トランプ、イランに降伏勧告
驚いたことにはトランプが、G7を中座したと思ったらこんどはイランに降伏勧告です。
いつもながらトンでるね、この人の頭の中では整合してるんだろうけど、いきなりここですか。
第一、あんたつい最近まで仲介する、協議に応じろと言ってたじゃないですかね。
急に片方の立場になって「無条件降伏」(unconditional surrender.)はないだろう、って思いますよね。
「複数の米主要メディアは17日、トランプ米大統領が米軍によるイランの核施設攻撃を検討していると報じた。トランプ氏は同日、自身のSNSで核兵器の保有につながるウラン濃縮活動停止に向けた「無条件降伏」を要求した」
(日経6月18日)
トランプ氏がNSC開催、イラン攻撃検討と報道 「無条件降伏」要求 - 日本経済新聞
あまり軽々しくunconditional surrenderなんて言うのは、止めていただきたいものです。
だって「無条件降伏」とは、外交的にキチンと定義されているのです。
「無条件降伏(むじょうけんこうふく、unconditional surrender)とは、普通には軍事的意味で使用され、軍隊または艦隊が兵員・武器一切を挙げて条件を付することなく敵の権力に委ねることを言う」
無条件降伏 - Wikipedia
つまりイランの陸海空軍及び革命防衛隊は、一切の条件なしで武装解除されるということです。
今のイランが呑むわけないしょ。
軍隊、特に革命防衛隊がなくなったら、イラン国民はさぁ来い占領軍め、ゲリラとなって戦うゾとなるでしょうか。
まずないでしょう。今、国民は過酷な宗教的締めつけと貧しさにうんざりしているし、産油国でありながらしょっちゅう停電している政府に飽き飽きしています。
軍さえなくなれば、イスラム坊主どもは民衆につるし上げられること必定です。
ただしトランプが見ているように、今のイランは瀕死です。
なんといっても、石油で得た国家収入を国民に配分せずに惜しみなく分け与えて育成してきた中東のハマス、ヒズボラ、フーシ派などのテロリストグループが、ことごとくイスラエルによって壊滅、ないしは壊滅寸前なことです。
いわば外堀が埋められた状態です。
ですからいつもだったら、今のようにイランが直接爆撃されれば、親分危うしとばかりにガザやレバノンから飛んできたロケット弾やドローンを自分で飛ばさねばなりません。
しかしそれも、いままであまりにテロリストグループが無思慮にテロ攻撃に使ったために、全部特性を読まれてしまっています。
イランは盟友のロシアに恩を売るためにドローンを大量供与しましたが、イスラエルはウクライナに専門家を派遣してまで特性を把握しようとしました。
そしてその対策をウクライナと共有したのですが、そのためにしこたま保有していたドローンは、いまやIDFのカモと化しています。
【解説】 ロシア、中東の友好国を再び失うことを懸念 イランとイスラエルの軍事衝突で - BBCニュース
また爆撃を阻止しようにも防空システムがオシャカです。
自慢のロシア製S-300もS-400も揃って、モサドによってしらみ潰しに破壊されてしまっていますから、イラン領空は丸腰のガラ空き状態です。
せめてシリアにアサド政権が残っていてくれたら、イスラエル軍機の通過を許さなかったのでしょうが、いまはありませんからフリーパスです。
イラクも同じですから、イラン上空の優勢は完全にイスラエルに握られています。
現代戦において航空優勢を握られたら、その時点で負けです。
好き放題頭上から爆弾やミサイルが降ってきます。
ウクライナ戦争がこれほど長引いているのは、露宇共ににウクライナ上空の航空優勢を取れないからです。
F-16は離陸した瞬間に露軍のS-400によってキャッチされていますから、満足に任務を果たせません。
逆に露軍の戦闘機や爆撃機も、上空を飛べば落とされるのでおちおち攻撃参加できないのです。
露軍は戦略爆撃機で領空外から巡航ミサイルを撃つという苦肉の策を使っていましたが、それも「蜘蛛の巣作戦」で戦略爆撃機を大量に破壊されてしまいました(ざまぁみそ漬け)
したがって双方共に手詰まり。だからドローン戦争になってしまうという側面もあるのです。
いまイランは、苦し紛れに弾道ミサイルを撃ち込んでいますが、いままでのように軍事目標に向けて発射するのではなく、デタラメにともかくイスラエルならどこでもいいやとばかりに高価なミサイルを370発発射し、着弾できたのが30発です。
アロー1、アロー2によって9割前後が撃墜されています。
しかも軍事目標を狙えず民間アパートを撃ってどうするのです。
ほとんど全部迎撃されてしまっているのもさることながら、目標をマッピングすべきイランの情報機関が壊滅しているためです。
「イスラエルのライター駐米大使は15日、ABCの番組で「われわれには優れた防空システムがあるが、空を完全に密閉できるわけではない」と発言。「発射された弾道ミサイルのうち約10-15%が迎撃をすり抜けている」と語った。これは、イスラエル軍があらかじめ想定していた「到達率」の範囲内とされる」
