イランは6回協議を拒否したのは核兵器が完成直前だったからです
今回のイスラエルの「立ち上がる獅子作戦」が発動された日を思い出して下さい。
それはトランプがこの3月、イランに対し核協議に合意するよう与えた2ヶ月の期限が過ぎた直後のことです。
なぜこの日だったのでしょうか。ちょっと時系列で振り返ってみましょう。
「アメリカのメディアは、トランプ大統領が敵対するイランに送った核開発をめぐる交渉を呼びかける書簡の中で、交渉期限は2か月だとしていたと伝えました。早期に対話に応じるようイランに迫った形です。
トランプ大統領は今月、イランの最高指導者ハメネイ師に対して核開発をめぐる交渉を呼びかける書簡を送ったと明らかにしています。
これについてアメリカのニュースサイト「アクシオス」は19日複数の関係者の話として、書簡の中で、トランプ大統領は無期限の交渉は望まず、期限は2か月だとしていたと伝えました」
(NHK2025年3月20日 )
“トランプ大統領 イランと交渉期限は2か月 核開発めぐり”米報道 | NHK | イラン
こうしてイランは外交的手段で核開発を停止する期間を与えられたわけですが、米国との協議には応じないと一蹴しました。
「イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は12日、核開発計画についてアメリカと交渉する考えはないと述べた。アメリカのドナルド・トランプ大統領は先週、イランの核開発をめぐり、交渉を要求する書簡を送ったと述べていた。イランはこの日、書簡を受け取ったことを認めた。
トランプ氏は7日の米FOXビジネスのインタビューで、イランが核開発について協議に応じなければ軍事行動に出る可能性があると、書簡で警告したと述べていた。
トランプ氏の書簡はアラブ首長国連邦(UAE)経由でイランに届けられた。ハメネイ師は、書簡には目を通していないとしつつ、「世論をあざむくもの」だと一蹴した」
(BBC2025年3月13日)
イラン、核開発めぐる米国との交渉拒否 トランプ氏の書簡を受領 - BBCニュース
61日目のトランプの発言はこうです。
「イスラエルの攻撃が圧力になり、弱体化したイランが妥協して合意に応じる可能性があるという期待感を示した。
「私は2カ月前、イランに合意のため60日間の期限を与えた。今日は61日目だった。彼らは合意すべきだった!」
トランプ氏は13日朝、自身のSNSにこう書き込んだ。メディア各社と短い電話インタビューにも応じた。ロイター通信には「我々は(事前に)すべてを知っており、私はイランを屈辱と死から救おうとした。合意が成立することを心から望んでいたため、彼らを救おうと懸命に努力した」と主張」
(朝日6月14日)
トランプ氏「イランを屈辱と死から救おうとした」 核合意になお期待 [トランプ再来]:朝日新聞
つまり、「立ち上がる獅子作戦」発動の6月14日とは、すなわちイランが国際社会とのすべての話し合いの道を絶った日だったのです。
しかもイランは協議に応じなかっただけではなく、その期限当日にやったことはトランプに対するツラ当てでした。
いままで開示してこなかった秘密の核施設での作業を開始し、フォルドゥの核施設の遠心分離機の増設も行うと発表したのです。
これに対して12日、IAEAは強く反発し、イランに非難決議を出して可決しました。
「イランの核開発をめぐり、IAEA=国際原子力機関の理事会は12日、IAEAの調査への協力が不十分だとしてイランを非難する決議を採択しました。イランは対抗措置として新たなウラン濃縮施設を建設すると発表し、今月15日に行われるアメリカとイランの核開発をめぐる協議への影響も懸念されます」
(NHK6月12日)
IAEA理事会 イラン非難の決議採択 イランは対抗措置を発表 | NHK | イラン
そして13日、イスラエルはもはや平和的手段でイランの核武装は阻止できないと見極めた上で、イスラエルは「立ち上がる獅子作戦」を発動したのです。
ちなみに、イランを「伝統的友好国」と呼ぶわが国は、世界でもっとも強い調子でイスラエルを非難しています。
「石破総理大臣は13日夜「イランの核問題の平和的解決に向けた外交努力が継続している中で、イスラエルによる軍事的な手段が用いられたことは到底許容できるものではない」と述べ、イスラエルによる攻撃を強く非難しました。
政府は、中東地域の平和と安定は日本にとって極めて重要だとして、事態がさらに悪化しないよう、イスラエルとイランに最大限の自制と事態の沈静化を求めることにしています」
(NHK6月14日)
イスラエルとイランの軍事衝突 日本政府 最大限の自制求める 現地の日本人の安全確保に万全期す | NHK | イスラエル
ゲルさん、「外交的努力が継続されている」ですって、この流れを見て、どうしたらそう見えるのか不思議です。
欧州各国の「外交的努力」が破綻し、核濃縮を継続し、さらに挑発的にもフォルドゥの核施設の遠心分離機の増設までするという核武装を公然化したから、最後の手段として軍事的主他ンにたよらざるを得なかったのです。
これは「自衛行動」で、主要国もこれを認めています。
まずはフランス。「イスラエルが自衛し、安全を確保する権利を再確認する」と明確に言い切っています。
続いてカナダ。同じく「イスラエルが自国を防衛し、その安全を確保する権利を再確認する」としています。
もう遅いよ、ワデフルさん。
「ドイツのワデフル外相は、中東情勢の緊張緩和に向け、フランス、英国とともにイランの核開発を巡り同国と直ちに協議を行う用意があると表明した。
中東を訪問中のワデフル氏は、イスラエルとイランの対立緩和に貢献しようと取り組んでいるとし、イランがこれまで建設的な協議に入る機会を逃してきたと指摘」
(ロイター6月15日)
独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩和へ | ロイター
日本政府の伝統である「イランと国際社会のパイプ」とやらがなにか役に立ちましたか?
