ベネズエラがなぜ失敗国家になってしまったのか
抵抗の姿勢を見せていたロドリゲス副大統領(暫定大統領)が屈しました。
「(CNN) 米軍が軍事作戦を実施してマドゥロ大統領を拘束した南米ベネズエラで、ロドリゲス副大統領は、米政府に対し「協力のアジェンダ」をめぐって連携を求めたと明らかにした。
ロドリゲス氏はSNSの声明で、このアジェンダについて、「国際法の枠組みの中で、地域社会の永続的な共存を強化するための共通の発展」を目指すものだと説明した。
ロドリゲス氏は、ベネズエラが米国や周辺地域との間で「均衡が取れた敬意ある国際関係」の構築を「最優先する」と述べた。
ロドリゲス氏は、米国のトランプ大統領への直接のメッセージとして、「我々の国民と地域には、戦争ではなく平和と対話がふさわしい。これはニコラス・マドゥロ大統領が一貫して訴えてきたメッセージであり、今まさに、ベネズエラ全体が発信するメッセージだ」と述べた。「ベネズエラには、平和、発展、主権、そして未来への権利がある」
今回の発言は、米国がマドゥロ大統領を拘束したことをめぐり、「残忍な武力行使」だと非難していた、これまでのロドリゲス氏の主張とは明らかに異なっている」
(CNN1月5日)
ベネズエラ副大統領の姿勢軟化、米国との「協力」を呼び掛け - CNN.co.jp
「均衡が取れた敬意ある国際関係」ですか、まぁ、要するに米国には逆らわないという表明です。
特にここでロドリゲスが使っている「永続的な地域社会の共生を強化するための協力アジェンダ」というのは、トランプ語でいう「西半球は米国のもの」という露骨な縄張り意識に迎合する外交的表現です。
トランプはとうとう「ドンロー主義」と言い出しました。
ドンロー主義ね、頭がどうにかしている。
「われわれはモンロー主義をはるかに超えた。今はドンロー主義と呼ばれるくらいだ」。トランプ米大統領は3日の記者会見で、冗談めかしながら自身の外交手腕を誇ってみせた。「ドンロー」とは、19世紀の米外交の基調となったモンロー主義と、自身の名前の「ドナルド」を掛け合わせた造語だ。
モンロー主義は1823年、当時のモンロー大統領(第5代)が提唱した。欧州の紛争に関与しない一方で、欧州諸国による南北米大陸の植民地拡大や干渉に反対する立場を打ち出した。独立から間もない米国の安全を保持するためと理解されることが多い」
(産経1月4日)
トランプ氏の外交方針「モンロー主義」ならぬ「ドンロー主義」 弱肉強食の世界観を反映 - 産経ニュース
縄張りだと宣言する以上、西半球の利権はすべて米国のモノになるというリクツです。
ベネズエラに対しては、失った石油利権はウチラの国が取り戻すということのようです。
日本ではあまり知られていませんが、ベネズエラは世界トップクラスの産油国です。
なんとサウジより埋蔵量が多いのですからたまげます。
ベネズエラ大規模攻撃 狙いは石油利権か 次期政権にも注目集まる (テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
ですからチャベツ以前のベネズエラは、間違いなく黄金の原油に浮かぶ超富裕国でした。
ところがベネズエラはこれを生かしきれなかったどころか、逆に失敗国家の原因にしてしまいました。
「ベネズエラでは、豊富な石油資源を十分に活用できていないばかりか、むしろ、豊富な資源が政治経済の足を引っ張ることになったと言える。
経済学に「資源の呪い」という言葉がある。資源の豊富な国では、資源輸出に経済が依存し、製造業が育たない、あるいは、資源価格の変動により、国内経済が安定しないなど、経済成長がかえって阻害される状況を指す」
(日本エネルギー経済研究所 石油情報センター)
石油に呪われた国、ベネズエラ – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute
