トランプの「意気揚々たる撤退」をしたら
舛添氏と意見が一緒になることはきわめて稀なのですが、氏はこう言っています。
「日中間の対立を前にして、トランプ政権は敢えて介入しようとはせずに、沈黙を守っている」と言及「中国とのディールを同盟国との関係よりも優先させている。これは、ヨーロッパについても同じである。アメリカと中国で世界を支配する『G2体制』が念頭にあるようだが」と推し量った上で、「それでは民主主義は守れない」と私見を述べた」
(日刊スポーツ12月9日)
舛添要一氏、中国がホットライン応じず「軍事的衝突の危険性が高まる」懸念強める(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース
あーあ、ユーウツですが、大いにありえますね。私も同じことを危惧しています。
トランプはマーブルチョコよろしく取っ替え引き換えいろいろなことを言いますから真意がよくわからないのですが、要はカッコよく米国が「意気揚々たる撤退」をしたいだけだと見ています。
世界に責任をもつのはマッピラ、戦争はしたくない、米国がまだ力を持っているうちに米国の庭に戻りたいということです。
「米国の庭」というのは勢力圏ということです。
そして世界の秩序維持は他の超大国となぁなぁで仕切っていく。
まぁ、すぐにG2になることはありえませんが、トランプは常にその傾向を強く持っていますから警戒せねばなりません。
ヨーロッパでは既にその片鱗を見せており、アジアでも地域覇権国と共同統治しようとする誘惑が常にあります。
ちなみにヨーロッパではその相手がロシアであり、アジアでは他ならぬ中国です。
なんだぜんぶ敵じゃないかと思われるかもしれませんが、敵と手打ちせにゃ縄張りは守れんぞな。
さてG2体制にはいくつもの段階がありますが、おそらくその最終的な形態は、在日米軍は沖縄はおろか日本全土から撤収し、グアムの線まで後退します。
このラインを中国は「第2列島線」と呼び、伊豆諸島を起点として小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアへ至る線まで中国海軍を進出させることを目標にしています。

(図 右側の赤い線が第2列島線、左赤線が第1列島線 Wikipediaより)
その場合、日本が置かれた条件を思いつくままに上げれば、このようなものです。
①人口1億2千万人、高い技術力をもつGDP世界4位規模の工業国である。
②日米同盟崩壊によって、集団的防衛体制(日米安保、NATOなど)を持たない孤立した国家となる。
③エネルギー自給率、食糧自給率共に低く、長大、かつ不安定なシーレーンによって輸入されている。
④防衛力は中規模であり優秀であるが、専守防衛のみに偏っている。
⑤MD(ミサイル防衛)は限定的ながらすでに保有し、潜在的核兵器開発能力を持つ。
⑥憲法問題など多くの防衛関係と情報関連の法整備が不十分である。
以上のようなわが国が、ハワイ以東までを「約束された海」として海洋進出する中国の矢面に孤立して立たされた場合、いかなることになるでしょうか。
しかも、その時、わが国は唯一の外国との軍事同盟である日米安保を廃棄されてしまっていたとします。
あまり考えたくない最悪シナリオですが、あえて考えるなら、日本が取りうる選択肢はたぶんきわめて限られたものになるはずです。
現在の自衛隊には他国への侵攻能力はありません。それは、戦力を外国に投入する能力がないからです。
その能力のことを専門用語で、戦力投射能力といいますが、戦力投射能力(パワープロジェクション)とは、俗に言う他国への「攻撃能力」、あるいは外征能力のことです。
侵攻する国に、多数の兵員と武器弾薬を送り込む能力、あるいは、核ミサイルを撃ち込む能力です。
●戦力投射能力として、国際常識上分類される兵器
①大陸間弾道ミサイル(ICBM)
②大型空母(原子力推進であることが望ましい)とイージス艦、攻撃型原潜による空母打撃群
③水中発射型核ミサイル(SLBM)登載戦略ミサイル原潜、長距離核ミサイル搭載大型爆撃機
④他国に橋頭堡を築くための海兵隊
⑤大量に兵員装備を送り込めるC-17やC-5など戦略大型輸送機
⑥大量の兵員・装備を送り込める強襲揚陸艦
⑦空軍の攻撃機、戦闘機、電子戦機、空中警戒管制機などで作る打撃群(ストライクパッケージ)●戦力投射能力を保有している国
①米国、仏、英国、中国、ロシア
②米国、仏、英(中露は能力不足)
③米国、ロシア、中国、英国、仏
④多くの国で持つが、本格的な海兵遠征打撃群は、米国のみ。近いものはロシア、中国、英国。
⑤米国、ロシア、中国、英国、仏
⑥米国、英国、仏、中国。他の国も個別には保有するが能力不足
⑦米国、NATO、ロシア
これらすべてを共通して保有するのはP5(常任理事5ヶ国)で、いずれも外征型軍隊を保有しています。
わが国は日米安保が存在するために、この①~⑦までの軍備を持つ必要がありませんでした。
よくリベラル派の人は日米安保があるから、日本は世界の果てまで米軍に追随せねばならない、などといいますがそのようなことはありえません。
逆に外征型軍隊の保有から免れた軽武装国家でいることが可能でした。
その結果、海自は対潜水艦作戦と対空防御のみ、空自は迎撃のみ、陸自は守備専門に特化しています。
世界の専門家から見れば、自衛隊がアスリートだとするなら、水泳なら平泳ぎだけ、陸上なら高飛びだけ、球技ならバトミントンだけが得意といった、すこぶるバランスの悪い「軍隊」なのです。ただしどの「競技」も金メダルですけどね。
そもそも憲法上は「軍隊」ですらなく、「軍隊のようなもの」なんていう奇妙な武装集団は、世界にひとつしかありません。
わが国が、やがてそのいずれかひとつを少数持つことはありえますが、一定数揃わないと外征型軍隊とは見なされません。
戦力はあくまで一定数なければ、現実に機能しないし、質だけではなく「量」の問題だからです。
さらには、それを支える大枠の哲学、つまりドクトリンがなければ、装備は意味をなしません。
これが国際関係論でいう、脅威=能力+意志という法則です。
たとえば、わが国で強襲揚陸艦や長距離輸送機を装備することはありえますが、それはあくまで離島防衛のためやPKO派遣のためです。
ですから、装備数もあくまでも少数であって、これでは外征など絶対に不可能です。
それは日本には外征する必要がなく、したがって外国に侵攻するためのドクトリンそのものが不在だからです。

