ウクライナの「押し戻す」戦略が始まっている
ゼレンスキーがプーチンに直接交渉を提案しました。
もちろんプーチンの答はノーです。
「ロシアのプーチン大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領による首脳会談の呼びかけを退け、「意味がない」との見解を示した。
ゼレンスキー氏は4日に公開書簡を発表。プーチン氏に対し、両国間での4年に及ぶ戦争を終結させるよう求めた。この書簡はプーチン氏がサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで演説する準備を進めていたタイミングで公開された。
しかしプーチン氏はこの提案を冷淡に受け流し、書簡の内容を「無礼だ」と評するとともに、ゼレンスキー氏の真意について疑念を示した。クレムリン(ロシア大統領府)の報道官は、「話し合いたいのであれば、ウクライナ大統領はモスクワに来ればよい」と述べた」
(CNN6月6日)
プーチン氏、ゼレンスキー氏の直接会談呼びかけを拒否 「意味がない」と一蹴 - CNN.co.jp
ひとの国を軍靴で踏みにじっておきながら「無礼だ」もないもんですが、ゼレンスキーはあえて「北朝鮮の支援なくしては戦えない」などといった刺激的、かつそのものズバリの表現を使い、意図的にロシアの支持層とプーチンの分断を図ったようです。
「彼はまた、ロシアが「北朝鮮の助けがなくては持ちこたえられなかっただろう」と主張し、ロシアを同盟国、特に中国に依存する衰退する強大国と描写した。
ゼレンスキー大統領はロシア社会全般に広がっている戦争への疲労感も刺激しようとした。情報機関の資料を根拠に、プーチン大統領が「2027~2028年まで戦争を持続する計画」と主張する一方、ロシア軍の莫大な人命被害も強調した。
ロシアの独立メディア、ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパのキリル・マルティノフ編集長は「ゼレンスキーの手紙がエリート層と軍首脳部内部に少なくない動揺を起こすかもしれない」と評価した」
(中央日報6月7日)
この時期にゼレンスキーが会談を呼びかけたのには理由があります。
ウクライナ軍は今ようやく長い消耗な戦略的対置の時期を終了し、攻勢に打って出ようとしているからです。
「占領地奪還のための消耗戦からロシア領内への戦略打撃によって経戦能力を削ぐことに重点をシフトさせる、ウクライナの戦略が今春から奏功し始め、これに対しロシアは明らかに動揺して、戦争目的に関する説明振りなどを変え始めている」と指摘している」(Foreign Policy5月18日)
事実、書簡当日、プーチンがフォーラムを開いていた会場のサンクトペテルブルク周辺のクロンシュタット海軍基地などにもドローン攻撃が仕掛けられました。
プーチンの面子丸潰れです。対独戦勝利なんじゃら記念日についで二度目の面子潰しとなりました。当然わかってやっています。
実はゼレンスキーとプーチンは、侵攻3年前の2019年12月にパリで会議をしたことがあります。
その時のゼレンスキーにはまだ顔を覆う髭がなく若々しいスーツ姿でしたが、会議の途中に予告なくウクライナ語からロシア語に切り換えてこう語りました。
「19年12月9日、パリのエリゼ宮(大統領府)。ゼレンスキー氏は記者会見でドイツのメルケル首相(当時)とフランスのマクロン大統領を間に挟んでロシアのプーチン大統領と一つのテーブルに横並びに座り、記者団に向かって「ウクライナでは誰もロシア語で話すことを禁じていない。それをロシアの大統領にも伝えた」と話した。
そしてロシア語のまま「ロシア大統領と我々は全く逆の見解を持つが、対話で解決策を見つけたい」とも言った。
ゼレンスキー氏がロシア語を話し始めたとき、ロシア語を理解するメルケル氏がそのことに気づいたようで、マクロン氏に目配せして何かをささやき、2人は笑顔を見せた。2人とは対照的にプーチン氏は表情を変えず、下を向いたまま険しい顔でメモにペンを走らせ続けた」
(朝日gloveプラス2022年8月16日)
「タブー」破ってロシア語使ったゼレンスキー氏 侵攻前、プーチン氏とただ一度の対面:朝日新聞GLOBE+
この会議のテーマは、2014年から始まるウクライナ危機を収拾するために開かれました。
ロシアはクリミア半島で親露派を使って「独立」させた後に強引に併合し自国領土としました。
その後同じ手口で東部ドネツクにおいても親露派のゴロツキを蜂起させウクライナ軍と武力衝突させて「独立」させようとしました。
翌15年2月に停戦合意が結ばれましたが、この和平会議はその時ヨーロッパの肝入りで行われたものです。
その後はご承知のように、ロシアは侵略の本性をむき出しにして2022年2月24日に軍隊に国境を越えさせて、今に至ります。
さて、それから4年を越える長い戦いとなりました。
ロシア軍は勝利は見えず、実に50万人もの戦死者をだしていると英国情報機関は公表しました。
「イギリス最大のスパイ機関によると、ロシアが2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始して以来、約50万人のロシア兵が死亡した。英政府通信本部(GCHQ)のアン・キースト=バトラー長官が27日、就任後の初の公開演説でそうした分析を明らかにした。
