トランプ翁と怪人マスクの大喧嘩
既定コースだったとはいえ、思いの他早かったですね、トランプとイーロン・マスクとのクラッシュ。
いや、よくここまで持ったというべきか。
「米電気自動車(EV)メーカーテスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏は、トランプ大統領との対立を沈静化させる姿勢を示した。両氏は5日、公の場で激しい応酬を繰り広げ、決裂が鮮明となっていた。
マスク氏は5日、性犯罪で起訴され勾留中に死亡したジェフリー・エプスタイン元被告に関する資料の公開をトランプ氏が妨げているのは自身の名前が記されているからだと主張し、トランプ氏の弾劾を呼びかけた。
これに対しトランプ氏は、マスク氏の率いる企業への政府契約の打ち切りを検討する意向を表明した。発端は、かつてトランプ氏の助言役だったマスク氏が、トランプ氏の看板政策である大型減税・歳出法案に対して共和党は反対すべきだと繰り返し訴えたことだった。同法案を巡っては財政赤字の拡大が懸念されている」
(ブルームバーク6月6日)
マスク氏、トランプ氏との対立沈静化を示唆-Xユーザーの投稿に反応 - Bloomberg
この似た者同志がおかしくなったきっかけは減税法案です。
そのなかにはテスラの死命を決するEV促進の撤廃が入っていたのですから、マスクが逆上したというわけです。
「「マスク氏は3日、減税法案が債務を膨張させるとして、SNSで「忌まわしく、唾棄すべきだ」と非難。4日には「廃案にしろ」と踏み込んだ。法案に電気自動車(EV)促進策の撤回が盛り込まれたことから、同氏が経営するEV大手テスラへの影響を懸念したと指摘されている。
マスク氏をさらに怒らせたのは、航空宇宙局(NASA)長官候補だった実業家ジャレッド・アイザックマン氏について、トランプ氏が指名を取り下げたことだ。アイザックマン氏はマスク氏と親しく、同氏が強く推薦した候補だった。トランプ氏は取り下げの理由を明かしていないが、野党民主党への献金実績などが問題視されたとみられる」
(時事6月5日)
トランプ氏、マスク氏にいら立ち 大型減税法案巡り確執―米:時事ドットコム
USAIDめぐりトランプ大統領 イーロン・マスク氏の投稿で “誤情報“ 拡散 名指しされたメディアは投稿否定 | NHK | アメリカ
まぁ、EVと宇宙はマスクの二大看板ですから譲れなかったのでしょうね。
ワーワーとX(それにしてもマスクはXっていう記号が好きだな)でわーわーと批判されたトランプもがぜんホンキで怒り始め、とうとう奥の手を出しました。
EVに対する政府補助金の停止です。
「トランプ米大統領は5日、減税延長法案の廃案を目指す起業家のイーロン・マスク氏を強く非難し、政府契約の解除まで示唆した。「非常に失望している」「恩知らずだ」。応酬はエスカレートし、決裂は決定的になった。
トランプ氏はホワイトハウスで記者団に対して「マスク氏は法案の内部事情をよく分かっていたはずだ」と指摘した。マスクは法案が財政悪化につながると糾弾している。
トランプ氏によると、マスク氏は最初は納得していたが、電気自動車(EV)の義務化に関わる予算が削減された途端に反対し始めたという。財政規律は建前で、実際は経営する米テスラを守るための発言だと示唆した。
「彼は私個人の悪口を言っていないが、次はそうなるだろう」「私は彼をたくさん助けてきた。非常に残念だ」と突き放した」
(日経6月6日)
トランプ氏、マスク氏と決裂 政府契約の解除も示唆「失望した」 - 日本経済新聞
すくとマスクはこんどは「私がいなければ大統領選に負けていた。この恩知らずめ」と投稿し、もうこうなったら子供のこのこのくぬくぬの掴み合い。
ただやっているのが権力者にして大富豪だからややっこしい。
トランプはこう言ってこのケンカを締めくくりました。
「財政規律を重視する発言を並べた(マスクの)投稿を引用して「この男は今どこにいった」と皮肉った。
トランプ氏はSNSで、自らマスク氏に辞任を求めていた経緯を明らかにし「彼は完全におかしい」と攻撃した。マスク氏は即座に「ウソだ」と否定した。
トランプ氏は「最も簡単な節約方法は、イーロン・マスク氏の政府補助金と契約を廃止することだ」と畳みかけた」
(日経前掲)
はい、現職大統領と掴み合いのケンカをすれば、こうなることは分かりきっていました。
これでテスラはアウトです。
それでなくても、いまテスラは経営危機の淵にいます。
要は、EVが売れないのです。実にテスラは71%の純利益を失っています。
「テスラの根本的な問題は利益の消失だ。1~3月期の決算報告を詳しく見ると、テスラは名目上の存在理由であるはずの自動車販売で赤字に陥っていることがわかる。(略)
また、トランプ政権が自動車の輸入部品に課している関税により、コスト上昇も懸念される。マスク氏自身も、一部の競合他社ほどではないにせよ、かなりの額になる可能性があると漏らした。
