拠だ」
(アラブニュース2021年2月4日)
ARAB NEWS

そして核合意で認められていた濃縮度3.67%を超えて、60%まで濃縮し、23年には核兵器に転用可能な兵器級濃縮度90%目前の83.7%まで進行させました。
つまり月内にも完成するというところまで来ていたわけです。
これができてしまえばチェックメイトで、もはや査察解体などまったく不可能となります。

トランプは再攻撃を匂わせて、こう言っています。

「トランプ氏は「中東のいじめっ子であるイランは今こそ和平に応じなければならない。応じない場合、将来の攻撃は格段に大規模かつ容易なものになるだろう」と述べ、「こんなことを続けるわけにはいかない。イランを待つのは和平か、あるいは過去8日間に目の当たりにしたものをはるかに上回る惨劇だ。覚えておけ、まだ多くの攻撃目標が残っている」とした。
さらに、米国は「他の目標を精密かつ迅速、巧みに攻撃」でき、「ものの数分で」実行可能だと警告した。
演説後、トランプ氏はSNSに場所を移し、イランが武力で対抗すれば米国は圧倒的な報復を行うと厳しい警告を発した」
(CNN前掲)

私もトランプの本気度を見事にはずしたわけですが、今後どうするのかは、まさにイラン次第です。
イランは米軍基地を攻撃すると言っていますが、できるでしょうか。

かつてのように、ハマスやヒズボラ、フーシー派といった舎弟どもをお前やれ、で使えた時代は終わっているのです。
革命防衛隊もズタボロです。鉄砲玉はいるでしょうが、限定的です。
とてもじゃないが、イスラエルと米国に挑めるだけの力量はありません。
残るは、濃縮60%以上のウラン約409キロをダーティボムに詰めてミサイルで撃ち込むことくらいでしょうか。
ただこれを使うと、さすがの中露も味方になってくれませんよ。

となると残るのは:ホルムズ海峡封鎖です。

「イラン議会はホルムズ海峡封鎖を承認した。実行には国家安全保障最高評議会の決定が必要。イランのプレスTVが22日伝えた。
ホルムズ海峡は世界の石油・ガス輸送の2割が行き交う大動脈。今のところ議会承認は公式に伝えられていない。

イラン議会の安全保障委員会委員であるエスマイル・コサリ氏は22日、ホルムズ海峡封鎖が必要ならいつでも行うと述べていた。アラグチ外相は会見で、海峡封鎖するかとの質問に対し「さまざまな選択肢がある」とだけ答えた」
(ロイター6月23日)

イラン議会がホルムズ海峡封鎖承認と報道、最高評議会の決定必要 | ロイター

ホルムズ海峡封鎖なんかに走れば、待ってましたとばかりに米海軍に一掃されます。

とまれアヤトラ体制はまさに瀕死です
とうとうアヤトラ・ハメネイは、生きているのに後継者を決めねばならなくなりました。
そこまで弱体化していますが、これを倒すも倒さないもイラン国民次第です。

 

2025年6月22日 (日)

日曜写真館 種かしや太神宮へ一つかみ

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雨の中大神宮に札納 橋本こま女

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神宮の沓に木の実のはずみけり 唯野嘉代子

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神宮の菖蒲見てあり誕生日 大橋櫻坡子

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鴬の聲さへ低きかしこさよ 加倉井秋を

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神宮のどの木も蝉の木となりぬ 細川淳子

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此松のみばえせし代や神の秋 芭蕉

2025年6月21日 (土)

米国が軍事介入しなければ、イスラエルは核保有を宣言するかもしれない

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イスラエル情勢を語る時に、なぜか語られないものがひとつあります。
イスラエルの90発以上といわれる核の存在です。

「2019年5月現在、イスラエルの保有核弾頭総数は80と推定される(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019)。2014年末時点でイスラエルは約300kgの高濃縮ウラン(HEU)と約900 kgの兵器級プルトニウムを保有している(IPFM 2018)。
核爆弾一発の製造には(技術的レベルなどにも影響されるが)12–18kgのHEUあるいは4–6kgのプルトニウムが必要であることから、イスラエルは167–250発の核爆弾に相当する核分裂性物質を保有していることになる」
イスラエルの核戦力一覧長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)

 

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長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)

後述しますが、これは疑惑ではなく公然の秘密です。
イスラエルは、保有をあえてあいまいにする戦略をとっているだけのことです。
これはイスラエルが、米国の核の傘(拡大抑止)に入っていないことを意味しています。

初めに、念のために言っておきますが、私は今のイスラエルに対しては是々非々の立場です。
ガザ地区侵攻は過剰報復で容認できませんし、今回のイランの核施設爆撃も自衛の範囲内ですが、ネタニヤフはそれを越える可能性があると見ています。
ただし、イスラエルがイランの核保有を2度目のホロコーストだと認識するのは当然ですし、反撃の権利は留保されるべきです。

今回の「立ち上がる獅子作戦」を発動したのは、米国を含む国際社会がイランの核開発を止められないと見たからです。
米国さえとうとう「2週間後に決める」と後退してしまいました。
実はこの作戦中にもトランプはあのド素人のスティーブ・ウィトコフを、イラン外相のアラグチと秘密交渉させていました。
そこでウィトコフはイランに「柔軟性を示せ」と言ったとか。
イランは、イスラエルとの紛争が激化する中、米国と直接会談を行ったと外交官は言う

たぶんトランプは、こんな妥協線を模索しているはずです。

「イランはウラン濃縮を地域協力の枠組みに位置づける新提案をしていると伝えられている。サウジもウラン濃縮に関心を有しており、この行方は興味深い。
最近の報道で、イラン側は交渉次第ではこれまで拒んできた米国人のIAEA査察官を核施設へ受け入れる可能性を示したとのことである。これに関連し、トランプ大統領は、イランとの合意案は「非常に強力で、査察官の立ち入りが可能だ。われわれは望めば何でも持ち出し、破壊することもできる」と述べた由であるが、当然のことながら、米国人のIAEA査察官は米国の立場で業務に当たるのではなく、国際公務員として業務に当たるので、米国が「望めば何でも持ち出し、破壊することもできる」わけではない」
(岡崎研究所6月20日)
核兵器10個分の高濃縮ウランを持ち、核の「寸止め」がイランの戦略の核心…トランプ政権のアプローチに見られる変化とは?  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)

トランプの戦争嫌いは有名です。この新たなイラン提案の詳細な中身はわかりませんが、あの国が核開発を止める気などいささかもないのはわかりきった話です。核保有とアヤトラ体制は一体だからです。
しかしそれを信じたふりをしたいのが、西側諸国、特に米国です。
トランプにとって、いまや中東における一番の関心事は、もはやイスラエルではなく、サウジです。
イスラエルは揉め事ばかり起こしますが、サウジは未来の富を約束しています。

「なぜ、第二期トランプ政権が第一期政権とは異なるアプローチを取っているかについては、いくつもの背景・理由が考えられる。トランプはサウジアラビアとの関係を重視しており、サウジはイランと23年に国交を正常化しており、イランとの対立激化よりは地域の安定を望んでいること。中東地域が18年よりも軍事紛争が激化した状況となっていること。米国として、第一期トランプ政権時にもまして対外的な紛争に関与することに慎重になっていること、などを指摘することができるだろう」
(岡崎研究所前掲)

イスラエルは、米国がカッコばかりで軍事介入はないし、地中貫通爆弾がフォルドゥの核施設に使われることはないと、腹をくくったはずです。
そしてその時に登場するは、イスラエルの核保有宣言です。

公然の秘密ですが、イスラエルの核は、米国にすら完全に隠匿して開発されました。
米国政府がイスラエルの核の存在に気がついたのは、英紙サンデー・タイムズが1986年10月5日号において「暴露─イスラエル核兵器の秘密」というスクープ記事によってでした。
同紙は、イスラエル南部のネゲブ原子力センターの元原子炉技術者モルデハイ・ヴァヌヌの内部告発証言と、彼が撮影した多数の写真に基づいて、極秘の巨大な地下工場で核兵器が製造されていることを暴露しました。
そしていまや、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は2017年、イスラエルが保有する核弾頭数を80発と推定しています。
この80発はミニマムの数字で、おそらくイスラエルは現在約80~200発の核爆弾とその運搬手段を保有していると見られています。

米国はあえてこの「イスラエルの核」の存在に眼をつぶってきました。
最初の暴露記事が出た1986年から6年後に、米国はイラクに開戦するにあたっての大義を核兵器や大量破壊兵器の開発阻止に置きましたが、戦後の検証によってそのようなものはなかったことがわかっています。
またイランは2003年に核開発が露顕した後、厳しい制裁を受け続けています。

しかし、中東において最初に核開発に成功し、核爆弾とその投射手段を保有するイスラエルにはひとこともありませんでした。
これは二重基準です。
どうしてこのようなダブスタをイスラエルに対してだけとるのでしょうか。

その理由は逆説的ですが、NPT(核拡散防止条約)体制を護持したいからです。
世界の主権国家を、核保有国である米露中英仏(P5)と、それ以外の非核兵器国に二分して管理するのがNPT体制です。
これこそが戦後体制そのものでした。

しかし唯一の例外がありました。いうまでもなくイスラエルです。

煎じ詰めると、主権国家の運命はどこの国の核の傘に入るのかで決定されます。
なんの紛争もない凪の地域ならいざ知らず、外国の脅威にさらされている国にとって、どの国の差し出す核の傘にわが身を預けるのかで、国家の行き先は決定されてしまうのです。
たとえばアジア・オセアニアにおいては、日韓豪NZの国々は中国の核に対峙するには米国の核の傘に入るしか選択の余地がなかったわけです。

では、イスラエルはどうでしょうか。
イスラエルは米国の兵器体系に依存しながらも、核兵器に関しては独自の道を選択しました。
つまりイスラエルは、米国や欧州を信じていなかったのです。
欧州は、ナチスのホロコーストに際して無力だったばかりか、フランスのようにドイツ占領地域においてユダヤ人狩に協力した恥じるべき歴史を持っています。
どうしてら彼らを信用できようか、それがイスラエルの本音でした。

そして誕生したばかりのユダヤ人国家の存続の担保として核を保有したのです。

イスラエルという国を無から作り上げ、核保有に踏み切ったのはダヴィッド ・ベングリオン初代首相でした。

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ベン・グリオン ハウス|アレックスソリューションズ@イスラエル (note.com)

「「原子力兵器」の開発・保有は、初代イスラエル首相ダヴィッド・ベングリオンの着想である。ベングリオンが核兵器開発を重視した理由としては、
①「イスラエルの破壊・抹殺」を叫ぶアラブ諸国による「第二次ホロコースト(the second Holocaust)」を絶対に阻止するとの決意。
②人類初の原爆製造に成功したアメリカのマンハッタン計画にユダヤ人科学技術者が多大の貢献をしたことなどからくる「ユダヤ人の頭脳」への信頼。
③原子力エネルギーを利用した大規模淡水化事業によって不毛のネゲブ砂漠を花咲く緑の草原に変える。
(『イスラエルの核不透明政策と ケネディ~ニクソン政権』船津靖)
HG40206 (2).pdf

すなわちイスラエルの核開発は、二度とホロコーストを受けないというユダヤ民族の決意そのものであり、それはユダヤ人を海に追い落とせと叫んで四方から攻め込んで来るアラブ諸国に対する恐怖が背景にあったのです。
これは今に至るもいささかも変化しないイスラエルの根っこにある感情です。

すぐれた現実主義者だったベングリオンは1948年の独立戦争の勝利の後も、アラブ世界の攻撃はこれで終わりとならず極めて長期間これに耐えぬかねばならないことをわかっていました。
彼はこう言っています。

「平和は,アラブ側が自らの敗戦と和解するまで来ない。この敗戦がアラブ人指導者の愚かさや分裂に起因する単なる失敗ではなく、将来にわたって訂正不可能であることをアラブ側が理解するまで平和は来ない。
和平の実現には、アラブ人が(イスラエル建国という)領土の損失を最終的に受け入れる必要がある」

(船津前掲)

ベングリオンは、アラブ側が物理的にイスラエルを解体できないと理解するまでこの包囲は続き、アラブにイスラエルの最終的不可逆性を納得させるには、核を手にする必要があると考えたのです。
この根源的とでも言っていいホロコーストへの恐怖がある以上、イスラエルの核をとりあげることは不可能です。

しかし同時に、ベングリオンはこのイスラエルの独自核武装をもっとも嫌うのは、他ならぬ独立宣言の19分後に承認してくれた米国であることも熟知していました。
米国は最大の支援国であると同時に、イスラエルの核についてもっとも嫌う国なのです。
なぜなら、イスラエルの核武装は米国が考えているNPTという戦後枠組みを否定するものだからです。
それが故に極秘に開発し、核保有をひとことも漏らさず、持っているとも持っていないとも言わない曖昧戦略に徹したのです。
まるで中東の都市伝説のように漂うイスラエルの核の幽霊です。

ただし欧米も、イスラエルが核保有していることは充分に知っていました。
ガザ地区核爆発というフェークニュースが信憑性を持って世界に流れたのも公然の秘密だったからです。
しかし彼らはイスラエルの核を非難できないでしょう。
なぜならホロコーストを許したという巨大な倫理的負い目があるからです。

この核のあいまい戦略は、米国にとって福音でした。
表向きは、核拡散防止条約体制は崩壊していないように見えるからです。

そして実態を知っているアラブ側は、これ以上のイスラエル侵攻をすればイスラエルが核使用に踏み込むということに恐怖しました。
そのうえ通常兵器でも、情報戦においてもかなわないとなれば、一部の過激派が振り回す「パレスチナの大義」という旗は静かに降ろすしかなかったのです。

つまりベングリオンが夢見た、イスラエルを囲む平和な環境が整おうとする兆しがほのかに見え始めたのです。
それがトランプが放った「アブラハム合意」であり、さらにイスラエルとアラブ世界の盟主サウジとの接近でした。
この流れが完了すれば、安んじてイスラエルはこの核という戦略的資産を神殿からとりださずに済んだはずでした。
しかしこの共存を断じて許さないとする国が一国残りました。
それがアラブ人ではなく、ペルシャ人の国イランです。
そしてこのイランは、ロシア、中国、北朝鮮と「新悪の枢軸」を組んだならず者国家でした。

そしてイランが操るハマスが、10.7大規模テロを引き起しました。
今後、イランが核保有し、国際社会がイスラエルを孤立させる方向で動いたならば、イスラエルは核保有宣言をするでしょう。

核なき世界が夢だという岸田氏よ、ぜひイスラエルの核というパズルをほどいてみてください。
お菓子のような反核では、どうにもならないことが少しは分かるでしょうし、米国がこれほど奔走しているのはイスラエルに核保有宣言をさせないためだと分かるでしょう。
最悪ここで核の火の手が上がれば、世界を巻き込んだ大戦に発展する可能性もありえるのです。

トランプが軍事介入をためらい続けるなら、イスラエルは水面下で、ならば核保有を宣言せざるをえなくなるぞ、と通告することでしょう。

 

2025年6月19日 (木)

米国イラン攻撃前夜

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これを書いている時点(20日午前0時現在)では、まだ米国のイラン攻撃は実施されていません。
トランプはすでに攻撃計画を承認しており、トランプの決断次第です。

 「トランプ米大統領が17日にイラン攻撃計画を承認した旨を上級補佐官らに伝えていたことが分かった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が18日、関係筋の情報として報じた。ただ、イランが核開発計画を放棄するかどうかを見極めるため、最終命令は発出しなかったという」
(ロイター6月18日)
トランプ氏、イラン攻撃計画を非公式に承認 最終命令発出は保留=報道 | ロイター

トランプはイランとの協議に含みをもたせながらも、一方で軍を集結し続けています。
空爆の主力となる空母打撃群は、すでに中東水域にいるカール・ビンソン、いまマラッカ海峡を抜けてインド洋に入ったミニッツ、そして地中海にジェラルド・フォードが向かっています。

「米軍は着々と準備を進めている。ヘグセス国防長官は18日の上院公聴会で、イランを攻撃する可能性について、「我々の仕事は常に準備を整え、大統領に選択肢を用意しておくことだ」と述べた。米原子力空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群も来週、イスラエルに近い地中海に配備されるとの観測があり、完了すれば、中東情勢に対応する米空母は計3隻となる」
(読売6月19日)
イラン攻撃を承認のトランプ氏「期限の1秒前に決断下すのが好きだ」…最終命令は「保留」か : 読売新聞

また、空軍の空中給油機31機が、米本土から中東に飛行しているという情報もあります。
情報は錯綜しており、当然のことながら軍事的な情報は封印されています。
米軍が動く! 空中給油機の大移動、バンカーバスター搭載可能なB2ステルス爆撃機のスタンバイ――狙いはイランか|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

さて、今回のイラン攻撃が実施されるとすれば、それは一切のイランとの協議が不調に終わったことを意味します。
米国とイランはおそらくは水面下で交渉を重ねているはずで、20日には英独仏とイランのアラグチ外相との協議がセットされています。

「戦闘の拡大を防ごうと、欧州諸国も動いている。ロイター通信によると、独仏英の外相は20日、スイス・ジュネーブでイランのアッバス・アラグチ外相と会談する方向で調整を進めている。ドイツのヨハン・ワーデフール外相は18日の記者会見で、「 真摯しんし な姿勢で交渉のテーブルに着くのであれば、遅すぎることはない」とイランに呼びかけた」
(読売前掲)

20250620-004340   

トランプ氏、イラン攻撃計画を「承認」も最終決定は保留と米メディア 攻撃の応酬やまず - BBCニュース

G7会合ではいちおう共同宣言がでました。
共同声明の要点は3点です。

①イスラエルの自衛権を認める。
②イランの核兵器製造につながる核関連活動を絶対に容認しない。
③イランの核問題は最終的には関係国間の外交交渉で解決すべきである。

これにはトランプも署名していますが、温度差があるはずです。
米国が求めているのは「核関連活動のを絶対に容認しない」に止まらず、核施設へのIAEAの査察、そしてしかる後の解体のはずです。
ここまでやらないと、イランは口では核開発をしないと約束しておきながら、しっかりと複数の地下濃縮施設で兵器級ウラニウムを取り出そうとするからです。
ですから、いままでのように国際社会の圧力→口約束→違約→核開発進行という轍を踏まないためにどうすべきなのかが問われるのです。

「外交交渉での解決」は耳障りがいいですし、可能なら幸いですが、イスラエルが乾坤一擲の「立ち上がる獅子作戦」を実施している現在、虚しさが残ります。
実際には、イスラエルの軍事作戦、米軍の戦争準備を外交的圧力に使ってイランに迫るしかないわけですが、おそらくはイランは折れないでしょう。
というのはいまや核開発はイランという宗教権力が独裁体制を敷く国家では、最高指導者の決定は覆せないし、後戻りも妥協もできないからです。
それをしてしまったら最高指導者の権威が崩壊し、今の今の独裁体制そのものが大きく揺らいでしまいます。
だから、絶対に妥協しないはずです。

あるのは、時間稼ぎです。
できるかぎり協議しているふりをして引き延ばし、その間にいま残っている濃縮ウラニュウムだけで少量でもいいから核爆弾を作ってしまうことです。
ここで問題となるのが濃縮度60%のウランです。
兵器級濃縮ウランは90%ですが、これは不完全ながらも核兵器の材料となりえます。

