日米原子力協定がネック
石破前首相が、またもや外野からマウンドの高市投手の背中にボールをぶつけています。
「石破前首相は20日生出演した番組で「(発言は)誰が言ったかわからず、個人的な見解をオフレコで言っている」とした上で、「我が国が核を持てばNPT(核拡散防止条約)やIAEA(国際原子力機関)からも出て行かないといけなくなる」と述べ、「何よりも日本のエネルギーを支えている原子力政策が成り立たなくなる」と指摘しました。
その上で、「核を持つことの安全保障上の意味は否定しない」としつつも「日本にとって決してプラスにならない」と述べました。
“核保有発言”をめぐっては、自民党の中谷前防衛相が「(高市首相は)よくよく事の重要性を考えて、(進退を)ご判断をいただきたい」などと与野党から厳しい声が出ています」
(福岡TNCテレビ2025年12月20日)
石破前首相「日本に決してプラスにならない」 官邸関係者の“核保有”発言めぐり見解「原子力政策成り立たなくなる」 生放送で指摘|福岡TNCニュース
分かりきったことを言って政府批判をしたつもりだから、この人困ります。
今回の「政府要人」の発言とやらも、核兵器を保有すべきに重心があったのではなく、むしろ後段の「NPTがあるから難しい」に胆があったのは素直に読めばわかりそうなもんです。
国民民主の玉木氏もそれを理解してこう投稿しています。
こんなこと核兵器を議論する時のイロハのイの大前提ですからね。
核兵器を独自に開発しようとするとNPTを脱退せねばなりません。
同時に「核燃料供給に関する日米原子力協定」も破棄せざるを得ませんから、軽水炉用ウランは輸入が不可能になり、今ある使用済みウラン燃料も返却せねばなりません。
そして日本のウラン備蓄は2,3年分しかないとみられているために、我が国の商業発電は短期で壊滅します。
※http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo8/siryo2.pdf#page=7
ね、核武装って経済的にも、外交的にも、そして原子力の商業発電にとっても、ぜんぜんワリに合わないのです。
原子力発電も一緒にダメになりますよ、それでもやりますか、と言う問題です。
こここそが独自核武装をしようとする時の最大のネックなのです。
このようなことを真面目に考えないで、「核ミサイルが欲しい」というのは止めてほしいし、逆に「原発稼働すれば核武装が始まる」というデマも止めてほしいものです。
ゲル氏はそれなりに知識としては知っていて、政府批判するから困った君です。
そしてリベラルのゲル氏に大甘なメディアは、彼が「核を持ち込ませる」と言おうが、そのことを問題視しません。ダブスタもいいところです。
では逃げ道はないかというと、あることはあるのです。
かつてゲル氏も首相になる直前にはこう言っていました。
「最近、ロシアと北朝鮮は軍事同盟を結び、核技術がロシアから北朝鮮へ移転されています。北朝鮮は核およびミサイル能力を強化しており、中国の戦略核兵器がこれらの動態に加えられれば、米国の地域での長期抑止力はもはや機能しなくなる。これに加えて、中国、ロシア、北朝鮮の核同盟に対する抑止力を確保するアジア版NATOも存在します。アジア版NATOは、アメリカの核兵器共有や地域への核兵器導入も具体的に考慮しなければなりません。
(『石破茂が語る日本の新安全保障時代:日本の外交政策の未来』2024年9月25日 ハドソン研究所)
石破茂が語る日本の新安全保障時代:日本の外交政策の未来 |ハドソン研究所
この寄稿では、アジア版NATOばかりが騒がれましたが、それより具体現実性では「核兵器共有」つまりニュークリアシェアリングや、「地域への核兵器導入」、言い換えれば「持ち込ませる」のほうが重要です。
ただし「持ち込ませる」はもちろん、ニュークリア・シェアリングも日米同盟が生きているというのが大前提なのよね。
言い換えれば、米国からの自立という意味でこのふたつの方法は無意味なわけです。
じゃあ日米同盟がグラついたら、米国が米中は和合だ、日中で倒れるまでやればいいなんていうMAGA思想に純化したらどうします。
MAGAとは、煎じ詰めると米国だけ得をすればいいという究極のミーイズム思想です。
たとえばウクライナが勝とうと負けようとロシアとうまくやって米露協調でやっていきたい。
だから支援もらっているくせにうるさいことを言うゼレンスキーはホワイトハウスから追ん出す、わが身かわいさのヨーロッパもNATOからでていくぞと脅す。
中国に噛みつくサナエは放っておく。
やがて中国に負けて静かになったら恩を着せてフォローすればいい。
もしも中国が日本を軍事攻撃しても、米軍基地が標的にならないかぎり巻き込まれるのは御免だ。
万が一日本が核攻撃にでもあっても、米本土はセーフなようにな。
台湾?関係ねぇよ、ただもめたくはないからすこしばかり武器援助はしておくか。
たぶんこのあたりが本音。
