「イランVS中東諸国」の構図ができてしまった
いままでイランの一方的攻撃を受けていたと思われていたバーレンとクェートが、実はイランに反撃していたようです。
「米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは24日、クウェートとバーレーンが今月上旬にイランの無人機やミサイル格納庫などの軍事施設を攻撃していたと報じた。
アラブ首長国連邦(UAE)が標的に関する情報を提供し、防空協力を行ったという。クウェートとバーレーンによるイラン攻撃が明らかになったのは初めて」
(読売7月25日)
クウェートとバーレーンがイラン軍事施設攻撃、UAEが標的情報提供…米紙報道 - ライブドアニュース
しかもこの二国の報復攻撃に標的情報を与えていたのがUAEだとわかりました。
バーレーンの米海軍第5艦隊、カタールのアル・ウデイド航空基地、クウェートの米軍施設などは、米軍の作戦能力を支える重要拠点です。
その他、UAE、サウジアラビアにも米軍関連施設が配置されています。
情報BOX:中東に駐留する米軍部隊、その場所と活動 | ロイター
上図のイラクやシリアなどの駐留目的は、例の悪名高き「イスラム国」(IS)と戦うためですが、それ以外の国では当該国の安全保障上の理由からです。
たとえば中東でもっとも親米的なヨルダンには数百人の軍事教官を派遣し、年間を通じて大規模な演習を行っています。
カタールやUAEでも、米軍は駐留することによって同盟国を安心させ、当該国の軍隊に訓練を実施するために駐留しています。
この辺は日米同盟といっしょです。
これらの中東の米軍施設はすべてイランのミサイルの射程内にあり、実際にこれらの国々はイランの攻撃を受け続けてきました。
下図は2024年の中東地域の米軍基地への攻撃の頻度です。
この秋までヨルダン北端のタワー22基地への攻撃以外は、イラクやシリアに集中していました。
【解説】 アメリカにはどんな選択肢があるのか ヨルダンの米軍基地が攻撃を受けて - BBCニュース
今回のイラン戦争でイランは中東地域の周辺国に猛爆を加えました。
しかも今までのように米軍基地だけではなく、民間施設も標的にしていますから、もはや自ら好んで「イランVS中東諸国」という図式を作りたがっているようです。
イランからすれば、米国と手を切れという恫喝のつもりなんでしょうが、これが裏目に出ました。
たとえば、UAEは米軍基地だけではなく、大規模な民間施設やアルミ製造プラントへの攻撃を受けました。
またこのような有形な攻撃だけではなく、ドバイが有していた世界有数の金融センターの位置を失おうとしています。
UAEの駐米大使ユセフ・アル・アタイバ氏は、このような宣言を発せざるを得ませんでした。
「40マイル離れた場所では、UAEがこの紛争の最前線に立っています。イランはエミレーツに対して2,180発以上のミサイルとドローンを発射しており、これは他のどの国よりもはるかに多い数字です。我々は世界で最も効果的な防衛シールドの一つを持ち、これらの攻撃の95%以上を迎撃しています。
国境を越えて、イランは空港、港湾、エネルギーインフラを攻撃しています。肥料や製造のためのエネルギー輸送や供給を封鎖し、代理ネットワークを通じて世界中のテーマパークや文化施設を脅かしています」
ワシントンDCのUAE大使館
またUAEは石油をホルムズ海峡を閉鎖されているために紅海側のフジャイラ港から積み出していますが、この迂回路は常にイラン革命防衛隊の息がかかったフーシ派によってテロ攻撃を受け続けています。
UAEはサウジと共同してこの地域からフーシ派を排除しようとしました。
「脅威は残っている。フーシ派はこの10年にわたり米国やイスラエル、英国、サウジ主導の連合から断続的な攻撃を受けてきた。弱体化したものの、壊滅には至っていない。このため、西側の多くの海運会社は依然としてイエメン周辺海域への航行を避けている。
紅海沿岸の険しい地形は、フーシ派が兵器を隠すのに適している。昨年、米国やイスラエルによる空爆で指導層や装備の多くが失われたが、フーシ派の活動に詳しい地域の当局者によると、同派は再編や少なくとも一部で再武装を進めている。サウジや、かつてはアラブ首長国連邦(UAE)が支援した対抗勢力もフーシ派を拠点から排除することに失敗しており、同派はイエメン西部ホデイダなど重要港湾を含む紅海沿岸の広い地域を支配し続けている」
(ブルームバーク3月30日)