GCHQのキースト=バトラー長官はこの日、ロンドンの北西にあり、第2次世界大戦中のイギリスでナチス・ドイツの暗号通信を解読する拠点だった「ブレッチリー・パーク」で演説。「私たちがウクライナへの支持を堅持する中、プーチンは戦場で後退している」と強調した」
(BBC2026年5月28日)
ロシア兵約50万人がウクライナでの戦争で死亡と英情報当局 - BBCニュース
小泉悠氏は「プーチンは国民を消耗品だと思っている」と言っていますが、そのとおりでしょう。
しかし、多くのロシア国民(特にモスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市住民)がわが身に跳ね返るものとして戦争を感じることが出来ないうちは、いかに戦死者の山を築こうと城内平和は保たれていました。
しかしいまや違います。ウクライナは戦争を前線から「押し戻し」て、ロシア国内に持ちこんだのです。
Foreign Policyはこのウクライナの「押し戻す」戦略をこのように指摘しています。
「2025年3月、ゼレンスキー大統領はこの戦争を「ロシアに押し戻す」戦略を表明した。これは、ロシア占領地奪還のための膨大な犠牲を伴う攻勢作戦に代えて、ロシア経済の弱体化、軍事生産の麻痺、市民の士気低下を目的とする長距離・非対称戦を採用したことを意味する。今春、この戦略が実を結び始め、激戦の戦況をも変える兆候が見え始めている」
(Foreign Policy前掲)
ウクライナは、長距離ミサイルと高精度ドローンによって、驚異的な射程距離からエネルギーインフラをしらみ潰しにし、さらには戦争継続に必須の兵器・爆発物工場を叩き、軍司令部と兵站拠点を攻撃しました。
これは数撃らゃ当たるとばかりにデタラメに撃ち込んで民間住宅にのみ損害を与えるロシアのそれとは異なり、精密にロシア経済と軍事兵站の心臓部に甚大な被害をもたらしています。
たとえば、ロシア各地の石油精製所の破壊は、ウクライナがロシアの経済生命線の締め付けに成功していることを示しています。
4月から5月にかけて、ウクライナ軍は20の石油精製所と輸出ターミナルを攻撃し、それに成功しています。
(短報)ロシア領内の石油ガス施設に対する攻撃が増加。石油市場への新たなリスク要因に:石油・天然ガス資源情報 | JOGMEC JOURNAL 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]
- 1月中下旬に入り、ウクライナによると見られるロシア領内の石油ガス施設をターゲットとした攻撃が頻発している。これまでもウクライナに隣接する州における石油施設(集積基地及び製油所)を対象とする攻撃が、2023年5月に6件、2024年1月にも6件発生した。港、製油所及びガス処理施設における攻撃が6件、内、5件がドローン等による攻撃を受けたものと見られている。
- 今回の攻撃が注目されるのは、対象施設がウクライナ国境から1,000キロメートル以上離れた地域に及んでいることである。ウクライナから1,200キロメートル圏内には、ロシアの主要製油所が合計14カ所ある。原油の総処理能力は日量260万バレル(ロシア全体の3分2以上)あると考えられており、ロシア産原油輸出におけるバルト海及び黒海の主要石油港も含まれる。今やそれらがロシア・ウクライナ戦争においてロシアの収入を効果的に削ぎ、ロシア国内に混乱をもたらすターゲットとなりつつある兆候を示している。
(JOGMEC JOURNAL2月6日)
(短報)ロシア領内の石油ガス施設に対する攻撃が増加。石油市場への新たなリスク要因に:石油・天然ガス資源情報 | JOGMEC JOURNAL 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]
いまやウクライナ軍の攻撃はウクライナ国境から最大1750キロメートル(km)離れた地点までに及び、4年前の射程距離の2.5倍に及んでいます。
これら攻撃により、ロシアは唯一の輸出商品である原油を輸出することが困難となり、イラン戦争による原油価格高騰の恩恵を受けられませんでした。
またまた、防空システムが破綻して上空からの襲撃を防ぎきれないために、飛行場、兵器工場などの軍事施設が撃たれたい放題になってしまっています。
兵站を切断されたロシアは、戦場で前進するどころか停滞から後退局面に陥っています。
毎日盛大に撃ち込んでいたミサイルやドローンは、半導体産業の中枢企業が被害を受けたために操業を呈ししつつあります。
結果、戦争研究所(ISW)によれば、ロシア軍はこの4月、24年8月以来初めて占領地を減らしました。
Foreign Policyは、「ウラジーミル・プーチンは弱体化している、今こそ彼に戦争を終わらせる時だ」と説いています。
トランプさん、いかがでしょうか、いままでさんざんプーチンを応援してきたのだから罪滅ぼしのひとつでもしてみたら。
■管理人から
コメント欄から弾かれるという苦情をいくつか戴いております。
これはニフティが勝手にやっているもので、私にはどうにもなりません。
なんせ執筆者の私のすら弾くという豪腕ぶりなのです。
ご辛抱くださるようにお願いいたします。
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ブログ主の投稿まで弾くとは、ニフティのセキュリティーはどんだけいい加減なのでしょうね。
投稿: 珊瑚は大切に | 2026年6月 8日 (月) 20時47分