EPA発効 日本農業にはよい刺激となるだろう
「世界最大級の自由貿易圏が誕生。 日本ブランドにも商機到来。
1日に発効した日本とEU(ヨーロッパ連合)のEPA(経済連携協定)。
輸出入の際にかかる関税が多くの品目で撤廃され、千葉市にあるイオンスタイル幕張新都心では早速、EU産のワインを平均で1割値下げするセールが行われた。
人口およそ6億4,000万人。
世界の貿易額のおよそ4割を占める、巨大な自由貿易圏が誕生することとなった今回のEPA」(FNN2月2日)
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20190202-00411137-fnn-bus_all
このところのブリグジットや、マクロンの失速、メルケルのレームダック化、最大市場の中国経済の減速などでろくなことがないEUも、ひさしぶりに愁眉を開いたようです。
EUトゥスク大統領http://news.livedoor.com/article/image_detail/1587...
「【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)のトゥスク大統領は1日、日本との経済連携協定(EPA)が同日発効したことを受け、自身のツイッターに日本語で「今日は全ての日本人とヨーロッパ人にとって素晴らしき日」と書き込んだ。
その上で「政治的また経済的には、これ以上緊密な友人かつパートナーはいない」とも述べた」(時事2月1日)
意外に思われるかもしれませんが、私は歓迎しています。
TPPとEPAを合わせれば世界経済の過半を占める巨大自由貿易圏ができるのは、時代の趨勢であるばかりではなく、日本農業にとってもよいことです。
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180718/mca1807...
それは、いったん日本農業の内部に足を踏み込めばお分かり頂けると思います。
素朴に思ったことはありませんか。なぜ国産のバターはあんなに高いのでしょうか?なぜ、チーズはあんな馬鹿げた値段で売られているのでしょうか?
日本の生乳は常に余剰すれすれを維持しています。加工に回すと安くなるからですが、バターやチーズに振り向けて付加価値生産することは可能なはずです。
一番の大所のコメは、いまだに事実上の生産統制がなされて、自由に作ることは無理です。
一般的な商品ならば、乳製品に余剰がでたら加工品にし、コメがうれなければ価格競争に耐え抜こうとするでしょう。あるいは海外に販売先を探す努力を自力ですると思います。
ところが日本農業だけはそのような自律的市場調整の回路が働かず、お上の統制支配がいまでも生きている数少ない産業分野です。
と、こんなことを私が言うと、「お前はかつて農は日本の安全保障だ。食なくして自由な国はありえない」と言っていたろうという声がきこえてきます。
それはあくまでも結果としてそうなるのであって、農業は産業としてそれを実現するしかないのです。
食糧管理制度(食管)は、戦中戦後のコメ不足時代に、農家からコメを厳格に供出させるためにできました。
勝手に作れない、勝手に売れないという奇妙な「商品」がコメだったのです。
関連記事「日本農業の宿痾 減反制度」
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-a54e.html
これは、食糧不足という時代背景があったから成立したのであって、高度成長期以降の時代には古色蒼然たるものに劣化していました。
しかし、制度として残ったのは、ひとえにコメの時だけ納屋からトラクターの埃を払ってにわか農家に戻る兼業農家層を大量に抱え込んでしまったからです。
お断りすれば兼業農家は別に甘い知るを吸っていたわけではなく、コメで一家を支えるだけの収入にははるかに届かないからそうしているだけです。
本心は田んぼなど売りたいが、いったん土地改良工事が入ってパイプラインで結ばれた田んぼになると一軒だけ止めるわけにはいかないという縛りも生きていました。
専業で頑張って大型化したい農家には地域頭割りの生産統制が待っており、一方兼業農家は生かさず殺さず、これが日本のコメ作りの実態です。
この社会主義統制経済もどきを21世紀になっても維持できたのは、ひとえに村を票田とする農水政治家、日本最大の補助金を分配する利権を守りたい農水省、そして全農の三角同盟が堅牢だったからです。
こんなことを半世紀やって入れば、技術開発は進まず、ブランド力もなく、価格競争力も劣化し、産業全体がひ弱になるのは当然です。
いつのまにか、農業は岩盤規制の標本のようになっています。
逆に、統制品目から抜けている、野菜、果樹などが国際市場価格と比較しても妥当な枠に納まっています。
その理由は、健全な産地間競争が生きているからで、野菜や果樹の農業団体は熾烈な価格競争とブランド競争を演じています。
まともな競争が保証されさえすれば、日本の農業技術力は世界有数のものですから、あたりまえです。
具体的に冒頭で上げたバターを例に取ってみましょう。
バターに特徴的なのは、ブランドが少ないことです。それも北海道に集中して、特定のものだけに絞られています。
価格はバカ高いので、マーガリンなどという健康に疑問の代替品がいまや主流になってしまいました。
バターが高いの理由は、ひとえに高関税をかけているからです。
この高関税をかけている元凶は、農水省傘下の特殊法人である「農畜産業振興機構」です。
https://sugar.alic.go.jp/japan/fromalic/fa_0310a.h...
