米国イラン攻撃前夜
これを書いている時点(20日午前0時現在)では、まだ米国のイラン攻撃は実施されていません。
トランプはすでに攻撃計画を承認しており、トランプの決断次第です。
「トランプ米大統領が17日にイラン攻撃計画を承認した旨を上級補佐官らに伝えていたことが分かった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が18日、関係筋の情報として報じた。ただ、イランが核開発計画を放棄するかどうかを見極めるため、最終命令は発出しなかったという」
(ロイター6月18日)
トランプ氏、イラン攻撃計画を非公式に承認 最終命令発出は保留=報道 | ロイター
トランプはイランとの協議に含みをもたせながらも、一方で軍を集結し続けています。
空爆の主力となる空母打撃群は、すでに中東水域にいるカール・ビンソン、いまマラッカ海峡を抜けてインド洋に入ったミニッツ、そして地中海にジェラルド・フォードが向かっています。
「米軍は着々と準備を進めている。ヘグセス国防長官は18日の上院公聴会で、イランを攻撃する可能性について、「我々の仕事は常に準備を整え、大統領に選択肢を用意しておくことだ」と述べた。米原子力空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群も来週、イスラエルに近い地中海に配備されるとの観測があり、完了すれば、中東情勢に対応する米空母は計3隻となる」
(読売6月19日)
イラン攻撃を承認のトランプ氏「期限の1秒前に決断下すのが好きだ」…最終命令は「保留」か : 読売新聞
また、空軍の空中給油機31機が、米本土から中東に飛行しているという情報もあります。
情報は錯綜しており、当然のことながら軍事的な情報は封印されています。
米軍が動く! 空中給油機の大移動、バンカーバスター搭載可能なB2ステルス爆撃機のスタンバイ――狙いはイランか|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
さて、今回のイラン攻撃が実施されるとすれば、それは一切のイランとの協議が不調に終わったことを意味します。
米国とイランはおそらくは水面下で交渉を重ねているはずで、20日には英独仏とイランのアラグチ外相との協議がセットされています。
「戦闘の拡大を防ごうと、欧州諸国も動いている。ロイター通信によると、独仏英の外相は20日、スイス・ジュネーブでイランのアッバス・アラグチ外相と会談する方向で調整を進めている。ドイツのヨハン・ワーデフール外相は18日の記者会見で、「 真摯 な姿勢で交渉のテーブルに着くのであれば、遅すぎることはない」とイランに呼びかけた」
(読売前掲)
トランプ氏、イラン攻撃計画を「承認」も最終決定は保留と米メディア 攻撃の応酬やまず - BBCニュース
G7会合ではいちおう共同宣言がでました。
共同声明の要点は3点です。
①イスラエルの自衛権を認める。
②イランの核兵器製造につながる核関連活動を絶対に容認しない。
③イランの核問題は最終的には関係国間の外交交渉で解決すべきである。
これにはトランプも署名していますが、温度差があるはずです。
米国が求めているのは「核関連活動のを絶対に容認しない」に止まらず、核施設へのIAEAの査察、そしてしかる後の解体のはずです。
ここまでやらないと、イランは口では核開発をしないと約束しておきながら、しっかりと複数の地下濃縮施設で兵器級ウラニウムを取り出そうとするからです。
ですから、いままでのように国際社会の圧力→口約束→違約→核開発進行という轍を踏まないためにどうすべきなのかが問われるのです。
「外交交渉での解決」は耳障りがいいですし、可能なら幸いですが、イスラエルが乾坤一擲の「立ち上がる獅子作戦」を実施している現在、虚しさが残ります。
実際には、イスラエルの軍事作戦、米軍の戦争準備を外交的圧力に使ってイランに迫るしかないわけですが、おそらくはイランは折れないでしょう。
というのはいまや核開発はイランという宗教権力が独裁体制を敷く国家では、最高指導者の決定は覆せないし、後戻りも妥協もできないからです。
それをしてしまったら最高指導者の権威が崩壊し、今の今の独裁体制そのものが大きく揺らいでしまいます。
だから、絶対に妥協しないはずです。
あるのは、時間稼ぎです。