「IAEAは12日、定例理事会でイランの核不拡散義務違反を批判する非難決議を可決したばかりだ。IAEAは5月31日、イランの核活動に関する包括的な報告書を加盟国に送付し、核不拡散のためのIAEAの活動に対するイランの協力について、「満足いくものではない」と批判した。IAEAによると、イランによる濃縮度最大60%のウランの保有量は、5月17日時点で3カ月前から133.8キロ増の推定408.6キログラムとなり、核爆弾9個分に相当する。IAEAは「イランは高濃縮ウランの生産と備蓄を大幅に拡大させており、深刻な懸案事項だ」と指摘した。
また、IAEAの査察官は、既知の核施設から離れた施設で、ウランの痕跡やその他の証拠を発見した。それに対し、イランはこれまで信頼できる説明をしていない。秘密核活動は、長年調査が続けられてきた。機密報告書によると、これらの活動に使用された物質は国連に報告されていないという」
イラン産「高濃縮ウラン409Kg」の貯蔵先? : ウィーン発 『コンフィデンシャル』

兵器専門家は、実際には60%の濃縮ウランでも簡易な核兵器を作ることが可能だと指摘しています。

「有力シンクタンク、米科学国際安全保障研究所(ISIS)のデビッド・オルブライトとサラ・バークハードは報告書で「比較的コンパクトな核爆弾を作るためには60%の濃縮レベルで事足りる。80%ないし90%まで濃縮を進める必要はない」と書いた。
さらに、この種の兵器は「飛行機や輸送コンテナ、トラックといった簡易な運搬システムによる運搬」に適しており、「イランを核保有国として確立するのに十分だ」としている」
(フィナンシャルタイムズ6月19日)
イスラエル・イラン戦争の行方、イランが非伝統的な手段で報復する恐れ――ギデオン・ラックマン(2/3) | JBpress (ジェイビープレス) 

IAEA元査察局長のハイノーネンは16日、BBCとのインタビューでこう言っています。

「「重要な疑問が一つ未解決のままだ。イランが400キログラムを超える高濃縮ウランをどこかに貯蔵し、ひそかに核開発を継続する場合だ」と述べている。なぜならば、イランの製造済みの約400キログラムの高濃縮ウランは、容易に隠蔽できるからだ」
ウィーン発 『コンフィデンシャル』

ここまで含んでイランと協議しなければ、また前のとおりの繰り返しとなります。
もちろんイスラエルはそのようなことをよく知っており、あいまいな妥協は許さないでしょう。

かといって、体制転換を見通さねばならない軍事攻撃にはおおかたの諸国は反対です。
それはどの国も「戦後」まで見据えているからです。
軍事攻撃を選択すれば、それは否応なしに体制転換に繋がるでしょう。
フランスのマクロンは、イラン国内に受け皿が見当たらない以上、イラク戦の戦後のような混沌とした治安状況が生まれかねないことを懸念して軍事行動には反対なようです。

そのリスクを考慮しつつ、ぎりぎりまで交渉が進むはずです。
テヘランは避難民で溢れているそうです。
燃料は配給制であり、防空シェルターもありません。
空路とはとうに閉鎖されています。痛ましいことですが、逃げ場はそう多くないことでしょう。
国軍は、ましてや革命防衛隊も国民を守りません。
彼らが奉仕するのはアヤトラ(高位聖職者)体制だけだからです。
そしてこの36年間続いた絶対権力は、綱渡りの限界を越えて奈落に落ちようとしています。

 

 

 

トランプ、イランに降伏勧告

018

驚いたことにはトランプが、G7を中座したと思ったらこんどはイランに降伏勧告です。
いつもながらトンでるね、この人の頭の中では整合してるんだろうけど、いきなりここですか。
 第一、あんたつい最近まで仲介する、協議に応じろと言ってたじゃないですかね。
急に片方の立場になって「無条件降伏」(unconditional surrender.)はないだろう、って思いますよね。

「複数の米主要メディアは17日、トランプ米大統領が米軍によるイランの核施設攻撃を検討していると報じた。トランプ氏は同日、自身のSNSで核兵器の保有につながるウラン濃縮活動停止に向けた「無条件降伏」を要求した」
(日経6月18日)
トランプ氏がNSC開催、イラン攻撃検討と報道 「無条件降伏」要求 - 日本経済新聞

あまり軽々しくunconditional surrenderなんて言うのは、止めていただきたいものです。
だって「無条件降伏」とは、外交的にキチンと定義されているのです。

「無条件降伏(むじょうけんこうふく、unconditional surrender)とは、普通には軍事的意味で使用され、軍隊または艦隊が兵員・武器一切を挙げて条件を付することなく敵の権力に委ねることを言う」
無条件降伏 - Wikipedia 

つまりイランの陸海空軍及び革命防衛隊は、一切の条件なしで武装解除されるということです。
今のイランが呑むわけないしょ。
軍隊、特に革命防衛隊がなくなったら、イラン国民はさぁ来い占領軍め、ゲリラとなって戦うゾとなるでしょうか。
まずないでしょう。今、国民は過酷な宗教的締めつけと貧しさにうんざりしているし、産油国でありながらしょっちゅう停電している政府に飽き飽きしています。
軍さえなくなれば、イスラム坊主どもは民衆につるし上げられること必定です。

ただしトランプが見ているように、今のイランは瀕死です。
なんといっても、石油で得た国家収入を国民に配分せずに惜しみなく分け与えて育成してきた中東のハマス、ヒズボラ、フーシ派などのテロリストグループが、ことごとくイスラエルによって壊滅、ないしは壊滅寸前なことです。
いわば外堀が埋められた状態です。
ですからいつもだったら、今のようにイランが直接爆撃されれば、親分危うしとばかりにガザやレバノンから飛んできたロケット弾やドローンを自分で飛ばさねばなりません。

しかしそれも、いままであまりにテロリストグループが無思慮にテロ攻撃に使ったために、全部特性を読まれてしまっています。
イランは盟友のロシアに恩を売るためにドローンを大量供与しましたが、イスラエルはウクライナに専門家を派遣してまで特性を把握しようとしました。
そしてその対策をウクライナと共有したのですが、そのためにしこたま保有していたドローンは、いまやIDFのカモと化しています。

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【解説】 ロシア、中東の友好国を再び失うことを懸念 イランとイスラエルの軍事衝突で - BBCニュース

また爆撃を阻止しようにも防空システムがオシャカです。
自慢のロシア製S-300もS-400も揃って、モサドによってしらみ潰しに破壊されてしまっていますから、イラン領空は丸腰のガラ空き状態です。
せめてシリアにアサド政権が残っていてくれたら、イスラエル軍機の通過を許さなかったのでしょうが、いまはありませんからフリーパスです。
イラクも同じですから、イラン上空の優勢は完全にイスラエルに握られています。

現代戦において航空優勢を握られたら、その時点で負けです。
好き放題頭上から爆弾やミサイルが降ってきます。
ウクライナ戦争がこれほど長引いているのは、露宇共ににウクライナ上空の航空優勢を取れないからです。
F-16は離陸した瞬間に露軍のS-400によってキャッチされていますから、満足に任務を果たせません。
逆に露軍の戦闘機や爆撃機も、上空を飛べば落とされるのでおちおち攻撃参加できないのです。
露軍は戦略爆撃機で領空外から巡航ミサイルを撃つという苦肉の策を使っていましたが、それも「蜘蛛の巣作戦」で戦略爆撃機を大量に破壊されてしまいました(ざまぁみそ漬け)
したがって双方共に手詰まり。だからドローン戦争になってしまうという側面もあるのです。

いまイランは、苦し紛れに弾道ミサイルを撃ち込んでいますが、いままでのように軍事目標に向けて発射するのではなく、デタラメにともかくイスラエルならどこでもいいやとばかりに高価なミサイルを370発発射し、着弾できたのが30発です。
アロー1、アロー2によって9割前後が撃墜されています。
しかも軍事目標を狙えず民間アパートを撃ってどうするのです。
ほとんど全部迎撃されてしまっているのもさることながら、目標をマッピングすべきイランの情報機関が壊滅しているためです。

「イスラエルのライター駐米大使は15日、ABCの番組で「われわれには優れた防空システムがあるが、空を完全に密閉できるわけではない」と発言。「発射された弾道ミサイルのうち約10-15%が迎撃をすり抜けている」と語った。これは、イスラエル軍があらかじめ想定していた「到達率」の範囲内とされる」
(ブルームバーク6月17日)
イスラエル防空網、大きな試練に直面-イラン弾道ミサイル波状攻撃で - Bloomberg

情報機関もなにも、そもそも軍や革命防衛隊の司令部が壊滅状態です。
いまや生存している幹部は探す方が困難です。
核科学者は14人も殺害されたので、核開発を再開する力は残っていないでしょう。

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最高指導者ハメネイは「無償権降伏」を拒否してこう述べています。

「アメリカのトランプ大統領が求めた「無条件での降伏」を拒否したうえで、次のように警告しました。
イラン最高指導者 ハメネイ師
「アメリカが、特に軍事的に介入する場合、アメリカが被る損害は間違いなく取り返しのつかないものになるだろう」
AP通信などによりますと、イラン外務省の報道官は、アメリカなど第三国が介入すれば「地域を超えた全面戦争になるだろう」と強調。「イランの兵器の射程圏内にある近隣諸国に、数千人のアメリカ軍部隊が駐留している」と述べ、アメリカの介入があった場合、中東にある米軍基地への報復攻撃の可能性を示唆しています」
(TBS6月19日)
イランの最高指導者ハメネイ師 軍事介入なら「米国は取り返しのつかない損害受ける」と警告(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

中東にある米軍施設へのミサイル攻撃など、先刻予想済みです。
海上の米海軍と地上からの迎撃ミサイルによって9割は落とされるでしょう。
そしていったん米軍施設を標的にしたなら、そのお返しは倍返しなんかでは済みませんよ。
湾岸諸国でイランに味方する国など皆無で、むしろ冷やかに見ているでしょう。
だから中東全域を巻き込んだ戦争になどなりようがありません。

このようにイランは抵抗したくともできない、せめてあと数カ月あれば核ミサイルを手にやるならやってみろ、死なばもろともだと叫べたのでしょうが。
だからイランが呑むワケないのは百も承知ですから、トランプは米軍の投入を検討し始めているようです。

「トランプ米大統領は17日、国家安全保障チームと緊迫化する中東情勢について協議した。事情に詳しい関係者が明らかにした。これを受け、米国がイスラエルのイラン攻撃に加わるとの観測が再燃している。
会合は1時間余り続いた。ホワイトハウス当局者は協議終了後もコメントや声明を控えている。ホワイトハウス当局者によると、トランプ氏は協議終了後にイスラエルのネタニヤフ首相と会談したという。米国製兵器はイスラエル単独では成し得ないイラン核施設の完全な破壊に不可欠とみられている」
(ブルームバーク6月18日)
トランプ氏、中東情勢で国家安保チームと協議-イランへの降伏要求後 - Bloomberg

たぶんやるとしても、イスラエルが渇望している地中貫通爆弾の提供でしょう。
イスラエルは核施設を主要な標的にしていましたが、もっとも重要な核濃縮施設があるナスタンズの地下施設はどうやら無傷で残されているようです。
下写真がナスタンズ核濃縮施設ですが、フォルドゥ核施設も同様に深深度に濃縮施設中枢があります。

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イラン核施設被害は「限定的」、専門家がイスラエル攻撃後の画像分析 | ロイター

「国際原子力機関(IAEA)は同日、イスラエルの攻撃によって、イランの主要な核燃料生産施設の地下にあるウラン濃縮施設が損傷したことが新たな衛星画像で示唆されたと明らかにした。
IAEAはXへの投稿で、「地下の濃縮施設に直接的な影響を与えたことを示すさらなる要素を特定した」と説明。イスラエルが主張してきた同施設に対する攻撃を、IAEAが独立機関として初めて確認した。5日目に突入した今回のイラン攻撃で、イスラエルは当初からナタンズにある同施設を攻撃目標にしていた。
IAEAによれば、フォルドゥにある地下濃縮施設は、現在のところ損傷は検出されていない。
衛星画像からはナタンズ施設の地上構造物に明らかな損傷が確認されていたが、IAEAはこれまで地下の濃縮施設には損傷が見られないとしていた。今回の画像分析が正確で、イラン国内で最大規模の濃縮能力を持つこの施設が破壊されたとすれば、同国の核開発計画にとってさらなる深刻な打撃となる」
(ブルームバーク6月18日)
トランプ氏、中東情勢で国家安保チームと協議-イランへの降伏要求後 - Bloomberg

いままでに破壊されたのは、地表部分の施設と周辺の電源インフラだと思われます。
というのは核濃縮施設は推定で80~90mという深深度に建設されており、イスラエルが保有する地中貫通爆弾(バンカーバスター)の届く深度はせいぜい6mで歯がたちません。
これを破壊しようとすると世界最大級のGBU57しかありませんが、それすら60mだと言われています。
それもあまりに巨大なので、これを投下するにはイスラエルの戦闘機では不可能で、B-2が必要なはずです。
つまり、米軍が直にB-2を飛ばして落とすしかないのです。

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Chosun Online | 朝鮮日報

G7首脳会議で、トランプはワシントンが軍事介入する条件について問われ、「その件については話したくない」と答えています。
まだ決心が定まっていないようですから、まず口先介入でというわけで降伏勧告です。
イスラエルのモサドはだいぶ前から最高権力者ハメネイの所在を探知して追跡しており、爆撃の許可をワシントンに秘密裏に求めたようです。


「BBCがアメリカで提携するCBSニュースは15日、米政府関係者3人の話として、アメリカのドナルド・トランプ大統領が、イスラエルによるイランの最高指導者アリ・ハメネイ師の殺害計画を認めなかったのだと報じた。
関係者の1人によると、トランプ氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、ハメネイ師の暗殺は「良い案ではない」と伝えたという。トランプ氏はこの報道について、現時点で公にコメントしていない。
このやり取りは、イスラエルが14日にイラン攻撃を開始した以降に行われたとされている。
ネタニヤフ首相は15日に放送された米FOXニュースのインタビューで、トランプ氏がハメネイ師の殺害計画を却下したのだとするロイター通信の報道について、肯定も否定もしなかった」
(BBC6月16日)
トランプ氏、イスラエルによるイラン最高指導者の殺害に反対か 米政府関係者が証言と報道 - BBCニュース

結局、ワシントンの答えはノーだったわけですが、今になってこのカードは生きてきます。 
ちなみに、テヘラン空港も爆撃で使用不能ですから、国外逃亡もできません。

なおふたつの米海軍空母打撃群が、中東水域に接近しています。

「米海軍は中東有事に備え、二つの空母打撃群を即応態勢に置く方針とみられている。一つが空母「ニミッツ」を中心とする打撃群、もう一つが空母「カールビンソン」を中心とする打撃群だ。
複数の米当局者によると、ニミッツの打撃群は16日、中東へ向かうため東南アジアの海域を出発した。約7カ月間の日程で中東に展開中のカールビンソン打撃群と合流するとみられる」
(CNN6月18日)
中東派遣へ 米海軍の空母打撃群、その戦力は? - CNN.co.jp

ミニッツは到着するのが7カ月後ですが、すでにカール・ビンソンは中東水域で作戦中です。
トランプにとって、対イラン攻撃は願ってもない好機なはずですが、むしろ敵は自陣営のほうでしょう。

「イスラエルとイランの交戦を巡り、米国のトランプ大統領が掲げる「米国第一」に共鳴する岩盤支持層「MAGA」の間で米国の参戦に否定的な意見が目立つ。トランプ氏は共和党内の対イラン強硬派からは参戦を後押しされており、是非を慎重に見極めている」
(読売6月18日)
トランプ岩盤支持層、対イラン「参戦反対」相次ぐ…トランプ氏はいら立ち隠せず(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

こういう微妙な時期にイランが中東の米軍基地を攻撃して、ひとりでも米兵の犠牲者が出たら、それはむしろトランプに口実をあたえるようなものです。

 

2025年6月18日 (水)

イランはホルムズ海峡を封鎖するか

031

G7が共同声明において、今回の攻撃をイスラエルの自衛戦争であると認め、イランの核保有を許さない立場を明確にしました。

「我々G7首脳は、中東の平和と安定へのコミットメントを改めて表明する。
この文脈において、我々はイスラエルが自国を防衛する権利を有することを断言する。我々はイスラエルの安全保障に対する支持を改めて表明する。
我々はまた、民間人の保護の重要性も認める。
イランは地域の不安定化とテロの主な発生源である。
我々は、イランが核兵器を持つことは決してできないと一貫して明言してきた。
我々は、イラン危機の解決がガザでの停戦を含む中東における敵対行為のより広範な緩和につながることを強く求める。
我々は、国際エネルギー市場への影響を引き続き注視し、市場の安定を守るために、同じ考えを持つパートナーを含む関係者と連携する用意がある」
イスラエル・イラン間の最近の進展に関するG7首脳声明 |カナダ首相

日本は早々にイスラエル非難声明を出したわけですが、これでひとつ決着したわけです。
ただし、このような国際社会の支持は、10.7ハマステロの時にもあったわけですが、その後のあまりに過剰なガザ地区への攻撃により雲散霧消してしまいました。
イスラエルの今回の作戦は終わっていませんが、分別をもって戦うことをG7は要求しているのです。

さて、イスラエルがイラン石油施設を攻撃した理由は、言うまでもなくイラン経済の大動脈を遮断することです。

「イランの石油の確認埋蔵量は世界有数で、今年度の国家予算の約35%を占め、税収を上回る。2018年に米国が経済制裁を復活させた以降も、 迂回輸出し、生産量と石油輸出の収入はともに伸びている。イスラエルにとって、イラン経済の封じ込めに最も効果的なのが、石油関連施設の破壊であることは確かだ」
(読売6月15日)
イスラエル、石油・ガス施設標的…イランの基幹産業攻撃し体制揺さぶり狙う : 読売新聞

読売は14日、イラン国営放送が反米・保守強硬派の重鎮エスマイル・コウサリ議員が、イランがホルムズ海峡の封鎖を真剣に検討していると報じています。
紅海の出入り口を扼するホルムズ海峡は、世界の石油関連製品の消費量の20%が通過する石油輸出の大動脈で、封鎖されれば原油価格は高騰します。

今回もいままでの低迷から、一気に70㌦を突破しました。

20250618-052924

マーケット|SBI証券

20250617-055353

原油価格、サウジなどへの混乱波及が焦点 - 日本経済新聞

ただしこの市場の混乱も一時的でしょう。
いままで何度も紅海は戦乱に巻き込まれており、それに懲りたサウジやUAEは既にここを迂回してアラビア半島を横断するイースト-ウェスト石油パイプラインを作っています。