キレイゴトはけっこうです。
国際法はイランの核武装を止めることにはなんの役には立たなかったが、その第1標的であるイスラエルの核開発施設の除去は違法だと、言いたいようです。
ならば国際法とはいったなんなのでしょうか。
英独仏がイランに「最後の協議」を呼びかけていますが、これはイスラエルとイランが交戦関係に入った後のことです。
「アメリカの兵器専門家は6月15日、もしイスラエルがフォルドウ燃料濃縮工場(FFEP)を稼働不能にしなければ、イランは攻撃前の60%濃縮ウラン備蓄を使って、最初の月末までに9発の核兵器に十分な兵器級ウラン(WGU)を生産できるようになると報じた。 科学国際安全保障研究所は6月9日、イランがFFEPで現在備蓄している60%濃縮ウランを3週間で233キログラムのWGUに転換できると報告した。
科学国際安全保障研究所(Institute for Science and International Security)は、核兵器1発を製造するには25キログラムのWGUが必要であることを考えると、9発の核兵器を製造するには233キログラムのWGUで十分であると報告した」
(国際戦争研究所 6月15日)
イラン・アップデート特別レポート 2025年6月15日 朝刊 |戦争研究所
- この報告書と並行するNPT報告書は、イランがJCPOAとNPTに何度も違反し、兵器級ウランを製造する能力を強化していることを強調するのに役立つが、おそらく最も重要な懸念事項を曖昧にしている。イランの核兵器化計画は、査察官や世界の目の届かないところで着実に進んでいる。緊急に必要とされているのは、IAEAの査察をイランとの関係の中心に据え、イランが核兵器を持つことは決して許されないことを再確認することである。
所見
イランは、現在の60パーセント濃縮ウランの在庫を、フォルドウ燃料濃縮工場(FFEP)で3週間で233キログラムのWGUに転換できるが、これは9発の核兵器に相当し、兵器1発当たり25キログラムの兵器級ウラン(WGU)に相当する。
- イランは、わずか2、3日で、最初の量の25kgのWGUをフォルドウで生産できる。
- フォルドウとナタンツ燃料濃縮工場(FEP)の両方で勃発したこの2つの施設は、最初の月に11発の核兵器に十分なWGU、2ヶ月目の終わりまでに15発、3ヶ月目の終わりまでに19発、4ヶ月目の終わりまでに21発の核兵器を生産することができた。 そして5か月目の終わりまでに22人。
- 査察官の目の前で、イランは脱出のほぼ最終段階に着手しており、現在、濃縮ウランの20%のストックを60%の濃縮ウランに大幅に拡大した速度で変換しているが、この速度はこれ以上長くは維持できない(下記参照)。
- イランは、特に数百キログラムのレベルで、60パーセントの濃縮ウランを生産することについて、民生用使用や正当化を全くしていない。研究用原子炉で民間に使用されている濃縮ウランの在庫を20%近くまで急速に枯渇させ、はるかに多くを作ろうと急いでいることが、さらなる疑問を提起している。たとえ60パーセントの生産が核交渉における交渉上の影響力を生み出すためだと信じている人がいるとしても、イランは必要以上に進んでいる。イランの真の意図は、可能な限り迅速に、できるだけ少ない遠心分離機で大量のWGUを生産する準備をすることであると結論せざるを得ない。
- 当然のことながら、IAEAは、その控えめなスタイルで、この最新の報告書で、「イランによる高濃縮ウランの生産と蓄積の大幅な増加は、そのような核物質を生産する唯一の非核兵器国であり、深刻な懸念事項である」と繰り返した。
IAEAイラン検証・監視報告書の分析 — 2025年5月 |国際安全保障科学研究所
この現実を前になにが出来たのか、冷静に考えてからイスラエルを批判することです。
ただひとつ言えることは、仮にこのイスラエルの攻撃が国際法違法だったとしても(私は訴因は阻却されると思いますが)、国際法というキレイゴトを守った結果、二度とアウシュビッツに戻ることはしないということです。
