サウジとトルコ、そしてパキスタン三国が「NATO」もどきをつくる
サウジとトルコ、そしてパキスタン三国が「NATO」もどきをつくるんだそうです。
王国、トルコ、パキスタンの共同防衛のためのマッカ首脳会議の政治
なんでも「深く根深い歴史的絆、兄弟愛とイスラム的連帯の絆、そして共通の戦略的利益と緊密な防衛協力」だそうです。
共同宣言が言うには。
「三国間の深く根深い歴史的絆、兄弟愛とイスラム的連帯の絆、そして共通の戦略的利益と緊密な防衛協力に基づき、トルコ共和国の皇太子兼首相であるムハンマド・ビン・サルマン・ビン・アブドゥルアジズ・アルサウード殿下、トルコ共和国大統領レジェップ・タイイップ・エルドアン閣下、パキスタン・イスラム共和国首相モハンマド・シェバズ・シャリフ閣下は、「相互防衛のためのマッカ協定」に署名し、三国の安全保障強化への強い意欲を反映しています。
そして、安全で繁栄する未来を追求しながら、地域および世界の安全、平和、安定の実現を目指しています。
この協定は、いかなる侵略に対する共同抑止力を強化することを目指しており、三国のいずれかに対する武力攻撃はすべてに対する攻撃であると規定し、両国間の防衛協力のあらゆる側面の発展に関心を持っています」
王国、トルコ、パキスタンの共同防衛のためのマッカ首脳会議の政治・共同声明
ロイターはこう書いています。
「トルコのフィダン外相は8日、トルコ、パキスタン、サウジアラビアの3カ国が署名した共同防衛協定について、北大西洋条約機構(NATO)条約第5条の集団防衛規定と技術的に同じものだという認識を示した。その上で、協定はイランを標的にしたものではないとした。
フィダン氏はまた、トルコのエルドアン大統領がこの同盟の拡大を望んでおり、エジプトが加盟候補国の一つとなっていると明らかにした。
3カ国は7日、サウジのメッカで防衛協定に署名した。3カ国はいずれも米国と友好関係にあるイスラム教スンニ派主導の国で、イランによる攻撃が湾岸産油国に及び、地域紛争の激化が警戒される中、安全保障分野で連携を強化する。
3カ国は共同声明で、同協定はいかなる侵略行為に対しても集団的抑止力を強化することを目的としており、加盟国のいずれか1カ国に対する武力攻撃は3カ国全てに対する攻撃と見なすと定めていると表明した」
(ロイター2026年8月10日)
トルコ外相、3カ国防衛協定「NATO第5条と同等」 イラン標的を否定 | ロイター
考えすぎです、ロイターさん。
この三国がNATO第5条のような自動参戦条項をもった本格的集団安保体制を作れるはずがありません。
サウジ、パキスタン、トルコは3カ国ともスンナ派イスラム教の国ですが、共通項はそれだけ。
まず政治体制がまったく違います。
トルコは議会制民主主義とはいうものの、エルドアンの独裁が長期間続いています。
そしてなによりNATO加盟国であるのが、他の二国とは決定的に異なっています。
パキスタンも不安定ながら議会制民主主義で、米国の武器体系に依存しながら中国にすり寄っています。
サウジは前時代的な絶対王政で、最近F-35導入でトランプとディールしたばかりです。
NATO第5条とは自動参戦条項です。
実例をあげましょう。
ドイツ連邦軍は、アフガニスタンに国際治安部隊(ISAF)として派遣されました。
なぜ、ドイツ連邦軍がアフガンというドイツの安全保障とは直接関係ないアフガンの辺境に投入されているのでしょうか。
それはNATOが、2001年9月1日の米国同時多発テロを受け、翌月の10月2日にこれはNATO条約第5条に該当すると決議したからです 。
●NATO条約第5条
「NATO締結国(1カ国でも複数国でも)に対する武力攻撃は全締結国に対する攻撃と見なし、そのような武力攻撃に対して全締結国は、北大西洋地域の安全保障を回復し維持するために必要と認められる、軍事力の使用を含んだ行動を直ちに取って被攻撃国を援助する」
NATOは、トランプが批判的な言動をするので、米国とは別枠の組織と勘違いされますが、もちろん米国はこの大黒柱のひとつです。
理由はシンプル。現実に仮想敵であるロシアとの軍事衝突になった場合、ヨーロッパ各国軍の力だけでは防ぎきれないから、ヨーロッパは自動参戦条項で米国を逃げないように縛っているのです。
それはさておき、たぶんこの三カ国同盟が念頭に置いているのは、共同声明にあるとおり「スンナ派諸国は団結しており脅威に屈するつもりはない」という「脅威」、すなわちイランに対してです。
それは地理関係をみればすぐにわかります。
サウジはイランの最前線に位置し、トルコとパキスタンはイランと国境を接した隣国関係にあります。