写真 米海軍空母打撃群。こういうのを言葉の正確な意味で「空母」と呼ぶ。いかに多くの艦船群によってなりたつのかわかる。人員も約7000人に登る。米国はこれをなんと12セット持っているのだから、むしろ呆れる。ただし予算不足で、稼働しているのは3セット。
日本の場合、①から⑦まで、その全部が欠けていますし、その意志も能力もありません。
ただし、日本はこれらすべてを10~20年後には実現可能な技術力と経済力を有しています。
もし本気で外征型軍隊を作る気なら、改憲して、国防予算を今の5倍ていどにするしかありませんが、やってやれないことはありません。
日本は初めから無理な小国ではなく、フランスと同等の戦力を持つことも可能です。
かつての帝国海軍は、実に国家予算の6割をつぎ込んでいました。海軍が予算を独り占めにしたために、国民は貧しく、陸軍は常に海軍を憎悪していました。
いかに身の丈にあっていない一点豪華主義の海軍だったかわかります。
現代において、そのような「攻撃力」を持つ意味はまったくありませんし、そもそもこんな状況にならないために、日米同盟という集団的自衛権があるのです。
戦前は集団的安全保障という、概念そのものがありませんでした。

ロイター
しかし不幸にも、米国の裏切りによって日米同盟という日本やアジア全域の安全保障インフラそのものが消滅した場合、わが国は、①から⑦を保有するフランスのような中規模軍事大国になるしか生き残れないでしょう。
オバマはギリギリ覇権国から転落する崖っぷちで、どうしようかと逡巡しているといましたが、共和党のトランプと民主党のサンダースが、立場は左右両極ながら、一致しているのは覇権国からの撤退です。これはきわめて象徴的です。
このような時期に、野党が言うように集団的自衛権を強化するための安保法制を撤廃したらどうなるのでしょうか。
それは、日本からも「日米安保などいらない。もう日本はアジアの安定には協力しないよ」という外交的シグナルだと100%、そう受け取られます。
これがトランプの孤立主義を加速することだけは間違いありません。
トランプは、「戦争法案廃止」となっていたら、ほら見たことかと口を歪めて、「言ったとおりだぜ。ジャップは1ドルも出さない。汗もかかない。こんなチキンな奴らのために、米国の青年の命を捧げるわけにはいかないぜぇ」と叫ぶことでしょう。
トランプ現象とは、「意気揚々たる撤退」なのですから。
トランプ現象を彼らの国内事情にだけに狭く見るのではなく、米国は確実にトランプが言うような方向に舵を切りつつあることを、日本人はいいかげん理解したほうがいいと思います。
私は「平和国家」を叫ぶ人たちには抜きがたい不信感を持っていますが、「平和国家」であることの遺産はしっかりと継承すべきだと思っています。
おそらく今起きている世界の覇権国シフトには、大規模な戦争がなければ半世紀以上の時間かかることでしょう。
その間に、米国はどんどんと外国に展開する軍隊を引き上げていき、内向きの「普通の大国」に戻る可能性もあります。
この過渡期に対応して、私たちも「平和国家2・0」を作る時期なのです。
戦争をしないために、何に備えるべきなのかを真剣に議論する時期に、このトランプが現れたことに感謝せねばなりません。
トランプはまったく信用できません。故に備えなければならないのです。
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トランプ大統領が台湾との関与を深めたのはどういう意図があっての事でしょうね?「信用出来ない」というより「何を考えているか判らない」と言った方が正確かも。わざわざ中共の神経を逆撫でする意図は何処に?
投稿: 珊瑚は大切に | 2025年12月10日 (水) 02時21分
エヌビディアのH200半導体の輸出をトランプは認めてしまったし、こりゃ本当に儲かればそれでOKのG2論にハマってしまったかもしれませんな。
トランプ2期は国内、国外ともにダメダメ。まともな功績はアゼルバイジャンとアルメニアの講話の仲介くらいですかね。
投稿: 中華三振 | 2025年12月10日 (水) 06時48分