トランプという「危ない帝王」
「ねこねこ」さんから「結局、台湾の話題を出さなかったのは何故で、台湾の出さなくてもトランプの勝ちなのは何故なんでしょう…?」という質問を頂戴しております。
なかなか難しい質問で、私もあの記事の末尾は「どちらが「勝った」かは明白でしょう」と「勝利」にカッコをつけておきました。
ただし、トラも部下のヘグゼス国防長官にはカウンターパートである董軍国防相にこう言わしてはいるのです。
「ヘグセス米国防長官と中国の董軍国防相は31日、訪問先のマレーシアで会談した。ヘグセス氏が台湾周辺での中国軍の活動に懸念を表明した一方、董氏は台湾の独立に反対するよう米側に求めた。トランプ米大統領は10月30日に韓国で行われた米中首脳会談で台湾問題は議題に上らなかったと説明したが、国防相会談では台湾を巡り双方の立場を主張した。
ヘグセス氏は会談後、自身のX(旧ツイッター)で「南シナ海、台湾周辺における中国の活動に米国の懸念を伝えた」と投稿。中国側と対話を継続する重要性も強調した。
(産経2025年10月31日)
米中国防相会談、台湾めぐり応酬 「周辺における活動に懸念」「独立に反対すべきだ」 - 産経ニュース
当人は勝った勝ったというが、別の方角から見れば中国の勝ちじゃんというふうにも見えます。
実際、ヨーロンパ系メディアはトラの負けと宣告しています。
こういう玉虫をやるのがあの男なのです。
ウクライナで、イヤというほどそれを知りました。
ある時はゼレンスキーに「お前の国は勝てない。お前の国が侵略したんだろう。負けだから領土を割譲してやれ」といったそばから、「トマホークを供与してもいいぞ。プーチンは信用ならん」と言ってのけるのですから、フツーじゃありません。
前言撤回など平気の平左。今日と明日、別のことを言っているのです。
すくなくともいままでの米国大統領の類型にはありませんでした。
マイク・ポンペオや、今のマルコ・ルビオとは根本的に違うのです。
いわゆる共和党系「保守」だと思うと、彼を見誤ります。
キリスト教福音派的な理念は強烈にあるでしょうが、民主党的自由主義陣営の指導者の自覚にはなはだ欠けています。
ただまったくないかと言うと、そうでもない。
力関係が有利だと見れば、明日にでも台湾承認を言い出すかもしれません。
たとえばそのチャンスは眼前にあるのです。
米台間の関税合意で文書に、「米国大統領トランプ」「中華民国総統・頼清徳」にサインすればよいだけです。
これをもって米台間の正式共同文書となりますから、国家承認と同義です。
こういう「危ない球」を密かにころがすのもトランプなのです。
さぁ、どちらなのでしょう。
トラは親台派なのか、親中派なのか?
設問が間違っているのです。
どちらでもない。
一見複雑に見えますが、実は単純です。
実は彼は子供のようにしたたかに自分の国と己の利害だけしか考えないから強靱です。
そう思ってつきあうしかない「危ない帝王」なのです。
まぁ首脳会談はトラからすれば、いま米中で問題となっているのは台湾じゃないだろう、むしろレアアースだろ、ということのようです。
米国の中国産レアアースに対する依存度は非常に強いのです。
ネオジム磁石の米国の中国依存度は84%、スカンジウム、イットリウムなどのレアアースの中国依存度は78%、その他のレアアース酸化物、塩化物の依存度は75%です。
そしてレアアースは、自動車、エネルギー、防衛産業などに不可欠な存在であり、供給途絶のリスクは産業界に大きな混乱をもたらす可能性があります。
中国はレアアースの採掘だけでなく、精製においても独占的な地位を確立しており、世界の化学精製の90%を支配しています。
中国はいかにして「レアアース大国」となったのか。苦汁をなめた時代からはい上がってきた執念。だが、レアアース輸出規制は両刃の剣 | 特集 | 東洋経済オンライン
このため、米国はレアアースに関して中国なしでは動きが取れない状況にあると言えます。
実際に米国はレアアースを戦略的重要物資として位置づけているにもかかわらず、中国に市場支配されていることを認めています。
このようなレアアースの首根っこを押さえられている状況があるために、米国は中国に煮え切らない態度をするほかにないのです。
日米首脳会談でもレアアースが議題に上ったように、今は中国と真正面から対決するのは不利とみているようです。
そりゃそうでしょう、実力で対決となった場合、中国はレアアースの100%禁輸に走るでしょうから、そうなれば日米が受ける打撃はハンパではありません。
だから、今はだましだまし時間をかけてでもレアアースのデカップリングをするほうがいいと判断したのでしょう。
安全保障においても、日本が本格的な同盟軍として戦えるようになるまでまだ時間が必要だと考えているはずです。
特に日本は法的な制約があまりに多すぎます。
これをひとつひとつ解消するまでいましばらくかかるはずで、その間はこの微妙なバランスを崩したくないというのが本音のはずです。
だから、今は中国とは不要な摩擦を避けたいと思っていても不思議ではありません。
一方、中国も軍部の腐敗と幹部の大量更迭が進んでいます。
習近平は反腐敗闘争の名目で他の派閥を徹底的に弾圧しまくったために、常に暗殺の恐怖に怯えています。
長老たちも含めて習の指導力に対する不安と憎悪は増すばかりです。
彼らもまた今日明日に台湾侵攻などできる状況にありません。
ただし、内部矛盾で外部に向けるという伝統的な手段があるので警戒を怠ってはなりませんが。
このようなわけで、米中首脳会談は互いにとって一種の痛み分け、休戦といったところが正確なところでしょう。
ですからその意味で、トランプにとっては「勝利」なのです。おわかりいただけたでしょうか。
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管理人さんの見立てに概ね賛意です
しかしオヤビンの敵味方識別装置のぶっ壊れ具合はなんとか周りが止めて欲しいデスが
投稿: 通りすがりの関西人 | 2025年11月 5日 (水) 07時50分
疑問を深掘りしていただいてありがとうございます。
トランプのような予測不可能な味方は本当に扱いに困りますね…「最悪のパターン」が読めないから、どこまでは任せられるか、どこからは自分達でどこまで備えておけば良いか分からず、コストが非常にかかります…
投稿: ねこねこ | 2025年11月 5日 (水) 12時11分
トランプとプーチン、どっちが「危ない帝王」でしょうか?
投稿: 珊瑚は大切に | 2025年11月 5日 (水) 17時26分