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トランプではどうにもならない段階まで既に来ていて、ここでプーチンがウォームアップ中というろくでもない展開になってますね。
それにしてもモサドは優秀だなあ。一昨年の10月7日の件も察知していたのにネタニヤフ政権が大義名分のために握り潰していたに一票。
投稿: 山形 | 2025年6月17日 (火) 06時22分
結果として、アホタコトランプは即座に「ウクライナに送ると約束していた迎撃ミサイル2万発をイスラエルに送る」と方針転換しています。
イスラエルの国際法無視の中途半端な国際法違反行為で、国際法違反のロシアに攻め込まれ市民を虐殺されているウクライナが時刻を守れなくなる。
ウクライナも、もうヤケになって今後の全てのミサイル、ドローン、爆撃機の攻撃をモスクワの民間施設に集中した方が良いですかね?モスクワ市民皆殺し。
合わせて、辺境エリアに再侵略返しして、そこのロシア人もブチャ以上の拷問して皆殺し。
投稿: ねこねこ | 2025年6月17日 (火) 08時04分
それでも黒井文太郎氏がイランの地下90mの核施設を破壊しない限り、核開発は止められないし、核開発が北朝鮮のように国是になっているイランは止めないでしょうね。
そして、その核施設は米軍の地中貫通爆弾でも破壊困難なほど深いのだとか。特殊部隊を派遣でもしないと無理でしょうな。
投稿: 中華三振 | 2025年6月17日 (火) 09時02分
自力救済・自救行為・復仇はざっくり言って、違法な権利侵害への対抗が、法の手続きを待っていては著しく困難か不可能な特別な事情がある限りにおいて必要の限度を越えない範囲で認められ得るもの。
ロシア、ハマス、イスラエル、イランは、「特別な事情」や「予防戦争と自衛戦争」や「軍事施設」を際限なく自己都合で解釈した行動を取っていいという悪の種やウイルスを放出し続ける。
それは世界中に流れ漂うので、己の中に取り込まれ、中には発芽させたり発症する者が出る確率は当然高まる。
それがもの凄く嫌。
現実世界はみんな自己都合優先で腹黒く、「俺のはよくてお前のはダメ」なダブスタ上等で理想は役に立たず、脅威に対する「恐怖の総和」は積み上がるばかり。そしてその結果、「役に立たないならルールやモラルどころか法すら守らなくていい」となる。脅威に思う相手を地球上から殲滅するか、力で体制を変えることが目標になる。
止める気がない者を誰も止められないのは百も承知。だがそれでも、いやだからこそ、誰々の肩を持つとか誰々にはそうしてorそうされて仕方ない事情があるとか、そのような思いに全く関係なく違法違反かそうでないかを問題にし、誰もが法によって認められor罰せられる「法の支配」を軽んじてよいと、もし公言するとしたら、それが個人であれ国家であれ、控えめに言っても奴らが撒く種を発芽させる者と大差はなく、それが自身への影響に返ってきたとしても受け入れる覚悟の要ることだと考えます。
投稿: 宜野湾より | 2025年6月17日 (火) 13時09分
イスラエルがこのタイミングでイラン攻撃に踏み切った意味が今日の記事でよくわかりました。他の報道ではこの種の分析を見かけないよう思います。
サンキュー。
投稿: 泰山木 | 2025年6月17日 (火) 14時47分
こうやって時系列でふりかえれば、いっそう理解がしやすいですね。
どうにもイランびいきが抜けきれない日本人ですが、政府がこの体たらくじゃ、どうしようもありません。日本政府の声明はぬぐい切れない汚点です。
また、パーレビ時代に問題がなかったとは言わないが、今のイランは狂信者たちによる独裁政権です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2025年6月17日 (火) 19時37分