20250617-055939

East-West石油パイプライン - Wikipedia

日本の石油はこのサウジとUAEが主で、イランは元来が少ない上に制裁で途絶しています。

20250617-060505

日本はどこから原油を輸入しているのか(不破雷蔵) - エキスパート - Yahoo!ニュース

イラン原油輸出先の大手は中国とインドです。

20250617-060751

米国、イラン経済制裁を再開  - 化学業界の話題

ホルムズ海峡を封鎖されてもっとも困るのは中国で、中国の石油備蓄は35~50日程度なので厳しい状況に置かれる可能性があります。
イランが、最大の買い手であり、IAEAのイラン非難決議でロシアと共に反対票を投じてくれた貴重な友邦である中国の利害と敵対してまで、封鎖に走るか見物です。
また、米国を戦争に巻き込むリスクが飛躍的に高まります。
いまでも関係がよくないサウジなど湾岸諸国との関係改善は絶望的でしょうから、たぶんやらないのではないと思います。

そしてもうひとつの攻撃理由が、これによりイラン国民がイスラム原理主義体制を変革する手助けをすることです。

「イスラエル国防軍は6月14日、ブーシェフル州にあるイランの天然ガス精製所2カ所を標的にした。ソーシャルメディアのユーザーは、6月15日にテヘランのガソリンスタンドに長蛇の列ができたと報告した。
イランのエネルギー部門の混乱は、同国で進行中のエネルギー危機を悪化させ、より広範で頻繁な電力不足や停電につながる可能性が高い。イラン人は以前、エネルギー不足に対応して政権に抗議してきた。2017年と2018年のガソリン価格の上昇をめぐるデモは、より広範な反体制抗議行動にエスカレートした」
(国際戦争研究所6月15日)
イラン・アップデート特別レポート 2025年6月15日 朝刊 |戦争研究所

ブルームバークはこう書いています。

「23年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲攻撃以来、イランの代理勢力を解体するために「体系的で慎重かつ組織的」な方法でイスラエルは取り組んできたと、ネタニヤフ氏は述べている。
この作戦はハマスの壊滅から始まり、イランが支援するレバノンのヒズボラを標的とした攻撃や指導者暗殺へと続いた。「約束通り中東の様相を変えている」と、ネタニヤフ氏は昨年12月に語り、これは常とう句となっている。(略)
イランのペゼシュキアン大統領の元顧問で、長年にわたり体制改革を訴えてきた経済学者、サイード・ライラズ氏は「イランの限界点が私の予想よりずっと早く訪れたように見受けられる」とし、「イランにはこれよりはるかに大きな耐性があると思っていた」と明かした」
(ブルームバーク6月16日)
イラン指導部に迫る審判の時-イスラエルの攻撃激化でジレンマに直面 - Bloomberg

この攻撃によりイランの体制が打撃を受けたことはたしかでしょうが、これが一気に体制変革に繋がるかは未知数です。

 

2025年6月17日 (火)

イランが6回協議を拒否したのは核兵器が完成直前だったからです

049

今回のイスラエルの「立ち上がる獅子作戦」が発動された日を思い出して下さい。
それはトランプがこの3月、イランに対し核協議に合意するよう与えた2ヶ月の期限が過ぎた直後のことです。
なぜこの日だったのでしょうか。ちょっと時系列で振り返ってみましょう。

「アメリカのメディアは、トランプ大統領が敵対するイランに送った核開発をめぐる交渉を呼びかける書簡の中で、交渉期限は2か月だとしていたと伝えました。早期に対話に応じるようイランに迫った形です。
トランプ大統領は今月、イランの最高指導者ハメネイ師に対して核開発をめぐる交渉を呼びかける書簡を送ったと明らかにしています。
これについてアメリカのニュースサイト「アクシオス」は19日複数の関係者の話として、書簡の中で、トランプ大統領は無期限の交渉は望まず、期限は2か月だとしていたと伝えました」
(NHK2025年3月20日 )
“トランプ大統領 イランと交渉期限は2か月 核開発めぐり”米報道 | NHK | イラン

こうしてイランは外交的手段で核開発を停止する期間を与えられたわけですが、米国との協議には応じないと一蹴しました。


「イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は12日、核開発計画についてアメリカと交渉する考えはないと述べた。アメリカのドナルド・トランプ大統領は先週、イランの核開発をめぐり、交渉を要求する書簡を送ったと述べていた。イランはこの日、書簡を受け取ったことを認めた。
トランプ氏は7日の米FOXビジネスのインタビューで、イランが核開発について協議に応じなければ軍事行動に出る可能性があると、書簡で警告したと述べていた。
トランプ氏の書簡はアラブ首長国連邦(UAE)経由でイランに届けられた。ハメネイ師は、書簡には目を通していないとしつつ、「世論をあざむくもの」だと一蹴した」
(BBC2025年3月13日)
イラン、核開発めぐる米国との交渉拒否 トランプ氏の書簡を受領 - BBCニュース

61日目のトランプの発言はこうです。

「イスラエルの攻撃が圧力になり、弱体化したイランが妥協して合意に応じる可能性があるという期待感を示した。
「私は2カ月前、イランに合意のため60日間の期限を与えた。今日は61日目だった。彼らは合意すべきだった!」
トランプ氏は13日朝、自身のSNSにこう書き込んだ。メディア各社と短い電話インタビューにも応じた。ロイター通信には「我々は(事前に)すべてを知っており、私はイランを屈辱と死から救おうとした。合意が成立することを心から望んでいたため、彼らを救おうと懸命に努力した」と主張」
(朝日6月14日)
トランプ氏「イランを屈辱と死から救おうとした」 核合意になお期待 [トランプ再来]:朝日新聞 

つまり、「立ち上がる獅子作戦」発動の6月14日とは、すなわちイランが国際社会とのすべての話し合いの道を絶った日だったのです。
しかもイランは協議に応じなかっただけではなく、その期限当日にやったことはトランプに対するツラ当てでした。

いままで開示してこなかった秘密の核施設での作業を開始し、フォルドゥの核施設の遠心分離機の増設も行うと発表したのです。
これに対して12日、IAEAは強く反発し、イランに非難決議を出して可決しました。

「イランの核開発をめぐり、IAEA=国際原子力機関の理事会は12日、IAEAの調査への協力が不十分だとしてイランを非難する決議を採択しました。イランは対抗措置として新たなウラン濃縮施設を建設すると発表し、今月15日に行われるアメリカとイランの核開発をめぐる協議への影響も懸念されます」
(NHK6月12日)
IAEA理事会 イラン非難の決議採択 イランは対抗措置を発表 | NHK | イラン

そして13日、イスラエルはもはや平和的手段でイランの核武装は阻止できないと見極めた上で、イスラエルは「立ち上がる獅子作戦」を発動したのです。
ちなみに、イランを「伝統的友好国」と呼ぶわが国は、世界でもっとも強い調子でイスラエルを非難しています。

「石破総理大臣は13日夜「イランの核問題の平和的解決に向けた外交努力が継続している中で、イスラエルによる軍事的な手段が用いられたことは到底許容できるものではない」と述べ、イスラエルによる攻撃を強く非難しました。
政府は、中東地域の平和と安定は日本にとって極めて重要だとして、事態がさらに悪化しないよう、イスラエルとイランに最大限の自制と事態の沈静化を求めることにしています」
(NHK6月14日)
イスラエルとイランの軍事衝突 日本政府 最大限の自制求める 現地の日本人の安全確保に万全期す | NHK | イスラエル

ゲルさん、「外交的努力が継続されている」ですって、この流れを見て、どうしたらそう見えるのか不思議です。
欧州各国の「外交的努力」が破綻し、核濃縮を継続し、さらに挑発的にもフォルドゥの核施設の遠心分離機の増設までするという核武装を公然化したから、最後の手段として軍事的主他ンにたよらざるを得なかったのです。
これは「自衛行動」で、主要国もこれを認めています。

まずはフランス。「イスラエルが自衛し、安全を確保する権利を再確認する」と明確に言い切っています。

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XユーザーのEmmanuel Macronさん

続いてカナダ。同じく「イスラエルが自国を防衛し、その安全を確保する権利を再確認する」としています。

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XユーザーのMark Carneyさん

英仏独はイランが6回もの協議のチャンスを拒否し続けたと非難しつつ、「最後の協議」を呼びかけました。
もう遅いよ、ワデフルさん。

「ドイツのワデフル外相は、中東情勢の緊張緩和に向け、フランス、英国とともにイランの核開発を巡り同国と直ちに協議を行う用意があると表明した。
中東を訪問中のワデフル氏は、イスラエルとイランの対立緩和に貢献しようと取り組んでいるとし、イランがこれまで建設的な協議に入る機会を逃してきたと指摘」
(ロイター6月15日)
独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩和へ | ロイター 
わが国のイスラエルに対しての「到底許容できない」とする姿勢とはえらい違いです。
日本政府の伝統である「イランと国際社会のパイプ」とやらがなにか役に立ちましたか?
キレイゴトはけっこうです。
国際法上「予防戦争」であり自衛戦争ではないとJSF氏も書いていましたが、だからなんなのでしょうか。
国際法はイランの核武装を止めることにはなんの役には立たなかったが、その第1標的であるイスラエルの核開発施設の除去は違法だと、言いたいようです。
ならば国際法とはいったなんなのでしょうか。

英独仏がイランに「最後の協議」を呼びかけていますが、これはイスラエルとイランが交戦関係に入った後のことです。
では、どうやったらイランの核保有を阻止することができたのでしょうか。
国際戦争研究所はこのように述べています。これが現実です。
「アメリカの兵器専門家は6月15日、もしイスラエルがフォルドウ燃料濃縮工場(FFEP)を稼働不能にしなければ、イランは攻撃前の60%濃縮ウラン備蓄を使って、最初の月末までに9発の核兵器に十分な兵器級ウラン(WGU)を生産できるようになると報じた。 科学国際安全保障研究所は6月9日、イランがFFEPで現在備蓄している60%濃縮ウランを3週間で233キログラムのWGUに転換できると報告した。
 科学国際安全保障研究所(Institute for Science and International Security)は、核兵器1発を製造するには25キログラムのWGUが必要であることを考えると、9発の核兵器を製造するには233キログラムのWGUで十分であると報告した」
(国際戦争研究所 6月15日)
イラン・アップデート特別レポート 2025年6月15日 朝刊 |戦争研究所

  • この報告書と並行するNPT報告書は、イランがJCPOAとNPTに何度も違反し、兵器級ウランを製造する能力を強化していることを強調するのに役立つが、おそらく最も重要な懸念事項を曖昧にしている。イランの核兵器化計画は、査察官や世界の目の届かないところで着実に進んでいる。緊急に必要とされているのは、IAEAの査察をイランとの関係の中心に据え、イランが核兵器を持つことは決して許されないことを再確認することである。
    所見
    イランは、現在の60パーセント濃縮ウランの在庫を、フォルドウ燃料濃縮工場(FFEP)で3週間で233キログラムのWGUに転換できるが、これは9発の核兵器に相当し、兵器1発当たり25キログラムの兵器級ウラン(WGU)に相当する。
  • イランは、わずか2、3日で、最初の量の25kgのWGUをフォルドウで生産できる。
  • フォルドウとナタンツ燃料濃縮工場(FEP)の両方で勃発したこの2つの施設は、最初の月に11発の核兵器に十分なWGU、2ヶ月目の終わりまでに15発、3ヶ月目の終わりまでに19発、4ヶ月目の終わりまでに21発の核兵器を生産することができた。 そして5か月目の終わりまでに22人。
  • 査察官の目の前で、イランは脱出のほぼ最終段階に着手しており、現在、濃縮ウランの20%のストックを60%の濃縮ウランに大幅に拡大した速度で変換しているが、この速度はこれ以上長くは維持できない(下記参照)。
  • イランは、特に数百キログラムのレベルで、60パーセントの濃縮ウランを生産することについて、民生用使用や正当化を全くしていない。研究用原子炉で民間に使用されている濃縮ウランの在庫を20%近くまで急速に枯渇させ、はるかに多くを作ろうと急いでいることが、さらなる疑問を提起している。たとえ60パーセントの生産が核交渉における交渉上の影響力を生み出すためだと信じている人がいるとしても、イランは必要以上に進んでいる。イランの真の意図は、可能な限り迅速に、できるだけ少ない遠心分離機で大量のWGUを生産する準備をすることであると結論せざるを得ない。
  • 当然のことながら、IAEAは、その控えめなスタイルで、この最新の報告書で、「イランによる高濃縮ウランの生産と蓄積の大幅な増加は、そのような核物質を生産する唯一の非核兵器国であり、深刻な懸念事項である」と繰り返した。
    IAEAイラン検証・監視報告書の分析 — 2025年5月 |国際安全保障科学研究所
月内に核兵器が完成すればもうなにも出来ません。一切が無意味です。
この現実を前になにが出来たのか、冷静に考えてからイスラエルを批判することです。
ただひとつ言えることは、仮にこのイスラエルの攻撃が国際法違法だったとしても(私は訴因は阻却されると思いますが)、国際法というキレイゴトを守った結果、二度と
アウシュビッツに戻ることはしないということです。

2025年6月16日 (月)

イスラエル、イラン核施設攻撃続報

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イスラエルのイラン核施設攻撃の続報です。
予想されたことですが、怒り狂ったイランは報復攻撃に移りました。
最初の攻撃は、長距離自爆ドローン約100機でしたが、これは待ち構えてきたIDF(イスラエル国防軍)の戦闘機によりすべて撃ち落とされ、第2波の弾道ミサイル攻撃がイスラエルを襲いました。


「イランの革命防衛隊(IRGC)は声明で、イスラエル国内の「数十の標的、軍事施設、空軍基地」に対する、「真の約束作戦3」を実行したと発表した。
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、「戦争を始めた」イスラエルに「大打撃を与える」と述べた。
イランはイスラエルに向けて、計100発弱のミサイルを2度に分けて発射したと、イスラエル国防軍(IDF)のアラビア語報道官アヴィチャイ・アドラエ氏は述べた」
(BBC6月14日)
イランがイスラエルに報復 ミサイル攻撃で数十人負傷、3人死亡と - BBCニュース

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イラン報復、ミサイル数百発|全国海外|神戸新聞NEXT

イスラエル軍は、国産の弾道ミサイル防衛システム「アロー2」「アロー3」で迎撃し、これに米陸軍のTHAADが加わって迎撃しました。
この時点で米国はこの紛争に介入したということになります。
9発が迎撃網をかいくぐって着弾した模様で、犠牲者も出たようです。
非常に派手な攻撃でしたが、効果は上がっていません。
なお、イランがドローンと弾道ミサイルのみに頼りきるのは、IDFの世界有数の空軍力と対抗すべくもないからで、イラン領空を我が物顔で飛び回るイスラエルと大きな空軍力の差が出ています。

これは事前にモサドが、イランに大量に浸透し、対空ミサイル基地の所在、防空司令部のありか、さらにはイラン革命防衛隊や軍の幹部、原子力科学者の居場所まで正確にマッピングしていたためです。
CNNはイランは「モサドの遊び場と化した」とまで評しています。

「(CNN) イスラエルが未曽有の大規模爆撃をイランの核施設と軍の上層部に向けて実施するその前から、同国のスパイたちは既に敵の領土に入り込んでいた。
イスラエルの治安当局によると、同国の情報機関モサドが攻撃に先駆けて、イランへ秘密裏に武器を運び込んでいた。その武器を使用し、イランの防御を内部から標的にする計画だったという。
これらの当局者によれば、イスラエルは自爆型ドローン(無人機)の発射拠点をイラン国内に設置。それらのドローンはその後、首都テヘラン近郊に配備されたミサイル発射装置を狙うのに使用されている。精密兵器も同様に持ち込まれ、地対空ミサイルを標的として使われた。こうした動きを受けて、イスラエル空軍は13日未明、200機を超える航空機による大規模爆撃を遂行することができた」
(CNN6月14日)
イランがモサドの「遊び場」に、イスラエルによる未曽有の攻撃で露呈 - CNN.co.jp

推測に過ぎませんし、あきらかになることはないでしょうが、イランの指導部、軍の中枢レベルにまでモサドの協力者がいると思われます。
あの10月7日の大規模テロを許してしまった、世界最強を自他共に許すモサドはこれで面目を施したことになります。

それはさておき、イスラエルの「ライジング・ライオン作戦」は継続されており、石油施設、国防省にまで攻撃が及びました。
テヘラン西部のシャフラーン石油貯蔵所も攻撃され、石油や天然ガスの貯蔵施設・輸出施設が破壊されました。
世界の原油相場が爆上がりすることでしょう。ロシアはほっとしているかもしれません。

「イラン当局は14日、南部ブシェール州にある世界最大のガス田がイスラエル軍の攻撃を受けたと明らかにした。イランメディアが報じた。イランによるミサイル攻撃で死傷者が出たことを受け、イスラエルが攻撃対象を軍事施設からエネルギー関連施設に広げた形だ。
これに対し、イランも14日夜、新たに石油関連施設を狙ったとみられるミサイル攻撃を実施した。事実上の交戦状態が続く中、こうした施設で被害が拡大すれば、世界経済にも影響する恐れがある」
(毎日6月15日)
イランとイスラエル、「交戦状態」に 石油施設標的で世界経済に影響も(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

よく言われるようにイスラエルは無差別攻撃をしているわけではなく、正確に目標を軍事目標、ないしは石油関連の戦略目標に絞り、それを的確に破壊しています。
またナンタツの核施設攻撃でわかるように、核濃縮分離機にはあえて手をつけず、そのエネルギーインフラを徹底的に破壊しています。
これはJSF氏が評価するようにイスラエルの力の限界だったのか、あるいは意図的だったのか判断に迷うところです。

「アメリカ軍が参戦していない点も非常に重大で、イスラエル単独の空爆だけでは完全にはイランを叩ききれない可能性が高いでしょう。イスラエル軍は戦術的には戦闘機で長躯侵攻して空爆を行い大きな戦果を上げているものの、戦略的な目標を達成するには不十分であり、イランの核開発能力を除去しきれない可能性があります。
その場合、怒り狂ったイランが核武装の決断を行ってしまい、逆効果となってしまう可能性が決して低くはありません。そもそもこの攻撃が完全に成功したとしても、イランの核開発を数年から10年程度遅らせることが限界だったでしょう。それがもし中途半端な攻撃の成果に終わったら、もっと短い期間でイランは核武装を実行できてしまうことになります」
(JSF6月14日)
イスラエル軍が単独でイラン核施設空爆「アンケラヴィ」作戦を実施、イランは弾道ミサイルで報復攻撃を開始(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

う~ん、どうでしょうか。常に信頼に足る判断のJSF氏ですが、「戦略的な目標を達成するには不十分」とまで言うのはいかがなものでしょうか。
「たかだか核開発を10年遅らせるだけ」と仰せですが、それで充分に「戦略目標は達成された」と見るべきです。
これが力の限界によるものか、あるいは戦争拡大のリスクの最小化を図ったとしたためなのか、もう少し時間がたたなければ判断がつきません。
いずれにせよ、イスラエルは現時点でイランと全面戦争する意志はなく、核開発を大幅に遅延させることに主眼を置いたように見えます。
評価については明日に。

 

2025年6月15日 (日)

日曜写真館 あじさいに 絞り下ろしの 水絵具

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七変化にてとどまらぬ 花の色 伊丹三樹彦 

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あなたと視るあじさいよりもたわわな思慕 楠本憲吉

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あじさいに降り 有彩の 雨の糸 伊丹三樹彦

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いくらでも水気ほしげに紫陽花は 細見綾子

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ありなしの色から育つ あじさい これ 伊丹三樹彦

 