やらかしたのはマドゥロの前任者であるチャベツです。
石油依存の大きい産油国ほど国家による家父長的支配、人権無視など独裁政治が横行しやすいものですが、この典型が「革命家チャベツ」でした。
この男はベネズエラの石油産業を国営石油会社「ペトローレオス・デ・ベネスエラ(PDVSA・ペデベーサ)」に独占させました。
当然、いままで石油施設をメンテしていた外国企業(米国石油企業ですが)も完全追放です。
そしてこのペデベーサは、原油掘削のみならずその販売、電力事業やセメント事業、食品流通・販売部門なども傘下に収めており、ベネズエラ国内の様々な産業を独占してしまいます。
つまりベネズエラがひとつの国有企業で超独占支配されたのです。
ウーゴ・チャベツ 時事
そして国民には「貧民援助」と称して商品をタダ同然で配ったわけです。
人権、言論、なに言ってんだカネやるから黙っていろ、これがウーゴ・チャベツ流の「社会主義」でした。
その過程でチャベツの意に染まない外国人技術者、国内の技術者、知識人らはことごとく追放され、国外に難民化します。
その数は実に800万人とも推定されています。
かくして金を産むガチョウであった石油施設はメンテもままならず、一気に老朽化していくことになります。
チャベツ以前のベネズエラは日量約330万バレルを生産していましたが、国営石油会社ペデベーサからの人材流出と設備劣化により、生産量は2020年には日量90万バレル前後まで落ち込んでしまいました。
ついでに外交路線は極端な反米で、キューバに巨額の支援を与える一方、中国にドバドバと原油を売りさばいていました。
怒った米国はベネズエラ産原油に制裁を加えて市場から締め出します。
しかし、それでも当時のチャベツは強気一本槍。
当時はダブついた原油マネーが溢れていたために、農業や製造業は「カネで外国から買ったらいい」というトンデモ経済政策に走ります。
かくして食糧自給率は壊滅、国内産業はペンペン草ですが、これもカネがベネズエラに流れ込んでいるうちはなんとかなったのですからコワイ。
一転したのは、2014年以降の原油価格急落からです。
カネのなる木が突然枯れ始めたのです。
じぶんの国ではなにも作らない、石油で外国からモノを買えばいい、というチャベツのビジネスモデルはあえなく崩壊し、極端なモノ不足となって2017年11月以降はハイパーインフレが怒濤のように始まります。
しかもチャベツはこの財政危機を札の増刷で乗り切ろうとします。まさに絵で描いたような馬鹿殿。
とうぜんのこととして貨幣は紙屑となり、2018年8月のトイレットペーパー1つが260万ボリバルなんて風景が現れました。
国民は財布ではなく手押し車で札束を乗せて商店に行き、商店の親爺は貫目で量るというのが日常化します。
【写真で見る】ベネズエラを襲うハイパーインフレ 通貨切り下げ前の食材と値段 - BBCニュース
そしてこのチャベツが後継に指名したのが、今回米国捕まった腹心のニコラス・マドゥロでした。
チャベツの死によって行われた大統領選は不正選挙大博覧会で、選挙と呼ぶのもおこがましいデタラメなものでした。
事前の複数の世論調査では野党候補がマドゥロ大統領を大きくリードしていましたが、選挙管理委員会の発表ではマドゥロ大統領が勝利しました。
ある調査では野党候補が59.6%、マドゥロ大統領が12.5%でしたが、結果はマドゥロ大統領51.2%、野党候補44.2%でした。
「7月28日におこなわれたベネズエラの大統領選挙は、選挙管理委員会によって現職のニコラス・マドゥロ大統領の勝利と発表されたが、集計の正当性を疑われている。
事前の世論調査と選挙結果があまりにかけ離れていること、政府系テレビ局が放送した得票率を示すグラフの合計が100%を超える明らかにおかしいものであったことなど、不正を疑われるような事例がいくつも浮上した。