売り上げ減の一因は、特に中国における他社EV製品との競争激化だ。主要市場ではEV販売が全体的に増加しているにもかかわらず、テスラの売り上げは欧州と中国の両方で減少している」
(CNN4月29日)
純利益71%減のテスラ、形勢は想像以上に不利 - CNN.co.jp
原因はトランプ関税による輸入部品の調達コストの上昇懸念や、中国に主力の工場があるために輸入関税に対する不透明感などもありますが、なんといってもテスラを人格的に代表するイーロン・マスク御大の極右大暴走の影響が最大でした。
なんせ大型チェーソーでブインブインやっちゃいましたからね。インパクトは大きい。
マスク氏、チェーンソー掲げ誓う「官僚主義切り倒す」 - 日本経済新聞
「同社はマスク氏の政治活動によっても打撃を受けている。マスク氏は連邦政府の大幅縮小の主導から、「ドイツのための選択肢(AfD)」のような世界中の極右政党支援まで、さまざまな活動を展開している。同氏がDOGEから退く意向を示しているにもかかわらず、ウォール街のテスラ支持者の中にはブランドイメージの毀損(きそん)が永続する恐れがあると考える人さえいる」
(CNN前掲)
自分の会社の購買層をブインブインと切り飛ばせば天に唾するとなって当然で、テスラ支持層のリベラルはささっと逃げて行きました。
元々マスクはリベラル寄りだったのです。
マスクはテスラを買収した頃に、オバマに気に入られて宇宙開発に政府予算を回してもらったりしていました。
そして今はまったく正反対のトランプと組もうとしたわけですが、これでわかるようにマスクの特徴は自分のビジネスを時の権力との癒着で凌ぐといういわゆる政商体質なのです。
マスクがトランプに惹かれたのは、そのリバタリアン体質です。
「マスクは自らを「リバタリアン」だと述べている。リベラリズムと同じく「自由(Liberty)」から派生した言葉で、「自由原理主義者」をいう。リベラリズムはもともと「自由主義」のことだが、「リベラル」を自称する政党やメディア、知識人はいつしか平等を過度に重視し、それによって自由が抑圧されていると不満を抱く者たちが「リバタリアン」を名乗るようになった。日本ではティーパーティーのようなキリスト教保守派の運動だと思われているが、じつは現在、リバタリアニズムの最大の拠点はシリコンバレーだ。彼らは「テクノ・リバタリアン」と呼ばれている。
マスクのようなIT起業家がリバタリアンなのは、国家の規制や介入のない自由な環境こそがテクノロジーを進歩させることを考えれば当然のことだ。逆にいえば、自由のない世界では「とてつもなく賢い」者たちは自らの才能を活かすことができず、死に絶えてしまう」
(橘玲 文春オンライン)
オバマ支持だったイーロン・マスクは、なぜ"意識高い系"を嫌ってトランプ支持に変容したか?〈橘玲氏が解説〉 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
トランプもまたかつての民主党支持から共和党支持に乗り換えたのも、同じようなリベラルの持つポリコレに現れるような価値統制主義に嫌気がさしたからでしたので、初めは意気投合し、マスクはトランプ再選に多額の寄付をし、政権発足後もご承知のようにDOGE(政府効率化省) なんていうゲテモノを任されていました。
しかし破局は予想されていました。両方ともアクが強すぎるほど強いうえに、トランプは、というより共和党はEVの普及に反対だったからです。
ハッキリ言ってEVのようにカリフォルニアの意識高い系が乗り回すEVなんぞのために充電インフラを税金で作るなんて冗談ではない、と考えていました。
しかもそのEVときたひには、バッテリーにレアアースを使い、べったり中国依存しています。
EVには大型バッテリーが不可欠であり、これを生産するための資源供給が中国に依存することになるので、EVを普及させればさせるほど中国依存が酷くなる一方です。
ただいま現在、習近平とレアアースで交渉しているのに、その最大の消費者がテスラなんですから話になりません。
最初に槍玉に上がるのは、電気自動車(EV)に対しての過剰な減税措置です。
たとえば、バイデン政権はインフレ抑制法(IRA)に基づきEV購入時に最大7500ドル(約110万円)が税額控除されます。
2022年にバイデン政権が成立させた脱炭素投資を減税で支援するインフレ抑制法(IRA)は廃止されます。
EVへの過剰な補助金は、もはやEVは税金で走っていると揶揄されるほどです。
「電気自動車(EV)には陰に陽に様々な補助金が付けられている。それを合計すると幾らになるか。米国で試算が公表されたので紹介しよう。2021年に販売されたEVを10年使うと、その間に支給される実質的な補助金は約50000ドル(図中の48698ドル)に上る。為替レートを1ドル150円とすると、約750万円だ」
EV補助金は1台750万円にも上るとの米国試算 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)
中国はEVのみに特化した自動車市場を作ってきました。