2025年6月14日 (土)

イスラエル、イランの核施設を攻撃

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イスラエルがイランの核施設を先制攻撃しました。
延べ200機近い航空機が参加したと報じられています。
一方イランはドローンで報復しました。


「イスラエルは13日未明(日本時間同午前)、イランの核関連施設などを攻撃したと発表した。イランの首都テヘランでは、爆発音が響いた。イラン国営メディアは、市民や軍関係者らに死者が出たと伝えている。イランは報復する考えを示しており、イスラエルは全土に非常事態を宣言した。イランは同日、少なくとも6人の核科学者が殺害されたと認めた。イスラエル・メディアは同日午後、イランが発射したドローン(無人機)はすべて迎撃したと伝えた。
テヘランでは現地時間午前4時過ぎに爆発音がした。その直後、イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は、同国軍がイランを攻撃したと発表。「非常に近い将来」に反撃が予想されるとし、全土に非常事態を宣言した」
(BBC6月13日)
イスラエル、イランを攻撃 核関連と軍の施設と説明 - BBCニュース

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XユーザーのEmanuel (Mannie) Fabianさん: 「The IDF releases footage showing Israeli Air Force fighter jets heading out for the strikes in Iran this morning, as well as landing following the attacks. https://t.co/1xbif5i8gK」 / X 

攻撃したのはイランの核施設で、イランは核爆弾9~15個と、それを乗せるためのミサイルを製造していました。
イスラエルはこれ以上座視できないとして、かねてから予告していた「先制攻撃」に踏み切ったようです。

「イスラエル軍によると、イランのウラン濃縮にとどまらず、いよいよ核兵器のあらゆる部品製造にも着手しており、その数、少なくとも9個分(メディアによっては15個分)と報告されていた。
このため、イスラエルは、もはやこれ以上躊躇することはできないと判断。
イランがこれまでから、公にイスラエル攻撃を主張してきたことから、イスラエルは今回の攻撃を「先制攻撃」だと強調した」
(Times of Israel6月13日)
「緊急の作戦上の必要性」:イスラエルがついにイランの核施設を攻撃した理由 |

ネタニヤフは、攻撃の前日に嘆きの壁に行って祈りを捧げ、そこに一枚の紙を置いています。
そこにはこのような旧約聖書の一節がありました。

「見よ。この民は雌獅子のように起き、雄獅子のように立ち上がり、獲物を食らい、殺したものの血を飲むまでは休まない」
(民数記23:24)

ここからこの作戦名「立ち上がる獅子」(Rising Rion )が取られたようです。
いかに乾坤一擲の戦いだったか、分かろうというものです。 

この時期を選んだのは、直前の12日にIAEA(国際原子力機関)が理事会を開催し、イランが核合意に違反しているとの欧米4カ国(米英独仏)の訴えを加盟国35カ国で採択を行ない、賛成19、反対3(ロシア、中国)、棄権11カ国、不投票2カ国で、可決となったことを受けています。

攻撃対象は、モサドがかねてからイランに潜入して調べ挙げていた核施設とミサイル基地群です。
下写真は攻撃を受けたナタンズの核濃縮施設です。

20250613-232631

Satellite image show key Iranian nuclear facilities before Israeli attack Satellite Image ©2025 Maxar Technologies ナタンツの核施設
「イラン中部イスファハン州にあるナタンズの核施設は、地上と地下に建設されたイラン最大のウラン濃縮施設です。
2002年8月、イランの反体制派によってその存在が暴露され、イランが秘密裏に行っていた核開発が発覚するきっかけとなりました。
2015年の核合意によってウラン濃縮はこのナタンズの施設に限定され、濃縮度の上限も3.67%に制限されましたが、2018年にアメリカのトランプ前政権が合意から一方的に離脱するとイラン側は反発し、2021年からは濃縮度60%のウランを製造・蓄積しています」
(NHK6月13日)
イスラエルが核関連施設に“再び攻撃” イランは報復宣言 なぜ対立 原油価格や日経平均株価などにも影響 | NHK | イスラエル
20250613-233340

イスラエル空軍の攻撃前にモサドはイラン防空網をドローンなどで破壊したために、イスラエルは事前に領空内の攻撃の自由を確保していたようです。
ナタンツの核施設は火災が確認されていますが、地下濃縮施設は地中50mに設置され、厚さ約7.6mのコンクリートシールドで保護されているとされています。
また、最新施設は超深層地下化されており、従来の貫通兵器では破壊が困難とされていますので、イスラエル空軍が地中貫通爆弾を使用したとしても、どのていどの被害を与えられたのかは不明です。

なお、この攻撃でIRGC(イラン革命防衛隊)のフセイン・サラミ、イラン軍参謀総長のモハンマド・バグリなど主要な指導者たちと、核計画の主任科学者が死亡したとイラン国営放送が報じています。
米国には事前に通告されていたようです。

 

2025年6月13日 (金)

BYD、第2の恒大になるか?

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どうやらBYDが第2の恒大となる気配です。
福島香織さんはこう書いています。

「チャイナウォッチャーたちは、BYDはまもなく連続デフォルトに陥る、と予測しています。「自動車産業界にすでに恒大は存在する」。著名中国実業家で、長城汽車創業者の魏建軍がインタビューでこんな意味深なことをいっていました。恒大は不動産業界トップの民営企業でしたが、習近平の不動産政策によってデフォルトラッシュに陥り、事実上破綻してしまいました」
(福島香織 中国趣聞5月31日)

不良債権とはかつてのバブル崩壊時にさんざん聞かされた言葉ですが、いちおう押さえておきましょう。

「約定どおりの元本や利息の支払いが受けられなくなるなど、回収困難か回収が困難になる可能性が高い債権のこと。 金融機関は金融再生法に基づき、総与信のうちの正常債権と「金融再生法開示債権(破産更生等債権、危険債権、要管理債権)」の残高を公表しており、このうち金融再生法開示債権のことを不良債権と呼んでいます」
わかりやすい用語集 解説:不良債権(ふりょうさいけん) | 三井住友DSアセットマネジメント  

このような不良債権が発生した場合、日本のような自由主義経済の国においては、その全容の監査と開示から始めねばなりません。
公金投入を前提にしているのですから、当然です。
日本の場合は、銀行が今に至るも営々と不良債権を処理していますが、自力で処理した不良債権額だけで実に100兆円に達します。
これはGDPの2割に達し、金融市場の縮小を招きました。
結果、多くの金融機関が廃業に追い込まれるか、国有化されています。
平成―バブル崩壊の後始末とデフレ対策に追われた金融界 | nippon.com 

この20年間にいかに多くの銀行や証券会社が消滅し統合されていったのかは眼を覆うばかりで、いまや大手銀行で旧社名が残っているものが皆無なほどの金融業再編の嵐を巻き起こしました。
不良債権問題の処理にてこずった日本では景気低迷が体質化し、不良債権を抱えていなかった製造業まで倒産の波にさらわれました。
日本の主力産業である電機や機械、輸送用機器メーカーまで倒産したり、倒産寸前にまで追い込まれる企業が相次いだのは、この時代です。
そのうえに白川日銀がデフレ容認政策というトンデモ金融政策をとったために、延々とデフレトンネルを20年間も歩むことになってしまいました。
このデフレからの出口が見えたのは、2013年にアベノミクスが登場してからのことです。

では、中国経済はどうでしょうか。
実は日本がかつて辿った道を、忠実かつ拡大してトレースしています。
まずはもっとも大きなバブルだった不動産業から始まり、いまや輸出主力のEVにまで拡大しています。
その中心は最大手のBYD(比亜迪股份有限公司 )です。
BYDはそう遠くない時期にWWやトヨタを追い抜き世界一の自動車会社となる日は近い、日本でも信じている人も多かったはずです。
中国の経済誌「財新」はEVで世界一となったと書いています。

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東経

「中国のEV(電気自動車)最大手、BYD(比亜迪)の事業規模がアメリカのテスラをついに上回った。
BYDは3月24日、2024年の通期決算を発表。同年の売上高は前年比29%増の7771億200万元(約16兆782億円)に達した。一方、テスラが1月29日に発表した決算によれば、同年の売上高は前年比1%増の976億9000万ドル(約14兆6621億円)だった。
なお、BYDの2024年の純利益は402億5400万元(約8329億円)と前年比34%の大幅増益を記録。中国自動車市場の熾烈な価格競争にもかかわらず、過去最高益を更新する圧倒的な強さを見せつけた」
(財新2025年4月10日)
中国BYD、2024年の事業規模「テスラ超え」の衝撃 純利益も過去最高更新、PHVの急成長が原動力に | 大解剖 中国「EV覇権」 | 東洋経済オンライン

これを読む限りまことにブイブイな状況で、いまや落ち目のテスラなどものともせずに世界一のEV自動車メーカーに向けて邁進している・・・、はずでした。
しかしその内実が見えてきました。
EVは完成された技術体系の内燃機関と異なり、プラモデルのようなものです。
シャーシにモーターを乗せ、電子機器を着ければ一丁上がりですから、誰にでもできます。
そしてEVは国策です。当然のこととして、中国だけでゴマンとEV自動車会社ができてしまい、熾烈な競争をしています。
それは前掲の「財新」の記事にもあったように「熾烈な価格競争」を伴います。
裏返せば薄利多売ということです。

中国市場でBYDが勝ち残るためには、大量生産して生産コストを下げ、国からのできるだけ多くの補助金を引き出すしかありません。
つまり売れようが売れまいがジャンジャン作って市場に流し、政府から補助金を取る、これしかなのです。
中国はEVで世界市場を制覇する気で、EVの購入に対して様々な補助金を用意しEVの普及を進めてきました。
それはEUなどから見れば不正な産業支援であり、公正な自由競争を妨げると判断されました。
ですから渋々中国も政府によるメーカーへの補助金は段階的に縮小され、2022年末に終了してしまいました。

それでもまだ 地方政府が出す購入時の補助金は残存しており、中央政府も買い替えに対する補助金の延長という方法で支援を続けてきました。
買い換えがEVで特に重要なのは、搭載しているバッテリーが5年たたない内に消耗して乗せ替えねばならず、それには新車1台買うのと変わらないからです。
ですからEVには中古車が存在せず、その場で廃棄です。なんてエコなこと。(笑)
ガソリン車が何十万㎞も走るのに対して、信じられないほど短命で廃棄処分しているのがEVなのです。

20250612-135743

東洋経済オンライン

中国政府はEVの「買い替え補助金」を1年延長して、支給対象も拡大し、個人消費のテコ入れを図りました。
ここでひとつのトリックを使います。

「BYDなどのメーカーは販売台数に応じた価格を設定し、各ディーラーは生産量に応じた新車の購入を行ってきた。これが大量のゼロキロメーター車を生み出したといえる。
ディーラーとしては、メーカーから買い取った車を販売登録することで地方政府などからの補助金を得られる。その新古車を買い取ることや再販することでも補助金が得られてきた。
このため、実際に売れていなくても資金が回る限り一定の利益を得ることができる。しかし、この資金繰りが悪化すると、一気に不良在庫が問題となり、不良在庫のダンピング販売によって市場全体に大きな影響を与えることになる」
(東経1月21日)
中国政府、自動車の「買い替え補助金」を1年延長 支給対象も拡大し、個人消費のテコ入れ図る | 大解剖 中国「EV覇権」 

BYDなどは、実態は売れていないにもかかわらず補助金を引き出すために虚偽の売り上げを計上し、さらには有り余った大量の不良在庫をダンピングで売り飛ばし、さらに首を締めたのです。
だから表面的には史上空前の売り上げのはずですが、実は不良在庫の山を作っていたのです。

破綻はディラーから露呈しました。
先月末には東部最大の代理店が破綻し、さらに34%ものダンピングも相まって、他の自動車メーカーを巻き込んだ信用不安の連鎖が発生してしまいました。

BYDの財務状況について、香港独立系GMT Researchはこう述べています。

「BYDの財務状況は実態以上に良く見えますが、デフォルトリスク、契約上の負債リスク、流動性リスクを隠しており、投資家がBYDの本当の財務状況を正しく評価するのが困難になっている。その結果、BYDの株価評価は実態とかけ離れ、適正な投資判断を妨げる要因となっている。(略)BYDの収益は黒字だが、その返済原資は販売によるキャッシュフローに依存しており、これはかつての中国の不動産ディベロッパーと同じ手法である。
つまり、本来サプライヤーに支払うべき資金を流用して負債を返済し、借金を先送りしている状態なのである。
不動産企業の場合、売上成長が鈍化した瞬間に資金繰りが破綻し、経営危機に陥る。BYDもまた、サプライヤーへの支払いを先延ばしにすることで資金流動性を高めているが、同時に負債を隠しているため、同じリスクを抱えている」
BYDは次の「恒大」になるのか?「隠れた負債」問題でGMT Researchが警鐘 | MobyInfo

これを受けて、中国政府および自動車工業会は過当競争の是正を発表したが、これは三度目であり、負の資産が残る限りダンピングは続くと見られています。
そして当然の結果として不良債権が発生しました。

「チャイナウォッチャーたちは、BYDはまもなく連続デフォルトに陥る、と予測しています。「自動車産業界にすでに恒大は存在する」。著名中国実業家で、長城汽車創業者の魏建軍がインタビューでこんな意味深なことをいっていました。恒大葉、不動産業界トップの民営企業でしたが、習近平の不動産政策によってデフォルトラッシュに陥り、事実上破綻してしまいました。それで「国家が自動車産業を支え続ける政策を維持してほしい」と述べていました。 」
(福島前掲)

本来なら中国政府は直ちに政府資金を投入して全力でこれを救済しないと、空前の不況と信用縮小に陥ることは明らかです。
では、中国が日本と同じ不良債権を国家が救済するには、どこから始めたらよいのでしょうか。
日本の不良債権の規模がおおよそ100兆円超規模だったのに対して、中国は不動産関連だけで融資平台(LGFV )が貸し出したのはその9.4倍、民間デベロッパーや銀行の不良債権まで加えたら、当事者すらわからない規模でした。
中国の金融は、表面より地下に潜ったもののほうが多く、もはや暗黒大陸と化していますが、とまれ公金投入のためには、投入規模を確定せねばなりません。

ホンキで不良債権を駆逐したいなら、日本がそうしたように、企業に財務情報を一点の曇りもなく開示させ、その開示に基づき金融機関の不良債権を認定することです。
これが出来ないといくら不良債権があるのか、いくら資金注入したらよいのか、どれだけ信用不安が拡がっているのか、といったかんじんなことがわからず救済策の設計ができません。

ところが、ここに共産中国特有の壁が立ちはだかります。
中国がソ連から学んだ極度の情報の隠蔽体質です。
共産党の統治原理の根幹には「民には知らしむべからず、よらしむべき」という民衆不信・愚民政策があり、それを可能にさせてしまう共産党国家特有の強権体質が横たわっているからです。
だから、共産党政府は自らの経済政策の失敗である不良債権があること自体を認めません。

「不動産バブルを維持することは可能です。銀行のほうで不動産開発業者にずっとカネを貸し続ければよい。中国では銀行は国有です。だから国有銀行がずっと貸し続ければバブルは維持できます。(略)
不良債権があっても中国政府が『不良債権など一切ない』と言い、銀行も』不良債権はない』と言い切るのであれば砂上の楼閣がずっと続いていくはずです。(略)
だからバブルが弾けたとしても中国政府はなにも言わない」
(高橋洋一・石平『断末魔の数字が証明する中国経済崩壊宣言』)

要は、不良債権なんぞ認めずに先送りする、ということです。
なにせ共産党は無謬なのですから。
そしてて公的資金投入をしないまま、小手先の金融緩和だけで景気を刺激してなんとか済ませようとします。
これが現時点です。
しかし金融緩和でいくら市場にカネが出回っても、不良債権が吸い取ってしまことになります。

そのうえに中国のEV市場は飽和していますから、頼みの米国市場もトランプの補助金カットでアウト。
もう逃げ場がないEV自動車産業には、デフォールトへの道しか残っていないのかもしれません。

 

2025年6月12日 (木)

試されているのはNATO第5条

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ヨーロッパが一斉に「装甲国家」づくりを開始しています。
まずは英国労働党政権のスターマー首相です。

「ロンドン(CNN) 英国は今後、新たな攻撃型原潜を建造し、核弾頭に投資して、「戦闘準備態勢」に入る方針を示している。スターマー首相が2日、スコットランドでの演説で明らかにした。
スターマー氏が示した計画によると、米豪との安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の一環として原潜を「最大」12隻建造し、2030年代末以降は現行の7隻と入れ替える。
また核弾頭に150億ポンド(2兆9000億円)を投資し、核抑止態勢の「歴史的刷新」を図る方針だ。
この日、演説の直後に発表された英国の「戦略的防衛見直し(SDR)」には、ロシアの侵攻を受けたウクライナの経験に基づき、自律化技術や人工知能(AI)の活用強化へ「ただちに」かじを取る方針が明記された。(略)
スターマー氏は2日、英BBCとのインタビューで「英国がロシアからの脅威を無視することはできない」と語った。
同氏が目指すのは、英国を「今後数十年にわたって、最強の同盟国と最も先進的な戦力を備え、戦闘態勢が整った装甲国家」にすることだという」
(BBC6月4日)
英、攻撃型原潜を最大12隻建造へ ロシアにらみ「戦闘準備態勢」入り - CNN.co.jp

労働党にはびこっていた左翼運動家を排除して出来た新生労働党だけに、保守党よりも安全保障に対して戦略的、かつ能動的です。
いつまでも社会党くずれを大量に抱えて身動きが取れない野田立憲は、英労働党の爪の垢でも煎じるといいと思いますね。

一方、ロシアに隣接する国家は「ウクライナは始まりにすぎない」と考えています。
バルト海の制海権を失ったロシアは、内陸に侵攻するでしょう。
その確率の高い国は、ロシアと隣接するフィンランド、ノルウェー、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドなどで、これらの諸国は最初の標的となる立場にいます。

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フィンランド湾のストックフォト - iStock (istockphoto.com)

エストニアの人口はわずか137万人、国家予算は200億ドル、軍の規模も現役約8千人(予備役23万人/即応体制約4万人)と小さいものの、今回の追加投資によってGDPに占める国防支出の割合は3.14%から5.4%に上昇し、2025年の国防支出額は20億ドル=2800億円を超えます。
また、ポーランドですら未達成の5.0%を国防支出のみで達成し、中東欧の9ヶ国であるルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニアも今月2日「総額5.0%を支持する」と表明しました。

このように日本がようやく防衛費2%を目標にしている時に、既にヨーロッパ諸国は5%時代に入っているのです。
日本もロシアに隣接する国であることをお忘れなく。

それはさておき、今、真の存在価値を試されるのが「NATO第5条」、すなわち自動参戦条項です。

「ドイツ連邦情報局のカール局長はメディアの取材に「ロシアにとってウクライナはファーストステップに過ぎない」「ロシアは第5条を試してくるだろう」「ロシア系住民が抑圧されているという理由でエストニアにLittle green menを派遣するれば十分だ」と述べて注目を集めている。
ドイツ連邦情報局のカール局長はメディアの取材に「ロシアにとってウクライナはファーストステップに過ぎない」「ロシアは第5条を試してくるだろう」「ロシア系住民が抑圧されているという理由でエストニアにLittle green menを派遣すれば十分だ」と述べて注目を集めている」
(ロイター6月10日)
ロシアはNATOの決意を試すために「小さな緑の男たち」を送る可能性があるとドイツの諜報機関のボスが警告 |ロイター 