当局やマドゥロの支持者があらゆる手で検証を拒否していることも、さらに不信を招いている。米紙「ワシントン・ポスト」によると、投票機の結果のプリントアウトが野党側の選挙監視員に提供されなかったり、野党側の選挙監視員がマドゥロの支持者に暴力を振るわれて開票所に入れなかったりしたケースが少なからず報告されているという」
(クーリエ・ジャポン2024年7月30日)
【解説】「疑惑の選挙」の後、ベネズエラの社会はさらに崩壊が進む | クーリエ・ジャポン
マドゥロ政権は国際的な選挙監視団の受け入れを拒否し、米国やヨーロッパやラテンアメリカ諸国の多くは、選挙結果の公正性に疑問を呈し、マドゥロ政権を承認しませんでした。
これが今回のトランプの言いぶんや、マドゥロの拘束にベネズエラ国民が歓声を上げたわけにつながっていくわけですが、長くなりそうなので、次回に続けます。
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ベネズエラ側としてもかつての中東同様に「アメリカメジャー」への不満は相当溜まってたんでしょうけど、チャベスはやりすぎた。
むしろマドゥロはよくまあ「用意された泥舟」に乗ったもんだと。既に経済や軍事は中露頼りで国内は弾圧しまくるしかやりようがない時点での引き継ぎ。
それこそ強権で徹底的に汚職潰して選挙で「民主化」までやりきれば偉人になったでしょうけど、そんなこと着手すら出来ないくらいにズブズブだったんでしょう。
ドイツのメルケルもやりたい放題やって絶妙な時期に辞めましたけど、チャベスも正に「ヤリ逃げ」で死んだ。
PDVSA唯一の功績。
代表も旧スタッフも亡くなるか離れるかして低迷していたF-1古豪のウィリアムズに多額のスポンサーフィーで自国のパストール·マルドナードが、天候で混乱したレースでフロックだとはいえ「ベネズエラ人初の優勝」をもぎ取ったこと。かな。
もうすぐのWBCはどうなるでしょうね。ベネズエラ出身メジャーリーガーは凄いのがいっぱいいますけど···。
投稿: 山形 | 2026年1月 6日 (火) 06時16分
我が国は、マドゥロを正当な政権と見なしてないし民主化を求めてたんでマドゥロを戻せとは言わないが(そういう声を上げてるやつは話にならない)、それはそれとしてアメリカの国際法違反は別なので日本としては否定も肯定もしない曖昧な態度に終始するしかないですね。
あと志位氏とかおサヨク達が中露には何も言わなかったくせにトランプ批判してんとんだお笑い草だ。
大体、帝国日本を一方的に処刑して作った現行憲法とそれらを齎した民主主義体制を熱烈に支持し墨守してきたのもおサヨクではないですか。
投稿: Q州 | 2026年1月 6日 (火) 12時17分
チャベス時代に始まった典型的な社会主義政策による失敗が根本原因ですよね。それでもチャベスは愛嬌もあり、国民的な岩盤支持層もありました。しかし、マドゥーロになってから10年でGDPが80%減とか、信じられない経済状況です。大統領自身がヤクの売人同等のヤカラであるだけでなく、中共に付け込まれて石油利権を譲渡しようとした売国的な男です。
ところでアメリカのやった事は国内法的にはテロリストなんでOKのようですが、国際法的には違反であるとの見方が優勢に見えます。
ただ、国際法は民族自決が基本原則なので、そもそも不正選挙が明らかなことからすれば、マドゥーロは国民の主権を代表する者ではないので、その辺が米国の国際法解釈の構成になっているのかな、と想像します。
なお、日本は「否定も肯定もしない曖昧な態度」で十分に良いと思うし、むしろ積極的曖昧さとでも言いますか、米国内の訴訟状況をにらみながらの反応で良いと思います。
投稿: 山路 敬介 | 2026年1月 6日 (火) 16時49分