大統領に関税を自由自在に操れる権限があるのか?
ウクライナ戦争の2次制裁でインドに追加関税だそうです。
「米国のドナルド・トランプ大統領は8月6日、ロシアからの石油輸入を理由にインドへの25%の追加関税賦課を定めた大統領令
を発表した。ファクトシートも同日発表した。インドへの追加関税率は相互関税率とあわせて50%になる見込みだ。
米国は2021年4月、ロシアによる米国大統領選挙への介入や米国企業へのサイバー攻撃などを理由に国家緊急事態を宣言し、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいてロシアの企業などに金融制裁を科した。
2022年3月には緊急事態の適用範囲にロシアがウクライナに対して行った措置を含むよう拡大し、石油などロシアからのエネルギー輸入を全面的に禁止した」
(ジェトロ海外短信2025年8月07日)
トランプ米大統領、ロシア産石油購入を理由に、インドに25%の追加関税課す大統領令発表(インド、米国、ロシア、ウクライナ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
米トランプ大統領 相互関税の詳細発表 日本には24% - YouTube
インドとは決着したと思っていたのですが、これで再燃です。
トランプは米国が世界各国の「扶養者となる」という被害妄想で始めたこの世界関税戦争で、西側諸国の結束に大きな亀裂を引き起こしました。
ヨーロッパは米国不信を強め、アジア諸国は中国になびこうとしています。
そしてFOIPを通して徐々に西側に接近していたインドを、今回の追加関税で再び中露に押しやることとなりました。
そのくせ、トランプは中国へは2次制裁を発動しないという片手落ちをしています。
いまや「関税」はトランプの魔法の杖と化しています。
トランピストは米国の関税主権だから問題ないと弁護していますが、それは一定のルールの下での話です。
大統領が突如思いつきで世界すべての国に大幅な関税をかけていいもんじゃありません。(あたりまえだ)
すでに米国の貿易会計の裁判所である国際貿易裁判所(CIT)は、トランプ関税を無効であるという裁定を出しています。
「米国の国際貿易裁判所(CIT)は5月28日、トランプ政権が課した国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税は違法との判断を下した。その後、政権は直ちに連邦巡回区控訴裁判所に上訴した。これを受け、控訴裁は翌29日、同控訴裁が検討する間、CITが下した判断を一時的に停止することを命じた。従って当面は、現在の追加関税措置が継続される」
(ジェトロビジネス短信2025年5月30日)
政権は連邦裁判所に上告していますが、司法判断としても疑義がもたれています。
司法は果たしてこんな関税を自由自在に大統領が決めることが可能と問うています。
結論はノーです。関税を決定する権限を持つのは大統領ではなく、連邦議会だからです。
「国際貿易裁判所 (CIT)は今回、米国では憲法上、連邦議会が「税金、関税、輸入税、および消費税を課し、徴収する」権限および「外国との通商を規制する」権限を有していることから、IEEPAが全ての国・地域からの輸入品に対して無制限に関税を課す権限を大統領に委任しているかどうかを判断した」
(ジェトロビジネス短信2025年05月30日)
米国際貿易裁判所がIEEPA関税を無効と判断も、連邦控訴裁は判断の一時停止命じる、追加関税は当面継続へ(中国、カナダ、米国、メキシコ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
トランプが法的根拠にしているのは国際緊急経済権限法(IEEPA)ですが、CITはこの法をもってしても議会は大統領に無制限の関税を乱発する権限を与えていないと断じています。
「CITは、1974年通商法122条は巨額かつ重大な国際収支赤字に、同301条は不合理または差別的な外国の通商措置や政策、慣行に対処する場合に限ってのみ大統領に関税を課す権限を与えていると他の通商法を例示し、IEEPAについても、議会は大統領に輸入を規制する無制限の権限を与えることを意図していないと判断した。