私は「なんとか機構」と聞いうもっともらしいネーミングを聞いただけで、虫酸が走りますが、よくある官製の利権団体です。
星の数ほどある天下り団体で、これがバター輸入を独占していることから発生しています。
といってもこの振興機構が実際に輸入業務をしているわけてはありません。
するのはあくまでも一般輸入業者です。彼らはペーパーワークだけの仕事をするいわば官製トンネル会社です。
乳製品の輸入業者は、2次関税を払った上に、いったん機構に輸入バターを伝票上買い上げてもらっ形にして、農水省の定めた806円/㎏(20014年現在)の輸入差益を支払わねばなりません。
この振興機構はこのトンネル差益だけで年間11億も、彼らの懐に転がり込む算段です。
なにもしないで、806円乗っけただけの伝票仕事で、年間11億が転がり込むのですから、たまりませんなぁ。
ま、もちろんこの11億の一部は、補助金として畜産農家に回すのですが、これも分配する権限は農水省です。
農水省が作った輸入差益を、農水省が配分する補助に回すという、これが農水省の農水省による農水省のための農政です。
これによって、農家はいささかも儲かっていません。そして最大の被害者は消費者です。
消費者は、外国製乳製品がバカ高いために買えず、高い国産乳製品を買わされているのですから、いい面の皮です。
日本の農産品高関税には必ずといってよいほど、農水省の利権がからまっています。私たち農家にはなんの関係もないことです。
日本の農産物はその高品質と新鮮さで支持されています。関税などによって守られてはいません。
私はこのようなトンネル会社方式を止めて、従価課税のスッキリした関税方式にすべきだと思っています。
今回のEPAで、バターや脱脂粉乳は原料の生乳に換算して、最大1万5000トンまでの低い関税枠が新たに設けられることになりました。
不十分ですが、いたしかたないでしょう。
いずれにしても、EPAで「農水省による農水省のための農水省の農政」に大きな穴が開きました。
北海道様、ありがとうございます。非常にリアルなコメントでしたので、全面的に転載させていただきました。
私は、この間の記事をTPPをどう迎撃するかという流れの中で書いています。
そもそも9割の日本人は、昨年10月の菅首相の所信表明演説まで、TPPなどという単語自体を知りませんでした。ほとんど初耳。寝耳に水。民主主義とは相いれない手法です。
私たち農業者に至っては、FTAは民主党マニュフェストに出てきましたから議論の対象に大いにしたものですが、よもやその拡大バージョンをいきなりかまして来るとは思いもよりませんでした。
一種の脳震盪状態といっていいでしょう。村の友人はJAが組織した反対デモに行ったのですが、終わった後の飲み会で、「なんだ、てーてーぴーって?」といった有り様で、実感が湧かないというのが実態のようでした。
さてあれから3カ月間がたち、遅まきながら、私たち農業者にもTPPがかなるものかの全貌が見えてきました。
煎じ詰めれば、TPPは米国が主導する多国間自由貿易協定です。そもそも米国が、WTOのドーハ・ラウンドでの不調を棚に上げて、自国の利害のために身勝手に始めたことです。
菅首相は、横浜でのAPECで各国首脳を前に「世界の孤児にならない」、「日本は鎖国をしている」とまで述べました。普通このような外交的席上では、わが国はいかに開かれた国であるのか、WTOの優等生であるのかを力説するものですが、いきなり「わが国は鎖国している」と来たもんです。
たぶん軽い冗談なのだと思います。幕末に日米通商条約が結ばれた横浜の地をあえて選び、各国首脳、中でも米国大統領を前にして、「鎖国している」と自国を卑下してみせれば、それがどんな外交的メッセージなのかは明らかです。きっと受けを狙った笑えない冗句のつもりでしょう。
もちろん、首相の「鎖国」認識はまったくのでたらめです。わが国の関税率はOECD諸国の中でも低く、発展途上国に対しては膨大な品目を特恵関税扱いでゼロにしているほどです。
特恵関税を得ている諸国には、GDP世界第2位の「発展途上国」中国まで含まれています。
また、菅首相は今年の年頭所感で、「日本農業の開国」をぶち上げました。これも根本的に認識を間違えています。先日の記事で書いたように日本農業の平均関税率は11.7%にすぎません。OECD先進諸国の中で下から2番目の低関税国です。このどこをして、「日本農業は鎖国している」のでしょうか。
また、菅首相は歴史がお好きらしいとみえます。山口県出身の自らを「奇兵隊内閣」と呼んだことすらあった御仁です。ならば、1858年11月に横浜で結ばれた日米通商条約が、産声をあげたばかりの新生日本にとって、いかに大きな重圧だったかは知らないはずがありません。
関税自主権の放棄と治外法権という巨大な不平等条約を押しつけられた日本にとって、それを破棄することが明治国家の目標だったほどです。破棄に至る40年間、日本はしなくていい大きな犠牲を支払いました。