できるかぎり協議しているふりをして引き延ばし、その間にいま残っている濃縮ウラニュウムだけで少量でもいいから核爆弾を作ってしまうことです。
ここで問題となるのが濃縮度60%のウランです。
兵器級濃縮ウランは90%ですが、これは不完全ながらも核兵器の材料となりえます。
「IAEAは12日、定例理事会でイランの核不拡散義務違反を批判する非難決議を可決したばかりだ。IAEAは5月31日、イランの核活動に関する包括的な報告書を加盟国に送付し、核不拡散のためのIAEAの活動に対するイランの協力について、「満足いくものではない」と批判した。IAEAによると、イランによる濃縮度最大60%のウランの保有量は、5月17日時点で3カ月前から133.8キロ増の推定408.6キログラムとなり、核爆弾9個分に相当する。IAEAは「イランは高濃縮ウランの生産と備蓄を大幅に拡大させており、深刻な懸案事項だ」と指摘した。
また、IAEAの査察官は、既知の核施設から離れた施設で、ウランの痕跡やその他の証拠を発見した。それに対し、イランはこれまで信頼できる説明をしていない。秘密核活動は、長年調査が続けられてきた。機密報告書によると、これらの活動に使用された物質は国連に報告されていないという」
イラン産「高濃縮ウラン409Kg」の貯蔵先? : ウィーン発 『コンフィデンシャル』
兵器専門家は、実際には60%の濃縮ウランでも簡易な核兵器を作ることが可能だと指摘しています。
「有力シンクタンク、米科学国際安全保障研究所(ISIS)のデビッド・オルブライトとサラ・バークハードは報告書で「比較的コンパクトな核爆弾を作るためには60%の濃縮レベルで事足りる。80%ないし90%まで濃縮を進める必要はない」と書いた。
さらに、この種の兵器は「飛行機や輸送コンテナ、トラックといった簡易な運搬システムによる運搬」に適しており、「イランを核保有国として確立するのに十分だ」としている」
(フィナンシャルタイムズ6月19日)
イスラエル・イラン戦争の行方、イランが非伝統的な手段で報復する恐れ――ギデオン・ラックマン(2/3) | JBpress (ジェイビープレス)
IAEA元査察局長のハイノーネンは16日、BBCとのインタビューでこう言っています。
「「重要な疑問が一つ未解決のままだ。イランが400キログラムを超える高濃縮ウランをどこかに貯蔵し、ひそかに核開発を継続する場合だ」と述べている。なぜならば、イランの製造済みの約400キログラムの高濃縮ウランは、容易に隠蔽できるからだ」
ウィーン発 『コンフィデンシャル』
ここまで含んでイランと協議しなければ、また前のとおりの繰り返しとなります。
もちろんイスラエルはそのようなことをよく知っており、あいまいな妥協は許さないでしょう。
かといって、体制転換を見通さねばならない軍事攻撃にはおおかたの諸国は反対です。
それはどの国も「戦後」まで見据えているからです。
軍事攻撃を選択すれば、それは否応なしに体制転換に繋がるでしょう。
フランスのマクロンは、イラン国内に受け皿が見当たらない以上、イラク戦の戦後のような混沌とした治安状況が生まれかねないことを懸念して軍事行動には反対なようです。
そのリスクを考慮しつつ、ぎりぎりまで交渉が進むはずです。
テヘランは避難民で溢れているそうです。
燃料は配給制であり、防空シェルターもありません。
空路とはとうに閉鎖されています。痛ましいことですが、逃げ場はそう多くないことでしょう。
国軍は、ましてや革命防衛隊も国民を守りません。
彼らが奉仕するのはアヤトラ(高位聖職者)体制だけだからです。
そしてこの36年間続いた絶対権力は、綱渡りの限界を越えて奈落に落ちようとしています。
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コメント
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核爆発に至らなくてもいわゆるダーティボムとして使うことも可能なわけですしね。
一応パレスチナ暫定政府であるファタハですが、今になってボロボロのハマスになんか言ってますが···ヨルダン川西岸地区でどんどん入植と称して陸上侵略してくるイスラエルに対しても無策なのよね。古くからの住民が土地を奪われ家を壊され追い出されても、特に何もしない。
投稿: 山形 | 2025年6月20日 (金) 09時58分