ここでドイツ連邦情報局カール局長がいうリトル・グリーンメンとは、下の写真のようなクリミア侵攻時にロシアが使った一切の識別標識を着けないロシア兵のことです。

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ロシア ウクライナが「クリミアに侵入」と非難 - BBCニュース

つまり、NATO当局者が恐れているのは、直接にロシアが西欧まで含める全欧州に侵略を仕掛けて来るという意味よりは、NATOの根幹概念である集団安保体制をぐらつかせて、加盟国をバラバラにすることだと見ているわけです。
ロシアはウクライナを敗北させ、その勢いのままバルト諸国にリトルグリーンメンといった小規模部隊を送り込んで小規模紛争を引き起し、その出方を見るという構えです。
その時、NATOが第5条を発動して機敏に対応できればよし、しかしかつてのようにメルケルドイツが反対し、西欧と東欧が分断されることがあるなら、もはやNATOぱ絵に書いた餅にすぎません。
ここでNATOを分解できれば、ロシアはそれぞれのグループに言葉巧みに取り入って、よりロシアの勢力圏を拡大できる余地が生まれるでしょう。

さて、ドイツはリトアニアに兵を派遣しました。
下の写真は首都ビリュニュスのレオパルト2戦車です。
これは日本が東南アジアに自衛隊を常駐させるようなもので、よくこの決断をしたと驚きます。

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NHK

「ウクライナ侵攻を続けるロシアへの警戒感がヨーロッパで高まる中、ロシアと国境を接するバルト三国のリトアニアではドイツ軍による駐留が始まりました。
ドイツ軍が単独で外国に部隊を常駐させるのは、第2次世界大戦後初めてです。
NATO=北大西洋条約機構は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに備えて加盟国の防衛強化を進めていて、ロシアの飛び地カリーニングラードやその同盟国ベラルーシと接するリトアニアには、ドイツ軍が主力戦車「レオパルト2」などの部隊を配備し、5000人規模が駐留する計画です。
その部隊の発足式が22日に首都ビリニュスで開かれ、ドイツのメルツ首相がおよそ800人の兵士を前に「われわれは責任を自覚している。NATOはドイツを頼ることができる」と述べました」
(NHK5月23日)
ドイツ軍 リトアニアに駐留開始 単独で外国に部隊常駐は第2次世界大戦後初 | NHK | ドイツ

このように、今やらねばならないのが、それぞれの加盟国の「装甲化」であり、NATOを軸に団結し「第5条」を実現可能なものにすることなのです。

 

 

 

2025年6月11日 (水)

ロス暴動続報

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トランプは、ロス暴動に対して州政府の頭越しに州兵を投入、そしてさらに海兵隊まで動員しています。
なぜ外征軍である海兵隊が選ばれたのかといえば、大統領が持つ戦争権限法によって議会の承認の得られない場合にでも60日以内に軍を撤退させればいいとされているからです。
これがマリーンが大統領直属軍と呼ばれるゆえんです。
ただし、治安維持用の色彩が強い州兵と違って、連邦軍、それも最精鋭の海兵隊を投入したということの是非はこの後に問われることでしょう。

とまれ、エスカレーションの階梯をトランプが勝手にまた一段上ってしまったということです。

さて、コメントで「どちらつかずの陳腐な記事」と揶揄されましたが、おいおい、なんの詳細情報もないうちから断定的なことを言えとでもいうんでしょうか、この人。
ところで、やっと今日あたりから状況の詳細がわかってきました。
発端は例によって噂です。
6月5日,ホームセンター付近の路上でたむろしていた連中の間に、当局が不法移民の取り締まりをするという噂が流れました。


「普段からここには、数十人の日雇い労働者が集まっていた。その多くは、買い物客や請負業者から仕事を得ようとする、不法移民だ。
しかし、8日はいつもと様子が違った。ロサンゼルス郊外パラマウントにあるホームセンター「ホーム・デポ」の店舗ではこの日、屋根の工事や修繕、塗装の仕事の手伝いを呼びかける小型ピックアップトラックが2台しか見当たらなかった。この地域の人口の82% 以上はヒスパニック系だ。
この店舗は前日7日に、移民摘発に反対する抗議デモの中心地となっていた。ここで働いていた日雇い労働者が、一斉に逮捕されたとのうわさが広まったためだった」
(BBC6月9日)
【解説】 ホームセンターでの「移民一斉検挙」のうわさ、LAでの抗議デモにどう発展したのか - BBCニュース

これは誤情報でした。そのような取り締まりの予定は、取り締まり当局である安全保障省になかったのです。


「米国土安全保障省(DHS)によると、同地域のほかの場所で、数十人の移民が当局に拘束されたのは事実だが、当該店舗で移民が摘発されたとのうわさは誤情報だという。
「(移民が摘発されたとの)虚偽の報告があるが、ICE(移民関税捜査局)による『摘発』はロサンゼルスのホーム・デポでは行われなかった」と、DHSはBBCに話した」
(BBC前掲)

しかしこの地域には可燃性のガスが濃厚に溜まっていました。
ロスは中南米の不法移民を多く抱えたいわゆる「聖域都市」だったからです。
「聖域都市」とは連邦政府の意志がおよばない、ある種の治外法権のような地域でした。
そして地元の州政府は、不法移民に対して融和的な態度をとり続けてきた結果、限界まで溜まっていたのです。
この可燃性ガスに、トランプが不法移民追放政策というバーナーで点火したのです。
下写真はドイツの「シュテルン」誌が撮った暴動の写真ですが、暴徒らはメキシコ国旗を振り回しています。
公然と不法移民であることを顕示して、暴動を起こしているのですからなんともかとも。

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ロサンゼルスの抗議活動についてわかっていること|DigitalCreator

「ロサンゼルスは全米で有数の、少数派が人口の多数を占める都市の一つ。
ヒスパニック系が人口に占める割合は、ほかの民族的背景を持つ人よりも多い。特にメキシコからの移民は、この地域の歴史と文化における重要な存在となっている。
ロサンゼルスは「サンクチュアリ・シティー(聖域都市)」としての地位を維持している。つまり、同市は連邦政府の移民当局には協力しない。住民の中には、トランプ政権がロサンゼルスの不法移民を標的にした際に、湧き上がる緊張状態が爆発したように感じたと話す人もいる」
(BBC6月9日)
【解説】 ホームセンターでの「移民一斉検挙」のうわさ、LAでの抗議デモにどう発展したのか - BBCニュース 

このホームセンター駐車場で暴徒らは車を手当たり次第に放火し、お定まりの店舗の略奪行為をして回りました。
これがロサンゼルス全域に広まった暴動の引き金となりました。
メディアは「抗議行動」と呼びますが、実態は放火と略奪です。

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BBC

州政府はと、この暴動に対して警察力で対応しようとしましたが、暴動は拡がる一方となりました。
これをトランプは連邦政府介入の好機と見たようで、州・市政府と一切協議することなく州兵を連邦軍に組み込んで指揮下におき、ロスに投入します。

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BBC

「2日間にわたり抗議デモがロサンゼルスを揺るがした事態を受け、トランプ大統領は7日夜、一定の状況下で州兵を連邦政府の指揮下に置くことを大統領に認める連邦法に基づき、カリフォルニア州への州兵派遣を命令した。州兵は通常、州知事の要請に応じて出動する。
デモ3日目の8日に事態が激化したため、ホーム・デポ店舗の向かいにある、複数のオフィスビルが集まるゲートで区切られたエリアを、武装した州兵が警備した。
州兵は米軍車両ハンヴィー(高機動多用途装輪車)を停めてこのエリアを封鎖。当局を罵倒したり、メキシコ国旗や横断幕を振ったりする抗議者たちと対峙(たいじ)した」
(BBC前掲)


あまりにも素早いトランプ対応です。
おそらくトランプはこのようなことが起きることを予測していた、いや待ち望んでいたはずです。
これは第1期政権時に起きたシアトル暴動が地元州政府の反対で州兵投入が出来ず長期間に渡って暴徒による「解放区」を許してしまったことに対する反省があったと思われます。

かつてBLMは、シアトルに銃による武装解放区をつくろうとしました。
この解放区の中にあった警察署の署長は黒人女性でしたが、撤収命令に強く抗議をしましたが、民主党系市長は握りつぶします。
トランプ陽性判定とシアトル自治区の「愛の夏」の結末: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

しかしこのコンミューンはわずか一カ月で内部崩壊を起こします。
お定まりの略奪・暴行、そして黒人少年が殺害される事件まで起きたからです。

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しかし、彼らの共犯者であるシアトル市長と州知事(これも民主党)は、なにひとつ責任を問われることがありませんでした。
むしろ民主党系リベラルのメディアと政治家たちは、BLMとアンティファの暴走を支援しました。

トランプはこの経験から、リベラル州政府には事前相談せずに、州兵を連邦軍の指揮下に置いてしまうという強硬措置を考えていたようです。
これによってトランプ政権の不法移民対策が、法と秩序の維持そのものであることを印象付け、失敗続きのトランプ政権の勝ち点となることを期待したのでしょう。
いまのところ彼の行動は、トランプ支持者を満足させ、「われらの強い大統領」というイメージを植えつけたはずです。

ただしその反面、これからやってくる暑い夏に大量の火薬をセットしたことも事実のはずです。


 

2025年6月10日 (火)

トランプ、ロスに州兵投入

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トランプがカリフォルニア州ロスアンジェルス市に州兵を投入しました。
州兵であるにもかかわらず、州知事、あるいは当該のロス市長の了承なしの措置で、このふたりは強く反対を唱えています。

「米カリフォルニア州ロサンゼルスに8日、トランプ大統領の指示を受けて州兵部隊が到着し始めた。同州の指導部は政治的動機に基づく不要な派兵だと主張しており、対立がエスカレートしている。
同地域では過去2日間にわたり、当局による大規模な不法移民取り締まりを巡って抗議活動が続いていた。トランプ氏は米北方軍に対し、カリフォルニア州兵の指揮権を掌握するとともに、兵士2000人を「60日間、または国防長官の裁量で」派遣するよう命じた。ホワイトハウスが発表した。  カリフォルニア州のニューサム知事は8日午後、「違法な」州兵派遣は緊張をあおるだけだとして、ホワイトハウスに対し、撤回して部隊を自分の指揮下に戻すよう正式に要請したと明らかにした。抗議活動参加者に対しては、「声を上げよう。平和的に冷静でいてほしい」とX(旧ツイッター)に投稿。「暴力を用いず、平和を守るために最善を尽くしている法執行官を尊重してほしい」と呼びかけた。
これに先立ち知事は、今回の決定について事前の相談はなかったと述べ、「連邦政府は混乱をあおり、それを口実に事態をエスカレートさせようとしている」とXに投稿。「これは文明国家のやることではない」と述べていた」
(ブルームバーク6月8日)
トランプ大統領、LAに州兵2000人派遣-州知事は政府に撤回要請 - Bloomberg

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州兵配備の米ロサンゼルス 衝突激化、移民摘発に抗議のデモ続く - CNN.co.jp

暴動そのものより深刻なのは、連邦政府と当該の州及び市(民主党系)との対立です。
バス・ロス市長は州兵動員を強く批判し「最悪の事態」と呼んでいます。

「ロサンゼルスのカレン・バス市長は8日、州兵の派遣によって混乱がエスカレートしていると批判。「(州兵派遣は)私たちの市にとって最悪。抗議デモは引き続き平和的に」とXに書き込んだ。
これに対して国土安全保障省はXの公式アカウントで、バス市長に「吐き気がする」と投稿。同市長が「米国市民と社会の安全を犠牲にして暴徒と犯罪不法外国人を保護し続けている」と書き込み、「市の指導者がやらないのなら、トランプ大統領と(同省のクリスティ・ノーム長官が)ロサンゼルスの法と秩序を取り戻す」と強調した」
(CNN6月9日)
州兵配備の米ロサンゼルス 衝突激化、移民摘発に抗議のデモ続く - CNN.co.jp

安全保障省長官のクリスティ・ノームはバリバリのトランプ派で、サウスダコタ州知事時代、共和党が主導するテキサス州の国境警備強化に向け、数十人の州兵を派遣しているほど不法移民移送には熱心な人物です。
自身も米国とメキシコの国境を数回訪れており、1月には同地域を「戦場」と形容したことで注目を集めました。
この姿勢を評価されての安全保障省長官への就任でした。

かたや、ロス市長のカレン・バスはソーシャルワーカー出身で、治安を守る姿勢は弱く、むしろ警察や消防の予算をカットし続けており、ロスの大火を招く原因を作ったと批判されました。

「市長は昨年2024年7月から始まった2024-2025会計年度で、消防局(LAFD)の予算を1,760万ドル(約27億円)削減。これは市の部局全体を見ると、道路サービスに次いで大きい削減額だった。
市長は火災発生後、予算の削減は火事への対応に影響していないと主張していたが、消防局長のクリステン・クロウリーはこれに反論。「私たちには適切な資金が与えられていなかった」と「FOXニュース」に対して発言している。また、局長は消防士だけでなく、消防車も不足していると主張。整備費用などをカットしたことで整備士がいなくなったおかげで、消防車が100台ほど稼働できない状態にあるとした」
ロス山火事で起きたもう一つの「炎上」 ー 明暗を分けたセレブの対応の違い(MEN’S CLUB) - Yahoo!ニュース

当然の流れとしてバスは、不法移民移送に対しては消極的であったと推測されます。
2023年の夏に中南米から10万とも言われる巨大な移民の行進が米国を揺るがしましたが、その時米国の対応が割れました。
これを州の平和と秩序を脅かす安全保障上の問題として考え、大量の移民をニューヨークなど全米各地に移送したのはテキサス州のグレッグ・アボット知事とフロリダ州のロン・デサンティス知事という共和党系知事でした。

一方これを人権問題としてとらえたのが、ユタ州などの民主党系知事でした。
ユタ州の労働サービス局長マリオ・キヤヨはこう述べています。

「「先進諸国が率先してより多くの難民を受け入れなければならないのは明らかです。決して簡単に達成できる数字ではないが、目標達成のためには、それぞれの関係部署、国全体が一丸となって目標に向け足並みを揃え、資金面などしっかり準備を整え、取り組む必要があるでしょう。
難民危機はどこかの市が単体で解決できる範囲を超越している。今こそ、全米が一丸となって取り組まなければならない人権問題だ。問題をどう解決するかは、リーダーたちの手腕にかかっている」
10万人の移民が殺到「NYを崩壊させる」と市長は戦々恐々。受け入れ超過に市が悲鳴(安部かすみ) - エキスパート - Yahoo!ニュース 

治安維持か人権かという問題は、今回も州・市と連邦政府を分けた溝でした。
トランプは州と市が治安維持に熱心ではなく、州兵を投入することを控えていることに苛立って、一定期間州兵を連邦軍の指揮下にいれる措置をとりました。

「トランプ大統領は今回、大統領が州兵を連邦政府の指揮下に置くことができる三つの状況を列挙した合衆国法典第10編第12406条に基づき、知事の要請という手順を回避した。これによると、アメリカが「外国に侵略されているもしくは侵略される危険がある場合」、政府に対する「反乱もしくは反乱の危険」がある場合、あるいは「大統領が通常当局によって合衆国の法律を執行することができない」場合に、州兵を連邦政府の指揮下に置くことが認められる」
(BBC6月9日)
【解説】 アメリカ大統領はどういう場合、アメリカ国内に州兵を派遣できるのか - BBCニュース

ニューサム知事は、州兵投入に対して強硬に反対し、「意図的な扇動」であり、緊張をさらに高めるものだ」とし、バス市長も連邦政府による「戦術はわれわれのコミュニティーに恐怖を植えつける」と非難しました。
まるでトランプの州兵投入こそが、治安を攪乱し市民を恐怖に陥れていると言わんばかりです。
果たしてここまで言っていいものか迷うところですが、一方こんな暴力デモていどのレベルで当該州の頭越しに州兵を動員してまで鎮圧するというトランプもいかがなものかと思われます。

ロス市警察自身、このていどの暴動は警察力でコントロール可能だといっています。


「ロサンゼルス市警察(LAPD)は、抗議デモはおおむね平和的だと説明した。地元当局も、衝突は暴力的なものもあるが、対応可能だとした。だが、そんなことは関係ない。
トランプ政権は、入国管理当局の職員が標的にされ負傷したと主張し、現地の警察などの対応が遅すぎたと批判している」
(BBC6月9日)
【解説】 トランプ氏が待ち望んでいた政治的な戦い 米ロサンゼルス抗議デモに介入 - BBCニュース

トランプはこのような事態を待っていたようです。それにしても軍隊投入に敷居が低すぎます。
いかに閃光弾や催涙弾などの非致死性武器を使用したとしても、安易な軍隊投入は悪いクセになりかねません。
つまり軍隊に頼った政権維持となるのです。

また今回のトランプ関税もそうでしたが、なにかというとすぐに「国家の安全保障上の理由」を挙げるわけですが、理由付けが安易で短絡的です。
このていどで州兵投入なら、じぶんがやった議事堂占拠事件などどうなるのやら。
本当に州兵投入が必要なケースは、かつてのシアトル占拠事件のような場合です。
トランプは自らの移民移送に賛成していない民主党系首長を政治的にマウントするために、本来州の権限である州兵をあえて連邦軍に繰り入れたのでしょうが、大いに禍根を残すことになりそうです。

 

2025年6月 9日 (月)

ドローン戦争

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ウクライナによるロシア戦略空軍基地4カ所への攻撃の余波が続いています。
世界が驚愕したのは、この大戦果がミサイルでも航空機でもなく、ドローンによってなされたことです。

ドローン(UAV)といっても米国が使っているRQ-1 プレデターといった小型機サイズのバカデカイものではなく、いったっててチープな7万くらいで手に入るものです。
そもそも1機450万ドルもするようなお宝を買う財力はウクライナにはありませんし、米国も供与しないでしょう。
そのうえ、プレデターが落とされたら痛手ですが、なんせ安いので撃墜されても痛くもかゆくもないし、大量に使えばその打撃力はプレデターをはるかに凌ぎます。

ウクライナが今回使ったのは、FPVドローン(First Person View Drone)といって、操縦者がまるでドローンの上に乗って操縦しているような一人称の視点でコントロールできるドローンです。
FPVドローン は、元来は民間のレース用に開発されたもので、一機のドローンにひとりのコントローラーがついて地上から操縦します。

こういうかんじです。
爆発物をつり下げるか背負わせたFPVドローン を目標から5キロから20キロに置いて飛翔させます。
今回の場合、おそらく露空軍基地周辺の見晴らしのよい場所に、いくつもの操縦ユニットが潜んでいたはずです。