関税自主権の放棄とはそれほどまでに大きなことであり、それを薄っぺらな現状認識しか持っていない龍馬気取りの安っぽいロマンチストに簡単に「開国」されてはなりません。
考えてみれば、このていどの男が、このような時期に、このような席にいること自体が日本の不幸なのかもしれませんが。
かつての安政の開国は、ペリーによるあからさまな軍事的な圧力によってもたらされました。しかし、今の日本は当時の日本ではありません。
衰えたといえど世界経済の中枢的な地位におり、既に先進諸国の中で関税率が最も低い国に数え上げられるようになっています。農業生産においても世界有数の力をもっています。
そして今回、米国は日本に「開国」がらみで軍事的圧力をかけようとはしていません。それは不安定の弧の東の要が日本である戦略的位置によります。米国は日本をみずからの世界戦略上切れないのです。
民主党政権は、沖縄問題、尖閣問題、そして北方四島問題で連続的に外交をみずから揺るがせた反動で一気に米国にすがりつこうとしているにすぎません。
このような有利な諸条件がありながら、なぜ唐突にスーパーFTAとでもいうべきTPPをする必要があるのか、私には皆目見当がつきません。
ムード的に「平成の開国」と叫ぶのはやめたほうがいいと思います。なにがTPPであるのかがはっきりしないうちに「バスに乗り遅れるな」とばかりに走り出してはなりません。
TPPはすでに米国、カナダ、豪州、ニュージーランドが加盟しており、この先約事項に拘束されてしまいます。今、この時期で日本が最も遅れて加盟すると、日本が協議していないことまで先約決定事項とされて拘束されてしまいます。
まさに「平成の不平等条約」といっていいでしょう。
TPPはやる必要がない協定です。日本は既に充分「開国」しています。それで不足があると産業界が言うのなら個別の二国間交渉で詰めればいいのです。
現在のように二国間FTAすら満足な議論ができていないのに、多国間協定をいきなりもってくるというのは本末転倒です。
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TPPに参加した場合の畜産(酪農と肉畜)の影響ですが、農業の周りにある農業機械や飼料など資材関係及びその地域のコミュニティなど様々な関連産業も当然影響を受けますが専門分野外ですので、個人的見解で答えます。
先ず、酪農関係ですが、国内の生乳生産は約800万トン弱ですが、乳製品の生乳換算需要は概ね1,200万㌧と言われています。
(国内生産量の50%相当が輸入されています)
その約800万㌧の内都府県での生産は約400万㌧でその大部分は飲用で消費され、一部バターやチーズにも使われています。
北海道は約50%の400万㌧弱生産しています。ちなみに平成21年度の生産量は3,824千㌧で、その用途別割合は
①バター・脱脂粉乳1,681千㌧(44%)
②生クリーム原料乳963千㌧(25.2%)
③飲用乳 746千㌧(19.5%)
④チーズ原料乳 433千㌧(11.3%)
となっています。
※飲用乳には、都府県での飲用の為の送乳を含んでいます。
この状況から言える事は、都府県の酪農家がそのまま存続し、生産量も現在と同じと仮定すると、北海道で生産している約400万㌧の生乳の内、フレッシュものとして輸入が厳しいと思われるのが、飲用乳の約75万㌧+生クリーム96万㌧+ソフト系チーズ若干程≒200万㌧ですから、単純に考えれば現在の生産量の半分の生産で間に合う事になります。
国内全体で考えれば飲用乳需要は約400万㌧、生クリームの大部分は北海道産なので約100万㌧合わせて500万㌧チョット程度あれば間に合います。
チーズ(主にハード系)及びバター・脱脂粉乳は全て輸入に置き換わるでしょう。
(一部国産にこだわる実需者が居れば少し上乗せされるかな?)
酪農での影響は牛乳だけではなく、生まれて来る「♂子牛」にも影響が出ます。雌雄判別精液を使わない限り53%前後は♂子牛であり、現在は哺育・育成・肥育して枝肉として消費されていますが、輸入牛肉とまともにバッティングしますので、採算は取れないでしょう。生まれた♂子牛は化成処理される事になります。
話を纏めると、酪農家は半減(戸数か生産量かはありますが)、北海道で主となっているホル♂肥育関係は壊滅、交雑種(ホル×黒毛和種)関係は黒毛和種に近いくらいの枝肉を作れる生産者1/3程度が残る・・・と言った感じかな?と思っています。
北海道では、酪農畜産農家は当然の事、畑作農家も危機感をもち、農業団体挙げて反対運動を展開している所です。(地域が壊滅すると言う危機感から市町村行政なども同じ考えで行動しています)
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