【中国の電気自動車】普及率はどれくらい?世界最大のEV市場の最新動向 - EV DAYS | 東京電力エナジーパートナー
特にBYD(比亜迪汽車は、世界市場でテスラを追い抜く勢いです。
このような民主党政権のグリーンニューディール政策のツケは、エネルギーコストの上昇による経済への打撃、生活費の負担の増加、そしてそれを救済するための各種失業手当などの増大につながりました。
当然のこととして、国民生活は苦しくなり、政府は財政危機となります。
米国民には民主党支持者か共和党支持者かを問わず、共通した「ウンザリ感」が背景にあります。
トランプの環境問題に強い影響を持つAFPI(アメリカ第一政策研究所)でエネルギー・環境分野を担当するカーラ・サンズはこう述べています。
「アメリカ国民はバイデン政権から『EVに乗らなければならない』とか『あのガスコンロや洗濯機は購入できない』などと言われることに本当にうんざりしています。
バイデン政権が行ったLNGの輸出凍結措置は、精製施設やメキシコ湾沿いのテキサス州やルイジアナ州から搬出するための拠点の建設をストップさせました。私たちは雇用を求め、もっと多くのエネルギーの採掘を求めています。
例えば私の出身地であるペンシルベニア州はLNGの生産でテキサス州に次ぐ第2位の能力がありながら、それに見合うだけの生産をしていません。
生産量の増加のペースが非常に遅いのは、民主党とバイデン政権がエネルギーの採掘能力の増強を規制しているからです」
(NHK2024年6月20日)
アメリカ大統領選挙 トランプ氏のエネルギー政策は?LNG 石油回帰?EVは?「パリ協定」はどうなる? | NHK | WEB特集 | アメリカ大統領選
この「ウンザリ感」は、社会に蔓延するポリコレ、キャンセルカルチャーでいっそう増幅されました。
しかし、政権中枢にマスクがいたために踏み切れずに、トランプ政権最大の矛盾と見られていました。
だから筋からいえばトランプが「もっとも簡単な節約はEVへの補助金カットだ」と言うのは当然なのです。
あとDOGEに関してはしては、とっくに実務段階に入っていて、マスクがいなくても充分回るし、むしろ彼の思いつきでジャマされたくないらしいですから、トランプは内心よくぞここまでがまんしたと自分を褒めているんじゃないでしょうか。
似たようなことはテスラにもいえるようで、企業としてのテスラはマスクはいないほうがいいようです。
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ジャイアンとスネ夫がガチで喧嘩しとる!
もう勝手にやってろという話ですけど、世界中を巻き込む大喧嘩だから迷惑千万。
トランプはプーチンとの電話会談の後で「子供同士の喧嘩なんだから、しばらくやらせておけばいい」なんて言ってましたが···一番のガキはアンタだよ!
投稿: 山形 | 2025年6月 7日 (土) 06時04分
これは赤いテッセンですか?
珍しいですね。紫や青紫に薄紫以外では白いのしか見たことが無いです。
てか、80年代まではウチも含めて近所の庭にたくさんあったんですけど、家の建て替えが進んでテッセンそのものを全く見なくなりました。
投稿: 山形 | 2025年6月 7日 (土) 06時08分
私は、トランプ親ビンとマスク兄ィ共にそのファンなんですが、それはさておいてホント、おもろいですわ。皮肉じゃなくて米国の政治が羨ましい、よく出来たプロレスを観るようですわ。ウチの国の政治じゃ根回しが常態化してるんで、進次郎大臣がちょっと踏み込んだだけで、「ムラの長であるワシは聞いとらん!」「ムラの筋を通せ!」なんてネットリと組織ガラミされて、もう個人プレイでガチのプロレスなんて出来ません。大臣vs農水事務次官とJA理事長のバトルトークを聞いてみたいですわ。
稀代のガチ保守政治家と稀代のテクノリバタリアンですから、その接点は反(似非)リベラル・反ポリコレだけで、特に財政・経済に対する志向はまさに水と油で、プロレスの観客は場外乱闘が始まるのを今か今かと待っていましたわ。私個人としては、イーロン兄ィにはもう少し政権の内部にいて、アルゼンチンのミレイ大統領のようにバッサバッサと政府予算を削って(節税と減税)欲しく思っていましたけど。
しかしマズローの欲求段階じゃないですが、とうに自己実現の頂点を極めた彼らなのに、何が彼らをこうも動かしているのか?それが不思議ですわ。親ビンはフロリダの別荘でゴルフ三昧してビジネスでは部下どもにパワハラしまくって過ごせるし、兄ィは望めば世界中で種まき出来るし、その結果責任までも全てまっとう出来る。その真意は、俗物の私ごときには想像不能ですわ。
投稿: アホンダラ1号 | 2025年6月 7日 (土) 23時19分
マスクが今度は「8割の国民の意思を代表する『真ん中の政党』が必要だ」とか言い出してますね。
それは確かに正しいけど、その両翼の先端を行ったり来たりしてるお前が言う?とは思いますね。
投稿: ねこねこ | 2025年6月 8日 (日) 08時48分