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ウクライナ、「ドローン戦」で変貌する戦争

操縦ユニットは基本は2名で構成されます。

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ロイター

操縦者はコントローラーとヘッドセットを使ってドローンを操縦し、もう1人の兵士はタブレット端末で地図を確認し方向や高度を誘導します。
今回はいままでウクライナの戦場で戦術的に使われてきたドローンを大きく戦略目標にまで拡大したものだといえるでしょう。
今回の映像も公開されています。なかなかの見物ですよ。
FPVがまるで巣から飛び立つ鳥のようにワラワラとコンテナから飛び立ち、各自目標を求めて露空軍基地上空を徘徊し、獲物が定まるやすーっと降り立った所で画面が途切れています。

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今度はノーカット新映像公開:1機のFPVドローンがコンテナの中から飛び立って戦略爆撃機ツポレフ-22M3に衝突するまで無編集【石川雅一のYOUTUBEシュタインバッハ国際問題研究所】 - YouTube

小型のドローンなので、早期警戒機の背中のレードームの上に乗って爆発してみたり、爆撃機の腹の下に潜り込んで主翼付け根の急所で爆破してみたりとまるで小悪魔です。

ところで、このウクライナ戦争は別名「ドローン戦争」と呼ばれています。
ウクライナはこのFPVドローンに爆発物を積んで標的に突っ込ませています。
ウクライナはこれを不足がちな砲弾代わりにしようしており、2024年中にFPV100万台を製造する計画があったようです。
これはEUが昨年供与した砲弾数の2倍の規模となり、いまや戦場の女神とまでいわれた大砲を押し退けてウクライナ軍の主力火砲となっています。

今は常に戦場の上を数十機各種ドローンがとびかっているのが普通の風景となっていますが、戦争初期と現在では大きく使い方が異なります。
2022年~2023年中盤までは偵察用で使用されました。
ドローンンに高性能カメラを搭載し、歩兵や砲兵の戦場認識力を一気に拡張しました。
そしてやがて、これに爆発物を装着させて、装甲車両の弱点である上部にぶつけて破壊したり、塹壕に飛び込ませたりするようになりました。

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戦車のコープケージ装甲の役割の変遷:ジャベリン対策からドローン対策へ(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

当初はこのコープケージもジャベリン対策だったのですが、そんな高い対戦車ミサイルの在庫はすぐに切れてしまい、代わりに登場したのがこの爆弾を積んだFPVドローンという小悪魔たちの群だったというわけです。
この登場によって、戦車もうかうかと戦場を往来することが難しくなってしまいました。

2024年ともなると、簡単に大量生産が効くFPVドローンは大量生産体制に移行して100万機を製造し、それに従って価格もはるみるうちにさがっていきます。

「2024年の戦いは「FPVドローンの運用に有利な地形を確保するか」「如何の通信アンテナを標高の高い地点に設置するか」「電子戦システムでFPVドローンの有効性を如何に妨害するか」に注目が集まったが、ロシア軍は2024年春頃に電子妨害を受け付けない光ファイバー制御のFPVドローンを投入、これを大量に使用することでウクライナ軍をスジャから追い出すのに成功したため、光ファイバー制御のFPVドローンは大きな脚光を浴びている」
ドローン戦争の実態、最終的にはドローン同士が戦う未来に行き着く 

このようにいまやドローンを操作するに適した位置を、どちらが確保するかで戦闘が起きるまでになっています。
わが国も当然この影響を受けるはずですが、ウクライナのような平野部とは違い山がちな地形の場合、どのようなドローンの使われ方をするかまだ未知数です。

 

2025年6月 8日 (日)

日曜写真館 いねてより菖蒲の匂ひ思ひ出す

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それをたゞ菖蒲の帯と申されし 高野素十

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女の手ひいて菖蒲の名どころに 山口青邨

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打ちまじり咲きけり菖蒲燕子花 政岡子規

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よき年のよき日生れたまひ菖蒲葺く 山口青邨

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夏きたるかの堀切の菖蒲も見む 安住敦

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かへり来し命虔しめ白菖蒲 石田波郷

※「虔しめ」つつしめ・深く心に染み込ませること。

 

 

2025年6月 7日 (土)

トランプ翁と怪人マスクの大喧嘩

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既定コースだったとはいえ、思いの他早かったですね、トランプとイーロン・マスクとのクラッシュ。
いや、よくここまで持ったというべきか。

「米電気自動車(EV)メーカーテスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏は、トランプ大統領との対立を沈静化させる姿勢を示した。両氏は5日、公の場で激しい応酬を繰り広げ、決裂が鮮明となっていた。
マスク氏は5日、性犯罪で起訴され勾留中に死亡したジェフリー・エプスタイン元被告に関する資料の公開をトランプ氏が妨げているのは自身の名前が記されているからだと主張し、トランプ氏の弾劾を呼びかけた。
これに対しトランプ氏は、マスク氏の率いる企業への政府契約の打ち切りを検討する意向を表明した。発端は、かつてトランプ氏の助言役だったマスク氏が、トランプ氏の看板政策である大型減税・歳出法案に対して共和党は反対すべきだと繰り返し訴えたことだった。同法案を巡っては財政赤字の拡大が懸念されている」
(ブルームバーク6月6日)
マスク氏、トランプ氏との対立沈静化を示唆-Xユーザーの投稿に反応 - Bloomberg

この似た者同志がおかしくなったきっかけは減税法案です。
そのなかにはテスラの死命を決するEV促進の撤廃が入っていたのですから、マスクが逆上したというわけです。

「「マスク氏は3日、減税法案が債務を膨張させるとして、SNSで「忌まわしく、唾棄すべきだ」と非難。4日には「廃案にしろ」と踏み込んだ。法案に電気自動車(EV)促進策の撤回が盛り込まれたことから、同氏が経営するEV大手テスラへの影響を懸念したと指摘されている。
マスク氏をさらに怒らせたのは、航空宇宙局(NASA)長官候補だった実業家ジャレッド・アイザックマン氏について、トランプ氏が指名を取り下げたことだ。アイザックマン氏はマスク氏と親しく、同氏が強く推薦した候補だった。トランプ氏は取り下げの理由を明かしていないが、野党民主党への献金実績などが問題視されたとみられる」
(時事6月5日)
トランプ氏、マスク氏にいら立ち 大型減税法案巡り確執―米:時事ドットコム

20250606-161148

USAIDめぐりトランプ大統領 イーロン・マスク氏の投稿で “誤情報“ 拡散 名指しされたメディアは投稿否定 | NHK | アメリカ

まぁ、EVと宇宙はマスクの二大看板ですから譲れなかったのでしょうね。
ワーワーとX(それにしてもマスクはXっていう記号が好きだな)でわーわーと批判されたトランプもがぜんホンキで怒り始め、とうとう奥の手を出しました。
EVに対する政府補助金の停止です。

「トランプ米大統領は5日、減税延長法案の廃案を目指す起業家のイーロン・マスク氏を強く非難し、政府契約の解除まで示唆した。「非常に失望している」「恩知らずだ」。応酬はエスカレートし、決裂は決定的になった。
トランプ氏はホワイトハウスで記者団に対して「マスク氏は法案の内部事情をよく分かっていたはずだ」と指摘した。マスクは法案が財政悪化につながると糾弾している。
トランプ氏によると、マスク氏は最初は納得していたが、電気自動車(EV)の義務化に関わる予算が削減された途端に反対し始めたという。財政規律は建前で、実際は経営する米テスラを守るための発言だと示唆した。
「彼は私個人の悪口を言っていないが、次はそうなるだろう」「私は彼をたくさん助けてきた。非常に残念だ」と突き放した」
(日経6月6日)
トランプ氏、マスク氏と決裂 政府契約の解除も示唆「失望した」 - 日本経済新聞

すくとマスクはこんどは「私がいなければ大統領選に負けていた。この恩知らずめ」と投稿し、もうこうなったら子供のこのこのくぬくぬの掴み合い。
ただやっているのが権力者にして大富豪だからややっこしい。

トランプはこう言ってこのケンカを締めくくりました。

「財政規律を重視する発言を並べた(マスクの)投稿を引用して「この男は今どこにいった」と皮肉った。
トランプ氏はSNSで、自らマスク氏に辞任を求めていた経緯を明らかにし「彼は完全におかしい」と攻撃した。マスク氏は即座に「ウソだ」と否定した。
トランプ氏は「最も簡単な節約方法は、イーロン・マスク氏の政府補助金と契約を廃止することだ」と畳みかけた」
(日経前掲)

はい、現職大統領と掴み合いのケンカをすれば、こうなることは分かりきっていました。
これでテスラはアウトです。
それでなくても、いまテスラは経営危機の淵にいます。
要は、EVが売れないのです。実にテスラは71%の純利益を失っています。

「テスラの根本的な問題は利益の消失だ。1~3月期の決算報告を詳しく見ると、テスラは名目上の存在理由であるはずの自動車販売で赤字に陥っていることがわかる。(略)
また、トランプ政権が自動車の輸入部品に課している関税により、コスト上昇も懸念される。マスク氏自身も、一部の競合他社ほどではないにせよ、かなりの額になる可能性があると漏らした。

売り上げ減の一因は、特に中国における他社EV製品との競争激化だ。主要市場ではEV販売が全体的に増加しているにもかかわらず、テスラの売り上げは欧州と中国の両方で減少している」
(CNN4月29日)
純利益71%減のテスラ、形勢は想像以上に不利 - CNN.co.jp 

原因はトランプ関税による輸入部品の調達コストの上昇懸念や、中国に主力の工場があるために輸入関税に対する不透明感などもありますが、なんといってもテスラを人格的に代表するイーロン・マスク御大の極右大暴走の影響が最大でした。
なんせ大型チェーソーでブインブインやっちゃいましたからね。インパクトは大きい。

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マスク氏、チェーンソー掲げ誓う「官僚主義切り倒す」 - 日本経済新聞

「同社はマスク氏の政治活動によっても打撃を受けている。マスク氏は連邦政府の大幅縮小の主導から、「ドイツのための選択肢(AfD)」のような世界中の極右政党支援まで、さまざまな活動を展開している。同氏がDOGEから退く意向を示しているにもかかわらず、ウォール街のテスラ支持者の中にはブランドイメージの毀損(きそん)が永続する恐れがあると考える人さえいる」
(CNN前掲)

自分の会社の購買層をブインブインと切り飛ばせば天に唾するとなって当然で、テスラ支持層のリベラルはささっと逃げて行きました。
元々マスクはリベラル寄りだったのです。
マスクはテスラを買収した頃に、オバマに気に入られて宇宙開発に政府予算を回してもらったりしていました。
そして今はまったく正反対のトランプと組もうとしたわけですが、これでわかるようにマスクの特徴は自分のビジネスを時の権力との癒着で凌ぐといういわゆる政商体質なのです。

マスクがトランプに惹かれたのは、そのリバタリアン体質です。

「マスクは自らを「リバタリアン」だと述べている。リベラリズムと同じく「自由(Liberty)」から派生した言葉で、「自由原理主義者」をいう。リベラリズムはもともと「自由主義」のことだが、「リベラル」を自称する政党やメディア、知識人はいつしか平等を過度に重視し、それによって自由が抑圧されていると不満を抱く者たちが「リバタリアン」を名乗るようになった。日本ではティーパーティーのようなキリスト教保守派の運動だと思われているが、じつは現在、リバタリアニズムの最大の拠点はシリコンバレーだ。彼らは「テクノ・リバタリアン」と呼ばれている。
マスクのようなIT起業家がリバタリアンなのは、国家の規制や介入のない自由な環境こそがテクノロジーを進歩させることを考えれば当然のことだ。逆にいえば、自由のない世界では「とてつもなく賢い」者たちは自らの才能を活かすことができず、死に絶えてしまう」
(橘玲 文春オンライン)
オバマ支持だったイーロン・マスクは、なぜ"意識高い系"を嫌ってトランプ支持に変容したか?〈橘玲氏が解説〉 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) 

トランプもまたかつての民主党支持から共和党支持に乗り換えたのも、同じようなリベラルの持つポリコレに現れるような価値統制主義に嫌気がさしたからでしたので、初めは意気投合し、マスクはトランプ再選に多額の寄付をし、政権発足後もご承知のようにDOGE(政府効率化省) なんていうゲテモノを任されていました。

しかし破局は予想されていました。両方ともアクが強すぎるほど強いうえに、トランプは、というより共和党はEVの普及に反対だったからです。
ハッキリ言ってEVのようにカリフォルニアの意識高い系が乗り回すEVなんぞのために充電インフラを税金で作るなんて冗談ではない、と考えていました。
しかもそのEVときたひには、バッテリーにレアアースを使い、べったり中国依存しています。
EVには大型バッテリーが不可欠であり、これを生産するための資源供給が中国に依存することになるので、EVを普及させればさせるほど中国依存が酷くなる一方です。
ただいま現在、習近平とレアアースで交渉しているのに、その最大の消費者がテスラなんですから話になりません。

最初に槍玉に上がるのは、電気自動車(EV)に対しての過剰な減税措置です。
たとえば、バイデン政権はインフレ抑制法(IRA)に基づきEV購入時に最大7500ドル(約110万円)が税額控除されます。

2022年にバイデン政権が成立させた脱炭素投資を減税で支援するインフレ抑制法(IRA)は廃止されます。
EVへの過剰な補助金は、もはやEVは税金で走っていると揶揄されるほどです。

「電気自動車(EV)には陰に陽に様々な補助金が付けられている。それを合計すると幾らになるか。米国で試算が公表されたので紹介しよう。2021年に販売されたEVを10年使うと、その間に支給される実質的な補助金は約50000ドル(図中の48698ドル)に上る。為替レートを1ドル150円とすると、約750万円だ」
EV補助金は1台750万円にも上るとの米国試算 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon) 

中国はEVのみに特化した自動車市場を作ってきました。

20241116-004951

【中国の電気自動車】普及率はどれくらい?世界最大のEV市場の最新動向 - EV DAYS | 東京電力エナジーパートナー

特にBYD(比亜迪汽車は、世界市場でテスラを追い抜く勢いです。
このような民主党政権のグリーンニューディール政策のツケは、エネルギーコストの上昇による経済への打撃、生活費の負担の増加、そしてそれを救済するための各種失業手当などの増大につながりました。
当然のこととして、国民生活は苦しくなり、政府は財政危機となります。

米国民には民主党支持者か共和党支持者かを問わず、共通した「ウンザリ感」が背景にあります。
トランプの環境問題に強い影響を持つAFPI(アメリカ第一政策研究所)でエネルギー・環境分野を担当するカーラ・サンズはこう述べています。

「アメリカ国民はバイデン政権から『EVに乗らなければならない』とか『あのガスコンロや洗濯機は購入できない』などと言われることに本当にうんざりしています。
バイデン政権が行ったLNGの輸出凍結措置は、精製施設やメキシコ湾沿いのテキサス州やルイジアナ州から搬出するための拠点の建設をストップさせました。私たちは雇用を求め、もっと多くのエネルギーの採掘を求めています。
例えば私の出身地であるペンシルベニア州はLNGの生産でテキサス州に次ぐ第2位の能力がありながら、それに見合うだけの生産をしていません。
生産量の増加のペースが非常に遅いのは、民主党とバイデン政権がエネルギーの採掘能力の増強を規制しているからです」
(NHK2024年6月20日)
アメリカ大統領選挙 トランプ氏のエネルギー政策は?LNG 石油回帰?EVは?「パリ協定」はどうなる? | NHK | WEB特集 | アメリカ大統領選

この「ウンザリ感」は、社会に蔓延するポリコレ、キャンセルカルチャーでいっそう増幅されました。
しかし、政権中枢にマスクがいたために踏み切れずに、トランプ政権最大の矛盾と見られていました。

だから筋からいえばトランプが「もっとも簡単な節約はEVへの補助金カットだ」と言うのは当然なのです。
あとDOGEに関してはしては、とっくに実務段階に入っていて、マスクがいなくても充分回るし、むしろ彼の思いつきでジャマされたくないらしいですから、トランプは内心よくぞここまでがまんしたと自分を褒めているんじゃないでしょうか。
似たようなことはテスラにもいえるようで、企業としてのテスラはマスクはいないほうがいいようです。

 

 

2025年6月 6日 (金)

プーチンに利用された昭恵夫人

S-061

やっぱりダメだよ、安倍昭恵夫人。
昭恵夫人がプーチンに面会して「旧交」を温めたそうです。
ロシアはホクホク顔でこんなことを言っています。

「ロシアのプーチン大統領が安倍元総理大臣の妻の昭恵さんと面会したことに関連して、大統領府の報道官は「日本には、ロシアとの関係修復が必要だと考えている勢力も残っている」と述べました。プーチン大統領としては、昭恵さんを歓待することでウクライナ侵攻で悪化した日本との関係改善に取り組む用意があると強調するねらいがあったとみられます。
ロシアのプーチン大統領は29日、クレムリンを訪れた安倍元総理大臣の妻、昭恵さんに対して花束を渡して歓迎したあと「安倍元総理がロシアと日本の協力関係の発展に果たした貢献を忘れることはない」などと述べました」
(NHK5月31日)
プーチン大統領と安倍昭恵さん面会 “日本に関係修復望む勢力も残っている”ロシア報道官 | NHK | プーチン大統領

20250605-171009

NHK

いま、ロシアはウクライナ戦争による制裁で深刻な孤立状態にあります。
この時期、モスクワに行く理由があるとすれば、直ちに停戦を受諾せよ、占領地から出て行けという以外ないわけで、「旧交」を温めることなんかではありません。
昭恵氏の台湾にもでもインドにでも呼ばれれば行く、亡き夫の遺志を継ぎたいという気持ちには常々敬服していますが、ロシアだけは別です。
安倍氏が存命していた最晩年にウクライナ侵略は起きたのですが、そのとき安倍氏は「これで北方領土交渉はないのとなった」という意味のことを言っていました。
そのとおりで、ウクライナ戦争を境にして、ロシアを巡る日本の立ち位置はまったく別次元のものとなったのです。

今回の昭恵氏の訪露を見て、泉下の安倍氏は私と同じ失敗をするなと言うのではないでしょうか。
かつて私は2島先行返還論に傾いていました。

2島先行返還論の主要な論客である佐藤優氏はこう述べています。

「ロシアのプーチン大統領は4日、昨年7月に改正された憲法に領土割譲を禁止する条項が盛り込まれたことを踏まえ、北方領土問題について「憲法を考慮しないといけない」と述べた。この条項が領土交渉に影響する可能性を認めた格好だ。一方で「(日本との)平和条約交渉を止めるべきだとは思わない」とも語り、交渉継続に意欲を示した」
(毎日 2021年6月11日佐藤優 『北方領土交渉に対するプーチン大統領の意欲』)
北方領土交渉に対するプーチン大統領の意欲 | | 佐藤優 | 毎日新聞「政治プレミア」

佐藤氏はあの分厚い顔で、ロシアの懸念のトゲだけ抜けば、2島は還って来る、ここを踏み台にして4島全部を返還させるのだ、と説きました。
その懸念するトゲとは、返還された2島に米軍を置かないことです。
ここだけ安保条約から除外することで、米国が中距離ミサイル配備をさせないと日本がいうことで、2段階で北方領土は返還されるというの佐藤氏の意見でした。

