最大の不安要因は習
ところで、台湾有事 とは現実にどのようなものとなるでしょうか。
いくつかのシナリオが考えられます。
2023年12月初め、キヤノングローバル戦略研究所が「ポスト台湾有事」と題する政策シミュレーションを実施しています。
このシミュレーションゲームは、米国のシンクタンクがよく使う大規模なゲーム形式を使います。
「この種の演習は2009年以来43回目。今回も国会議員、公務員・自衛官、学者、ビジネス・ジャーナリズムの精鋭約40人が集い、中国や台湾、日本など関係政府・報道関係者らの役を一昼夜、リアルに演じてもらった」
(産経12月14日)
【宮家邦彦のWorld Watch】中国「台湾侵攻」5つのシナリオ - 産経ニュース (sankei.com)
えてして政府がするシミュレーションは、中国の軍事侵攻をテーマにすれば、ほとんどの時間をかけてこれがいかなる法律の範疇に属するのかという事実認定の神学論議に費やされてしまいます。
ですからこんなことをいくらやっても、国会の大臣の答弁のメモになるだけのことです。
習近平総書記が南中国海閲兵に出席 「中国海軍を世界一流の海軍に」--人民網日本語版--人民日報
一方、40人もの専門家が各自の専門分野に立って、ロールプレイングゲームをするわけですから、東アジア情勢のリアルな状況展開を知り、かなりの精度で予測することが可能です。
キャノングローバル研が用意した台湾有事シナリオは5つでした。
●シナリオ1 /台湾の「独立宣言」
これは台湾が焦るあまり独立宣言、ないしはそれに近い言辞をしてしまうことから始まります。
たとえば、台湾正名運動も「独立宣言」と大陸は見なすでしょう。
「台湾正名運動(たいわんせいめいうんどう)とは、主に台湾の泛緑連盟の議員やその支持者及び在日台湾人などによって行われている台湾本土化運動の一つ。台湾の公的な場で使用されている「中国、中華(China)」という呼称を「台湾(Taiwan)」へ置き換え、台湾の存在を「中国の一部」から「中国とは別個の地」に代えることを目標としている」
台湾正名運動 - Wikipedia
「ひとつの中国」を国是とする中共は、台湾が「独立」を正式表明することを待っています。
「ひとつの中国」は、中共にとって正統性( legitimacy)そのものです。
ワンチャイナは、中共が中国を支配する倫理的、歴史的に正しいとされる唯一の根拠ですから、譲ることができないのです。
したがって、中国は台湾が「独立」を口にした瞬間、武力行使せざるを得ないことになります。
ただし、台湾民進党政府が「独立」という地雷を踏む可能性はかぎりなくゼロです。
●シナリオ2\ 軍強硬派の自己過信
「一方、人民解放軍が「今なら台湾制圧は成功可能」と政治指導部に保証するなど、米軍を過小評価し、己の軍事力を過大評価する恐れもある」
(産経前掲)
中国軍内部には強硬派が存在します。
彼らは自らを過信し、世界最大最強の軍隊だと思っています。
そして台湾軍を小国の三流軍隊と見なしており、米軍も手を出せないはずだ、とみくびっています。
特にウクライナ戦争に、米国が戦備リソースを使っている中、東アジアはまで手を伸ばせないと考えています。
彼ら軍部強硬派は前述したブリンケンの中共に対する警告も、米国の弱さの現れであると見るでしょう。
この可能性はありえます。
●シナリオ3 /共産党内の権力闘争
習に強力な政敵が誕生し、彼が習を軟弱な日和見主義者と批判した場合、習はリアクションとしての軍事侵攻を取らざるをえなくなるでしょう。
「現指導者の前に強力な政敵が出現し、現政権の外交政策を「弱腰」「不十分」と批判し始めれば、対抗上何らかの措置を取らざるを得なくなる。今後中国国内の経済・社会状況が悪化すれば、党内で権力闘争が再燃する可能性はあるだろう」
(産経前掲)
ただし、現在のように習近平の党内闘争が終了し、ひとり独裁が完成してしまえばこの可能性は低くなります。
●シナリオ4/ 民衆の不満爆発
「マクロ経済学的に見て現政権の経済政策は不十分だ。ナショナリズムで扇動されてきた民衆の不満が、不動産市場低迷、バランスシート不況、若年失業率の悪化、社会保障制度の不備などで爆発する恐れがある以上、指導部が批判を逸らすため対外強硬路線に踏み切る恐れもある」
(産経前掲)
いわゆる内部矛盾を外への侵略で糊塗する伝統的な方法です。
共産党統治を国民が支持してきた最大の理由が、右肩上がりの国内経済でした。
中国経済は2023年にコロナ危機から急速に回復し、世界成長の原動力としての役割を再び果たすと予想されていましたが、習のゼロコロナ政策の失敗によって完全に失敗し、いまやIMFから世界生産の「足かせ」とまで呼ばれるほどに失速してしまいました。
「中道右派の米シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」の上級研究員デレク・シザーズ氏はCNNに、「中国経済にとっての2024年の課題は、GDPの成長率ではない」と指摘。同氏は、成長率が4.5%を超えるだろうと推測するが、「課題は、そこから先が下方のみということだ」と続けた。
同氏は、大規模な市場改革がなければ、中国は経済学者が言うところの〝中所得国の罠〟にはまる可能性があると予測している。その〝罠〟とは、多くの新興国が経済発展により1人当たりのGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指す」
2024年中国経済はさらに悪化へ 景気低迷が長期化も 「今後数十年間」の規模か(The News Lens Japan) - Yahoo!ニュース
●シナリオ5/ 独裁者の判断ミス
これがもっとも大きなリスクです。
一種のヒューマンエラーですが、プーチンはこの「独裁者の誤謬」をウクライナで盛大にやらかし、独裁者は必ず失敗するという教訓を世界に与えました。
「最も恐ろしいのは、プーチン露大統領の対ウクライナ戦争のように、独裁者が戦略的判断ミスを犯す可能性だ。もしかしたら、この蓋然性が最も高いかもしれない」
(産経前掲)
今回の台湾総統選を見ると、中共の干渉の痕が多く発見されます。
中国は毎回、台湾の選挙に介入してきましたが、今回は最も深刻、かつ大規模でした。
中国は明らかに選挙に影響を及ぼして、彼らが望む馬英雄九政権のような親中政権を樹立しようとしました。
その最大のものは、馬英九の「一つの中国」発言です。
「元台湾総統の馬英九氏は、優勢な民進党に対抗するため、反対候補の一本化を図ったが、協議は決裂した。8日、ドイツメディアの取材を受けた馬英九氏は、台湾と中国の関係を意味する「両岸関係」についてはと前置きしながらも、「信用しなければならない」という発言をした。この事は国際社会と台湾の有権者に衝撃を与え、国民党の侯友宜(こう ゆうぎ)候補でさえ認めなかった。
蔡慎坤氏によれば、 中共が支持する人物は、必ず負ける。中共に好意的な政党や要人は、ほとんどの場合、有権者に捨てられると述べた」
エポックタイムズ (epochtimes.jp)
この大きすぎる敵失で、民進党は勝利を勝ち得たといっても過言ではありません。
この原因は、習近平の馬鹿ぶりにあると福島香織氏は見ていますが、私もそう考えます。
習の現実に対してのこのボケぶりこそが、東アジアの最大の不安定要因なのです。
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