また、IEEPAに基づく権限は、「米国の国家安全保障、外交政策、経済に対する、その原因の全部または大部分が米国国外にある異常かつ特別な脅威に対処」する場合にのみ行使できるとし、トランプ政権が主張していた関税によって生じる「圧力」または「影響力」は、緊急事態に対処するための直接的な手段にはならないとの見方を示した。これらの見解により、IEEPAに基づき課された関税を無効とし、永久に差し止めるために必要な行政命令を10日以内に発令するよう命じた」
(ジェトロビジネス短信前掲)
つまりトランプが主張する「巨額な貿易赤字」「貿易の不公正」などのことは、従来からある通商法122条というルールで解消できるのだから、国際緊急経済権限法などを持ち出すなというわけです。
通商法122条は、1974年に制定された通商法の一部です。
通商法には大統領が巨額かつ重大な国際収支赤字に対処するため、最大15%の追加関税や輸入割当などの規制措置を150日間賦課できる権限を付与しています。
●1974年通商法122条の概要
目的: 巨額かつ重大な国際収支赤字への対処。
権限: 大統領に輸入課徴金や輸入割当の賦課を許可。
関税上限: 従価で15%を超えない範囲。
期間制限: 150日を限度。
※『WTO ルールの概要 - 経済産業省』
PowerPoint プレゼンテーション
関税は、物品の輸出入に際して課せられる税金。輸入関税を指すのが一般的。
• WTO加盟国・地域は、他加盟国・地域に対して一定率以上の関税を課さないことについて、WTO協定の一部である自国の譲許表で約束。約束された税率をWTO協定税率(WTO譲許税率)と言い、GATT第2条はWTO加盟国・地域に対して、WTO協定税率を超えない関税率の適用を義務づけている。
•我が国の関税率には、全ての国に適用される「基本税率」の他に、WTO加盟国・地域に適用される「WTO協定税率」、特定の国・地域に適用される「特恵税率」、暫定的に定められる「暫定税率」など幾つかの種類が存在。原則として、特恵税率、WTO協定税率、暫定税率、基本税率の順に優先して適用される。
そこを大統領令一本で押し込んだという荒技をしたのがこの男です。
ですから、トランプが大統領を辞めたら、あるいは気が変わったりしただけで、このトランプ関税なるものは雲散霧消するはずです。
合意文書どころか議事録さえも怪しい。
英国などはしたたかですから、それでもズラっと合意文書らしきものを官報に掲示しましたが、末尾には小さく「コレ法的根拠ねぇすから、ホワイトハウスのサイト見てくだされ」と書いてあります。
馬鹿ですか、ハイ馬鹿です。
ノーベル経済学賞のポール・クルーグマンは述べています。
クルーグマンが指摘したのは以下です。
①「計算式」がデタラメ
② 貿易赤字への「謎解釈」
③「原産地規則」を無視
④「米製造業復興」は無理筋
⑤ 安全保障面でも「逆効果」
⑥「大統領の直感」が正義
「ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏も、自身が配信するニュースレターで「彼(トランプ氏)は完全に狂っている。想定よりはるかに高い関税を課しただけではなく、貿易相手国について虚偽の主張をしている」とつづった。
(読売2025年4月4日)
「相互関税」にサマーズ元米財務長官「私なら抗議の辞任」、ノーベル賞・クルーグマン氏「完全に狂っている」 : 読売新聞
史上かつてなかった大統領の思いつきと直感で始まった関税戦争は、世界経済に巨大なマイナスのインパクトを与えたようです。
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現在のトランプ氏はまさに糸の切れた凧、いやラインの切れたゲイラカイトという所でしょうか。安倍さんの存在をいや増して感じる今日この頃です。
投稿: 右翼も左翼も大嫌い | 2025年8月15日 (金) 09時41分
第一次政権は優秀な取り巻きがいましたが、今回は違いましたね。アメリカはいつも喧嘩の相手を間違えるのですが、今回もそうなりそうです。本当の敵は為替操作と民間企業と言いながら巨額の政府資金を造船業などににつぎ込んでいる不当競争の権化である中共のはずなのですが…。場合によっては保有する米国債を売って投資の元手にしちゃおうかな~、くらいのことを言ってアメリカの目を覚まさせ、本当の敵を知らしめるべきではないでしょうか。よりによってこの時期に自ら進んでアメリカの信用を貶めることをする必要はないのにと、強く思う次第です。本当に安倍晋三の喪失が、文明世界にとっていかに大きいかを改めて実感します。
投稿: ぼびー | 2025年8月15日 (金) 16時16分