「プーチン氏は2000年の大統領就任直後、日ソ共同宣言の履行に前向きな姿勢を示したが、日本側が4島返還を求めたことに反発し、交渉が停滞した時期がある。
 一方、「日露とも戦略的観点から平和条約締結に関心を持っている」とも強調。ただ、米軍による日本への中距離ミサイル配備の可能性には改めて懸念を表明した」
(佐藤前掲)

同じ主張をした政治家は、佐藤氏の盟友の鈴木宗男氏でしたが、彼はこの平和条約を進めつつ並行して経済開発で信頼醸成し、2島先行返還交渉を具体化していくという戦略でした。
安倍氏はまんまとこのプランに乗ってしまいました。
外交的な天才だった安倍氏にして、この2島先行返還論はそれほどまでに現実的尖閣選択に見えたのです。
この時期はウクライナ戦争でプーチンがその悪魔的本質を暴露する前であったことに留意してください。
日本人はロシアを甘く見ていたのです。

いまさら言う必要もありませんが、まったくの空論でした。
ロシアにはテンから北方領土を返還する気などなく、返してもいいというそぶりはフェイントにすぎず、その裏にはなにかの政治的意図が針のように隠されていました。
ありていにいえば、ラブロフがいうようにロシアには「北方領土問題」など存在しないのです。
したがって、交渉そのものが無意味です。
わが国はロシアが1990年代のソ連崩壊直後のように疲弊にあえぐ時に機敏に再交渉するしか道はないのです。
にもかかわらず、日本は北方領土交渉においてロシアに対して甘すぎました。
そして残念ながら、安倍氏も同じ轍を踏んでしまい、プーチンに騙されました。

今回の昭恵氏の訪露は、民間人を使ったプーチンの西側陣営分断工作であるのは明々白々です。
昭恵氏はその善意を、プーチンに利用されたにすぎません。
ですから、政府はこのような対応をしてはならないのです。

「[東京 4日 ロイター] - 岩屋毅外相は4日の衆院外務委員会で、安倍晋三元首相の妻・昭恵さんがロシアのプーチン大統領と5月29日にモスクワで面会したことについて「親交のあった元首相夫人とプーチン大統領が旧交を温められたことは良いことではなかったか」と述べた」
(ロイター6月4日)
安倍昭恵さんとプーチン氏、旧交温めたのは良いこと=岩屋外相 | ロイター

良いことのはずはありません。

 

2025年6月 5日 (木)

どーでもいいですが、イ、ジェミョンが当選

S-112

パスしようかとも思いましたが、ま、いいか。
なんの意外性もなく、最高裁から有罪の疑いがあると差し戻しされていたはずのイ・ジェミョン(李在明)が当選して新大統領となりました。
もう大統領になっちまえばコッチのもの、ということのようです。
な、なんと大法院、イ・ジェミョン無罪判決を差し戻す: 農と島のありんくりん

「6・3韓国大統領選挙の開票作業が終了し、第21代韓国大統領に進歩(革新)系の「共に民主党」に所属する李在明(イ・ジェミョン)候補が当選したことが確定した。
4日に中央選挙管理委員会が明らかにしたところによると、第21代大統領選挙の開票が終わった午前5時、李在明氏の得票率は49.42%、保守系の「国民の力」に所属する金文洙(キム・ムンス)候補の得票率は41.15%という最終的な集計結果が出た」
(チョウ芋銭日報6月4日)4日午前5時に開票終了 李在明49.4%・金文洙41.1%・李俊錫8.3% 韓国大統領選-Chosun online 朝鮮日報 

20250604-154317

「反日・左翼」の韓国新大統領の甘言に踊らされるな、石破、岩屋コンビへの不安 室谷克実 - 産経ニュース

敗因は、いまさら言うも情けない話ですが、ユン氏が出さずもがなの戒厳令を出してしまったこと、それをリカバリーするだけの新鮮な候補者に一本化できなかったことでしょうね。
せめて保守系で候補者一本化しなきゃ勝てる道理がありません。
しかし予備選挙で勝利したキム・ムンスが建前にこだわって一本化にこだわったたために、予定調和的な敗北となりました。
これでこの国は完全に分断状態が固定化することでしょう。
といっても、いままでもそうでしたから、なにか新しくなったということではありません。
いままでどおりの「あたりまえのコリア」の平常飛行です。短かったユン政権が例外だっただけのことです。
問題はむしろ保守系のほう: 農と島のありんくりん

微笑ましいのは、経団連がこんなことをのたもうていることです。

「経団連の筒井義信会長(日本生命取締役)は「韓国国内における混乱に終止符が打たれ、内政・外交上の課題に国を挙げて取り組む体制が整うことを期待する」とコメントを発表した。
筒井氏はさらに、国際情勢が不安定な現状を踏まえ、「(日本は)自由、民主主義、法の支配といった価値観を共有する韓国と連携・協力して秩序の維持・強化に取り組む必要がある」と指摘。「日韓はあらゆる分野で対話・交流を強化し、両国関係のさらなる発展につなげていかなければならない」とした」
(朝日6月4日)
「日韓関係のさらなる発展に」 韓国新大統領に日本財界トップ:朝日新聞

たぶん事務局がテンプレどおりに書いたんだろうけど、「これで混乱に終止符が打たれた。国をあげて取り組む体制ができた。対話・拘留に励むぞ」」ですって、わけないしょ、ぷぷっ。
トランプと一緒ですよ。分断が固定化して、ガチガチに断層となったのです。
いままでユン氏が冷や飯を食わしてきた従北派が天下を取ったのです。

かつてムン・ジェイン政権がやった政権の真っ赤化をまたもやするでしょう。
それは政権内部に止まらず、官僚層、警察、司法機関、特に今回イ、ジェミョンに不利な差し戻し判決を出した最高裁の判事はいっそうされるはずです。
さもないと、イ・ジェミョンは枕を高くして眠れません。

思えば、ユン氏があれだけ政権運営に苦闘したのは、ムン・ジェイン時代の赤い遺産が大きかったからです。
ムンは政府機関のみならず、官僚、警察、四方まで赤く染め抜きました。
それに議会多数派がかぶされば、もうトップに誰が座ろうが一緒です。

見たでしょう。ユン氏がなにをやっても否決と弾劾それに議会での絶対多数がオーバーラップして、もうなにひとつ決まらない様を。
とうとう行政がマヒしてユンを戒厳令にまで追い込んだのです。
戒厳令の後も、野党であったイ、ジェミョン率いる共に民主党は、弾劾訴追した監査院長への訴追が憲法裁判所で棄却されたとして弾劾訴追。
後は自分らのいに染まなかったら弾劾、否決されたらまた弾劾、またまた弾劾。

こんなことをやって政権を掴んだイ・ジェミョンが「国を挙げて外交・内政に取り組む体制を作る」わきゃありません。
やるのは間違いなくかつてのムンジェイン政権の二番煎じである、従北反米反日至上主義でしょう。

では米国はどう対応するでしょうか。
ホワイトハウスの報道官は記者に質問されて「え、コメント?なにか、あったかなぁ。あ、ないや」みたいなことを答えています。(笑)
要は無関心。、先日のアジア安全保障会議(俗に言うシャグリラ会議)で長ったらしい演説の中で、コリアという文字がでたのはたった1回この部分です。

それも政治とはなんの関係もない航空機整備拠点の話。

「ニュージーランドや韓国を含む航空機を運用するインド太平洋の同盟国やパートナーが、米国本土の単一の修理源に頼るのではなく、地域内で航空機を修理するべきだ」

これはたぶんF-35の重整備拠点のことでしょうが、ま、はっきり言ってトランプは韓国なんぞ第1次政権の時からにどーなろうが知ったことではないのです。
強いて言えばかつてのムンのようにチョロチョロとでしゃばるなよな、ていどでしょうか。

まぁかつてのように韓国大統領が南北統一を掲げて大騒ぎしたくとも、北は韓国と絶縁を宣言してしまいましたから、動く余地がありませんがね。
北の核についても今の所トランプは無関心、直接会談なんぞやる気もなし。
ここまで完成されたら、もう手柄の立てようがないってところです。トランプって人はドライですから。
だから北にも韓国にも無関心。ついでにうちの国にも無関心。
コリアなんざ、新政権がゴチャゴチャうるさいことを言い出したら、いっそさっぱり米韓同盟廃棄しちゃうかもしれません。
今はジェームス・マチスもペンスも、安倍氏もいませんから、止める者もいませんしね。

ま、この私もそうですが、トランプとは別の意味でどーでもいいやの国です。
韓国に戦略的無関心を決め込む時代がまたやってきたんです。

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たぶん慰安婦合意もひっくり返すでしょう、自称「徴用工」もまた蒸し返すでしょう、「原発汚染水」は止めろくらいはいいそうですね。
そして日韓請求権条約のやり直しくらいも言いそうです。全部オセロゲームのようにひっくり返るのです。
経団連さん、こんな国のどこが「法の支配の価値観がおよぶ国」なんですかね。
法が常に時の権力によって恣意的に利用されてきたのが、この人治の国コリアです。
これからもちゃぶ台返しには何度も合うでしょうから、そのつど怒らずに冷やかに拒否しましょう。
経団連のように「両国のさらなる発展」なんて期待するのは最悪ですからね。



 

2025年6月 4日 (水)

ウクライナ軍が超弩級な大戦果を上げる

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やりました、ウクライナ軍が超弩級な戦果を上げました。たぶんこれは世界的な戦史に残るでしょう。
露空軍お宝の戦略爆撃の34%を爆破しました。
稼働率を考えれば、これでロシアの戦略空軍は死に体のはずです。
この戦略爆撃機は、ウクライナに対しての無差別ミサイル攻撃のプランホームとして使われている憎んでも憎みある機体です。
これがまとめて40機大炎上、わ、はは。痛快とはこのこと。
ロシアの損害は出るも出たり70億ドル(1兆円)相当!


「ウクライナは1日、ロシアとの間で続いている戦争で最大規模となる長距離攻撃を実施し、完了したと明らかにした。ドローン(無人機)をひそかにロシア国内に運び入れ、同国軍の基地4カ所で爆撃機など計40機を攻撃したという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1日夜、同国保安庁(SBU)がドローン117機を使った「クモの巣」作戦を実施し、「(ロシアの)戦略巡航ミサイル運搬機の34%」を攻撃したとソーシャルメディアに投稿した。
ゼレンスキー氏は、作戦の「まったく見事な結果」についてSBUのヴァシル・マリュク長官に祝意を伝えたとし、ドローン117機の各機に操縦士がついていたと説明した」
(BBC6月2日)
ウクライナ、ロシアで大規模なドローン攻撃 爆撃機など40機破壊 - BBCニュース

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BBC

そして露空軍の損害は以下です。
お気の毒にもお宝中のお宝のA-50早期警戒管制機(AWACS)も喪失しまた。

・Tu-95MS戦略爆撃機
・Tu-22M3戦略爆撃機
・A-50早期警戒管制機(AWACS) 

攻撃を受けた露空軍基地は以下のとおり、深刻なことにはロシアの深部に及んでいます。

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ロシア軍機40機以上を破壊!100機以上のドローンで襲撃したウクライナ軍の特殊作戦「蜘蛛の巣」

・オレニャ空軍基地(ムルマンスク州)
・ベラヤ空軍基地(イルクーツク州)
・ディアギレヴォ空軍基地(リャザン州)
・イヴァノヴォ空軍基地(イヴァノヴォ州)

注目すべきは、フィンランドに隣接する北極圏のオレニャとベラヤ空軍基地への攻撃です。
オレニャ空軍基地は、ロシア北方艦隊の母港であるムルマンスクに隣接し、戦略的にも重要な基地とされてきました。
オレニャ基地は、ロシアが今後フィンランドやバルト諸国を侵略しようとした場合の、最前線基地となる場所に位置していました。

また、ベラヤ空軍基地は、なんとシベリアのイルクーツク州にあり、モンゴルのほぼ北。
深部も深部、ロシアは絶対にこんな場所を攻撃されるとは思いもしなかったはずです。
同基地もロシア戦略空軍の主要基地であり、ウクライナの支配地域から4500km以上も離れています。
もはやロシアには聖域など存在しないのです。 

攻撃方法もまた奇想天外でした。
まるでミッション・インポシッブルの世界です。
ウクライナ特殊部隊が、実に2年がかりで仕掛けた大技だそうです。

「ウクライナが戦史に残る特殊作戦を成功させた。Butusovによれば、ドローンによる攻撃で4つの空軍基地で計41機のロシア戦略爆撃機・輸送機を破壊・損傷。2年の準備期間を経てウクライナ保安庁(SBU)のエージェントが150機のFPVクアッドコプターをロシアに秘密裏に輸送、操縦にはロシア通信回線を利用」
XユーザーのSanshiro Hosakaさん

まずは木製のプレハブ住宅の中にドローンを150機仕込んで露空軍基地の間近まで運送してもらいます。
ただしフィンランドに近いオレニャ空軍基地は遠すぎるためにフィンランド経由で搬入したのでしょうし、モンゴルに近いベラヤ空軍基地にはモンゴル経由の可能性があります。

またウクライナの特殊部隊だけでこれを遂行するのは困難であり、ゼレンスキーも「私たちを支援した人々」という表現を用いて現地レジスタンスの人々に謝意を表しています。

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現地映像(ドローンがコンテナから出撃、ドローン攻撃映像、被害映像)

運んだのはロシアのフツーの運送業者。
そして期日どおりに到着したことを確認すると、遠隔操作でパカっと木造住宅の屋根が開いてワラワラとドローンどもが大空に飛び出したのだそうです。もはや映画ですな。
このドローンは1機5万円のFPVクアッドコプターで、しめてコストは750万円、それで戦果は1兆円。
すさまじいまでのコスパですが、これがドローン戦争です。

これだけのことを空軍がやろうとしたら、どれだけのストライクパッケージがいることか。
米空軍の場合は

  1. 空中警戒管制指揮機(1機~3機)
  2. 目標直接爆撃を行う攻撃機爆撃機数十機)
  3. 攻撃機編隊護衛戦闘空中哨戒を行う戦闘機(数機~数十機)
  4. 敵防空網制圧編隊(数機~数十機)
    1. 対レーダーミサイル武装したワイルドウィーゼル・アイアンハンド
    2. チャフコリドー生成するチャフシップ
    3. ジャミングを行う電子戦機
  5. 空中給油機10機以下)
  6. 爆撃効果判定を行う偵察機(数機)
    ストライクパッケージとは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

通常このストライクパッケージは約60機ほどで編成されるので、これが4目標だからざっと240機。
そもそもウクライナ空軍を逆さに振っても足りませんし、これを露軍のS400、S300といった優秀な地対空ミサイルが待っています。
たぶん離陸した瞬間に探知されてボロボロにされ、ウクライナ領空から出ないうちにたぶん3分の1は撃墜されてしまうでしょう。
結果、ウクライナ空軍は壊滅。
これをドローンが無血でやってしまうのだから、もうすさまじいとしかいいようがありません。
時代が変わったとしかいいようがない。まさにゲームチェンジャーです。

ところで、BBCはこのように記事を結んでいます。

「つまり、クレムリン(ロシア大統領府)の代表団と新しい停戦交渉のためにイスタンブールに到着したウクライナ代表団は、「ウクライナはまだまだやるぞ」というメッセージを携えていたのだ。
私の同僚のホメンコ記者に話をしたウクライナ政府関係者は、「(アメリカは)まるで一番ゆるい降伏条件に同意するよう、我々を説得することこそ自分たちの交渉上の役割だとでも言うように、ふるまい始めている」と話したそうだ。
「それでいて(アメリカは)、こちらが感謝しないと怒り出す。しかし、もちろんこちらは感謝などしない。自分たちが負けたとは信じていないからだ」
ロシアはドンバスの戦場でゆっくりと、しかし容赦なく着実に進撃している。それでもウクライナはロシアと、そしてトランプ政権に告げている。ウクライナの今後の展望をそうそう簡単に否定しないようにと」
(BBC6月3日)
【解説】ウクライナの大胆なドローン攻撃、ロシアと西側に重要メッセージ(BBC News) - Yahoo!ニュース

まったくそのとおりです。
ウクライナは米国の裏切りにもかかわらず、まだ戦い続けているのです。

2025年6月 3日 (火)

放射能を浄化した日本型エコシテム

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小泉ジュニアが予想外というか、予想に違わぬキレキレです。
完全に状況のイニシャチブを握ってしまいました。
というか、農水族がマヌケなのです。
森山幹事長はこんな寝ぼけたことを言っています。

「スピーディーな対策を続ける中、気になるのは農水族と呼ばれる議員たちの存在。中でも、森山裕幹事長は農水族のドンとも呼ばれ、「農家が頑張って作ろうという気持ちでやってもらわなければ、食料安全保障は成り立たないと(小泉氏に)しつこく言ってある」と生産者サイドに立った主張もしている」
(スポニチ6月2日)
小泉進次郎農相 “農林族のドン”との連携は?対立構造は否定「何でも対立をあおりたがる人もいる」(スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース 

「農家がガンバロウという気持ち」ってなんなんですかね。たぶんいまの高騰が青天井に貼りついた状態のことでしょう。
いま、ナニがテーマなのか、この高騰を押さえてコメ・パニックを落ち着かせることです。
それを全体を見渡す立場の幹事長が、「農家が作ろうという気持ち」もないもんです。
こういう余計なことを言うから、農業者全体が高値のままでいてほしいと願望しているように見えてしまいます。迷惑な。

また、備蓄米を放出しきったらコメを無関税で入れると言ったと流されましたが、小泉大臣はそこまで踏み込んではいません。
これを流したのは毎日です。

「小泉進次郎農相は26日夜、テレビ東京の番組で、コメの輸入を増やすかどうか問われ「あらゆる選択肢は否定しない」と含みを持たせた。」
(毎日5月27日)
小泉進次郎農相、コメ輸入「選択肢として否定しない」 テレビ出演(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

毎日のこの記事のタイトルは「小泉進次郎農相、コメ輸入「選択肢として否定しない」 テレビ出演」ですから、煽り記事です。
正確には、自分の記事でも引用しているとおり、「選択肢としては否定はしない」ていどのニュアンスです。
これがSNSで拡散すると「備蓄米が無くなったら関税無しで輸入米を入れる」という風に変形します。
正確にはこのていどの発言です。

「今、(日米)関税交渉については赤沢亮正経済再生担当相が責任を持ってやられているので、できるだけ交渉担当の方の自由度は縛りたくない。一方で、農水相としては安易にカードを切ってもらいたくない。それは、やはり日本の守らなければいけないものがあります。
ただですね、現時点で私が言えることは、やはり私が今向き合って戦っている先はマーケットっていうところもあるので、これは現時点であらゆる選択肢は否定しない。あらゆるカードは使う覚悟を持って、できることは全部やる。そういった思いで向き合っているというふうに思っていただきたい」
(毎日前掲)

小泉氏が言っているのは、「あらゆる選択肢」、それも「あらゆるカードを使う覚悟」です。
飛ばさない、飛ばさない。
コメの自由化はいずれ避けられない問題ですが、こんな飛ばしから口火を切られたらたまりません。