ホルムズ海峡の代替ルートにフーシ派の脅威-紅海が重要な理由とは(Bloomberg) - Yahoo!ニュース
実はこのフーシ派に対しての米軍の抑止は効いていません。
それは現状でさすがの米軍も疲労の色が見え始めたからです。
思ってみれば、トランプが酔狂で始めたベネズエラ作戦からこっち米海軍は出ずっぱりで、大艦隊を中東に引っ張ってきているのです。
推してしるべし。さすがの無敵艦隊といえど限界はあるのです。
「世界最大規模の軍事予算を誇る米軍だが、当局者らは戦力や装備には依然として限界があると認める。実際、イエメン作戦で必要となりそうな戦力の多くは、現在イランとの戦闘対応に投入されている。
ある米当局者は「われわれは既に忙殺されている」と語り、一部の艦艇はカリブ海での任務に続き中東へ展開したため、通常よりも長期間にわたって海上活動を続けていると説明した。
長期任務は兵士の負担を増大させるだけでなく、艦艇には定期的な整備のために帰港しなければならない制約もある。
現時点で中東地域には20隻を超える米海軍艦艇と数百機の軍用機が展開し、さらにイラン情勢への対応強化のため、追加部隊も派遣されつつあるという。
こうした状況から、イエメン周辺で新たな軍事作戦を展開する余力は限られている。特にフーシ派の最新戦力を把握するためには情報収集能力も必要で、米軍の情報資産も分散されることになる」
(ロイター7月23日)
アングル:フーシ派の「海上封鎖」警告、米軍は戦力分散化で対応苦慮か | ロイター
米軍からすれば、フーシー派くらい自分らでなんとかしろというのが本音でしょう。
中東諸国はハッキリ言って日和見でした。
米国に基地を貸しその庇護を受けながら、いやいやイランさんとコトを構えると後々やっかいですからね、というところです。
いちばん露骨なのはカタールで、米軍基地を置きながら、一方でイラン革命防衛隊の子分であるハマスに軒を貸してるという二股外交を堂々としていました。
トランプはしょせん任期が終われば去る、しかしイランの神権体制は変わらないとすれば、簡単にイラン攻撃なんぞしたら敵国指定されてしまう、クワバラ、クワバラというわけです。
それが変化したのは、イランが余りに執拗に湾岸諸国の民間インフラにをミサイルとドローンで攻撃をし続け、とうとう中東の石油に並ぶもうひとつの金融業にも打撃が出たからです。
UAEなんぞドバイが有していた世界有数の金融センターの位置を失おうとしています。
「[ドバイ 17日 ロイター] - 中東の紛争が深刻化すれば、ペルシャ湾岸諸国の銀行から3070億ドルの預金が流出する恐れがある――。S&Pグローバル・レーティングスは最新の報告書でこう警告した」
(ニューズウィーク3月18日)
湾岸諸国の銀行、紛争深刻化なら3070億ドルの預金流出も=S&P | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
結果、UAEはドル預金の流出という現象に直面し、米国に通貨スワップの支援を求めています。
つまり尻に火が点いたのです。
そしてもうひとつは米軍への過信に疑問が出始めたからです。
おいおい戦争は5ヶ月たっても終わらないぜ、終わる様子もない。
トランプの酔狂と影で笑っていた中東諸国にとって、戦争がいつまでも続き終わりが見えないという状況こそ危機です。
その間、石油や金融、観光といった主力の経済活動が行えず、投資を呼び込むなど不可能です。
かつての新婚旅行のメッカだったドバイだって客が来やしない。
このままあいまいな融和政策をしていると、イランが中東の覇者という勘違いをしてしまうかもしれない、それだけは勘弁願いたい。
もう懐手して傍観している場合じゃない、キッチリ報復をしてイランと緊張関係を作る時代ではないのか、というのが今の彼らの空気のようです。
まぁ喉元過ぎてしまえば、またどうなるかわかりませんがね。
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イランはやみくもに攻撃しているように見えて、イスラエルのことだけは攻撃してないんですよね。アメリカの要請を受けて、イスラエルと「相互の攻撃を停止する」と発表した6月8日以降は。
イスラエルが怖いからか? それとも本当は「『イスラム』より『物質的豊かさ』を選んだアラブ諸国」のほうが憎くて許せないのか?
かつてはイランも世俗主義で「物質的豊かさ」を享受していたのに、それを捨ててイスラム原理主義になった国ですからね。
投稿: 坂東太郎 | 2026年7月27日 (月) 19時22分