(ブルームバーク6月17日)
イスラエル防空網、大きな試練に直面-イラン弾道ミサイル波状攻撃で - Bloomberg
情報機関もなにも、そもそも軍や革命防衛隊の司令部が壊滅状態です。
いまや生存している幹部は探す方が困難です。
核科学者は14人も殺害されたので、核開発を再開する力は残っていないでしょう。
最高指導者ハメネイは「無償権降伏」を拒否してこう述べています。
「アメリカのトランプ大統領が求めた「無条件での降伏」を拒否したうえで、次のように警告しました。
イラン最高指導者 ハメネイ師
「アメリカが、特に軍事的に介入する場合、アメリカが被る損害は間違いなく取り返しのつかないものになるだろう」
AP通信などによりますと、イラン外務省の報道官は、アメリカなど第三国が介入すれば「地域を超えた全面戦争になるだろう」と強調。「イランの兵器の射程圏内にある近隣諸国に、数千人のアメリカ軍部隊が駐留している」と述べ、アメリカの介入があった場合、中東にある米軍基地への報復攻撃の可能性を示唆しています」
(TBS6月19日)
イランの最高指導者ハメネイ師 軍事介入なら「米国は取り返しのつかない損害受ける」と警告(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース
中東にある米軍施設へのミサイル攻撃など、先刻予想済みです。
海上の米海軍と地上からの迎撃ミサイルによって9割は落とされるでしょう。
そしていったん米軍施設を標的にしたなら、そのお返しは倍返しなんかでは済みませんよ。
湾岸諸国でイランに味方する国など皆無で、むしろ冷やかに見ているでしょう。
だから中東全域を巻き込んだ戦争になどなりようがありません。
このようにイランは抵抗したくともできない、せめてあと数カ月あれば核ミサイルを手にやるならやってみろ、死なばもろともだと叫べたのでしょうが。
だからイランが呑むワケないのは百も承知ですから、トランプは米軍の投入を検討し始めているようです。
「トランプ米大統領は17日、国家安全保障チームと緊迫化する中東情勢について協議した。事情に詳しい関係者が明らかにした。これを受け、米国がイスラエルのイラン攻撃に加わるとの観測が再燃している。
会合は1時間余り続いた。ホワイトハウス当局者は協議終了後もコメントや声明を控えている。ホワイトハウス当局者によると、トランプ氏は協議終了後にイスラエルのネタニヤフ首相と会談したという。米国製兵器はイスラエル単独では成し得ないイラン核施設の完全な破壊に不可欠とみられている」
(ブルームバーク6月18日)
トランプ氏、中東情勢で国家安保チームと協議-イランへの降伏要求後 - Bloomberg
たぶんやるとしても、イスラエルが渇望している地中貫通爆弾の提供でしょう。
イスラエルは核施設を主要な標的にしていましたが、もっとも重要な核濃縮施設があるナスタンズの地下施設はどうやら無傷で残されているようです。
下写真がナスタンズ核濃縮施設ですが、フォルドゥ核施設も同様に深深度に濃縮施設中枢があります。
イラン核施設被害は「限定的」、専門家がイスラエル攻撃後の画像分析 | ロイター
「国際原子力機関(IAEA)は同日、イスラエルの攻撃によって、イランの主要な核燃料生産施設の地下にあるウラン濃縮施設が損傷したことが新たな衛星画像で示唆されたと明らかにした。
IAEAはXへの投稿で、「地下の濃縮施設に直接的な影響を与えたことを示すさらなる要素を特定した」と説明。イスラエルが主張してきた同施設に対する攻撃を、IAEAが独立機関として初めて確認した。5日目に突入した今回のイラン攻撃で、イスラエルは当初からナタンズにある同施設を攻撃目標にしていた。
IAEAによれば、フォルドゥにある地下濃縮施設は、現在のところ損傷は検出されていない。
衛星画像からはナタンズ施設の地上構造物に明らかな損傷が確認されていたが、IAEAはこれまで地下の濃縮施設には損傷が見られないとしていた。今回の画像分析が正確で、イラン国内で最大規模の濃縮能力を持つこの施設が破壊されたとすれば、同国の核開発計画にとってさらなる深刻な打撃となる」
(ブルームバーク6月18日)
トランプ氏、中東情勢で国家安保チームと協議-イランへの降伏要求後 - Bloomberg
いままでに破壊されたのは、地表部分の施設と周辺の電源インフラだと思われます。
というのは核濃縮施設は推定で80~90mという深深度に建設されており、イスラエルが保有する地中貫通爆弾(バンカーバスター)の届く深度はせいぜい6mで歯がたちません。
これを破壊しようとすると世界最大級のGBU57しかありませんが、それすら60mだと言われています。
それもあまりに巨大なので、これを投下するにはイスラエルの戦闘機では不可能で、B-2が必要なはずです。
つまり、米軍が直にB-2を飛ばして落とすしかないのです。
G7首脳会議で、トランプはワシントンが軍事介入する条件について問われ、「その件については話したくない」と答えています。