さて、原発事故以後の福島復興が長引いた原因の一つは、一部の人たちが「福島」を原発の恐怖のシンボルとして祭り上げてしまったからです。
これがいわゆる風評被害で、彼らは口を揃えて「フクシマには人は住めない。フクシマに行っていけない。フクシマのものを食べてはならない」などと言って、恐怖を煽り立てました。

今でも数こそ減りましたが、そのような人たちは残存しています。 
それを伝播した朝日、毎日、東京などのメディアは、訂正記事のひとつ出すでもなく、しかとして口をぬぐっています。
関連記事福島にはもう住めない、行くなと言った人々は自然の浄化力を知らなかった: 農と島のありんくりん

とまれフクシマに行くなという被災地差別まがいのことを言う人はさすがに減っても、福島県産のコメを不必要に恐怖したりする人は今でも絶えないようです。
一方、多くの国民は不必要に恐れることはなくなりましたが、それは政府の除染作業の結果だと思っていますが、それは間違いです。
むしろ1ミリシーベルトを目標とした除染は、莫大な費用をかけてむしろ復興を遅らせました。
真に、フクシマを清浄化したのは、自然の日常の営みによるものです。

私は2011年夏、霞ヶ浦の環境保全に関わる地元大学の専門家と共に霞ヶ浦や付近の河川や水田などを実測調査したことがあります。
※関連記事霞ヶ浦放射能汚染の実態その1  河川流域が短いほど汚染濃度が高い: 農と島のありんくりん (6回連載)

河川で有意な放射線量がわずかに測定されたのは事故直後だけで、それは静かに移動して湖や海に流出していることがわかりました。

では荒木田氏のいうように、「海に拡がるのを阻止」する」必要はあるのでしょうか。

ありません。それは水系の仕組みをみれば理解できます。荒木田氏などが考えているように山や街に降った放射性物質が、キャッホーと一気に河を経て海に流れ込むわけではないのです。

山に降った放射能は、水田に流れ込み、用水路を経て河川に流れ込みます。その過程をひとつひとつ検証せねば、「福島が住めない」などと安直にいえないはずです。

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座間市HPより

では順を追ってご説明していきます。

できるだけ専門用語を使わずに、図表を使って平明に解説します。
「いくら街を除染しても、すぐに山から汚染水が流れてくる」といわれた、山系に降った放射能汚染はどうなっているのでしょうか。
実は阿武隈山系には、研究者の実地調査が何度も入っています。

まずは、もっとも初期の11年9月に、福島県山木屋地区標高600mの福島第1原発側斜面で、新潟大学・野中昌法教授が行なった土壌に対するセシウムの沈着状況の計測結果です。

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『放射能に克つ農の営み-ふくしまから希望の復興へ』より 


●山木の土壌の放射性物質分布
・A0層(0~7㎝)・・・・98.6%
・A1層(7~15㎝)・・1.4 (2011年9月測定) 

このように、放射性物質は微生物が分解中のその年の腐植層(A0層)に98.6%存在し、その下の落ち葉の分解が終了した最上部(A1層)には達していないことが分かりました。 

事故後、福島の山間部では、この森林に降下したセシウムが、A0層とA1層の間にある地中の水道(みずみち)を通って雪解け水となって流れ出していくものと推測されます。 

セシウムは、葉と落ち葉に計71%が集中しており、それは地表下7㎝ていどに99%蓄積されていました。 

畑以上に表土に結着した量が多いようです。これは山の表土がトラップに有効な腐食土に覆われているためだと思われます。

言い換えれば、山は畑以上にトラップ力が強いようです。

大部分は土中にトラップされますが、2011年に降った放射性物質の一部は沈下せずに、むしろその下の去年の腐植層との隙間を流れ出したと思われます。 

いわば、初年度の汚染水は大部分を土壌に残留し、土壌分子に固定されながら、一部が地表を滑ったような形で下に流れ落ちたのです。

国立環境研究所は筑波山における調査に基づいて、この山からの流出量は「事故後1年間の放射性セシウムの流出量が初期蓄積量の0.3%だった」と述べています。
放射性物質を含む廃棄物に関するQ&A~入門編~

わずか0.3%であっても汚染物質は、山と里地との接点である谷津田の水口(みなくち)を汚染しました。

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私たちの地域での自主計測会の様子 ガイガカウンターをビニール袋に入れて計測している。筆者撮影

下の谷津田のデータは同じく野中教授らのグループが測定したものです。
11年度米で、もっとも多くセシウムが検出されセンセーショナルに騒がれたのは、谷津田水口周辺でした。
放射性物質を含んだ山からの水は、まず水口でトラップされ、下へ流れるに従って減衰して、より下流の水路や河川に流れていくのがわかるでしょう。


福島県二本松・放射性物質が玄米で500bq検出された水田付近の測定結果
同上の空間線量(マイクロシーベルト)
・水口・・・・1.52
・中央・・・・1.05
・水尻・・・・1.05
同上土壌線量(ベクレル /㎏・セシウム134・137の合計)
・水口・・・・6200
・中央・・・・3900
・水尻・・・・2600

 しかも、事故から5年近くたった現在は、この11年の汚染された山の地層の上に、さらに新たな腐葉土の地層ができたために、11年の地層は50㎝以下に沈下しているはずてす。
これによって、事故直後山の表土を滑り落ちる汚染水の流出量は、今はほぼ途絶えたか、激減しているはずです。

さてこの山からの汚染水は谷津田を経て用水へ、用水から川へと流れこみます。ではこの河の汚染状況はどうでしょうか。

Plaza
阿賀野川 http://www.hrr.mlit.go.jp/agano/kangaeru/tushinbo/2009/places/06_g-agmzpl.html


これについても゛新潟県が2011年に調査したデータがあります。
ほぼこの底土、護岸部分にトラップされたために水質自体の汚染は非常に低く、河口での線量は著しく減衰しているのがわかります。


阿賀野川放射性物質調査結果 2011年新潟県
http://www.pref.niigata.lg.jp/housyanoutaisaku/1339016506464.html

1 阿賀野川の河川水
  5月29、30日に、上流~下流の7地点の橋で採取した河川水から、いずれも放射性セシウムは検出されませんでした
これまでの阿賀野川水系の淡水魚の測定結果
8魚種で検査を実施 不検出~49ベクレル/kg
2 阿賀野川の底質(泥等)(別紙1参照)
  5月29、30日に、上記7地点の橋から採取した川底の泥、砂等の10検体を分析し、最大68ベクレル/kg湿の放射性セシウムを検出しました。
3 阿賀野川岸辺の堆積物
  5月29日に、川岸3地点で試料を採取し分析したところ、中流の岸辺で表面から深さ30~40cmの層で採取したものから最大232ベクレル/kg湿の放射性セシウムを検出しました。

 私が述べたように、河川水からは検出されず、川土や川岸からのみ検出されています。 

これはセシウムの特性が水に溶けにくい性格のためです。これは農水省飯館村除染実験時の調査記録にも記されています。

下の計測図を見ていただくと、表層の粘土がもっとも多くセシウムをトラップし、その下のシルト(粘土が混ざった層)はそれにつぎ、砂質になるとまったくといっていいほどトラップしなくなるのがわかります。

だから、セシウムは地表5㎝前後の部分に多くあったわけです。

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http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/110914-09.pdf
反原発派の自然知らず その2 セシウムと土壌の性格を知れ: 農と島のありんくりん

この飯館村除染報告書はこう述べています。


「放射性セシウムは農地土壌中の粘土粒子等と強く結合しており、容易に水に溶出しない。一方、ため池や用水等、水の汚染は軽微である。」

つまり、放射性物質は河に流出したとしても、水に溶けにくいために底土、岸に吸着してしまい、水質汚染につながりにくいのです。
というわけで、新潟県の阿賀野川の計測結果で水質汚染がなかった理由がこれです。
では、「除染に意味があるとしたら河川の除染だ」というようなことをしたらどうなるでしょうか。
除染方法が具体的に述べられていないのですが、河川や湖沼では底土を大きなポンプ浚渫船で吸い込むしか方法はありません。

こんなことをしたら、せっかく河口や底土、あるいは岸の土壌に決着してトラップされているセシウムは攪拌されて、泥と水が混ざり合って、元の木阿弥です。
このように河川の「除染」は意味がないばかりか、かえって汚染の拡散となってしまうのです。

ですから、環境省は福島県、茨城県の湖沼や河川の除染にはあえて手をつけていません。
河川以外にも、一部は下水路から処理施設へと向かいますが、この段階で処理場汚泥に沈殿するのは冒頭に見たとおりです。

このように山から流れた汚染水は、森林から海への長き道のりを辿って各所で「捕獲」されて封じ込められていっています。
そして海にたどり着いた放射性物質も、海流で沖まで持っていかれ、海流に乗って拡散していきます。

このような複雑に絡み合う日本のエコシステムは、放射能という新たな敵に対しても健全に機能し、放射性物質を各々の持ち場で封じ込め、次の場所に譲り渡していったのです。
これが自然生態系の外敵に対する防衛機能です。

そしてこの自然のトータルな協同の力によって、放射能物質はいまや見る影もなく衰弱していました。
今国が民主党の置き土産としてやり続けている「除染」作業は、この自然の摂理に従ったセシウムトラップの数億分の1の働きもしていないでしょう。
人間のやることが、いかに小さいものかお分かりいただけたでしょうか。
農業はエコシステムのなかで大きな位置を占めているのです。
ですから、農業は関税で守るのではなく、農民自身の営為とそれを助ける国家の環境への支援によって守られねばなりません。
農業には環境直接支払いが必要なのです。

 

2025年6月 2日 (月)

日本型エコシステムの要、水田

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正直、やっとコメが国民注視の話題になったのか、という思いがあります。
いままで日本人は、ハッキリ言ってコメとそれを産み出している水田に対してあまりにも無関心でした。
このブログでも10年以上前から議論を呼びかけていました。
いろいろな意見をいただいたのですが、その中にこのようなものがありました。

「1) 国土の保全が水田の役割というが、700%超もの関税で守っているのであれば、水田以外の方法でやったほうが最終的なコストは安いのではないのか?
2) 水田が生物多様性に寄与しているというのは本当なのか?農業というのは基本自然破壊を伴うのでは?(景観は確かに保全されるが)
3)仮に1,2の目的を水田が果たしているとしても、コンニャク、小麦、バター、砂糖等の関税が異常に高いことは正当化できない。
4)農業従事者の主たる反対理由は、上記1,2等ではなく「自分達の生活が苦しくなるから」と一般には受け止められている。(集会等で政治家を罵倒している旧態依然とした態度はそうした見方を助長。)
そう受け止められている以上、1)2)は詭弁だと言う人が多数でるのは自然なことの気がする。」 

なるほどね、私はこう答えました。
この方のご意見は半分はごもっともです。
TPP時の農産物関税についてや、今回のコメ騒動の時に起きた「百姓一揆」デモなどでの発言は、おしなべてコメでは食えないと口々に言い、今の高騰した米価を正当化するものばかりでした。
こういう意見は農民の中に根強くあります。
コメは儲からない、コメは組内のつきあいでやらされているという人も少なくはありません。
特にGWを丸々潰して田植えをやらざるをえない兼業の人にとっては、正直たまらん、こんな儲からないもんは早く止めてしまいたいという気分があるのも事実です。

そういう「気分」があるために、環境問題をもちだすとキレイゴト言ってるんじゃないよという揶揄を受けます。
JA全農がTPP時に、富山和子氏の素晴らしい文章を使ってそれを訴えた時、都市生活者の多くの反応は問題をすり替えているというものでした。
まぁ仕方がない、JAは農民階層の経済的利害ばかりを言いすぎました。
しかし大きく農業を国土との関係で見ないとわからなくなる、農家自身も自分を見失うというきが私の考えです。
「農業が自然破壊を伴う」のが事実だとしても、ならばなおさらのこと、環境再生のための農業に作り替えて行かねばならないはずです。

①についてですが、結論から言えば、農業という環境維持のためのスタビライザー(安定化装置)を利用しないと、防災インフラを再構築せねばならなくなり、その公共投資のコストは天文学的になりますよ、ということを言い続けてきました。

農業という存在を田んぼ単体で考えているから分からなくなるのです。
田んぼは水利・治水の全体で見ないと見えません。 

 

Photo                     図 座間市HPより

田圃にはその灌漑のための水系が付属します。河川から水を取り込む小規模河川、網の目のような農業用水、そして干天に水を放出し、大水の時に水を蓄え込むため池などがそうです。 
また、田んぼに常に水を涵養しておくための山も重要な存在です。田んぼを作るためにはげ山に植林し、その森林が水をしっかりと蓄えられるようになって初めて「田んぼ」が出来るのです。 

いわゆる水田は、田んぼという土と水のエコシステムの一部でしかありません。さらにこの水田から出来るコメだけ取り出して700%の関税がうんぬんという議論は、木を見て森を見ない議論に思えます。
もっと大きな目で見て下さい。これが分からないと、ではどうやってこの700%超の関税を改革していくのかという議論につながりません。
そうでしょう。その価値がわからない人が、コメの価格だけ高い安いと言っても始まりませんものね。

さて、北朝鮮でなぜ大水が頻繁に起きるかご存じでしょうか。酔狂にもわざわざ見に行った人の話によれば、天井川になっているのです。 
天井川とは、河川の底が土砂で埋まって岸より高くなっている河のことです。こんな河はたいした大雨でなくてもすぐに溢れます。 
この土砂はどこから来るのかと言えば、河沿いの山肌の崩落が原因です。北朝鮮の山ははげ山なのです。
それは樹を引っこ抜いて、山に土留めもせずに根の浅いトウモロコシをビシッと植えたからです。こんなことをすれば、山はどんどん崩れていくのは当たり前です。 

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今、現代日本人が漫然と見ている山もかつての先人たちの営々とした植林によって出来たということを富山和子氏が『米はいきている』という名著で述べています。
昔、盛んになるのは江戸中期頃からですが、 米を食いたければ山に樹を植えるところから始まりました。
漫然と植えたのではなく、樹が水を蓄えることを当時の人が知っていたからです。それが治水に役立つこともそれ以前から知っていました。
そして苗を植えて100年、やっと山が緑に覆われてくる頃、初めてそこから湧き出る水を集めて田んぼを作りました。 

そして水を山から引く農業用水路を整備し、天候の変動に備えてのリザーブ・タンクとしてのため池を堀りました。
もちろん縄文末期から田んぼはあるのですが、植林、山の手入れ、水路などを一体のものとして作り始めたのはこの頃からです。
こうして、今の見学の外国人が公園のようだと評する農村風景が出来上がりました。

樹を植えて三代。そこから稲ができるまでまた1代。毎年の山の手入れは永代。川さらい、農道の普請は地域で毎年。まったく気長な話です。
これを営々と村の共同の作業として維持してきたのが「田んぼ」なのです。 人々の汗の積み重ねがあって、日本の土と水は保全されてきたといえます。
この営為を「生活」のためだというなら、そのとおりです。 「生活」のためにコメを作り、森林を保全し、河川を維持してきたのです。そのなにがいけないのでしょうか。

さてこれを「水田以外の方法」でやってみるとなると、どうなるでしょうか。
今、60年代に作った全国の公共インフラは耐用年数を迎えつつあります。笹子トンネルの崩落事故などはその前兆です。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-6.html
これは公共事業=悪玉論によって愚かにも公共事業費を削減し続けたからです。
公共事業費を消すると、真っ先にメンテナンス部門にしわ寄せが行きます。 
ですから、今早急に道路、河川、トンネルなどの補修事業をせねば、想定される大地震などの天災でまた多くの国民が亡くなってしまうことになります。
それだけで巨額な公共投資を要します。しかし、やらないわけにはいかないわけです。 

この時期に、わが国の国土特有の治水の要である水田や小規模河川、それに付随するため池、農業用水、そして山の手入れを全部潰すとなるとどうなるか考えて下さい。
 あまりシミュレーションしたくないのですが、基幹的公共インフラの整備ですら膨大な財政支出が必要な上に、今まで「農業」という見えない形で支えていたものが消滅するわけですから余り想像したくないことになるのは明らかです。
北朝鮮なみに年中河は溢れ、住宅地や農地は水に漬かり、道路は寸断され、トンネルは埋まり、河口付近の湾は河から押し流される土砂でとんどん浅くなって港湾機能も失われていくことでしょうね。 

これを「他の方法で」で解決するとなると、田んぼの代わりに小規模多目的ダムを全国に無数に作ることになります。もちろん税金でです。まぁ、そんな金があったらの話ですが。
多目的ダムはこんな概要です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%BB%E6%B0%B4%E3%83%80%E3%83%A0

容量は河川によっても異なりますが、たとえば小型の熊本県球磨川・五木ダムが36万㎥の貯水量があります。
建設コストは一概に言いきれませんが、群馬県倉淵ダム(建設中止)、当初予算の275億円は最終的には550億円となったようです。大体は用地買収などが手間取って当初予算の数倍にハネ上がっています。

第一、作りたくとも今や八ッ場ダムで分かるように、環境破壊がひどいので建設のためのコンセンサスがとれなくなってきています。
一方、仮に田んぼに20㎝分だけ貯水したとすると、大分県の試算では、10アール当たり200トンの雨水を受け止めるのに相当し、大分県内の水田(4万2500ヘクタール)すべての貯水量は、1240万㎥となり、小型ダム約3基分に匹敵する貯水量があります。

http://www.oita-press.co.jp/bousai/115571175632564.html

馬鹿げてはいませんか。農業が黙々とやってきた環境スタビライザー機能を他の手段で置き換えるというのは。言うのは簡単ですが、まったく割に合わない愚行です。
別にこれはわが国だけに限ったことではなく、世界中どこの国でも農業が国土の基本インフラであるのは常識です。農業は取り替えが効かない部門なのです。
だから農業保護ということにどこの国も必死になるわけです。それをしなければ、国土が崩壊して、外国産の安い農産物で潤う以上の損失を国土にもたらすことがわかったからです。

よく「食の安全保障」といいますが、それは単にカロリーで表記できるだけのものではなく、農業が守っている国土インフラ保全の安全保障まで含む概念だと私は思っています。
今の中国のように無計画にそれを壊してしまうと、修復にはとてつもないコストと時間がかかることを、多くの国は理解しているからです。
だから、一般的な競争原理にはなじみません。
といって、誤解されたくはないのですが、まったく今までどおりでいいとも私は思っていません。

減反政策と高関税は一対のものです。減反を維持するために馬鹿げて高い高関税を敷いているのは事実です。私はもはやこのような関税ブロックは賞味期限切れだと常々思ってきました。
その意味でも、私は農業は改革が必要だと考えています。
そしてそれは狭く農業に止まらず、環境政策、あるいは国土建設という立場からもトータルに考えるべきなのです。
小泉大臣にやや期待するのはそのへんです。

 

2025年6月 1日 (日)

日曜写真館 水いよゝうるむたそがれ茨咲きぬ

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灯ちらちら茨の花垣たそがるゝ 政岡子規

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咲きみちて茨一片もちるはなし 飯田蛇笏

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杖もつて花ざかりなる茨かな 前田普羅 

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瓶に花なく無款の軸花茨 山口青邨

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花と針の心問たき茨かな 千代尼

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茨咲いてこんなさみしい真昼がある 三橋鷹女

 

 

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