これが同盟を結ぶ理由はひとつしかありません。対イラン包囲網です。
それ以上でも以下でもありません。
この三カ国はいずれも紛争持ちの国で、パキスタンは永年に渡ってインドと角を突き合わせていながら、さらにアフガニスタンとももめています。
じゃあパキスタンがインドと紛争を始めたらサウジやトルコがつきあうなんてありえるでしょうか。
トルコがギリシアと紛争を開始したらサウジ軍やパキスタン軍が来るとでも。(笑)
いまでも火を吹いているフーシー派との戦闘にパキスタンやトルコが軍を送るとは思えません。
いま、サウジのもっとも大きな安全保障上のリスクはイランが後ろで操っているフーシー派の石油施設やタンカーにたいする執拗な攻撃です。
「英海軍の関連機関・英海運貿易オペレーション(UKMTO)は22日、バブルマンデブ海峡に近いサウジアラビア沖の紅海で、タンカー1隻が被弾して火災を起こしたと発表した。イエメン拠点の親イラン勢力フーシがサウジ関係のタンカー2隻を攻撃したと明らかにした。米イランの戦闘が再び激しくなるなか、戦域はホルムズ海峡だけでなく、紅海にも広がりつつある。
サウジ国営通信は23日、炎上したタンカーの乗員は全員無事だと報じた。フーシは、タンカー以外にも「約10隻を引き返させた」と主張している」
(読売7月23日)
フーシがサウジ関係タンカー攻撃、原油輸送代替ルートの紅海にも戦域拡大か…原油先物価格は上昇 : 読売新聞
このフーシー派のテロはホルムズ海峡通過が困難なことから、かねてから予備ルートとしてサウジが作っていたバブルマンデブ海峡ルートに打撃を与えました。
この海峡は紅海の南側に位置し、ホルムズ海峡と並ぶ、地域の海上交通の要衝で、海峡の幅は約30キロしかなく、ここを妨害されると、サウジは原油をまったく積み出せなくなります。
つまりサウジに死ねと言っているに等しいわけです。
では米国がフーシー派と戦って、この代替ルートを守ってくれるのかといかば、はてはだ不安です。
米国はパトリオットの弾がなくなるというみっともないマネを演じています。
「トランプ氏は6日朝、「アメリカには『弾薬』が、特に、特定の種類のものが膨大にある」と、ソーシャルメディアに投稿。「さらに、必要に応じて大量に(兵器が)製造され、アメリカへ輸送されている」とした。
米・イスラエルとイランとの戦争は長期化し、和平合意の見通しは依然として立っていない。そうした中で、トランプ氏と米国防総省に向けられる、兵器の備蓄状況についての疑念が高まっている」
(BBC8月7日)
トランプ氏、アメリカの兵器不足を否定 情報「漏えい者」を「追い詰める」と宣言 - BBCニュース
トランプはこんな情報をもらした奴は打ち首獄門だと喚いていますが、ウクライナに供与していたパトリオットが切れて、ロシアのミサイルが次々にキーウに着弾しているのを見ると、たぶんほんとうのようです。
こういう中でトランプはサウジと新原子力協定を結びました。
なんと民生利用のウラン濃縮まで認めたものです。
「アメリカとサウジアラビアは22日、民生用の原子力協力協定に署名した。アメリカの技術を用いて、サウジアラビアの原発事業を推進するもので、将来的にはウラン濃縮ができるようになる可能性があると報じられている。
米エネルギー省によると、この協定は「平和的な原子力協力協定」と位置づけられ、「サウジアラビアの原子力エネルギー計画において、米企業に大きな参入機会をもたらす」ものだという」
(BBC7月23日)
アメリカ、サウジアラビアとの画期的な原子力協定に署名 ウラン濃縮への懸念の声も - BBCニュース
たぶんサウジはこの米国との関係を切るきはないはずです。
そんなまねをしたら、中東でイスラエルに次ぐ空軍が飛ばなくなってしまいます。
それはS400を導入したためにF35計画から排除されたトルコが身に沁みてわかっているはずです。
パキスタンもズブズブに親中ですが、そこに行ききれないのは、兵器体系が米国に依存しているからです。
ですから、この三カ国NATOは口先軍事同盟にすぎないのです。
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それでも、中東諸国の中でイランの側に付く国が1つもないことがハッキリしたのは興味深く、良い事ですね。
おそらく民衆レベルでは、まだイスラム原理主義への支持があるだろうけど、国のトップ達は「過激思想もテロもこりごり。世俗主義で経済成長したい」ということでしょう。
投稿: 坂東太郎 | 2026年8月12日 (水) 21時00分