まだ決心が定まっていないようですから、まず口先介入でというわけで降伏勧告です。
イスラエルのモサドはだいぶ前から最高権力者ハメネイの所在を探知して追跡しており、爆撃の許可をワシントンに秘密裏に求めたようです。
「BBCがアメリカで提携するCBSニュースは15日、米政府関係者3人の話として、アメリカのドナルド・トランプ大統領が、イスラエルによるイランの最高指導者アリ・ハメネイ師の殺害計画を認めなかったのだと報じた。
関係者の1人によると、トランプ氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、ハメネイ師の暗殺は「良い案ではない」と伝えたという。トランプ氏はこの報道について、現時点で公にコメントしていない。
このやり取りは、イスラエルが14日にイラン攻撃を開始した以降に行われたとされている。
ネタニヤフ首相は15日に放送された米FOXニュースのインタビューで、トランプ氏がハメネイ師の殺害計画を却下したのだとするロイター通信の報道について、肯定も否定もしなかった」
(BBC6月16日)
トランプ氏、イスラエルによるイラン最高指導者の殺害に反対か 米政府関係者が証言と報道 - BBCニュース 。
結局、ワシントンの答えはノーだったわけですが、今になってこのカードは生きてきます。
ちなみに、テヘラン空港も爆撃で使用不能ですから、国外逃亡もできません。
なおふたつの米海軍空母打撃群が、中東水域に接近しています。
「米海軍は中東有事に備え、二つの空母打撃群を即応態勢に置く方針とみられている。一つが空母「ニミッツ」を中心とする打撃群、もう一つが空母「カールビンソン」を中心とする打撃群だ。
複数の米当局者によると、ニミッツの打撃群は16日、中東へ向かうため東南アジアの海域を出発した。約7カ月間の日程で中東に展開中のカールビンソン打撃群と合流するとみられる」
(CNN6月18日)
中東派遣へ 米海軍の空母打撃群、その戦力は? - CNN.co.jp
ミニッツは到着するのが7カ月後ですが、すでにカール・ビンソンは中東水域で作戦中です。
トランプにとって、対イラン攻撃は願ってもない好機なはずですが、むしろ敵は自陣営のほうでしょう。
「イスラエルとイランの交戦を巡り、米国のトランプ大統領が掲げる「米国第一」に共鳴する岩盤支持層「MAGA」の間で米国の参戦に否定的な意見が目立つ。トランプ氏は共和党内の対イラン強硬派からは参戦を後押しされており、是非を慎重に見極めている」
(読売6月18日)
トランプ岩盤支持層、対イラン「参戦反対」相次ぐ…トランプ氏はいら立ち隠せず(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
こういう微妙な時期にイランが中東の米軍基地を攻撃して、ひとりでも米兵の犠牲者が出たら、それはむしろトランプに口実をあたえるようなものです。
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ようやくNHK等が一昨日の記事のような時系列から纏めた報道を昨夜から始めましたね。
もしかしてこのブログをチェックしてから記事や番組組んでんじゃねーの?と思うほどです。
泰山木さんや山路さんに同意です。非常に分かりやすい。
昨夜のクロ現でやってましたが、珍しく高橋和夫放送大学名誉教授が一方的なイスラエル批判をせずにイランの政治体制やテロ支援が現在の孤立を招いたと指摘していました。
が、番組最後のB-2&GBU-57の運用は米軍にしか出来ない点でアメリカはどう動くのか?で、「核施設を攻撃して放射性物質をバラ撒く行為は、世界で唯一の被爆国である日本が世界を主導して止めねばならない」のだそうで。。
あのー、砂漠の地下にある核燃料を攻撃するのと都市上空で爆縮させることの違いすら分かっていないのか?と、見ててズッコケました!
投稿: 山形 | 2025年6月19日 (木) 06時51分
トランプのイランへの降伏勧告は極端だし、意味不明な戯言に聞こえますね。だだ、イランは事態を受けてただちにカタールやオマーンなど中立的な国々に外交攻勢をかけていました。わけてもカタールは経済的にトランプの首根っこを押さえているとの評判が頻々に報道されていて、すると、トランプの降伏勧告発言はイラン外交が上手く行っていない証左にもなるのでは? と考えられます。
あと、ファハタが先日らいハマスに対して「ガザ地区からの完全撤退」を要求しています。イランのような原理主義的イスラム主義者は中東ですら、ますます居場所をなくしているのでしょう。
次には、イラン国内の民主化勢力が活性化してくる事を期待します。
ですけど、トランプは参戦したいように見えます。ここは羽交い絞めしてでも止めるべきです。イスラエル自身がまだ余力を残していて、これまででも段階的には十分な戦果をあげているのですから。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2025年6月19日 (木) 22時09分