今回の「政府高官核保有発言」なる煽り記事についても、この微妙な時期に日本から日米同盟を廃棄する可能性は自殺行為だとわかっているから、米国は呑気なもんです。
「米国務省報道担当官は19日、日本政府高官が「日本は核(兵器)を保有すべきだ」と発言したことを受け、取材に対し「日本は核不拡散および核軍備管理の推進において世界的なリーダーであり、米国にとって重要なパートナーだ」とのコメントを出した」
(日経2025年12月20日)
米国務省「日本は核不拡散の世界的リーダー」 高官の核保有発言巡り - 日本経済新聞
国務省は、日本の核武装には日米原子力協定がガッチリとはまっていることを充分に知っています。
原子力発電と核兵器は裏表のコインなのです。
日米原子力協定は、アメリカ合衆国から日本への核燃料の調達、再処理、資機材・技術の導入について定めた条約です。
この協定は、これまで複数回改定されていますが、現行のものは1988年7月17日に発効した協定で、使用済み核燃料の再処理に関する包括的事前同意などが含まれています。
この協定は30年間の有効期間があり、いずれかの国が6ヶ月前に文書で通告しない限り自動延長されます。
- 原子力の平和利用に関する日米協力 平和的な目的のための原子力の研究、開発、利用における協力を定めています。
- 核兵器製造の禁止 協力によって導入された施設や核物質を核兵器製造に利用することを禁止しています。
- 核物質の移転、再処理の包括的事前同意特定の施設における使用済み核燃料の再処理や、核物質の移転について、事前に包括的な同意が与えられています。
- 核物質の貯蔵協定の対象となる核物質は、両政府が合意する施設でのみ貯蔵が認められています。
- 再処理と形状・内容の変更 核物質の再処理や、照射以外の方法での形状・内容の変更は、両政府の合意がある場合に限り認められます。
- 濃縮ウランウラン235の比率が20%未満の濃縮は認められていますが、20%以上の高濃縮ウランについては両政府の合意が必要とされています。
したがってこの協定によって、使用済み燃料は蓄積することができず、核燃料サイクルに回すしかなくなったのです。
ですから核燃料サイクルにも反対し、かつ原発を止めたりすれば、核廃棄物は溜まる一方となります。
この日米原子力協定を知らなかった民主党政権は、2012年9月の野田政権の時に2030年代に原発ゼロとすることを政策化しようとしたことがあります。
しかしところがギッチョン、この政府の決定はなんとわずか2日後の9月19日にひっくり返ってしまいます。
たった2日間の原発ゼロだったのです。
なにがあったのかって、米国に脅かされたのです。
野田政権は、原発ゼロ政策の打診に訪米団を送りだしましたが、その時、面談したホワイトハウス要人からにべもなく冷やかな顔でこう言われたそうです。
「日本政府はNPTをどう考えているのか知りたい」
ご承知のように、NPTは1970年3月に発効した核軍縮を目的とした、米、露、英、仏、中の国連常任理事国5ヶ国以外に、核兵器を持たせないための核不拡散条約です。
おそらく、野田政権の交渉団は、予想しない質問にギョッとしたと言われています。
米国がNPTを外交的オブラートに包まず突きつけたのには理由があります。
たぶん水面下で米国はこう言ったはずです。
「日本政府の原発ゼロ政策は、日本政府が国際公約を破棄して、プルトニウムを協定以上に蓄積し、独自核武装に進むのだと理解してよいのだな。それは米国の核の傘から抜け出しすという意思表示と捉えていいのだな。
その場合、日米同盟は廃棄され、日米はかつての大戦前夜に似た状態に戻ることになる。それを日本政府は分かってやっていることなのだな」
彼らの頭にはカッコよく脱原発を宣言したアンゲラ・メルケルの姿があったでしょうが、日独は置かれた状況がまったく違うのです。
不勉強な彼らは知らなかったのでしょうが、実はドイツはとっくに「核武装」しています。それが、ニュークリアシェアリングです。
説明すると長くなるので煎じ詰めれば、米国の許可の下にNATO各国軍が核兵器を保有し、有事においては当該国がそれを使用するシステムです。
この核兵器保有国に、ドイツは入っています。もちろん、有事の際も、一国はもちろん、NATO全体が了承しても、米国が拒否権を行使できます。
つまり、ドイツは新たに自国で核兵器を開発する必要がないのです。
ドイツにとって脱原発政策は、純粋にエネルギー安全保障上のテーマとなりえるのに対して、日本は、独自開発する能力と、投射能力を持つが故に、独自の核武装路線を取るという国際問題にまで発展するのです。
そこまで考えて、慎重に米国への根回しをしてからするならともかく、政権担当能力すら怪しい民主党政権が、普天間でガタガタになった日米関係の時期に、思いつき的に言い出してどうかなるほど、脱原発政策はシンプルではなかったのです。
同じように独自核武装もシンプルではないのです。
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